Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

秋の大運動会で9色の魔法と6人の仲間が集まって

2012/01/14 20:44:11
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 ※ この話は秋のマリアリ連作の続きになります。


 
















 

 検査の結果、僅かにホルモンバランスの乱れは見られた物の、彼女が言うような妊娠の兆候は見られず。但し、生理が一週間程遅れているとの申告があったため、若年者特有の生理不順か・・・魔理沙の言う通り妊娠かは慎重に見極める必要がある。
 また、魔理沙とアリスが使用しているという生命創造の魔法については魔理沙がどもってしまい、詳しくは聞けなかったため、人間の男女のソレとの相違点が分からない。
 一週間後はアリスと一緒に来なさいとは言っておいたが、注意深く二人の健康状態を見守る必要があるだろう・・・

                              ―八意永琳のカルテより一部抜粋―


「たっだいまー!」
「おかえりなさい、お仕事ご苦労様、魔理沙。それにしても遅かったわねー」
「ああ、ちょっと寄り道してきたんだぜ。」

 秋も深まる幻想郷、今日の魔理沙はちょっと帰りが遅かった。まぁ、浮気なんてしたら指輪が一緒に大爆発を起こすのですぐに分かるようになっているので、普通に寄り道してきただけというのが分かる。まぁ、今の私達に浮気という選択肢が無い位にお互いを深く愛している事はお互いに分かっている事なのだが・・・
 いつものようにお帰りの合図は抱擁とキス。徐々に冷たくなる空気で冷やされた魔理沙の身体を暖めてあげる。

「冷たい・・・寒くなかった?」
「ああ、寒かったぜー。でも、私には温かい帰る家と愛しの妻がいるからへっちゃらだぜ。」
「無理しちゃダメよ、貴女一人の身体じゃないんだからね。」
「おう。」

 魔理沙が来ていたコートやら帽子を人形達に片付けさせて、手を繋いで居間に一緒に入る。出来たてのクリームシチューの香りと焼きたてのパンの香りが漂う温かい居間の空気を吸い込んだ魔理沙の顔が蕩けて行く。人形達に作業を任せた私は、魔理沙と共にソファーに腰掛けて肩を寄せ合った。カラダはどんどん温もりを帯びて行き、幸せな気分で満たされる。すると、魔理沙がちょっと神妙な面持ちで話を切り出して来た。


「気になった事があったんで、永琳のトコ、行って来たんだぜ。」
「えっ・・・それってつまり。」
「ああ、この前のこいしの発言が気になって、検査を受けて来たんだ・・・」

 先日のお祭りであったこいしの「無意識が一つ多い」発言。その理由を精査してみたのだが、考えられる答えは一つである。

 ―私か魔理沙、どちらかが妊娠している・・・

 新しい生命がお腹の中に居る事によって、無意識が一つ増えたという仮説だ。でも・・・私に関しては今月に関してはその可能性が無い事がハッキリと分かっているので、この場合は魔理沙が妊娠した、という事になる。
 ・・・子供を授かりたいという私達の夢が叶った!それだけでも私は幸せ。自分が産みたかったけど、愛する魔理沙との子供である事には変わりはない。
 
 私は魔理沙の返事を待った。だが・・・

「や、残念だが・・・まだ良くわかんないらしいんだぜ。」
「そう・・・でも、もしかしたらもしかするかも、よ。」
「ああ・・・そうだな!今度はアリスも一緒に行こう、アリスの可能性だってあるんだぜ?」
「そうね。もしそうなら、凄く嬉しいな・・・勿論、魔理沙でもだけどね。」

 ちょっとだけ残念な返事が返ってきたけど、こればっかりは待つしかないのも事実。優しいお母さんのような表情で魔理沙はお腹を撫でた。私もそっと手を当てる。私達の愛の証である恋色の結婚指輪の光がきらりと輝く。このお腹に、もしかしたら私達の愛の結晶が育っているかもしれない・・・そう考えると、嬉しすぎて言葉も見つからない。
 暫く二人で、生命の神秘を実感しつつのんびりしていると、一枚のチラシが目に入った。


 紅魔館大運動会・参加者大募集! 6名一組で目指せ、栄冠の座!! 参加締め切り間近!!!


 それを眺めながら魔理沙の方を見る。魔理沙が擦り寄りってきた、しっかり温もったカラダを抱きしめながら私は嬉しそうにしている魔理沙に。

「チームメイトは見つかった?」
「うんにゃ、まだまだだぜ。今のところ霊夢がOk出してくれただけなんだぜ。アリスは?」
「ごめんね、私も色々当たってみてるけどさっぱりで・・・」
「気にする事は無いんだぜ。最悪何処かのチームに三人で混ぜて貰おうじゃないか。」
「そうね。参加して、魔理沙との楽しい思い出を作るのが目的だもんね。」
「だぜ。アリスと・・・一杯楽しい思い出を、な。」

 二人で生きた証を、この幻想郷に刻み込みながら、私達の思い出に残るような出来事をどんどん作っていこう。それが私達の婦々の誓いでもある。今、こうして一緒に体温を分け合って夕飯前の時間を過ごしているだけでも、素敵な思い出が生まれている。
 愛する人と共に生きている、歩んでいる事の喜びを感じていると、防犯用に配備されているシーカードールに反応があった事を、上海が教えてくれた。

「マスター、ニトリとモミジー」
「にとりと椛?どうしたんだ、こんな時間に?」

 上海から魔力を中継して、幻視によるビジョンを魔理沙と共有する。玄関先に、既に酔っぱらっているのか顔を真っ赤にして少しへろへろのにとりと心配そうにそれを支える椛の姿があった。

「酔っ払いすぎたのかしら?」
「椛はともかくとして、河童が酔うなんて珍しい。とりあえず入れてやるか?」
「そうね。玄関先で悶絶されても困るしねー」

 婦々二人の時間が割かれた事にはすこーしだけ残念な感じはしたが、来客があればあればで楽しいのも私と魔理沙の家の良い所である。私は魔理沙とともににとりと椛を招き入れる事にした。
 

 秋の夕暮れが、静かに私達を照らしていた。


ミ★


「ちくしょぉ・・・盟友ぅ、聞いてくれよぉ~」
「ああもう、泣くんじゃないぜー」

 泣き上戸と化したにとりに調子を合わせながら私は酒を酌み交わす・・・事はせず、アリスが入れてくれた日本茶を飲んでいる。お酒は好きだけど、毎日は呑まないんだぜ?
それに、これ以上酔うと流石に危なそうなので、アリスの判断でにとりには水が用意されている。そんな気の効く嫁さんは、傍らで困り果てた椛と話をしていた。

「一体どうしたのよ?」
「いや、今度の紅魔館大運動会でですね、にとりがハブられちゃったんですよぉ。」
「どう言う事だ?」
「早苗達6柱が神様チームを結成しちゃったもんでさぁ・・・私は神様じゃないからってぇ・・・・ぐすん。」
「成程、そりゃ河童じゃ入れない訳だ。そういう意味では椛や文も・・・・といった所か。」
「はい。まぁ、文様は取材に走るとかなんとか言ってましたから気にする必要はないのですがね。と言う訳で落ち込んだにとりと夕方から一杯飲んで来たんです。」

 成程、そう言う事か。今年の紅魔館大運動会は、6人一組で無いと参加が出来ない。山の神様は丁度六柱いる(早苗は現人神としてカウントできる)ので、神様だけで参加規定人数を満たすため、同じ異変に参加していたにとりと椛、そして文はどうしてもハブられてしまうのである。
 ・・・でも、これはチャンスだ。もし、このにとりと椛を加える事が出来れば5人となり、あと1人探して来るだけで参加は可能だ。私はうなだれるにとりの肩に手を置いてから

「あー、それなら私達と一緒になんてどうだ?私達も婦々と霊夢だけじゃ、独立したチームとしては出られないからな。」

 そう言うと、にとりの顔に希望の光が灯る。なんと分かりやすい河童なのだろうか。感涙の涙を流しながら、私の手を取ってブンブンと振って喜びを表現している。後は椛だけなのだが・・・椛の方はと言うと。

「へぇー、こうやって作るんですかー」
「そうよ、ジャガイモとマッシュルームを一杯入れるのが我が家流なのよ。魔理沙、コレ好きだもの。」
「なるほど。あ、すっごく具だくさん。」

 さっきから嫁さんが作るシチューの方で、作り方に関するレクチャーを受けている。弾幕戦になると、剣を振り回し武闘派なイメージを見せるがオフの時は、やっぱり女の子といった所であろうか。私はそんな椛に声をかけてみた。

「あー椛?」
「はい。」
「にとりは私達と運動会に参加すると言っている、よかったら椛もどうだ?」
「えっ、でも大丈夫ですかねぇ。」
「大丈夫だ。千里眼なんて余所にはなかなか居ないんだぜ。」
「ありがとうございます。ではにとりと一緒に頑張らせてもらいますね。」

