Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

会話の楽しみ方

2011/06/28 01:20:53
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「そういえば、その道具は写真を撮る以外の事も出来るのかい?」

 梅雨も過ぎ去り空に天の川が輝く様になった頃。
 その日は、香霖堂に客とは言い難い者が訪れていた。
 まぁ言い難いと言ってもそれは買い物をしないからという意味であり、彼女が来る事によって店に利益はあるだろう。
 そういった意味では、ある種の客なのかもしれない。

「はいっ?」
「具体的には遠くの者と通信できたり……なんだが」

 と、突然の質問に戸惑ったのだろうか。
 目の前の少女……はたてと名乗る天狗は固まってしまった。

 ――取材中なのに、黙ると言うのはどうなのだろうか。

 頭の中でそんな思いが浮かんできた。
 そう。天狗である彼女が来店した理由とは取材のほかにない。
 これ単体による利益はこれといって無いが、しかし取材と言う事は新聞に載るという事である。
 それはそのまま店の宣伝にもなる、という訳だ。
 商店にとって宣伝とは重要なもの。わざわざ取材に来てくれるというのは有難い事だ。

 しかし、先程まで手帳を見て質問をしては僕の返答を書き込んでいた彼女が、一つの質問で急に黙ってしまった。質問一つで何を黙る事があるのだろうか。
 ……いや、もしかしてあの道具には天狗の技術が詰まっているのかもしれない。そしてその情報をどこまで伝えていいものかを考えている……のか?
 ……有り得ない話ではないな。
 天狗の技術は河童には劣るがそれでもかなりの高度な技術。そう簡単に教えていいものでもないのだろう。

 そう結論付けようとした時、はたては若干慌てながら話し出した。

「ぇ、えと、あの、な、何でそんなきゅ、急に……」
「あぁ、何、その機械が気になったものでね」

 ――取り敢えず、落ち着いてから話し出した方がいいのではないだろうか。

 思いながらもそう言って、彼女が手に持つ道具を指差す。
 外の世界の携帯電話と呼ばれる物に酷似しているそれは、彼女が新聞に掲載する写真を撮影するのに使用している道具だ。
 携帯電話の名称である、『離れた者と繋がれる』。通信魔法のそれにも似た用途がこの道具も可能なのだろうか。
 興味が無い……と言えば、閻魔に舌を抜かれる事になる。

「……え、えとですね。……一応は、可能です」
「――ほぅ」

 何と……天狗はそこまでの技術を所有していたのか。可能なら是非ともその技術を教えてもらいたいものだ。
 そうすれば今手元に大量にある携帯電話をその技術で作り変え、携帯電話は本来の用途通りに稼動する。広める気は無いが、見てみたいと言う気持ちはある。

 ――今度文にでも聞いてみるかな……。

 そんな事を考えながら、はたての言葉に耳を傾ける。

「で、でもですね。私はそうやって使った事は無い……です」
「フム?」

 そうして聞こえてきたのは、その使い方をしていないという、何とも寂しい事実だった。

「……電話やメールより自分で飛んだ方が速いですから」
「……あぁ、成程」

 得心いった。
 優れた方法があれば、それに劣るものは使われない。それは当然の事だ。
 この店の一角に詰まれた大量の外の道具からもそれがわかるだろう。

「えーっと、ですから……」
「そういった用途は必要無いと?」
「ふぇっ? あ、はい! そうです」

 自分で言う筈だった言葉を取られたからか、少し慌て気味ながらも言葉を返す。

「……フム」

 ――天狗にしては随分と話すのが下手だな。

 ふと、そう思った。
 天狗とは今の様に新聞を作るために取材をする。ならば、どんなに評価の低い新聞を書く天狗でもそれなりには喋れる筈なのである。事実、文は話し自体は上手い方だろう。……新聞の人気はともかくだが。
 しかし、この少女はまるで話せていない。質問をする時は手帳ばかり見ているし、突然の質問に固まってしまう。

 ……憶測ではあるが、あの手帳には取材の流れや質問の内容などが書かれているのだろう。そして不意の質問をされると、そこに書いていない事の為に一瞬固まった後どうすればいいのか分からず、狼狽えてしまう。そんな所だろうか。

