Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

なまくらフェニックスとへっぽこトラツグミ ~ Vol.3

2012/03/29 02:04:09
最終更新
サイズ
69.48KB
ページ数
1

分類タグ

.


―― なまくらフェニックスとへっぽこトラツグミ ――



≪Vol.3 ~ ニュー・マイハート・レジェンド≫



【登場人妖】

  藤原妹紅   …… 健康マニア。キノコを諦めて薬草に手を出すも三日間の下痢に苦しんで終わった。
  封獣ぬえ   …… 天体観測家。星座がわからない腹立ちまぎれに勝手に鵺座を作った前科がある。

  伊吹萃香   …… 小さな百鬼夜行。呑んだくれ・その一。つるぺたのおかげで退治されずに済んだ。
  星熊勇儀   …… 語られる怪力乱神。呑んだくれ・その二。頼光御一行の一人が巨乳好きで(以下略)
  神功皇后   …… 息長足姫命。住吉大社に祀られる由緒正しき神様の一人。好物はカブラの漬物。

  霍青娥     …… 壁抜けの邪仙。敵情視察と称して全国横断ツアーを数百回も果たしてきた猛者。
  茨木華扇   …… 片腕有角の仙人。茨木童子。超のつく真面目で今日も今日とて正義が空回り。

  射命丸文   …… 伝統の幻想ブン屋。暇つぶしに書いた人間の英雄譚が天狗界でベストセラーに。
  蘇我屠自古 …… 神の末裔の亡霊。霊廟が封印されて早や五百年ちかく。軽い鬱病になっている。
  宮古芳香   …… 忠実な死体。屠自古の主な愚痴の聞き手。思考能力は初代のゲームボーイ並み。




【これまでの物語】

  ■なまくらフェニックスとへっぽこトラツグミ
  ■なまくらフェニックスとへっぽこトラツグミ ~ Vol.2


【今回のおはなし】

  ■第一幕/第二幕/第三幕
  ■第四幕/第五幕/第六幕
  ■第七幕/第八幕/第九幕
  ■終幕



【第一幕】


「藤原、あんたいつから桃太郎になったのさ、きび団子でもくれるの?」
「まぁ――お前なら、犬も猿も雉も兼ねられそうで楽だな。団子が節約できそう」
「はぐらかさないでよ。それに、なにさ、お酒なんて持たせやがって。山の神さんと、桜のしたで宴会でもおっ始めるつもり?」
 藤原妹紅と封獣ぬえは、丹波国[たんばのくに]のとある山道を登っていた。妹紅は例のごとくなまくら刀を携えて、イワナの干物を噛み続けながら歩いていた。その肩のうえ、汗を頬に幾筋も光らせながら、妖怪少女がふらふらと飛んでいる。背中に担いだ酒樽が、とぷんっと文句の声をあげる。二色三対の奇怪な羽は、まるで壺に取りついたマダコのように樽をホールドして、酒は一滴たりとも零さんぞ、と踏ん張っていた。
 雪解けはとうに過ぎ去り、春の日差しは桜のささやきと共にあった。ウグイスの地鳴きや、春風に吹かれて笑い合う小枝、草の葉先を跳ねまわる虫の羽音が、左右の木立から舞い降りてくる陽気であった。
「その御酒ね、験担ぎみたいなもんだよ。封獣は朝家の守護さんって知ってる?」
「だれさ、そいつ」
「源頼光」
 ぬえが中空から落っこちそうになった。酒樽が悲鳴をあげて傾いたが、なんとか支えてやって、間に合った。
「ぜったいに零すなよ、それ上物なんだから」
「ちょっとちょっと、今の話――」
「頼光は、源頼政の直系の先祖だよ。酒呑童子や土蜘蛛退治で有名なんだけど」
「ンなの知らぬぇよ、歴史には疎いのさ」
 決まりが悪そうに顔をしかめる妖怪少女。包帯に覆われた左手首を右手で押さえつけている。矢傷が痛むのかもしれない。
「大丈夫か」
 妹紅は、黒い着物の背中を撫でてやった。優しくできているだろうか。痛くないだろうか。自信がない。太刀を振りまわすだけの真っ赤な手のひらに、優しさを込めてやれるだけの隙間が残されているのか、どうか。
「……いいよ、藤原。平気だってば」
 それでも、手を振り払うようなことはしてこなかった。眼はそらしたままで、けれど離れることもなくて、むしろ身体を寄せてきて。二色三対の羽は、ニンジンに噛りついたウサギの耳のように震えていた。
 ほんと、分かりやすい奴め。笑ってしまう。
「……それで、頼光の御一行さんは、住吉を初めとした神社にお参りして、毒入りの酒を授かったんだ。酒呑童子たちは、まんまと罠にはまって、酒にしびれていたところを殺られたってわけ」
 ぬえが顔を歪めてみせる。
「人間って、やっぱり卑怯千万だね」
「それ、お前にだけは云われたくないな」
「――ンだとコラ」
「やんのか?」
「上等だ」
「表出ろや」
「ここは表だよ、バカ」
 互いに小突き合いながら、何処とも知れぬ山を登り続ける。
 今日の空は、晴れている。ヒバリの歌声が、澄んで聴こえた。


 妹紅が平安の桃太郎になっちまったのには、実に単純明快な経緯[いきさつ]があった。
 麓[ふもと]の村落で一服とろうとした二人を、村長[むらおさ]が呼び止めてきたのだ。白髪に真っ黒な着物、少女の二人旅、おまけに燃え上がる真紅の瞳。寝ているところに鍬を振り降ろされてはかなわないと、茶を呑んだら早々に退散しようと思っていたところにコレだった。
「わわっ、すげぇ美味しいっ! ねぇ、コレなんて云うの!?」
 贅沢にも菓子を振る舞われて、ぬえは有頂天だった。滑空するハヤブサのごとく手を動かすので、はしたない、と黒髪をはたいてやったら、涙目でこっちを睨んできやがった。長の苦笑いが頬に痛かった。
 なにはともあれ、御山に住みついて村を脅かす鬼の一派がいるそうで、このご時勢で、まさかの鬼退治をやる羽目になっちまったのである。
 村の一同に見送られながら、山に分け入って、事の一切は現在に至る。


【第二幕】


 妹紅とぬえが互いの髪を引っ張り合っていた、ちょうどそのころ、南の摂津国[せっつのくに]・住吉大社の縁側では二人の少女が客人を出迎えていた。
「やぁやぁ、遠路はるばる、ご苦労さん」
 伊吹萃香は朱塗りの杯[さかずき]を傾けた。
「ははーっ、お二人の健勝な御姿を拝見し、至極安心いたしまして候」
「そんな謙遜すんなって。うまい酒だって不味くなるじゃないか」
 畏まって敷石に頭を垂れているのは、かつての配下・射命丸文である。相方の勇儀が、お前さんも座りなよ、と云いたげに縁側を指さした。
「あ、そっすね。いやー、肩肘はっちゃうと筋が硬くなって仕方ないっすわ。いやはや……」
 文は梅雨の土砂よろしく相好を崩して、縁側によっこらセックスと腰かけた。
「えらい砕けたね。豆腐のほうが、まだしも根性があるよ。私は、お前らのそういうところが気に入らない」
 萃香は酒を飲み下す。ほろ苦い味だ。思い出の味とは、このことか。
「まぁまぁ、好いじゃないか、萃香――ささっ、射命丸。お前さんも、一杯やっていきな」
 文は両手を振って遠慮する。
「いえいえ、今日は報告だけで勘弁してください。これから、すぐに準備を手伝わないといけないので」
「なんだい、付き合いが悪いねぇ。私は、お前らのそういうところが気に入らないんだ」
「フォローしておいて勇儀さんまで!?」
「で、準備って何さ。結婚披露宴でもするのかい?」
「それがですね……」
 ここで、文は居住まいを正した。背筋をしゃらんと伸ばし、両手に拳を固めて膝のうえに添えた。床板の木目を数えるように視線をさまよわせてしばし。
 紅い光を両の瞳にたたえて、天狗はひとつ頷いた。
 ただ事ではないな、と鬼の二人は揃って杯に口をつける。
「萃香さん、勇儀さん――私たち天狗は、幻想郷にいきます」
 次の瞬間、萃香と勇儀は同時に酒を噴き出した。
「せいせいせいせい! ――ちょいと、なんだい、そりゃあ。今さら、みんなで仲好くお引っ越しかい?」
「今だからこそです。これ以上、人間とは付き合っても詮無いと、天魔様が」
「詳しく聞こうか」
 勇儀が、だらしなく開いた足を胡坐に畳む。
「お二人も、気づいてらっしゃるとは思いますが……」
 天狗は微動だにしないまま、口を動かし続けていた。
「もう、私たちの時代は終わったんですよ。人の世は乱れています。火種があちこちで燻っている。人間は、同じ人間への相手でいっぱいいっぱいになっているんです。そんな連中と付き合い続ける義理が、どこにあると云うのでしょうか」
 人間、という言葉の響きを耳にしたのは、ずいぶん久しぶりのことだった。萃香は思い出す。紙吹雪のようにずたずたにされた自尊心を抱えて、この国を当てもなく歩き回っていたときのこと。中秋の名月、ススキの原っぱで、勇儀と柄になくセンチメンタルを気取って酒を呑んでいた、あのときのこと。
 ――幻想郷は、あなたたちを受け入れます。あの人間とのしがらみなんか捨てて、共に歩んでいこうではありませんか。
 その言葉を、なんとも胡散くっせぇ妖怪から聞かされたときのこと。
 それを、萃香は思い出したのだった。
「……天狗もヤキが回ったね。妖怪の本分を捨てるってのかい?」
 思わず、あの時と同じような言葉が口から漏れていた。
「本分?」
 文が眉をひそめる。
「本分――本分って、なんでしょう? 人間と宜しくやっていくことが妖怪の正しい生き方だとは思えませんが、まぁ、そう考えて頂いても結構です」
「検非違使[けびいし]に捕まった泥棒みたいに開き直りやがって。何もしないまま、スタコラサッサなんて、悔しくはないわけ?」
「悔しくないと云えば、嘘になります。でも、正直、疲れたんですよ、私たち。人間に疲れたんです」
 天狗の少女は、本当に疲れたような顔をしていた。
「それで幻想郷に行ったところで、どうするんだい? 妖怪退治屋と畑でも耕すのかい?」
 勇儀は顎に手をあてて、文を睨み付けている。
「さぁ……」
「さぁって、なんだよ」
「私の知ったこっちゃないですよ。うえの意向ですから」
 萃香は憤然と立ち上がった。
「またそれだ! 気の利かないカラクリ人形じゃあるまいし、うえの意向、うえの意向って、それしか云えないのか、お前は!」
 そう叫んだとたん、文の顔が粉々に砕け散ったように透き通った。禁句だ、と頭の片隅で自分の分身が叫んでいるのが分かったけれど、口をついて出た言葉は、雪崩と同じで止めようがなかった。
 天狗は、白骨死体のようにカラカラと笑う。
「あはは、今さらなんですか。これまでだって、そうだったじゃないですか。心の健康を保つためには、何事も深く考えないことが一番です。でもって、そのために、シンプルなイデオロギーに主体を明け渡してしまうのが、いちばん楽なんです」
「倫理の講座かい、この会話は」
 勇儀が人差し指で耳を塞いで云う。
「おっと、失礼いたしました。私としたことが、なんと辛気臭い。梅雨でもないのに湿っぽいなんて、まるで人間みたいじゃないですか」
「違いない」
 ハッハッハ、と空しい笑いが二人の間を飛び交う。聞いちゃいられない、と萃香は口をはさむ。
「なに笑ってるんだよ、勇儀まで」
「いやさ、不思議なんだよ。わざわざ報告するようなことでもないだろ」
 文の笑いが凍りついた。唇が震えて「ひぐっ」という小さな息が漏れた。
「私と萃香が退治されてからというもの、お前ら、なんの連絡も寄越してこなかったじゃないか。それが今になって、なんだい、さっさと本題に入ってくれよ。謙遜は酒を不味くする、回りくどい話は酒を空けすぎる」
 なんとも悔しいが、この時ばかりは勇儀の横顔がカッコ好く見えた。角の星印が一番星のように無駄に光って見えた。
「うぅん、流石は勇儀さん。いや、実際、苦労したんですよ。私が伝令の任を賜ってからというもの、それは艱難辛苦の荒波で――」
「過ぎた苦労話は、酒を酸っぱくするよ」
 勇儀の眼は笑っていなかった。
「すいまへん――本題というのは、つまり、萃香さんと勇儀さんは、幻想郷に行く気はないのか、ということです」
 なんとも微妙な沈黙が襲ってきた。小鳥の唄が虚ろに響いた。
「……い、行くわけないさ。ぜったい行ってやるもんか。なぁ、勇儀?」
 相方は、とうとう笑みまで引っ込めて、うつむいて考え込んでいるようだった。
「勇儀?」
「え……あ――あぁ、そうだな。うん、行こうと思えば、いつでも行ける場所さね」
「そうですか」
 文が飛び上がり、縁側に舞い降りた。
「いやぁ、安心しました」
「ぶっちゃけやがったよ、こいつ」
「えへへ、このご時勢ですから、みんなピリピリしてるんですよ。唐辛子のほうが、まだしもマイルドな味わいでしょうね。いや、ほんと安心しました。おかげで首が飛ばずに済みそうです」
 勇儀が、白糸を切ったように細い息をついた。
「話はそれだけかい?」
「はい、それだけです。せっかくの酒盛りを邪魔しちゃって、ほんと申し訳ありません」
 鴉のしなやかな羽を伸ばして、文は風を切った。
 そのまま春に紛れてしまうか、と見えたところで、一度だけ振り返って云った。太陽を背にした文の姿は、羽どころか全身が墨色に染まっていた。
「萃香さん、勇儀さん……これで、お別れですね」
 萃香は杯を振ってやった。
「あぁ、向こうでも、せいぜい達者でね」
「天狗との宴会は、なかなか悪くなかったんだけどねぇ――残念だよ」
 勇儀も後を受けた。
「私も残念でなりません。いったい、何が間違ってこうなったんでしょうね」
 それでは――と、空元気を落っことして、文は去っていった。最後くらいは、と見繕ってくれたのだろう、その明るい声の響きは、この春の空の下では、空しく風にさらわれてしまう。
「……なぁ、勇儀」
「なんだい、萃香」
 長年、連れ添ってきた相方は、視線を合わしてはくれなかった。杯の水面に浮かんだ桜の花びらを、じっと見つめている。
「――私は、あきらめないよ」
「うん、それでこそ、伊吹の大将だ」
 その返事の力強さも、やっぱり春風にさらわれてしまったのだけれど。


