Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

システムと妖精

2011/08/28 16:32:45
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!!注意!!
このSSには、「オリちょいキャラ」・「妄想設定」が含まれております。これが駄目な方は急いで戻るボタンを押してね。
また、心温まる内容ではないです。長い横線で視点がコロコロ変わり、現在・過去もコロコロ変わります。












夏。日本の夏。蝉がジージーとうるさい。ミニ八卦炉に消音機能を追加しようと考えた私は相当な暑さで頭がおかしくなったようだ。
今日はとんでもなく暑いから、チルノを弾幕ごっこで負かして捕獲しようか。でも、最近あいつなんか強いんだよな。
霧の湖が見えてきた。ここは年がら年中涼しいが、それは比較的というだけで今日はじめじめと暑い。
「チールノー。いるか~。」

・・・返事がない。
・・・。

よかった。湖から氷のモリをかかえて出てきた。
「なにしてんだ?」
チルノはモリの先を指差し、
「今日のご飯はお刺身。」
「妖精も飯食うんだな。」
「最近はおなか減るんだよ!」
・・・妖精はご飯食べなくていいはず。いやいや。チルノの勘違いだろう。

「チルノ一緒に食べていいか?」
「まぁひとりじゃ多いから、食べてもいいかも。」
チルノの家はいつもひんやりしている。少し狭いのはご愛嬌。ひょいと作るのは氷の包丁。こいつは器用なやつだ。
これまた器用な手つきでサッサッサッと三枚おろしの完成。

「ヘイお待ち。ワサビもついておりますぜ。」
氷のすり板に氷のゲタに氷の箸・・・。うん。鮮度を守ることは大事だな。
「おい。ゲタも氷にしたら刺身引っ付くだろう。」
「それが引っ付かないんだよ。」
よく見るとゲタの表面に水の層ができている。
「さすがだが、氷の箸は人間には無理があるぜ。」
マイ箸を取り出す。刺身をしょうゆにつける。これはどこで手に入れたんだ?って聞くと、カキ氷を売ってそのお金で。と即答。
口に入れる。うまい。私のきのこ料理よりもうまい。ほっこり。
「おいしい?」
「ありがとう。」
感涙の涙を流す。キノコが主食だったからかな。そして、なぜか頭にキノコ酒の幻影が浮かんだが、すぐに消し去る。

本題に入ろう。
「チルノ。最近おなかが減るって言うのはあれか?食の文化に興味を持ったとかそんなのか?」
「そんなことはないよ?この一週間ずっとお刺身だし。」
・・・やっぱり、か。そのときが来てしまったようだ。

「チルノ、人間食うとかそんなのやめろよ。お前を直視できなくなるぜ。」
「やだなぁ・・・退治されたくない。食べるなら人里の親子丼が一番だよ!」
それならよかったぜ。チルノ分かってるな。日本人なら親子丼。ん?何か違和感を感じる。が気にしない。

「なぁ今日暇か?」
「いつも暇だよ。」
「ならちょっと今日は付き合ってもらう。」
「なんで?」

ずっと言われてたことだ。
霊夢に「チルノがいつもと違う事言ったら、それは妖怪になる兆候かもしれない。そのときは私のところに連れてきて。」と言われている。
もちろん退治するとかそんなんじゃない。チルノが死んで無料でカキ氷が食えなくなるなんて御免だぜ。それに妹分みたいなもんだ。
まぁ妖精が妖怪になることは、ここ幻想郷において前例のないことだから何が起きるか分からない。もちろん何も起きないかもしれない。
いろいろと記録をとりたいという奴もいるだろう。これはチルノのためでもある。彼女に情報を与えて、自分の有様を理解してもらうという意味もある。
「チルノ。皆はお前のことが心配なんだ。」
「そう・・・なんだ。」
声にいつもの張りがない。

「「ご馳走様でした。」」
二人で手を合わせ、いつもの言葉を告げる。

「それじゃ、箒に乗れ。ちゃんと背中につかまってるんだぞ。」
素直に従ってくれた。チルノ自身も自分の変化に心配なようだ。
「どこまで行くの?」
「博麗神社まで。運賃は無料だぜ。」
おなかに回ってきた手を風呂敷で軽く縛る。ひんやりしているけど冷たいとまではいかない。
「霊夢。準備お願いする。」
渡されたお札を使う。けいたいという式を封じ込めたありがたいお札らしい。

