すやすや眠っている魔理沙を愛でていると空が白み始めた。
人里から炊煙が昇り始めるまでにはまだ時間が必要だろう。
私を優しいと言ってくれた友人。私を大好きだと言ってくれた魔理沙。
彼女は私の血に塗れた過去を知っても今と変わらず接してくれるのだろうか。
・・・
・・
・
トントントン…ことことこと…。
朝寝坊はとてもとても幸せな時間。
お母さんが台所で朝ご飯作っていて。朝ご飯の準備ができたと起こされて。
後、五分。駄目よ。皆揃ってるもの。そんな事言ったりしながらもぞもぞして。
冷たいと笑いながら手や顔を洗って。お母さんの渡してくれた手拭いで顔や手を拭いて。
それから皆で朝ご飯食べて…それから…。
「魔理沙、朝ご飯できたわよ」
そう、こう呼ばれて…どうしていたんだっけ…。
…ああ、そうだ…後、五分…だ…。
「後、五分」
そう言ったら母さんは…え?布団優しくめくられたっけ?
ちゅ。
おでこにキスなんかしてくれたっけ?…キスなんか…え?
慌てて跳ね起きる。心臓バクバク言ってる。
右を見る。霧雨魔法店のガラス窓だ。間違いない。
特に変な物は見えない。
そうだよな。気のせいだ気のせいだ。
「おはよう、魔理沙」
聞かずに布団に潜り込む。顔が熱くなってるのが自分でもわかる。
また布団が優しくめくられる。優しく撫でられている。苦笑いされてる。
何か恥ずかしい。吐息が近づいてきたから枕に顔を埋めてイヤイヤする。
布団を優しくかけられる。布団の上から優しくポンポンされる。
足音が寝室から出てったのを確認してからそっと布団をめくって外を覗き見た。
誰もいない。ご飯と焼き魚とお味噌汁のいい匂いがする。
恐る恐る布団から抜け出して着替えを始める。
私が行くまでは来ないで欲しい。恥ずかしくて隠れてしまうから。
何が恥ずかしいのかわかんないけど恥ずかしいから。
…レミリア本当に朝までずっと起きていてくれたんだ…。
朝までずっと寄り添ってくれて、ご飯作ってくれてそれで…。
「朝はおはようのキスして起こしてあげる」
夜に聞いた声が頭の中に浮かび上がって。
さっきしてくれた額の所が熱くなって。
思わず布団にダイブ。
そのままゴロゴロ左右に転がる。枕をバフバフ叩く。
やっぱり恥ずかしい。とてもとても恥ずかしい。
何よりの問題は今からレミリアが待ってる所に行かねばならない事。
どうしよう。
どうしよう、どうしよう。
・
・・
・・・
ご飯、美味しく炊けた。
焼き魚、こんがり上手に焼けました。
納豆入ったお味噌汁もいい感じ。
でも食べて欲しい人が来ない。
お皿に取り分けてないからいいけど…。
冷める前には来て欲しかったんだけど…来ない。
嫌な考えを頭の中から押し出し、気楽な風を装う。
魔理沙は女の子だから朝の身だしなみに時間かかるよね…と。
黙って温めなおすべきか、聞いてから温めるべきか迷ってると。
「お、お待たせ~…」
…と、帽子を被った魔理沙がそーっと抜き足差し足で入ってきた。
何故に帽子?…と、考えていると魔理沙は眼を合わさず。
「ま、まだその恥ずかしい…のぜ…」
よく見ると確かに頬どころか耳までまっかっか。
取って付けたような“ぜ”も照れ隠しだろうか。
安堵の溜息を吐く。
「よかった、待ってて…。
…魔理沙が来ないから帰っちゃおうか…って思ってたのよ?」
「…ごめんなさいだぜ…」
シュンとする彼女を見てさらに安心。
「さ…そんな事より朝ご飯食べましょ。暖めなおす?」
「お願いするぜ」
「はいはい」
食べ終わって流し台に食器を持って行って。
帰ってくると魔理沙はテーブルの上でふにゃーっとしていた。
「美味しかったー…」
「どういたしまして。洗ってないけどいい?」
「いいのぜ~」
まだふにゃーっとしている。
今日の予定を聞いてみると何も決まってないらしい。
「何時もはキノコやガラクタ探し回ってるんだけど昨日したからなー…」
「そうなの?」
「ガラクタ溶かして鉄作って加治屋に売ってー…。
…食べれるキノコ、必要な分以外は野菜屋に売ってー…って。
レミリアが教えてくれた事してるのぜー…感謝だぜー」
ありがとだぜー。…と、笑う魔理沙に撫で撫でされる。
なるほど確かに恥ずかしい。頬がほんのり赤くなる。
しばらく撫で撫でされた後、今日の予定を聞かれた。
「無いけど作れ…って言うなら毛糸玉転がして編み物ね」
「何時から編み物してんの?」
「まだ人間でワラキア…って所で王様してた時から」
答えはした。自分から言った。
でも、それ以上言う気は絶対にない。
だから。
「…持ってきた本は返してあげなさいよ?」
だから誤魔化した。
魔理沙は少し考えてそれを今日の予定にしていいか私に聞く。
私は当然の様に、勿論と答えた。笑顔で答える事ができた。
嫌われるために私の過去を話すより、のんびり散歩する方がいいからだ。
昼下がり、紅魔館へ続く道、荷車がガタゴト。
私が引いて、魔理沙が日傘をさしてくれて。
「あの時もこうして歩いてたわよね」
「懐かしいけど寂しいぜ」
どうして寂しいのか理解できないから魔理沙を見る。
私はただ懐かしいだけだったから。
「こんな感じなの紅魔館に着くまでだろ?」
頬を染め、目を逸らしながら言う魔理沙。なるほど。それなら寂しいのも理解できる。
だからこの関係はこれからもずっと続く。私は小さくなるかもしれないけどずっと続くと返事。
「なら懐かしいだけだぜ」
元気に笑ってくれるのは嬉しい。
嬉しいまま、思い出話を一つ。
「懐かしいと言えば一人が寂しくて夜中に泣いちゃった事あったわね」
「レミリアが慌てて来てくれて…その後撫でてくれたから泣き止めたぜ」
だから…と、そう言って私を指さして。
「泣く子も笑う吸血鬼」
少し呆れてしまう。
「普通は怖すぎて涙も出なくなる…でしょうに」
「私にとっては優しくて頼りになる大好きな永遠のお姉さんだぜ」
言い返されてしまった。はっきりと。しかも家族扱い?