【第三幕】


「それでは、蘇我様。行って参りますわ。夢を見るのも忘れるような、素敵な土産話を持ち帰ってきます。楽しみにしていて下さいね」
「さっさと行けばいいだろう――私のことは、構わないでくれ」
「青娥さま、行ってらっしゃーい!」
 ここは摂津国のお隣さん、河内国[かわちのくに]である。萃香と勇儀がヤケ酒を始めた一方で、とある寺の墳墓の地下深くでは、三人の少女が別れの挨拶を交わしていた。
「えぇ、芳香。あとをお願いね。蘇我様を守ってあげてちょうだい」
 霍青娥は、可愛い死体の頭を撫でてやった。それに激怒の声をあげたのは、亡霊キャリア五百年のベテラン・蘇我屠自古である。
「だから、ほっといてくれって云ってるだろ! 失せろよ、この似非ヒッピー! マーク・チャップマン呼ぶぞ!」
「なんですか、それ。娘々わかんない」
「蘇我さまは、精神的に不安定になっているのだな」
「うるさい!」
「あらら、こわいこわい。さっさと退散しましょうか」
 ほほほ、と笑ってやって、霊廟の天井に穴を空けようとする。背中に声を投げかけられたのは、まさにその時だった。
「青娥っ」
 屠自古が、こちらを見上げながら、気まずそうに頭をかいていた。
「……あのさ、その、悪かった」
 ボロボロになってしまった着物の裾を、ぎゅっと握りしめている。日当たり皆無の霊廟では、白黴がよく育つ。まるで雪が降り積もったような、虫食いだらけの着物を、屠自古は握りしめているのだ。
 地上の民のほうが、まだしもマシな服を着ているかもしれない。
「土産話、期待してる。太子様がお目覚めになるまで、まだまだ退屈が続きそうだし」
 青娥の視線は、霊廟の奥に鎮座している石棺に吸い寄せられる。そのなかには、かつての弟子であった二人の見習い道士が、春の目覚めを待っているはずであった。
 夜明けは、いつか。開花は、まだか。冬は、いつになったら終わるのか。
 仏教は、衰退するどころか、ますます瑞穂の国に根深く食い込んでしまっていた。
「えぇ、でも――もうすぐですよ。蘇我様。もうすぐ、民衆は豊聡耳様のお力を、かならずや必要とすることでしょう」
「そうか、それは楽しみだ!」
 あながち、優しい嘘というわけではなかった。その可能性が充分にあるから、青娥は心の底から微笑んでやれていたのだった。
「機嫌は直されましたか?」
「うぅ、蒸し返さないでくれ」
 今さらになって恥ずかしさが込み上げてきたらしい。恥らえるってことは、まだ正気を保っているという証拠。
 元は人の身だ。留守番と称して芳香を残していなかったら、屠自古はとっくに壊れていただろう。ゼンマイが壊れた人形みたいに、カタカタと声をあげて笑うだけの存在。
「お前のことだから大丈夫だろうが、まぁ、気を付けろよ。聞いた感じ、かなり物騒なことになってるみたいだし」
「お言葉、ありがたく頂戴しますわ、蘇我様」
 青娥は、簪[かんざし]で円を描いて天井に穴を空けた。屠自古の暖かい視線を背中に浴びながら、穴へと身を躍らせた。
 芳香の元気な声を最後に、妖気の反響も、かがり火の光も消え去った。すべては闇に染まる。穴を飛び抜けた先には、懐かしい春の陽気が――。
「ヒギャっ!」
「グエっ!」
 地面からモグラのように飛び出た青娥は、何者かと派手にぶつかった。脳天に火花が散って、その場にうずくまってしまう。頭が割れたかと思った。
 鉄球に踏みつぶされたカエルみたいな悲鳴をあげた相手の少女は、顔を両手で覆って悶絶していた。指の間から血が零れているところを見るに、鼻血が止まらんらしい。
「――な、何すんだ、この野郎!」
「それはこっちの台詞よ!」
 涙目で睨み合った。
 梅色の髪に汚れのひどい布を巻きつけた少女の身体には、右腕がなかった。人間の女の子を装ってはいるものの、緋色の瞳からほとばしる目映い妖気は隠せていなかった。
 青娥は呼吸を整えてから、口を開いた。
「ここは偉大な御方が休んでおられる聖域ですよ。あなたのような妖怪風情が、おいそれと観光してよい場所ではありません」
「な、なんで私が妖怪だと……」
 答えてやらずに、青娥はさっと腕を伸ばして、妖怪の頭の布を取っ払った。抵抗されたが、手遅れだった。
「ふむ、やはり」
「そんな、ちゃんと隠したつもりだったのに……」
 角。紛うことなき角である。少女の髪からは、一対の小ぶりな角が生えていたのだった。
「こんな布きれで隠したおつもりで? 真っ赤な妖気が垂れ流しになってますよ、華厳の滝のように」
 少女の瞳が光った。身をかがめて、警戒態勢をとってきやがる。
「あなた、ただの人間じゃありませんね。土から生えてくるなんて――って、ちょっとちょっと!」
 ネタが割れれば興味はないと、青娥はすでに空へと飛び立っていた。鬼の少女が慌ててついてくる。
「なんでしょうか。かたわの鬼と戯れている暇はありませんの」
「云ってくれるじゃないですか、この輪投げヘアー」
「わな……あまり調子に乗らないでくださいませんか。カラスの晩飯になりたいと云うなら、話は別ですが」
 少女は動じない。
「知りたいのです。あれは確かに、かの厩戸皇子の墓。そこから、あなたは現れた。いったい何者なんですか?」
 厩戸。
 これまた懐かしい響きだった。生前の太子の微笑みが、霞のように脳裏に浮かび上がってきた。
「……私は、詮無い導き手ですわ。あの迷える御方に、可能性という種を蒔いて差し上げただけ」
「つまり、聖徳太子の師?」
「まぁ、そんなところです。あれから幾度も日輪が昇りましたが、あの方がお目覚めになるまでは、この国に本当の陽光が差すことはないでしょう」
 少女は、しばらく考えこむようにうつむいていたが、やがて降参と顔をあげた。
「あなたの云うことは、いまいち分かりにくいですね」
「まぁ、早い話が、ファッキン仏陀ってことですよ」
「そんなこと云って、封印されても知りませんよ」
 なにげない言葉が、いちばん心に深々と突き刺さるものだ、と青娥は思った。
「封印は……嫌ですね」
「私だって、嫌です」
 そう云って、鬼の少女までうつむいてしまった。
 春の上空は、いまだに冬の残り香を蓄えている。鳥肌が泡立つのを感じる。世の夜明けには、まだ一歩及ばないらしい。一羽の小鳥が、少女の角で休んでから、また飛び立っていった。
 その行方を目で追いながら、呟いてみる。
「……なんでしょうね、会ったばかりだと云うのに、他愛もない話を。私も、まだまだ修行が足りないわね」
「その云い草――あなた、やっぱり仙人ね」
 今さら否定する気も起きなかったので、正直に答えてやる。
「仙人……仙人ではありますが、道士でもあります。肩書きは星の数ほどありますが、誇って名乗れるだけの号は、まだ持ち合わせておりません」
「その仙人が、なぜ、この国まで」
「どうでも好いことでしょう――さぁ、雨が降る前に別れませんか。湿っぽい話は、あまり好きではありませんので」
 少女が、手枷をはめた左腕を伸ばしてきた。口を開きかけて、また閉じて、目をそらしてから、ふたたび開いた。
「あなたを見ていると、なんだか他人事じゃないみたいで」
「だから、なんだと云うのですか。お互い、古傷を舐め合うような生き方は、とうに捨てたでしょうに」
 少女は、ほんのわずかに頷いた。梅の髪が春風にそよいでいた。
「……確かに、そうですね。すみません、引き止めてしまいました」
「二度と会う機会のないことを、祈りますわ」
「私だって」
 最後まで憎まれ口を叩き合って、二人は別れた。
 同じ方向へ。
「なんで付いてくんだよ! カルガモの生まれ変わりか!?」
「違ぇっての! 私もこっちの方向なんだよ!」
 思わず地が出た二人は、互いの胸倉をつかんで罵り合った。
「……どうやら、あなたとは切っても切れない関係になってしまったようですね」
「それはこっちの台詞です。こうなったら洗いざらい喋ってもらいますよ、仙人め」
 また一羽、小鳥がそばを翔け抜けていった。ちゅんちゅんっという鳴き声が、なんだか笑われているような気がしたので、青娥は顔をしかめて、追い払うように右手を振ってやった。


