Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

こぁ!-You Said "For You"-

2011/05/22 18:32:43
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※この小説は、ニコニコ静画にて活動中の絵師「ぱんだもち氏」の1枚の絵から作られた小説です。




「プロローグ」


その夜。俺は得体のしれない浮遊感に目を覚ました。

「なん…だ…これ」

 辺りを見回すと、360度わけのわからない空間が囲んでいた。
 目を凝らして見てみるも、霞みがかったようにその先は伺い知れない。
 夢か? それにしては体の感覚が冴え切っている気もするが。

「ん……?」

 黙って状況把握を図っていると、何処からともなく小さな声が聞こえてきている事に気が付いた。
 なんだ? なんて言っているんだ……?
 よく聞こえるようにと、その方へ体を向けると、靄のかかった空間の隙間から一筋の光が伸びている事に気付いた。
 それは次第に強さを増し、やがて俺の体を包み込んだ。
 あまりの眩しさに目をあけている事が出来ず、俺は固く目を閉じた。

 しばらくそのままで居ると、ドスンっ、と体に小さな衝撃が走った。
 ああ、やっぱ夢だったか……
 高い所から落ちる夢を見た事があるだろうか? 俺はある。
 小さい頃に高い所から落ちた事があり、それがトラウマとなって今でも良く高い所から落ちる感覚を夢の中で味わうのだ。
 そういう時決まって地面に落ちた瞬間に、実際に落ちたわけでも無いのにまるで落ちたような小さな衝撃が走る。
 これは脳が夢の中の事をリアルに感じ取って起こす現象なのだが……

「けほっ、こほっ……こあ? 大丈夫?」
「!?」

 あれ? 今確かに少女の様な声がしたよな…… 俺は一人っ子だぞ?
 いやまぁ両親は健在だし近所からは「若奥様と若旦那さま」と、陰で呼ばれているほど俺の両親は若い。
 といっても、いくら若い母親でも流石にあそこまでの声は出せない筈だ。

「こあ? 返事をしなさい、こあ」

 夢じゃねぇ……
 そう、考え直すしかなかった。




第1話 「こあ!?気がついたらオレ、アクマになってました。」


目をあけると、冷たいタイルの上に横たわっていた。一体どういう訳なのだろうか……
 辺りにはモクモクと煙が立ち込めており、少し先すら見えない。

「ねぇこあ、聞こえないの? 返事をしなさい」

 カツカツと足音と共に、聞き慣れない少女の声が響いている。

「こあ……? なによ、居るじゃないの」

 スッと目の前に影が差した。
 見上げると、薄紫色のネグリジェに身を包んだ小柄な少女がこちらを見下ろしていた。

「いるなら返事をしなさい、心配したじゃない」
「え? あ、はい」

 訳がわからずとりあえず返事をすると、目の前の少女が手を差し伸べてきた。

「ほら、いつまで横になっているつもり?」

 言われてその手を取るとグッと引っ張られ、俺はその場で立ち上がった。

「ありがとう」
「……? 気にしないで」

 若干不思議そうな顔をした後、目の前の少女は部屋を見渡した。

「それにしても、ひどく失敗したものね……」

 はぁ~。っと、大きく溜息をつくと、床に散らばっている紙を拾い始めた。

「あ、あの」
「ん~?」
「ここ、どこですか?」
「え?」

 その背中に声をかけると、作業をしていた小柄な少女がその手を止めてこちらを振り返った。
 訝しげな表情でこちらを見ているが、そんな中に若干の驚きが混ざっている。

「あの、俺部屋で、あ、俺の家は……あれ?」

 その時、ある事に気付いた――



 自分の出している声が、まるで女性が出すような高い声だと言う事に。



「…え? なんで」

 自分の喉を両手で押さえると、細くてすべすべとした感触が指を通して伝わってくる。
 そのまま両手を恐る恐る顔の前に出してみると、細くてきれいな手の指が眼前に広がった。