 交渉成立だ。様々な機械に強いにとりに千里眼の椛が居れば、魔法偏重の私のチームにも戦術的な幅が広がる。これでチームは5人、あと一人居れば独立したチームとして参戦が可能である。でもそのあと一人をどう招聘するかがちょっとした問題である。
 私とアリスにより、ほぼ全ての知り合いに参加を要請してみたが、だいたいは他の奴とチームを組んでしまっているのである。どうした物かと考えた時、今度は蓬莱が私の前で手を広げて可愛いアピール。

「マスター、マユー」
「お、こんな時間にどうしたんだろう。ちょっとごめんな。」
「ヤサシクシテネー」

 こいつめと言いながら、アリスの真似をして幻視のビジョンを繋ぐ。アリスほど精度の高い物では無かったが、十分に見える程度には魔法が発動している。少しだけノイズで歪む視野の中には知った妖怪の姿が映っていた。
 白と黒のツインテールが特徴の真夢である。私服姿である事から察するに、お父様の使いで来た訳ではなさそうだ。

「こんばんわー、魔理沙お嬢様、アリスお嬢様。突然ですがすみませーん。」
「はーい。今開けるから待っててねー」
「あ、良いぜ。アリス、私が行こうか?」
「良いわよ、お仕事でお疲れの魔理沙はゆっくり休んでて。」
「ありがとな、アリス。」

 アイコンタクト、ウインクの流れ。もう幾度となく交わした合図の所為か、その動きには微塵のよどみすらない。

「流石は新婚さんだな~今日も仲良しだねぇ」
「普通だぜ?」
「それが普通な関係って素晴らしいですよ。」

 にやにや笑いのにとりと椛に、ふふっと笑いかける。婦々仲は良好どころか、ラブラブであるのは自他共に認める所である。アリスが明るい声で真夢を出迎え、居間に通すと仕事の所為か少し疲れた表情の真夢は顔に似合わぬ元気な声を出して挨拶をする。

「こんばんわー」
「よぉ、真夢。どうしたんだ、今日は?」
「お給料頂いたんで、ふーちゃん誘って呑みに行こうと思ったんですが、運動会の練習だとか何とかでですね。」
「あぁ~、お前さんもその口か・・・真夢ちゃんとやら。まぁ呑むと良いぞー」
「あ、どもども。頂きます。」
「ったく、仕方ない。グラス、取ってきてやるから少し待て。」
「「はーい」」」

 お洒落な家具に入っていたグラスをにとり達の前に置く。恐らくリュックに入れて持っていたのだろう、日本酒を取り出してどんどん注いで行くにとり。横で椛が何かを袋から取り出して開けた、とても良いヤツメウナギの香りが室内に満ちて行くのが分かる。

「ミスティアの屋台で買ったものです、手ぶらで行くのも流石にアレなのでー」
「あ、私もご用意させて頂きました。里の肉屋の揚げ物ばかりで恐縮ですが・・・」

 今度は揚げたてのかぼちゃのコロッケとポテトフライの匂いがする。秋に相応しい最高のチョイスだ。私は親指を付きたててサムズアップをし、椛と真夢の気遣いをねぎらった。

「ナイスだ、椛に真夢。椛も呑むだろ?」
「はい、頂きます。あ、私はジョッキでー」
「これがあの名高いミスティアさんのウナギですか。美味しそうです。」
「美味しいよ、真夢さんもどうぞ。」
「ではでは、っとぉ。」

 目の前で始まった小さな宴会。その中ではしゃぐ真夢を見て、ある考えが浮かぶ。実力は未知数だが、幻想郷にも慣れて来たみたいだし、もっと色んな妖怪に絡ませてあげよう。
 そう思った私は、真夢の肩を叩いてから静かにこう告げた。

「おめでとう、真夢。君は、我がチームの6人目の選手に選出されたぞ・・・!」
「え、魔理沙お嬢様?それはもしかして運動会の・・・?」

 驚く真夢、それに対する返事は絶妙のタイミングで最愛の嫁がしてくれた。

「私達も参加しようと考えていたんだけどさ、人数が足りなくて。」

 エプロン姿でニコニコしている姿はまるで、お母さんのようだ。慈愛に満ちた笑顔はどんな人妖でも虜にしてしまうだろう。勿論、一番最初に虜にされたのはこの私であるが。真夢はふむと一回言ってから商売する時のような威勢の良い声で答えてくれた。

「あ、そういうことですか。アリスお嬢様、分かりました。私で良ければ、お力になります。」

 そう言ってこくりと頷く真夢。これで御目出度くチームが結成されたので、テンションも上がってくる。私は横にあったお茶を掲げて高らかに宣言した。
 
「ようし、決起集会だ。アリス、料理は足りそうか?」
「ええ、丁度シチューもたっぷりあるし、椛と真夢の差し入れも沢山あるから問題ないわよ?」
「霊夢も今から呼んで、宴会と行こうじゃないか。神社でも良いんだが・・・広い我が家で宴会というのも悪くない。」
「そうね、すぐに霊夢の所に使いを送るわ。」
「ありがとなー」
「お願い、これを霊夢の所に伝えて来て・・・」

 人形に命令を終えたアリスが人形を霊夢の所に送る。霊夢が紫等に捕まって無ければ、宴会とくればすぐに来るだろう。そう考えていた矢先の出来事である。

「美味しいアリスのシチューがある宴会と聞いて!!!」

 目を輝かせた霊夢が、たまらず亜空穴を使って用意していた座席に付いていたのには驚き苦笑した。あの貧乏巫女の事だ、またスクランブルプチ断食でもやっているのかなぁと思ったからである。
 まぁ、聞いてみないと分からないので、とりあえず聞いてみる。

「霊夢、また3日程何も食べてないのか・・・?」
「いいえ、毎日三食ちゃんと食べてる。今日の三食目はまだだけどねー」

 そう言って菓子折を渡す血色の良い霊夢。表面にでかでかと銘菓・亜入夢と書かれている事に気が付いた私とアリスは思わず歓喜の声を上げた。

「この水ようかん、形はアレだけど大好きなんだよー」
「そう、良かった。家主に満足して貰うのはお客様の常識よ。」
「流石霊夢、分かってるわね。」

 そう言っている間にも揚げものやヤツメウナギが大皿に盛られた物が大きなテーブルに置かれる。サラダやらシチューの鍋が大きなテーブルにどんどん並べられていき宴の準備は整った。
 私は、いつものように幹事の役回りを勝手にさせて貰う事にした。
 
「じゃ、みんな、乾杯するから。グラスを持つんだぜー」

 ご機嫌の表情でグラスにお酒を注ぐ皆。でも、今日の私は呑む気には流石になれなかった。視線を落とし、お腹を少しだけ見てからそっと一人ごちる。

・・・もし、そうなら身体に良くないもんな。私だけの身体じゃなくなるんだし・・・・・

 人形を操り、麦茶を私とアリスのグラスに入れた私は、ふふっと笑いかける愛しのアリスに笑顔で答えてから乾杯の音頭を取った。


 ミ☆

「これ・・・ですね。恋色婦々と愉快な仲間達チームの物は。」
「おお、ありがとな、美鈴、咲夜。皆によろしくー」
「はい、当日を楽しみにしておりますわ。」

 決起集会から3日後の事。参加申請を無事に終えた私達は、運動会に参加するために必要な物を美鈴と咲夜から受け取って、紅魔館を後にし一路恋色の新居を目指す。
 もちろん、魔理沙が前で私が後ろの二人乗り。秋の冷たい風から身を護るには、やっぱり身体を寄せるのが一番温かいのである。

「それにしても、コレ、何かしら。」
「6人分でサイズも聞かれたしなぁ。この前のの宴会の時に聞いといて良かったぜ。」
「魔理沙もしっかりしてきたわね。頼もしいわ。」
「ああ、嫁さんに迷惑をかけないようには何時だって気を使ってるつもりだぜ?」

 得意気に魔理沙は、お気に入りの帽子が飛びそうになったのを押さえながら言う。その仕草に思わず笑みが出そうになった。結婚して、5カ月という短時間で魔理沙は確実に大人になっている。妻である私を護り、気遣ってくれる、素敵な【奥様】なのだ。
 
「いつまでも、私も子供じゃないんだぜ。【お母さん】になる可能性があるなら、尚の事だぜ。」
「【お母さん】か、私もママになるのよねぇ・・・」
「そうだなぁ。二人ともママだもんなぁ、子供もびっくりするんだぜー」
「パパはどこーって言う質問にどう回答するかは、慎重に考える必要がありそうね。」
「そんなの大丈夫だぜ、ちゃんと時期が来たら二人で教えよう。私達でしっかり教育して、恋色の魔法を受け継ぐのに相応しい魔法使いに育てりゃいいんだ。」
「そうね。私達・・・二人でね!」

