Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

霊夢が暑さのあまりあーとしか言わなくなった

2012/07/16 03:59:20
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「おい、大丈夫かよ」
「あー」
「あーって。どっちなんだよ」
「あー」
「だからあーじゃ分からないだろ」

 霊夢が溶けていた。
 霧雨魔理沙がいつものように神社の縁側に入ると、縁側で霊夢が溶けていた。片足と片手を縁側の外に投げ出してだらりと横たわっている。目は虚ろで口は半開きだ。一瞬体調がマジでヤバいのじゃないかと魔理沙は気に掛けるが、言葉自体は反応して返しているのだから、大丈夫だろうと魔理沙は判断した。帽子を脱いで、隣に座り込む。
 空を飛んでいる間はまだましだった。地上に降りて留まれば、風もなく、蒸した空気が肌にまとわりつく。魔理沙はわざわざ持ってきた温度計をかざしてみせた。35度。まるでふざけて、手で握って暖めたみたいな温度。
 梅雨も終わったばかり。幻想郷の夏は始まったばかりだと言うのに、その猛暑の兆しを見せ始めていた。

「お茶くらい出せよ」
「あー」
「あーじゃなくてさ」
「あー」
「勝手に出すぞ」
「あー」

 とは言ったものの。台所に入った魔理沙は、瓶から水を汲んで、わざわざ沸かすことを想像した時点で沸かすのを諦めた。湯飲みに水を注ぐ。湯飲みに入った透明な液体は、なぜかうら寂しく感じられる。沸かす茶さえないかのような風情だ。思い直し、やかんに水を入れて、湯飲みを二つにして縁側に持って行った。

「ほら。水、汲んできてやったぞ」
「あー」

 魔理沙が、水を入れて湯飲みを手渡すと、霊夢は寝転んだまま受け取り、そのまま口元に運んだ。当然こぼれるが、服はもう汗でびしょ濡れだからあんまり関係ない。だくだくと口元や首元、板張りの床にもこぼしたが、霊夢は気にする素振りさえ見せなかった。

「これだけ暑かったら、服を着てても同じだな」
「あー」
「……お前さあ、答えるのも面倒だからっていい加減に答えるなよ。気持ちは分かるけどさ。……本当に、ここ、暑っついな」

 霊夢の傍らには、うちわが落ちていた。暑くて、扇ぐ気力さえ失せてしまったらしい。魔理沙はそれを拾い上げて、自分に向けて扇いだ。
 風さえ吹かない。空を飛んでいるか、神社の表側に出た方がマシかもしれない。
 
「あー」
「あぁ暑い。霊夢、その頭、暑くないか? 結い直してやろうか」
「あー」

 魔理沙はもう霊夢が何を言っても気にしなかった。霊夢の手を引いて、全く力を入れようとしない霊夢を引き起こした。霊夢は、魔理沙に手を引かれるがまま、されるがままに魔理沙の胸元に身を寄せた。

「……おっとと。しっかりしろよ」
「あー」
「ったく」

 霊夢の髪は、いつものようにリボンで結ばれていた。だが、霊夢はいつも無精だから髪は伸ばしっぱなしで、気が向いた時にばっさりと切り落とす。今も、伸ばしっぱなしの長いままの髪が、リボンで結んであるとは言え、首元にかかって、暑そうだった。魔理沙はリボンを一度解いた。霊夢の肩口にも、首元にも、髪が落ちてくる。魔理沙の手の平の上にも。ふわり、と霊夢の髪の匂いが、魔理沙の嗅覚を刺激する。特別手入れをしているわけでもないのに優しい、心地よい香り。

「ちょっと我慢してくれよ」

 魔理沙も、髪を結ぶパターンを、そう多く知っている訳でもない。首元から髪を全て背中に回し、一つにして、軽く指で梳き、三つに分けて編んでいく。三つに分けた一つを別の一つに絡め、次の一つを重ねて。そうやって三つ編みにした髪を、魔理沙は自分の髪からリボンを解き、蝶々結びにした。
 そうやってから、ふむ、と魔理沙は考え直し、リボンを一度解き、片端を長く取って結び直した。一度仮結びをし、三つ編みを、霊夢の頭の後ろでくるりと巻くようにして、いくつかピンで留め、最後に首の後ろ、一度巻いたリボンの残りで三つ編み同士を結ぶようにした。
 ぺたぺたと手の平で霊夢の髪に触り、すぐに崩れそうじゃないことを確かめると、ふむ、と満足げに息を吐いた。正直に言って、ピン留めに頼ったし、そもそも魔理沙自身手先が器用でもないし、アリスのように他人の髪をいじった経験もあんまりない。それでも、まぁ形になったことに、ひとまずは満足した。正面から眺めると、シニョン気味の髪が隠れて、ショートカットに見えるかもしれない。