人里を越えて博麗神社に向かう。
「まりさぁ・・・ちょと・・・」
「チルノ大丈夫か。」
「具合がわる・・・」
「チルノどこが痛いんだ?」

・・・返事がない。

チルノの体が変調を訴えている。
速く連れて行かなければ。速度を上げる。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「起きなさい!」
―――――重い重いまぶたをこじ開ける。ゆらぎの光の中、私は目覚める。

「こんにちは。」
眠い。まだ眠っていたいのに。でも、眠っていたのだろうか。
「貴方は無から生まれた。」
心に聞こえる声。
「貴方は何から生まれたの?」
「私も無から生まれた。私を作った存在も無から生まれた。
 無は歪みを産み、その歪みはいずれ、個と全を分かつ境界を得てひとつの存在になる。遍在から偏在へ。偏在から局在へ。」

私は首をかしげる。よく分からない。ついていけない。起きたばかりの私にはつらい。
「少し早かったかしら。」
そりゃあ・・・もう。

「いずれ分かるようになるわ。貴方は私の一部から妖精という存在になった。」
「ようせい?」
「あの子達や貴方のこと。」
どこを指しているのかはわかる。なんとなくだけど。
「楽しそう。」
「ええ。楽しんでらっしゃい。」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「ちょっと魔理沙。病人を超高速で運搬しない。チルノ青ざめて気絶しちゃってるじゃない!」
霊夢がお出迎え。
「うげ・・・」
「よかった。意識ははっきりしてるみたいだぞ。」
霊夢は何も言わず、チルノを運びお布団をかぶせる。

「この子大丈夫かしら。」
パチュリーが心配そうに見つめる。こいつこんな顔できたんだな。
「大丈夫~。」
病人は大丈夫ではなさそうな声を上げている。

居間には私や霊夢のほかに、精霊魔法を使う上で妖精に詳しいパチュリー、お見舞いに来ている文、
チルノの周囲に出入する様々な力量のデータを取っている河童たち、
それと・・・何しに来たか分からない八雲紫がいる。スタンバイが早いというか予測していたのかもしれない。

妖精の見舞いがいないと思ったら、遠巻きに見つめている妖精が結構いる。
「よっ。お前らも来たのか。」
光の三妖精が頭の上に!マークをつけながら、あわあわしながら。
「そ、そうなんです。やっぱり知り合いなわけですから!」とサニーミルク
「わ、我が同胞の容態は良いのですか?」とルナチャイルド
「ど、どうなのでしょう?」とスターサファイア
見舞いと思ったら野次馬してるだけだな。

先ほどまで青ざめていたチルノは回復しつつあるようだ。素直にごめん。あとで親子丼おごってやるから。

「チルノさん。深呼吸。」
文がちゃんとお見舞いしてる。どこにカメラを持ってるんだ。じろじろ。
「今日はカメラを持ってきてませんよ。」
ばれていた。

しばらくして、すぅーすぅーという音が聞こえてきた。かわいい寝息を立て、眠りについたようだ。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

いっぱいの友達がいた。
みんな平らな動くものの背につかまっている。

「そのお魚はやいね~」
「このひれの大きさがいいのかしら?」
しばらく眺めていた。

「あっ!見たことない子だ!」
「リボンがかわいいね。」
こっちに来てくれた。

「なんだか私生まれたみたい。」
「今日?」
「うん!」
「ついさっき?」
「えへへ。そうだよ~」
「初めての子だったら何がいいかな?」
「できるだけ疲れないほうがいいのかしら。」
「だったら・・・そうだ!いろんな事教えてあげちゃう!」

生まれたばかりの私は、いっぱいの友達にいろんな事を教えてもらった。
私たちは水の中に暮らしていることや、この水の世界が広い広い世界のひとつであること。


「ねぇ、聞きたいことがあるの。」
「なぁに?」
「”私”ってなんだろう。」
「自分探し?」
「うん。最近気になってきた。」
「貴方が知らないでどうするのよ。その命題は探求のパラドックスを・・・」
「ああ、もうそういうのいいから。」
このお方は、そういうお方なのだろう。

「結局、”私”の意味は貴方自身で決めなければいけないわ。そして意味を持つものには理解を促進するために名前がつけられる。命名は近似認識集合のコンテナ化を意味する。」
もう、つっこまない事にしよう。頭にいっぱいある?マークを無視する。

