Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

「家族」になる私達と「家族」をもつ私達とプロポーズ

2011/06/09 22:43:08
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※ この物語は、春のマリアリ連作の7作目に当たり、繋がる「絆」と築いた「絆」と様々な愛の形の続きになります。














―梅雨入りした幻想郷




「・・・ここの術式を、こうして、と」

 しとしとと雨降る音のする暗い自分の研究室で私は、一人で魔法の術式とにらめっこ。そして、時々アリスのくれた指輪を眺める。世界で一番大好きな人がくれた、変わらぬ愛の証であるその指輪。ぎゅっとすれば、アリスが傍にいてくれるような気がする。
 
 そんなアリスと、もうすぐ結ばれるのだ。

 だが、私は一番肝心な事を言って無かった。付き合う事になって、同棲生活を送るうちに、自然と気持ちがそうなって、結婚しようという流れになった。
 その流れは、私も望んでいたし、アリスもきっと望んていた事だとは思う。こうやって今、幸せになれたのは二人だからこそ。お父様とも、仲直りするきっかけだって掴む事が出来た。

 アリスが居てくれたから、私は・・・いっぱい幸せになれた。

 そして、これからも・・・ずっと、二人で幸せになるんだ!

 その意思を、まだ、アリスに伝えていなかったのだ・・・

「ようし、これでいい。後は・・・」

 私は組み上げた魔法を、目の前に置かれた一組の指輪にそっとかけた。アリスがかつて私にくれた指輪も、こうやって作ってたのかなぁ、想像が膨らむ。
 
でも、アリスのとは異なる発想を持ってこの指輪は作られた。

 アリスのそれは、恋人同士の証。私のそれは、家族の証。
 
 
 ・・・恋人から、家族になる私達の誓いの証。

 
 魔法が収束して、指輪が9色に輝く。そして、キラリと輝くダイヤの輝き。ダイヤモンドに込められた意味は、永久に変わらぬ絆。

 9色の恋の色に永久に変わらぬ証を添えて、私達の誓いにするのだ。


「・・・長いお手洗いね。」

 寝床に戻ったアリスが小さな、それでいて寂しそうな声を出して擦り寄って来た。ホワイトデー前の私とはちょうど逆なんだぜ。あの時、横に居なくてどれだけ寂しかったか覚えてる。
 まだ春になったばかりで、ちょっと寒かった。アリスが居なくなる度に、少しだけ寒くなった・・・ま、今は梅雨時、寒さとかは感じないけど、やっぱり一緒の方がいい。
 不安そうなアリスに軽い口づけをして、きゅっと抱き寄せた。

「ん、普通だぜ。」

 あのときから薄着になったので、服越しからでも十分にお互いの肌の触れ合う感触がわかる・・・素肌が触れ合った時とはまた違うくすぐったい感覚も私は好きだった。お互いに抱き合って、気持ちが落ち着いてきたアリスは私のおでこにおでこをくっつけて来た。

「こっそり何かしてたんでしょ。」
「・・・ナイショだぜ。でも、時間が来たらちゃんと教えるから、さ」

 二度目の軽い口づけ、離れたアリスの口からんもぅ。と微かな声が出た。

「何処にも・・・行かないでね。魔理沙。」
「ああ。アリス、ずっと一緒だからな。」

 甘い言葉を交わし合って抱き合う私達。お互いの全てを、愛で満たしあってゆく・・・

 愛で満たされる度、私達の絆は更に強く、強固な物になってゆく。

 甘い、甘い、夢のようなひと時に抱かれて、私達は再び眠りに落ちた。

ミ☆

「・・・痛っ!まーだ痛むか・・・」

 薄暗いパチュリーの図書館内で本を探していた私は、本を取るために屈めた腰に鈍い痛みを覚えて、思わず声を上げてしまった。

「魔理沙、ぎっくり腰になるには若すぎるんじゃなくて?」
「い、いやー。ちょっと、なぁ・・・アリス。」

 アリスの方を見ると、顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。まぁ、何があったかは多くは語るまい。

・・・多分、ニヤニヤ笑いのパチュリーにはバレてんだろうなぁと思いつつ、一冊の本を取り上げた。

「アリス、此処なんて良いんじゃないか?」
「え、何処何処?」

 本の表紙には、海と町並み・・・恐らく外の世界の物のが描かれている。私達は先日の獏を退治したお礼を兼ねた紫の好意で、新婚旅行に外の世界に行っても良いとのお許しを頂いた。
 外の世界に対する話は、既に早苗から仕入れている。幻想郷よりもはるかに科学的な文明である事が分かっているが、不思議な事にその世界にいても早苗は言うほどは楽しくなかったのだと言う。私だったら、毎日エキサイティング出来そうな気がするが、弾幕と魔法が否定された世界と言うのは流石にどうかとは思う。
 
 しかし、旅行をするなら話は別だ。私はアリスに旅行書を見せながら、掲載されている写真に一緒に目を輝かせた。

「まぁ、魔理沙。海と山と町並みが美しいわね。」
「だろ、アリスには、是非一度海を見て欲しくってさぁ。」
「そうね。夢が一つ叶いそうだわ。魔理沙は一度見た事があるんでしょ?」
「ああ、一度だけ、ほんの少しの間だけどなー」

 私は以前、月に行った時に海を見たが、あの時は事情が事情でゆっくりも出来なかった。初めて見た海に感激する暇も無く、月への強行旅行の行程の一つとして処理された思い出が蘇る。

「ちょっと見ただけでも、印象に残る位すごかったんだ。だから、アリスと一緒に見たいと思ったんだ。」
「うん、ありがとう魔理沙。幻想郷に住んでる以上、海を見る事は叶わないと思ってたけど・・・嬉しい。」

 内陸に位置する幻想郷には、海は無い。海の環境を再現したにとりの施設があるにはあるが、所詮施設は施設で、私が見た海のスケールとは雲泥の差がある。ちょっとだけ見た海は、大きくて、雄大で、それでいて美しかった。
 それをアリスにも見て欲しかった。そして、私達の生涯の思い出になる記念すべき旅行で、海を見る事が出来たらどんなに素晴らしい事か、とずっと考えてた。

 嬉しい事にアリスも乗り気のようで、話はトントン拍子にまとまりそうだ。

「じゃあ、此処に行こう。一杯観光出来る場所もあるしな。」
「そうね。ゴリアテのヒントになりそうな大きなロボットもあるし、楽しい旅行になりそうね。」

 そう言って私とアリスは笑いあった。旅行に馳せる想いが、ワクワクが今からでも止まらない。それはアリスも一緒のようで、嬉しそうな表情のまま、私の右腕に頬を当ててくっついている。
横で黙々と本を読んでいたパチュリーは、静かな笑みを浮かべてそんな私達を見ているが、やがて口を開き。

「決まったみたいね・・・お土産が楽しみだわ。」
「あぁ、パチュリーにもちゃんと用意するんだぜ。」
「魔理沙、ここの皆の分を忘れちゃダメよ。」
「そうだな、皆にちゃんと用意するんだぜ。」

 アリスのナイスアシスト、その私の発言を聞いた小悪魔や作業中の妖精メイドも喜んでいる。やっぱり、周囲の気配りはアリスの方が上手いんだな・・・見習わないといけないんだぜ。
 反省を胸に、私も座って淹れてあった紅茶を飲んでゆっくりしていると、図書館内に元気な声が響き渡った。

「まーりさっ。とうっ!」

 フランだ。声に気が付いた時には既に私の所に飛びこもうとしていたので、私は両手を広げてフランを受け入れてあげた。ぽすっと音を立てて私の胸元に収まったフランの頭を撫でると、ふにゃーと言いながら嬉しそうな顔をしてくれる。
 先日も私の窮地を助けてくれたこともあるので、ちょっと甘えさせてもいいかなぁと考えた私は、アリスとパチュリーの微笑みを見てから、フランに擦り寄る。
 フランの体格は人間の子供とそう変わらないので、自分に子供が出来た時にもこんな風に甘えさせるんだろうなぁとか想像しながら、私はフランとじゃれあった。

