紅魔館で鬱陶しいモノ。
それは役に立たないメイド妖精、食べ物に毒をしれっと混ぜ込むメイド長。
それから白黒鼠、どうでも良い事を真剣な相談として持ってくる親友だ。
本当に鬱陶しい。
今まさに四足テーブルの下に息を殺して隠れてる白黒鼠こと魔理沙が。
そして、世界の終りが訪れたような顔してやって来て対面に座っている親友のレミィが。
どうしようもなく鬱陶しい。
魔理沙が来てすぐ咲夜が探しに来たんだけど、その時に魔理沙を突き出してた方が良かったのだろうか。
本が帰ってきた嬉しさで匿ったのは失敗だったか?
「…今度は何?またロケット?」
日中は呑気に笑ってたでしょ?小悪魔から聞いたわよ?…と、呆れ半分に聞く。
返事は無い。
溜息を吐き、改めてレミィを見る。居るには居たが何か小さく感じられる。
体は何時もより大きくなっているのだが、それに反比例するかのように気迫とか元気とかがマイナスだ。
一体何があったのか鬱々オーラをこれでもか!と、放っている。
図書室の隅っこで膝抱えて陰鬱されるのならまだしも、目の前では頂けない。
「…だから何しに来たのよ…」
やっぱり返事は無い。
変わりに鬱々オーラが強化された。どうにもこうにも鬱陶しい。
返事しないのも鬱陶しいし、目の前で落ち込まれるのも鬱陶しい。
魔理沙と二人揃って出てって欲しいけど…出てってくれないだろうなー…。
…と、目の前で沈み続ける親友を見ながら思ってしまった。
聞いては無視される事を繰返して2時間ほど経過。
痺れが切れた。
「いい加減に返事しなさい、串刺し公ツェペシュ」
「…奴等が付けた仇名で呼ばないで…」
ようやく返事があった。
溢れるほどの殺気を伴って…だけど。
「じゃあ、何があったのか…ゆっくりでいいから説明しなさいな」
呆れつつ聞くとレミィは溜息を吐いてからポソポソと喋りだした。
「…またどうしようもないほど小さな事で悩んでるわね…」
親友の話を聞き終えた私の偽り無しな感想。
だけど恨みがましい目付きで見られ、ちょっと溜息が漏れる。
「大好きだった父と兄を生き埋めにされて殺されて心が壊れて。
その結果として暴走した事、魔理沙に知られたらどうしよう…。
もし知られたら嫌われるかな?嫌われるよね?多分絶対嫌われる。
そう考えてしまって不安で不安で仕方ない。誰か何とかしてくれ。
…レミィの言いたい事の要点をわかりやすくしたらこうなってしまうわよ?
それで私に不安を取り除いてもらいたいんじゃない?」
頷くレミィには悪いが今からする意地悪を考えるとにやけてしまう。
「…本人に聞きなさいとしか答えれないわよ…。
父の仇、兄の仇、憎き敵を串刺しにした私でも愛してくれますか?…って」
「…い、いやそのパチェ?…あ、愛してるとかじゃなくてね?…私はその…ね?」
「言いたい事はそうでしょうに…貴女が求めているのは永遠の愛よ?」
真っ赤になってわたわた慌てる親友。
そんなレミィの慌てぶりがあまりにも可愛かったから更に悪い顔をしてしまう。
その顔のまま屈んで引っ張り出したのは…。
「それこそ直接聞いたらいいじゃない。本人に」
「お、お邪魔してるのぜ~…」
子猫の様に首根っこを掴まれた魔理沙だった。
改めて3人でテーブルを囲んで。
それでもやっぱり気まずい無言タイムだったから何か話をしなければと思って。
「…そもそも何で魔理沙はここに来たのよ?」
「咲夜や美鈴や妖精メイド。それからフランに揉みくちゃにされたから逃げて来た。
…撫でるだけならまだしもお風呂に入って胸に泡付けてそれで洗うとか勘弁してほしいのぜ…」