「あ……れ、あれ!?」

 顔、肩、体、と順に触っていくと、男にはあり得ない物が俺の体に付いている事に気付いた。

「これ、胸……?」

 あまりの事に意識がついて行かず、俺はその場にしゃがみ込むように崩れ落ちた。

「ちょ、ちょっと小悪魔? 大丈夫?」

 今まで傍観していた少女があわてた様子で近付いてきた。

「こあ……?」
「どうも様子がおかしいわね、ちゃんと説明して頂戴」


~こあ説明中~


「要するにあなたは部屋で寝ていて、気が付いたらここに居た。そして、体が小悪魔の物になってしまっていた……そう言う事ね?」

 俺(私?)は黙って小さく頷いた。

「魔法の失敗の影響かしら」

 目の前の少女パチュリー(説明をしている間に教えてもらった)が、気難しそうな顔をしながら唸り声をあげた。

「魔法?」
「そうよ、魔法を試していたの。失敗したと思っていたのだけれど、思っていなかった方向で成功をしていたようね」

 へたれこむ俺を尻目に、パチュリーは若干嬉しそうな顔をていた。

「それより、これどうにかならないの?」
「無理ね」
「え……」

 ちょっとした希望の元聞いてみたが、パチュリーの返事は素っ気ないものだった。

「ど、どうして……?」
「そ、そんな涙目でこっちを見るんじゃないっ! 別に意地悪しているわけではないわ」

 パチュリーが困ったように髪の毛を掻き上げた。

「いい? その体が私の使い魔の物だって事は説明したわよね?」
「う、うん」

 その話は先程事情を説明した際に聞かされた。

「なぜこうなってしまったのかと言うと、小悪魔の体にあなたの魂が入り込んでしまったせいなの」
「うん」
「一つの体に二つの魂は入らないから、必然的に小悪魔の魂は体の外に追い出された……」

 一言一句を丁寧に続ける。

「本当は追い出された魂が追い出した方の体に移るはずなのだけれど、どういう訳かあなたの体はこちらに来ていない。よって小悪魔の魂はまだ近くを彷徨っている、と言う事になるわ」

「そ、そうなんだ」
「もし、今あなたの魂を小悪魔の体から出したら、魂の無くなった体は生きる事を放棄して死んでしまうわ」

 だからダメ。と、パチュリーはその話を締めた。

「それに、あなたも体が無いからその辺を彷徨う事になるわよ」

 意地悪そうな笑みを浮かべてパチュリーは言った。

「さてと」

 目の前の少女は、そう言うとくるりとこちらに背を向けて、小さく伸びをした。

「小悪魔……こあの魂が見当たらないの」
「え?」
「彼女の主人として存在は感知できるから、そんな遠くに居る訳ではないみたいだけど、なんだか曖昧で良くわからないのよ」

「って言う事は、しばらくはこのまま……?」
「そうね」

 あっさりとパチュリーはそれを認める。

「そ、そんな……」
「だからそんな泣きそうな顔しないのっ。別にここだって悪い所じゃないわよ、慣れればきっと楽しいわ」

 そう、まじめな顔でパチュリーは告げた。




第2話 「こあこあ。女の子の体にどきどきっ!」



「とにかく、今はどうしようもないわ」

 そう言うと、パチュリーは近くに散らばった紙を拾う作業に戻った。

「とりあえず今日はもう休みなさい、疲れたでしょ? 私はまだ調べたい事があるから先に寝てしまっていいわよ」
「は、はい……でも、出口は?」

 休んでいいと言われても、見渡す限り本棚ばかりで何処に行けば良いのかが見当もつかない。

「足元に矢印が書かれた紙が貼ってあるでしょ? それをたどって行けば上にあがれるわ」

 言われて見ると、確かに床に道順を示すような矢印が点々と置かれている。

「それじゃあ、おやすみなさい」
「おやすみなさい」

 そう言って、俺はその場所を後にした。


 矢印を辿って、しばらく歩くと大きな螺旋階段が見えてきた。

「長い……」

 螺旋階段は見上げる程続いており、一筋縄で登れないのが一目で見てとれた。
 長い時間をかけてそれを登りきり、両開きの扉をくぐると長い廊下に出た。

「そう言えば、部屋何処だろう?」

 休んで良いと言われたが、何処が自分の部屋か全くわからない事に今更気付いた。
 そう思いながら周りを見渡していると、図書館の隣のドアにプレートで可愛く『こあ♪』と書かれた部屋がある事に気付いた。

「ここかっ!」

 きっと勝手が良いようにと、すぐ隣に部屋を貰って居るのだろう。
 ドアを開けて中に入るとピンクをメインに使われた、可愛らしい部屋が広がっていた。
 中央に小さなテーブルがあり、その周りには部屋と同色のクッションが置いてある。
 部屋の隅には机が置いてあり、その横にベッドが備え付けられていた。

「お、おじゃまします」

 一応自分の部屋なんだよな……?
 そう思うも、若干の罪悪感を胸に部屋の奥へと入って行く。
 部屋は綺麗に掃除されていて、とても清潔感にあふれていた。

「すごい、なんだかいい匂いがする」

 すんすん、っと、鼻を鳴らすと女の子特有の仄かに甘い匂いが鼻孔をくすぐった。

「なんかイケナイ事をしているみたい……」

 そんな事を思いながら、とりあえず着替えようとベストを脱ぎ近くのテーブルに畳んで置いた。

「ふんふんふ~ん」

 なんだか優しい気持ちになって、鼻歌交じりにシャツのボタンを上から外して行った。
 ひとつ、二つ、三つ四つ。五つ目に手をかけた所でピタッとその手が止まった。

「……」

 目の前にある姿見、そこにはピンクのブラジャーを曝した自分の姿が映っていた。

「―――っっ!!!」

 そ、そうだ! 今は女の子の体だった!!
 鏡に映る自分の顔が見る見る真っ赤に染まって行く。

「ど、どうしよう……」

 この服のまま寝るべきか……? でも流石にシャツのまま寝るのは疲れが取れないよな?