 そう言ってぎゅっと魔理沙のお腹を抱きしめる。検査の結果がはっきりしないらしいが、もしかしたら・・・と言う事もある。私達の全てを受け継ぐ新しい命が、私の最愛の人と紡いだ命がそこにあるかも、と思うと凄く愛おしい。
 言葉に出来ない位の魔理沙への愛をそっと抱きついて表現する私。その背中はどんな物よりも頼もしく、力強い。だぜだぜ言っているけれど、私との子供を身ごもりお母さんになりたいと強く願う母性を今は見せている。そのギャップも、魔理沙という素敵な妻の一面なのだ。

「せっかくだから名前・・・一杯考えちゃおっと。」
「だな、アリスに名前を付けて貰えたらこれほど幸せな事は無いんだぜ。是非頼むよ」
「あら、嬉しいわ。魔理沙も気に入ってくれるような名前、考えなきゃね。」
「でも、まだ気が早いような気もするが・・・」
「善は急げって、言うじゃないの。」
「言えてる。でも、一言だけ言っておきたい事があるんだぜ。」
「なぁに、魔理沙。」
「私もアリスに良い名前って言って貰えるような素敵な名前、沢山考えるからな!」
「うん。楽しみにしてるわ。」

そんな周囲の人妖が思わずご馳走様と言いたくなるような盛大な惚気話をしながら、運動会に参加するために必要な物が入った大きな袋を、私達は慎重にそれを我が家に持ちかえった。

「ようし、無事に到着したぜ。」
「お茶にしてから、中身を確認してみましょうか。」
「名案だぜ、じゃあ、お茶を入れるか・・・な、アリス。」
「ええ、淹れましょう。お菓子も準備しましょ、一緒にね。」

 どちらかに任せきりと言う事は一切しない、私達に混ざって人形達もせっせと働き、恋色のティータイムの時間の準備が粛々と整っていく。お皿に様々な種類のクッキーが乗せられ、星と人形のマークをあしらった今年のオータムナルが入ったティーセットが二つお盆に載せられた。
紅茶も季節によって移ろいゆく。魔理沙と一緒に暮らし始めた頃は、ファーストフラッシュを飲み、結婚した直後はセカンドフラッシュを一緒に飲んで来た。そして、新婚旅行を終えてこうしてオータムナルを一緒に仲良く飲める素敵な現在に感謝しながら、私は魔理沙のカップに紅茶を注いだ。

「うーん、良い香りだ。ささ、アリス、お前のもな。」
「ええ、お願いね。魔理沙。」

 そして私のカップにお茶が注がれる。紅い水面に浮かぶのは、私達婦々の笑顔。ありがとうとお互いをねぎらってから、そっと口を寄せるのが私達流のティータイムである。

「深みのある味、だけどそれがいいわ。」
「ああ。熟成されてるな、まるで私達の婦々仲みたいだ。」
「季節事に深まっていくのね・・・」
「私達の場合は、この一瞬毎に深まっていくような気がするぜ・・・」
「もう、魔理沙ったら・・・」
「アリス・・・いいか?」
「ええ、来て、魔理沙・・・愛してる。」
「私も、愛してるぜ・・・」

 そして、紅茶の味のする口づけを交わした。自然と気持ちがゴーサインを出して、私と魔理沙の唇と唇が触れる。その度に、色んな気持ちや愛が交換されて、絆が深まるような感じ。この感覚はとっても心地よくて大好きである。
 
「ちょっと渋いかな・・・」
「紅茶の味がするね・・・」
「でも、砂糖は要らなかったよ、アリス。とっても甘かったわ。」
「そう、良かった・・・魔理沙。」

十分に満たされた私と魔理沙が離れて最初に交わした言葉がそれ。純粋な魔理沙の気持ちを伝える時の女の子言葉が甘い空気を生みだしてゆく。渋い筈のオータムナルも、元々甘かったクッキーの甘さも、この空気の中ではどんなに砂糖をまぶしたお菓子よりも甘く、美味しく感じてしまう。
 クッキーを食べさせあいっこしながら、楽しい恋色のティータイムを過ごしていたが、十分にココロが温もり満たされた所で、当初の予定どうり貰った物が何であったかの吟味に入った。
 
「しかし、レミリアらしいよなぁ。紅い袋に入れてくるのって。」
「ホント、しかも紅魔館のロゴまで入ってるし・・・」
「お土産物屋みたいな感じがするぜ。土産になるような物は入っているだろうか・・・」
「土産話は最悪、この袋だけでも出来そうねぇ。」

 上手い。魔理沙はそう納得するように頷いて、紅い袋を開け放った。その中に入っていた物を取り出してチェックする私達。参加賞でも入っているのかなぁと思っていたのだが、その中身は全然趣が違う物だった。
 その中身は、白い布と紺色の布が密閉された袋に入った物が6つである。

「何だこりゃ、タオルか何かか?」
「ちょっと待って、あら、ここに名前が書いてあるわね。」
「あ、ホントだ。これが・・・アリスのみたいだぜ。」
「ありがと、開けてみるわね。」
「おう、私は霊夢達の分があるか調べてみるんだぜ。」

 袋から中身を丁寧に取り出す魔理沙の横で、私は魔理沙から受け取った密閉袋を開けて中身を取り出した。取り出した中身を調べてみて、私はようやくこの布の正体が分かった。
 
「魔理沙、コレ、服みたいよ。」
「ふむ、ここに書置きが入ってて読んでみたんだが、今年は体操服を用意してくれたようだな。」
「なるほどねー。昨年までは銘々の私服で運動会してたから、それでか・・・」
「まぁ、今年から6人のチーム戦に移行したのも大きいな。統一感のある衣装でチームを区別するんだろう。」

 魔理沙の意見に頷く私。昨年までの紅魔館大運動会は個人戦で、銘々が思い思いの衣装を身に纏って試合に臨んでいた。魔理沙に請われて私も参加したのだが、その時は魔理沙がTシャツにハーフパンツと言う出で立ちで、私が半袖カッターシャツに動きやすいズボンというスタイルと、統一感の無い物で会った事を思い出した。
 しかし、今手にした体操服は半袖Tシャツと下が、外の世界の文献に出てくるブルマという、普段の衣装からするとかなり露出度が上がる組み合わせだ。
 
「ほら、胸元に名前と所属チームまで書いてあるものが刺繍されてるんだぜ。」
「あ、ホントだ。名札みたいね。」
「名札だと運動中に外れちゃうしなー、よく考えられた衣装だぜ。」

 魔理沙が自分のカラダに体操服を当てたりしている。見た感じ、ちゃんと魔理沙の体型に合うように作られているようだ。しばらくそうやっていると、魔理沙が私の背中をちょんちょんと叩いてきた。

「ふーむ、サイズがあってるかどうか調べなきゃなんないんだぜ。」
「そうね、一回着てみましょうか。」
「賛成、じゃあ早速寝室に・・・」
「ええ、あそこなら全身鏡があるもんね。」

 私と魔理沙の体操服を持って寝室に入る私達。カーテンを全部閉めて、私達は全身鏡の前に立った。

「じゃあ、着替えてみますか。」
「おう。着替え終わるまで、あっち見ててくれよなー」
「今更・・・見慣れてるのに。」
「い、今は見せる時じゃないんだぜー」

 恥じらう魔理沙は可愛い。その恥じらう表情が見れなかったのは残念だけど、早く着替えないと魔理沙が私の無防備に乗じてナニをして来るか予測が付かない。ケープを取り、いつものお気に入りの服を脱いで、素早く体操服を着こむ私。

「あら、良い感じ。流石紅魔館、見事な仕立てねぇ・・・」

 一足お先に鏡を見る。そこには白いシャツと紺色のブルマ姿の私がいた。普段の服よりも動きが軽やかな感じがする。少し身体を動かしてみたいが、室内で暴れるのも気が引ける。少し悶々としていたら、魔理沙も着替えを終えたらしく、私の横にそっと並んだ。

「流石紅魔館制、サイズに寸分の狂いも無いんだぜ。」

 私以上に良く似合っている魔理沙の体操服姿。長い金色の髪を後ろで纏めているのも非常に愛らしい。魔理沙が色々とポーズを取る度にゆらゆら揺れるその髪を見ていると、つい手が伸びてしまう。

「どうした、アリス?」
「新鮮だなぁって、魔理沙のお下げ姿。」
「本格的に動く時は長い髪は邪魔になる事があるからなー」

 枝毛の手入れは定期的に行ってるので、ちょっと癖っ毛だけど艶やかな魔理沙の金色の髪。私もそうなんだけど、魔理沙の方が少し濃い金色である。それを丁寧に手で撫でていると魔理沙が少しくすぐったそうにしているのが見えた。私は、そんな魔理沙に微笑みながら素直な感想を伝えた。

「可愛いわ。普段からお下げもどんどんやって行ったら?」
「そうしたいのも山々だが、お母様と同じ風に長い髪をたなびかせたいんだぜー」
「なるほどねー」

 写真でしか見た事の無い魔理沙のお母さん。金色の髪を伸ばしたとても綺麗な人である事は鮮明に覚えている。魔理沙の可愛さ、美しさのルーツはそこに在るのかなぁと考えつつ、私はお下げから手を放して魔理沙の方を見て。