「おぉ、フラン。この前はありがとうなー。」
「えへへー、もっと撫でてー」
「よっしゃ、帽子は取るんだぜ。」
「ようし、どんとこーい。」

 出会った当初は、壊す事しか知らずその力に振り回されて、健やかな精神状態を保つ事が苦手だったが、今はその面影も大分薄れつつあった。皆と慰労会に一緒に行ったり、宴会にも顔を出すようにもなってきた。
 最初は乏しかった表情も、今では豊富になった。これも成長かな・・・今、私の腕の中で心地良さそうにしているフランからは、ありとあらゆる物を破壊するという物騒な能力を秘めた恐ろしい吸血鬼と言うイメージはもうない。
 
「ようし、今度はアリスにやってくるんだ!」
「おっけー!」

 とうっ、と小気味よい掛け声と共にアリスに抱きつくフラン。アリスも最初は戸惑っていたが、やがて私と同じように、抱っこして甘えさせ始めた。その姿を見ると、子供が居たらこんな風にアリスが抱っこしてるのを見守る事ができるんだなぁといった未来の予想も少しずつ出来て来る。

 最愛の人と、最愛の子供の笑顔に囲まれた家族団欒。

 かつて私が享受し、そして最近ようやく取り戻す事が出来た理想の家庭を実現させるための準備は整いつつある現実。そう遠くない未来、私達の子供がお互いの胸の中でああやっている姿を想像すると、嬉しくなってくるんだぜ。

「・・・親子みたいね。」

 パチュリーが静かな笑みを浮かべている。横を見るとアリスがフランをおんぶしながら人形で頭を撫でていた、相変わらずの器用さである。表情は柔らかく、ホントにお母さんになったみたいだ。アリスはちょっとだけ不思議そうな顔をして、パチュリーの方を向いた。

「そう?」
「髪の色が少し薄いくらいかな、羽を隠せば十分通用するわよ。」
「それは名案ね!魔理沙ママー」
「お、ママか・・・」

 ママと呼ばれた事にちょっとだけ驚いた。500歳程年上の吸血鬼にそう言われることにも驚いたのだが、自分が母親になる事の想像はしていたが、いざ言われてみるとやっぱり全然違う物だ。少し照れくさいのだが、フランに対する愛しさがこう、ココロの中からわき上がってくるような感じがする。

「んーなら、アリスもママになるんだぜ。私のお嫁さんなんだからな。」
「そうだね。アリスママー!」
「はいはい、んもぅ。お母さんに似て甘えんぼさんね。」
「確かに、それは違いないんだぜ。」

 唐突な家族ごっこ。でも凄く、ココロが温まる。二人で居る時とは、また違うココロの温まり方。私とアリスの間で、はしゃぎ回るフランは、すっかり娘になったかのよう。甘えんぼな所は私に似てる・・・っつーか、アリスも私に甘えて来るじゃないか。なら両親からの遺伝の結果がコレだな。
 でも、甘えて来てくれるのは嬉しいんだぜ。お互いにココロを許していないと甘える事なんてできないから、仲良さの象徴でもあると思っている。
 心地良い時間が流れていって、ふと見上げた視線の先の大時計は11時を指していた。食事して、旅行先探して、アリスとフランと一緒にじゃれ合っているだけで過ぎた時間は余りにも早すぎる。楽しい事をしていると、時間なんてあっという間だ。


「あ、もうこんな時間だぜ。」
「そろそろ帰りましょ。邪魔したわね、パチュリー。」

 アリスから渡された箒を掴んだ私であったが、ふと、スカートの端を掴む白い一組の小さな手が見えた。その手を目でなぞらえ、元を辿ると、無邪気な瞳でこちらを見上げるフランがいた。

「私も付いてっていい?」

 潤んだ目でこうやって見上げられて、お願いされたら私はついオッケーしちゃうの・・・というのは半分だけ冗談だが。こうもおねだりされると、断るのも可哀想な気がしてならない。私としては大歓迎である。中々外に出られないフランを私の家かアリスの家に泊めてあげて、色んな体験をさせてあげて、一緒に楽しい時間を共有出来たらいいなって思ったからだ。

「うーん、私は構わないがレミリアとアリスが・・・」

 フランの表情が一気に不安な物に変わる。昔なら、そのまま暴れてもおかしくないような展開でもある。それが、しょんぼりするだけで済むのもフランの変化の一つ。

「話は聞いたわよ。」
「レミリア!?どうして。」
「妹の事なら、何処にいても聞き逃しはしないわ。」

 流石、スカーレット・デビルイヤーは地獄耳。愛する妹の事であれば、100メートル先に落ちた針のような僅かな音でも聞き逃す事は無い脅威の耳だ。不敵な、それでいて穏やかな笑みを浮かべたレミリアは、フランの横にやってきて

「お姉様、いいの?」
「良いわよ、フラン。姉としては、あまりに残酷かつ厳しく、血の涙を流しても足りない位に悲しく辛い決断だけど・・・2泊3日、いえ1泊2日位なら、二人の養子になっても良いわよ?」

 レミリアが必死に威厳を取り繕って言っている姿がとても微笑ましい。妹に対しては特にこうなので、慣れた物ではあるのだが。ここで笑ったらグングニルが飛んでくるので、我慢、我慢だ。
 ただ、フランの能力は危険な代物である事には変わりは無い。私一人で抑え込むのは非常に困難な事である。その点はアリスに助太刀してもらえばどうとでもなるが、寝起き等十分な体制を整えられない場合、非常に危険な展開になる可能性は十分にある。そこで、一応確認のための質問はしておく事にした。

「え、でも・・・本当に危なくないのか。」
「この前、貴女を助けた時に、ちゃんと能力をコントロールしてたでしょ。普通の生活をする分にはもう問題は無いわ・・・多分。」

 パチュリーの分析は、非常に的を得ている。アレだけ派手に戦闘していたから、破壊衝動に任せて暴れ回るんじゃないのかと不安になったが、実際の所はパチュリーや咲夜の言う事を良く聞いて、周囲のサポートもよく行っていた事も知っている。それにヘタをすれば幻想郷中を焦土にしかねない威力のレーヴァティンをかなりセーブして使えていた事もちゃんと見ていたしな。うん、この点に関する問題はクリアだ。
 
 最後は嫁さん・・・アリスの許可だ。いくらレミリアの許可が取れたとは言えど、アリスが嫌なら私もやっぱり考えなくちゃいけない。自分の都合ばっかり押し付けている感もあるしな。

「っと・・・アリスはいいか?」
「ええ、良いわよ。私のお嫁さんが頼まれた事は、同時に私に対する頼みごとでもあるって知らなかった?」
「ワガママ聞いてくれてありがとな、アリス。」
「ううん。楽しい一時にしましょ、ね、魔理沙、フランドール。」
「アリスママにも、フランって呼んで欲しいなー」

 アリスの足に抱きついたフランを大切に、そっと持ち上げて抱っこする。そして、優しさ全開の笑顔に、ふとアリスの持つ本質的な優しさを垣間見る。
アリスは私のワガママを何時だって聞いてくれる。その事に少し罪悪感があった。振り回すだけ振り回して、アリスは辛くないのだろうか・・・
 私が発案した事に、(無論、道徳的に良くない事を発案した場合注意を受け制止されるが)こうやって付いてきてくれる。私も、アリスの発案には全面的に協力するし、Noと言った事は無いが、アリスはあまり自分から発案してこないのでその辺の差は考慮する必要はあるが・・・もっと、アリスからも色々言って欲しいと思うのも私のホンネではある。

「フラン、私達の子供になるならちゃんと私と魔理沙の言う事は聞くのよ?」
「うん。ママ達の言う事聞いて、良い子にするね!」
「ぎゅっとして、ドカーンは絶対にしちゃダメだぞ。」
「寝てる時とかぎゅっとするかもしれないけど、ドカーンはやんないからー」
 
