Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

月の宵

2012/12/07 15:21:50
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今宵は満月。
うさぎが堂々と餅をつきながら地上を見つめている、かも知れない。そんな夜。


楽園の素敵な巫女、博麗霊夢はそんなまんまるお月様を肴にするわけでもなく、傍においてある枝豆に手を伸ばした。
花より団子。食い気が勝るあたり、貧乏巫女の霊夢らしいとも言えた。枝豆を奥歯でかみながら、底の浅い杯を傾ける。

塩味に引き立てられた豆の仄かな甘味と日本酒のフルーティな風味が合わさって、より上質な味わいを生む。
満月に美味しい酒、塩味の効いた枝豆。霊夢の機嫌はほろよいの気持ちよさも相まって、うなぎのぼりだ。


杯を煽るスピードが上がってしまうのも仕方のないと、どこか達観していた。










「飲み過ぎよ、霊夢」
「んあ?」





神社には異色極まりない青白のメイド服。
肩口で無造作に切られた銀髪。肌理の細かい白い肌。荒ぶれば真っ赤になる瞳も今は心中穏やかな青色。
月明かりに照らされた透き通るようなその姿は儚くも綺麗だと評すべきか、しかしその顔はジト目の呆れであり、
霞んだ視界の中でもその表情はとても鮮明だ。




重圧も束縛も物ともしない空飛ぶ巫女霊夢にとって、お節介も同様で基本的には受け付けない。
だが、それが通用しない相手もいるものだ。特に人妖集まる幻想郷の中には。



その内の1人、十六夜咲夜。完全で清洒なメイド様。
私が苦手とする人物であることは間違いない。
しかしなんでこんなところにいるのかといえば、それは…。







「若いうちからそんな飲み方してたら、体壊すわよ?」
「いいのいいの、長生きしたいわけでもないから」




まるで保護者だ。
しかし関係性を表す言葉としては正しいとはいえない。
私と咲夜。紅白と蒼銀。似ても似つかないどころか互いに似せる気なし。
そりが合わないこともしばしば。






それでも私たちは恋仲なのだった。
安易な表現だが、パズルのピースがハマるような。ズレたもの同士の凹凸が噛みあうような。
しっくりくる感覚を互いに覚えていたし、疑問はなく。


気づけば、私の右手には彼女の左手があった。











「酒は百薬の長というじゃない?」
「さっきと言っていることが矛盾しているとは思わない?酔っ払いさん」
「そうね、別に長く生きたいわけじゃないけど、薬の長というんだもの。飲んだほうがいいでしょう?」
「変毒為薬とも言うわよ」
「それってつまり、毒にも薬にもなりうるってことでしょ?」
「適度、ならね。あなたは飲みすぎよ」
「病は気から。どうとでもなるわよ」
「まったく、私ががあなたのこと心配しているって言ってもやめてくれないの?」
「……」
「考えてくれたのはうれしいけれど、お酒を注ぐ動作はとまってないわよ」
「うっさいわね!いいじゃない私の勝手で!」
「あらそう、なら…」






カチリと音が聞こえた気がした。
鼻をかすめた馴染みのある柑橘の匂い。しかし意識はその手中。
軽くなった手の中。重みは軽くとも、私にとって偉大なそれが消えていた。
咲夜のお得意、種なし手品が見事に私の杯と瓶を奪っていた。





「あっ、私のお酒!!」
「言って聞かないんなら、こうするしかないわ」
「こら、返しなさいよ」
「嫌ですわ」





全身を柔軟に使い跳びかかるも、ひらりと躱される。
その動きは二つ名にふさわしく無駄のないもので、
幻想郷最強(他称)の私もさすがに酔っていては服の端すら掴むことが出来ない。



しかし、ここに来て諦めるわけにもいかないということも事実。という思い込み。
回路のふやけた頭脳では普段は理性で抑えることのできる些細な事もそれが表面化することを知っている私は、
猫じゃらしを追う猫のように、もはや反射のように影を追いかける。



とてもよい夜だ。
これを酒と共に堪能しない手はない。それが自由と堕落の象徴、博麗霊夢の生き様なのだ。
うーっと喉の奥で唸りながら、ひらひらと舞うように揺れるスカートのフリルを目で追いかける。
右に左に、前後ろ。中身が見えないのは、完全なメイド様の仕様なのだろうか。
踊るようにステップを踏んでいる咲夜はまるで妖精のようだ。(なんの語弊もなく)



だからこそ、というか。
何かの考えがあったわけじゃない。巫女の直感と言うべきか。それとも恋人の絆だろうか。
このタイミング。その一瞬を見逃さなかった。







「わっ、ちょっ」
「捕まえたっ!」




身のこなしは獣も同然。
さっと咲夜の上にマウントを取って、両腕を抑えこむ。
その様相はまるで、美女と野獣。その両手に握られていた杯と瓶は転がっていた。






「ねえ、霊夢?」
「何よ」
「顔、近いと思わない?」
「…そうね、言われてみれば」
「ちゅー、しちゃうわよ?」
「私、お酒臭いと思うんだけど」
「だから、お酒はほどほどにって言ったのよ」