「名前?私じゃだめ?」
「駄目。そんなのさびしいでしょ。」
「なんだかよく分からないけどさびしいね。そうだ。お母さんがつけてよ!」
「お母さん・・・うれしいわ。そうねぇ・・・チルベルトとかはどうかしら?」
「なんか堅苦しいから、チルトにする。」
「それだったらチルーノとか。」
「う~ん・・・チルノがいい。チルトだったら「と」と、かぶっちゃうよ。」
「チルノでいいの?」
「うん。」
「それではチルノ。今日も楽しんでらっしゃい。」
”チルノ”・・・私の名前。気に入った。


水の世界から抜け出そうとした事だってある。だって退屈だった。
抜け出した瞬間、体がだるくなって、なんだか緑色の世界だったことは覚えているけれど、そのまま一回休み。
そんな事を友達に話したら、あたいは”テリトリー”から抜け出したみたい。”テリトリー”から抜け出した友達の中には帰ってこない子もいるらしい。

「よかったよかった。」ってみんな言ってくれる。ごめんね。心配させて。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「これからよ。」
パチュリーが言う。

「妖精は自然に依存して存在を保っている。だから妖精は自然がなくては生きてゆけない。ここまでは分かるかしら。」
「常識だぜ。」

「あの子は行動範囲が非常に広い。なぜだと思う?」
「分からん。」

「自然から切り離されつつある存在だから。自然から与えられる力をあまり必要としないから。」
「なるほど。その力を完全に必要としなくなれば妖精とはいえなくなる。」

「そうね。そんな単純な話なら精霊・妖精を媒介とする精霊魔法の専門家はこの場に要らないわね。
 精霊魔法は、妖精の持つ力の変換と増幅という性質を利用する魔法。まずはここから始めましょう。」
「優しく教えてくれ。頼む。」

「まずは変換ね。自然から与えられる力は様々な性質に偏った力が混じっているため、妖精が利用できる自らに近い性質に偏った力はその一部でしかない。
 けれど、自らを産んだ環境の中であれば、その一部はほぼすべてと見ていい。」
「でも、ずっと同じところにとどまっている奴なんていないな。」

パチュリーはうなずく。
「しかし、発生した環境と少し異なる環境でも、利用できない性質に偏った力でも利用できる性質に変換しないと、存在を保つのに十分な力を得られなくなる。
 結果的に、様々な環境を体験する好奇心旺盛な妖精ほど、力を変換する機構を発達させる。」
「あいつは確かに好奇心旺盛すぎる奴だぜ。」

「増幅。変換された力の内、使われなかった力は次のステップに進み増幅され、一時的に保存される。」
「その必要があるのか?」
「自然が弱まった時に放出させたり、自然の節目にトリガーとして使われる。妖精は貯蓄みたいなものよ。本来ならばね。」
「本来ならば?」

パチュリーはお茶をすすって、
「貯蓄を無駄使いする子には、ペナルティがあるの。能力を顕現させると、自然から与えられる力が少しずつ減っていく。
 そんな妖精は少ないのに、あの子は異例。能力を発現したときから、冷気を常に放出している。」
「この時は来るべくして来たわけか・・・」
心臓の鼓動の高まりが気になる。

「あの子は、自然からの供給が少なくなってしまったことを、力を変換する機構を変異させ、さらに力を増幅する機構を発達させることによって補っていると考えられる。これを見て。」
河童たちが持ってきた観測機器に接続されているでぃすぷれーの一点を指した。
「この曲線が、自然からあの子への力の供給量を意味している。
 この調子だと日が変わる前にこの値がゼロになるわ。ゼロにいくら掛けても無駄。そもそも、それまでに存在を保つのに十分な力が得られなくなってしまう。」
「どうすればいい?」

「貴方は何もしなくていいし、それに何もできない。
 その時までに、あの子が存在を保つのに十分な力を別の形で生み出せば問題ない。
 けれど、生み出せなければ、存在が不安定な状態になり、死んでしまうのかもしれない。なにしろ、誰も調べたことが無い。未知数。」
「嘘だろ。なんとかできないのか!チルノ今まで幸せに生きてたのに!」
嫌だ!そんなの!チルノが死んでしまうかもしれない!

