Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

大切なもの

2011/06/06 20:08:29
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「どうして人は失うことを恐れるのかしら?」

 大学のカフェテラスで優雅なティータイムを楽しんでいると、唐突にわけのわからない問い掛けをする無粋な人間が現れた。

「38分15秒の遅刻ね」

「正確には41分2秒ね」

 そう答えて目の前の席に座る彼女は、宇佐見蓮子。
 私の所属する部員2名のオカルトサークル、秘封倶楽部の創設者であり、私が最も心を許している大切な相棒だ。
 そして、この相棒は困ったことに遅刻魔である。
 彼女が約束の時間に遅れてこないことはまずない。
 いくら咎めてもまったく反省の色を見せないので、私は彼女にちゃんと定刻通り来るよう言うのはやめることにした。
 そんなことをしてもエネルギーの無駄遣いだ。
 それなら、彼女が来るまで平和なティータイムを楽しむ方がいいに決まっている。
 そもそも、この馬鹿のために余計なエネルギーをくれてやるほど、大学生には余裕などないのだ。

「なんか失礼なこと考えてない?」

「蓮子に礼儀なんて必要ないわ」

「親しき仲にも礼儀ありよ。っていうか否定ぐらいしなさいよね」

 蓮子は呆れたように言うと、手を挙げて「すいません、ホット一つ」と通り掛かった店員に注文した。
 私はちらりとメニューを見る。メニューには美味しそうなケーキの写真が大量に並べられていた。
 私はその一つを指差し、蓮子の肩を叩いた。

「蓮子、私これ食べたいなぁ」

「じゃあ自分で頼めば?」

「やぁよ。蓮子遅刻したんだから奢ってよ」

「どうして私が貴女の体重を増やすのに貢献しないといけないのよ」

「大丈夫、全部胸にいくから」

「胸にいっても体重は増えるでしょうに。……って、そういう問題じゃなくて」

「ねぇ、たまにはいいじゃない。お願い」

 ここぞとばかりに上目遣い。
 私の美貌にきっと蓮子もたじたじね。

「嫌。大学生は貧乏なのよ。他人にくれてやるお金なんてびた一文もありはしないわ」

 しかし、私の必殺上目遣いを受けても蓮子はクールだった。
 あまりにもクールすぎてメリーちゃん凍えそう。

「お待たせいたしました。ホットコーヒーになります」

 馬鹿なやり取りをしている間に蓮子の注文したコーヒーがきた。
 店員は一礼して「ごゆっくりどうぞ」とマニュアル通りの台詞を口にすると、その場から去って行った。
 それを目で追いつつ、私は蓮子に問い掛ける。

「で、さっきのは一体どういう意味よ?」

 蓮子は首を傾げる。

「さっきのって?」

「何故人は失うことを恐れるのかってやつ」

 私がそう言うと、蓮子は「あー、あれね」と眠そうにしながら答えた。

「昨日戦争モノのアニメを見たんだけどね」

「うん」

「なんか女の人が“行かないで、もう誰も失いたくないの!”とか言ってたから、ふと考えちゃって」

「相変わらず変な所で変に考えるわね」

「普通よ」

 いや、普通ではないと思う。
 蓮子はよくこうやって何かの影響を受けては、普通は流す所を変に深く考える。
 天才という生き物は皆こうなのだろうか。それとも、単純に蓮子が変なだけだろうか。
 そういえば、天才と変態は表裏一体だと誰かが言っていた気がする。

「なんか失礼なこと考えてない?」

「蓮子に礼儀なんて必要ないわ」

「天丼よ、メリー」

「天丼食べたいの?」

「そうじゃなくって……」

「蓮子、私天丼食べたい」

 蓮子は呆れた顔で溜息を吐くと、無言で私にデコピンを食らわせた。

「痛いわ」

「はいはい、話戻すわよ」

「天丼の意味ぐらい私も知ってるわ」

「話戻すって言ったそばから脱線しないでくれる?」

「へぇへぇ」

 私が頷いてみせると、蓮子はやれやれといった具合にコーヒーを一口飲んだ。

「で、何故人は失うことを恐れるのか、相対性精神学専攻の貴女の意見を聞かせてほしいわ」

 蓮子は期待して私の答えを待っている。
 参ったな、精神学を専攻してはいてもそういうのは専門じゃないのだけれど。私の専門は夢だし。
 まあ人の心理は確かに理系の蓮子よりは得意なのだが、蓮子の納得できそうな答えは生憎持ち合わせていない。

「んー、損得の問題じゃないかしら。過失が望ましくないことは当たり前でしょう?」

 蓮子は難しい顔をしている。
 やはり彼女が納得できる答えではなかったようだ。
 まああまり真面目に考えなかったのだから当たり前だが。
 蓮子は難しい顔をしたまま、私に反論した。

「でも、望ましくないのと恐れるのとでは全く別の感情よ。人は何かを失うことに対して、異常とも言えるほどの恐怖心を抱いているわ」

 確かにそうかもしれない。
 そうかもしれないが、蓮子は根本的な部分で勘違いをしている。
 そもそもにおいて、感情を理論的に説明しようとすること自体が間違いなのだ。
 理論で説明しなくても、ニュアンスで感覚的に理解できるのが感情というものである。
 まあそんなことを言えば、蓮子は「それは間違っている!」なんて言うのだろうが。
 私たちは専攻している分野のせいか、お互い考え方は真逆なのだ。
 ここで反論しては論点がずれてしまうので、私は蓮子に合わせて話をすることにした。