聞いたら素直に答えてくれた。ちょっと余計な事まで。
やはり咲夜が来た時に魔理沙を突き出しておくべきだった。
「…パチュリーまで撫でるなよう…」
「本返してくれたからいい子いい子」
突っ伏してぐったりしてる所を嫌がらせ半分で撫でてたら手を払われた。
どれだけ皆に撫でまわされたんだろう。
まあ、それはさて置き。
…確かレミィ…ずっと一緒に居ようって誓った人に身投げされた…って言ってわよね。
…逃げてく魔理沙の背中見て…それ…思い出しちゃったのかしらね~…。
…だから不安で不安でここに来ちゃった…と…ふむ…。
「レミィについて何か一言」
死刑執行を言い渡された様な顔をしている親友が哀れだったから助け舟を出す。
「何か一言…って言われてもなぁ…レミリアの事そこまで知らないし」
「そうなるわよねぇ…レミィが言ってないし…」
魔理沙はしばし考えてそう漏らした。
それに対する私の返事も同じく投げやりだった。
また少し考えた魔理沙は思いついた!って顔してレミィを指さして。
「要するにあれだろ?悲惨な奴」
「不正解ね。とっても悲惨な奴よ」
失礼な事を言ったから正しい言葉で訂正。
「豪族達の指導者…って立場なんだけど…その豪族達が裏切る裏切る。何回も何十回も。
裏切りの続く中でさっきも言ったように父と兄を生き埋めにされて殺されてるからね」
補足説明したら魔理沙は可哀そうな奴を見る目で親友を見ていた。
「…で、そこに長子じゃないからと人質に出されてたレミィが戻って来て大暴れ。
貢物増やせと言ってきた敵にも大暴れしてる時に裏切られて国から追われて…」
続けて説明してた時、魔理沙が私をつついた。
「…そんなに裏切るのか?…豪族…って」
「その地方独特の文化と伝統よ」
軽く言ったら複雑な顔をされた。
それに…。
「それに、一万人対十万人だから尚更裏切られるわよね」
「…じゅうまんにんって…なんまんにん?」
魔理沙の知能が退化した。
指折りながら『いち、に、さん…』って数えてる。
是非も無し。
「…で、国から追われて…父と兄の仇が摂政していた国に幽閉されて…。
敵が来たから戦えって送り出され…敵を追い出した所を裏切りで殺された…。
…これがレミィの人としての人生ね」
「そっかー…大変だったんだなー…レミリアって」
苦労をいたわる様に言った魔理沙は私を見て。
「裏切られ続けたからカリスマ気にしてたのかな?」
「そうよ。小さくなっただけ思考も幼くなるからね」
魔理沙は何事か考えた後、ととっとレミィのそばに行って狼狽えている親友の頭にポンと手を置いて。
「よく頑張りました。いい子いい子」
撫でた。何回もさすりさすり撫で撫でよしよし…と。
「ちょ…魔理沙止め…は、恥ずかしいから止めて…」
真っ赤になって止めて止めてと言うレミィ。
魔理沙は私が止めてと言っても撫でたじゃないかと更に撫で撫で。
レミィが根を上げるまで魔理沙の攻勢は続いた。
真っ赤になって突っ伏しているレミィと満足気にそれを眺めている魔理沙。
その奇妙な光景を眺めていると好奇心の塊のような眼が私を見た。
「レミリア…って幸せなお姫様ならどうなってたの?」
不思議そうに聞かれたから私はレミィを指さして『そのまま』と、答えた。
そっかー…って言ってまたレミィを撫で始めた魔理沙を横目に言うともなく呟く。
「不幸な人生だった…それでも公平な君主…文献にはそう記されてる。
もし幸せな人生なら…少し天然な優しい優しいお姫様…でしょうね」
目の前でいちゃこら始めた二人を見ながら少しだけ。
ほんの少しだけ、他所でやれ、鬱陶しい。…と、思った。