キスがお酒の味なんて嫌でしょう?と意地の悪い笑みがそう宣っている。
そうね、確かに。でも私たちの初キッスほど奇妙なこともないだろう。









私と彼女の初キッスの味は、レモン味(相互で多少の認識の差はあるものの)。
まるで読み古された恋愛小説のような、いまどきそんなこと誰が期待していようか。
しかし、紅魔館を訪れた私(もちろん咲夜に会うために)は、満面の笑顔を浮かべる咲夜と獲物を見つけたとばかりに瞳を輝かせ、片方の口角をひん曲げたレミリアにもてなされた。
今でも覚えている。ひどくレモンの味が強いマドレーヌが出されたのだ。普段の咲夜ならこんな失敗をしないだろう(それが失敗でないことは後にすぐわかったことだが)。そして対面するレミリアはいつもながら美味しいわねと舌鼓を打っていた。



誰もがおかしいと思うだろう。私もそれに違わず。
仕事の合間の咲夜をとっ捕まえて詰問した。







「どういうことよ、あんなもの出して」
「あんなもの?」
「あんな酸っぱいマドレーヌ初めて食べたわ!」
「そりゃあね、レモンたくさん使ったもの」
「あんたってばっ…、どういうつもりよ」
「そうね、こういう意味かしら…」
「なっ、ちょっ…待ち…っ」








それはもう、ブチュッと。(本来はそっと、ただし霊夢にとってはそれくらいの衝撃だった)
私は吐き出そうとした困惑を咲夜に飲み込まれ、硬直した体と心を持て余した。
それでも分かった。咲夜の唇からする仄かな柑橘系の余韻。





「なっ、なっなっ、なっ、なぁぁ~っ!」
「初キッスはレモンの味。なんてね」
「あんた、…っ、……~っ」
「思っていたより、生地の味がしたわね。まあ仕方ないかしら」






初キッスはレモン味。
私も乙女だ。知らないわけではない。むしろ憧れもしただろう。そのシュチュエーションが目の前にあった。だがそれでも。






(こんな方法取る?普通)




力技にも程がある。
当の本人はキャッキャウフフだ。どっかに飛んでいた。
ファーストキスはもっと雰囲気のある中でするものなんじゃなかろうか、と余韻も何もない、もはや呆れが先行してしまった頭でぼんやり考えてしまった。
という思考もそこまで。切り替えが早いのも博麗の巫女たる私の良い所(と自認しているが、他認されているかは不明)。




そのあとは美味しく頂いた。
わかったことは、咲夜は意外と乙女で、思ったより完全で清洒ではなかったこと。
得た教訓は、恋する乙女は何するかわからない、だった。



しかし、それは私にも言えたことだったとは、この時は知る由もなかったが。

















「それなら、あなたも飲めばいいわ」





名案が巫女の直感に釣り上げられた。


私たちの関係に譲り合いの精神が先行したことはない。
互いに自分の思ったことを為して、そのリアクションを相手に求めることがままだった。
考えるよりも即行動。あとは野となれ山となれ。





どちらも酒臭ければ気にならない。
それが私の万年春頭脳が下した結論だった。(決して正しいとは言えないと後に気づく)










「…えーと、一応聞いてみたいんだけど、何を?」
「お酒。どっちもお酒臭いなら解決じゃない?」
「あの、霊夢…?」
「拒否権はないわよ」
「でも…」
「そんなに嫌なら…」





飲ませてあげるわ。




彼女の傍に無造作に転がっている瓶に手を伸ばす。
中身は半分程度。片手でも十分に持ち上げられる。そしてそれをぐいと煽った。
口に含むと、少量が喉を無許可に下り、カッと道筋を焼く。それが今の気分と相まってとても気持ちがいい。


そしてこれを咲夜に飲ませればもっと気持良くなるはず。
そこに遠慮も何もない。ただ本能の命じるまま。








「えっ、霊夢?ちょっと何を…」
「…んっ」
「んむっ、…~っ」




そっと口を重ねた。白磁の肌が眼前に広がり、見開いた目がこちらを凝視していた。
ビクリと震えた咲夜の体を上体で押さえつけながら、唇の隙間から舌を伸ばす。
なにしてんのよ、と目が訴えかけていたが、素知らぬ顔でキスを続けた。そろそろと舌で咲夜の唇を舐めて早く開けるように催促する。







「ん、…んぅ」




ゆっくりと唇を開く咲夜。
素直ないい子。とろとろと舌で送り込むように、お酒を相手の口内に送り込む。
我慢するようにぎゅっと目を瞑る咲夜がとても可愛いもので、普段のクールな雰囲気は欠片も感じ取れない。
だから私も調子に乗ってしまう。もう酒はないのだが、送り込むものはまだあった。