「なんとかできるから落ち着きなさい。魔理沙。あの子が起きちゃうわ。
 もし危険な状態になったら、不足分を補うように魔力を送って安定させてあげる。」
「お前良い奴だな。」
「乙女だもの。」

「そうなったら、私の弟子にするつもり。」
「お前悪い奴だな。」
「魔女だもの。」

それにしても、この心臓のバクバクの意味は何だったのか・・・。心配するようなこと言いやがって。


「チルノってそんなに有望なのか?」
「精霊魔法は自然の力とは何たるかが分かってないと習得できない。だから元妖精は逸材になるはず。しかも、貴方を図書館から追い出すという意味で一人増えると大助かりよ。」
「うう。それは有望だぜ。」
私は手を広げ、やれやれだぜ。

「ちなみに精霊魔法は、精霊や妖精に魔力を吸収させ、その力を変換・増幅させた後、私が余剰分を回収、任意魔法を顕現する。という手順を踏んでいるの。」
「勉強になるぜ。」
「ときどき、私のまねをしようとして、能力が発現しちゃう子がいるけど、そういう子はメイドにしてるの。」
勉強になるぜ・・・


「パチュリーさん!」
文が襖の向こうから叫ぶ。
事態は急激に変化した。
私とパチュリーは、勢いよく開けた襖が壊れてしまった事を気にせず駆け寄る。

チルノが脂汗をかいている。
「チルノさん。大丈夫ですよ。みんなついてますから。」
文は額の汗を拭く。

「お母さん・・・」
チルノは言葉を振り絞る。

「魔理沙、残念だけど弟子ができそうだわ。」
「しかたないぜ。」
パチュリーはチルノの額に手をかざし魔力を送る。
「ふぅ。魔理沙が連れてくるのが明日だったら危なかったわ・・・」
チルノは硬く閉ざしたまぶたを緩める。


「チルノ、お母さんって言ってたな。誰のことなんだ?」
「・・・きっと、チルノさんをつくった自然のことですよ。」
「納得だぜ。」
とりあえずそう言っておく。扇子で口元を隠すあやしい奴がいるからだ。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

今日は大妖精さんから大事なお話があるみたい。
「チルノちゃ~ん!」
この子はあたいの友達でディネちゃん。ドジな子だけど、歌が上手。あとふわふわしてる。

「ディネちゃん。今日はみんなで集まって聞いてほしいことがあるらしいね。」
「聞いてほしいことってなんだろうね~」

湖で一番目立つ大きな岩の上が集会場。
「そろそろ見えてくるかもね~」
「あっ見えた。見えた。驚愕の事実!私たちこんなにいるんだね。」
「数え切れないね~」
少なくとも手が100本あっても足りない。

あたいたちのあとからどんどん来る。たちまち会場はあふれんばかり。
「はやくきてよかったね~」
「座ると楽だし。」

大妖精というのは、あたいたち妖精の中でも力を持つ存在。大妖精もいろいろで、調和を保とうとする子もいれば、孤独が好きな子もいる。
今日お話があるからみんなを呼ぶ寄せた子は、もちろん調和を保とうとする子。この世界の外から聞いた情報を伝えてくれる。

しばらくして、大妖精たちが現れた。
「みなさんに伝えたいことはとても重要なことなので静かに聴いてください。」
「はーい聞いてマース!」
「聴いてくださいね。」
すこし怖い子もいるけれど。

「手短に言います。この世界に魚の妖怪が何匹か忍び込んだようです。」
しーん。静まり返った。
妖怪。聞いたことがある。あたいたち妖精よりも大きくて強くて獰猛な奴ら。いままでこの世界は妖精たちの城だったのに。

大妖精たちは続ける。
「私たち妖精は何をすべきか。倒そうとしないでください。逃げてください。集団で行動してください。この3点です。」

ディネちゃんが震えている。
「怖い・・・」
「大丈夫だよ。みんなで行動すれば大丈夫。」
一回休みできるとはいえ、痛いものは痛い。怖いものも怖い。

とりあえず、今日はいつも遊んでいる子達と一緒に帰って一緒に寝よう。


今日も家の中で遊ぶ。みんなでマフラーを作ろうってことになった。
「ディネちゃん。ここが分からない。」
お裁縫がうまいディネちゃん。
「ここはこれに通して。」

あの日からすごく退屈な日々。いつも家の中。退屈。退屈。
「あ~退屈だよ!もう!」
あたいはもっと違う遊びしたかった。お外にでて、すこしだけだけなら大丈夫だって。

「危ないよ!チルノちゃん。妖怪出てくるかもしれないよ!」
いつにもなく激しい口調。
「大丈夫だよ。お散歩してくるだけだよ。」
お散歩って楽しいのに分かってないなあ。