勘違いして良いのだろうか…いや、するべきだ。
「じゃあ、紅魔館の中では末っ子かしらねぇ…背丈とか」
「…美鈴にからかわれそうだぜ…」
「赤毛は嫌なんですか~(泣き…って?」
魔理沙の歩みが止まったので、何かと私も足を止める。
見ると何で?って顔してこっちを見てる魔理沙がいた。
そういえば髪の色の事、説明してなかったね。
だから明瞭簡潔に。
「美鈴の血を飲んだから赤毛になったの。元は貴女、黒髪でしょ?」
当然の様に嫌な顔された。妖怪の血を飲まされたんだから当たり前だけど。
でも、魔力の欠片も無い子に無理やり魔力を付けさせるにはそれが一番簡単だった訳で。
だけど、相性とか色々あるから実際には魅魔達に協力して貰っても魔理沙が魔力を得るには苦労した訳で。
それから性格等にも影響でる事等、全て説明して、ようやく納得して貰えた。
試行錯誤してくれてありがとう…感謝してるぜの一言で楽になれた。
「それで…今の金髪は誰の血飲んだからなんだ?」
「フランよ。魔力も魔法の腕前も…。
…それに貴女との相性もフランが私より上だから…ね」
それもあって魔理沙に会うの楽しみにしてただろうと聞く。
「熱烈歓迎だったぜ」
苦笑いする魔理沙につられ、私も苦笑いした。
ほんとは私の血だったら良かったのにな…と、思いながら。
・・・
・・
・
「お帰りなさいませ、レミリア様」
「ただいま、美鈴」
「お邪魔するぜ」
今日は本を返しに来たし、レミリア同伴だしでスルーパス…。
…かと思いきや何故か引止められていい子いい子と門番に撫でられた。
「な、撫でるなよ…」
「本を返しに来たからいい子いい子してるんですよ」
逃げ出そうとしたけど首根っこ掴まれて。
それから抱きしめられてまた撫で撫で…。
「やーめてー」
「嫌ですよ~♪ほーら、よぉーしよしよしよしよしよしよしよし…」
ジタバタしても逃げられず、逃げれたと思っても捕まって撫でられる。
こいつ武術の達人だったっけと思い出せた頃にはいいようにされてしまってる状況。
そうこうしてる内に妖精メイド達が何だ何だと集まってきて。
レミリアはニコニコしながら眺めてて。妖精メイド達も私を撫でていいって言って。
妖精メイド達に揉みくちゃにされて、何故か混じってたチルノや三妖精にも撫でまわされて。
「…咲夜まで撫でるなよう…」
「何か今日の魔理沙はかわいいからね」
挙句の果てにいい笑顔な咲夜にまで撫で撫でされた。
もうお嫁に行けない。子犬子猫じゃないんだからそんなに撫でないで欲しい。
そう言っても…そうお願いしても撫で撫でされて。
「もうパチュリーの所まで本、持ってかない」
拗ねた。
「そのつもりでしたわ」
「パチュリー様も少し運動した方が良いですしね~」
拗ねたんだけど余計ニコニコされて余計撫でられた。
頬っぺた膨らましてもレミリアに突かれるし…疲れたのぜ…。
「…紅魔館の皆が意地悪するのぜ~…ここは悪魔の館じゃよー」
妖精達に埋もれながらそう言うのが精いっぱいだった。
本当、誰か助けてくれ。
目をキラキラさせながらこっちに駆けて来るフランに似た綺麗な人…。
フランが育ったらこんな感じになるんだろーなー…って人を眺めながらそう思った。
視点がコロコロ変わるのも、ちょっと読みづらさが先に立つ感じでしたね…
ただ、魔理沙の髪の色含め、一連の独自設定には違和感がほぼなく、すっきりと納得して読めました。
この設定、かなり好きなので、更なる展開を楽しみにしています。