Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

恋色新婚旅行日記~Day0→Day1~

2011/08/16 11:19:24
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※ この物語はこれまでの甘リアリシリーズの続きになります。なお、これから魔理沙とアリスが旅をする所は実在する都市のようですが、細部が微妙に異なります。



















Day.0 ~旅の前に~



 ―ある夏の夜明け前の幻想郷。

 
 恋色の魔法で建てた新居の寝室で、心地良いまどろみから覚めた私が見た物は天窓から見える数多の星と、淡い光を放つ月の姿だった。星と月の光が、私に抱きついたまま寝ている最愛の人を静かに照らしている。

「魔理沙・・・」

 金色の髪が私の手を滑った。そして、何度か頭をさする。先日、坑道の崩落で頭を強打したようだが検査の結果異常は見られなかった。もし、目の前の人が居なくなったら・・・私はどんな顔をするのだろうか。きっと、ココロが張り裂けんばかりの苦痛と喪失感を味わって・・・・・また存在する事の意味を喪失した魔法使いの生活に戻るのかな・・・・・
 触れ合った肌、繋がった手、遮るものが何も無い状態で触れ合った胸越しに伝わる穏やかな規則正しい鼓動を感じる。私の鼓動とシンクロして、互いに互いを想う気持ちが、愛情が魔法のリンクのように全身に駆け巡っていくみたいな感じがした。

 恋色の愛に彩られた幸せな現実、愛しの人と全てを共有できる喜びに、私のココロが静かに燃える。目を合わす度、言葉を交わす度、気持ちを通じ合わせる度に、私達の愛は強くなって深まっていく。そんな魔理沙の頬を撫でていると、その瞼が飛び立つ蝶のように静かに、そっと開いた。

「ん・・・アリス?起きてたのか?」
「うん・・・起きちゃった。魔理沙・・・・」

 まどろみから覚めた私達は、そっと口づけを交わした。心地良い愛の残り火が私達を包んでいるが、不思議と暑くはなかった。魔理沙が八卦炉で冷却を怠って無い証拠だ。
 冷たい風が、素肌に当たるとそれがとっても心地良い。

「ありがとう、アリス。可愛かった。」
「魔理沙・・・ありがと。素敵だったよ・・・」
 
 私が目指す恋色の魔法家族まであと一歩。でも、お嫁さんとの甘い一時もまだ、味わっていたい。だから私は、全身全霊をかけて愛してくれる魔理沙を抱きしめた。それに応じる魔理沙の熱い、それでいて優しい抱擁に身を委ねる。

 
 真夏の夜という、まだ日中の暑さが残るこの世界において燃え上がる愛の炎がもたらすあったかさがとても心地よかった。




―優しい魔理沙の愛と星空に抱かれて、私は幸せの時を享受する・・・
               二人だけの世界の中で、幸せを共有した素敵な時間が流れて行った。


ミ☆


 あれから目覚めたのは既に太陽が高くなった後だった。私とアリスの寝室に漂う美味しそうな朝食の香りが私を覚醒させる。

「アリス・・・先に起きてたのかな?」

 ぼやける視界の焦点が愛しの妻の愛しい寝顔を捕えた、幸せそうな寝顔を曇らせぬように。私はそっと身を起して、畳んであったパジャマ等をを見に纏う。

「誰だ、無断で入って朝食を作っているのは・・・」

 アリスの人形では無い事は私もすぐに分かった。二階にあるドールハウスのドアが開いていなかったからだ。それに、アリスに倣って人形を使う術を覚えた関係もあって、魔法の糸が見えなかったと言うのが最大の理由。
 私は、侵入者と対峙できるように警戒を怠ることなく新居の階段を降りて一階のキッチンに身体を滑り込ませた。

「動くと撃つ!!」

 八卦炉をキッチンに立っていた人影に向ける。私より更に長い金色の髪、そして独特の帽子が視界に映る。私のあらんばかりの勇気を振り絞って言ったセリフに反応したのか人影が動き、私の方を向いた。
胡散臭い表情が、すぅっと笑みに変わり何処からか扇子を出して口元を押さえた。

「さくやはおたのしみでしたね。」

 そんな事を言ってニヤニヤ笑いをしているのであろう紫に、私は拍子抜けしたのと同時に、この目の前の不法侵入者に何をもって報復すべきかという事を考え始めた。ふと、ダイニングの棚の所に置いてあった二つの人形が視界に入る。

 ―私とアリスを模した人形だ。

 私は無言で、アリスの力を指輪越しに借りて魔法の糸をその二つの人形に繋いだ。
 
「私達の新居に入るなら、きちんとノッカー位鳴らせぇえええええええ!」

 私は室内への被害を避け、この二体の人形でアリス風の人形裁判をかましてやった。新居への不法侵入は、紫と言えども許される物ではないからな。

「折角美味しい朝ごはんを作ってあげたのに台無しですわ・・・・よよよ」
「ソレデモフホウシンニュウハハンザイヨ!」
「ハンセイスルノゼー」
「御邪魔するならすると、言ってくれりゃ良いのに。それに、その泣き方は・・・」

 大きなダイニングのテーブルに、美味しそうな朝食が立ち並ぶ朝の光景。しかし、これは最愛の妻が用意してくれたものではないと言う事さえ除けば、いたって普通の光景だったのだが。ハンカチで目元を押さえ、よよよと泣く紫の肩の上で踊る私とアリスの人形を見てアリスは人形躁術が形になった事を知って感心していた。

「所でアリス。新婚生活は如何かしら、さくやはおたのしみに・・・・・」
「も、もぅ・・・何を言うかと思えば・・・・・」

 それしか聞く事は無いのかと突っ込みたくもなるが、私達の夫婦仲と言うのは現在の幻想郷で気になる話題の一つである事も確かではある。アリスが顔から火を吹きそうだったので、紫の肩に乗っていた人形に耳たぶを引っ張らせて軽く逆襲しておく。

