Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

本当の理由

2012/11/08 01:10:43
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 紅い霧の異変から早数年程が経とうとしていた。時と共に紅魔館は幻想郷に馴染んでいき、主君が妹であるフランドール・スカーレットも、徐々にではあるが力の制御を覚え、他の妖怪や人間達とも必死に馴染もうとしていた。
 気が狂れている、と言われていた曾ての面影は大変貌し、微笑ましくもある、見た目相応の少女らしいフランドールが其処に居た。
 そんな或る日、彼女はふと思考に嵌る。

 ――何故、今私は生きている?

 決して今在る事が不満ではない。唯の哲学的な戯れだったのかもしれない。
 だが、それを投げ掛けた彼女は、自分自身で気付いてしまったのだ。

 ――私は生かされていたのだ。

 巫女や魔術師と出会う前、彼女は気が狂れていると言われ、490年以上幽閉されていたのだ。だが、何故幽閉だったのか? そこまで危険な存在なら、殺せば良い。

 ――でも、あいつは……お姉様は、それをしなかった。

 そして時間と共に成熟した思考が、結論を導き始める。そして、フランドールの意識が奪われるのは、それと同時の出来事であった。
 微かに残った耳に、「ごめんね」という声が微かに届き。それが錯覚かどうか確かめる術も無いまま、世界を閉じた。

――

「此処は……なんで……」

 瞳の映像は、忌々しい記憶を無理やり引き摺り出す。
 映ったは、『自分の部屋』。そして其処にはよく知った影がひとつ在った。

「……フラン」

 ――止めて。言わないで。
 その制止は、慄きを覚えたフランドールの声になる事は無く。

「運命が視えたの」

 何処か淋しそうに、レミリアは続ける。

「怖いの。また貴女が何処かへ行ってしまいそうで」

 ――それ以上は――

「止めてよお姉様!」

 レミリアが妹の名を呼び返すのと、フランドールが姉の『名』を叫んだのは同時であった。 

「ふざけないでよお姉様……レミリア姉様!!」

 レミリアは妹に慄くと同時に、何かを射貫かれたような。そんな顔を浮かべた。今のフランドールには、それが何故かをよく理解できた。

「……レミリア姉様が私を大事に思ってくれてたのは解る。だから私を『幽閉』した。そうでしょ?」

 返答を燻るレミリアに対して、怒りか、哀れみか、愛情か。或いはその全てなのか。感情を混ぜた声と表情で、フランドールは語り掛ける。

「昔の私は直ぐ何でも壊しちゃう。今以上に話す事、喋る事が苦手。壊して、こわして、コワシて……。でも、そんな私を、レミリア姉様は好きで居てくれたのでしょ?」
「うん……」
「だから、今更それを恨むのは馬鹿馬鹿しいと、暫く『上』に出て解ったの。だからこそ聞かせて欲しいの」

 一息吐き、改めて口調を強める。

「何故、また此処に連れてきたの?」

 ――本当は理由なんて解ってる。でも、私はお姉様の口からどうしても聴きたかったのかも知れない。

「……貴女は私の大切な、ただ一人の家族。ただ単に守りたかったの。でもどうしていいか解らなくて。あの頃はスカーレット家としての威厳もあったから、それを損ねる訳にもいかなかった」
「続けて」
「だから、私は閉じ込めた。閉じ込めてる間も、本当は心配してた。いつしか、貴方に思いを馳せる様になった」
「えぇ」
「……咲夜は私の事をよく理解して、公私拘らず私に尽くしてくれた。でも足りなかった。貴方を求めていた」
「……」
「どうしていいか判らなくて。そうしてる裡に、霊夢と魔理沙に先を越されてしまったの。貴方の元気な姿を見れて、最初はとても嬉しかった」
「うん」
「……でも、何でしょうね。貴方が色んな人に笑顔を見せる度に、段々私は心臓が締め付けられるようになったの」
「……だから、また酷い事をしようとしたの?」
「そんなつもりじゃなかったの……全部私の我儘だった。許しを請うつもりはないわ」

 その一言で、フランドールの瞳の色が変わった。

「最後の台詞、私もそのまま言わせて貰うわ」

 とても慈悲を含んだ色に。

「……大丈夫、何処にも行かないわ」

 ぽふっと軽い音を立てながら。

「行く時はレミリア姉様も一緒なんだからね」

 姉妹は抱擁を交わした。

「……フラン、貴方こんなにも暖かかったのね」
「ううん、レミリア姉様の方が暖かいわ」

 ――今なら、素直に言えるかな。

「こんなどうしようもない私を生かしてくれてありがとう。好きよ、レミリア姉様」
という訳で初めまして。普段はイラストや漫画中心に活動してます。
文章の練習がてら、ふと思い付いた儘に、勢いに任せてキーボードを叩いてみました。
少し歪んだ愛情からの……っていうのもまた美味しいですよね。
あぶそる
http://www.pixiv.net/member.php?id=109306
コメント



1.yosey削除
これもひとつの愛の形なのかな。
台詞に合いの手を入れるのが、動画というか、洋画みたいで読みやすい……場面を想像しやすかったです。
感情の揺れ動きは、ちょっと激しかったな。
2.名前が無い程度の能力削除
ちょっと唐突でした
3.あぶそる削除
今更ですが、コメントありがとうございます。
お二方の仰るとおり、もう少し繊細で、唐突でない描写は今後の課題になりそうです。

>>1 yoseyさん
愛の形もそれぞれという事で。
読みやすいと言っていただけたのは本当に有難いです。