「し、しかたない」

 意を決し、目を固く瞑りシャツのボタンを手探りで一つ一つ外していく。
 すべて外し終えると、畳む事が出来ないのでそのまま地面に脱ぎ落とす。
 布が擦れる音が静かな部屋に響き、シャツが床に落ちた。

(ど、ドキドキする)

 心臓の音がやけに大きく響いている。

「つ、次は……っ」

 スカートに手を伸ばし、それのホックを手探りで探す。

(これを脱げば、ほとんど裸に……)

 想像しそうになり、慌てて頭を振ってその妄想を頭から追い出した。
 そんな事をしているうちに、ホックを探り当てた。
 おぼつかない動作でそれを外すと、重力に従い足を滑り落ちて行き、スカートは床に落ちた。
 まるで大義をこなしたかのような充実感に見舞われ、大きな溜息を一つついた。
 さて、後はニーソックスだな。
 そう思い太ももに手を伸ばすと、ニーソから腰回りへと紐の様な物が伸びている事に気付いた。

(あれ? なんだろ、これ)

 手で探ってみると、それは両足の前面と側面に1本ずつあり、ニーソが落ちないように支える役目をしているようだった。

「こ、これガーターベルト!?」

 よくよく自分が鏡に映った時の姿を思い浮かべてみると、確かにニーソからベルトが伸びていた事を思い出した。
 更に手で探ってみると、どうやらベルトの上から下着を履いているようだ。

(第一良く考えたら下着も変えなきゃだし……)

 既に着替え終わっていた、なんて都合良くないだろうし。

「これ、どう外すんだ?」

 試しにニーソに付いたベルトを手で弄ってみと、ホックの様な物が手に触れる。が、どうすればこれは外れるのだろうか。
 スカートのホックはジーパンのに酷似していたから何となくわかったが、これはさっぱりだ。

「見てみるしかないよな……」

 ゆっくりと目を開くと、そこには顔を真っ赤にして下着とニーソックスだけを身に纏っている少女の姿があった。

「にゃあっ!?」

 そうだ! 姿見の目の前に居るんだった!!
 慌てて後ろを向き自分の姿に背を向けた。
 が、鏡に映っていた自分の艶めかしい姿が脳裏に焼き、それが鮮明に頭の中に浮かんでいる。
 顔が熱を持ち、胸が早鐘を打って鳴りやまない。

「と、とにかく……」

 ガーターベルトのホックを目で確認し、素早く取り外す。
 下着を上から付けていた事を慌てて思いだし、近くに備え付けられてるクローゼットを開いた。
 開ける瞬間自分の物ではないと言う事を思い出し、若干躊躇いを感じたがそれ所ではないので開けさせてもらった。
 中は服が6着ほどハンガーに吊るされていた。
 その下に小さな箪笥もあり、そこを開けると下着類が丁寧にしまい込まれて居た。

「うっ」

 流石に悪いと思い、なるべく直視しないように手頃な1枚を手に取る。
 何も考えないよう努めながら下着を脱ぎ去り、ガーターベルトを外してあたらしい下着に履き直した。

「ふぅ……」

 とりあえずもっとも危険な地帯は抜けたはずだ。
 ほっと溜息をつき、呼吸を整えた。

「さてと?」

 ブラジャーも付け替えるのだろうか……?
 汗かくだろうし……だが触ってみた感じワイヤーがしっかり型をとっているし、寝る時は外した方がよさそうだ。
 そう思い、背中に手を回してホックを外す。
 すると、それまで狭苦しそうにしていた二つのそれが解き放たれて、たゆん。と大きく揺れた。
 思わず見とれた。
 ゴクリっと、喉が鳴り、それに気が付いて慌て着替えを再開した。

「え、えっと、着る物は……」

 クローゼットにハンガーで掛っている服を見る。
 すると、ハンガーに紙で『普段着』『パジャマ』と、タグが一つ一つに丁寧に貼られて居る事に気付いた。

(小まめな子だなぁ……)

 思わず笑みが漏れた。
 とりあえず水玉模様のパジャマをハンガーから下ろして着替ると、床に散らかったままのシャツとスカート、下着類を きちんと畳み、テーブルに乗せてあるベストと並べてからベッドにもぐった。
 ふかふかのベッドには、薄手の肌がけ1枚だったが不思議と寒い事は無く、眠っている途中に起こされたからか、スー っと睡魔に誘われる様に眠りに入った。