油断していた。そいつはゆっくりゆっくり近づいて。

「チルノちゃん!にげて!」
もう遅かった。

そいつは速くて。速くて。逃げ切れなくて。怖くて目を瞑ることしかできなかった。
突然、何かの力が湧き出るのが分かった。

――― ピシッ
いままで聞いたことのない音を聞いた。

あれ?死んでない。力をこめて閉じた目を開く。

赤。赤だった。
誰に手によって作られたのかもわからない氷の刃が、そいつの体のいたるところを赤に変えていた。

じっと手を見た。私。そう私。・・・どうしてだろう?体が震えている。
手は勝手に動き出し、そいつの目にとどめの一発を与えた。まぎれもない私。
この光景を焼き付けるように私の視界は凍り付いていた。

「チルノちゃん!」
ディネちゃんが抱きついていた。泣きながら。

その手が離れた。
「ひたっ!」
その手が。その腕が。赤に染まっていた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

チルノが突然飛び起きて、手を見つめている。
目をパチクリさせた後、ゆっくりお布団に体をうずめた。
「チルノ?どうした?」
「ううん。夢かな。ちがう。昔の事思い出した。」
「わかった。いまは休んどけ。」
「なんかそれ、なつかしい言葉。いつだったかな?」

チルノの容態も安定してきた。どうやら、峠は越えたらしい。

「パチュリー。お前の弟子ができたようだ。気分はどうだ。」
「冗談よ。まぁこの子がして欲しいというなら、弟子にしてあげるけど。」
パチュリーも今は、緑茶をすすりながらゆっくりしている。

「チルノさん。ぷりん買って来ました。」
「ん?文?ありがとぅ。おいしぃ。」
頬に血色がある。もう何の問題もないだろう。

霊夢がおかゆを持ってきた。何も言わずチルノの横に置くとどこかに行った。今日の霊夢は終始不機嫌である。まさか妖怪が一人増えたくらいで不機嫌になっているのだろうか。
私が代わりにチルノのお口に運んであげよう。
「はい。あ~ん。」
「味噌の深い味わい・・・。」
心の余裕が出てきたようで安心する。
全部たいらげたチルノは眠りについた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

私は訳も分からず上を目指した。頭は赤でいっぱいだった。
外の世界は緑の世界って知ってるのに、赤かった。

”お母さん”が語りかけてくる。
「わが子の成長は親としてつらくもあり、うれしくもあるわ。」
「そう。お母さん。さよならになるかも。」
「それはない。その時まで見守ることになるわ。」

それにしても、生ける者のゆりかごである水と生ける者を死に追いやる冷気・・・。冷気を操る水の精とは何たる皮肉だろう。自分はそんな奴とは他人と考える一種の現実逃避。


あの一件を過去に押し込めて、とりあえず落ち着いてきたあたいは湖の湖畔を住処とした。
冷静になろう。妖精たるもの死んでも、この力から逃れられない。
あたいのように冷気を操る同類は、少なくともこの湖の周囲にはいないようだ。情報源は自分の目だけ。誰かに聞こうとしても避けられる。つまりは孤独だった。

とりあえず、この力を操れるようにならないと話にならない。妖怪がうろつくこの世界に住んでいるのなら、自分を守る力もいる。

湖の水をすくう。ピシピシという音を立て凍り付いていく。
手を前にかざす。水を生み出す。凍らせ前に突き出す。白い空気が舞い遠くに飛んでいった。
両手の内に冷気を練る。湖面にかざす。すこし氷ができた。

何度か繰り返し感覚をつかんだ。あとはこの力が暴発しないようにすればいい。


この世界に住んでいるといろんなことが起きて退屈しない。
この前は花がそこらじゅうに咲き誇って凍らせて遊んだ。
真っ赤な館ができたときは、いつも一人ぼっちだったあたいが湖の首領に「大事な話があるから来てくれ」と言われたくらいだ。
最近は”弾幕ごっこ”という新しい遊びが流行っているらしく、そこいらの有名な妖精を打ち負かしてやった。その結局、あたいに挑んでくる奴なんていなくなってしまった。

