Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

曖昧びしょ濡れ少女

2011/07/02 00:29:51
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ざぁ、と雨が降る。





"曖昧びしょ濡れ少女"




さっきまで曇り空だったのだ。
雨は降らないだろう。そう確信できるものがないというのに、
何故かそう思ってしまったのが、きっと悪かったのかもしれない。

用心という言葉を、信じるべきだった。

「はぁ…」

溜息を吐くしかない。
私―封獣ぬえ は命蓮寺の屋根で、空を見上げていた。
何もすることがなかったのだ。

夏の空は薄い青色。秋の空は濃い青色。
だが、曇り空はいつみても灰色だ。面白みもない。
だけれど、何もすることがなかったから、空を見ていた。

そこにやってきた突然の雨は、
容赦なく私の体を濡らし、気持ちをもだるくした。

このまま寺に戻るのがいいだろう。風邪をひいてしまうかもしれないから。
だが心までも淀ませた水は、私の体を動かさせない。
まるで呪縛。ああ、べとついた服が気持ち悪い。


「風邪ひくよ」


上から声が聞こえる。顔にだけ雨が降らなくなった。
紫色のださい傘を差した奴―多々良小傘 が私の顔をまじまじと見ている。
いつもなら、うるさいだとか、何見てんだよとか。悪態を吐けるが、
今はそんな気力さえもなく、小傘の言葉に曖昧な返事を返すしかなかった。


「ぬえちゃん、風邪引くよ」
「ふぅん」


心配しているのはわかる。わかるから、悪いと思うのだ。
悪いと思うのは、曖昧な返事を返してしまう事ではない。
返事を返すだけで、何もしない自分が悪い。そう思っている。
小傘はそんな私をじぃっと見つめるが、最終的には何を思ったのか、
隣に濡れているというのに、腰を下ろして、昼でも差している傘を畳んで、隣に置く。

「んぁ?」

それを指摘しようとするが、気力がなくて、また曖昧な返事をする。
しかしそれでわかったのだろう。小傘は「あぁうん」と傘を撫でて笑う。

「私は雨が好きなんだよ」
「へぇ」

あ、また曖昧な返事をしてしまった。
少しそっけなくなってしまったのじゃないか?
そんな私の予想を斜め上にいって、小傘は笑った。

「ふふ、ぬえちゃんは雨に好かれてるね」
「…はぁ?」

ここで私は、雨に打たれてから初めて、
まともに喋った。いや、気持ちを込めて発言をした、というのが正しいか。

「だって、寺に帰らせて貰えないじゃない」
「…はぁ」
「羨ましいよ。私はこんなに雨が好きなのにさ、
 目の前で別の子に、好意を寄せられてるの見てると、悲しくなっちゃうね」

一人で、妬んだり、悲しくなったり。
まるで雨を「生きている」かのように言うなんて。
雨は雨だ。ただ水蒸気が降りてきているだけだ。自然現象ではないか。
…いや、小傘のような思考から、私達「妖怪」が生まれるようなものだから、
別に生きていると解釈しても、全然いいのかもしれない。

「ぬえちゃんは、雨好き?」
「え?んー…」
「曖昧な返事、しないで」

突然決断を迫られた。何を言っているんだこの化け傘は。
だけれど、その色が違う2つ目は、本気で言っていると語っている。
はぁ、と溜息を吐くと、私は雨が口に入らないように気をつけて、喋る事にした。

「雨は、じめじめするし、濡れるし。だから好きじゃない。
 だけれど別に嫌いでもない。ただアンタが思っているような好きじゃないの。
 そうね、英語だと「LIKE」と「LOVE」の違い。私は「LIKE」なの」

ゆっくりと喋ると、小傘は静かに頷いて、微笑んだ。

「そっか」

そして立ち上がると、傘を差して、私に背を向ける。

「私も雨は「LIKE」だよ。でも、雨のような人は「LOVE」かな」

そういって飛び立っていった。
その意味はわからなかった。

しばらくして、そろそろ本気で寒くなってきたのもあって、
気だるい体を起こし、寺の中にへと入った。…風呂、都合よく沸いてないかな?