第3話 「こあっ! その子の名前は小悪魔」



甲高い金属音が部屋に鳴り響き、それに叩き起こされる様にして目が覚めた。
 眠気で霞んだ意識の中、音源の元へ手をのばしそれを止める。
 手に取ってみると、古きねじまき型の目覚まし時計だった。

「んぅ、あれ? まだ6時……」

 目を凝らして見ると、その針は6時ぴったりを指していた。
 どうやらここの住人達は生活リズムが速いらしい。

「もう少し寝たい」

 本音をもらしつつ、肌がけの中からスルスルと這い出る。
 小さなあくびを一つもらし、クロゼットから服一式を取り出した。

「……あ、そうか」

 ブラを取り忘れている事に気づき、慌ててタンスからひとつ引っ張り出した。
 パジャマの上着を脱ぎ、早速下着を合わせてみる。

「うっ、思ったより大きい……」

 昨日は外すだけだったからそんなに気にしなかったけれど、手で位置を直してブラに合わせなければならない。
 なので、必然的に触らなきゃいけないし見なければいけない。

「ちょっときついな」

 後ろ手にホックを合わせなければいけないので、なかなかうまくいかない。

「んっ……」

 しかも、ブラの生地に胸が擦れて変な声が出てしまう。

「んう~っ……」

 なんとかホックを止める事に成功し、後は昨日の巻き戻しのように服を着ていった。

「さて?」

 どうしよう、やる事が無い。
 パチュリーに会いに行って聞くしかないかな……?
 そんな事を考えながらふと机を見ると、可愛らしい文字で『すけじゅーる帳』と書かれたノートが置いてある事に気付いた。
 もしかしてスケジュールってカタカナがとっさに出てこなくて、ひらがなにしたのかな? とかそんな事を思いながら手に取ってみる。
 開いてみると、1日のスケジュールが1ページ丸々を埋めていた。
 残りのページは日記か何かのメモの様な物で、勝手に読むのは失礼だと思いしっかりとは目を通さなかった。

「どれどれ?」

6時:起床。
7時:紅茶を淹れて大図書館で眠るパチュリー様を起こしに行く。
7時30分:パチュリー様が紅茶を飲んで居る間に朝食を受け取りに行く。

                        …………
今やるべき事は何となくわかった。

「う~ん、でも何処で紅茶を淹れれば良いんだろう」

 キッチンが何処かにあるのだろうが、部屋の外は長い廊下が左右に続いている。
 下手にあちこち動くのは迷って自分が困るだけだろう。
 悩んだ末、結局どうしようもないのでパチュリーの居るであろう大図書館へ行ってみる事にした。
 
 部屋を出てすぐ隣、大きな両開きのドアを開けると階段が地下へと続く。
 昨日上って来た螺旋階段を下っていく。
 眼下には広大な図書館が見渡せる。
 これだけ高い所から見下ろしても端を見る事が出来ないと言う事は、その広さは相当なものに値するのだろう。
 地下にたどり着き、昨日と同じように床にある矢印を目印に進んでいく。
 しばらく歩くと、少し開けた場所に出た。

「おおっ……」

 昨日は突然の事に周りを見ている余裕などなかったが、良く見てみると小さな暖炉があり、大きなテーブルがその広間の中心にある。
 そのテーブルに紫色の固まりが一つ鎮座している。

「あの~……」

 近づいてゆさゆさとその肩を揺すってみる。
 器用にパチュリーはテーブルの上で眠っているようだ。

「あの、すいません、起きて下さい」

 もう少し強めに肩を揺すってみるが、深く眠っているのか起きる気配はない。

「起きて下さいー!」

 椅子から落とす勢いで揺さぶってみると、ゆっくりとした動きでその紫色の上半身が起き上がった。

「……」
「……」

 乱れた髪の隙間から、それと同色の瞳が静かにこちらを見つめている。

「紅茶は?」
「え?」
「朝の紅茶」
「あ、えっと……」

 すると、パチュリーはムスーっと不機嫌そうな顔になり、そっぽを向いてしまった。

「朝の紅茶楽しみにしているのに」
「あ、あぅ、す、すみません」

 なんだか申し訳ない気分になってついつい謝ってしまった。

「あの」
「何かしら?」
「キッチンって何処でしょうか……」
「え?」
「え?」

 ぼうけた表情がまっすぐにこちらを見つめ、急にハッと何かに気付いたような顔になった。

「あ、そ、そっか、中身がこあではないのね」
「え? え、ええ、そうです」

 椅子から降りると、乱れた髪の毛をサッと手で直した。

「おはよう」
「あ、はい。おはようございます」
「ごめんなさいね、なんだか勘違いしていたわ」
「い、いえいえ」

 とりあえずパチュリーが身なりを整えるのを待つ。

「それで、キッチンの場所かしら?」
「そうです。とりあえず、この子の生活リズムを習うのがいいのかなって思いまして」
「良い心がけね。え~っと、確か昨日この辺りに……」