「ほら、首元涼しくなっただろ」
「あー」

 魔理沙は霊夢を床に横たわらせると、一度立ち上がってやかんの隣に座り、湯飲みに水を汲んだ。日陰に置いてあるのに、既に水もぬるい。夕方が近付いてくるのもまだ先だ。どうしようもないな。魔理沙は空を見上げた。雲の流れが速い。うろこ雲みたいな変な形の雲だ。もうすぐ、雨が降るかも知れないな。そんな風に魔理沙は思った。
 魔理沙は傍らに横たわる霊夢を見た。

「暑いな」
「あー」
「いくら面倒だからって、あーってばっかりだな」
「あー」
「お前な。いつまでもそうしてると、賽銭箱持って帰るぞ」
「あー」
「神社に置いてあるお札とか陰陽玉とか持って帰るぞ」
「あー」
「神社に住み着いて巫女をするぞ」
「あー」

 魔理沙は、霊夢の姿を改めて見た。ぐでーっと身体を投げ出している。膝を立てているせいで、太ももが見える。いくら暑くても脱がない巫女服は、腋が空いているお陰で少しは涼しそうだが、最早気休めでしかなく、腋にも、手首も、首元も汗で濡れている。
 どうしてか。ぼうっと気を抜いている顔も、心なしか、赤い。
 魔理沙は手を伸ばして、霊夢の額に触れた。指の背で、額を撫でるように。見下ろすような姿勢。霊夢が見上げ、視線が重なる。鬱陶しそうに、魔理沙の指が払われる。
 今なら。何を言っても、霊夢は気にしないのではないか? 魔理沙の頭に、一瞬の思考が生まれる。

「キス、するぞ」
「あー」
「何だよそれ。嫌なのか」
「あー」
「あーじゃなくてだな」
「あー」

 悪戯っぽく霊夢が笑っている。もういい、と魔理沙はそっぽを向いた。

「怒った?」
「怒ったよ」
「何よ。先に自分から言っておいて」
「お前がそんな態度だからだろ」
「キスしたくないの」
「お前な」
「したくないんだ」
「…………」
「したくないのね」
「何で、いつの間にか、お前に主導権を握られてるんだよ」
「さぁ?」
「したいよ」
「なぁに?」
「キス、したい、って言ってるんだろ」
「あら」
「何だよ」
「いつもは照れて素直にならないのに、今日はどうしたの」
「知らないよ。暑いからだろ」
「あぁ。そうかもね。こんなに暑いから、何も考えられなくなっちゃってるのかも」
「知らないよ。私は言ったぞ」
「なら、好きにすれば、いいじゃない。それとも許可がほしいの?キスして、好きにして、って言ってほしいの? ふふ。可愛らしいのね、魔理沙は」
「お前なあ。……好きにするぞ」
「前置きなんていらないわ」
「う、うるさい。好きにするぞ」

 霊夢は、魔理沙から少し身体を離し、悪戯っぽく笑った。その首に、魔理沙の手が伸びてくる。逃がさない、と言う風に。霊夢は魔理沙と額をぶつけ、その目を見て、また笑った。

「……はいはい。お好きにどうぞ」
コメント



1.ゆきふみ削除
大丈夫、自然な流れ。だって暑いからね。
魔理沙可愛いし。
2.名前が無い程度の能力削除
霊夢さんさすがや・・・!!
3.奇声を発する程度の能力削除
さすが霊夢さん
4.名前が無い程度の能力削除
暑い
熱い
5.名前が無い程度の能力削除
何だ、この恋人どもは!
6.過剰削除
あー



熱いわ(誤字ではない)
7.名前が無い程度の能力削除
熱すぎて萌えたわ
8.名前が無い程度の能力削除
からかいあったり、ちょっかい出しあったり
でも結局イチャラブしちゃうこういうレイマリ大好きです
9.名前が無い程度の能力削除
あついぞ! おい!!!
10.名前が無い程度の能力削除
アーッ!
11.名前が無い程度の能力削除
やけどしそー
12.非現実世界に棲む者削除
レイマリちゅっちゅ