「あ、ちょっと・・・それ、くすぐったいわ!」
「うちの嫁さんをからかった罰なんだぜ!」

 しばらく耳たぶを引っ張った所で紫がまたハンカチを出して目元を押さえはじめた。そして、か細い声としおらしさを全開にして強烈な少女臭を放った紫は、またしても私達に訴えかけるような声で

「もうお嫁には行けませんわ・・・よよよ」
「またその泣き方、似合ってないわよ。うら若き乙女じゃあるまいしー」

 嫁さんの指摘はもっともだ。私やアリスより遥かに長く生きてるのに、この紫はそう言う所を大事にしているというか・・・少女らしくあろうとしている。
でも、女はいくつになっても女である事を考えれば、この紫は千年余り生きていてなおそう言った気概を微塵も失っていない。
 自分ももし魔法使いになって長命になったなら、何時までも若く過ごしたいなぁとは常々思ってはいるのだが、未だ実感の湧かない事なのでこの辺で考えるのを止めようと思う。すると紫はハンカチを畳んで、すっと隙間から焚きたてのご飯と出来たてのお味噌汁を取りだした。

「私も少女の一人ですわ、いくら貴女達より年上とは言えど貴女達のような人妻になった事は無い、ピチピチの乙女ですわ。」

 齢数百年を超えていても未だ独身の紫と、まだ20にもならないのに結婚した私。その差に私は何とも言えない気持ちになった。結婚=大人の仲間入りと考える定義であれば、目の前のスキマ妖怪は未だに少女なのだ。ただ、その容姿は少女のような快活さと大人の女性のような整った顔立ちを共存させているので、知らない人が顔だけ見れば大人の女性のようにも見えるし、少女のようにも見える。顔でも境界を弄繰り回して遊んでいるのか。
 その当の紫は私がそんな事を考えている事等知らぬような素振りで、隙間から更に海苔と納豆とおしんこを取りだし私達の前にそっと置いた。

「さぁ、召し上がれ。お口に合えば宜しいのですが。」
「変な物、入れてない?」
「まさか、普段藍や橙食べる時と同じ物を用意させて頂きましたのよ。橙が嫌がるネギ等は入れさせて貰いましたが・・・」
「まぁ、食べたら分かるんだぜ・・・頂きまーす!」

 私は不承不承ながら、紫の作ってくれた朝ご飯に箸を付けた。つやつやの白米に分厚いが箸で切ると半熟の卵がとろりと染み出す卵焼きを乗せて、そっと一口頬張る。

「あ、うまーい。」
「ホントだ、美味しい。」

 意外や意外、紫の料理はこれまで食べた事の無いような美味しさだった。自然と箸が進み、用意された食事がみるみるうちに減って行く。私もアリスも魔力を消費していたので余計である。紫が私のお代わりの連続に呆れる事無く、まるでお母様のように穏やかに私達の食事を見守ってくれた。そして、用意された朝食がすっかり平らげられた所で、アリスが紫の方を向いて質問をぶつける。

「紫、でも、どうしてまたこんな・・・」

アリスの質問に紫はパッと扇子を開いてすうっと空を切る。隙間が開き、私の目に大きな大きな水場が映った。

・・・海である。

「外の世界が海水浴日和になりましたわ、それをお伝えに。」
「成程、旅行するのに良い日和になったのね。」
「そう言う事ですわ。ですので、旅行の支度などの相談をと。」

 成程、そういう事か。なら、尚の事ちゃんと言って欲しかったなと私は思った。でも相手は大妖怪、言って通じるとは思えない。私は、その考えをそっと隅に置いて、アリスに。

「メモの準備・・・はしてるか、流石に早いな。」
「ええ。忘れない様にしっかり覚えておかないと、旅行でのトラブルは大変なのよ。」
「うん、確かに。厄介事は絶対に避けなきゃな。」

 上海からメモを受け取った私は、アリスと共に紫の話を聞く体制に入る。紫はふふっと笑ってから話を始めた。

「まず、そのいつもの格好では・・・歩ける場所もありますが、概ね気味悪がられますわ。」
「それに、外の世界では魔法と言う概念は廃れてるのよね。」
「ええ、外の世界では魔法は既に幻想の物になっていますわ。」
「魔法を使っちゃダメってことは、弾幕も撃てないって事か・・・」
「Exactly。そんな事をすると、確実に騒ぎになりますわ。外の世界で騒ぎを起こしますと、二度とこの世界に戻れなくなる事もあります故・・・」

 飛んだり魔法を使うだけで騒ぎになるのは、幻想郷と外の世界の差と言った所か。河童の物とは異なる機械を駆使した文明では、こうした超状現象は否定されて行くのかな。
 否定された分だけ、幻想郷では魔法を使う術が発達しているのだろうかと考えると、ちょっとだけ不思議な気持ちになった。

「変わりに移動手段は豊富にあるわ。御覧なさい、電車、バス、タクシー。お金さえあれば移動は簡単ですわよ。」
「じゃあ、海に行くのに飛ばなくても良いのね?」
「そう言う事。では、マニュアルの此処までしっかり目を通しておくのよ。」

 紫がくれた外の世界での過ごし方マニュアルには、これらの乗り物と乗り方が書かれたマニュアルが書いてあった。外の世界は、機械化が進んでおり此処とは違って人とコミュニケーションを取らなくても、こうした乗り物に乗れるのだ。まぁ、里にある人力車みたいなのもあるようだが。私とアリスがこのマニュアルに八割方目を通した所で、紫が結婚指輪をしげしげと眺めながら扇子をパッと開き、話を再開した。

「貴女達が結婚している事も伏せておいた方が良いわ。」
「「えっ、どうして?」」
「外の世界では同性婚はあまり認知されてないの。万が一追及されたらあくまでも仲の良い姉妹で通すと良いわね、髪の色とその容姿なら十分通用するわ。」