 ガサゴソと、テーブルに乱雑されている本の間を探っている。

「あ、あったわ」

 と、1枚の紙切れをその間から引っ張り出した。

「昨日書いたのよ。はい」

 手渡された紙には、色々な線が入り混じって書かれていた。

「紅魔館の地図よ。私の手書きだけれど」

 良く見てみると、確かにキッチンやトイレ等、色々と書きこまれている。

「紅魔館?」
「そうよ、この場所の名前」
「そうなんですか。ありがとうございます」

 頭を下げると、胸の重みを感じて勝手に気まずい気分を味わった。

「えっと、あと名前なんですけど」
「名前?」
「えと、俺の名前……」
「言ってはだめよ」

 言葉を続けようとすると、パチュリーが少し強い言葉を発した。

「えっ」
「名前には強い力があるのよ。小悪魔の魂が近くに無い今、あなたの名前で小悪魔の体を呼べば……あなたが意図しなく
てもその体から指導権を奪ってしまう危険性があるわ」

 真剣な顔でパチュリーが言う。

「だからダメよ。あと、なるべく小悪魔と近い生活をしてもらうわ、だからパチュリー様って呼んでちょうだい。私もこあっていつも通り呼ぶわ」

「は、はい」
「後は追々説明するわ、こあの大体の性格は今から教えてあげる」

 そう言うと、パチュリーはこちらに手を伸ばし、頭に触れた。

「っ!?」
「動かないで」

 冷たくて小さな手から柔らかな感触が伝わってくる。
 と、その時何かが流れ込んでくる感触と共に、目の前に何かの映像が広がった。

「こ、これは」
「こあの普段の生活風景よ」

 走馬灯のように映像が流れ、次々と頭の中に情報を与えていく。
 呼吸をする事も忘れて、それを理解していると唐突にその映像が止まった。

「っっ……はっ」
「大丈夫?」
「は、はい……」

 気がつくと冷や汗をびっしりと掻いていた。頬に張り付いた髪が煩わしい。

「い、今のが魔法……?」
「ええ、昨日あなたを呼び出したのとは違うけれど」

 何となくでしか信じられなかったが、こうやって直に体験させられてそれを実感できた。
 それが良い経験だったのかは置いておいて……

「あなたの中に普段のこあの様子を流し込んだの。言葉で言うより、目で見るより理解しやすいはずよ」

 確かにこあとが普段どのような事を言い、どういう事をしていたのかが頭の中にある。

「これに必ず縛られろ。とは言わないわ、でもなるべく協力して頂戴? それがあなたの為にもなるわ」
「は、はいわかりました」
「それじゃあ朝食をとってきて頂戴、私は小悪魔の魂がどれだけ離れた場所に居るのかを特定する方法を探しているから」

「わかりました」

 そう言うと、私は図書館を出るために螺旋階段を目指した。
 ちなみに頭に流れてきた映像のこあは、思っていた通り小まめで、少しドジっ子だった。




第4話 「こあっと困った。」


螺旋階段を上り廊下に出る。
 パチュリー様に渡された地図を見ながら、長い廊下をキッチン目指して歩く。
 あくまでも小悪魔の日常を流し込まれただけで、その他の事は良くわからないままだ。
 なので、迷いながらキッチンを目指さなければいけない。

「こっちかな?」

 廊下の角をいくつか曲がり、数多くのドアを通り過ぎると中から話し声が聞こえてくる場所を見つけた。
 地図と照らし合わせても大体この辺りなので、多分ここだろう。

「失礼しますよ~?」

 2回ほどノックしてドアを開けると、清潔感あふれたシンクが視界に飛び込んできた。どうやら間違いないようだ。

「あ、小悪魔さんおはようございます」
「お、おはようございます」
「今日はゆっくりでしたね? お食事ならそちらに出来てますよ」

 中に入ると、緑色のチャイナ服に身を包んだ女性から急に声をかけられた。
 どうやら親しい間柄のようだが……

「どうかしました? ありゃ? 私の顔何かついています?」
(この人とても大きい……)

 パチュリー様が小柄だからか自分より頭1個分大きな彼女は、とても大きく感じた。
 出ている所も出てて、かといってスタイルが悪い訳でもない。まるでモデルさんみたいだった。

「あ、ボタン外れていますかね?」

 視線に気付いたのか、胸元のボタンを一つ一つ確認している。

「あ、いえ……そのですね」
「小悪魔」

 どう説明しようか困っていると、背後のドアから紫色の物体が頭を出していた。

「あ、パチュリー様。珍しいですね朝に上がって来られるなんて」
「ちょっとレミィとあなた達に話さないといけない事があるのよ、だから今日は一緒に朝食を頂くわ」
「わっかりました~、準備しますね」