【第四幕】


「それにしても意外だな」
 中腹の小川で休息をとっていたとき、白髪の少女が刀を砥ぎながら云った。イワナの塩焼から口を離して、ぬえは相方のほうを振り返った。
「なにがさ」
「同じ妖怪だってのに、鬼のことを知らないなんて」
 鬼の連中とは面識がない。そのことを先ほど話したら、やたらに驚いていたので、ぬえは機嫌を損ねていた。これまでずっと、唯我独尊を気取ってきたのだ。他の連中のことなんて、知ったこっちゃなかった。
「……まぁね、私ら妖怪は、あんたらと違って群れたりはしないから」
「それでも会ったことすらないなんて驚きだよ、ほんと」
 からかうように云ってきやがった。
「なにさ、藤原。なにが云いたいのよ、返答によっちゃあ魚の撒き餌にしてあげるわよ」
「べっつに。お前、交友関係に疎いんだなって思ってさ」
「はぁ? ――失礼ね。私にだって友人くらい居るわよ」
 イラっときたので、つい声を荒げてしまった。イワナの目玉を口に放り込んで噛み潰す。
「……嘘だ」
 そう云って、妹紅が手を止めたので、ケラケラと笑い飛ばしてやった。
「ほんとよ。今は遠いところにいるけれど、いざって時には頼りになる奴なんだから」
 想いは遥か遠く、海を越えて佐渡の島へと飛んでゆく。懐かしい虫食い木の葉が潮騒と一緒になって、脳裏に蘇ってくる。
 ぬえが顔をほころばせる一方で、相方の少女は、ゼンマイが切れたように動かない。
「嘘だ。封獣に友達がいるなんて、信じられない。信じたくない」
「なに、そんなにショックだったの?」
「ショック? ――ショックだって?」
 妹紅が顔をあげた。瞳の光が消えている。鹿の剥製のように、表情が抜け落ちていた。
 ……ぞっとした。
「うん、そうだね。ショックだよ、仰天だよ、不死山マジヴォルケイノだよ」
「な、なにさ。私に友人がいて、なんか悪いことでもあんの?」
「お前、さっき他の妖怪とは面識がないって云ったばかりじゃないか、ファック・オフ」
 約束事を破られた幼子のように、妹紅は唇をゆがめていた。
「なにごとも例外ってもんはあるわよ。聞きわけがないなぁ。人間のガキじゃあるまいし、バッカみたい」
 たぶん、その言葉が引き金になったんだと思う。
 妹紅の瞳に紅蓮が蘇った次の瞬間、羽の付け根が燃えあがるように熱くなった。
「っ――!?」
 ぬえは悲鳴をあげて、その場にうずくまった。白熱した焼きごてを押し付けられたみたいだった。馴染んでしまってすっかり忘れていた、羽の呪符の存在が、今になって自らを主張してきたのだ。
「ふじわら――あんた……!」
 この野郎、と妹紅をにらみつける。
「ちょっとした冗談じゃない、なに怒ってるのさ!?」
「忘れるなよ。私の指の動きひとつで、お前は翼をもがれちまうんだからな」
 がつん、という音を聞いた気がした。唇が震えて、視界が揺らいで、妹紅の顔をまともに見ていられなくなる。
「そんなこと云う奴だとは思わなかったよ、藤原のバカ」
 大っ嫌い、と小さく落っことす。
「……私がイヤなら、どっか行けよ。お前なんか、どっか行っちまえ」
 二度目のがつんは、確かなヒビを心に穿っていった。残響だけが、頭をめぐった。
 なんだよ、ふざけんなよ、と握りこぶしを作ってしまう。いつもと変わらない軽口じゃないか。泥んこになって笑いあう子供みたいな、そんな無邪気な軽口だったじゃないか。
 それとも。
 悪ふざけが過ぎて、顔面に泥を投げつけてしまったんだろうか。もしも、それが、いちばん汚されたくない場所だったとしたら。それが、いちばん触れてほしくない場所だったとしたら。
 どうなのさ、藤原――と目線をあげてみる。
 妹紅は、自分と同じように、唇を結んでうつむいていた。
 今にも大っ嫌いと云い放ちそうだったので、ぬえは先手を打って口を開いた。
「……云われなくても、どっか行くよ。藤原が望むんなら、わたし、どっか行っちゃうよ」

□     □     □

 ぬえが飛び去ってから、しばらくして、妹紅は事の重大さに気がついた。
 大声で名前を呼んだけれど、返ってきたのは川のせせらぎだけだった。木々のざわめきが、心をかき乱してくるばかり。声を枯らしたころになって、川べりに腰かけうつむいた。
 ……なんで、自分は、あんなことを。
 これまで後悔や自己嫌悪を抱かない日はなかったけれど、この種の気持ちは産まれて初めて味わうものだった。
 例えて云うなら、この後悔は重いんじゃなくて――痛いのだ、どうしようもなく。
 胸をおさえて、背中を折り曲げる。
 かれこれ四百年以上も生きてきたのだ。それは突然の発作のようなもので、いつもなら、刀の鞘を握りしめるだけで治まってくれるものだった。
 それなのに、今日は心臓の嗚咽が止まってくれなかった。クゥクゥと、捨て猫のような息が漏れてしまう。山に敷かれた桜木の群れが、あの日の悲しみを運んできた。
 それは遠い思い出だった。
 離れの局[つぼね]で、手習いをしていた。たった独りだった。恋文なんて貰ったことがない。ずっとずっと、ひた隠しに育てられてきたのだ。恋い慕う誰かのひとりも出来ないことは、とうに悟り切ってしまっていた。
 庭園の桜木は満開だった。あの桜が散るように、自分もひっそりと消えられたら、どんなに素晴らしいことだろう、そんな歌を詠ったのを覚えている。
 声を殺して泣いていた少女の姿のままで、あれから何百年も経ってしまった。
 自分の居場所なんて何処にもないんだって思い知らされた時の、この嗚咽はいったいなんなのだろう。涙を流すことさえできない悲しみが、この世にはあるんだって思い知った時の、この鼓動はいったいなんなのだろう。
 地を駆ける狐には穴があり、空を翔ける鳥には巣がある。なのに、人の身の自分には枕する場所もないのだ。
 だから、だろう。
 それだから、ぬえの言葉が深く突き刺さってくるのだ。
 自分にだって友人くらい居る。いざって時には頼りになる奴。
 あいつにだけは、ぬえにだけは――そんなこと、云ってほしくなかった。
「……ぬえ」
 不意打ちのように呟きが漏れた。
「……悪かったよ。私が悪かったから、あやまるから、戻ってきてよ」
 ぬえは、どこにもいなかった。春に紛れて去ってしまっていた。


「あれ……?」
 妹紅は目をしばたいた。川べりに落っこちていた焼き魚の残骸、それが視線を引きつけたのだった。
 ぬえが食い散らかしたものだとばかり思っていたが、砂にまみれた骨は、ずいぶん古びていた。骨にこびり付いた身まで綺麗に食べつくされている。山の動物にそんな行儀の好い奴はいない。
 村長との会話が蘇ってくる。
 この一帯の鬼が源頼光らに退治されてから、百五十年ちかく経っている。今さらになって鬼が現れた理由が分からない。鬼といえば、人攫いをして、退治しにきた人間と一戦交えるのを生きがいにしている、そう聞いていたが、村長の話のなかに、娘が攫われたなんて事件はなかった。
 鬼にもトレンドがあるのだろうか。人攫いに飽きて、今ごろは貴族よろしく蹴鞠に興じているのかもしれん。
 妹紅は頭を掻いた。
 嫌な予感がする。
 そして、こういう時の嫌な予感は外れた例[ためし]がないってことも、長年の経験から知っている。
 とにかく、ひとつ確かなことは。
「――封獣が危ない」
 妹紅は急いで荷をまとめると、なまくら刀をぎゅっと握りしめて立ち上がった。
 夕暮れが近かった。カラスに馬鹿にされちまう前に、ぬえを見つけなければ。


【第五幕】


 一方、住吉大社の第四本宮では時ならぬ祝詞があがっていた。
「掛け巻くも畏き息長足姫命[おきながたらしひめのみこと]大神とたたえ祀る……」
 口上だけは立派やな、と住吉大社の祭神・神功[じんぐう]皇后は思った。
 大和時代の色彩あでやかな唐風の衣装、満月のように浮かんだ三つの鎮懐石、背中に物々しく座をしめた矢筒。かつて応神天皇を出産し、聖母[しょうも]と呼ばれた柔らかな微笑みも、今は消え失せている。
 信仰が、流れてこないのだ。
 栄華を極めた平家一門から遣わされた新しい神官に、自分の姿は見えていない。丸暗記した祝詞を繰り返しているだけである。その心には、いかに中央に取り入るか、という命題が根をはっているのみで、神と紙の区別もついていないのではないか、と疑うほどの無信心っぷりであった。
 いちど夢枕に立ってやろうか、と私心を起こしたこともあったけれど、そんなことをしてもいたずらに怖れられるだけかもしれないと思うと、嫌気が差して止めてしまった。
 神功はやってられんと浮かび上がり、手慰みに神官の烏帽子をぺちぺちと叩いたあと、拝殿から太鼓橋へと向かった。
 神とは何か。信仰とは何か。人々の心が移ろいつつある時代で、自分の存在する意義はいずこにあるか。
 そうこう考えているうちに、太鼓橋が見えてきた。梅色に塗られた欄干がアーチを描くさまは、水面に映った橋桁や散りばめられた桜の花びらも手伝って、ことさらに神秘的であった。
「――ありゃ、すみよっさんじゃないの」
「ちーっす」
 橋の中央で将棋を指している二人の鬼が、こちらを振り返った。
 神功は、腕を組んで居候たちを見下ろす。
「ちーっす、じゃねぇよ。おまはんら、ンなとこで何やっとんねん」
「なにって」
「そりゃあ」
『将棋に決まってんじゃん!』
「なんでわざわざ橋のうえでやってんのか聞いてんだよ!」
「あ、やべ――萃香、今のタンマ!」
「おっと、待ったは禁止ね」
「……無視すんなや」
 神々の通り道として、人間には通行が禁止されている橋である。それを、こともあろうに杯を片手に胡坐をかいていやがるのだ、こいつらは。
 二人を密かに匿っているのは、ささやかな罪滅ぼしのつもりだった。神通力を猛毒よろしく流し込んだ酒を、必勝祈願にやってきた頼光一行に手渡したのは、他でもない自分だった。祀ってもらってる神の一柱として、妖怪を退治する人間に手を貸すことは責務であったのだ。
 時代が移り変わると共に、人の心も放たれた矢のごとく移ろいでいった。幾度も争い事を繰り返しては、はかなく散ってゆく人間たちを見ているうちに、もしかしたら、という思いが脳裏をよぎってきた。
 ――もしかしたら、人間よりも妖怪のほうが、めっちゃ純粋な心を持ってるんかもしれへん。
 萃香たちに申し訳ない思いを募らせ始めたのと、その本人たちが住吉大社にカチコミをしかけてきたのは、ほぼ同時であった。
「そういや、さっき天狗の姉ちゃんが来てたやないか。なに話しとったんや、誕生日パーティーのお誘いか?」
 萃香から杯をぶん盗って酒を楽しんだあと、神功もどっかりと胡坐をかいた。その衝撃で橋桁の一部にヒビが入った。
「あぁ、うん、ちょっとねぇ……」
 小鬼がはぐらかす。まどろっこしいことがカビの生えた納豆と同じくらい大嫌いな神功は、鎮懐石を手繰ってぶん投げる構えを見せた。
「わーわー!? タンマタンマッ、それマジで痛いから止めてくれ!」
 鬼の二人は将棋盤をひっくり返して経緯を語った。
「……ふーん、成程なぁ。天狗の連中はプライドが高いから、まぁ無理もないわな。そうかぁ、いよいよ天狗までスキマ送りされたってわけやな」
「スキマ送り?」
 鬼たちは正座して神託を聞いている。
「忘れ去られて消えるっていう比喩や。わたしら神さんはよう使ってる。特に最近はな」
 これは内々の話なんやが、と神功はヤクザの座談さながらに断りを入れる。
「去年の神無月な、出雲の定例会のときも、天照[アマテラス]のばっちゃんが云うとったわ――あ、本人の前でばっちゃんは禁句な――全国で妖怪が消えつつあるそうや。雪解けのように、少しずつ、少しずつな。なんつーか、あれやわ。世の中がおかしうなってきとるというか、歪んできとるというか、八坂のやつはでっかい戦がおっぱじまるって騒いどったが、どうなんやろうな」
 神功が弁をふるっているうちに、萃香の顔には黒雲が差してきた。
「やっぱり、すみよっさんも同じ考えかい?」
「あるいは――幻想を必要としなくなるのが、人間の正しい道なのかもしれへん」
 いずれはそうなるかもしれない、と考えていたことだった。目に見えない幻想なんて捨てて、確かに存在するものを求めて歩んでいく人間の後ろ姿。
 萃香が首をふって否定する。鬼としての行き場を失った悲しみが、伏せられた目蓋から伝わってきた。
「なんだよ、それ。そんなのってないだろう。このまま忘れ去られちまうだけなんて」
「……潮時ってことなのかもしれないな」
 ぽつりと漏らされた勇儀の一言に、萃香が噛みついた。
「勇儀、おまえ!」
「勘違いするなよ、私だって諦めてるわけじゃないさ」
 金色の髪をかき上げて、怪力乱神は空を仰ぐ。日は傾き始めていた。
「ただなぁ、こうも思うんだよ、萃香――私らは、ある意味じゃ役目を終えたんじゃないかってさ」
「役目ェ?」
「つまりさ、人間は私らを必要としなくなった。というか、同じ人間が鬼に見えてきたんじゃないかって、そう思えてくるんだよなぁ」
 勇儀が云い終えたとき、川から水音が弾いた。黒い鱗を光らせた魚が、互いにまぐわいながら、橋杭の影で跳ねまわっている。
 そうか、もう春なのか、と感慨を抱いてしまう。鬼の二人も、黙りこくって川面を見つめていた。少女たちの横顔を眺めているうちに、先ほどの問いかけが胸に迫ってきた。
 人間から必要とされなくなる、ということ。
 それは、妖怪の問題だけではない。
 この手のひらが透き通ってしまうことも、あり得ることかもしれないのだ。
 そうなんやな、もう春なんやな、と心のなかで繰り返す。
 それなのに、なぜ自分たちは、冬空の雲みたいな話をしているんだろう。
 馬鹿らしいじゃないか。
 神功皇后は酒をイッキにあおると、深い息をついてその場に寝転がった。
 春の陽気は、桜のささやきと共にある。心地よいまどろみが、微酔の助けを借りて降りかかってくる。
 ――今なら、消えてしまっても好いかもしれない。
 なんてことを考えてしまい、慌てて首をふって打ち消した。
「あ、勇儀。さっきの対局、どっちが勝ってたっけ?」
「私に決まってんだろ。あと五手もあれば詰んでた」
 こいつら……。