 価値観も違うようだ。幻想郷では、こうした同性婚をする女性と言うのは決して珍しくないが、外の世界では珍しいんだろうな。
愛の形には、決まりって無いと思う。私は、アリスの事が大好きである。色んな事を通じて、ココロを通じ合わせるうちにこの人と一緒に居たい。そして、この人と共に生きて行きたいと思うようになったから、こうして結婚したのだ。

「あ、そうか。霧雨=マーガトロイドだし、姉妹だとしても可笑しくないわね。」
「まま、姉妹を名乗ったとしても、夫婦である事は事実だしな。トラブルを避けるためなら、やむなしと言った所か。」
「そうね、それが原因でトラブルに巻き込まれたら大変だもの、ね。あなた。」
 
 その一言でアリスと顔を見合わせる。ココロの根底にがっちりと結ばれた絆を感じた。口ではどう言っていても、今の私達はココロの根底から信頼出来る。その証に私は、アリスの右手にそっと、手を置いてあげた。

 「まぁ、色々と重要な事はありますが、このマニュアルに書いてある事を守れば外の世界でも快適に過ごせますわ。何より相手も私達と同じ形をした人間、道に迷ったりなんかした時は話せば助けて下さる人もいらっしゃいますわ。」

 そうだった、住む世界は違うが、相手は全員人間なのだ。人外の類は幻想郷に流れ着いた事から考えると外の世界では人間との交流が増えるのにここで気が付いた。
 私は人間なので問題は無い、アリスは魔法使いだがその点を黙っていれば全然普通の人間と変わりなく過ごせるだろう。

「で、服装の件ですが・・・これは全て無償で私がご用意させて頂きますわ。」
「え、そこまでして貰って良いのか?」
「良いのよ。新婚さんへの私からのささやかなプレゼントですわ。」
「・・・何か企んでたりしない?」
「全然、獏や霊廟の異変解決の件もありますし。お礼位させて頂きたいものですわ。」

 紫の清々しいまでのさっくりとした返答に、私達も面喰らった。ホントに見返り無しなのだろうか。まぁ、何かあったら弾幕ごっこでケリ付けたらいいので、私達はその申し出を受ける事にした。紫は相変わらずの様子で魔力の冷房が効いているのにも関わらず、扇子で頬を仰いでいる。

「では、コーディネートはこーでねぇとではありませんが、外の世界の事情に詳しい方に見て頂けるようにしてありますわ。お昼過ぎになったら、守矢神社にいらして下さい。」
「早苗に見て貰うのね。結構お洒落な服持ってるし、着こなしも可愛いもんね。」
「確かに。巫女服着て無い時の早苗は、ハイセンスだもんなぁ。」
「私もお手伝い致しますわ、きっと二人にお似合いの服が見つかるはずよ。」
 
 そう言うと紫は、立ちあがって踵を返した、私達は紫を見送るために玄関へと向かう。玄関に立つと何も言わずに、すっと空を扇子で斬った。玄関の意味がまるっきり喪失しているような気もしないでもないが、お見送りをするという私達の気持を察してくれたのだろうか?隙間が開くと、紫は私達の方を向いて一礼して

「では、私はこれで。」
「朝食、ありがとなぁー。てか、紫が料理するのって初めて見たかも。」
「こう見えても、藍を育てて来たのは私よ。あの子が大きくなるまでは私がずっとこうして面倒を見て来たのですわ。」
「なるほど、紫にもそんな時期があったのね。」
「随分と昔の話になるわ。あの頃は小さくて可愛かったのよー」

 紫の表情が慈愛を含んだ物に変わる、それは母親の優しい表情だった。そんな紫に育てられた結果、今の藍が大変立派に務めをこなせるようになりアレだけグータラかませるのではないか、という想像もできた。
 私も母親になったら、かつて私に惜しみない愛を注いでくれたように、私も愛を持って子供に接していきたいなぁと思う。

「ま、それはまたの機会に教えて差し上げましょう。守矢神社に昼過ぎに集合して下さいな。」
「「はーい」」

 紫がスキマに消えたのを確認した私達はそっと手を繋いでダイニングルームに戻って、マニュアルを熟読し始めた。出来る事は、出来るうちに、やんないとなぁ。

 
―相変わらずの蝉の声が、寄り添ってマニュアルを読む私達の耳を揺さぶり続けていた。


ミ☆


 真夏の昼下がりの守矢神社の早苗の部屋。外の世界からそのまま持ってきたというその部屋には、漫画のポスターが数点張られていたり、外の世界で人気があったというロボットの模型が置いてあったりする。しかし、清潔に保たれており、鏡の前に置かれた化粧品や壁にかかっている服を見ると、彼女の趣味と性格が何処となく見えてくるような気がする。

「やっぱり、珍しい物が多いですか?」
「ああ、宝の山なんだぜ。私にとってはなー」
「死ぬまで借りるのは止めた方がよろしいですわ、末代まで祟られてしまうかも。」
「残念、嫁さん残して死ぬ気は無いんでね。それに、死ぬまで借りたら嫁さんに怒られるんだぜ。」
「そうよ、借りるなら返せる期日をちゃんと決めて借りないとダメだからねー」
「おう。」

 横でアイスティーを飲む魔理沙も随分変わった。蒐集癖は相変わらずな物の、本をさっくり盗んだりとかする事は無くなった。流石に自分の嫁さんが幻想郷一の手癖の悪い女の子だと言われるのは嫌だもの。同棲している期間中に、その悪癖を何とか矯正出来たのはやっぱり愛の力で、もし死ぬまで借りたらワザと浮気して指輪を爆発させると警告したのだ。すると、青ざめた魔理沙は
 
「私が死ぬまで借りるのはアリスだけだもんな。あんとき、そう言ったもんな」
「ふふ、そうね。だから私の事は魔理沙にあずけとく、でも一人ぼっちにはさせないでね。」
「勿論なんだぜ。」

