Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

なんでもない、風味。

2014/07/07 21:49:47
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 人形遣いアリス・マーガトロイドは紅魔館地下にある魔法図書館で期間限定の労働に従事していた。
 少しばかりスパイシーなインセンスの焚かれた空間で、人形達を大勢引き連れて飛び回っている。
 バイトではない。
 ツケの返済である。

「ああ、アリス。そろそろ今までの貸し出し分の清算をお願いしたいのだけれど」

 事の発端は三日前、図書館の魔女パチュリー・ノーレッジは唐突にそう告げた。

「そもそも金銭の受け渡しが発生してたのかしら」
「当然でしょう。借用には対価が発生するものだし」
「物々交換でどうにかならないかしら。お菓子とか」
「私は食事を必要としないわよ?」
「そういえばそうよね」
「それに、いまさら物々交換という原始経済に立ち戻るのはいかがなものかともいえる。ここは金本位制すら飛ばして信用における貨幣の成立まで一足飛びに発展して金融工学を」
「何を言っているかわからないわ。こんな狭い共同体ではそんなもの必要ないし」
「では物々交換と行きましょう。といっても、対価はなんでもいいというわけにはいかないけれど」
「そうね。売る側が対価としてほしいと思わないものを押し付けるのは交換ではないものね」
「というわけで、体で返してもらいましょうか」
「そんなこと言ってると死ぬまで借りるわよ」
「いいでしょう。つまり死ぬまで私と関係を持っていたいということね」
「可能な限り迅速に返済します」
「それはそれで傷つく反応よね」
「変なこと言うからでしょ。で、具体的には何をすればいいのかしら」
「そうねぇ。アリスなら傍にいてくれるだけで対価として十分なのだけれど、それでは面白みが無いわね」
「面白み、いる?」
「ええ。人はパンのみにて生くるにあらず」
「魔女に食事はいらないし、そもそもあなたは人じゃないわね」
「人でなしとは失礼な」
「誰もそんなことは言ってない」
「冗談はさておき、最近子悪魔だけでは蔵書の整理が追いつかなくなってきてね。手がほしいのよ」
「取り外せないわ」
「私も手をコレクションする趣味は無い。変態殺人鬼じゃあるまいに」
「しょうがないわね。本体ごといきましょうか」
「それで頼むわ。私がやってもいいのだけれど、喘息の調子が」
「運動不足よ。たまには出歩いたらいいのに」
「また異変でも起きたらね」
「庭でも散歩したら? 折角立派な庭園があるのだし」
「気が向いたらね。なぜか門番の趣味で南欧式庭園になってるけれど」
「じゃあ、明日からでいいかしら」
「よろしく頼むわ」

 そして現在、必要なのが手数ならばアリスの独壇場となるのは必然であり、人形を総動員した結果、片付け自体は八割がた終わっていた。
 寧ろアリスをもってしても三日かかったと言うべきか。

