翌日。慧音は再びパチュリーの元を訪れた。
「驚いた。貴女の助言に従った上で寅丸殿に会ってみたら、あの後財布は拾うし、たまたま行った喫茶店は開店何周年だかの記念で割引してくれたし、幸運が続いたんだ。勿論、財布は持ち主に届けたが」
「そうでしょうね。あの一点だけを守れば、貴女と彼女の相性は、ぴったりだもの」
「ありがとう。でも、何であんなことで、相性を変えられたんだ?」
不思議そうに問う慧音に対し、パチュリーは何でもないことのように言う。
「以前、興味本位で少し漢字の研究をしていたことがあってね。それで分かったの。貴女は人面牛身の妖怪、白沢の血が流れる者。そして、一方の寅丸星は、文字通り寅の妖怪」
そう言いつつ、パチュリーは手元の本を開いて、慧音に見えるようにする。
「『牛』と『寅』。この二つが合わさったものを漢字で表すと『艮』(うしとら)となるわ。方角で言うと東北を表すものなんだけど、これが問題でね。この方角は、いわゆる『鬼門』と呼ばれ、不吉を表す方角なの。貴女と彼女の相性が致命的に悪いのは、それが原因」
「待て。そうすると、彼女と居るとき不運が続いたのは、私と彼女が『牛』と『寅』という組み合わせだったせいなのか?」
「そういうことね。現に、貴女だって、他の人と居るときには、そんな不運は起きないと言っていたし」
「それは、たしかにそうだが……じゃあ、頭に『点』を載せるといいというのは、どういう意味だ?」
「単純な事よ。だって、『艮』の上に点を載せれば『良』という字になるじゃない」
ぽかんとする慧音を尻目に、ぱたんと本を閉じるパチュリー。
そして、パチュリーは静かな声で慧音に語りかける。
「『言霊』を知っているでしょう?昔から使われてきた言葉には、魂が宿るものなのよ。だから、悪い言葉はなるべく良い言葉へと変える努力をしなくちゃ」
「『するめ』のことを『あたりめ』と言ったりするようなものか?」
「そう。『する』というのは『スリ』を連想して縁起が悪いから、縁起の良い『あたり』へと言い換えているわ」
「たしかに、そういう言葉は他にもあるな。『豆腐』の『腐』の字も、店によっては『富』と書いていたりするし」
「冷静に考えれば、食べ物屋さんが『腐る』なんて言葉を使うのは、それこそ御法度だものね。言い換えが出てくるのも自然な話だわ」
紅茶を一口啜ると、パチュリーはこくりと頷いてみせた。
「なるほど、そういう訳だったのか。いや、今回は本当に助かった。これは、今里で話題になっている『ゆっ栗饅頭』だ。霊夢の顔と魔理沙の顔とあるから、皆で食べてくれ」
「紅茶には合いそうもないわね。でも、受け取っておくわ。ありがとう」
ニコニコと、機嫌良く図書館を後にする慧音。
これで、寅丸との相性に悩む必要もなくなったからだろう。彼女の足取りは、最初にここへ来た時と比べると、随分軽いものになっていた。
そんな彼女を見送りつつ、パチュリーは「とりあえず魔理沙の顔の饅頭は一つ保存用ね。グフフ」と、不気味に微笑みながら呟くのだった。
二次で昔流行った変態パチュリーはうんざり
しかし漢字を操るとは某京都弁のスーツ眼鏡美女のようだ
…個人的に12月生まれ~が好きですね。