 そのやりとりに無言で紫は持参した扇風機の強さを上げ、早苗も奇跡で起こした風の強さを上げて来た。

「暑いですねー、二重の意味で。」
「それはそれは、残酷な話ですわ、ね。早苗も良い人探しなさいな。」
「そ、それはまだ・・・です、はい。」

 早苗を嫁に貰うとすれば、あのトンデモない二柱の神様を納得させなくてはなるまい。早苗が誰かに惚れても、惚れた奴が軟弱者だとその縁談は見事に破談する可能性は高いだろう。
 まぁ、あと数年もすればそんな事もあるんだろうなぁと思いながら、私は早苗に一言助言をする。

「大丈夫だ、早苗。きっと良い人見つかるんだぜ。奇跡もきっと起きるんだぜー」
「だと良いのですが。でも今は、色々やりたい事があります!」
「勢い余って私まで退治しに来ないでよー」
「分かってますよぉ。では、紫さん・・・アレを。」
「ええ、今お出し致しますわ。」

 私達が今から行こうとしている外の世界から来た早苗は、すっかりこの世界に順応している。よく笑い、公言している常識に囚われないという姿勢でこの魑魅魍魎の跋扈する世界において、活躍を見せている。
 そんな早苗が外の世界でどう過ごしていたのかはちょっと気になる所ではある。

 空を飛んだり魔法を使ったり、およそ普通の人間が使えない能力を使う事が出来ない世界で、風を起こし神を降臨させたりする早苗はどうその能力と向き合ってきたのだろうか、と。

 そんな早苗は、嬉々として紫から受け取った外の世界の本をパラパラっとめくる。そこにはお洒落であったり可愛かったりと、女の子なら誰でも憧れそうな服を着た人の写真が沢山収められている。その本が非常に綺麗だった事から、比較的新しい物である事はすぐに分かった。

「ではでは、始めましょうか。んーと、魔理沙さんに似合うのは・・・と」
「私、こんなの着てみたいんだぜ!」
「あら、魔理沙ったらハイセンスね。特に帽子の辺りが・・・」
「外の世界は此処とは違い暑いですわ、帽子は必需品ですわよ。」
「この帽子、今の魔理沙さんのとそっくりですね。」
「そうか?随分小さいと思うんだが・・・それに、ウイッチハットじゃないぜー」

 黒い帽子に白いリボンが入った小さなつばが付いた物を指差しながら、魔理沙が満面の笑みを見せる。すると、紫が隙間から同じ帽子を取り出していつもの帽子を脱いでいる魔理沙の頭に被せた。

「はい、どうかしら?全身鏡も如何?」

 隙間から全身鏡が現れた。いつものエプロンドレスと、外の世界の帽子の対比には少し違和感を覚える。いつもよりつばが小さいからストンとした印象を受ける。私も、人形の服を作る加減で、そう言うのにはすこし煩い。
 
「うーん、なんか頭がストンとしすぎてるような。」
「アリスさんもそうお考えですか?」
「そうね、下が末広がりになってるから余計にそう感じるのかも。」
「いっそ全部ストンとさせてみるのも良いかもしれませんわ。線が細い分、美しいラインが強調できるかもしれないし。」
「ふむ、名案ですね。では・・・この服をお願いします。」

 早苗が指を刺したのは、ズボンとTシャツ姿が眩しい如何にも若々しさが伝わってくる服装だった。紫はその服を見て、ふむと一言発して隙間を開いて同じ物を取りだした。

「じゃあ、コレを。」
「おぉ、ありがとな紫。早速着てみるんだぜ。」
「えっ、此処で着替えるの?」
「心配すんな、いつものアレで着替えるからさ。」

 パチンとウインクする魔理沙。流石に同性同士とは言っても、皆が見てる前で服を脱ぐのかと少しだけ心配しちゃった私。魔理沙は結構大胆で、そういう事を私の前では意に介さない時もある。でも、やっぱりその辺の事はちゃんと分かっているみたいだ。

「じゃぁ、行くぜ。それっ!」

 着替えるための魔法をかけた魔理沙。煙が晴れると、私が今見ている雑誌のモデルさんのような服に身を固めた魔理沙の姿があった。先ほどのお洒落帽子にすっきりとした白のシャツ、そして・・・いつものスカートとは趣が完全に異なるGパン。
 
いつもより行動的な側面が色濃く出た出で立ちに仕上がっていた。

「どう・・かな?」
「うーん、いいわね。いつもとは違う印象を受けるし、可愛いわ。」
「アリスがそう言ってくれたら凄く嬉しいんだぜ。」
「うん、魔理沙さんは活動的なイメージの中にも女の子らしさを出して行く方向で、まず一つ決まりですね。」

 早苗が満足げに頷いているが、魔理沙は何故かそわそわしている。その理由を知りたくなった私は、すぐに魔理沙に質問をぶつけてみた。

「ねぇ、魔理沙・・・どうしたの?」
「ズボンなんて穿いた事あんまり無いから、何か新鮮な気分だぜ。」

 確かにそうだ。普段はエプロンドレスだから、今のズボン姿には少し違和感を覚える。しかしながら、その美しさは全く損なわれていない。私はその愛しい姿を眺めていたが、ふと一つの箇所に視線が止まった。

「そうね、お尻のラインが綺麗に見えるわー」
「ど、何処見てんだよ!?」
「良いじゃない、普段・・・ずっと見てるし。」
「ぅう・・・マジ勘弁だぜー」

 恥じらう魔理沙は凄く可愛い、これは断言できる自信がある。普段はそんな姿を見せないので余り知られていないが、恥じらう時は乙女モード全開なのでたまらない。誰も居なければそこで擦り寄ってみたかったのだが、早苗と紫が居る状況でそれは不可能である。
 だから、私はその想いをそっと心の中にしまった。

「じゃあ今度は魔理沙のリクエストで、これね・・・はい、では。行ってみましょうか。」
「ようし来た、それっ!!」

 取り出した服を片手に再び魔法の詠唱が行われる、そして煙が晴れると、これまた可愛らしい魔理沙の姿があった。但し、今度は長めのスカートを穿いたいつものような姿。可愛らしさとか女の子らしさを前面に出した出で立ちに変わった。