「ん~~っ、…っ」
「んふ、…ぅむ」




舌を奥の方にねじ込む。
上奥歯から順に前歯、逆側の奥歯、それから下の歯に移動して、舌を絡めとる。舌の裏表の感触の違いを楽しむ。
普段は年上ぶっている咲夜が私の手の上でいいようにできることが舌に感じる快感以上に気持ちが良かった。



だから、咲夜のことをもっと感じたくなってしまうのだ。
咲夜の首の後ろに手を回して、こっちにぐっと引き寄せる。
奥の奥へ。舌の付け根辺りまでこちらの舌を伸ばして裏側から舐め上げると、咲夜が可愛いくらいに唸って、体を震わせた。


ほんとに可愛すぎて食べちゃいたいくらいだ。





「んっ、ん~~っ、ん~~っ!」
「ん?…苦しかった?」
「はぁ、…んにゅ、れい、む」
「なあに?」
「……バカ、じゃないの」





バカは、あんたよ。
そんなに蕩けた瞳で言われたって、説得力もないし、私を煽るだけだって気づかないものなのだろうか。
口の端から唾液が垂れて、月に照らされて光っているのが、いやに扇情的だ。



月夜。お酒。可愛い獲物(しかも準備は万端)。据え膳食わぬはなんとやら。
それを私が見逃すわけはなく、瓶をまたぐいと煽る。








「え、また…~っ」
「んふふ」





何度味わっても、この感触は堪らない。
そして何度キスしても変わらない咲夜の反応もまた然り、だ。



唾液と一緒に熱い液体をとろとろ送り込む。
そんな熱い酒よりも咲夜の口内は熟れたように熱く、舌が溶けそうになのだ。
触れ合う頬も同様で、白かったそれは朱に染まり、どれもこれもが私を誘う罠みたいだ。
うさぎはやっぱり餌なのね。そして私がそれに捕まった獣ってわけか。じゃあそれを仕掛けたのは、幻想郷の神とでも言うんだろうか。
なんて、ぼんやりした頭の隅っこで考えながら、唾液を交換し続けた。















時にして、1時間ほど。
何度キスしたのか分からない。半分ほど入っていたお酒もその量を更に半分以上減らし、残りはあと僅か。
飲みつ飲ませつ。咲夜は焦点のずれた瞳でこちらを見ている。





仲間にしますか? はい・いいえ・むしろ食べる←







酔ってるわね、私も。馬鹿らしいわ、まったく。
そう自覚できる程度には、酔いは酷くはない。
しかしそれでも、明瞭としない頭の中は咲夜、咲夜、咲夜。可愛い私の咲夜。





「ほんとに、酔ってるわね。私ってば」
「ねえ、霊夢…もっと」
「もっと?…そんなにお酒が気に入った?」
「んーん、…キス、して…欲しい」
「お酒は?」
「ん、やぁっ…ちゅーがいい…」
「はいはい」







もうお酒は要らないらしい。私も彼女も。
「よい」は十分に回り、期は熟した。
私達を見つめているのはお空のうさぎさんだけ。
あー、もー我慢出来ない。






「いただきまーす」
「はぁーい、どうぞ」
「……、調子狂うわね、まったく」
「お粗末さまです?」




まだ食べてないわよ。
今から食べるんだけどね。













今宵は満月、良い夜だ。








おしまい
最近はよく月を見るようになりました。
中二臭いですかね?



月見酒は良いものです。
それが満月ならば尚更良いのではないでしょうか。


そしてそんなシュチュエーションで大好きなキャラたちが躍動しているところを想像すると、さらにお酒が進むというもの。


乱文、稚拙でございますが。

どうか皆様のお口にあいますように。



>>2様
ご指摘ありがとうございます。すぐに修正させていただきました。
楽しんでいただけると幸いです。お気づきの点が他にもありましたら、どうぞお願いいたします。
トルティニタ
コメント



1.君の瞳にレモン汁削除
わっふるわっふる!
2.君の瞳にレモン汁削除
あと、
・・・・・・ではなく、……(三点リーダー)を使ったほうがいいかと。
3.奇声を発する程度の能力削除
良いですね
4.名前が無い程度の能力削除
うむこれは酔い

マス目のある原稿用紙と違って、ネットでは事実上同じ意味になるから、
というか何よりここ3点リーダーがアンダーで表示されちゃいますし
5.ドラえもん削除
咲霊サイコーっす!!
次作も楽しみにしてます
6.3削除
マドレーヌなのにレモン味とな。
酸っぱさを感じられるほどのマドレーヌは、一体どれだけのレモンが必要なのでしょうね。
7.米を食べる程度の能力削除
良いね
8.名前が無い程度の能力削除
素晴らしい…
9.名前が無い程度の能力削除
素晴らしい…
10.名前が無い程度の能力削除
素晴らしい…