Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

三つ話

2012/05/07 23:54:40
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        1.

「そこのお嬢さん」

 初めて聞く声に霊夢は足を止めた。
 神社に続く一本道の途中。いるのは霊夢と、霊夢を呼び止めた奇妙な出で立ちの女だけ。

「……何か?」
「一つ聞きたいんだけど」

 赤いコートの女は霊夢に向き直ると、マスクをつけた自分の顔を指差した。

「私、キレイ?」

 霊夢は眉をひそめまじまじと女を見つめると、首を傾げ口を開いた。

     *

「口裂け女?」
「そう。外の世界の妖怪みたいなものらしいんだけど――」

 文花帖を開いた文は里で流れている噂を披露し始めた。
 曰く、赤いコートを着ている。
 曰く、マスクで口元を隠している。
 曰く、「私、キレイ?」と尋ねられる。
 曰く、肯定すると恐ろしいものを見せられ、否定すると鎌で殺される。

「あ、私会ったかも」
「本当ですか?!」

 取材モードになった文が筆を手に前のめりになった。

「どんな会話を?」
「えっとね……」

     *

「さあ?」

 あっけらかんとした答えに女が凍り付いた。
 しかしそれも一瞬のこと。

「そう……そうよね」

 溜息混じりに言って頭をかいた。

「マスクつけてちゃわからないわよねぇ。でもマスクないと意味ないし……うーん……」

 ぶつぶつ言いながら神社と反対方向へ歩き出した。

     *

「……で?」
「え、それだけよ?」

 お茶を啜る霊夢の向かいで、文が卓袱台に額を打ちつけた。

「これじゃネタにならない……」
「残念だったわね」
「なんでのってあげないのよ!」
「なんでのってあげなきゃいけないの?」

 再度卓袱台が鈍い音を立てた。

「記者魂のない人だ……」
「記者じゃないし」
「まあでも、何もなくてよかったわ」

 そこで一度区切り、

「口裂け女に」

 言うが先か、霊夢が札を投げつけるのが先か。
 札が頭のあったところを通った時、文は既に神社上空へ舞い上がっていた。



「どうして私は、素直に言えないのかしらね」

 山へ帰る道中ぽつりと呟いた文の声を、風がさらっていった。





        2.

 文はいつも“仮面”をつけている。
 本当につけているわけじゃない。本心を隠して人を欺くためのものだ。
 千年で身につけたのだろうそれはとても厚くて、私はその下を見たことがない。
 きっと“仮面”の下には年相応の……いや、相応だと千歳になるのか。

「失礼なこと考えてない?」
「いや別に」

 端的に言うなら、嘘くさい。
 すべてが嘘くさいのだ、こいつは。

「ほらまた」
「うるさいバカラス」
「神社吹き飛ばすわよ」
「封印してやる」

 売り言葉に買い言葉。
 だけど文の言葉のどこにも本物はない。
 常に余裕を持ち、他人と一定の距離をおこうとする。

「何か哀れまれてる?」
「哀れまれるような奴だって自覚があるのね」
「私は清く正しい射命丸よ? そんな要素あるわけ」
「ある」
「……即答しないでくれる?」

 あ、少しだけ見えた。
 どうやら本気で落ち込んでいるらしい。

「お茶のおかわりは?」
「……ほしい」

 どこまでが本当で、どこからが嘘か。
 判別するのは難しい。

「やれやれ」

 とりあえず、今朝貰った柏餅でも出してやろう。





        3.

 風の穏やかな日に、ごう、と強風が吹くことがある。
 そういう時に障子を開けると、決まって文がいた。

「朝っぱらから何の用?」
「お寝坊さんな巫女を起こしに来たのよ」
「有難迷惑よ」
「そう言わずに。ほら、栗羊羹」
「……ん」

 機嫌が悪いのを見越したような準備の良さに腹が立つけど、それが美味しい物なら歓迎するしかない。
 別に食い意地が張ってるわけじゃない。老若男女問わず誰だって美味しい物は好きなはずだ。

「お邪魔しても?」

 断れないのを知っていて聞くんだからずるい。

「好きにすれば?」

 もうこのやり取りもすっかり定番になってしまった。



「餌付けされてる気がする」

 淹れたてのお茶に口をつけた文はきょとんとした顔をして、

「……まあ、実際してるし」

 あっさり認めた。

「え、気付かなかったの?」
「そんな気はしてたけど、『自分は餌付けされてるんだ』なんて普通思わないでしょ」
「それもそうね。うん、餌付けしてるわよ」
「はっきり言うな!」

 懐に入れた手は何にも触れなかった。しまった、寝起きだからお札は枕元に置いたままだ。
 こうなったら物理で……と握り締めた拳は楊枝を刺して差し出された羊羹を前にしては解くしかなかった。

「目的は?」
「餌付けの? そうね、強いて言うなら……」

 すっと文の目を何かがよぎった。
 躊躇い、だろうか。
 見えたのはほんの一瞬で、すぐに“仮面”の向こうに消えてしまった。

「楽しいから?」
「よーし表出ろ」
「丁重にお断りさせていただきます」

 平然とお茶を飲む文に投げるものを探していると、おおこわい、とわざとらしく身震いした。

「それじゃ、退治される前に退散するわ」
「賢明ね」
「鴉天狗ですから」

 縁側に出て高下駄を履くと、振り返ってにこりと笑った。

「それじゃ、また風の穏やかな日に。」



 風の穏やかな日に、ごう、と強風が吹くことがある。
 今日も私は、心のどこかで優しい風を乱す黒い翼を待っている。
髪を切ったら輝夜から村紗になりました。頭が軽いです。
嬉しさのあまり勢いで書いてしまいました。

そんな感じで久々のあやれいむです。
いきなり口裂け女が出てきて何事かと思われたかもしれませんが
どうして出したのか私にもわかりません。
ただ最後の一言を言わせたかったがためにぽんと出てきました。
文は素直じゃないぐらいがいいと思います。

時期的には1が4月頃、2が5月頭、3が秋ぐらいです。
それぞれ繋がってるようであんまり繋がってません。

短いですが、お楽しみいただけたなら幸いです。
文羽
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
輝夜から村紗って…文羽さんどんだけ髪長かったんですかw
しかし口裂け女に対する反応が実に霊夢らしくていいですね
2.名前が無い程度の能力削除
口裂け女が良いと思った
3.名前が無い程度の能力削除
口裂け女の対応がらしくていい
4.名前が無い程度の能力削除
幻想郷らしい口裂け女と対応だことw