「やっぱり似合いますねー、元が良いからですね。」
「早苗、褒めても何も出ないぞー」

 鏡の前でくるっと一回転する魔理沙、しかしこの時、魔理沙は自分の重大な異変に気が付いていた。魔理沙はスカートの前を押さえて、顔を一気に赤らめている。

「同じスカートでも何か足がスースーするんだ・・・ズボンの時は気にならなかったけど」
「あぁ、成程。ドロワ―ズじゃないもんね。」
「だよなぁ、一式着替えちゃったから気が付かなかったが・・・」

 普段の魔理沙はドロワ―ズ一択である、理由はスカートの中身を気にする事無く豪快な立ち回りが可能だからと教えてくれた。それが通常のショーツともなれば、露出面積は大きくなるし、独特のもこもこした感じも無い。そこが違和感の原因だと私は思った。
 
私はドロワ―ズでも結構気にするけどなぁ・・・

「外の世界ではドロワ―ズ穿いてる人はレイヤーの皆さんだけですねー」
「レイヤーってなんだ?」
「今私達が来ているような服を身に付けて楽しんだりする人達の事です。でも、それはあくまでもイベント中のお話で、レイヤーの皆さんも普段はこんな格好なんです。」
「・・・これは、慣れてないから少し恥ずかしいかも。」
「でも、ドロワ―ズ穿く方が外の世界では注目されちゃいますよ。」
「うぅ・・・頑張って慣れるんだぜ。」

この後も何着か試着しながら恥じらうお嫁さんのファッションショーを堪能、満喫した私は、外の世界の服のまま色んな服を手にして喜ぶ魔理沙の顔を見て自分も幸せになった。普段のエプロンドレスにもちょっとした変化を求め続ける魔理沙のお洒落に対する気遣いはかなり強い。

 
 目の前に居るのは、魔法使いの魔理沙では無く一人の女性としての魔理沙なのだ。


「じゃ、次はアリスの番な。私はこんな服がアリスに似合うと思うんだけど・・・」
「どれどれ?」
「これは・・・キャミワンピとカーディガンですね。スタイルが良いから似合うかもしれませんね。」
「そうなんだぜ、普段の服も可愛いけど、こういうアリスも見てみたいと思ったんだー」
「そうね、折角の旅行なんだし、挑戦してみましょうか。」
「よしよし、では、早速。」

 服を持った私に素早く魔法をかける。指輪が共鳴し送られてきた魔力が私の周りで弾けて、服装を綺麗に入れ替えてくれた。煙が晴れて私が全身鏡を見ると、そこには先ほど見たモデルのような雰囲気の私の姿があった。

「おぉ・・・かわいいぜ。」
「そうですね、アリスさんの大人な雰囲気が良く出てます。」
「流石、毎日見ているお嫁さんならではのセレクトですわね。」
「ありがとう、魔理沙。素敵な服を選んでくれて。」
「えへへ。」

 褒められた魔理沙はホントに嬉しそうな顔をして、再びファッション誌に目を落としたあれがいい・・・でもこれが・・・等と言いながら私の為に色々と考えてくれている。
 が、まかせっきりなのも良くないし、そもそも私の好みの問題もあるので自分でもちゃんと探すのを忘れない。

「このズボンとキャミワンピ、すごくお洒落ね。」
「そうですね。ズボンと合わせるタイプも試してみますか?」
「うん、どんな感じになるか興味あるもの。」
「じゃあ、ご用意させて頂きますわ、はい、出ましたー」
「ようし、早速いってみよう・・・とりゃぁ!」

 紫の出してくれた別のキャミワンピにシャツ、それにズボンを合わせた私。スカートでは無い自分の姿は凄く新鮮で、魔理沙のように何処へでも行けるような行動力を感じさせるようだ。
そして感じる下半身の違和感。ロングスカートとは違い足が覆われている感覚は実に新鮮だった。そして、同時に考えた事は、下半身の違和感についてだ。何とも言えない感触に妙な気分になった。魔理沙とは違って、その日の目的等に合わせて下着はセレクトするが、ズボンはこれまでに穿いた事が無い。

「魔理沙の言ってた事がよーく分かるわー」
「だろ?ズボンって、結構面白いよなぁ。」
「そうねぇ、魔理沙も普段これで過ごしたら?弾幕の時、スカート、気にしなくても良くなるわよ?」
「うーむ、それはダメだ。あのいつもの服は、魔法使いの正装だし。」
「ズボン姿で弾幕する姿もちょっと見てみたかったなー」
「アリスがそう言うなら・・・考えてやらなくも無いんだぜ。」

 可愛いからと言うのもあるが、実は魔理沙のアクロバティックな高機動戦闘の中にある恥じらう一瞬の隙を消す事が出来れば更に魔理沙は強くなれると私は確信しているが故のアドバイスである。スカートを押さえたりすると両手が塞がってしまい柔軟な対応が取れなくなる可能性は何時でも付きまとっている。
 そう、互いの戦術の考察等も私達夫婦の大切なコミニュケーションなのだ。

「それは確かにありますね、私もその辺は気にしますし。」
「そうですわね、でも中々ズボンは少女達の間に浸透しませんわ。」
「リグルとか、村紗はズボンだよな。アレでスカートだったら、不意打ちキックとか錨をぶん回す時に見えて仕方ないだろうなぁ。」
「逆に文なんて短いし高速で飛ぶから見える事も多いかもね。」

 皆の服装について色々と話しする私達。幻想郷の弾幕少女のほとんどがスカートを着用するため、このズボンという存在が如何に珍しいかと言う事を物語っている。凄まじい動きをする妖怪に限ってズボンを着用していないケースが多かったりするのも、乙女の恥じらいを持っているのかとツッコミたくもなるが・・・
 私も近接弾幕戦では激しくスカートが揺れてるので、人妖の事は絶対に言えない。
 