 無邪気に言うフラン。信じても良いだろう。私はアリスとアイコンタクトを取って意思を確認する。コクリと頷くアリスの返答、答えは決まった。

「じゃあ、フラン・・・来い。今日から暫く私達の娘なんだぜ!」
「やったぁ。ママ達、よろしくね!」
「私達が、責任を持って面倒を見させてもらうわ。」
「よろしくね、霧雨=マーガトロイド夫妻・・・女同士で夫婦ってのも変だけど。」
「「普通だぜ(よ)」」
「すごーい、完璧にハモってる。」

 語尾の違いはあれど、完璧なシンクロだ。アリスも笑っている、最初は恥ずかしかったけど、今では慣れてそう思わなくなった。

「妹様、これを・・・1泊2日の用意です。」
「ナイスタイミング、咲夜。ありがとう」
「初めての単独でのお泊りですね、楽しんで下さいまし。」
「うん、一杯楽しんでくるね!!」

 突如として現れた咲夜がリュックサックをフランに持たせてくれた。フランは咲夜にも抱きついて、愛情を示す。これで、出発の準備も整った。頃合いを見て私は、別れを告げ、帰宅の挨拶をする。

「じゃ、そろそろ帰るぜ。」
「結婚式前にはまた来るからー」
「みんな・・・行ってくるね!」

 擦り寄るフランを受け止めた私とアリスは、中央にフランを挟んで手を繋いで図書館を後にした。外を見ると、すっかり夜の帳が落ちている。帰ったら、ご飯食べて、風呂に入って寝るだけか・・・吸血鬼は流水に弱いらしいが、お湯だと効果が無いらしい。昨年末も温泉使ってたから大丈夫じゃないかと私は思いながら、アリスとフランを乗せて、仲良く家路へと着いた。

「魔理沙、箒の前はいいねー」
「だろ?のに、アリスは後の方が好きなんだって。」
「フランも後ろに来る?背中に抱きつくのってとっても気持ちいいのよー」
「じゃ、また明日、それするー!」

 夜空に輝く星を見てははしゃぎ、眼下に流れる人里や命蓮寺の灯を見て驚嘆の声を上げるフランを仲良く見守りながら、いつもより賑やかな帰り道を三人で楽しんだ。


ミ☆


「フラン、ちゃんとかけ湯をして入るのよー」
「わかってますって、アリスママ、とうっ!!」

 私の制止を振り切って飛びこむフラン。水しぶきが跳ねる音が脱衣所まで聞こえて来るが、元気にはしゃぐ声が聞こえて来ると呆れよりも微笑ましくなってくる自分が居る。魔理沙はフランを預かるに際して、騒がしいのを好まない私への配慮をしてくれたようだが・・・私もちょっと変わったのよ?
 魔理沙の傍に居ると、騒がしいけど、変化に満ちた生活が毎日続いて、毎日がとっても楽しい。あまりにも騒がしいのは嫌だけど、これ位なら寧ろ楽しいもの。
 
それに・・・家族が増えれば多分騒々しくなるしね。

 開けっぱなしの脱衣所のドアを閉めながら浴室に入り、洗面器を掴みながらお湯をすくった私は、楽しそうに寛いでいる魔理沙とフランを見ながら大丈夫かどうか聞いた。

「こらー・・・もう、魔理沙、大丈夫?」
「ウチの子供はこれくらい元気な方が良いんだぜ、なぁ、フラン。」
「えへへー、ぶしゅー」
「そうだ、面白いだろー」

 先に浸かっていた魔理沙が、いつものタオル遊びをフランと興じながら寛いでいる。もし子供が出来たら、これを教えるのだろうか?品が無いと思われてはいけないから、時と場所はちゃんと教育しないと行けないかな・・・少なくとも、自宅の風呂では問題無いので怒りはしないけど。私はタオルに石鹸を付けて、肌に滑らせる。わしわしと洗いながら、魔理沙とフランを見守る私の表情は穏やかだ。

「ほーらこっちにこい、肩まで浸かれ。」
「はーい。」

 魔理沙が胸元にフランを抱き寄せ、肩を掴んで浸からせる。普段は私の指定席なんだけど、今日は我慢。子供が出来たら、譲らなきゃいけない場所だし、フランが帰ってからなら、二人のうちなら何時だってそこに収まる事は出来るしねー。
 それにしても、魔理沙の母親っぷりが完全に板に付いている感がするのは気のせいだろうか?きっとああやって、子供に愛を注ぐのだろう。その光景についつい頬が緩む。
 身体を洗い終わった私は、魔理沙の頬を指で突っついた。

「ん、終わったか?」
「うん、魔理沙、フランを洗ったげるからー」
「私が、洗ってあげたかったんだが・・・アリスに任せるんだぜ。」
「ありがと。魔理沙は少し力強いような気がするしー」

 魔理沙に洗って貰った事があるので良く知っているが、魔理沙は力強くする時がある。でも、それも私にとっては心地良いのではあるが、自分の娘をこうやって面倒見るのは私のささやかな夢でもある。

「じゃあフラン、私は頭を洗うぞー、アリスママの所に行くんだぜ。」
「わーい!」

 フランと魔理沙が上がってくるのを見計らい、私はフランの為に椅子を譲る。フランはちょこんと座り、私達の準備を待つ。魔理沙がシャンプーを泡立て、私がタオルの準備を整えた所で私達は行動に移る。

「じゃあ、フラン・・・行くわよ。」
「ひゃんっ、羽の周りは気を付けて欲しいな。ちょっとくすぐったい・・・」
「ご、ごめん。気を付けるわ。」
「明日私が洗う時には気をつけないとな。痒いとこ、ないか?」
「ないよー。」

 この辺は、流石連携である。私が丁寧に身体を清め、魔理沙が髪を梳いて洗ってゆく。決してお互いがお互いの邪魔にならぬように丁寧にかつ迅速に作業を行う。

「んふー咲夜やお姉様とはまた違う感じがするー・・・極楽極楽ぅ」
「あら、良かったわ。」
「何よりなんだぜ。よっし、こっちはオッケーだぜ。」
「私も良いわよ、フラン、お湯をかけるから目をつぶって?」
「はーい。」

 元来吸血鬼は流水に弱いのだが、お湯なのでフランには全く影響が無い。桶から零れ落ちるお湯が、フランの全身から泡を落としてゆく。魔理沙が最後の仕上げを施すと、いつも以上に美しくなったフランがそこに居た。嬉しそうなのが一目瞭然で、見ている方まで嬉しくなりそうな笑顔を振りまいている。
そんなフランが、両手を私の前に差し出した。

「タオル、貸してー」
「お、フラン。もしかして、洗ってくれるのか?」
「うん、今度は私の番。ママ達を綺麗にしてあげる!」
「ようし、じゃあ私の背中を流してくれー」
「いいよ、早速始めるね。」
「終わったら私の頭もお願いできるかな?」
「もちろんよ、アリスママ。」

 甲斐甲斐しく洗ってくれるフランがとっても可愛い。友達の妹でもこれなら、自分の子供ならどんなに可愛いだろう。私と魔理沙で争奪戦をしかねない位の可愛さである事はどう考えても否定できない。まぁ、上手に折りあいは付けて行くのだとは思うけど・・・
 そんな事を考えつつ、皆で協力して、身を清めていった。

「はい、ママ達。出来たよ!」
「お、サンキューな。」
「ありがとう、フラン」

 すっかりキレイになった私達は、ご機嫌である。皆で一緒にこういう事をするのって楽しい。魔理沙と二人の時でもお話したり、スキンシップも兼ねるので楽しい時間ではあるが、こうやって協力し合うのは、家族ならではだ。
 家族がするように、フランの手を二人で引いて、浴槽へと舞い戻る私達。チャプンという静かな音と同時に、水位が上がって浴槽から水が溢れ出した。魔理沙と二人だけではこうはいかない。バシャバシャと水の落ちる音が狭い浴場に反響して、湯煙が私達を包んだ。

「やっぱり、お風呂は良いわねぇ」
「皆で入ると、より一層楽しいんだぜ。な、フラン。」
「そうそう。うちも皆で入るからもっと賑やかだよー」

 昨年末の慰労会でも賑やかにしていた事を思い出した。あの時は、確か咲夜がレミリアとフランに鼻を吸われて、生死の淵をさまよったというアクシデントがあったなぁ。
 咲夜がレミリアとフランに注ぐ愛は私と魔理沙のそれとはベクトルこそ違う物の、溺愛と言う言葉がぴったり当てはまる程度の愛の注ぎようである。