 と、そんな事を考えていたからなのか。
 僕は気が付くと、はたての事をじっと見詰めていた。

「え、えと、何ですか……?」
「ん……いや」

 今し方考えていた事を言おうかどうか少し悩んで、彼女の為にも言った方がいいだろうと思い、僕は今まで考えていた事を口にした。

「何、君は他の天狗に比べると話すのが少し下手だなぁとね」
「な……」

 僕がそう言うと、はたては再度固まってしまった。

「な、な、なな何てこと言うんですか!」
「……いや、事実だと思うんだが。不意の質問に固まる所とか」
「はうっ」

 確信を突かれたのだろうか。はたてはがっくりと項垂れてしまった。

「うぅ……そんな風に言わなくてもいいじゃないですかぁ……」
「……あー、済まない」

 ……どうやら、いじけてしまったらしい。

「私だって自覚してるんですから……そんな死体を殴るみたいに追撃しなくてもー……」
「自覚はあったのかい」
「……はい」

 まぁ、無自覚よりはマシというものか。

「ちゃんと話すのも上手になろうと練習もしてるのに……」
「……練習?」
「……頭の中で、会話の成り行きを想像して、相手がいるつもりで実際に話すんです」
「それは……練習にはならないだろう」
「何でですかぁ……?」

 そう言って顔を上げた彼女の目には、少し涙が溜まっていた。……相手の状況を考えず言葉を出すと言う意味では、僕も話が下手なのかもしれない。気をつけなければ。

「いや……何でも何も、会話は相手がいて初めて成立するものだろう。幾ら会話の練習をした所で相手がいなければ無意味というものだよ」
「……うぅ」

 顔を上げたと思ったら、はたては再び項垂れてしまった。

「誰かいないのかい。会話の練習に付き合ってくれそうな友達は」
「……いないです。結構引きこもってたんで……」
「それでか……」
「うぅ……」
「……フム」

 ……何だか、少し可哀相になってきた。
 話すのが下手と言ったが、僕の質問には多少の間を置いたがしっかり答えていたし、ちゃんと練習すれば話せるようにはなるのだろう。
 しかし、彼女の言葉によると友達はいないらしい。家族には頼めないのかと思ったが、言うならば普通は友達より先に家族に言うだろう。友達がいないなら尚更だ。
 だがそれをしていない辺り、家族はいないのか、頼めないのか……どちらにせよ、期待は出来ないのだろう。

「店主さぁん……」
「ん?」

 そんな事を考えていると、はたてから声を掛けられた。

「私と会話の練習しれくれませんか……?」
「僕がかい?」
「はい……」
「……天狗仲間じゃあ駄目なのかい」
「絶対ネタにされます」
「……あぁ、それもそうか」

 その言葉を聞いて、何故か喜々とした表情でカメラのシャッターを切る文の姿が浮かんだ。

『ねぇどんな気持ち? 記者なのに話すのが下手糞で聞きたい事上手く聞けないのってどんな気持ち?』

 恐らく、こんな事でも言うのだろう。

「まぁ、僕は構わないよ」
「ホントですか!?」
「あぁ」

 まぁ、話すのはどちらかと言えば好きな方だし暇潰しにはなるだろう。

「ただ、ウチは天狗が取材に来るね」
「うぇ」
「だから、練習中に鉢合わせでもすれば……」
「……ネタにされる」
「だね」

 また、『ねぇどんな気持ち? NDK?』とシャッターを切る文の姿が浮かんだが、もう無視する事にした。

「じゃあどうすればいいのかしら……」
「フム……」

 どんよりとした空気を纏い始めた彼女を見て、何とかできないものかという気持ちが少しだけ強くなる。

「……ん?」

 ふとその時、ある考えが浮かんだ。

「……これなら、いけるかもしれないな」
「ふぇ?」

 僕の言葉に、はたては顔を上げる。

「天狗の仲間にも知られず、ここに来る事も無く会話の練習が出来る方法が、多分一つだけある」
「えっ……?」

 再三、僕の言葉にはたては固まってしまった。
 そして先程の二回と同じ様に少し経った後、彼女は少し慌てた様子で動き出す。

「どどど、どうやって!?」

 椅子から立ち上がり勘定台に詰め寄る彼女を手で制しつつ、僕は言葉を続ける。

「何……大した事じゃあない」

 言って、はたてを制していた方の手を商品棚……外の世界の物が置かれている所に向けた。

「劣るものも、劣るだけで使えない事は無いという事さ」





***





 夜の香霖堂。
 外からは虫の声と、風で揺れ動く木々の音だけが聞こえてくる。
 静寂、といっても別にいいだろう。それ程気になる音でもないから問題は無い。

 しかし、その静寂はある音によって破られる。

『ー♪』

「……来たか」

 勘定台の上に乗った、掌大の小さな箱からその音は鳴り響く。
 それは無縁塚でよく見る携帯電話。しかし、他のそれとは一線を画する物だ。

 この携帯電話は、本来の用途である『離れた者と繋がれる』という用途で使用する事ができるのだ。

 先日香霖堂を訪れたはたてに言った、会話の練習方法。
 それが、彼女の持つ携帯電話の通話機能を使用するというものである。
 これなら自宅にいながら会話する事が出来、他の天狗に見つかる事も無い。彼女は引きこもる事が多いらしいから、家の中に長くいても特に怪しまれる事は無いだろう。