【第六幕】


「ロリコンだったのかよ」
 退治された経緯を聞き終えた青娥が突っ込みを入れてきた。茨木華扇はうなずいて話を続ける。
「えぇ、私はなんとか逃げおおせましたが、あの二人は恐らく……」
 たちまち視界が涙で滲んできた。萃香と勇儀の笑顔が懐かしかった。生来の性格が功を奏して、ひとりだけ酒を呑み過ぎなかったのが生還の理由であった。
「じゃあ、その右腕はどうしたのですか」
「敵討ちのつもりが、返り討ちに遭いまして」
 ははは、と力ない笑みがこぼれては、雲のしたへと堕ちてゆく。重ったるい吐息は、空では浮かんでいられないのだ。
 二人は春の上空をゆったりと飛び続けていた。青娥は羽衣に乗って風を味方につけている。華扇は風を切って一直線に飛んでいた。
「それで、生き残ってしまったあなたは、人間に復讐することは考えなかったのですか」
 邪仙がニヤニヤしながら話しかけてくる。
「無意味なことだと悟ってしまったのですよ。この腕を切り落とされたときに」
 それよりも、と華扇は続ける。
「私は、怖いのです。今の人間を見ていると、どうにも間違った方向に進んでいるように見えて仕方がないのです。恐らく近いうちに、大きな戦乱が起きます。この国すべてを巻き込むような巨大な――そうなったら、私たち妖怪なんて、彼らの眼中にない……」
 雲のうえは澄んでいる。ここには薄汚れた空気の欠片もない。ずっと雲海を漂っていられたら、それこそ、疲れを忘れた鳥のようにあれたら、どれだけ幸せなことだろう。
 そして、そんな願いは叶うはずがないってことも、痛いほどに分かっている。
「人間と妖怪は、ともに在らねばなりません。人間は幻想を捨てては生きていけないのです。戦火がひとたび巻き起こってしまえば、二度と後戻りが出来なくなるでしょう」
 だから、私は――左手を握りしめて、華扇は世界中に叫ぶように云った。
「なんとしても食い止めなければならないと、人間と妖怪の繋がりを断ち切ってはいけないと、そう決心したのです!」
 舞台劇の女優のごとく、腕を振り回して華扇は結びを入れた。
「……青娥は、どのように考えているのですか?」
 邪仙は耳を塞いでいやがった。
「てめぇ、この野郎っ!」
 またも鬼の地が出た華扇は、胸倉をつかみかからんばかりに詰め寄った。
 鬱陶しそうに空色の瞳を開いて、青娥が応える。
「べつに妖怪がハルマゲドンになろうが知ったこっちゃないですよ。本当に戦乱が起きるとしたら、私にとっては好都合ですから」
「なんですって……!」
「世の中が乱れれば、それだけ民衆は聖人の導きを必要としますから。これでファッキン仏教が衰退すれば云うことなしなのですが――」
 ため息がひとつ挟まれる。
「まぁ、現状を見る限り、この国から仏教が失われるなんて考えられない、残念ね」
 青娥の顔に鈍色の疲れが見てとれたので、華扇はそれ以上は何も云えなかった。
「そうそう、それで思い出しました」
 邪仙は続ける。
「あなた、なぜ豊聡耳様の墓所に? 先ほどの話と関係が?」
「……厩戸皇子は、数々の伝説を残して民衆を導いたと伝え聞いています。私の目的の助けとなる、なにかしらのヒントでも学べればと、そう考えただけです」
「ふぅん……まぁ、そういうことにしておきましょうか」
 信じていないな、こいつ。
「さぁ、見えてきましたね」
 雲海を潜って、桜の絨毯が敷かれた原風景を見下ろす二人。眼下には集落が広がっていた。土塁や柵の群れで囲われており、その周囲の田畑で人々が働いている。かなり賑わっている様子である。
「ごくふつうの村落に見えますが?」
「いいえ、奴等の根城のひとつですよ」
 そう云って青娥が指差した先には、ひときわ大きな瓦葺きの家屋がうかがえた。
 どうやら寺院のようだ。
「何をするのですか、いったい」
「敵情視察です」
 唇に人差し指をあてて、青娥は片目をつむってみせたのだった。

□     □     □

 かつて青娥は、道[タオ]の修行で身体を壊した神子に、疑問をぶつけたことがあった。
 そこまでして民衆を導こうとするのは、なぜなのか。為政者としての意地か、はたまた強大な権力のためか、あるいは単なる目立ちたがりなのか。
「どれでもありませんよ、青娥」
 そう云って、仙丹を苦々しい顔で飲み下した太子の顔は、草いっぽん生えない荒野のように乾燥していた。瞳だけが生気を残していたのだった。
「ただ――死にたくない、その一心で田畑を耕していた、あの餓える人々の涙が、今でも忘れられないのです」
「私には分かりませんわ。こんなに脆くて儚い人間の命を、病身でなお案ずる意義が」
 怨嗟の産声をあげるヤンシャオグイを手のひらで転がしながら、枕元の神子に囁いてやる。
「自分のためだけに修行する。それがいちばん楽なのですよ。なのに、豊聡耳様は、道教の力を他人のために使おうとされます。何度も忠告いたしましたのに、お身体を傷めてまで……」
「まぁ、自分でも滑稽だとは思いますよ」
 神子は、難しい顔で黙り込んでしまった。言葉を探しているのか、それとも仙丹で腹でも壊したか。
「……布都、屠自古と共に、久々に外の空気を吸いに出かけたのです」
 へぇ、と青娥は生返事をして、槌で金丹を砕いて粉末にする。
「その時、女の子と出会いました」
 無礼な、控えよ、太子様のお身体に障る。二人の制止をかわして、女の子は神子の籠の前で手を合わせたという。
 いわく――お父さんとお母さんが、帰ってきますように。
 物部氏との戦では、多数の死者が出た。戦火が広がれば、それだけ身寄りのない子供が生まれてしまうのだ。
「誰かの導きがなければ、人は傷つけ合うように出来ているらしい。それを痛感させられたのです」
「そうだったのですか――ところで、お薬の準備が整いましたわ。どうぞ、お飲みになってください」
 その時だった。その時、神子は金丹の粉末を差し出した青娥の手首をつかんだのだった。
 庭園に生えている桜木の枝のほうが、今の神子の腕よりも、ずっとたくましく見えてしまう。
 だから、握りしめてくる腕の、その力の強さに驚いてしまった。
「どんな方法でも好い。煉獄の苦しみを味わっても構わない。どうか、青娥、教えてほしい――」
 今すぐに、不老不死になれる道はないのか、と。
「豊聡耳様」
「死にたくないのです。まだ――まだ、わたしは死にたくない」
 口の端から血の小川を流しながら、神子は青娥にすがってきた。
 あぁ、と青娥は声にならない声を漏らしていた。
 ――この御方は、本気なのだ。
 本気で、この国を変えようとしている。
 そして、そのために残された時間は、桜が咲いて散る一生よりも、はるかに短いのだ。
「かしこまりました……豊聡耳様」
 心からの敬意をこめて、青娥は語りかけた。
「ひとつだけ、ひとつだけ死の檻を打ち破る策がありますわ。それは――」


「……一度、死んでしまうことです」
「なにか云いましたか?」
「い、いえ、なんでもありませんわ」
 青娥は我に返って、愛想笑いを返してみせた。
 二人は国分寺の屋根に隠れて、門前の出来事を観察していた。畑仕事を終えた男たち、子どもを寝かしつけた女たちが集まって、僧侶の説法に聞き入っている。末法の世とはかくも心に根を張るもので、人々は真剣な顔で僧侶の話に聞き入っていた。
 春の夕陽は優しく村落を染め上げている。人々の背を伸ばした影が、塀を乗り越えようとしている。僧は淀みなく経典を読み続けている。手を合わせて拝んでいる者までいた。僧侶の足元で、野良猫が欠伸をしては、引き締まった雰囲気をかき混ぜてゆく。
 華扇は微笑みを浮かべて、その光景を見守っていた。
「そうです、私はこのような情景を拝みたいと願っていました。荒み切った世の中を照らす、仏法の光、素晴らしいではありませんか」
「どこの宗教勧誘のセールストークですか? よく見てみなさい、華扇。門の内側を」
 そう、それだけなら好い話で終わっていたかもしれないが、蓋を開けてみれば、たいてい中身は腐っているのが今の世の中だ。
 寺の境内には、うず高く積まれた米俵がある。他にも、畑の産物や巻き取られた布が敷かれた茣蓙[ござ]に横たわっている。それを、僧兵たちが笑みを浮かべてひとつひとつ数えていたのだった。
 華扇が声を震わせる。
「せ、青娥、あれは……」
「このご時勢、有り難い御経は無料ではないのですよ。民衆にとっては、これが当たり前のことなのです。せっかくの生きる糧を、わずか三百字足らずの教えに託してしまうのですから、人の心とは空しいものですわね」
 荘園という言葉をご存知ですか――そう訊ねようとしたが、隣に華扇はいなかった。
 ババーンっという単純明快な音と共に、バネ仕掛けみたいに門が吹き飛んだ。華扇が内側から蹴りを入れたのだった。吹っ飛んだ門は、僧侶の頭をかすめて田んぼに墜落した。
「おのれら、なんばしよっとー!!」
 華扇が火竜のごとく気炎をあげた。
「あの野郎! ――じゃなかった、華扇のやつ、何をするつもり!?」
 というか、博多弁かよ、と青娥は心中で突っ込んでおいた。
 華扇は僧侶に詰め寄って、僧兵たちを指差しては、怒鳴り声をあげている。
 でもって、民衆に向かい合い、説得するように左腕を振り上げる。その言葉が民に届くことはない。人々の眼は、少女の頭に生えた一対の角へ釘付けになっている。
 通りがかったカラスが、阿呆と鳴いていた。
 ――むひょお、これは面白いことになってきたぞ。
 ニヤつきを抑えられずに観察していると、華扇の背後に別の僧侶が忍び寄った。華扇は説得に夢中で気づいていない。
「――っあ!?」
 後頭部に呪符を叩きつけられた鬼の少女は、一瞬で地に伏してしまった。僧兵が蟻の大群のように押し寄せ、そのまま華扇を寺のなかに引きずり込んでいった。
「うひゃあ、マジあっけねぇ……」
 もう少し踏ん張ってくれるか、と期待していたのだが、どうやら甘かったようだ。右腕を断たれた鬼は、往年の力を失ってしまったらしい。
 どよめく民衆、僧兵の怒号、必死に場を取り繕おうとする僧侶の坊主頭。
 口先だけだと見くびっていた仏教の連中にも、なかなか出来るやつがいるじゃないか、と青娥は素直に感心した。
 夕陽は完全に沈んでしまっている。いよいよ、妖怪跋扈の夜がやってくるのだ。
 さて、どうしましょうか、と思いめぐらせながら、青娥は仙丹を飴玉のように舌のうえで転がした。