「いいか、100まで数えるんだぞ!」
「はーい。」

 カウントを始めたフランを先頭に、私と魔理沙の順に背中越しに並んで仲良くお湯に浸かる。そして、両手を回してフランを抱きとめる。
 不思議な安らぎを感じる事の出来るこの姿勢は、魔理沙と二人の時はもう毎日のようにやっている事だ。フランがゆっくり数をカウントし、そのカウントの間、私はフランを抱き寄せて、魔理沙に抱きとめられている二重の幸せを噛みしめる。

「49・・・50!」
「魔理沙、そこ変わって?」
「おお、良いぜ。今から変わるな。」

 丁度半分になったところで交代するのも私達流。私だって魔理沙を抱きとめたいのもの。魔理沙は立ち上がって私の前に回り込んで、所定の位置に収まった。

「わーい、魔理沙ママー」
「今度は私の番だぜー、アリス、いつものように頼むぜ。」
「はいはーい。」

 ぎゅっと身体を寄せる私。不思議なくらい落ち着くと魔理沙が言ってくれるこの姿勢は、大切な人を抱きとめる事が出来るから私も好きだった。しばしば魔理沙に抱きつかれるのでこうやって自分から一方的に抱きつけるこの姿勢は、お互いを近くに感じる事ができるのも最大の利点である。
 
 ・・・二人きりだとそのままドキドキに任せちゃう事もあるが、今日はフランが居るので、抱きとめて一緒に安息感を得ようとするだけにとどめるけど。

「魔理沙、暖かいね。」
「あぁ・・・とっても、な・・・ありす」
「・・・?」

 30カウント程して魔理沙の異変に気が付いた。さっきまで天井を見上げていた頭がカクンと下に落ちている。

「大変、魔理沙ママが、鼻血出してる!」
「なんですって?」

 慌てて顔を見ると、幸せそうな顔のまま豪快に鼻血を噴出しているではないか・・・
 
 まぁ、私が後ろの時はままあるので、驚いてはいない。処置をしないと未亡人になる危険性も無くは無いので、すぐに対策を講じた。

「あぁ・・・アリス、フラン。私は、私は・・・幸せなんだぜ・・・・」
「まずは止血よ、フラン。魔理沙をお湯から出すわよ。」
「う、うん。」

 とりあえず血行を良くすると危険なので、お湯から引きずり出す私。心配そうに眺めるフランが、魔理沙の鼻に口を近付けようとした。恐らく、昨年末の温泉で同様の症状で倒れた咲夜のように血を吸うつもりなのだろう。しかし、アレは逆効果以外の何物でもない・・・そう判断した私は、フランを止める。

「待ちなさい、フラン。鼻を吸っても根本的な解決にならないわ!」
「でも、魔理沙が・・・死んじゃう!」
「大丈夫よ、こういう時は・・・」

 幸せそうな表情で鼻血を出している魔理沙に、ヒーリングをかけて詰め物を施す。止血効果が得られた所で、私は人形を呼んで、魔理沙の身体を拭いてパジャマを着せてあげた。
 
「大丈夫かな?」
「大丈夫よ、魔理沙はこんな位で倒れる位、やわじゃないわ。」

 心配そうに見つめるフランをあやして、落ち着かせてあげる。何とも献身的な子なのだろう。フランは魔理沙に触れて、著しい成長を見せているとは、付き合う前からよく知っているが、このような立場になってその事を自分の前で体験するのも、ちょっと不思議な気分だ。

「さって、私もすぐに行ってあげないと。」
「あ、待ってアリスママ・・・私も上がるわ。」

 
 本当の親子のような会話を交わした私達は、素早く身支度を済まして魔理沙の看病に当たる事にした。


ミ☆


「魔理沙・・・大丈夫?」
「ん・・・あぁ、ちょっと頭がクラクラするが何とか。」
「良かったぁ、ママ。」

 見慣れた天井、私の寝室。いつもとは違って覗きこむ顔が一つ増えている。その二つの顔に手を伸ばして、触れて、帰ってくるアリスとフランの頬の感触が、私が生きている事を教えてくれる。

「また鼻血出して・・・大丈夫?」
「若さ全開の証なんだぜ。」

 自分の手で頭を押さえるアリス。それを見て笑うフランの様子に、凄い安心感を覚える、ここが自分の居場所なんだなぁ。その実感が湧く度に、安心感が湧き、ココロが安らぐ。

「歯、磨いておいで。そのまま寝ちゃダメよ。」
「うん。分かってる。フランは歯磨きしたか?」
「したよ。後は寝るだけー」
「よしよし、じゃあ丁寧かつ迅速に磨いてくるんだぜ。」

 ベッドから身を起して洗面所に駆け込み、素早くかつ丁寧に歯の手入れを済ませた私が寝室に戻ると、すでにアリスとフランがベッドの中に入っていた。私もゆるゆるとベッドに突入開始。フランを挟むようにして、いつもの位置へと収まる。フランの分の体温が増えた分少しだけ暑かったが、その暑さすら心地良い。

「えと・・・ホントに私、此処で良いの?」
「遠慮はいらんぞ。」
「そうよ、家族はみんなで寝る物なのよ?」

 フランは左右を何度か向いて、上を向き、そのまま真剣な顔でアピールしてきた。

「パチュリーがね、夫婦の営みを邪魔しちゃいけないって、前言ってたから!」

 何と言う事だ。あの助平魔女は、なんて事を教えているんだ。先ほどの話を鑑みるに正しい意味を知っているかは怪しいが、これを変に私達が教えて変な方向にフランが進んでしまった場合レミリアの逆鱗に触れる可能性が極めて高い。私とアリスは顔を見合わせた。お互いに真っ赤な顔になっているのを必死に戻して、フランに話を振る。

「あの助平魔女め・・・なんて事をフランに教えてくれる!」
「ホント、早く彼氏か彼女作った方が良いんじゃないかしら。」
「この前小悪魔と良い雰囲気だったよー」
「え、ホント?」
「そこんとこ、詳しく聞かせてくれ!」
「うん、良いよー。」

 よし、話が逸れた。このまま、夫婦の営みについて説明するなんて末恐ろしい事をせずに済みそうな事に安堵した私とアリスは小さな溜息を付いた。しかし、あの本にしか興味が無さそうなパチュリーでも、誰かを好きになったりするんだなぁと思うとホッとする。

「んーとねぇ。この前、みんなでお酒飲んだ後ね・・・確か私が寝る前だったかなぁ?小悪魔とパチュリーが、キスして抱き合ってたんだよー」
「なん・・だと。」

 最初からクライマックスだ!お酒飲んだ勢いでそう言うのってあるらしいんだぜ、私がアリスに告白する時に読んだ本にも書いてあったし。でも、それは自分の意思に反するし相手を傷つける可能性があるから、絶対に止めようとすぐに封印した告白の手段である事は付けくわえておく。

「ねぇねぇ、それで、どうしたの?」
「それで、そのままパチュリーの寝室に一緒に入ってくのを見たんだ。」
「まぁ、大胆!それで?」
「声がするなぁと思って近寄ってみたら、ドアが少しだけ開いてたの・・・」
「おお、それは凄い。で、見たのか?」
「うん、私はドアの隙間から、夜目を効かせて見たんだけど・・・」

 
 フランの口が止まった。さぁ、パチュリーと小悪魔の熱愛が発覚するかと、期待に胸を膨らませる私。アリスもすましてはいるが、かなりその次の展開が気になる様子。
 

 フランは笑顔のまま、にぱあとして元気よく見た物に付いて説明してくれた。


「二人とも・・・良く寝てたよ!!いびきかいてたしねー」


 ガクッとなってしまった。お酒飲んで良い雰囲気、そして二人の声が寝室からしてたのに、それかい。まぁ、フランにはよく分かんなかったのかも知れないな。
 
 ・・・それにしても、パチュリーの意外な弱みを掴めるかと思ったが、残念である。

「まぁ、何らかの気持ちはあるんだろうな。」
「かも知れないわね。付き合いも長そうだしさぁ。」
「そうね、何時でも一緒にいるからあり得ない話ではないわ。」
「まぁ、何か分かったら教えてくれ。フラン。」
「はーい。」