 そしてそれを実行するに辺り、今回はたてを通してにとりに依頼して、僕の携帯電話を作ってもらったのだ。その携帯電話が、今僕の眼前で着信音を鳴らしているものである。
 外殻は外の物を使用し、内部をはたてのそれと同じ様に作ってもらったのだ。電力ではなく魔力を糧として動くように改造を施してもらったので、何の心配も無く使う事が出来る。
 更に電波というものが無い幻想郷でこれを使う為に、もう一つ細工を施している。それは電波の代わりに天狗の神通力を受信するというものだ。
 何でも神通力というものは天狗一人一人で少し違うらしく、それを応用すれば神通力を外の物で言う『電話番号』の代わりにできるとの事。これで電波が無くとも通話が可能という訳だ。
 しかしこんな改造を数日でやってのける辺り、流石は河童の技術力だと言わざるを得ない。携帯の内部だけではなく他の道具も報酬に渡してよかったかもしれないな……。

 閑話休題。
 今だに鳴り響いている携帯電話に手を伸ばし、ゆっくりと開く。
 長方形の画面には『姫海棠はたて』の文字。少し興奮しながら、僕は通話のボタンを押した。
 途端、鳴り響いていた音が止み、代わりに聞こえてきたのは先日聞いた少女の声。

『……もしもし』
「……もしもし」
『えっと……私の声、聞こえてます……よね?』
「あぁ。心配しなくてもちゃんと聞こえているよ」
『そう……ですか』
「あぁ」

 箱の中から、少し曇ったはたての声が聞こえてくる。

「さて……それじゃあ、始めるとするかい?」
『あ……はい』

 そう言うと、箱の中からは呼吸音の様なものが聞こえてくる。
 大方、深呼吸でもしているのだろうか。そう思うと、少し可笑しくなった。

「さぁ、それじゃあ……」

 ――何から話そうか?

 これから始まる未知の会話を知らず知らず楽しみにしていたのか。
 そう言った僕の口は、少しだけ笑っていた。





***






「……はい。じゃあまた明日」
『あぁ。……今日は話が出来て楽しかったよ』
「そう……ですか。そう言って貰えると……嬉しいです」
『また練習がしたくなったら掛けてくればいい。何時でも出れるという訳ではないが……出来る限りつき合わせてもらうよ』
「はい、有難う御座います! ……では、お休みなさい」
『あぁ、お休み』

 その言葉を最後に、通話終了のボタンを押す。

「ふー……」

 息を吐きながら、ぽすんと布団の上に背中から倒れこんだ。

「あー……緊張したなぁ……」

 誰に言う訳でもなく、一人呟く。
 だがまぁそれも仕方ない。何せ本気で緊張したのだ。これほどの緊張は初めて新聞大会に出場した時以来だろうか。

「まーでも……」

 ――楽しかったから、いっかな。

 そんな考えが頭に浮かぶ。
 事実、彼との会話は楽しかった。独特の考え方や、深い知識の数々……分からない分野もあったけど、それでも十分楽しめた。
 相手が見えないというのは前と一緒だけど、今度は答えてくれる相手がいる。急に質問をしてくる相手がいる。私の考え方に意見をしてくれる相手がいる。
 このやり方なら……会話が上達しそうな気がする。
 そう思うと、嬉しさから少しだけだけど笑みが出てくる。

「ふふふ……」

 ――さて、明日は何を話そうか。
 そんな事を考えながら、私は眠りについた。



~~~


「もしもし」
『……もしもし。今日もかい?』
「はい……あ、迷惑でしたか……?」
『あぁ、いや、そういう訳じゃあないよ。話すのは好きだからね』
「はぁ……」
『ただ、君が根を詰めすぎなんじゃあないかとね』
「あぁ、私は大丈夫ですよ」
『そうかい?』
「はい」
『ならいいんだが……それじゃあ、始めようか?』
「えぇ。……今日は、何の話をしましょうか?」
『フム……』

 ――その日は、紅葉の事を話した。
 山は紅葉が沢山あって綺麗だと教えたら、是非間近で見たいものだと言っていた。
 庵くらいなら彼が行っても大丈夫だし、季節になったら誘ってみようかな。
 ………………
 …………
 ……