 そう言うと、チャイナ服の女性は料理を両手に持ってキッチンを後にした。

「良く考えたら私以外はこあの事知らないのよね、うっかりして居たわ」
「す、すみません……」

 パチュリー様にお礼のお辞儀をして、朝食を食べる広間へと一緒に移動した。


「おはよう、レミィ」
「おはようパチェ、あなたが朝から食卓に来るなんて珍しいわね」
「ちょっとした気分転換よ」
「あら、そうなの?」

 席が決まっているのか、パチュリー様を含め皆が自然に席について行く。

「こあ、あなたは私の隣よ」
「は、はいっ」

 促され、パチュリー様の隣に座る。
 他の面々が若干不思議がった視線を向けている。
 後の事はパチュリー様に任せるしかない。

「さて、では食べましょう」

 レミィと呼ばれていた少女が声をかけると、全員が「頂きます」と声をあげて食事が始まった。
 目の前のお皿にはこんがりきつね色に焼けたトーストと、ベーコンエッグ、綺麗な彩りのサラダが並べられている。
 とりあえずトーストを手にとって一口齧ってみと、サクッと軽快な音と共に芳醇な香りが口の中に広がった。
 軽く塗られたバターの塩味が何とも良い味を醸し出している。

「おいしい……」

 今まで食べたパンの中で1番美味しいかもしれない。

「ここの料理はメイド長の咲夜がすべて手作りしているのよ」
「そ、そうなんですか」

 隣に座るパチュリー様が声をかけてきた。

「あの、パチュリー様」
「何かしら? 咲夜」
「さっきからなんだか小悪魔の様子がおかしいようですけれど、何かありましたか?」
「そうね……本当は食事が終わってから話そうと思っていたのだけれど。この際だから話してしまうわ」

 パチュリー様は、もっていたトーストをお皿に置くと、一呼吸置いてから話し出した。

「昨日の事なのだけれど……」

 そして、昨日あった事を事細かに説明した。


「って言う事は、そこに居る小悪魔さんは小悪魔さんじゃない……?」
「そうね、中身は誰かよ。男の人みたいだけれど」
「不純ね」

 ついでにパチュリー様から全員の名前を教えてもらった。
 最初に声をあげたのが美鈴、最後に声をあげたのがレミリアと言うらしい。
 美鈴は門番兼庭師、レミリアは紅魔館の主、いわゆるお嬢様らしい。

「仕方ないわね、私の手違いよ」
「パチェでも魔法に失敗する時があるのね」
「うっかりしていたわ」

 呼び合いを聞いている限り、パチュリー様とレミリアお嬢様は昔からの付き合いなのだろう。

「それで、その中身の方は……?」
「詳しくは聞いて無いわ。と言うか聞かないでもらえるかしら?」
「そうですか」

 メイド長の咲夜が何か察したように押し黙る。

「とにかく普段と変わりなく接してくれれば良いわ、わからない事だらけで会話がなかなか続かないだろうけど、徐々に慣れていくはずよ」

「わかりました~」
「了解です」
「わかったわ」

 こうして、今朝の食事は幕を閉じた。


朝食後、メイド長の咲夜さんに呼ばれたので、二人きりでキッチンへ向かって居た。

「……」
「……」

 広間からキッチンへと、廊下を歩いているがどちらも一言も言葉を発しない。

(なんかこの人雰囲気怖いなぁ……)

 キリッと背筋を伸ばして歩くさまは、完璧さを体現したようにも見える。
 だがそれが、他人を近づけない壁にもなっているような、そんな錯覚を覚えた。
 気まずい雰囲気の中、ようやくキッチンにたどり着いた。
 咲夜さんがドアを押し開いてキッチンに入る。私も続いてキッチンの中に入った。
 後ろでドアが閉まると、キッチンの中で咲夜さんがこちらを向き――

「……え?」

 気がつくと視界から消え、いつの間にか背後でドアの鍵を閉めていた。

「え? え? って言うか、なんでドアの鍵閉めているんですかっ!?」

 咲夜さんは何事も無かったかのようにドアの前に立ちはだかると、その固く閉じられていた小さな唇をようやく動かした。

「こんにちは小悪魔さん」
「え? は、はい……」

 深い青色の目がこちらの瞳を射抜くように覗き込んでいる。
 声は優しいのに目が全然笑ってないよこの人っ……

「一つだけ言っておきます、お嬢様に手を出す事があれば……たとえ小悪魔さんの体でも容赦はしません」
「は、はい!?」
「中身は男の人。男性は内に狼を宿すと聞きますから」
「……」

 た、確かにそう言いますけども、今の私……もとい俺にどう何をどうしろと!?