「ちょっと、身体を動かしてみましょ。」
「オーケー、室内だからストレッチをしようじゃないか。」
「賛成、二人でやりましょ。」
「おう!」

 お風呂上りの時のように、協力してストレッチを行う私達。私も随分慣れて来て、よく曲がるようになってきた。それでも、魔理沙ほどカラダは柔らかくない。

「ほら、アリス。ゆっくり息を吐いて・・・」
「ふぅ・・・つっ!」

 限界を超えて悲鳴を上げる私のカラダ。人のそれとは異なり、異常が発生しても魔力で勝手に回復するからいいんだけど・・・魔理沙の号令に合わせて暫くカラダの筋をしっかりと伸ばした私は肩凝りや色んな物から解放され、少し身が軽くなったような感じがした。

「ふぅ・・・どう、魔理沙。随分進歩したでしょ?」
「ああ、ここまで曲がったら大したもんだぜ。じゃ、次は私なー」
「はいはい。じゃ、いくわよー」

 号令に合わせて魔理沙のカラダを押して行く私。私のカラダよりも数段柔らかい魔理沙のそれはしなやかに曲がる、大きく開いた股の間に上体を倒した魔理沙の手の先がペタンと床に付いた。

「もっと押してくれー」
「これで、どう?」

 のしかかるようにして体重をかけてみる。そんなに重くないのでかかる負荷も大した事も無い。魔理沙は深い呼吸をしながら、じんわりとカラダを伸ばしてほぐしている。

「ああ、アリスの胸・・・柔らかい。カラダもそれ位柔らかくなれば良いのにー」
「そ、そうね・・・」

 魔理沙が何時でも褒めてくれる私のバスト。肩凝りの原因になるので、少しだけうっとおしいと思っていた時期もあった。でも、綺麗だよ、とか可愛いとか言われて行くうちにそんな気持ちは無くなって、自信が持てるようになった。
 やがては我が子に占領されてしまうのだろうが、魔理沙の血を受け継ぐ子になら・・・というそう遠くない未来を想像する。この胸を吸う我が子を見る時・・・どんな表情をしてるのかって、ね。

「いててて、アリス。も、もう良いぜ!」
「あ、ごめんなさい!すぐ離れるわ。」

 魔理沙の声で我に還った私は素早く離れた。んもーと抗議のポーズを取る魔理沙に謝るとすぐに表情が緩み・・・

「こんな事、していいのアリスだけだぜ。」
「ありがと、魔理沙。」

 笑い合って、リズムを合わせてストレッチを続けていく私達。時折、魔理沙の柔軟さに驚かされるシーンも一杯あって沢山笑った。こうも笑いっぱなしだと頬が緩んでいくような感じがするけど、笑った顔は魔理沙が一番大好きだって言ってくれる。
 笑い声の絶えないストレッチを十分に行った私達は、立ち上がって大きく伸びをして一息ついた。

「ようし、ばっちりだ。後は今日のミーティングで皆にも着て貰えばいいんだぜ。」
「そうね。でも、私達はばっちりだったから他も大丈夫だと思うわ。」
「だな。」

 ストレッチを終えて、軽くなった身体を少し動かしてみる私と魔理沙。体操服の動きやすさも中々であり、いつも以上にフットワークも軽い。普段、あんまり身体を動かす事はないけれど、ハッキリと分かる快適さを感じられるこの体操服が気に入った私。
 だが、このまま汚して当日に支障を出してはいけない。動きを止めて少し肌寒さを感じた所で、動きやすさの証明をするためか逆立ちをしている魔理沙に対して。

「じゃあ、そろそろ着替えましょうか。汚してもダメだし、ちょっと寒いしね。」
「それもそうだな、大運動会の時まで楽しみに取っておくんだぜ。」

 逆立ちを止めた魔理沙は、後ろを向いて、見るなよー等と言って体操服を脱ぎ始めた。その様子を見た私も、体操服を脱ぎ、いつもの服に着替え始める。体操服を脱ぎ、丁寧に畳んで箪笥の上に置いた所で、私は背中に魔理沙の気配を察知した。

「あーりすっ!」
「きゃっ!」

 無邪気な声を出した魔理沙に飛び付かれる私。背中から当たる感触からさっするに魔理沙も体操服を脱いだ直後なのだろう。触れ合った肌から伝わるのは、魔理沙の温もり。肌からダイレクトに伝わる温もりは、どんな熱よりも優しく、温かい。

「ちょっと、いきなりどうしたの?」
「アリスが可愛かったんで・・・つい、な。」
「んもぅ・・・ちょ、ちょっと、バランスが、きゃん!」

 抱きつかれてバランスを崩した私は小町が怒られた時のような声を出しながら魔理沙と一緒にふかふかのダブルベッドに倒れ込んだ。倒れ込むと素早く掛け布団をかけ、抱きついてくる魔理沙。私は抱きついて幸せそうにしている魔理沙に抱きつき返して応えてあげた。ちょっとひんやりしたダブルベッドが二人の体温で暖まるのにはそんなに時間がかからなかった。

「あったけー、アリス。」
「あったかいね。魔理沙。」

 伝わる心臓の鼓動がとっても愛しい。トクン、トクンと脈打つ、今ここで二人で生きている事の証だ。
 その温もりが、魔理沙の眠気を誘ったのか、トロンとしてきた魔理沙が私のおでこに自分のおでこをくっつけて、小さな声で囁いてきた。

「・・・お昼寝、だぜ。アリスと一緒に、な・・・」
「うん、じゃあ・・・今日の会合の準備まで、ね。」
「ああ、ありがとう。アリス。愛してる・・・」
「私も愛してる、魔理沙・・・」

 お休みのキスと共に、部屋の灯りが全部すぅっと消えた。人形に脱いだ体操服を片付けさせながら、魔理沙と体温と愛を分かち合う。触れ合う肌の温もり、囁き合う愛の言霊、感じあう愛の高まりに満たされて、私もしばしの心地良いまどろみに落ちた・・・


ミ☆


 ママ・・・ママ・・・・・


 ―私は夢を見ているのか?

 
 ママ・・・!ママ!!

 
 心地良いまどろみの中に、聞いた事の無い声が混ざる。だが、聞いた筈の無い声なのに・・・どこか精神に訴えかける物がある子供の声。ココロの中に染み込んで、今まで知らなかった感情が溢れ出す声。

 
 私は、感情が赴くままにその声を辿った。
 
 声はどんどん大きくなっていく・・・

 名前を呼ばれた訳では無いが、それが私を呼ぶ声である事はすぐに分かった。

 いや、知っていたと言うべきか。

 ・・・ココロの奥底に刻まれた、生命としての本能か、魂の記憶か

 ・・・答えは見つからない。だが、立ち止まるなとココロは告げている。

 私は、今は亡きお母様のような温もりに満ちた空間を駆ける

 どれくらい走ったか分からなくなりかけた時、その声のする方へようやく辿りついた。

 そこには一人の少女が立っていた。

 どこか私にそっくりだが・・・アリスにもそっくりな愛らしさを備えた子だった。

 少女は言う。私のような力強い、それでいてアリスのような優しさを秘めた笑顔で。

 
 ―もうすぐ、逢えるよ・・・・もうすぐ。


 少女のセリフに私のココロが、本能が、魂が震えた。

 視線を落とす、お腹の奥底に力強く、優しい鼓動を感じる。
 
 その意味を考える。

 私のココロが、本能が、魂が、そっと優しく私に教えてくれた。




 それは・・・【生命】
 



「魔理沙、魔理沙っ!?」
「・・・ん?」

 アリスの呼ぶ声、涙で視界が歪んでいる。愛しの妻と、見慣れた新居の寝室の天窓が今見ている物が現実である事を知ってまず、安堵した。そして、傍らで寝そべっているアリスに抱きつく私。
不思議な気持ちだった。感情がぐちゃぐちゃになってミキサーにかけられたような感じがする。上手く言葉で表現できないもどかしさ。アリスの胸の中で、精一杯アリスを感じて、何とか自分を取り戻そうとする。

「どうしたの、悪い夢でも見たの?」

 いつもの優しいアリスの声に意識が覚醒していく。見上げた笑顔はまるでお母様のようだ。私よりも、遥かにお母さんらしい穏やかな笑顔が、私のココロを包み始めた。

 苦痛を伴う悪夢じゃなかったけど・・・感情とか、理性とかを超越したレベルの夢が、最愛の妻の温もりと溶け合って安心感に変わっていくのを感じた。
 安心し、一息ついた私は顔を上げていつもの表情を作り、アリスに対して言葉を紡ぎ出してゆく。