【第七幕】


 鵺の鳴く夜は恐ろしい。
 ……今となっては、それも笑い話だ。
 自分は、どうしようもないくらいに弱くなってしまった。
 有象無象の妖怪の一角に成り下がり、木の葉に隠れてぬえぬえ鳴いている。
 あの男に射落とされてから。
 妹紅と出会ってから。
 それも、もう終わってしまったんだけれど。
「……ほんと、バッカみたい」
 マミゾウが聞いたら、笑い飛ばすんだろうな。
 それとも「気持ちはわかる」なんて肩を叩いてくれるんだろうか。あいつだって、人間とはよろしくやってる妖怪だ。
 うん――そうか、マミゾウか。
 ひさびさに会ってみるのも好いかもしれない。
 ここから佐渡は遠いが、なぁに、時間はたっぷりとあるんだから。
 酒を土産に持ってってやろう。ちょうど、いま背負っていることだし。
 喜ぶだろうなぁ、元気でやってるかなぁ。
 なんて。
『その御酒ね、験担ぎみたいなもんだよ。封獣は朝家の守護さんって知ってる?』
 あはは、と笑いが漏れてしまう。
 空を見上げる。
 満ちるまで、あと一歩が足りない小望月[こもちづき]が、こちらを笑っていやがる。
 嘘なんて、つくもんじゃないよって。
「――わかってるよ」
 二色三対の羽を動かして、背中を撫でてくれた暖かい手のひらの感触を、思い出そうとする。
『大丈夫か』
 ……大丈夫な、わけがない。
 私を、こんなにしておいて、今さら大丈夫か、なんて訊いてくるんじゃない。
 あんたの手のひらがないと、駄目になってしまったんだから。
 封獣ぬえなんて名前まで付けておいて、どっか行っちまえなんて、そんなの酷いじゃんか。
 不公平だった。許せなかった。
 忘れようと思えば思うほど、ぜったい離れてやるもんかって、手首の包帯がうずきを上げやがる。
 妹紅のからかう笑顔が、流れ星となって夜空に弾けた。
「あー、ちくしょうッ!!」
 ぬえは吠えた。
 月に向かって啼いた。
 日陰者には、独り者には――月の光さえも眩しい。
 着物のすそで涙をぬぐい、猛虎のように奮いあがって叫んでやる。
「――覚悟しなさいよ、藤原! あんたが死ぬまで、ずっと付きまとってやるんだから!」
 どんだけ嫌われようが、知ったことか。私は、私が好きなようにやってやる。
 あっかんぬぇー、と月へブーイングサインを送ってやってから、ぬえは飛び立とうと翼を広げる。
 その肩口に。
 稲妻のごとく飛来した、鈍色の矢じりが突き刺さった。


「――ぬえん!?」
 ダンゴムシのように木から転がり落ちたぬえは、受け身も取れずに地に激突した。
 あまりの衝撃と痛みに、引っ込んだ涙が溢れ出て、視界を塞いだ。
 起き上がろうと身をよじったとたん、腹に鉄球が直撃した。誰かに蹴りあげられたらしい。唾液を吐き出して呼気を求めようとする。野兎みたいに丸まった背中に、さらに丸太のような衝撃がヘビーブローをしかけてきた。
 何度も何度も、その一撃は襲ってきた。慈悲も容赦もない。
 それは、人の形をした人ならざぬモノへの、圧倒的な偏見を盾にとった暴虐。
「――ぁッ!」
 致命的な破砕音が夜空いっぱいに弾け飛ぶ。
 自慢の羽をへし折られたんだとわかったとたん、ぬえの口からは泣き声が散ってしまっていた。
 鳴き声ではなくて、泣き声なのだ。人間の童のような、見た目どおりの少女の姿で。
 桜吹雪となって舞い散る意識のなかで、ぬえは癒えぬトラウマを思い出していた。
 あの時と同じだった。
 なぜ、自分は生き残ってしまったのか。
 確かに、殺されたと思ったのに。
 帝を病に陥れた恐怖の妖怪、首を討ち取って焼き捨てようとはせずに、密かに川に流したのは、なぜなのか。
 そして、なんで――なんで、自分は妹紅と出会ってしまったんだろう。
 なにもかもが漠然としていた。
 矢傷の痛みだけが、たったひとつのリアルだった。
 今しがた射られた肩の傷よりも、あの男に射られた左手首のほうが、訴えてくる悲鳴は大きかった。
 鮮血をしこたま吐き出したときには、暴力の嵐は止んでいた。
 助かったわけじゃない。本能で感じ取る。弱らせる必要がなくなっただけだ。
 なにかを振り上げる風切り音は、鬼の棍棒のごとく、夜空に澄み渡った。
 舌打ちをこぼして、身体中の力を抜く。
 頭を叩き潰されるなんて、今日は厄日だよ――どチクショウ。

□     □     □

「はい、ドーンッ!!!」
 魔物のようにぶっ放されたドロップキックが、刀を大上段に振りかざした男に痛快なホームランをぶちかます。
 続いてなまくら刀を抜き放って吶喊[とっかん]した妹紅は、泥んこヒーローよろしく相方のもとへと踊りこんだ。
「おうおう! 死なない太郎が平安京[たいらのみやこ]から鬼退治に見参だ! 落っことしちまったポテトパイみたいになりたくなかったら、今すぐこの場から退きやがれッ!」
 云うが早いか、妹紅は刀を振り回して手近な男に斬りかかった。
 妹紅の剣には、型も流儀もクソもない。無尽蔵のタフネスに任せて、有無を云わせずたたっ斬る。
 蝶のように舞うことも、蜂のように刺すこともできない。
 けれど、救いがたい不器用だって、極めちまえば芸術になることを妹紅は知っている。
 ひとり、ふたり、と斬り伏せ、三人目に飛びかかったときには、すでに賊共は逃げ腰だった。
 逃がすつもりはなかった。宵の闇のなかでこそ、妖怪退治屋の本領発揮だ。
 逃げれば好い。走れば走るほどに音が出る。
 ムササビのように枝から枝へと飛び移り、頭上から脳天をかちわった。食後のデザートにでもなりそうな脳漿[のうしょう]が飛び散り、妹紅の白髪を染めていく。
 人を斬った経験は数あれど、これほど迷いなく刀を振るえたのは初めてだった。
 理由が、出来たのだ。
 正当防衛なんかじゃなくて。
 ただ、守りたいと。
 助けたいと思ったから。
 妹紅は、柄を握っていられたのだった。
 胸の奥から湧き上がってくる感情を、ぎゅっと抱きしめて。
 最後の一人へと、刀を振り降ろした。


 ほろりと、なまくら刀が手から滑り落ちた。
 辺り一帯は死体の大バーゲンだった。月明かりに照らされた骸の葬列は、血の足音を広げながら、妹紅を取り巻いていた。
「封獣……」
 ぬえに歩み寄り、崩れるように覆いかぶさって、身体を揺すった。
 宵の寒気に、妹紅の吐息は冷え切っていた。
 ぬえの身体も、冷たくなっていた。
 ひっつかんだ肩が、泥土のように歪んで沈む。全身の骨が砕けてしまっている。
 泥だらけの頬には、わずかな動きもなく。呼気は絶えてしまっていた。
 ぬえは、すでに事切れていた。
「――っぇ」
 白糸のように細い声が、生気といっしょに口から逃げ出していった。
 まるで様子を窺うように、木立から虫の音が忍び寄ってくる。
 その音のリズムと、心臓の脈動が重なったとき。
 世界は反転した。
 大地が根こそぎ崩れ落ちたような錯覚に呑みこまれ。
 汗よりも熱い塊が、頬を流れ伝うのを感じた。
 枯れてしまったと思っていた、涙だった。
「バカやろ……」
 へっぽこの癖に、どっか行っちまうから。
「ほんと、バカ……バカだよ、わたし――」
 まだ、謝れてないってのに。

「ぬえ……」
「――あ、もう終わった?」
「うおおおおおぉぉぉぉぉッ!?」

 妹紅は絶叫して腰を抜かし、派手に尻餅をついた。
 紅い瞳がぱっちりと開き、まばたきを三回。
 気持ち好さそうに伸びをしてから、ぬえが亡霊のごとく浮き上がる。左手首を除いて痛々しい傷はすべて塞がり、新しい羽六本が生えかわってきた。
「あー、イテテ……流石にフラつくかな」
 死体のひとつを蹴っ飛ばしてから、ぬえは得意げに腰に両手を当てて、妹紅を見すえる。
「リザレクショーン! ふふん、不死鳥だけの特権だと思わないことね!」
 月までぶっ飛んだ思考のなかで、妹紅はぬえとの出会いを思い出していた。
「云ったでしょ、藤原――私は殺されても、何度だって復活するのよ。人間が夜に鳴く鳥を、恐れ続ける限りはね」
 まぁ、バラバラに焼却処分されたら、ちょいと自信ないけど、なんて付け加えて。
「おーい、生きてる? じゃなかった、起きてる? ねぇ、藤原ってば」
 今度はこっちが肩を揺さぶられた。
 妹紅は、はっと覚醒すると、まず少女の頬を一発ひっぱたいてやってから、背中に両腕をまわして力いっぱいに抱きしめた。
 自分でも、そのとき何を云ったか覚えていない。涙を散らしながら、どうしようもないくらいに壊れた思いをぶちまけた、それだけしか。
 あの夏のときみたいに暴れられるようなことは、もう無かった。ぬえの顔は真っ赤になっていて、月明かりのなかでも映えていた。目を合わせても逸らされて。胸元に顔を埋められてしまった。
 黒髪からは、ぬえのにおいがした。かすかで、はかなげで、さみしげで。桜のかおりとは、このことを云うんだなって、妹紅はぬえを抱きしめながら思った。
「藤原さ――やっと怖がってくれたんだ、私のこと」
「わたしが、いつ、そんな」
「だって、今も怖がってるじゃん。すっごく怖がってるよ、私のこと」
 ……ぁあ、怖がってる。死ぬほど怖がってる。もう二度と、ぬえの笑顔とは会えないんだって思ってしまったから。
「でも、なんだろね、この味。こんな恐怖、初めて食べるかも」
 少女の声はくぐもっているにもかかわらず、心に鈴のように木霊した。胸に直接、語りかけてくるからなんだ。
「……なんだか、野苺みたい。甘酸っぱい味がする」
「甘酸っぱいって――」
「美味しい。すごく美味しいよ、藤原」
「そりゃあ……そうだろ。しっかり味わっておいてよ。二度と食べられないと思うから」
「もちろん、いただきますっ」
 いっそう力強く頬を押し付けてくる、少女の黒髪を撫でてやる。幼い童を思い出す癖っ毛、どれだけ押さえつけても治りやしない。そんな跳ねっ返りの髪が、頬をくすぐってくれる。二色三対の羽が、背中を撫でてくれる。ぬえのはしゃぐ声が、心臓を動かしてくれる。
 たったそれだけのこと。それだけのことなのに。
 妹紅の心は、桜が満開だった。