~~~


『あぁ、そうそう』
「ん?」
『この前霊夢がそっちに行ったらしいね』
「あぁ……確か神社の事で何かあるって言ってた気がする」
『恐らく分社の件だろうが……何か暴れたりしてなかったかい?』
「んー……哨戒の天狗が何人か向かってったけど、それだけ」
『そうか。それでか……』
「……何かあったの?」
『ん? あぁ。いや、弾幕ごっこで破れた服の修繕を頼まれたんでね……』
「ふーん、大変ね」
『全くだよ。代金も払わずにツケの二文字で全て済ませるんだから……』
「………………」

 ――その日は、巫女についての話……というか半ば愚痴みたいなのを聞いた。
 もう少し大人しければまだ可愛げもあるのになぁ……と親の様に語っていた。
 それが何だか可笑しくて、ちょっと笑ってしまった。
 ………………
 …………
 ……



~~~


『そういえば、この前文が来たよ』
「文?」
『あぁ、君と同じ鴉天狗さ。知らないかい?』
「……まぁ、名前くらいは」
『取材と言ってあれこれ聞かれてね。正直疲れたよ』
「そうなの。お疲れ様」
『あぁ。天狗が全員君みたいに大人しくて話せる奴だったら、もう少し楽なんだろうけどね』
「あら、褒めても何も出ないわよ」
『そうかい』
「えぇ」
『まぁ、文は新聞製作には真剣に取り組むからね。そこは評価できるし、協力もしたいんだが……』
「………………」

 ――その日は、彼と文の話をした。
 何でも、新聞に使う写真を数枚撮られたらしい。後で念写してみると、笑っている彼が写っていた。
 その表情にこんな顔もできるのかと少し意外性を感じたが、それが文に向けられたものだと思い出して、何故かは分からないけど少し胸が痛んだ。
 ………………
 …………
 ……



~~~




『……まぁ、僕はそう考えているんだよ』
「へー、面白いわねそれ。それで記事書けそうだわ」
『本当かい?』
「えぇ。出来たら届けてあげましょうか?」
『あぁ。じゃあ楽しみに待っているとしよう』
「ふふ。それじゃ、精々期待して待ってなさい」

 最初の通話から約一月。
 初めの頃が信じられないくらい、私は会話をする事に慣れていた。
 取材口調の敬語も止め、今では普通に彼と話す事ができるようになった。
 不意の質問にも普通に対応出来るようになったし、逆に質問を仕返す事も出来るようになった。それに対する答えも彼はしっかりと言ってくれる。
 今じゃ彼と会話をするのが日課になりつつある。変われば変わるものだ。

『……しかし』
「ん?」

 そんな事を考えていると、電話から彼の声が聞こえてきた。

『君は最初に取材に来た時、「電話をするなら飛んでいった方がいい」見たいな事を言っていたね』
「あー、そんな事言ってたわね」
『僕は飛べないが……最近、その意味が少しわかった様な気がしてね』
「へー」
『矢張り普通の会話に慣れている所為か、どうも相手の顔が見えないと落ち着かないんだよ』
「ほぇー、貴方もそんな事気にするのね」
『まぁね。それに、顔が見えたほうがいいだろう? 相手がどんな気持ちかがすぐに分かるし』
「何を企んでるかも分かるし?」
『だね。声はすれども姿は見えず……というのが何とも落ち着かなくてね』
「ふーん」
『だから、まぁ……』


『君の顔が見たい、かな』


「ふーん……え?」

 突然言われた事に、私は会話で久しぶりに固まった。
 今彼は何て言った? 私の顔が見たい?
 それは、つまり……

 ――私に、会いたい、って事?

 そう思った瞬間、顔が急激に熱くなるのを感じた。

「な、な」
『そもそも会話とは「会って」「話す」と書く様に、直接顔を合わさなければ意味が……』
「会いたい、って……」
『だから今までのこれは会話ではなく、話す事の練習だった訳で……』

 彼が電話越しに何か言っているが、何も頭に入ってこない。
 何でか分からない緊張と何でか分からない恥ずかしさでもう訳が分からない。
 会いたいって言われただけなのに、何でこんな……?