「いや・・・悪い夢じゃなかったんだが・・・・・不思議な夢だった。」
「どんな夢?」
「お前にも、私にも見た女の子が私に、もうすぐ逢えるよって・・・」
「・・・予知夢かしら。」
「さあ、分からん。だが、予知夢であると、嬉しいぜ。」

 そう言って、笑いあう私達、いつも通りの光景。
 とくん、とお腹に脈動が起こる。小さな小さな脈動が、知覚できる程度までむずむずって起こってくる。あんな夢を見たからだろうか・・・・・
 でも、今はそんな事は閉まっておこう。部屋の時計を見ると、予定した時間の丁度五分前である事に気が付いた私は、上体をそっと起こした。
 僅かな倦怠感はあったが、この位はまだ問題無い。私はアリスを起こしてあげながら

「じゃ、そろそろ準備を始めようか。」
「ええ。あらかたは人形がしてくれてるから、後はお料理の準備ね・・・」
「穣子からもらった美味いかぼちゃでパイ、焼いてあげるんだぜ。」
「まぁ、ありがとう魔理沙!」

 身を起こした私達は、協力して身支度を整える。身体に残る僅かな倦怠感を残したまま、私は人形達が持ってきてくれた服を身につけ、今日のミーティングの準備を始めた。


ミ☆

 いつもは魔理沙と二人で愛を語り合いながら暮らす恋色の新居の居間に、6名の人妖が一冊の冊子を手に集結した。増えるであろう家族と、宴会にも対応するために大きく作っているので余裕はある。
 テーブルの真ん中のクッキーに霊夢が4回手を伸ばした所で私は話を切り出した。

「そろそろ時間ね。こら、霊夢。さっきからパクパク食べてるけど、大丈夫?」
「甘い物は別腹よ~、あ、このクッキー美味しいわ」
「それは私が焼いたんだぜー」
「知ってる、大きさで分かるわ。」

 小さなクッキーは私が作った物、大きなクッキーは魔理沙が作った物だ。性格が表れているけど、我が家では一緒に仲良く盛られているのに現れているように、その性格を上手に共存させて生活しているのが、この霧雨=マーガトロイド家である。
 皆がクッキーをひとしきり食べた所で、私は咳払いをしてからミーティング開始の音頭をとった。

「じゃ、ミーティングを始めるわ。魔理沙、体操服は皆に配ってくれた?」
「配ったぜ。みんな、一度は着てみてくれ、合わない事は多分無いと思うが・・・」
「はい、ばっちりです!!」
「「「「「は、はやっ!!」」」」」

 既に真夢がいつの間にか着替えている。さっきまでは可愛らしい私服だった筈なのに、いったいどんなマジックを使ったのだろうか。

「皆さんには、私が着替える間、白昼夢を見ていただきました。」
「中々とんでもない事をいきなりやらかすなぁ~」
「だって獏ですし~」
「それにしても、その体操服中々似合ってるぞー、このこのぉ~」

 そうだった、彼女は人のような外見をしているが、そこにいるにとりや椛、それに自分と変わらぬ妖怪であった。彼女があまりに人里の社会に溶け込み過ぎていて、妖怪であった事を忘れてしまっていた。にとりに頬をつつかれてくすぐったそうにしている真夢が場の空気を呼んで素早く表情を元に戻した。
 私は、場が鎮まるのを待ってから、話を始める事にした。

「まず、敵情を知りましょう。みんな、手元に用意してある冊子の4ページを見て。」

 私の横に座る魔理沙が、素早く冊子をめくり指定のページを開けてくれた。他のみんなもページを開き、各々が目を通し始める。
 ちなみに、今回参加するチームの顔ぶれは以下のとおりである。

レッドマジック・スカーレッツ(レミリア・フラン・咲夜・美鈴・パチュリー・小悪魔)
八雲・西行寺体育倶楽部(幽々子・妖夢・藍・橙・萃香・勇儀・監督として紫)
永遠亭イナバラビッツ(輝夜・永琳・うどんげ・てゐ・妹紅・慧音)
早苗と愉快な神様達(早苗・諏訪子・神奈子・雛・静葉・穣子)
アンダーグラウンドサードアイズ(さとり・空・燐・パルスィ・ヤマメ・キスメ)
命蓮寺☆運動愛好会(星・村紗・一輪・ナズーリン・響子・マミゾウ・監督として白蓮)
レイビョウ(神子・布都・屠自古・青娥・芳香・小傘)
こいショッカーズ(こいし・チルノ・ルーミア・リグル・ミスティア・大妖精)

に、私達のチームを加えた9チームで勝敗を決するのだ。

「しかし、勇儀が地底のチームにくっつかなかったのが意外だわ。」
「まぁ、萃香は前々から鬼は鬼同士固まるぞぉーって言ってたし。それが実現して喜んでると思うわ。」

 博麗神社の居候的存在なため、霊夢の方がその辺の事情には詳しい。恐らくそういう事なのだろうと判断する私。他のチームの人員はほぼ予想通りというか、異変事に固まったと言うべきか・・・見事な別れ方をしている。
 すると、霊夢が何かを確認し安堵のため息を付いたのを見逃さなかった。

「でも良かったわ、紫が今回監督として参加するって私に言ってたし。本当にそうなってくれて、ちょっと安心してる。」
「スキマ・・・ですか。私をこの人の姿にした能力・・・」
「そう、ね。妖怪を人の形に変えてしまうのも朝飯前、そんな紫が運動会で本気を出したら勝負にもならないわ。」

 流石はよくつるんで異変解決に言っているだけある霊夢のその言葉は重い。それに、近距離弾幕戦の異変ではあるが、地震の原因を探る時に交戦し、その力の差を見せつけられた事がある。そんな紫が監督に回るのは、正直助かったと言いたい所だ。
 大体のチーム状況が把握出来た所で私は議題を次に進める事にした。

「それで、競技は以下の通りよ。冊子の9ページを見て。」

 魔理沙が開けてくれたプログラムを見つめる私、ちなみに、今回の大運動会の種目は以下のとおりである。

1. 幻想400mハードル走(二人)
2. 紅魔館→人里往復クロスカントリー(二人)
3. 障害物部屋(二人)
4. 唐傘争奪高飛び込み(二人)
5. ハチャメチャ騎馬戦(四人)
6. ハンマーゴルフ(プレイヤー二人、キャディ一人づつ)
7. 大玉割り(二人)
8.  勝ちぬき弾幕格闘(7種競技合計点数上位4チームによる全員)
⑨.  バカ(ここだけ何故かレミリアの物と思われる筆跡である)

 ※ 色んな人妖との親睦を深めるため同一コンビの参加は一種目までとなります。(注:勝ちぬき弾幕格闘はその限りではありません)

―紅魔館大運動会プログラム(選手用)

 ⑨については色々と突っ込みを入れたかったが、気にしたら負けであると考えた私は慎重に思考を巡らせる。長距離走であるクロスカントリーでは、コースにどのような事が起きているかいち早く察知する必要があるため椛の目は不可欠だし、障害物部屋においてはその障害物をどうこうできる可能性のあるにとりを入れたい所まではすぐに思いついた。
 とりあえずそれは皆に伝えておく事にする。

「クロスカントリーでは椛の目が頼りになるし、障害物部屋ではにとりに障害物をなんとかしてもらわないといけないかも・・・・」
「唐傘争奪なんて霊夢にやって貰うのが一番いいよな。亜空穴あるし。」
「そうねぇ、逆にハンマーはちょっとゴメン被るわ。私、そんな力は流石に無いわ。」
「あぁ、それなら私がやりますよ。訓練してますから、ハンマー位なら投げてみせます。」
「さすが椛だなぁ。その時は私がキャディやろうか?」
「是非、お願いします。」

 ふむ、能力で考えればその二つの競技を任せるのは彼女らで問題ないだろう。そう考えていると、魔理沙が私の服の袖を引いて、上目づかいでこっちを見て来た。

「アリス、一緒に何か出ようぜ。」
「うーん、私と魔理沙がコンビ組んで最大の能力を発揮できる競技は・・・」
「やっぱりお嬢様達は、勝ちぬき弾幕格闘ですかねぇ?」
「あれは全員出られるじゃないかー」

 確かに。冊子をめくりながらどの競技が私達のコンビネーションを生かす事が出来るか検討する。勝ちぬき弾幕格闘の前にある玉割りに目が止まった。
 ペアになって、弾幕で中央にある玉を早く割れば勝ちというこの競技。これなら魔理沙の火力を生かせるし、そのサポートに回れば魔理沙が素早く玉を割れるだろう。
 魔理沙に目配せをすると、うんと頷いてニカッと笑ってくれた。後はみんながOKを出してくれるかだが・・・

「じゃあ、私と魔理沙は玉割りなんてどうかしら。ほら、弾幕で玉を割らないといけないし、火力が一番あるのは魔理沙だし、そのサポートは私がした方が・・・」
「そうだな。それに最後の種目に行けるかどうかの瀬戸際になるかもしれないし。勿論、皆が良ければだけどなー」