【第八幕】


 小望月が、春の夜空に沈んでいる。
 カラスの群れが帰路につき、人の声も途絶えてしまえば、宵の月明かりに踊り狂うは虫の音だけだ。
 住吉大社の屋根に腰かけて、萃香はひとり晩酌を楽しんでいた。酒の肴は奉納されたニボシである。すみよっさんは二・三匹つまんだあと、渋い顔をして食べるのを止め、本堂に引っ込んでしまった。勇儀は将棋の三本勝負に負けてふて腐れてしまい、先に眠りこけていた。
 射命丸文の報告が、ちらつく星々に流れては消えていく。
 伊吹瓢をかたむけて、酒を胃へと流し込んでやる。杯の水面に月を映して、風流を気取るような気分ではなかった。ただ、酔いたかった、酔いしれたかった。
 おかしなことだ。自堕落に過ごしていたときは楽に酔えたのに、いざ酔いたいと思うと、なかなか酔えないもんだ。
 月の綺麗な晩は、ついつい呑み過ぎてしまう。深酒をすれば必ず叱ってきやがった奴は、もういない。
 今ごろは、どこで何をしているんだろう。無事に逃げ延びてくれたはずだったが。もしかしたら、天狗のように幻想郷に行ってしまったのかもしれない。それならそれで、ありがたい。少なくとも、無事でいてくれるのだから。
 すみよっさんの話では、自分はとんでもない大悪党にされちまっているらしい。身に覚えのない罪状の数々を、使い古した十二単のごとく着せられている。それを聞かされたときは、天をつかんで吠えたもんだ。まるで山賊じゃないか、鬼を馬鹿にすんな、嘘は人間しかつかない、盗みは人間しか犯さないのだ。
 なのに、何故だろう。どれだけ身も心も傷つけられても、人間という存在を諦めることができなかった。どうしても、できない。
 たぶん、あの高揚が、あの歓喜が、あの酒の味が忘れられないから。
 はるか共に歩んできたんだという、確かな記憶を、大事に抱えているのだから。
「……幻想郷、かぁ」
 つぶやきが酒に溶ける。
 ――幻想郷は、あなたたちを受け入れます。
 簡単に云ってくれるな、と栗色の髪をかきむしった。
 はい、そうですか、なんて頷いてしまったら、今まで形作ってきた自分はどうなるのか。散り散りになってしまった仲間たちに、どう説明すれば好い。華扇のやつに、二度と顔向けできなくなるじゃないか。
 腹の傷が疼いた。萃香は顔をしかめて、古傷をさすった。
 刀に貫かれた傷は、百五十年が過ぎ去った今となっても癒える気配がない。
 それは、傷というよりも、まるで何かのしるしのように残り続けていた。
 ――やれやれだ、私らしくもない。
 酒の風味で痛みをごまかして、萃香は立ち上がった。
「あらら、おりょりょ――」
 夜空が、ひび割れて溶けた。思ったよりも酔いが回っていたらしい、そう気づいたときには、萃香は屋根のうえをドングリのごとく転がっていた。
 天から転がり堕ちる自分を、萃香は止めようとはしなかった。いや、止めることができなかった。
 石畳に後頭部をしたたかに打ちつけて、萃香の意識は大江山よりもはるか高みへと翔けていった。


「そら、たっけぇ……」
 境内で大の字に寝転がっていた。
 立春を迎えたというのに、真冬のような寒さが肌を焼いてきやがる。
 このまま凍えるなんて、ぞっとしない。頭を振って上体を起こす。髪に括りつけた立方体の分銅が、じゃらりと高鳴る。
 いつつ、と頭の後ろをさすった。瘤[こぶ]はできていない。昔の時分なら、ちょっと頭をぶつけたくらいで失神なんかしなかった。人間じゃあるまいし、と毒づく。
 いつから、自分はこんなに弱くなっちゃったんだろう。
 目じりに溜まった涙を指に託して、萃香は境内を顧みた。
 息が詰まった。
 玉砂利の湖のなかに、ひとりの女の子が立っていた。
 血のめぐりが絶えた青白い顔。泥水で洗ったかのようにくたびれた着物。茶に薄まってしまった髪。椿の花のように儚い佇まい。ただ、瞳だけが月の光を溜め込んで、きらきらと輝いていた。
「やぁ、お嬢ちゃん。迷子になっちまったのかい?」
「……お姉ちゃん、だれ?」
 不思議な声だった。ウグイスみたいに愛らしい音色なのに、カラスのように不吉な響き方をする。
「見たら分かるだろう、お嬢ちゃん」
 鬼だよ、私は鬼さ。生き残っちまったんだよ。
「鬼さんなの? ぜんぜん怖くないね」
 この野郎、と腕を振り上げて、地面を叩き割ってやろうかと思った。けれど、握りこぶしは風邪をひいたみたいに弛緩して、力が入らなかった。酔いのせいだ、と考えることにする。
「悪い子は鬼さんにさらわれちゃうって、お母さんが」
 少女は頷いて云う。萃香は一歩、一歩と近づいた。女の子は逃げることもない。
「ふぅん、お母さんを探してるわけだ」
 首を振られた。
「お父さんも」
「どこにいるわけ」
「うんと遠く……だと思う」
「ここで約束したのかい?」
「お願いをしにきたの」
 手を合わせて拝む仕草を挟んで、女の子は微笑んで云った。
「お父さんとお母さんが、帰ってきますように」
 少女の姿が、陽炎のように揺らいだ。
 萃香はお腹に手のひらを押しつけた。傷の痛みが増してきている。波を寄せては返して、何度でも。
「神様に、お願いなんてするもんじゃないよ。流れ星にでも祈りな」
 酒が欲しかった。伊吹瓢は空っぽだった。
「お星さま……」
 女の子は空を見上げることすらしなかった。
「ねぇ、鬼さんは、願い事を叶えてくれないの?」
「鬼をなんだと思ってるんだい、まったく」
「だって、悪い子をさらうんでしょ?」
 意味が、わからない。
「わたし、悪い子だから。さらってよ、ここじゃないなら、どこでも好いから」
 右腕をつかまれた。頼りない力は、濡れた綿くずに触れられているようだった。柔らかいのに、冷たい。
「お前さんも……死にたいのかい?」
「わかんない、鬼さんは?」
「私は……」
 どうなんだろう、どう答えれば好いんだろう。真剣に分からなかった。
 こんな簡単な質問にすら答えられないなんて。
 私は、生きたいのだろうか。それとも、死にたいのだろうか。
 どっちなんだろう……。
 何も云えないでいると、女の子は微笑みを蘇らせて、萃香の手から離れていった。
「ねぇ、遊ぼうよ。鬼さん、こちら。手の鳴るほうへ。知ってるでしょ?」
「まぁね」
「じゃ、捕まえて! 鬼さんこちらっ――手の鳴るほうへ!」
 玉砂利に足をとられることもなく、女の子は手を打ち鳴らしながら踊っていた。いま気づいた、この子、裸足だ。
 その遊びは、鬼が目隠しをしないと成立しないはずだった。自分には、目隠しなんて必要ないかもしれない。
 往く先なんて、まったく見えない。
 女の子の囃し声は、段々と小さくなっていった。蝋燭の炎が燃え尽きるように、夜風にさらわれてしまった。
 雑木林が、ざぁっと哭いた。
「鬼さん……捕まえて、くれないの?」
 少女はうつむいていた。ほっぺたに月の雫[しずく]が光っていた。
 萃香は奥歯をくいしばった。両手を握りしめて、押し寄せる風に耐えようとした。
 努力は空しかった。舌が勝手に回りだして、言の葉が宙に舞った。
「ごめんよ……お嬢ちゃん」
 一呼吸。
「ごめん、いまの私じゃあ――あんたを攫えない」
 どこにも連れていってやれない。どこにも飛んでいけそうにない。
「そうなんだ――」
 ひときわ強い風が吹いて、女の子の声をさらっていった。
 あっと顔をあげたとき、少女の姿はどこにもなかった。春の温もりが境内に戻ってきていた。虫の音は元通りに満ちていた。女の子はどこにもいなかった。雑木林が、からからと囁き合っているだけだった。
 萃香は息を絞り出してから、その場に尻餅をついた。足に力が入らなかった。腹の傷は痛みを訴え続けていた。
 両腕を持ち上げて、手のひらを見つめる。
 ちっぽけで、空っぽの手のひら。
 薄紅色の指先から、霧になって溶けていくような錯覚に呑みこまれて。
 萃香は、全身を震わせながら思った。
 ――まだ、消えたくない。私は、まだ死にたくない。
 心の底から、そう思った。