「どれだけためこんでるのよ。特に寝室。ドアを開けたら私の背よりも高い本の山があるってどういうこと?」
「読み終わったら積むでしょう?」
「何を当然見たいな顔をしてるのよ。ベッドにたどり着けないじゃない」
「飛べば」
「飛ぶな」
「そもそも睡眠いらないもの」
「何のための寝室よ」
「発作のときに寝込むため?」
「尚更片付けなさい」
「……仕方ないわね」
「何で私がわがまま言ってるみたいな反応されなきゃいけないのかしら」
「定期的に片付けにきてくれない?」
「甘えるな」
「片付けてほしいにゃん」
「……」
「ごめん。無理があったわ」
「まあ、たまになら」
「アリス……」
「何よ」
「ちょろいわ」
「素直に感謝できないのかしら?」
「ありがとう」
「それはそれで不気味ね」
「私にどうなってほしいのかしら」
「ありのままでいいんじゃない?」
「let it goはちょっと。ここはアリスが、私色に染めてあげるとか言う流れじゃない?」
「あなたは私をどうしたいの。それはさすがにキャラじゃないわ」
「そうね。誰かの変装を疑うわ。アリスを間違えたりはしないけど。で、作業の進捗はどう?」
「あとは蔵書票を書きなおして終わりよ。というか、これくらい自分でやったほうが早いと思うのだけれど」
「それじゃあアリスが帰っちゃうじゃない」
「いや、仕事が終わったら帰るけど」
「仕事作る?」
「遠慮するわ。やることはたっぷりあるから」
「そう。夕飯は食べていく?」
「そうね、ご馳走になろうかしら」
「といっても作るのは私だけど」
「料理できるの?」
「錬金術みたいなものでしょう? 簡単よ」
「一緒にしないでほしい」
「そうね。簡単なところで鍋なんかどうかしら」
「暑いわ」
「手軽なんだけど」
「……まあ、いいでしょう」
「鍋、好き?」
「嫌いじゃないわ。時々食べるし」
「歯が丈夫なのね。鉄鍋と土鍋のどちらがいい?」
「鍋は食べない」
「さっき食べるって」
「鍋料理ならいただくわ」
「水炊きとかでいい? 丁度この間迷い込んできた地獄烏が」
「返しなさい。というか普通水炊きならかしわでしょう」
「……かし、わ?」
「何で途方にくれてるの。ほら、あの、赤いとさかがはえててコッコッコッコって卵を産んでひよこが孵って」
「鶏ね」
「鶏よ」
「とさかが生えてるのは雄鶏だから卵は産まない」
「細かいわね」
「それに、かしわはどこへ行ったの」
「いや、かしわも鶏も同じよ」
「わかりにくいわ。名前が複数あるのは不便ね」
「生きてる間がにわとり。死んだら戒名がかしわ。そう思っておくといいんじゃないかしら」
「つまり鶏は仏教徒ということね」
「違う。鶏が死んだ位で金髪グラデーション住職を呼ばないでしょう」
「でも戒名って」
「ものの例えよ」
「そう。でもうちに鶏はいないのよ。うるさいし」
「確かにここの住人には似合わないわね」
「それにかしわってこの辺の方言ではない」
「知ってるなら言いなさいよ」
「しかし困ったわね。水炊きが駄目となると材料を仕入れてこないと。鳥をさばくくらいならできるのに」
「さばけるの?」
「血抜きは完璧よ。血液と精気(オド)は無駄にしないわ」
「儀式上の問題なのね。それにしても意外と生活能力あるんだ」
「十年以上生きていればね」
「こらこら」
「ん?」
「しれっとサバ読まない」
「あら、私が十歳未満だというのかしら。未熟者」
「あなた百歳以上でしょ」
「百は十よりおおきいわよ?」
「常識でものを言いなさいよ」
「常識ね。幻想郷では空しいわ」
「現実を見なさい。百歳児」
「ところで、何か食べたいものは無い? ある程度ならリクエストを受け付けるけど鍋」
「結局鍋なのね。あー、ジンギスカン鍋なんてどうかしら」
「仁義好かん?」
「イントネーションであからさまな曲解をしてるのは分かったわ」
「好きじゃないものを食べろって事かしら。明かりを消して怪しげなものを入れるのね」
「それは闇鍋」
「まずはジンギスカンの肉を用意しなければね」
「それは多分人肉だわ」
「チンギスハーン、つまりテムジンの肉か。希少部位ね」
「食べないわよ。おぞましい。そうじゃなくてマトンとかラムを使うのよ」
「ああ、白い毛でひげ生やしてメェメェ鳴いてるやつ」
「それは多分山羊ね」
「魔女的には正解だと思うわ。山羊はサバトの悪魔の象徴だし」
「でも山羊は食べたくないなぁ」
「千匹の子を孕みし黒山羊」
「それは多分山羊ですらない名状しがたい何かね」
「まあ、食材はあとで用意しましょう。で、どんな鍋で作るの? 寸胴? 土鍋?」
「えーと、ジンギスカン鍋ってあるかしら」
「ジンギスカン料理を知らないのにジンギスカン鍋を持っていると思う?」
「まあ、そうよね。じゃあ鉄板はあるかしら」
「鉄板ネタの持ち合わせなら」
「ネタじゃ肉は焼けないわ」
「焼き土下座用(未使用)ならあるけれど」
「使用済みだったら付き合いを考え直すところね」
「で、鉄板を用意したらどうするの?」
「あとはその上で肉と野菜を焼いてタレにつけて食べるだけ」
「へぇ。不思議な料理ね」
「どこがよ」
「熱源もなしに物が焼けるなんて」
「火は使うわ」
「知らない料理なのだから詳しく説明して」
「くわしくね。じゃあ熱源はアグニシャインで」
「疲れるからいやよ」
「というか、普段の熱源は何?」
「練炭。七輪。密閉空間」
「死ぬ気なのね。まあいいわ。じゃあその上に鉄板をおいて、熱くなったら油を塗って」
「油がはねて本が汚れそうね」
「文々。新聞でも敷きなさい」
「花果子念報でもいいかしら」
「好きにしたらいいわ」
「で、油はどんな感じで塗るの?」
「まあ、常識的な範囲で」
「ノエキアンデリュージュ的に」
「オイルマッサージでもする気なのかしら。こんがり焼くわよ」
「はいはい適度にね」
「で、肉を裏表焼いたら」
「肉の裏表はどうやって見分けるのかしら」
「私が表と言ったら裏も表よ」
「男前ね」
「いい具合に焼けたらタレをつけて食べる。以上」
「おいしそうね」
「で、材料を買いに行くんでしょう。タレは結構香辛料を使うからどこで孵るか分からないけれど」
「大丈夫よ。昨夜食べた残りがあるし」
「え?」
「なんならジンギスカン鍋もあるわ」
「え」
「目指せモスクワのレコードもあるわよ」
「そこはジンギスカンじゃないのね」
「じゃあ支度しましょう。文々。新聞と花果子念報の貯蔵は充分よ」
「妖怪の山から何か怨嗟の声が聞こえる気がする」
「気のせいね。じゃあアリス、食堂へどうぞ」
「ええ、ご馳走になるわ」

 いつの間にか書き上げられた蔵書票を机の上に残して、二人は図書館を出て行った。

「いやー、ジンギスカンって匂いが残るんですよねー」

 小悪魔が服の匂いを嗅ぎながら現れる。
 くんくん。

「まあ、普通気づきますよね」

 二人の食事風景を覗きに、小悪魔も足取り軽やかに図書館から出て行った。
七月七日はパチュアリの日だそうです。
ジンギスカンおいしいですよね。

パチュリーとアリスに夢路いとし・喜美こいし師匠の名作「ジンギスカン」をやってもらいたかっただけです。
ぐだらぐだらと。
本家の漫才もぜひ。
文章と口頭はやっぱり間合いが違いすぎてリズムが崩れますね。
ではでは。

※追記
誤字修正しました。自分の名前も間違ってたので修正しました。
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
良いですね、この二人の感じ
面白かったです
2.削除
>>奇声を発する程度の能力様
ありがとうございます。
パチュアリが増えるといいなと思います。
3.名前が無い程度の能力削除
見覚えのあるパチュリーとアリスを書く新人さんだなと思ったら名前間違えてたのか…
変わらぬ軽妙なやり取りは読んでいて気持ちが良いです。
4.名前が無い程度の能力削除
誤字
孵る→買える
ですよね

パチュアリ新作嬉しいです。もっと流行れ