 魔理沙がそう言うと、皆がすぐに首を縦に振ったのには流石に驚いた。有難い話だ、これで最低一回は魔理沙と一緒に競技が出来る事が決まったので、凄く嬉しかった。
ふと、その傍らでおどおどしている真夢の姿に目が行った。無理も無い、幻想郷で暮らし始めたばかりで、浄化の際に様々な能力を失ってしまった真夢に取っては今日の運動会で競い合う相手は自分よりも遥かに能力の高い面々である。
 それに、ここまで見せて来た思慮深い性格や、お父様を苦しめてしまった事に対する贖罪の念から分かる他人思いな性格も相まって、足を引っ張るんじゃないかとでも思ったのか、すっかり自信を無くしてしまっているように見える。
 そんな真夢と目が合った、顎に組んだ両手を当ててモジモジしていている彼女はか細い声を出し・・・

「あのぉ・・・私はどれに出ましょうか?」
「そうだなぁ、真夢も頑張るって言ってくれてるもんな。何でも言ってみたら良いんだぜ、少なくとも、私とアリスに対する遠慮はいらないんだぜ。」

 そう言って、立ち上がりそっと真夢の肩を叩く魔理沙。ちょっと不安が無くなったのか表情が暗い物から愛想の良い笑顔に戻る。いつもの元気さも戻ってきたのか、目の色も輝き始めている。左右非対称の白黒のツインテールを揺らして、うんと頷けばそこには霧雨屋の軒先で見かける元気な商人の笑顔が見えた。
 体操服が良く似合う彼女を見ていると、私にある閃きが降りて来た。着替えるのに気付かれない程度の白昼夢を多数の人妖に見せられるのなら、もしかしたら・・・

「そうだ・・・一つ思いついた作戦があるんだけど。」
「何でしょうか?」
「良いから耳を貸して。霊夢もね。」
「ん、なになに・・・」
「ふむふむ・・・」

 耳を貸した霊夢と真夢に策を授ける。すると、霊夢と真夢はほぉ、と一言呟いた。そして納得の表情のまま霊夢が私に期待通りの答えを聞かせてくれた。

「幻想ハードルは私と真夢で行くわ。その作戦が決まれば、身体能力に勝る妖怪相手でも十分に勝機はある・・・!」
「はい。上手く効けば良いんですけど。」
「大丈夫よ、自分を信じなさい。でも、私まで巻き込むのは止めてよ?」
「勿論です。」

 嬉しそうにしている真夢の横で、椛が手を上げた。どうしたのかと思ったが、椛がこんな申し出をしてきた。

「ハンマーで一緒に出ませんか、真夢ちゃん。」
「えっ・・・でもぉ」
「大丈夫だよ、いざとなったら私の機械でアシストするしぃ。」
「おお、良いんじゃないか。機械に頼らなくとも霧雨屋で力仕事には慣れてるだろ?嫁入り道具の箪笥、独りで全部ここに運んでくれたじゃないかー」
「確かにそうですが・・・本当に良いんですか?」
「おうよぉ。ルールを見たら交互に投げるみたいだし、お互いに協力すれば何とかなるなるぅ~」

 にとりの発言にこくりと頷く椛。ぺこりと深々と頭を下げた真夢に魔理沙も言葉をかけた。

「騎馬戦で私達とも出れば、皆と最低一回は出られるぞー」
「あ、それは名案ね。真夢、騎馬戦も挑戦してみない?」
「そうね、体格は私と同じ位だから、安定すると思うわ。」

 霊夢も賛同してくれた。確かに、体格は霊夢のそれとそう変わらない・・・胸以外は。暫く俯いていたが、真夢が顔を上げてこっちを見て来た。そして、震える声で言葉を紡ぎ出す。

「はい・・・お嬢様・・・真夢は、うれしゅうございます。」

 真夢は目の端に涙を浮かべて頷いた。これでだいたい皆何に出るかが決まった。皆の顔を見回し、同意の頷きが帰ってきたのを確認し、私は終了の挨拶をする事にした。

「じゃ、後は当日次第ね・・・!これで作戦会議は終了よ。」

 作戦は決まった、後は当日次第である。皆の間に安堵感が漂い始める、それを見た私は手を叩いて合図をする。魔理沙が立ち上がり、人形に魔法の糸を通してゆく。厨房から出来たての料理が運ばれてきて、配膳が行われ始めた。

「成程、同じ釜の飯を食った仲間って奴ね。」
「いい答えだぜ、霊夢。そう言う事さ。」
「手伝うわ。これは何処に運べばいいのかしら?」
「それは、テーブルの真ん中ね。」
「じゃ、私が食器とコップ取りまーす。」
「じゃあ後片付けはやるぞー。これ以上動いたらちょっと邪魔になるっぽいしねぇ。」
「手伝いますよ、にとり。後片付けは私達に任せて下さい。」
「ありがとな~みんな。」

 長い付き合いで、自然とそう言いあえるのも素敵な関係だなぁと思いながら、私はみんなで協力して、食事会の準備を整えて行った。


ミ☆


 ボン、ボボン。

 心地良い秋の晴天に包まれた空に、音と煙だけの花火が浮かぶ。今日は絶好の運動日和だ。紅魔館の横に設置されている多目的用運動場に設けられた選手控え用スペースでアリスと寄り添い、柔軟体操をしながら、開会の準備を待っていた。
 紅魔館の妖精メイドだけでなく、永遠亭の兎や地霊殿のさとりのペット(メイド服を着ていたり、割烹着を着ていたりする)、命蓮寺の僧侶も手伝って作業は順調に進んでいる。
 
ただ、気になる点が一点ある。

 昨日から続く軽い倦怠感がまだ残っているのだ。ただ、食欲は普通にあって、アリスの作ってくれたご飯をしっかり食べて来ている。吐き気などはまだ無いので、微妙と言えば微妙なのだが・・・

「テンションあげて行こうよ、盟友~」
「そうですよ。魔理沙さんが神妙だと、らしくないですよー」

 体操服姿の椛とにとりが柔軟体操を仲良くやりながら私達に話しかけてくる。見ればどちらも見目麗しいプロポーションだ。そんな彼女らに私は務めて、いつものように返事をする。

「テンションは既にクライマックスだぜー。いつまでも子供のようにははしゃがないぜ。」
「まぁ、怪我の無いように楽しみましょう。魔理沙、ハメ外しちゃだめよ。」
「分かってるんだぜ。去年とは違って、私一人のカラダじゃないからなー」

 こちらも体操服姿の霊夢が上体反らしをしながら私に話しかけて来た。無駄の無いスレンダーな体躯が、体操服になるとより一層引き立つ。

「魔理沙お嬢様、アリスお嬢様。今日は頑張りましょうね。」
「ええ、真夢も無理しない様にね。」

 最後に靴ひもを結び直していた体操服姿の真夢も話しかけて来た。この前のミーティングでも分かった事だが、大きすぎない程度にたわわなバストに目が行った。
 ・・・悔しいが私より遥かに大きい。でも、私もアリスとのトレーニングのおかげで少しは大きくなったと思うんだが、やっぱり元が元なのでそう上手くは行かないという現実が重くのしかかる。

「どうかしましたか?魔理沙お嬢様。」
「いいや、別に。ちょっとだけ妬んでた。」
「何にですかぁ?」
「お前の胸にな・・・憧れのたゆんたゆんだぜ。」
「ええええええっ!?」

 恥ずかしそうに後ろに下がって霧雨屋の上着を羽織る真夢。すると、目立ってた胸が自己主張をしなくなった。

「くっ、気痩せとは・・・悔しいぜ。」
「ほら、魔理沙。手が止まってるわよ、柔軟しないと怪我するわよー」
「わかったんだぜー」

 若干の悔しさを秘めながら、アリスと柔軟体操を続ける私であったが、上着を脱いだ真夢が観客席を指差し、私達の方を向いてある衝撃的な事を呟いたのは・・・

「あ、旦那様がおられます。」

 指差す先に、駆けよ!恋色の魔法使い達!!等と書かれた横断幕を持った丁稚達に囲まれて威厳だけ備えたお父様が普段着で、カメラを持って鎮座しているという普段の厳格さから考えると想像も出来ない光景だ。
 しかも、その表情はやけに生き生きとしている。その表情を見ていると、昔の記憶が蘇ってきた。

 寺子屋の運動会で、お父様とお母様が見守る中、懸命に走ったあの時の記憶が・・・

 一人回想に耽る私であったが、アリスがどうしたのと言わんばかりの表情で私を見上げてくる。私を気遣うアリスの頬を撫でながら、私は微笑んで事の顛末を教えてあげた。

「まぁ、私が運動会の時は、ああしていつもお母様と一緒に見に来てくれたんだぜ・・・」
「なるほど、じゃあ後ろの丁稚達は?」
「丁稚達も・・・あの頃は香霖もいてな?応援してくれたのを覚えてる。」

 アリスの手を握って、お父様の方へ手を振る。すると、手とカメラを上げて応えてくれる。その表情は記憶の中よりは随分老けてしまったが優しいお父様のままだった。
お父様から視線を放すと、他にも紅魔館のメイド部隊が息のあったチアリーディングで場を盛り上げていたり、白玉楼の応援団が和太鼓を鳴らし、気勢を上げている。
 その喧騒を聞いていると、元々こういう催しものは好きなのも重なって、昨日から続いていた倦怠感がすうっと抜けて行くみたいな感じがした。

 活力が満ちた所で、秋晴れの大空に、ぽつりと私は小さな声で呟いた。

「ああ、この感じ、この雰囲気こそ大運動会って感じだぜ。」

 そうして、静かにスペルカード戦をする時と同じように気持ちを高めて行く。昔は所構わずはしゃぎ回ってたけど、今の私は結婚もしている大人の女性なのだ。
 その自覚を持って、皆で楽しんで・・・そして勝つ事を視野に入れて今日は頑張ろう。そう思いながら最愛の妻に視線を合わせると、視線が合ってお互いに笑顔が零れた。

 ―出場するチームの皆様へ、間も無く開会式を行いまーす。時間厳守でお願いしまーす。もし、遅刻したら、えーき様がジャッジメント・・・きゃんっ!