【第九幕】


 長い夢を見ていたような気がする。
 萃香と勇儀がいた。みんながいた。酒を呑んでいた。桜の樹のしたで。瓢箪から口へと流し込む萃香を、自分はたしなめた。腕を組んで指を立てて、妖怪としての在り方を諭そうとしていた。得意になって喋りすぎてしまった。結びの句を、世界中に叫ぶように云い終えたとき、周りには誰もいなかった。血の跡が点々と残されているだけだった。指の一本すら残さずに、萃香たちは消えてしまっていた。
 木枯らしが踊っていた。肌を焼くような寒い夜だった。
 そして、華扇は目覚める。
 ここは座敷牢だろうか。鼻を食い破るような腐臭で満ちている。意識が散り散りに崩れてしまっていて、思考がまとまらない。
 照明は燈台、隅っこに一脚のみ。華扇の角の影が、波の満ち引きのように揺れている。
 視界の隅には、皮がこびりついた人骨が横たわっている。体液で真っ黒になった床は、永遠に消せない奈落の臭いが染みついている。華扇は、ぞっとして身を起こした。
 樫の木が格子状に組まれた牢には、お札がごはん粒みたいに貼りつけられている。その向こうには、薙刀を携えた僧兵がいる。頭巾に隠されて横顔はうかがえない。きっと、大岩のような無表情だろう。
「あの……」
 華扇は声をかけてみた。
「今は、宵ですか? 明けですか?」
 僧兵は答えない。少しだけ頭巾が傾いて、目元が窺えたけれど、すぐに逸らされた。
 咳ばらいが、ひとつ。虫の音が追いかける。悪臭のなか、冬の残り香が微かに混じっている。
 恐れられている。それを感じて、ようやく自分が鬼であることを思い出す。
 思い出すこと自体が、忘れていたって証左。
 それだけ、自分は人間に近づいてしまったのか。
 それとも、鬼であることを忘れるほどに、自分は弱くなってしまったのか。
 燈台の明かりに吸い込まれそうになる。腐臭と寒気に鳥肌が止まらない。
「お願いです、ここから出してください」
 もう一度、呼びかけた。僧兵は、振り返ろうとはしなかった。
 いちど独りを自覚してしまうと、もう駄目だった。華扇は牢にすがりついて呼びかけた。格子は、そこだけ時が止まってしまったかのように動かない。呪符で空間が固定されているようだ。
「お願いです、お願いだから」
 切り落とされた右腕の傷口が、灼熱の痛みを訴え始めた。百五十年ちかくが経っても、傷痕は癒えてくれない。月の光が眩しい夜になると、恋いうるように熱を持つのだ。
 それは、傷というよりも、まるで。
 左手で傷口をつかんで、華扇は羽をもがれた小鳥のように縮み屈した。
 その時だった。
 うめき声とも悲鳴ともつかない、一瞬のさざめきが座敷を震わせた。
 意表を突かれて顔をあげたとき、すでに僧兵の姿は消えていた。代わりに、巨大モグラが掘ったような穴が床に口を空けている。続いて、この世のものとも思えぬ破砕音が、肉片といっしょになって穴から飛び出てきた。内臓の欠片を顔面にモロに喰らった華扇は、悲鳴をあげて座敷へ倒れ込んだ。
 果たして静寂はいつまで続いたか、月が座敷牢を蛍色に染め上げた瞬間、穴からひとりの少女が顔を覗かせた。
「やっほー、快適な囚徒ライフはいかがかしら、華扇?」
 青娥だった。赤黒い肉片が頬にこびりついている。穴から顔だけを覗かせた姿は、まるっきりモグラだった。周囲の様子を窺ってから、ふわりと浮き上がる。月明かりを浴びて羽衣をなびかせる仙人は、モノホンの天女のようだった。華扇は言葉を失ってしまった。
 何の造作もなく牢を通り抜けてきやがる。指を伸ばしてきて、頬に流れていた血や涙を拭ってくれた。
「鬼のくせに泣き虫なのね、あなた」
「余計なお世話です」
「せっかく助けに来ましたのに、あんまりな云い草。左腕も引っこ抜いてあげましょうか?」
「あなたの助けなんて要りませんよ、ほっといてください」
 青娥が眉間にしわを寄せた。
「寝言は寝てから云いなさいよ、桃色野郎」
「なっ」
 邪仙の肩から空色の妖気が立ち昇っていた。本気で怒っているようだ。
「夜明けと共に公開処刑、仏敵を始末する。筋書はこんなところかしら。云っておきますが、仏教徒にロリコンがいるなんて期待しないほうが好いですよ。今度ばかりは逃げられない、二度も退治されるなんて、あなたに耐えられるのかしら?」
 襟首をつかまれ、壁に押し付けられる。目の前に青娥の瞳が迫っている。
 華扇は、唇が歪むのを感じた。泣きたいのか、笑いたいのか、自分で自分が分からなかった。
「それなら、いっそ、あなたが、ここで殺してください」
「なんですって?」
「たったこれしきのことで、退治されるようなら、助けられたところで同じです」
 二度と会えない。仲間たちとは、もう二度と会えない。青娥の瞳のなかに、萃香や勇儀らが手を振っているのが見えた。人の心は荒み切ってしまい、世界は自分の片腕ではどうしようもないところまで、歪んでしまったんだと思った。
 青娥の瞳が、すぅっと色を失った。萃香たちも消え去ってしまい、華扇は声にならない声で呻いた。
「そう、あなたの決意はそんなもんだったの」
 青娥が云い終えたとたん、華扇は真横に吹き飛ばされていた。青娥渾身のグーパンチだった。
「な、なにしやがんだ、この野郎!」
 三度、鬼の地が出た華扇は、涙目で青娥を睨みあげた。
「ちょっとでも、あなたを見込んだ私が馬鹿だったようね」
 青娥は牢を蹴り飛ばした。呪符なんておかまいなしの一撃に、格子は台風にあおられた紙切れのようにペシャンコになった。
「いいですか、華扇――私には嫌いなものが沢山ありますが、なかでもいちばん嫌いなのは、あなたみたいに悲劇のヒロインを気取る野郎ですよ」
 腕をつかまれ、無理やり立たされる。邪仙の髪は阿修羅のごとく逆立っていた。むしろ青娥のほうが鬼にふさわしく見えてしまった。
「簡単に諦めるんじゃない。泥んこになっても這い上がりなさい。血まみれになっても足掻きなさい。一度でも信じた理想や希望は、死んでも手放すんじゃない。たった独りぼっちになってしまっても、自分が追い求めた姿だけは、ぜったいに見失うんじゃない」
 なにを知ったふうに云いやがる、なんて返せなかった。それだけの迫力が、青娥の身体中から噴き出していた。
「なんで、そこまでして、私を助けようとするのですか」
 声が震えた。青娥の言葉が胸に突き刺さっていた。
「大した理由はないですよ。近しい人が救えないのは、気分が悪い。もっと上手くやっていれば救えたかもしれない、そんなのは嫌だからです。だから、私は、あなたを助けます。ただ、私自身のために」
 青娥が走り出す。手を引かれた華扇も慌てて足を動かした。信じられない速力だった。
 騒ぎを聞きつけたらしい僧たちが、廊下に集まっている。
 青娥はスピードを緩めるどころか、逆に跳ね飛ばさんばかりに足を速めた。
 飛び迫る矢も、薙刀の刃も、青娥の身体は鏡のように跳ね返す。ただ真っ直ぐ前だけを向いて、青娥は走ってゆく。華扇は、青娥の背中の広さに驚いた。立ち塞がる連中をまとめて蹴散らして、廊下を駿馬のごとく疾駆する。
 握りしめてくる手の力強さは、むしろ心地よかった。
 華扇は泣き笑いになって、青娥の手首を握り返した。
 砲弾のごとく中庭に飛び出し、雨あられと降り注ぐ矢を羽衣で弾き返す。砂利が竜巻に呑まれたみたいに巻き上がり、石つぶてとなって方々に飛び散った。
 攻撃の手が緩んだ。邪魔する者はいなくなった。
「飛ぶわよ!」
「は、はいィ!」
 天の橋を龍が翔け昇るように、二人の身体は空を舞った。遅れて矢列が追いかけてきやがったので、華扇は絶叫しながら身をかわした。
「な、なんて滅茶苦茶な!」
 青娥がニヤリと笑みを返してくる。
「それのどこが悪いのですか? 天荒を破ってやるくらいの意気込みじゃないと、とうてい生き残ってはいけませんよ」
「なんなんですか、あなたは! ずっとこんな調子で生きてきたんですか!?」
「そうよ、まさにそう――」
 歌うがごとく微笑む邪仙、月下に映える。
「私は今までずっと、そして、これからもずっと、こうやって生きていくのよ。なにか文句でもあるの?」
 青娥の笑いが眩しかった。口には決して出してやらないが、華扇はそのとき、青娥という少女を確かに尊敬した。
 夜空に浮かんだ小望月まで、微笑んだように、その光を強めた気がした。


【終幕】


 妹紅の目の前で、相方の妖怪が歌っている。
 朝焼けに鳴くトラツグミの歌声は、恐ろしいほどに美しい。
 懐かしい歌だった。昔々のこと、貴族の邸宅から聴こえてきたこの歌を、ぬえは気に入ったのだという。
「私、歌うのが好きでさ。人間は嫌いだけど、歌は好いよね」
 二人は山の温泉に浸かっていた。人跡未踏の天然温泉は、初めから用意して待っていたみたいに適温で、妹紅は狂喜した。風呂なんて本当に久しぶりだった。
 濡らしたボロ布で、ぬえの背中を流してやる。少女の身体の線の細さに、改めて驚いた。羽の付け根を撫でるたびに、ぬえはくすぐったそうに身をよじった。
「なんだか、思い出すなぁ」
 歌が中断された。ぬえはうつむいている。
「なにを思い出すって?」
 訊いてやると、うーんと唸って、上気した頬を振り向かせてくる。
「家族だよ、藤原」
「かぞく?」
「……人間ってさ、こうやって身体を洗いっこするんでしょ? そういうのを、人間は家族って呼ぶんじゃないの?」
 妹紅は、手を止めてしまった。
 家族なんて言葉を拾ったのは、それも、そんな言葉が自分の身に迫って聞こえたのは、何百年ぶりのことだろう。父母の顔も、兄姉の声も、いつの間にか忘れてしまっている。
 あまりに独りでいることに慣れ過ぎてしまったから、ぬえという存在に思い屈しているのだ。
 自分の傍にいてくれる、この少女は、いったいなんなのだろう。 
 桜の花がなんど散ってしまっても、その儚い可愛らしさを保ち続けるこの少女は、いったいなんなのだろう。
 藤原っ、と頬をはたかれて、妹紅は目の焦点を戻した。
 ぬえの顔が目前にあった。照れたように笑っている少女の瞳は、目の前で光ってくれていた。
 心臓から熱い塊が湧きあがってくるのを感じる。
 その気持ちは、正体不明で、曖昧模糊だった。いずれは温泉の湯煙となって、富士より高くまで昇っていくんだろう。そして、天まで届いたそのときは、恵みの雨となって、降り注いでくれるんだろう。
「……家族か、悪くないね」
「藤原ってば、どうしちゃったのさ」
「どうかしちゃったのかな」
「してるしてる。のぼせちゃった?」
「そうみたい、さっさと上がっちゃおうか」
 ぬえが、立ち上がりかけた腕をつかんできた。
「なによ」
「それ貸して。つぎ、私が藤原の背中、流したげる」
 感謝しなさいよ、なんて付け加えて、妖怪少女は舌を出した。
 やれやれ、これじゃ本当にのぼせちまうな、と妹紅は頭をかいた。


 酒呑童子の正体は、山賊だったのか。それとも、山賊が鬼に祭り上げられたのか。
 昨夜の一件を反芻[はんすう]しながら、妹紅は酒を呑んでいた。湯冷めしないうちに服を着替えて、二人は山頂にたどり着いた。かつて、酒呑童子たちが頼光御一行と宴会を行った場所だった。
 村には戻らなかった。妖怪ではなかった以上、依頼を達成したわけでもない。前金の酒で充分か、と決着をつけた。
 お酒を初めて呑んだと云うぬえは、その割にはハイペースだった。妹紅が一杯目を飲み干すころには、すでに四杯目を要求してきた。
 挙句、ぐでんぐでんに酔っぱらっちまった鵺妖怪は、いっそう磨きがかかった歌声を披露している。酒がはいると調子が出るタイプなのやもしれん。
 まぁ、鵺が実在する以上、鬼だっていたのだろう。
 あるいは、酒呑童子たちも被害者だったのだろうか。都を襲った災厄の元凶を一手に引き受けて、頼光らに退治されたのかもしれない。人間が信じ込んでしまえば、虚実も現実に化ける。
 鵺という妖怪が、そうだったように。
「大した歌声だな。宮廷の歌姫もびっくりだ」
「そうでしょ? 人間なんかにゃ負けないわよ」
 ぬえは得意げだ。そのほろほろに崩れた笑顔を見ていると、どうでもいいや、という気持ちになってくる。
 妹紅は、堪え切れない笑みをこぼしながら、酒を呑み干したのだった。
 ――ぬえさえ居てくれれば、それでいい。
「封獣、これから毎日、歌ってよ。お前の歌声、私は好きだよ」
「ぬふふ――そこまで云うなら、歌ってあげないこともないわ」
 願わくは、一刻でも永く、この時間が続いて欲しい。
 お願い、酔いよ、醒めないで。

□     □     □

 春は、出会いの季節であると同時に、別れの季節でもある。
「ほんまに行くんか? 引き止めはせんが……」
 すみよっさんは、突然の辞去に戸惑っているようだった。無理もないだろう、昨日まで酒を呑んだくれていた居候が、開口一番に出ていくなんて云いだしたからだ。
 勇儀には、萃香の真意はわからない。昨夜、寝ているところを飛びつかれて、一晩中、ひっつき虫みたいに震えてやがったおかげで、勇儀は寝不足だった。
 萃香が右手を差し出す。
「今まで悪かったね、いつか礼は返すから」
「バカたれ。そういうときは、素直に『ありがとう』って云うもんや」
 すみよっさんが手を握りかえす。
「さよなら、なんて云わへんで」
「また会おう、なんて云わないよ」
 私たちにゃ、そんな言葉は似合わないからさ、萃香はにへら、と笑って付け加えた。
 すみよっさんは、せめて神様らしくせんとな、と十字を切った。色々とシャレになってなかったが、まぁよい。
 二人は歩き出す。振り返ることはしない。手を挙げることもない。
 いつか会えるから、という訳でもないのだけれど、なんだか気恥ずかしい、という訳でもないのだけれど。
 ただ、太陽が冴え渡る春空に、梅雨のように湿っぽい別れはお呼びじゃないから。
 梅雨なんて、これからやってくる。今から心を濡らして風邪をひく必要なんて、どこにもない。