 そこから私達は、色んなお話をした。どうして結婚するの?から始まって、私達が過ごす日常の話から異変の話まで沢山アリスと一緒にフランに聞かせてあげた。
 あるときは喜び、ある時は驚いて、豊かに変化する表情をアリスと一緒に見てると、本当に娘を育ててるみたいな感じがする。やんちゃな人形使いになるのだろうか?それとも、物静かな魔法使いかな?
 夢だけが独り歩きしそうだったが、もうすぐその夢も掴めるだろう。愛するアリスと一緒なら、きっと笑いに満ちた楽しい家族になれるだろう・・・
 
 やがて、フランの笑い声が静かな寝息に変わっている事に気が付いた。アリスが静かに笑って、フランに布団をかぶせ直して私の方を見た。

「そろそろ寝ましょ。灯りを消して、魔理沙」
「ちょっと待て、カーテンをしっかり閉めておかないとフランが・・・」

 吸血鬼である以上、直射日光は危険である。普段は日傘でガードしているが、起きた直後はそうはいかない。もしフランを灰にでもしようものなら、今度は私達が骨まで残らず消し飛ばされてしまうだろう。私は、部屋のカーテンというカーテンを全部閉めて、光が入ってこないようにした。

「それと、遮光の呪文もかけておきましょう。直射日光に当てなければ大丈夫・・よね。」
「ああ、レミリアもそうだったから多分そうだろう。」
「じゃ、始めるわね。」

 アリスが呪文を素早く詠唱。魔法の発動を確認した私は、アリスの手を取った。アリスの発動した呪文を、広域に拡散するためである。
 これで、無防備なフランに日光が当たって目も当てられない事態になるのを避ける事が出来るだろう。

「明日、フランを連れてピクニックでもどう?」
「珍しいな。アリスがそうやって言ってくるのって。」
「ん?そう、子供と一緒にお出かけしてお弁当食べるのって憧れてたし。」
「そうかぁ、なら決まりなんだぜ。早起きしてお弁当作らないとなー」
「私、なるだけ早く起きるから起こしてあげるね。」
「ありがとう。アリス・・・」

 明日の予定を寝床で話し合って決めるのも私達流。二人でやる実験とかの打ち合わせもこうやってしてるんだぜ。しかし、アリスが自分からこうやって何処か行こうと誘ってくるのはちょっと珍しいな。
私は、アリスのおでこに自分のおでこをくっつけた。これも、お休み前の大切な事の準備の一つ。

「お休み、アリス、フラン。」
「ん・・・お休み。」

 いつものように、お休みのキスを交わして、フランを押しつぶさない程度にくっついて目を閉じる。


 ―私は、二人分の温もりを感じながら、私は心地良い夢を見始めた・・・


ミ☆


「良く寝れたか?」
「うん、寝れたよ!元気一杯!!」

 私は日傘を差して、のんびりと紅魔館近くの湖を歩く。梅雨時と言う事もあって、ちょっとだけ曇空の幻想郷。日光が射さなくても、何時天気が変わるか分からないのもこの時期の特徴だって、パチュリーは言ってたっけ。ちょっと西に傾いた太陽が時折雲から覗くけど、日傘があればへっちゃらだ。

「暑くも無く、寒くも無く、ピクニック日和ねー」

 お弁当を大事そうに抱えたアリスママが後ろに続く。朝早くに二人抜け出して、お弁当を準備していたのは知ってる。朝起きたら二人とも居なくて、居間から漂うお味噌汁とご飯の匂いに引かれて行ったら、早起きねと言ってくれた。
 私のために太陽光が入らない様にしてくれてたし、ピクニックに連れてってくれる計画も立ててくれたのだ。ママ達の愛情の深さは、かつて私達を愛してくれた記憶の中のお父様とお母様、そしてお姉様と全く変わる事は無い。

「こうやって歩くのも楽しいね。」
「普段は飛んでるからな、良いもんだぜ。」
「見えない物が、見方を変えるだけで見えて来るのよ。」

 能力故に外に出して貰えない私にとって、自由に自分の足で歩き、好きな物を見る事が出来る事はとっても新鮮だった。流れる雲、ざわめく木々、吹きぬける穏やかな風。それを自由に感じる事が出来るのは、解放的な感じがする。
 今、見ている物は、自由な私がこの目で見ている物。今、感じている事は、自由な私がこの身体で感じている事。

 自分で見る世界はこんなにも美しいんだ・・・

「景色とか、風とか、ママ達とかみんな綺麗に見えるよ!」
「おお。そうかぁ。」
「もぅ、フランったら上手に言うわね。」

 魔理沙ママは白い歯を見せて元気よく笑い、アリスママは静かに優しく微笑んでくれた。静と動が正反対だが、優しさだけは共通項。魔理沙ママの後を歩いて追えば、跳ね返ってくる土の感覚が身体中で広がってゆく。草を踏み分ける音も心地良い。
 サクサクという小気味よい音に交じって、魔理沙の物では無い元気な声が聞こえて来る。

「おおっ、魔理沙じゃん。」
「チルノ、今日は何やってんだ?」

 宴会とかで喋った事もあるチルノが、見上げた視線の先に居た。腕組みして湖を眺めながら仁王立ちするその出で立ちは、カッコいいというか、可愛い。
 そんなチルノは仁王立ちのまま魔理沙に向き直り、手にした釣竿で湖の先を差した。

「鰻を釣るんだー。そろそろ旬だってみすちーが言ってたし。」
「確かに。そろそろ脂が乗って来るもんな。」
「脂が乗る?」
「美味しくなるって事だ、フラン」
「へぇ・・・そーなのかー」
「大妖精も一緒なのね。」
「そうです、アリスさん。沢山釣って、ミスティアに驚いて貰おうかと。」

 パチュリーは土曜の丑と言う日がある事を教えてくれた。この日に鰻を食べると元気に夏がすごせるってアレね。それに、この時期の鰻は咲夜が美味しく調理して出してくれる。
 その鰻は里から仕入れると聞いたんだけど、元はこうやって釣ったものである事は想像が付く。
 すると、釣りに対する興味が凄く湧いた。本で読んだ事はあるけど、実際に触れるのは初めて。だから、無性にやってみたい。

 
 魔理沙ママの言葉を借りるなら、何でも挑戦、だぜ。だ。


「私も釣り、やっていい?」
「いいよ、フランちゃん。さいきょーの私にかかれば、すぐにプロの仲間入りが出来るよー」
「それは楽しみだね、よろしく、チルノ。」
「はっはっはー、任しとけー」
「私達はここに居るからな、しっかり釣って来いよー」
「晩御飯、よろしくねー」
「うん!」

 予備の竿を受け取った私は、魔理沙ママとアリスママの見送りを背に、チルノに続いて、湖の上を飛ぶ。いつもより高度を落として、ゆっくり、ゆっくりと。広大な湖を見下ろしながら飛ぶ。少し飛んだ所で、流木とかが沢山重なっている場所を見つけたチルノと大妖精は私を手招きして呼んだ。

「よーし、始めよ。フランちゃん、ここに糸を垂らすんだよー」
「こんな所に居るの?」
「こういう場所に隠れてるのさ。さぁ、やってみなさい。」
「わ、わかったわ。それっ!」

 チルノが示すポイントに釣り糸を垂らす私。ホバリングして、姿勢を保って様子を見る。ぷかぷかと浮かぶ浮きをしばらく眺めていたが、何の反応も無い。
 
「本当に・・・釣れるの?」
「我慢が大切なのよ。じっとしてないと逃げちゃうから。」
「ようし。じゃあ待つね。」

 しばしの間を置いて、竿が小刻みに触れるのが分かった。先ほどまで呑気に浮かんでいた浮きが、水中に引きずり込まれる。

「来たな~。フランちゃん、こうやって合わせるんだよ!」
「うん!」

 指示通りに釣り竿を引くと、手応えが変わった。水面が右に左に暴れ回るのが上空からでも良く分かる・・・そこに居るのだ。私は竿を取り落とさない様に手に力を入れて、でも・・・破壊しない様に加減しながら姿勢を維持。