現実は、上手くいくわけがなかった。


沸いていたのは風呂ではなくて、一輪の怒り。
びしょ濡れの私は思いっきり怒られながら、タオルでごしごしと体を拭かれ、
その後にやっとこさ、風呂を沸かしてくれた。
ついでに、風呂嫌いなムラサも強制的に入れられてしまった。

「あぁ、水が…体に…うぅ」
「これお湯じゃん」

湯船で2人して―別々の意味だが―溜息を吐いた。

「思ったんだけど、どうしてそんなに水が嫌いなの?」
「あー、まぁ、うん」

しまった。今のは失言かもしれない。
私は、地底にいた頃のムラサを知っている。
不本意ながらも彼女の過去も、知ってしまっているのだ。
それをわかっていながら、今更理由を聞くのは、あまりにも失礼すぎたかもしれない。

「そんな暗い顔をしないでくださいな。
 理由はただ、雨みたいだからですよ。」
「雨ぇ?」

雨といったら、今の天気と先ほどの小傘の会話。
失言をしたわけではない安心感と、気になるという好奇心が混ざり、
思わずムラサの目を見つめて、続きを求めた。

「雨って、じめじめしてるじゃないですか。じめじめして、
 服にくっついてくる。鬱陶しいのに、たまにいとおしくなります。
 だから、何とも言えないというか。
 そんな感覚が、風呂上りの後の着替えに、似ている気がするのです」
「曖昧だねぇ」
「ぬえは、雨は好きなのですか?」

同じ質問をされた。その時、ふと小傘の答えが頭に浮かんだ。
なんとなく、ムラサの答えに当てはめてみたら、
何故かムラサが、恋をしているようだった。
恋というのは繊細。別にムラサが、そう言っているとは、まだ確定してないけれど、
腫れ物扱いするように、慎重に答えた。

「そうだねぇ、しいていうなら、私は爽やかなのが好きだよ。
 んー、まぁ…たまにじめじめしててもいいけど。」
「曖昧ですね」
「アンタも曖昧じゃない」

2人して微笑む。何故か急に小恥ずかしくなって、
急いで風呂から上がった。ムラサは不思議そうにしていたが、
まだ上がろうとはしないようだった。…のかもしれない。そんな気がしたからだ。


風呂場から出ると、ざぁ、という音がした。
雨の音だ。音だけでは、大雨なのか、別にそうでないのか曖昧だった。

そんな音を聞く余裕は、ほんの一瞬で、
急いで着替える。服を着たところで体を拭くのを忘れたのに気づき、
びしょ濡れになってしまった。雨に打たれたみたいだ。


これでは、風呂上りか、風呂入る前か曖昧ではないか。
恋心は曖昧。

どうも。二回目です。ふと思いついたので書いてみました。
百合っぽい話を書こうと意気込んでみたけれど、曖昧になっちゃいました。
もしかしたら私が一番曖昧なのでしょうか。
それでは。
糸麦くん
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
タイトルに釣られた
2.奇声を発する程度の能力削除
静かな空気が良かったです
3.oblivion削除
なんでしょうこのセンスのよさ。
さっきまで曇り空だったのだ、っていう冒頭の文句になぜかセブンセンシズ的なものがバビっときたと思ったら書き終わりでああなるほどと思わされた。
狙ってやってるのだとしたら凄い。狙ってないのだとしたらもっと凄いかもしれない。このセンスだけでもある意味完成されている気がします

それだけに細かいですが気になったところ
>別に生きていると解釈しても、全然いいのではないかもしれない。
ちょっと変な一文。「ではない」が余計なのか、あるいは「いいのではないか」かな。
4.糸麦くん削除
コメント返信します。

>>1 様
"びしょ濡れ"は入れようか迷いましたね。
(ムラムラしちゃう的な意味で)

>>奇声を発する程度の能力 様
ありがとうございます。
雨の時のあの静かな感じ、難しかったです。

>>oblivion 様
ありがとうございます。
さっきまで~のくだりは、
テンション上げて説明しますと、
「ちょ★やっばぁ~いッこれ別に大丈夫なんじゃね?
 雨降らないんじゃね?このまま全力疾走して幻想郷の端まで行って帰ってきても
 いけるんじゃね?」っていう意味を込めて書いたものです。
簡単に説明しますと、曇り空だったんだよーっていう、
何気ない文章です。意識はしてないですね…。

指摘ありがとうございます。修正いたしました。


皆様コメントありがとうございました。
5.you.削除
なんというか不思議な雰囲気だ。そして素敵。
6.名前が無い程度の能力削除
いろいろと曖昧。雨で煙っているみたい。いい感じです。