 婦々だけにしか分からないココロの交流をぶち切ったのは、今回はアナウンサーに回った小町の断末魔の悲鳴と、司会進行と審判を行う映姫の説教臭い声がどこからともなく聞こえてくる。これは、にとりの仲間の河童特製のスピーカーとマイクによる物だ。
 やれやれ、というポーズを取るとアリスはクスリとし、霊夢は笑顔のままふっと軽く鼻で笑った。にとりは腕組みをしうんうんと頷き、椛は凛々しさを前面に出した微笑みを浮かべ、真夢も楽しそうに笑っている。
 仲間と共に、一つの目的目指して頑張ろう。私は入場口の方を指さして。

「さて、ホントにジャッジメントされたら不戦敗になりかねないから、行こうじゃないか。」
「そうね、魔理沙、それにみんな、行きましょ。」

 私達は立ち上がって移動を始めようとした。すると、椛が待って欲しいと言ってくる。どうしたんだと尋ねると、椛は両手を広げてこんな事を言ってきた。

「そうですね、折角です。円陣、組みましょうか。」
「円陣?」
「天狗社会では団結を固めるためによくやるんです、今日は皆さんと一蓮托生ですから。」
「それはいいな、じゃあやってみようぜ。」

 椛の広げた手の横に立って肩を組む私。その意図を察したアリスが私の横に寄ってきた。

「魔理沙の横が・・・いい。」
「私もだぜ。隣にはアリスが居て欲しいんだぜ・・・」
「魔理沙・・・頑張りましょ。」
「おう、アリスも一緒に頑張るんだぜ。」

 そう言って私とがっちりと肩を組むアリス。それを見た真夢、霊夢、にとりも肩を組み私達に合流してきた。普通の人間がこの様を見れば驚いてしまうかもしれないが、こうやって気心の知れた仲間とこうやって頑張れる事は、とっても素晴らしい事である。
 顔を並べて、視線を交わすと、不思議と一体感が生まれてくる。普段、一人ないしアリスとのコンビで異変とか解決に行くけど、6人のチームでこうするのは初めてだ。
 
「良いですよ~皆さん、私に続いて大きな声を出して下さい。それでOKです。」
「えっ、でも良いのかな?みんなびっくりしちゃうかも。」
「良いんだぜ、それに聞けばまだ小町と映姫が言い合いしてるじゃんか。」
「それは一理あるなぁ。」
「では、宜しいですか、皆様・・・行きますよぉ。」

 そして、真剣な表情をした椛が、大きく息を吸い込んで大きな声を出した。

「優勝するぞー!」
「「「「「優勝するぞー!」」」」」

 指示に従って大きな声を出す私達、お腹の底から大きな声を出したのは久しぶりだ。横のアリスも負けじと大きな声を出していたが、アリスが大声を張り上げるのは中々見る事が出来ない貴重な光景である。円陣を解き、爽やかな表情をしたアリスが私の手を取って、前へと踊り出して来た。

「さ、一緒に行きましょ。魔理沙。」
「ああ、行こうか。一緒にな!」

 ぎゅっと握った手のひらの温もり、指に輝く9色の愛の証の煌めきと共に歩み出す私達の後に霊夢達も続く。

「さって、新婚さんに負けないようにしないとね。にとり、椛。」
「な、何を言ってるんだよぉ~!」
「わ、私達はそんな関係じゃありませんって!!」
「とか言っちゃって~」

 ちらと後ろを見ると、顔を真っ赤にして必死に抗議するにとりと椛。その様子を見て、真夢が霊夢に。

「あのお二方に、お互いの夢にお互いが出てくるあられも無い夢を見させて反応を見てもよろしいでしょうか?」
「あら、真夢も分かってきたじゃない。今日の夜にでもやってあげたら、きっと素敵な夜になるでしょうねぇ・・・」
「夢でもし、逢えたら素敵ですよねぇ・・・」
「それは、やぁめぇろよぉーう!!」

 すっかり耳になじんだいつもの嫌がり方をしたにとりを後目に、結束を固めた私達6名は、続々と集まってくる他チームの人妖に交じって、メイングラウンド横の入場口へと向かった。


ミ☆


 体操服姿の人妖に囲まれて、開会の時を静かに待っていた私であったが、入場順の関係で隣同士になっている輝夜、早苗とさとりの話が聞こえて来る。
 気になったので、その話の内容にちょっと耳を傾けてみた。

「・・・しっかし、今回の種目はアレですね。何かぶっ飛んでませんか?」
「ええ、私が持ちこんだゲームを元に色々とパチュリーさんとかてゐさんが色々と強烈な改良を加えたらしいですね。」
「原作のゲームなら物投げてるだけで勝てるのにねー、実際にはそうはいかないか。」

 早苗、またお前か。みだりに好奇心旺盛な七曜魔女に外の世界の珍しい物を見せるなとアレほど・・・それに、てゐが何故招聘されたかは大方見当が付く。恐らく障害物部屋のトラップを作成する為であろう。対抗策としてのにとりがいるとは言え、競技前から少しだけ溜息が出そうになる。

「どうした、アリス。浮かない顔して?」
「私が参加する障害物部屋に関していやーな予感しかしないのよ。」
「まぁ、その点はどの競技でも変わらないぜ。」

 まぁ、全てリニューアルされた以上はどの競技においても何が起こるか全く分からないのが実情と言った所であろうか。
 それにしても、これから勝負をすると言う割には実にのどかな光景である。先ほどからブン屋も、あちこちで撮影をしているようで、慣れぬ体操服姿を取られたくないのか嫌がる面々も居たようだ。

「さ、咲夜さん、やっぱり貴方のそのバストは偽造品ではありませ・・・へぶっ。」
「んもぅ、しつこいですわね!」

 文にどっからか取りだしたナイフを投げつける咲夜。メイド服と比較して少ないあの体操服の何処にナイフを仕込んでいたのかはかなり気になる。そこで早苗が振り向いて私と魔理沙に。

「女には引きだしが沢山あるって、昔やったゲームのヒロインが言ってました。」
「おお、何かカッコいいんだぜ。私も、いつもの服ならあちこちに色々仕込んでるんだけどさー」
「あんなので良く爆発しないわねー」
「それは企業秘密だぜ、霊夢。」

 魔理沙のスカートの中には、それはもう見事な位マジックボムが満載されており、脱いだ後の洗濯前や着用前にそのボムを一発一発付け外ししているのだ。それでも爆発しないのは魔理沙なりの工夫がしてあるのは知っている・・・だけで、これは何故か私には教えてくれない。

 何時かは教えて欲しいなぁと思っていると、号砲が二発なった。

「選手、入場!選手の諸君は起立しちゃって下さ~い。」

 粋な感じのする小町の合図で、命令を受けた人形達のように一斉に選手が立ち上がる。私もそれに従って立ち上がる。プリズムリバー三姉妹の伴奏に合わせて行進を開始し、秋晴れの太陽に照らされたメイングラウンドに私達は入場を開始した。
 ザッザッと言う小気味良いリズムと、勇ましいマーチに合わせてグラウンドを一周する。途中、魔理沙がお父様の方を向いて手を振り、頭にナイフを刺した文がその様子を直撃取材するという一幕や、手と足を同時に出してしまったチルノが盛大にずっこけて観客の笑いを取る等といった如何にも幻想郷らしい光景が広がる入場行進。
 そんなこんなでグラウンドの中央に集まった私達は、中央にあるステージの前まで行進で進んだ。

 
 ―編隊、止まれっ!!