「おお、これもアリスに合うと思うんだぜ。スタイルの良さが前面に出そうだぜ。」
「へぇ、魔理沙さんも中々いいセンスですねぇ。」

他にも数点、気になる服をお互いに身につけたり、時には紫や早苗も外の世界の格好をしたりして、ファッションショーを心ゆくまで堪能した私達。時間はあっという間に過ぎ、何時しか夕焼け前の太陽の光が、早苗の部屋に差し込んでくる時間となった。

「あぁ、一生分位色んな服を着たんだぜー」
「そうね、でも色々発見出来て楽しかったわ。」
「私も久々に友達とこんな話が出来て嬉しかったです。」

 服を一通り用意し終えた私達は、人形達に持ってこさせた各々のトランクケースにその頂いた外の世界の服を詰めさせた。そんなに長くは滞在しないので、程々に纏める事ができたようで、他に必要な身の回りの物を入れるには十分なスペースを確保するのは容易だろう。
 その横で、魔理沙はあいも変わらず好奇心に満ちた顔のまま、今度は水着の写真を早苗と紫と眺めている。

「失礼ですが、水着はお持ちですか?」
「一応持ってはいるけど・・・私のはともかくとして魔理沙の水着は・・・」
「そうだな。悪くは無いが、ちょっと胸回りがきつくなったんだ。」
「じゃあ、魔理沙さんのも今のトレンドに合わせた物にしましょう!」
「おー、嬉しいんだぜ。」
「ふふ、では魔理沙にはこのような物を・・・」

 紫が隙間から新品の水着を取りだした。今度のは私と同じビキニタイプだが、魔理沙らしく白と黒に彩られた水着である。所々に付いた星の装飾がアクセントのイイ一品である。

「おぉ、可愛いな。では・・・早速。」

 再び魔法を唱えると、先日の水遊びの時よりうんと大人な魅力が出ている魔理沙の水着姿がそこにあった。眼福である。

「すごーい。魔理沙さんって着痩せするんですねー」
「そうか?元々貧相だったしな・・・」
「そんな事無いわ、魔理沙は可愛いわよ。」
「ありがと・・・アリス。」

 確かに歳を重ねる毎に、魔理沙は成長したがスタイルだけは中々成長せず、最近になってようやく・・・と言った所のこの魔理沙。新しい水着は、そんな魔理沙の魅力をフルに引き出すには十分以上の可愛さを秘めている。この水着を着て、魔理沙と二人で海岸線を追いかけっことか出来たら、どんなに幸せな事だろうか。
 すぐそこにある幸せの一時を想像する私であったが、何かを思い出したかのように早苗が私達に向けて

「外の世界に遊びに行くと言ってましたが・・・滞在費とかって如何されるんですか?外の世界では、こっちの通貨は使えませんし・・・」
「外の世界には外の世界のお金があるのか・・・それは容易に想像できたがー」

 魔理沙が言葉を紡ごうとした瞬間、紫が魔理沙の目の前扇子をパッと開いた。さりげなく扇子に、私にお任せと書いてあった辺りが紫の性格をよく表現している。

「紫、私に任せろって・・・?」
「ええ、外の世界での滞在費ですが・・・これをお貸しします、返す必要はありませんが。」

 紫がポケットから取り出した財布はずしりと重く、中身を調べると、そこにはぎっちりとお札が詰まっていた。他にもカード等が数点挟まっているのが分かる。外の世界の貨幣価値の分からない私でも、これが相当な大金である事は想像がつく。

「わっ、凄いお金だ・・・こんなに使えないぞ。」
「紫さん、お金持ちなんですねぇ!」
「ふふ、隙間を使えばチョチョイのチョイですわ。」

 財布の中身を見た早苗は目を見開いて驚いている。外の世界の人が仰天する位なのだから、このお金はかなりの金額なのだろうと言う事がここではっきりとした。

「スキマで無くても、外の世界でまっとうにお金を得る手段も心得ておりますわ。」
「それでもこの金額は凄いですよー、私の一生分のお年玉より遥かに多いですよ、これぇ。」
「他にもこんなものを持てる位には働いてますわ、ホラ。」

 早苗は胡散臭い笑いを隠しながら佇む紫から手渡された黒いカードを見た瞬間に、ショックを受けたのかその場に倒れ込んだ。おニューの水着姿の魔理沙に起こして貰えるのはちょっと羨ましいなぁと思いながらも、ふらつく早苗を支える私達。

「ぶ、ブラックカードとは・・・何と言う物を・・・・・!」

 驚いた早苗がそんな事を呟いていたが、その言葉の真意を知るのは旅行に行ってからであった事を追記しておく。
 そんなこんなで、衣装選びも無事に済ませた私達はいつもの服装に戻って、早苗も交えたとりとめのない外の世界談義をしていた。暮らし、文化・・・いろんな点で私達の住む幻想郷とは異なる外の世界に、俄然興味が湧いてきた。
 そんな世界を早く見たい、そう思っていた私であったが、その意を察したのか紫が私と魔理沙の方を向いてこう尋ねて来た。

「出発は何時になさいますか?」

 私は魔理沙と顔を見合わせて、議論に入る。有難い事に、最愛のお嫁さんも考えてる事は一緒だったようだ。

すぐにでも旅に出たい。しかし、今日はもう遅いしまだまだ旅の支度は残っている。

 答えをアイコンタクトで共有できる素晴らしい愛しのパートナー。私は魔理沙にその答えを伝えて貰うように合図を送ると、魔理沙はニカッと笑い、紫に答えを伝えてくれた。

「良ければ明日が良いんだぜ。」
「そうね、思い立ったが吉日ですわ、あいわかりました。」

 私と魔理沙が明日に出発したいと言う意思を伝えると、紫は優しい笑みを浮かべそっと私達の肩を叩いた。

「じゃあ、明日の朝に、貴女達の家から出発しましょう。時間厳守でお願いしますわ。」
「分かった。じゃあ、服は準備できてるから、念のために薬だけ貰ってくるんだぜ。」
「うん、じゃあ私、タオルとか、此処で準備出来なかった物とおゆはんの準備をしておくわ。」
「決まりですわね、ではまた明日お会いしましょう。」