「じゃあ、失うことの代償が大きすぎると考えてみたらどうかしら?」

「どういう意味?」

「例えば、全財産を失ってしまったら?」

「想像したくないわね」

「今の時代、お金がなくちゃ生きてはいけない。全財産を失ってしまえば、まず間違いなく幸せにはなれないわね」

 私の言葉で蓮子はハッとしたように顔を上げた。

「なるほど。つまり、失うということは幸せを奪われることと同義なのね」

「まあ物によるでしょうけど。人が失うことを恐れるような物、つまり大切な物ならその考え方は当て嵌まるでしょうね」

 蓮子は納得したようにうんうん頷いている。
 そして、同性でも惚れ惚れしてしまうような格好良い笑顔で私に言った。

「じゃあメリーは私にとって大切な人なのね」

「……え?」

 思考が停止する。
 私が、蓮子の大切な人……? 
 まずい、顔が熱い。
 蓮子はそういう意味で言ったわけではないとわかっていても、さっきの言葉を勝手に都合の良いように解釈してしまう。
 ええい、にやけるな私の顔!
 私は顔が赤くなってるのを誤魔化すために、わざと蓮子の言葉を茶化した。

「大切な人って、蓮子ったら大袈裟ねぇ」

「だって、私メリーを失うのが怖いもの。とても」

 そう言った蓮子の顔に、少しだけ影が差した……気がした。

「蓮子……?」

 私が心配して声をかけた次の瞬間には、いつも通りのクールな笑顔に戻っていた。
 さっきの表情は気のせいだったのだろうか。

「メリーは?」

「へ?」

 唐突に話を振られて、間抜けな声を発してしまった。
 蓮子は意地悪な笑みを浮かべて私を見つめている。
 まずい、完全に会話の主導権を握られてしまっている。

「メリーにも大切な人はいる?」

 にやにやしながら問い掛けてくる蓮子。
 こいつ、答えがわかってて聞いてるな。

「それは……」

「ん?」

 いい加減にやけるのをやめろ! 
 そう言いたくなるのを我慢する。
 にやけ顔を崩すために違う答えを言ってもいいのだが、なんとなくそれは躊躇われた。
 さっきの蓮子の表情が頭にちらつくのだ。

「メリー、答えは?」

 ええい、もう言ってしまえ!
 蓮子がさらりと言ってのけたことだ、私にだってきっとできる。
 私はできる限りで一番の笑顔を蓮子に向けてやった……つもりだ。

「私の大切な人は貴女よ、蓮子」

 冷静にさらりと言ってやったつもりだったが、蓮子に「メリー、顔が真っ赤よ」と言われて泣きたくなった。
 次にこういう機会がきたら、今度は私が弄ってやるから覚悟しときなさいよ、蓮子。

「でもよかった。私はちゃんと貴女にとって大切な存在なのね」

 さっきまでの意地悪な表情はどこに行ったのか、蓮子は心底ほっとしたように呟いた。

「メリーの居場所はここにあるんだから、ちゃんと私のもとに帰ってきてね……」
 
 気を抜いていたら聞き逃してしまいそうなほどか弱い声だった。
 あの男勝りな蓮子の声とはとても思えないほどに。
 言葉の真意を聞こうとする前に、蓮子はコーヒーを飲み干して立ち上がった。
 そして私の手を掴んで言った。

「さ、行こうか。今日も面白いネタを手に入れたのよ」

「ちょ、ちょっと蓮子……!」

「午後5時50分ジャスト。いよいよ暗くなってきたわ。夜は秘封倶楽部の活動時間よ!」

 そう言って、私の手を引く蓮子は楽しそうに笑っていた。
 私は「仕方ないなぁ」と呟き、伝票を忘れずに抜き去った。



 お互いに大切に想い合っている私たち。
 だけど、少しだけ擦れ違っている私たち。
 そうして無意識に境界を作りながら、私たち秘封倶楽部は今日も世界の境界を暴きに行く。
 別れの予感に定評のある蓮メリ。 


 どうも、MK沢村です。
 最近蓮メリブームです。蓮メリちゅっちゅ。
 アリ咲が行き詰ったので、息抜きに蓮メリ書きました。
 アリ咲はできあがるのかなり遅くなるかもしれないです。
 何故かと言うと、シリアスを書いているから。
 シリアス苦手です。
 ところで、秘封素晴らしいですよね。
 秘封CDは作業用BGMによく聴くのですが、どれも神すぎて困ります。
 個人的に、夢違科学世紀はメリーの、大空魔術は蓮子のCDだと思っています。
 夢はメリーのもの、空は蓮子のものです。
 どうでもいいですね。
MK沢村
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
ごちそうさまでした!
蓮メリちゅっちゅ
2.名無し程度の能力削除
蓮子クールだなぁ
どんどんお願いします
3.名無し程度の能力削除
蓮子クールだなぁ
蓮メリどんどんお願いします
4.名前が無い程度の能力削除
良~い蓮メリ!
最高だ!
5.MK沢村削除
コメントありがとうございます。励みになります。

>>1様
お粗末さまでした。
蓮メリちゅっちゅ。

>>2様、3様(コメント内容がほとんど同じなので統一させてもらいます)
原作の蓮子はクールなのでそれに近づけてみました。
メリーも原作風を目指してみましたが、原作よりまぬけな子になってしまいました。

>>4様
蓮メリはどうあがいても甘々になってしまいます。
まあ原作でも仲良しだからいいよね。