「もし何かあれば……」

 そんな突っ込みを脳内で入れていると、タイルの床を鳴らしながら咲夜さんが近づいてきた。

「ひっ!?」
「気をつけて下さいね?」

 そして、何処から取り出したのかその手にはナイフが握られており、それが首筋に優しく、しかし的確に当てられていた。
 刃から冷たい物が伝わってきて、その存在感をリアルに伝えている。
 それに合わせて体から血の気が引いて行く感触が何とも生々しく感じさせる。

「何もしなければ、こちらもなにもいたしませんので。それでは」

 綺麗なお辞儀をして、咲夜さんはキッチンから出ていった。

「な、なんなんですか、もうっ……」

 腰から力が抜けてしまい、床にだらしなく座り込んでしまう。
 するとそこに、入れ替わるようなタイミングで緑色のチャイナ服を着た美鈴さんがキッチンに入って来た。

「ありゃりゃ? 小悪魔さんどうかしましたか? って、小悪魔さんで小悪魔さんじゃないんでしたっけ?」

 両手に先程食事で使っていた食器をたくさん載せている。

「あ、ああ、美鈴さん」
「だ、大丈夫ですか!?」

 掠れた声で名前を呼ぶと、慌てたように食器を流しに置いて手を差し伸べてくれた。

「す、すみません」

 その手を取ると、思っていたより強い力で引っ張られ楽に立つ事が出来た。

「いえいえ、それより大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です」

 先程の咲夜さんとは大違いの明るく温かい笑顔を美鈴さんが浮かべている。
 その優しさからか、先程の恐怖が今になって襲いかかってきて、思わず目尻に涙が浮かんだ。

「ど、どうかなさいました!?」
「い、いえ、本当に何でも……」

 弱々しく言う私を見て、美鈴さんはその表情を歪めた。

「ちょっと失礼します」

 そう言うと美鈴さんは私の腕をとり、グッとそのまま自分の方へと引き寄せた。

「――っ!?」

 戸惑う私に構う事無く美鈴さんは両腕でそっと抱き寄せると、そのまま優しく頭を撫で始めた。

「何か、ありましたか?」
「え、えっと、その……」

 柔らかな物に包まれながら、先程の事を少しずつ説明すると美鈴さんは苦笑いを浮かべた。

「あはは……そうですかぁ、咲夜さんはお嬢様達が大好きですからねぇ、ちょっと周りが見えなくなっちゃう時があるんですよ」

「ちょっと……ですか」
「あは、あはは……」

 まるで自分の事のように困った笑みを浮かべている。
 この人はその体温のように、優しい。

「まぁ、大丈夫ですよ、私は小悪魔さんがそんな事する人だとは思いませんから」
「あ、ありがとうございます」

 顔が間近にある上に、満面の笑みでそんな事を言われると、とても恥ずかしい。
 思わず顔が熱くなって行くのを感じた。

「えへへ、それじゃあ私はもう行きますね」
「は、はい! お勤め頑張ってください」

 何事も無かったかのようにするっと両腕を離すと、美鈴さんは笑顔で去って行った。
 私は、その後姿を呆けた顔で見送っていた。

「はっ! 私もパチュリー様の所に行かなければ」

 我に返ると、慌ててその後を追うように廊下へと出た。





「エピローグ」


「パチュリー様」
「あら、ちょうど良いとこに来たわね」
「? どうかなさいましたか?」

 図書室に戻ったパチュリー様の元へ向かうと、机の上で分厚い本と睨めっこをしていた。

「ちょっと面白い魔法を見つけ……じゃなくて、小悪魔の魂の位置が大体だけど掴めたわよ」
「本当ですか!!」

 やった!これで元に戻れるかもしれない!
 そう思うと自然と声が大きくなってしまった。

「うるさいわね。本当よ、そこであなたにも少し協力してほしいのだけれど」
「なんでしょうか? 何でもしますよ!」
「それじゃあ早速お願いするわ」

 不敵な笑みを浮かべて、パチュリー様は机に読んでいた本を置いた。

            …………

「な、何でもするとは言いましたけどっ……!」
「あら、このくらい良いじゃない」

 私は今パチュリー様に命ぜられ、下着姿で床に横たわっていた。

「は、はやくしてくださいっ、恥ずかしいです……」
「わかっているわよ、はやくしてあげるから動かないで」

 ちなみに、この行為は魂を呼び戻す魔法の成功率を上げるためらしい。
 魔法で体の型を取ってそれを疑似的に、本人の体に見立てて使うのだとか。
 その為床に体の線を映しているのだが、服は邪魔だからと脱ぐように言われたのだった。