 
 映姫の合図と共に1、2で停止した私達。だが、ここでも既に何かあるのが幻想郷の運動会と言う物で・・・

「体操服姿のお姉ちゃん、萌え~・・・!」
「こ、こらこいし!止めなさい、ひゃんっ!!」
「そこの変態も止まりなさい!!」

 早くもお姉ちゃんの可愛さにメロメロなこいしがさとりにハァハァしている。無意識だから仕方ないよねと切り返すんだろうが、ここは空気を読めよと言いたくなる。程なくして元の位置に戻ったこいしがチルノと何か二三話して停止した所で、映姫が咳払いをしてから、高らかに開会宣言を行った。

「これより、本年度の紅魔館大運動会を開始致します!」

 観客席からの拍手が鳴り響く。ふと見れば、早苗がどこか懐かしさを感じているような表情をしている。外の世界でも運動会は毎年の慣例行事で、

「優勝旗返還、昨年度優勝者の風見幽香さん、前へ!」
「はぁ~い」

 荘厳な紅い優勝旗を持った体操服姿の幽香が現れ、映姫にそれを差し出す。昨年は、妖怪の本気、見せてあげると宣言しその圧倒的な能力を見せつけて見事、総合優勝を成し遂げたのだ。

「なぁ、幽香の奴・・・去年の優勝で疲れたから今年は観戦しないって言ってたけど。どう言う風の吹きまわしだろうな。」
「さぁ?いいトシなんじゃないかしらね。」
「そんな事言ったら、ここに居る妖怪達から皆に殴られそうなんだぜ。」
「あら、私はそうでもないわよ。魔理沙よりは年上だけどさ。」
「確かにそうだが・・・妖怪もピンキリなんだぜ。」

 そんな事を言い合っていると優勝旗が返還され、体操服に着替えたメイド妖精がその旗を本部の方へ引っ込めていた。旗が完全に引っ込んだ所で、選手宣誓に映る。例年、開催者であるレミリアがそれを行うのであるが、今年はどうにも毛色が違うようだ。

「あ、レミリアとフランが行くぞ。」
「今年は二人でやるのかしら。」

 日傘を持ったフランに付き添われたレミリアは、共にステージの上に上がっていく。ステージの上に上がったレミリアは映姫から受け取ったマイクに向かって。

「ぎゃおー、マイクテストよ。」

 夜の女王と言うには相応しくない言い回し。前で魔理沙が笑いをこらえているのが分かった。だが、これまた例年の事。だが、笑うのもはばかられるようなカリスマを全開にしてレミリアはさっと、手を上げた。

「宣誓!我々選手一同は、スポーツマンシップに則り、正々堂々と全力を出し切って戦う事を誓います。選手代表、レミリア=スカーレット!!」

 カリスマポーズを取りながら貫禄のドヤ顔。だが、見た目の幼さの所為かカリスマよりも愛らしさが前面に出てしまっており、威厳等微塵も無い。それでも、フランが嬉々としているあたり、姉としての威厳はしっかり伝わってくる。
 壇上から仲良く降りるスカーレット姉妹が選手の列に戻ると、あらかじめ仕込まれてあったのか、魔法が発動しどんどんスタジアムの様子が変わっていく・・・

「では、これより競技に移行するよ~プログラム1番・400メートル幻想ハードル走!」

 グラウンドのオーバルコースに高低が様々なハードルが設置された。先日のミーティング通りだ。

「さ、行くわよ。まずは私達がしっかり勝たないとね。」
「はい!」

 打ち解け、すっかり仲の良さそうな雰囲気を見せる霊夢と真夢はスタートラインへと歩み始めた。魔理沙がその背中を見やり、元気な声で送り出す。

「霊夢、真夢ーしっかりなー」
「ええ。やれるだけはやってみるわー」
「頑張ります、お嬢様!」

 魔理沙の激励に手を上げて応える霊夢に、サムズアップで応える真夢。他のチームの選手も続々とそれに続いてスタートラインに集まり始めた。
 
「ようし、後は見守るだけだ。アリス、控えスペースまで行こうぜ。」
「そうね。私の考えた作戦が上手く行くと良いけど・・・」
「上手く行くさ、アリスの考えた作戦だぜ?私はそう思うぞ。」
「ありがと、魔理沙。」

 取り返しの付かない一発勝負であるため、不安が残る。だが、不安を抱いてくよくよしている場合では無い。差し出してくれた魔理沙の手を取って、私は手を繋いだままチーム控えスペースまで移動した。先に移動していた椛は裸眼で、にとりが双眼鏡で各選手の様子を分析している。
そんな中、にとりがうむむと唸った。そして、私達の気配を察知したのか視線はそのままで私達に喋りかけて来た。

「・・・なぁ、盟友。」
「どうしたんだ?真夢がこけたりしたのか?」
「いや、紫のチームの鬼がだなぁ、酒盛りし始めてるんだよー」
「「な、なんですって(だってー)!?」」
「自分の目で確かめなよーほらぁ」
「どれどれ・・・」

 にとりの双眼鏡を借りて様子を見ると、鬼達が酒をスタートラインで酌み交わす様が見えた。呑気な物である。他にも、ミスティアとリグルが足首を回す様子や、妹紅と慧音が何かを飲もうとして映姫に注意されていたり、神奈子と諏訪子がコースと周囲の人妖の様子を念入りにチェックしたり、パルスィが無意味にジェラシーを妬いていてそれをなだめるヤマメ等々これから本当に勝負をするのかという光景が広がっている。

「まぁ、その中で霊夢達がいつもどおりなのが救いですかね。」
「ええ。真夢も霊夢に喋りかけてるし、雰囲気は悪くなさそうね。」
「結構な事だ。どんどん友達を増やして行くのが、今の真夢には必要な事なんだぜ。」

 魔理沙がうんうんと頷いている。まるで妹を見るかのような目でその様子を見守っている姿に少しだけ妬いたけど、凄くときめいた。
 本質的な魔理沙の優しさが垣間見えて、ココロがほっこりとする。

「ふふ、今の魔理沙。お母さんみたいな感じね・・・」
「そうか?まだお母さんにはなってないからよく分かんないけど・・・」
「私のお母さんもそんな感じだったもの、良く似てるわ、魔理沙。」
「照れるんだぜー」

 ぱたぱたと手で椛とにとりが仰ぐジェスチャーをわざとらしくしている。でも、私はそれに対しては何も言わなかった。こんなやりとりが堂々と出来るのも、魔理沙との仲が良好であり、愛し合っている事の証である。
 気恥ずかしくはあったが、それでもこうやって堂々と愛を語れる事の素晴らしさを見せたかった。
 

 一生に一度しかない、この一瞬を、愛する人と愛し合いながら過ごしているんだって。

 
 そんな素敵な事実を噛みしめながら、紅魔館大運動会が・・・

             そして、後に、私達婦々にとっては記念すべき日となる日が。

                 ・・・たった一度しか無い今日と言う日が始まろうとしていた。

 
魔理沙、大丈夫かしら。ちょっとだるいって言ってたけど・・・昨日の事もあるし・・・・・
                            ―こいしが察知したアリスの無意識の一部

 開けました!! おめでとうございました!!! でも中身は秋の話。一見文化系に見えるけど、体育大会でもそれなりに活躍可能な程度の運動神経は持っている、今年も甘リアリ原理主義者のタナバンです。
 さて、運動会編ですが、このままだと相応に長くなりそうなので一回此処で区切りを付けてみました。今回は主要な登場人物が6人と増えているのもあり、登場人物に出番を均等に与える話の構成と台詞と地の分の分量のバランスをテーマに描いてみました。以前、春の作品のラストではオールキャストに出番を与える事ができましたが、その発展形の課題となります。
 会話のシーンがどうしても「」が増えてしまいがちなのを、地の文を増やしてみたりしながらリズムを付けてみましたが如何でしょうか?
 次回の運動会の競技ではその描写を更に深め、魔理沙とアリス以外のチームメイトに焦点を当てた心理描写との繋がりを生かした作品になるかと思います。

 さて、引っ張りすぎかも知れませんが・・・次回はいよいよ、競技編。

 盛大に行われる運動会の最中・・・魔理沙とアリスの想いが、願いが、夢が・・・とうとう実を結びます。

 クライマックスまで見逃せないような運動会を、しっかりと書いて行きたいと思います。

 では、次回作でお会いしましょう!!

追記:来る1月15日開催のコミックトレジャー19に、タナバンも参加します。場所はV27-b アトリエ=ダルサラームです。出し物の方ですが、今の恋色Magicallifeシリーズの外伝的なお話でもある、マリアリ鍋~恋色の甘口~(本文28P・500円)という新刊が出まーす。
 
 皆様のご来場をお待ちしております。 
タナバン=ダルサラーム
http://atelierdarussalam.blog24.fc2.com/
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
体操服姿とかパラダイスじゃないですか
どうなるか楽しみです
2.名前が無い程度の能力削除
相変わらず素晴らしいマリアリで2828です!
この実際運動会見てみたいなぁ
3.名前が無い程度の能力削除
毎回楽しみにさせて頂いています、運動会における各チームの活躍が今から楽しみですわ