「そのまま、そこで頑張ってね!すぐに網ですくうから。」
「早くして、案外重たいのよ…これぇ!」

 大妖精がゆっくり高度を落として、持っていた網で動いていた物をすくい上げた。
 そこには、金色のお腹が綺麗な鰻が一匹。じたばたともがいている姿に少し可哀想な気もしたが、生を受けて初めて魚を釣った事への喜びがそれを上回った。

「やったね!フランドール。」
「いえーい。釣りって楽しいねぇ!」
「だろー。」

 釣れた鰻をチルノに冷凍保存してもらう。食材は凍らせると鮮度が落ちないんだってね。大妖精が差し出して来た袋の中に凍らせた鰻を入れると、チルノは満足そうにこちらを見ていた。

「この調子でどんどん行くぞー。」
「「おーっ!」」

 それから私達は時間を忘れて、釣りに没頭した。チルノ曰く、入れ食いと言う程でもないが、結構調子いい。との事で、10数匹の鰻を釣りあげる事に成功した。まずまずの釣果に満足そうな大妖精と対照的にまだまだ頑張る気満々のチルノ。負けず嫌いなのかな?

「お、頑張ってるな。」
「どう、釣れた?」

 横から魔理沙ママの声がした。後ろにはアリスママの姿も見える。

「沢山釣れたよ!魔理沙ママ、アリスママ!!」
「「ママ!?」」

 チルノと大妖精はビックリしたようだ。鳩が豆鉄砲喰らったような顔をしている。そりゃそうよね、一日子供になってる事は、私達しか知らないもん。そんな中、大妖精が慌てて、何回も噛みながら質問をしようとしていた。

「ま、魔理沙さんとアリスさんには隠し子がいたんですかぁ?」
「おいおい、そんな大層な事じゃないぜ。」
「あたいの推測が正しければ・・・」

 少しだけ間を置いて、お腹の音が鳴る。チルノは慌ててお腹を押さえた。青い衣装に青い羽根、そして水色の髪を持つチルノの顔は真っ赤っか。周りとの対比で余計にそれが鮮明に映った。

「うぅ・・・お腹空いたぁ。」
「お腹空いてるでしょ?おしゃべりは、ご飯食べながらでいいでしょ?」
「そうね、チルノちゃん。おべんとにしようか。」
「うん。腹が減っては、いくさん、は出来ぬって言うしね!」
「チルノ、それを言うなら戦だ。それにポーズを決めるのは・・・どうかと。」

 チルノが得意気に、あの龍宮の使いが雷を落とす時のポーズをしていた。魔理沙ママはああは言っているが・・・可愛い。
 そんな事を考えていると、私のお腹もぐうとなった、お腹ペコペコだ。

「お腹すいたー、魔理沙ママ、アリスママー」
「ささ、フラン。乗って?ここじゃお弁当を広げられないわ。」
「はーい、すぐ行くね。」

 私は魔理沙ママの前にちょこんと座った。目を合わせると、頷いて箒に魔法を込めてから、湖のほとりの大きな木を指差す。

「そこの木陰が皆座るには丁度良いんだぜ。チルノ、大妖精付いてきな。」
「りょーかいよ!」
「あ、チルノちゃん待って―!!」

 発進した私達から少し遅れて、チルノと大妖精が私達を追いかけて来た。必死に追いつこうとするチルノ達の様子は、見ていてとっても微笑ましかった。


ミ☆


「ご馳走様―。ああ、沢山食べたら眠くなってきたんだぜ。膝を貸してほしいんだぜー」
「あ、こら、食べてすぐに寝たら身体に悪いわよー。」
「アリスだって早起きだったろー、眠いんじゃないのかー?」
「そう言われてみれば・・・って、何乗せようとしてるのよ!」
「ママ達、喧嘩は良くないよー」
「「普通だぜ(よ)」」

 遅めの昼ご飯を食べた私達は、のんびりと木陰で寛いでいた。魔理沙ママとアリスママは朝早かったのもあって、眠そうにしてる。特に魔理沙ママはアリスママの膝に頭を乗せて何時でも寝れるような体制になっている。

「ねえ、フランちゃん。どうして、ママって二人を呼んでるの?」
「昨日から、魔理沙の家に遊びに来てるんだ。」
「そっかぁ、お泊りしてたんだね。」
「正解よ、大妖精。今は、霧雨=フランドール=マーガトロイド・・・ってとこかな?」
「おお、如何にも私の娘らしい響きだ」
「そうねぇ。ホントの娘に洋風の名前付けても違和感が無いわー」
「だなぁ。でも、まだ子供も出来てないのに名前を考えるのはどうかと。」
「備えあれば憂い無しよ・・・何でもね。」

 アリスママから貰ったお茶を飲みながら、色んなお話をする。お姉様や咲夜、それにパチュリーに美鈴や小悪魔とかがしてくれる話とはまったく違う世界が広がる、
だいたいはチルノの武勇伝で、アリスママの膝に寝そべる魔理沙ママに茶化されたり、アリスママに突っ込まれたりしてたけど、それはとっても新鮮だった。
 やがて茶化しやツッコミが聞こえなくなってきた。ふと見れば、ママ達は二人とも目を閉じてた。多分夢の中にいるんだろう。
 それでもお互いの手を放す事は無く、左手がしっかりと繋がれてて。寄り添うように二人で眠るその姿はとっても愛らしい。

 しかし、そんな二人とは対照的に、チルノはハイテンションのままだったりする。

「さいきょーの私は、ありとあらゆる物が得意なのさ。」

 得意気に言うチルノ。確か、妖精は簡単な謎々でも悩みに悩んでくれるとパチュリーは言ってたっけな。そうだ、一回試してみよう!

「随分頼もしいね、じゃぁ、1+1は?」
「ええと・・・あれ?」

 指を何度も折って真剣に考えるチルノ、パチュリーが言ってた事ってホントだったんだ。こういう知識を、自分の目で確かめられた事に私は感動した。だが、このままではチルノがオーバーヒートしかねない位の熱中しようだったので、私はそっと助け舟を出してあげた。

「2だよ、2。」
「そうそう、そうだったー。あたいってばさいきょーね。」
「計算は修業の必要がありそうだわ。」
「むーっ。」
「まぁまぁ、今日は調子が悪かっただけだよね、ね。」
「そうとも言うねー」

 笑い合って、一杯話すうちに、もう夕方。時間が立つのってあっという間だよね。
 
 地下に幽閉されていた時は、時間と言うのは長くて長くて仕方ないイメージがあったが、楽しい時間は長い時間でも、すぐに過ぎていっちゃう。
 
「あ、チルノちゃん、そろそろみすちーの屋台の準備が・・・」
「むむっ、行かなきゃいけないね。」

 そう言って立ち上がったチルノ達はお尻を何度かはたいて、鰻の入った箱を手に取った。その中から、袋を2~3袋取り出して私に渡してくれた。

「はい、これチルノちゃんが釣った分。」
「ありがとう。」
「フランちゃん、その鰻だけど、そのまま食べたら泥臭くってげろいよ。」
「げろい?」
「そう、げろい。吐き出したくなっちゃうような味がするのー」
「うわ・・・それはちょっとやだな。」
「ちゃんと泥抜きをしてから食べてね。そしたら大丈夫よ。」
「うん!げろいのやだもん!」

 元気の良い、このチルノ、確かにさいきょーの側面があるのかも知れない。⑨の一つ覚えみたいに釣りをしてたら、ホントの釣り⑨になったと言う所なのかなぁ。

「あぁ・・・良く寝たんだぜ。おはよう、アリス。」
「ん・・・おはよう。」

 ちゅ、という音に振り向いた先の光景。大妖精が顔を真っ赤にしてチルノは目を白黒させている。私は、この意味をちゃんとパチュリーから聞いてるから、仲が本当に良いんだなぁと実感するのみ。