 とだけ言って、紫は全面鏡と共に姿を消した。部屋に残された早苗と私達は、残されたファッション誌を片付け始める。

「外の世界に行ったら、ファーストフードを是非一度体験して見て下さい。」
「ファーストフード、何それ?」
「幻想郷では一般的ではありませんが、ハンバーガーとかの事です。私も学校帰りによく食べてましたね・・・向こうの友達と。」
「へぇ、そいつは旨そうだな。一回行ってみるよー」
「はい、きっと気に入っていただけるかと思います。」

 その言葉を発した時に感じたどこか寂しげな早苗、向こうに友達を遺して来たのだろう。確かに常識に囚われない所はあるが、根は優しく真面目で、おおらかな人だと言う事は私も魔理沙も知っている。

「懐かしいなぁ・・・・・何もかもが。」

 夕焼けの光が入り、早苗の部屋を紅く染めあげる。その早苗の表情を窺い知る事は出来なかったが、声が少し震えている。暫く燃えるような紅い空をただじっと眺めていた早苗は、二柱の言葉で我に返る事になる。

「早苗、そろそろ食事の準備を始めようか?」
「お腹が空いたよ~、早苗ぇ~」
「あ、神奈子様、諏訪子様、すぐ行きますよー」

 袖で顔を拭った早苗は私達の方へ向きを変え、少し紅く染まった顔を私達に向けた。いつもの穏やかな表情に戻った早苗は、

「では、食事の準備があるのでこれにて。今日は楽しかったです。」
「そうね、私達もおいとまさせて貰いましょうか。」
「ああ、そうだな。他の準備とかもあるから、それをきっちり済まさないとな。」

 早苗達に別れの挨拶を済ませた私達は、各々の役割に従って仕事を始める。魔理沙は永遠亭の方へ飛び、私は私達の家へと戻る。
 
真っ赤に染まる夕焼けが、散開して事に当たる私達を見守っていた・・・・



 Day1.旅立ちの日



 旅行の諸注意と服選びを終えた翌朝、未知の世界に旅立つ前の独特の高揚感のせいで眠れなかった私は、新居の玄関で荷物を詰めたトランクを左手に持ち右手で欠伸を隠した。

「みっともないわよ、魔理沙。」
「ごめん、興奮しすぎて眠れなかったんだ・・・アリスも知ってるだろ?」
「そりゃあ、まぁね。いつも寝付きはいいからどうしたのかなぁとは思ってたんだけど。」

 アリスと一緒に眠ると、何時もなら愛の余韻に浸りながらスコーンと眠れるのに、今日ばかりはそうはいかなかった。愛の余韻と旅立ちの前の興奮という二段構えの構図には流石に私のココロも休まる暇は無かったらしい。
 
「そろそろ来るころかなぁ・・・」
「そうね、そろそろ。」

 玄関のドアが開くのを今か今かと待ち続ける私達であったが、ここで重要な事を失念していた事を私達は後で後悔する事となる。
 
相手がドアと言う物を使わなくても自由に出入りできる大妖怪だったと言う事だ。

「きゃぁ!」
「うわわっ!」
「はぁい、禁呪の詠唱組御一行様、本日のスキマ便をご利用頂きありがとうございます。現地は晴天です、真夏の暑い太陽が照りつけております・・・・・」

 ホント、神出鬼没とはこの事だ。神や鬼の方がまだ気の効いた登場の仕方をしてくれる。天井から逆さまになって登場した紫は、私達の腰を抜かせるのには十分だった。

「ゆ、紫!?いきなりなんて酷いわよ!」
「スキマ妖怪にドアは不要ですわ~、とうっ!」

 逆さまになった状態から、華麗にかつしなやかに一回転を決めて私達の前に立った紫であったが、印象が大きく異なっていた。
 そう、いつもの服装では無く、外の世界の服装でバッチリコーディネートされている。いつもの帽子は無く、頭にサングラスをかけたアバンギャルドな姿だった。歳を考えろと言ったら負けなような気がするが、似合って無いどころかとても映えるその姿には思わず私も息を飲んだ。

「私もいつもの格好だと怪しまれてしまいますのでね。」
「でも、凄く着こなし慣れてるっていうのか・・・何と言うか。」
「夏にはあまり外に出る事は無いので、冬に比べると不慣れな方ですのよ。」

 いつもの扇子は常備しているらしく、ズボンのポケットから出したそれで口元を隠す仕草をしている。表情を読み取られない様にでもしているのかなぁ。紫は二三回自分を仰ぐと、パッと小気味よい音を立てて扇子を閉じた。

「準備はいい、お二人さん。」

 その一言に手を繋いでコクリと頷く私達、紫はふっと表情を緩め、すっと扇子で空を切った。その軌跡が歪み、色んな物が浮遊している空間が姿を現した。スキマと言う概念にはあまり詳しくは無いが、様々な物の境界を埋める物を切り裂いたモノという認識が当てはまるような感じの、醜くもそれでいて美しい空間であると言うのが私がスキマに抱いているイメージだ。

「・・・これから向かうのは外の世界の神戸と言う町、日本らしさと早期に欧米の文化と交じりあった結果、独自の良さを持つに至った町ですわ・・・」
「あぁ、ある程度は予習してきたんだぜ。」
「素敵な場所だと書いてあったわ。」
「そうね、色んな物があって面白い街よ。では、こちらにどうぞ・・・」

紫に導かれて、私達は手を繋いでスキマを潜った。めまぐるしく世界が変化し、気が付くと、何処かの家の一室に入っていた。窓を見ると普段空を飛んでいる時にとる高度位の高さがある事と眼下に広がる銀色の摩天楼が、此処が幻想郷ではない事をすぐに教えてくれる。