『……はたて?』
「ぴゃっ!?」
『……大丈夫かい?』
「ぇ、あ、うん。大丈夫……」

 嘘。ホントは顔が熱くて全然大丈夫じゃない。多分耳まで真っ赤だろう。

『それで……どうかな?』
「ぅえ!? あ、えと、その……」
『はたて……?』
「あ! え、えーと、そう! 用事! 用事思い出したから、切るね!」
『え? ちょっと……』
「じ、じゃあ! またね!」

 言い終わるや否や、ブツリと電話を切ってしまった。

「ハァ……ハァ……」

 気が付くと、私は肩で息をしていた。

「……な、何で?」

 本当に、何でだろう。
 何で、会いたいって言われただけでこんなにも緊張したのだろう。
 何で、返事を求められて恥ずかしくなって電話を切ったのだろう。

 ……何で、彼の事を考えるとこんなにも胸が熱くなるのだろう。

「ふわぁ……っ!」

 ぽすん、と。
 そのままうつ伏せに布団に倒れこんだ。
 枕に顔を埋めて、意味も無く足をバタつかせる。

「……何、これ」

 こんなの……初めてだ。
 たった一人の事を考えるだけで、こんなにも心が熱くなるのは。

 ……もしかして、これが。

「……恋……?」

 ……質問は、彼にすれば少しの間の後に必ず答えが返って来た。
 だが、今回の質問だけは何時まで経っても答えは返ってこなかった。





***





 次の日。

「……じゃ、いってきまーす」

 余所行きの服に身を包み、私は空へ飛び立った。
 文ほどの速さは無いが、私だって天狗だ。それなりには速い。
 だから、目的地にはすぐに着いた。

「よっ……と」

 目的地の前に着地する。

「……来ちゃった」

 呟き、目の前の建物に目を向ける。
 廃墟の様な建物に、散乱する数々の道具。
 そこに掲げられた看板は、『香霖堂』。
 私の会話の練習にずっと付き合ってくれた店主がいる古道具屋だ。

「……よし」

 二回、三回と深呼吸をして、扉の取っ手に手を掛ける。

 ――カランカラン。

 扉を開けると、鈴が出迎えてくれた。
 そして目に入るのは、勘定台で本を読む彼。
 此方に気付き、本から顔を上げる。
 約一月ぶりの彼の顔が、そこにあった。

「いらっしゃ……おや」

 電話越しじゃない彼の声。
 ……そういえば、彼は会話は直接会ってした方がいいと言っていたっけ。
 その考えは正しいと、そう思った。

「……顔を見るのは、久しぶりだね」

 ――電話じゃ、彼のこの表情は見れないなぁ。

 文の写真に載っていた笑顔が、そこにあった。
 今それを向けられているのは自分だと思うと、口元には自然と笑みが浮かび……

「……誰かさんが、私の顔を見たいって言ったからね」

 少しだけ……顔が赤くなった。
 
どうも、唯です。
ふと「はた霖を書け」という電波をどこからか受信したので、深夜脳の赴くまま書かせていただきました。結果は……まぁ、急展開×gdgdですよね、ハイ。……御免なさい。

今回も誤字脱字その他ありましたらご報告下さい。


……そう言えば、今月の15日で私SSを書き始めて一周年でした。そしてその記念すべき日に何も用意してなかったという……orz

まぁそんな感じでどこか大事な部分が抜けている自分ですが、これからも自由にSS書いていきたいなーと思ってます。
なので、皆様これからも宜しくお願いします!

※誤字修正しました。報告感謝です。

http://yuixyui.blog130.fc2.com/
コメント



1.投げ槍削除
こういうはたても良いなぁ。
可愛すぎだコンチクショウ!!
2.名前が無い程度の能力削除
一周年おめでとうございます。
はたて可愛いなぁ
3.奇声を発する程度の能力削除
何だかんだで一周年経ったんですね
おめでとう御座います
4.曇空削除
一周年おめでとうございます。
これからも楽しみにしています。
この、はたて可愛すぎる

誤字?報告

貴方のそんな事気にするのね→貴方も~

じゃないかなと
5.名前が無い程度の能力削除
はたてが可愛すぎる件
6.淡色削除
おお、一周年おめでとうございます。
これからも唯さんのお話を楽しみに待ってます~。

今回のはた霖の、この距離感がなんだか絶妙でとてもいい感じですね。
GJでした!
7.削除
コメント有難う御座います!
返信の方をさせていただきます。

>>投げ槍 様
こういうはたても良いですよね!

>>2 様
有難う御座います!
はたては可愛いですよね!

>>奇声を発する程度の能力 様
連続投稿などと調子に乗って酷い物を投稿していたあの時からもう一年、何だかんだ色々ありましたがここまで来ました。
有難う御座います!

>>曇空 様
有難う御座います! 楽しみにしていただけて嬉しいです!
誤字報告感謝です。修正しておきました。

>>5 様
そう言って頂けると嬉しいです!

>>淡色 様
有難う御座います!
こういう距離感って何だか良いですよね!

一周年を迎えて、これからも頑張っていきたいと思います。
読んでくれた全ての方に感謝!