「おはよう、ママ達、はいこれ。」

 チルノが渡してくれた籠を魔理沙ママに見せると、アリスママも身を乗り出して見て来た。

「これ、フランが釣った奴だな。」
「そうよ、フランの釣り師としての腕前はあたいが育てたのよー」
「おお、やるじゃないか。ナイスなコーチングだぜ。」
「あたい、えらい子?」
「ああ、さいきょーだぜ!」
「やったー!」

 魔理沙の賛辞を受けてはしゃぎ回るチルノ。ひょうきんなんだな、宴会の時でもすっごく元気だったけど、普段でもそんなに変わりないのかな。
 お家の中で普段は過ごしてるから、こうやって日常を覗くだけでも凄く新鮮な感じがする。そんなチルノと大妖精に魔理沙ママが声をかけた。

「・・・チルノ達も飯、ウチで食べてけよー」
「今からミスティアの屋台の手伝いあるから、またにしますねー」
「それに、さいきょーのあたいとしては、あたいが認めるさいきょーの夫婦である魔理沙とアリスと子供のフランちゃんには氷いらずで過ごして欲しいのさ。」
「チルノ・・・それを言うなら、水入らずよ。」
「そう、それそれ、アリス。あたいってば気遣い上手ね!」
 
 ニッと笑うチルノ。無邪気と言う言葉が本当に当てはまるその屈託の無い笑顔は見ていて安心する。見上げた夕焼け空を烏の群れが横切り、鳴き声が

「むきー、あたい、あほじゃないもん!」
「まぁまぁ、チルノちゃん、そろそろ行かなきゃ。」
「気を付けてね、チルノ、大妖精。」

 少しずつ高度を上げるチルノと大妖精は、私の方を見て手を振って答えてくれた。十分な高度を取ったところで、大妖精とチルノが別れの挨拶をする。

「ばいばーい。また遊びましょうね。」
「フランちゃん、また釣りしようねー」

 そんな、大妖精とチルノの一言がとっても嬉しかった。また、ここに来れば今日のような楽しい時間が過ごせるんじゃないかって。外に出れた時の楽しみがまた一つ増えそうだ。
 飛び去るチルノと大妖精に手を振って、水平線の向こうに消えるまでその後ろ姿を私は追い続けた。

「行っちゃったね。」
「ああ。だけど、良かったな、フラン。」
「また、此処にくれば一緒に遊べるわよ。」
「うん!」

 そして後ろに立つ魔理沙ママとアリスママに向き直って、私は分けて貰った鰻を渡した。二人ともその鰻に驚き、頭を代わる代わる撫でてくれる。私のした事で喜んでくれると言う事が、こんなにも素敵な事だなんて思ってもみなかった。
 破壊することしかできなくて、皆に迷惑をかけてた私。そんな私のした事でも、こうやって喜んでくれる人がいる事・・・

ただ、それだけの事なのに、凄く、嬉しかった。

「よし、折角フランが釣って来た鰻だ。帰ったら泥抜きして、うまきにしてやろう。美味しいぞー」
「魔理沙の卵焼き、美味しいもんねぇ。それにこの取れ取れの鰻を使えば・・・うん、きっと良いのが出来るよ。良かったね、フラン。」
「そう、嬉しいよ、ママ!!」

晩御飯への期待が高まる。朝食やお弁当も美味しかったから、きっと美味しいに違いない。しかも、自分が釣った鰻を料理してくれるから、その味はまた格別の物になるだろう。

「帰りましょうか、我が家に。」
「うん!!」
「フラン、アリス。乗ってくれ。」
「今日は私が背中!」
「おお、そうだったな。アリスの背中に、しっかり捕まってろよー」
「はーい。」
「フラン、両手がふさがるから日傘は上海に持たせるわ。」
「うん、お願い、上海。」
「シャンハーイ」

私は日傘を上海人形に預けてから、アリスママの背中に両手でしがみ付いて、体重を預けた。その背中はとっても優しい感じがする。ママが言ってた事は、ホントだったんだ・・・

温かさとか、安らぎとか・・・記憶の中にある、お母様の背中のようだ。

「お母様みたい・・・」
「あら、ありがとう。」
「アリスは母親の才能があるのかもしれんな。」
「そうかな、でも嬉しいわ。ま、家までゆっくりお休み。」
「うん。おやすみ・・・ママ。」


 夕焼けから身を護るために日傘を差してくれる上海にも感謝しながら、私は懐かしさと優しさを感じる。
 
 目を閉じれば、今と言う素敵な時を刻む、心臓の鼓動が聞こえて来る。

 私が居るのは何も無い黒くて暗い地下の世界じゃない。

 目を開ければ、幻想の空の下、私は色んな人や妖怪に囲まれている。


・・・孤独じゃないんだ。


「ママ・・・ありがとう。」

 
・・・私は、二人のママにそっとお礼を言った。

ミ☆

「じゃあ、また!う巻き、美味しかったよ。」
「ああ。フランならいつでも遊びに来てもいいんだぜ。」
「また遊びに来てね、フラン。今度は、もっと色んな事して過ごしましょ?」
「ありがとう!」

 帰って沢山美味しいご飯を食べた私は、紅魔館へと戻り、魔理沙とアリスに見送られながら門へと駆けて行く。そこには緩やかな動きをしている美鈴の姿があった。私がこれだけの長時間一人で紅魔館外に出る事も無かったから、なんか、凄く懐かしく思える自分にちょっと不思議な感じがする。

「妹様、おかえりなさい!」
「美鈴、御苦労さま。お姉様は、今起きてるかな?」
「ええ、恐らくは。妹様のお帰りをずっと待ってましたから・・・」
「美鈴もお土産話聞く?シェスタよりは楽しーよ?」
「いやはや・・・そういう訳には。此処を護るという使命が、お土産話を安全にできるようにする使命が私にはあります。」
「・・・そっか!じゃあ、また今度話に来るね。」
「ええ、お待ちしてます。」

 門番に挨拶をして、私は紅魔館の中に入った。エントランスにいたお姉様は、私を見るなりすぐにダッシュしてきたからビックリ。
 1日家を開けただけでこれは・・・でも、これはお姉様が私を心配し、帰りを待っていた証拠に他ならない。

「おかえり、フラン。我が妹よ・・・う~」
「お姉様~」
「あぁ、お嬢様達の感動の再会・・・・・何と美しい。」

 私は、1日ぶりの再会をお姉様と果たした。横で咲夜が鼻血を出してその姿を見守ってたりしていたが、それはまた別の機会に、ね。


ミ☆


 紅魔館からの帰り道。魔理沙の後ろにしがみ付いて、いつものように空を飛んでいた時の事である。魔理沙がいつもの元気良さを感じない神妙な声で私に語りかけて来た。

「ごめんな、アリス・・・我儘に付き合わせちゃって。」
「いいの。楽しいワガママなら大歓迎よ。」
「振り回してばっかで、迷惑じゃない…かな?」

 あぁ、どうして魔理沙はそんな顔をするのだろう。私の事を想う余り、魔理沙を苦しめているのであれば、私としても心外である。私は魔理沙と付き合う事を決めた時に・・・魔理沙の事を全て受け入れるって決めたんだ。空虚だった私を、一杯に満たしてくれた最愛の人の全てを。
 
「迷惑なら、迷惑って言うわよ・・・魔理沙、貴女のその心遣い、凄くうれしいわ。」
「え・・・」
「私の事を想ってくれる、気遣ってくれるその優しさ、大好きよ。」
 「アリス・・・」
「だから、ピクニックに行こうっていう、ワガママ言ってみたの。私のやりたい事・・・聞いてくれてありがと。」
「アリスの頼みなら、何だって聞くんだぜー」