「それにしても、こあ自身もなかなか身に着けないような下着を着けているのね」
「――っ!? し、知りませんよ!!」

 なるべく箪笥の中身を見ないように取り出しているので、そんな事気にしてもいなかった……。

「ふふふ、どうかしら」

 意地悪な笑みを浮かべるパチュリー様に若干泣きそうになった。

「終わったわ。もう良いわよ」
「はい……」

 すぐ服を手にとり、本棚の影で着替える。
 女の子同士だからそこまで気にしなくても良いのかもしれないけど……。
 なんと言うか、それを気にしなくなってしまったら何かが終わってしまう気がする。
 着替えを終えて戻ると、床にパチュリー様が不思議な模様を描いていた。

「なんですか? それ」
「魔法陣よ、魔法を使うにあたって重要な物って言えばわかるかしら?」
「なんとなくは」

 良く見ると中心に先程書き取られた自分の体の絵がある。
 腰の辺りは締まっていて、足はすらっと綺麗に伸びている。
 それを見ていると、先程までの行為を思い出して自然と顔が赤くなった。

「そこに呼ぶんですよね?」
「そうよ」

 気を紛らわせる為に話をしようと声をかけたが、パチュリー様は集中しているのか素っ気ない返事だ。

「これでいいわ。それじゃあ始めるわよ、少し離れていなさい」
「は、はいっ」

 少し距離を置くと、パチュリー様がそれを確認して魔法を発動した。
 すると魔法陣が強く光始めた。

「あまり見続けてはだめよ、慣れていないのだから」
「わかりました!」

 光はどんどんその輝きを増し、やがて辺りが見えなくなる程の強さになった。

「パチュリー様? 大丈夫なんですか!?」

 辺りが全く見えない中、パチュリー様を呼ぶ声だけが自分に聞こえていた。



To be continued
某月某日
「うは、この絵可愛い。と言うか、こう……制作意欲を掻き立てるなぁ。よしっ」
『かわいいwwww書いちゃうぞこれwwwwwww』
「まぁ、ノリでコメントしたが、きっと、何冗談言ってんだよ! みたいな突っ込みでもあるだろ……」

~数時間後~

「そいや、コメントどうなったかな……」
「!? なん…だと……?」
気まぐれ(書きたいと思ったのは本心)から書いたコメントには、「うは! まじで書くの!? wktk」と言った、ノリのいいコメントが返されていた。

はい、と言う事で「那津芽(なつめ)」です。
今回絵師の『ぱんだもち』さんが書いたラノベ表紙形式の絵感銘を受けてそれを小説にした張本人です。
絵を見た時は、「こういう内容もアリだなぁ」なんて思って、軽い気持ちでコメントしましたが、まさか本当に書く事にまで発展するとはまじめに思ってもいませんでした。
何よりガキが独学でやって来た腕だけどそれでもいーの!?と言った気持ちもあったり……

とまぁ、内心冷や汗ものでしたが、書き始めると楽しくて楽しくて、つい半日小説の事考えながらPCの前に座ってたりと、最近では珍しい状況に陥っていました。
さて、前座はこの辺で。

今回初めてこういった掲示板形式(?)のサイトに小説を投稿するのですが、やはり文と文の間の空白をどう取るかと言う事に悩みました。
まじめに初めてなので、へたくそかもしれません、そこの所は大変もしわけないと思っております。
また、一応誤字脱字の確認を3度ほど行っていますが、見落としが間違いなくあると思います。
その点もご了承くださると幸いです。

さて、それでは長くなってしまいましたし、この辺で。
今回の機会を与えて下さった『ぱんだもち』さんと、ノリのいいコメントをしてくださった方。
この小説を最後まで読んで下さった皆様に感謝の気持ちを込めて。
那津芽
[email protected]
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
元絵を見ていないのですが。
名無しキャラで中身入れ替えするくらいだったらTSだけのほうがよかったと思います。

続きものっぽいので待ってます。
2.名前が無い程度の能力削除
そのいち。
元の絵、というのがわからない(けど外部リンクはだめなのでまたなんとも。探してみます)

そのに。
そそわはニコニコ動画への印象が悪いわけじゃないけどそれを全面に押し出されて好感が得られる場所ではないのに一行目(かといってラストにそれじゃ不評も多い場所でもある)

そのさん。
タグにそそわの読者層がすごい勢いで敬遠したがるものが二つ


という風速十メートル級の逆風の中よくぞ投稿したとは思います。
コメントがここまでないのはとにかく一行目ですね。

話としては楽しめました。面白かったです。
文章自体もちょっと引っかかる部分はありましたが、基本的には素直な流れでした。
初めてでこの文量で崩壊していないのは丁寧に時間かけた証拠ですね。
また読んでみたいので、次は別方向でここか本家の方へ投稿してみてください。