「それで、どっか行くアテはあるのかい、萃香」
「答えは出てないさ。とにかく前へ進んでみたいんだ」
 住吉大社が山裾に隠れて見えなくなったころ、勇儀は草の葉を咥えながら萃香の後を歩いていた。
「都でひと暴れすっか? 共食いしてる人間たちに、一泡ふかせてやるのさ」
「今の私と勇儀じゃ、それもキツそうだね」
「なんだい、萃香。びびっちゃってさ。なんなら替えの下着でも見繕ってやろうか。漏らしたときに便利だよ」
 冗談を飛ばしたら殴られた。清々しい一発だった。うむ、好いパンチ。元気になってくれたようで好かった。
「あまり与太を飛ばすもんじゃないよ――びびってるんじゃなくてさ、付き合い方を変えてみるのも乙だと思っただけ」
「付き合い方ぁ? 殴り合いは卒業ってことか。拳じゃなくて、口で語り合う時代が来たって云いたいのかい?」
「そういうわけじゃないんだけど……」
 萃香は言葉を探しているようだ。足音だけが転がり続ける。青空は果てしない。同じ空のしたで、かつての仲間たちは何をしているんだろう、と柄にないことを考えてみたり。
「他の連中、やっぱり幻想郷に行っちまったのかねぇ……」
 それならそれで好いさ、と萃香は前方の山々を見つめている。
「そんなこと、私らには関係ないよ。ただ進むだけ、バカ正直、邪道もなく、それが鬼だもの」
「……違いない」
 草を噴き捨てて、瓢箪の酒を呑んだ。欠伸をひとつ落っことして、萃香と肩を並べて歩いた。
 先は長い。果ては見えない。春の日差しが、目に痛かった。

□     □     □

「集中が途切れてますよ。心を空っぽにしなさいな」
「云われて出来たら、誰も苦労なんかしませんよ」
「だからこそです。仙道を学ぶうえで、この修行を欠かすわけにはいきません」
 その頃、山の瀑布近辺で、青娥は華扇に仙術の指導をしていた。
 神子との別れ以来、弟子はとらない主義を貫いてきたのだが、土下座してまで頼み込まれたら、なかなか断り切れないもんだ。一夜が明けて太陽が挨拶を済ませると、華扇は生まれ変わったように修行に励み始めた。昨夜の説教が、ちょいと効き過ぎたのやもしらん。
 流石は鬼と云うべきか、妖気の扱い方を心得ている。口では文句を云っているが、その上達は疾風のごとくだ。鬼を仙人にするなんて前代未聞だったが、それはそれで面白いかもしれない、と楽しみにしていたりする。
「滝の音がうるさくて、とても集中できませんね」
 華扇が耳を両手で塞いだ。そう、両手だ。右腕は仙気と包帯でかたどられた贋物だったが、修行をするぶんには差し支えないだろう。そう云ってやると、華扇はしばらく新しい腕を見つめたあと、わっと泣き出して胸元に飛び込んできた。芳香のほかに抱きつかれた経験に乏しい青娥は、それは驚いてしまって、いいこいいこ、とつい癖で頭を撫でてしまった。一生の不覚だった。
 それと、頭にシニョンキャップをかぶせてやった。これから仙人として生きるのだ。鬼であることは隠さなければならない。梅色の髪に白地のキャップは、悔しいくらいに好く似合っていたので、青娥はちょっぴりショックだった。
「滝の音こそ、無心の境地に至る最大の利器ですのに、分かってないわね」
「自分が産まれてから一切のことを思い出すなんて、なんの修行になるのですか?」
「おいおい説明しますってば。まずはチャレンジよ、頑張りなさいな」
「うーむ」
 納得がいかない様子である。手のかかる弟子、教え甲斐がありそうだ、と青娥はニヤついた。
 いずれは、ちゃんとした衣装も用意してやろう。なんせ、この霍青娥の弟子なのだ。強さだけでなく美しさも兼ね備えてもらわなくては困る。すぐに散ってしまう桜の花なんかよりも、ずっと強い赤色が好い。自分とは正反対の色合いだが、だからこそ、繕ってやる意義があるってもんだ。
 神子たちが復活するまで、せめてもの退屈しのぎになれば好いのだが。
「ところで、青娥」
「どうしました?」
 華扇が竿竹のように背筋を伸ばして、こちらを見つめてきた。
「私の目的は変わりません。人間と妖怪の均衡を保つためにも、力をつけたいと考えています。それが――」
「――私の目的と相反[あいはん]するのではないか、そう云いたいのですか?」
 仙人の卵がうなずく。
「青娥とは、いつか道を違えてしまうかもしれません。それでも、私はこの関係を断ちたくない」
 また甘ちゃんなことを云っている。そう分かってはいるのだが、ここまでストレートに気持ちをぶつけられると云い返す文句が見つからない。まだまだ修行が足りない、ということか。
「……本当、あなたは変なところで真面目ですね、鬼の癖に。この先、ずっと苦労するわよ」
「よく云われます」
 二人して笑いあった。もう修行もへったくれもなくなってしまった。
「道を違える、ですか。大いに結構。弟子に技を盗まれて癇癪を起こすほど、私は器量の狭い女じゃありませんから」
「相変わらず自尊心が高いですね。富士と好い勝負だわ」
「えぇ、それが私だから。華扇も己を貫き続けなさい。道を見失わなければ、たとえ破門になっても、本当の意味で別たれることはないわ」
 調子の好いこと云っちゃって、と華扇が茶化してくる。青娥は腕を振るって、不思議な満足感に包まれながら応戦した。
 ……あぁ、そうか。そういえば、そうだ。華扇という存在が初めてなのだ。
 自分をここまで出し切って話せるのは。自分を羽衣で隠さないで話が出来るのは。
 季節は巡る。新たな春が始まる。別れは出会いのための準備だった。

 新しい心の旅路なのだ、これは。
 誰にも知られることのない、歴史の一ページなのだ。


~ To Be Continued ? ~

.
間が空いてしまいました。平安妖怪たちの珍道中、第三回の投稿です。
遅くなって申し訳ありません、コメントをくださった皆さま、お待たせしました。

今回は物語の形式を意図的に変えました。三組のお話がごっちゃになって進みます。
理由は、「鬼と人間」という共通項を効果的に演出したい、という狙いがありましたので。
また、タグにも記載した通り、群像劇が好きで仕方がないので、あえてこの形にしました。
突然の変更に戸惑われた方がいらっしゃるかと思います。すみません、でも好きなんですよね……。

それと、青娥と華扇の関係ついて。
原作の設定がほとんど明らかになっていないので、本作中のようなオリ要素を加えるのは、正直、覚悟が要りました。
けれど、青娥の空白期間、華扇の元ネタ、二人の対称性etcを考え合わせてみると、不思議としっくりくるのです。
正反対なようでいて、お似合いの二人だと思います。妹紅とぬえが、そうであるように。

ではでは、長々と失礼いたしました。
ここまで読んでくださった皆さま、どうもありがとうございます。

――――――――――――――――――――

以下、コメント返信になります。

>>1
 今までの作品も読んでくださったのですか!? それも徹夜!
 書き手、冥利に尽きます。良作だなんて恐ろしや。
 次は傑作と褒めてもらえるよう、筆を振るいたいものです。
>>2
 気にならなくなっていた“独り”が、互いの存在で浮彫になってしまいました。
 多かれ少なかれ、本作の登場人妖は全員が孤独な気持ちを抱えています。

 妹紅とぬえを初めとした、十人十色の縁模様。これがいちばんに書きたいことでした。
>>3
 今回も幾何行にも渡るコメント、ありがとうございます。感激です。
 おかげさまで脱稿できました。人妖紹介は考える方も楽しいですねw

 頼政はまさに先祖譲りです。萃香と勇儀は、ぬえと同じで不意打ちされたところを見初められたようです。
 妹紅は妹紅自身、自分の心境の変化に驚いています。それだけ、ぬえに依存してしまったんですね。
 友達でも恋人でもない関係、疑似的な家族のような関係。本作はそのような腐れ縁で溢れています。

 青娥は独りで這い上がったぶんだけ、厚い面のうちに熱いハートを持っている、というイメージがあります。
 華扇は真面目ながらも情熱的な正義感を捨てきれない。根っこのところで似ているのだと、私は捉えました。

 ……それと、描写に関しては仰る通り、いろいろと迷っている最中です。前作も表現過剰とのお言葉を
 頂いたので、気をつけてはいるつもりなのですが、物語が大きくなると筆も走ってしまうようです、難しい。

 あぁ、溜まった疲れが富士山まで吹っ飛んでしまったようです。
 重ねてお礼を申し上げます。ありがとうございました!
>>4
 >一作目からずっと読んでました。
 なんと、これは嬉しいです、すごく。 n*゚∀゚)n < ムヒョー!!
 これからも読んでいただけるよう、いっぱい努めますぜ。
 設定が受け入れて頂けたようで、安心しました。これも嬉しい。

 それと、続編、もちろん書きますよ! 書いちゃいますよ!
 次の「Vol.4」で、物語も転換期を迎えると思います、多分。
>>5
 四人の関係を受け入れてもらえて幸いです。
 原作になくともしっくり来るような組み合わせは、ほかにも沢山ある気がいたします。
 そういった可能性を探ってみるのも二次の面白いところですよね。
>>6
 引き続き、ご感想をありがとうございます! 嬉しさの余りぬえぬえしてしまいそうです。
 十人を超える人物全員を大切に描くのは割と大変です。なので一文目から「やった」と震えてしまいました。
 なかでも青娥さんと華扇ちゃんのパートは程好く筆が進んでくれました。これも邪仙の力ですね!
 最新作の魅力的なキャラクターということで、是非とも登場してもらいたかったのです。

 妹紅とぬえは互いに不器用ですね。それで「なまくら」とか「へっぽこ」というタイトルを付けているのですが。
 その不器用さが鍵となって物語が続きます。割り切れないもどかしさは、まさに子供っぽさ、少女らしさの象徴ではないでしょうか。
 いずれ訪れる瞬間、そして再会する瞬間、その時まで書かせて頂いてる私も見守ってやりたい心境ですね。

 ご期待を頂き感激の限りです。宜しければ、また読んでやって下さいね。
かべるね
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
良作ハケーン
一気に読み返した結果、朝になっちまったよ全く。
いやはや、良い物だ。
2.名前が無い程度の能力削除
妖怪なくして、人間なし
人間なくして、妖怪なし

なるほど、妹紅とぬえを見ていると分かるな
3.名前が無い程度の能力削除
おっ 久しぶりです まってました! 相変わらず登場人妖紹介が面白いw

頼政のロリコンは先祖譲りなんですなw 萃香と勇儀が美味しく頂かれちゃったのか
気が気じゃありませんw まぁ実際は腹に治らない傷を負ってる所を見るに
そんな呑気なモンじゃないんだろうなぁ 妹紅とぬえの危うい関係も読んでて
心に残りました 今まで飄々としてた感じの妹紅の弱い所が表に出たのが印象深かったです
結局なんだかんだで家族愛的なモノに落ち着いてホッとしました 次回どうなるか

青娥と華扇の関係は面白かったですねぇ 地の荒々しい口調で争い合う二人とか新鮮w
青娥の華扇救出のはちゃめちゃっぷりは爽快感抜群でした 修行風景もほっこりしますw

俺の勘違いかも知れませんが文章表現を変えようとしてるのかなと思いました
ちょっと装飾過多の所もあったけど全体的に文句なしです 次作も楽しみにまってます!
4.名前が無い程度の能力削除
一作目からずっと読んでました。
オリジナルの設定、かなり良いと俺は思いますよ。
続編はあるのかなー(チラ
5.名前が無い程度の能力削除
ぬえと妹紅、青娥と華扇。原作に無い組み合わせですが面白い。
6.名前が無い程度の能力削除
登場人物が全員格好良くて誰に惚れたらいいのかわかりませんぬぇ。
今回はとにかく清楚ブルーかっけえ!原作のキャラクターを生かしつつ、華仙との絡みでは
我流を通し生き生きとした実に青娥らしい在り様でした。
そして絆が深さを増すもこぬえは、お互い初々しくて見ているこちらが照れるようです。
不老不死の人間と妖怪が、つかの間身を寄せ合ってともに歩んでいく姿は健気で泣けてきます。この時代だと、作中の二人はまだ明確に子供に見えます。
いつか来る別れの予感にすでに胸がキリキリしているww
物語がどう動いていくのか、とても楽しみです。