 魔理沙は暫く俯いてから、きゅっと顔を上げた。

「ちょっと、そこで休憩しようぜ。」
「ん、良いわよ。疲れたの?」

 不意に魔理沙が近くの高台を指差した。表情が少し緊張している辺り、何か企んでいるのは容易に想像が付く。でも、魔理沙がこんな所で企んでいる場合は、乙女の本性を出して来るケースが多い。茶化すと怒るので、私は、頷いてそれに答えるだけ。承諾の合図に気を良くした魔理沙は、口笛を吹いて理由を語る。

「いや、月が綺麗だから少し眺めたいなーなんて。」
「魔理沙も女の子ね。」
「普通だぜ?」

 魔理沙がゆっくりと高度を落とした。私は魔理沙の腰にしっかりと捕まって魔理沙にコントロールを任せる。優雅に着地を決めた私達は、寄り添って空を眺めた。
 満天の星空、うっすらと輝く朧月。その光に照らされた魔理沙の横顔が凄く大人に見えた。
 この数カ月で、色んな事があった。色んな事が起こる度、魔理沙は懸命に生きて立ち向かい、困難を乗り越えてきた。
 人としても、魔法使いとしても成長を続ける魔理沙に、少しでも追いつこうと、そして力になりたかった。結果として私も、色んな魔法を覚えたし、無理かと思われたゴリアテも完成させる事ができた。私より年下の筈なのに、凄く大人に見えるのは・・・そう言う所から来る魔理沙の人間性なのかな。
 
 そんな魔理沙は、ポケットから何かを取り出し・・・真剣な表情でこちらを見て来た。

「アリス・・・これ。」

 黒い小さな箱を差しだされた私は息を呑んだ。シックだが、非常にセンスのあるその箱に眠る中身は何だろう?

「・・・開けてみてくれ。」
「・・・まぁ!!」

 促されるまま開けた箱の中から現れた2つのダイヤモンドの輝きが私を射抜く。ダイヤモンドの意味する言葉は永久の絆・・・最近こっそり寝床を抜け出していたのはこれを作っていたからなんだ・・・
 
 黒の台座に白いダイヤモンドをあしらった、7色の指輪・・・

 魔理沙が私の為に作ってくれた、愛の証。

「これは・・・魔理沙、もしかして・・・・」
「あぁ・・・結婚指輪なんだぜ。アリスの為に作ったんだ。」
「ありがとう。魔理沙・・・」
「その・・・な、もうすぐ結婚式挙げるけど、これだけはちゃんと言っておきたくて。」
「・・・うん。」

 魔理沙の力強い眼差しが私を捕えた。魔理沙が真っ赤になって、こちらを向いて必死に言葉を紡ごうとしている。何時も魔理沙は、こうやって、ホントに勇気のいる事を率先してしてくれる。私も見習いたいけど、その勇気で、私をスッポリと覆って護ってくれる魔理沙の傍に居られる今の状態もそれはそれでココロが暖まる。
 

「ワガママで、だらしなくて、どうしようも無いかも知れない所はある・・・でも、私は、お前の事を幻想郷・・・いや、この世界で一番愛してる!だから・・・」


―アリス、私と・・・霧雨魔理沙と、結婚してくれ。

 
 時間が止まったような気がした。私を射抜いた言葉は、とても重く、力強い。その言葉の意味を理解していく私から、私のココロから暖かいものがこみあげて来る。バレンタインに想いを伝えあった時とはまた違う、幸せな・・・目の前の愛する人の告白。ココロから溢れ出した物が、目から溢れ出して行くのが分かった。
 こんなに嬉しいのに、涙が止まらない。それはきっと、愛で私の全てが満たされたから。
 
 私の答えはもう、決まっている・・・一つしかない!

 目の前にいる、最愛の人と結婚するんだ!!

「私も、ちょっと冷たかったり、きっちりしすぎてる部分はあるわ。でもね、貴女を愛する気持ちは、この世界で一番よ・・・魔理沙!だから、ね・・・」


―私、アリス=マーガトロイドと結婚して、世界で一番幸せな魔法使いにして下さい・・・


 私がそう言いきると、魔理沙の目からも、涙が溢れた。人目もはばからず泣いて、泣いて、幸せを分かち合う。何度もうんと言って意思を確認する度ココロに温かい物が流れ込んで行く。

「あぁ・・・アリスの頼みだ、世界で一番・・・幸せにする!一緒に幸せになろうな・・・」
「うん・・・ありがとう。」

 涙で前が見えなかったけど、左手に輝く9色の光が私達を導き、そっと手と手が触れ合う。触れ合った手が重なり握りしめられて伝わる温もりが、全身に広がっていくのを感じる、

「魔理沙、一杯一杯抱きしめて・・・」
「アリス、私も同じ気持ち・・・」

 トクン、胸が満たされる。愛する人が、私の全てを満たしてゆく。繋いだ手から伝わる温もりが、触れ合う胸から伝わる心臓の鼓動が、お互いのココロを優しく包みこんだ。
 
 
 これから、長い長い、生、という長い旅路を、一緒に歩いてゆくのだ。ずっとずっと・・・

 どこまでも。

 いつまでも。

 満天の星と朧月の照らす空の下、私達はそう・・・誓い合った。

「魔理沙、愛してる。」
「アリス。愛してる。」

 自然と惹かれあって、私達は深い口づけを交わした。それは私が今持ってるダイヤモンド・・・いやどんな宝石よりも美しく輝いている、どんな幻想よりも美しいキス。




沢山の愛に包まれて、私達は、また一歩家族に近づいてゆく。




私達が本当に結ばれる日は、もうすぐそこまで来ている・・・


To be continue…
 月明かりの落ちる夜に交わした、恋人同士の誓い。
 近づく、恋人同士の人生最良の日まであと少し。
 少し、また少しづつ二人は幸せに向かって進んで行く。

 はい、どうも。鰻を食べたくて仕方ないので、某大手丼物屋の鰻が始まったら即座に行こうと考えている、梅雨時も食いしん坊なタナバンどえす。

 今作は次に予定している(え?)夏の連作への伏線張り+三人以上が常に会話に参加している状況を設定して、最近不足気味だった糖分をたっぷり加えて、熱いプロポーズを書かせて頂きました。

 中盤のフランとチルノのお話ですが、これは同人活動を再開するきっかけを与えてくれた尊敬する、とある絵師様のお誕生日プレゼント(リスペクト)です。セリフ回しなどが少し似てるのはそのためです。
 リスペクト元同様、ほのぼのだけど、どこか抜けている話を目指して書いてみましたがやはり糖分高めのマリアリスキーには難題だったけど、こういう表現もあるんだなぁとかまたまた発見をする事が出来ました。リクエストがあれば、何処かでフランちゃん視点の作品を書くかもしれません。この誰かの子供になるというシチュエーションは、なかなかに希少だと思うし、マリアリにフランが絡むのは書いていてもすらすらっと書ける部分があるのでw

 余談ですが、フランと皆に呼ばせたがるのは、寂しさの裏返しであると勝手に解釈してますが、その辺ってどうなんでしょ?w

 
さて、長かった春の連作も次回が最終話となります。

もう、多くは語りません。幻想郷一幸せな二人の門出を、祝ってあげて下さい。

では、最終話でお会いしましょう!!

追記:指摘のあった誤字を修正しました。奇声さん、マジサンクスです!
タナバン=ダルサラーム
http://twitter.com/#!/tanaban0831
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
マリアリ夫婦に娘フラン…違和感ないんだよなぁ。
いよいよ次は結婚式みたいで楽しみです。
2.奇声を発する程度の能力削除
>断るのも可愛そうな気がしてならない
>じたばたともがいている姿に少し可愛そうな気もしたが
可哀そう?
>Noと行った事は無いが
言った?
家族の温かさを感じて素晴らしかったです
3.名前が無い程度の能力削除
おお これが理想の家族というものか…
4.糸目削除
今回はツッコミ所が多くて面白かったです。デビルマン懐かしかったです。
5.名前が無い程度の能力削除
ほのぼのした雰囲気で皆かわいすぎて浄化されるところだったんだぜ…
このフランもうずっとマリアリの養子でいいな!
次回も楽しみに待ってますね!
6.名前が無い程度の能力削除
マリアリもすてき