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文々。新聞独占取材「謎に包まれた作家を追う」

2011/04/29 01:44:53
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 寅丸“星”新一は売れっ子作家である。
 SFを主とした短編を数多く排出し、その作品数は五百を越える。
 その正体を知る者は殆ど居ない。作品は全て郵送で送られて来るし、用件を伝えるにも必ず取次ぎが間に入る。ただ、女性であるとの噂がまことしやかに囁かれている。
 筆者はこの記事を執筆するにあたり直に会って話をしたのだが……これ以降は読者の想像にお任せしよう。

 実はこの新一氏、本業は作家ではなく他にある。その名も「ご本尊」
 手に職どころか身体全体で職を持っている、稀有な例である。ちなみに、実入りは殆どないらしい。だが、衣食住は保障される。
 慣れればこれも良い物だ、との事であった。家族もいっぱい出来ますしね、とも。

 しかしこの本業も、ひょんな事から廃業同然に追い込まれてしまう。
「あの時は酷いものでした」新一氏は語る。
 大勢居た家族は大部分が姿を消し、残ったのは連れ合いが一人のみ。
「憧れの人も一緒に居なくなっちゃって。悲しかったなあ」
 憧れの人、そして連れ合い。ここにただならぬ臭いを感じた筆者はそれとなく質問を投げかけてみた。
「え? はは、いやですね、そんな変な意味じゃないですよ(笑)」
 あっさりとかわされてしまった。後日、再度挑戦したいと思う。

 さて、職を失った新一氏はその後どうしたのか。
「仕方が無いですから、連れ合いの……あ、N(仮名)って言うんですけどね、その子と一緒に当ても無く」
 本当に、何の当ても無かったそうである。
「本当はそのまま居残り続ける事も出来た筈なんですけどね。やっぱり、耐えられませんでした」
 そう語る新一氏の目はどこかここではない遠くを見ている様で。
 きっと一筋縄では行かない大変な理由があったのだろう事は想像に難くない。
 あまりの急転直下ぶりに一度、親元からこちらへ戻って来なさいと言われたのだと言う。
「断りました。皆が居なくなったのに、自分だけのほほんと生きて行くのは、何だか許せなかった。そのせいで、Nにも迷惑をかけたと思います。本当に、Nにはいつも助けられてばかりでした」
 その意志は、固かった。

 N氏とは、その職場で知り合った。例の憧れの人による引き合わせがあったそうだ。
 その事を尋ねると、
「だから、もう! 意地悪ですね、記者さんは(笑)」
 何の関係も無いと、怒られてしまった。だが個人的には追って取材をしていくつもりだ。
 N氏はとても優秀で、それまで「ご本尊」で居る事しか知らなかった新一氏の生活を全面的に支えてくれた。N氏の存在が無ければ今の新一氏は無かったと言う。
「もう、Nにはおんぶに抱っこでしたよ。今は思い返すのも恥ずかしいです(笑)」
 その生活が、何○年も続いた。そんなある日。
「思ったんです、このままじゃいけないって。どうにか私もNの助けになってあげたいって」
 きっかけは、少し長い遠出からN氏が帰って来た時だった。いつもなら食事をとり土産話に花を咲かせる筈が、一も二も無く寝床へ入ってしまった。
 良く見ると体のあちこちは薄汚れていて、髪もバサ付いている。顔には、隠し切れない疲労の色が。全て、自分のためにやった事だった。
「もう、雷に打たれた時以上の衝撃でした。同時に、私はなんて幸せ者なんだろうって思いましたね」
 筆を取ったのはそれからすぐの事である。

「学は有りましたから……。逆に言うと、それしか無かったんですけどね」
 それでも最初の内は決して上手くは行かなかった。そもそも、何を書けば良いのか分からなかったのである。
「その頃には幻想郷も出来てましたからねえ。何度そっちへ移住しようと思った事か」
 何故、移住しなかったのか。
「やっぱり、人と繋がって居たかったんだと思います。それに、そのまま移住するのは何だか逃げているみたいで」
 しかし、難しかった。新一氏の作品は、お世辞にも受けているとは言い難かったのである。
 そんなある時、N氏が話しかけてきたのだと言う。
「本当に唐突でした。ちょっと話があるって。Nには私が何をやっているか教えてなかった筈なんですよ。だから、傍目には私は普段の通りで、何も考えずにぐうたらしてるだけに見えていた筈なんです。でも、悩んでいるのは分かってしまうものなんでしょうね。じっと私の目を見つめて一言、君に出来る事は何だ、って。そこで目が覚めました。あの時の事は、今でも鮮明に思い出せます」
 自分には「ご本尊」時代に溜め込んだ逸話、説話、物語などがあるじゃないか。それを題材に、書けばいい。その事に気付いた。
 だから私などはただの料理屋でしかないんですよ、と少々照れ気味に新一氏は語った。
 だが、ここで一読者として言わせて貰うならば、その味付けの妙味こそが新一氏の人気の秘訣なのである。そう自分を卑下する事無く、これからも良い作品を書いてもらいたい。

 それから、新一氏はたちまち人気作家になった。
「これでNにも楽をさせてあげられるかと思ったんですけどね、あの子はどうも仕事があればやってしまう様な性質でして、全然休んでくれないんですよ(笑)」
 しかしそう語る新一氏の顔は心なしか嬉しそうである。
「でも、最近、私の作品が売れるようになってからかな。あの子は無理をしなくなりました。それまでは時々、凄い無茶をしてたんですよ。何度言っても止めてくれなくて。だから、それだけで満足です」
 美しき、家族愛であった。


 最後に、新一氏から一言。
「最後に、ですか? そうですねえ、あ、新作がもうすぐ完成します。良かったら読んでくださいね」
 まさか、ここで宣伝されるとは思ってもみなかった。そう言う事では無いのだと伝える。
「え、違う。あ、ああ、なるほど。ええと、そうですね。意外と、自分の長所と言うものはたくさんある物です。もしも行き詰った時は思い出してください。私のように思いもよらない結果になるかもしれませんよ(笑)」
 どこか天然色の感じられる、寅丸“星”新一先生でした。では先生、有難う御座いました。
「こちらこそ、有り難う御座いました」


宝塔の買戻し費用はここから捻出。
ごまポン
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
この先生が書いた本読んで見たいなぁ
2.名前が無い程度の能力削除
そういやエヌ氏だなw
3.タナバン=ダルサラーム削除
星新一先生は良く、登場人物の名前をアルファベット一文字で敢えてぼかして書いてますよね。でもこの場合はNと言われると、一発でバレてしまいますよねww