 ―此処が、話に上がる外の世界。

「はい、到着。」
「ここは・・・?家、みたいだけど。」
「私の別荘の一つよ。はい、外の世界の冷えたお茶。」
「「別荘!?」」
「まっとうな手段でお金を得るため色々手広くやってしまった結果がこれだよ!!!と言えば宜しいのでしょうか・・・まぁ、小さな家ですがごゆっくり。そこのソファーはフカフカですわよ。」

 まぁ、何をしているのかは知る由も無いが、紫は外の世界ではどうも相当なお金持ちだと言う事は黒いカードを見た時の早苗の卒倒加減を加味しなくても分かる。促されるまま私とアリスはソファーに腰掛ける。しばらく身を寄せてそのふかふかな感じを満喫していると、紫が台所と思しき場所から、沢山のお菓子がはいったお皿を持ってきた。

「お菓子も色々あるわよー、宴会の時にもお持ちした物がいくつかありますが。その辺は御愛嬌と言う事で・・・・・お口に合えばよろしいのですが。」
「おぉ、すげぇ!とりあえず食べてみるか。」
「そうね、食べましょう。滅多にお目にかかれないもの。」

 大皿に盛られたお菓子はいずれも美味しかった。クッキー、チョコレート、ポテトチップス・・・何れをとっても幻想郷には中々無い味だった。

「しかも、これ、子供のお小遣い程度の値段で買えますのよ。」
「こんなに美味しいのに?」
「ええ、工業化の恩恵を受けた結果ですわね。このエアコンもそうですわ。」
「そうね、外は暑そうなのに、この部屋、凄く涼しいわ。」
「冷たい風・・・チルノが喜びそうだぜ。」

 冷気を常時放出するエアコンと言う機械が作るこの快適な空間で私達はのんびりとした時間を過ごした。普段、紫とこんなにお喋りするチャンスが無かった・・・というか、底が知れない印象が強く私から避けていた分もあるが、紫という大妖怪の暮らしっぷり等の断片を少しだけ垣間見る事ができた。
 
「これ、幻想郷に持って帰れるかな?」
「うーん、まだ幻想郷にはちょっと早いですわ。道具も時期を見て与えませんとね。こうして集めた道具も時期を誤れば、幻想郷に悪影響を及ぼす事もあります故・・・」

 外の世界の道具を愛する幻想郷の為に時期を見ては持ち込んでいる、そのために外の世界でも活動している、それがもう一つの大妖怪の姿なのだろう。
 外の世界から隔絶されたとはいえ、技術は少しずつ進化している。その進化に紫が関わっているとなると、とてもぐーたら妖怪等とは呼称できない。
 
 ―胡散臭いのは間違いないが。

 そんな事を考えながら外の世界の良く冷えたお茶と、様々なお菓子を平らげた私とアリスは、ソファーの感触もあってすっかりくつろぎムード。二人っきりならそのまま身をくっつけて、お喋りしてしまいたくなるほどの心地良さ。
 肩に手を回して、身を寄せ合うのはいつもの事だが。その様子を見ていた紫は、ふふと笑ってから何か・・・はたてが持っているような機械を触ってから、すくっと立ち上がって。

「一度町を歩いてみない?ブラブラして、どこかイイ店でランチにしましょう。」
「おう、行ってみたいんだぜ。外の世界の素敵な場所、沢山見たいんだぜ。」
「観光名所もありますわ、近くまで連れてってあげるから、後は二人でごゆるりと・・・」
「ありがとう、紫。」
「まぁ、折角の新婚旅行、心ゆくまで楽しみなさいな。」

 紫に連れられて私達は家のドアから銀色の魔天楼が支配する世界に飛び出して行った。幻想郷と変わらぬ照りつける真夏の太陽が、幻想からやってきた私達を何事も無かったかのように照らしていた・・・

 

 ―幻想から現実の世界へ、私達の旅は始まったばかり・・・

 
 To be continued…
―地の色は銀、空の色は蒼・・・幻想から現代に降り立った魔法使い達。
  見るもの全てが真新しいこの世界で、恋色の婦々は何を視るのか・・・

 さあて、あっついですね(二重の意味で)蝉の声を聞くだけで体感温度が上がります。見た目も性格も暑苦しい事に定評のある程度の男、タナバン=ダルサラームどえす。

 いよいよ始まりました、夏の連作。新婚旅行編と言う事で、幾つか課題を設定して激烈な甘さを伴う作品にしていきたいと考えています。
 
 まず1つ目は現代入りと言う点、非常に難しいテーマだとは思いますが、海や色んな物を視てこの魔理沙とアリスには成長して欲しいなと言うのと、現代の街をキャッキャウフフしながら旅をする二人を書きたかったのがきっかけ。外の世界ならではの世界観を生かしたこれまでとは違う表現をしたいなぁと思います。
 
 2つ目は虚構の中のリアル。これは、敢えて実在の物の中にフィクション的な物を混ぜる事により想像が膨らみやすくなるのを狙っています。とある映画監督が提唱した技法なのですが、小説に輸入するとどうなるかの実験を兼ねています。

 まだまだ語りたい事はありますが、今回はこの辺で。

 次回作で、またお会いしましょう!!
タナバン=ダルサラーム
http://atelierdarussalam.blog24.fc2.com/blog-entry-44.html#comment4
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
これから、どんな物語になるか楽しみです
2.名前が無い程度の能力削除
早苗の友人と会うフラグ?を感じたがどうかな?
3.名前が(以下同文)削除
相変わらず暑いですね。                          隙間を使えばチョチョイのチョイ>まさか銀行を・・・
4.名前が無い程度の能力削除
現代入りって個人的に好きなジャンルなので楽しみですね
しかも好きなキャラ同士の新婚旅行だなんて興奮するじゃないっすかグフフ
5.名前が無い程度の能力削除
現代入り自分も好きだなあ
働き者ゆかりんを久々に見た気がします