そんな日々が何年も続いていたときだった。空は赤く染まり、いつにもなく妖精界隈はあわただしかった。

「これは何か起こる気配だよ!」
ひさしぶりに楽しい独り言をつぶやいた。

赤い館の前にやってきた。やじ・・・なんだったっけ。まぁそんな感じで。
・・・霧でかすんだモノクロの何かが遠く遠くからやってくるのが見える。

「ほぅ・・・ここの首領を倒すとはなかなかやるな!」
あたいはいい勝負になると思っていたのだけれど。

そいつはいままで戦ってきた妖精たちとは次元の違う強さだった。
あっという間に劣勢に。
「凍符『パーフェクトフリーズ』!」
一番の切り札を切る。でも・・・
「妖精の癖になかなかやるぜ。だがこれはどうだ!恋符『マスタースパーク』!」
ぼろぼろになりながら、最後の切り札。気合だ!気合でどうなる相手ではないと分かってたけれど。ここで、逃げる事は・・・あたいの流儀に反する!
結局、黒こげ。惨敗だった。でも、楽しかった。悔しさもあったけれど。

「名前。知りたい。」
「私?魔理沙。霧雨魔理沙だぜ。お前は?」
「あたいはチルノ。覚えておいて損はないよ!なんたって・・・あたいは最強の妖精なんだもん!」
「わかった。いまは休んどけ。」
あぁ・・・疲れ~た~。へろへろ~。その日はずっと湖畔で大の字になっていた。

目指すものができた。「最強」。そればかりを求め、いつしか弾幕に生きる妖精になっていた。
妖怪相手に決闘を挑み、負けることが多かったけれど、それでもすこしづつ強くなって。気付けば幻想郷を駆け回る妖精になってた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

チルノは夜遅くに懐かしい記憶から覚めた。誰かの呼ぶ声がしたからだ。その声はどこか懐かしく、さも愉快そうに。
「おめでとう。そして、こんごともよろしく。」
そいつは扇子で口元を隠していた。


紫はふすまを開け手招きする。しっかりとした足取りのチルノはそれに従う。
二人は外に出た。そして、紫は月を眺めながら呟いた。
「チルノ、自然に意思などないわ。なのに、妖精という意思を宿したものを作り出す。どうしてかしらね。」
「『無は歪みを産み、その歪みはいずれ、個と全を分かつ境界を得てひとつの存在になる。遍在から偏在へ。偏在から局在へ。』でしょ?」
チルノは静かに答えた。
「ご名答。よく覚えていてくれたわ。自己組織化というシステムは、この世の森羅万象を作り出す意思なき創造神なの。
 この宇宙は無から量子ゆらぎという歪みとして湧き出た。
 この星は電荷を持った塵が、お互いに集まってできた。
 最初の生命は、タンパク質が膜を形成し、その中に様々な構成要素が加わり完成した。
 妖精だって、それら自己創出的システムの例外ではないわ。
 無から精霊という自然のゆらめきが生まれ、そのゆらめきは妖精という自然の歪み、意思あるものになる。
 さらに、自然の歪みは自然との境界を持つようになり、妖怪と呼べる存在になる。」


「貴方に聞きたいことがある。」
「なにかしら?」
紫は月を眺めながら問いを待つ。

「あたいが妖精でなくなるとは、あたいが生まれる時点で判っていたの?だから干渉したの?」
「様々な面から見て、貴方が一番確実だっただけ。その可能性を絶対のものにした上で、この日を早めるために干渉したのよ。」
「何のために。『妖精と妖怪の境界とは何か。』という命題に解答を出すため?あるいは解答を確かめるために?」
紫は振り返り、微笑む。

「あら。察しがいいのね。賢くなれるわ。」
そのまま、スキマ妖怪はスキマに消えていった。



    おわり
最後まで読んでいただきありがとうございます。SSは初めて書きました。
設定の上に考察をどう織り交ぜるかを、考えに考えた末、こうなってしまいました。
コメントをもらえるとすごく嬉しいです。

2011/08/29 イマイチなところをバッサリ削除しました。
        ゆかりんを思い切って理系にしました。
2011/08/30 注意文を追加しました。
2011/09/15 こっそり改名。
        誤字修正。
K16氷山
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
妖怪になったのか…
続き期待してます
2.名前が無い程度の能力削除
すげぇ続きが気になる。
妖怪としてのチルノは……きっといずれはとても大きな存在になりそうな気がします。例えるなら 風見幽香のような……