Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

光の花の行方

2011/03/27 02:28:20
最終更新
サイズ
8.22KB
ページ数
1

分類タグ

このお話は、ジェネリック82「闇の中の光の花。」「闇の中で光の花は咲く。」
ジェネリック83「光の花のプロローグ」の、幽香とアリスの続き物のお話になっています。
前回の話を読んだ方がまだ分かりやすいかと思いますが、長いのでどちらでも結構です。
※独自設定をしておりますので、ご注意ください。幽香(弱っている)×アリス(介抱している)




静かな風が、私達の間を通り過ぎる。

それは、余りにも速く通り過ぎて、時間は待ってはくれないと言う事を
否が応にでも考えさせられる。

私は、そんな無常な風に揺れる若草色の幽香の髪をゆっくりと撫で、様子を伺った。

「幽香、どう?」
「…いい天気ね。…暖かいわ」


妖怪の山奥に住むにとりに頼んで作って貰った、2輪の手押し椅子。
私は幽香の座るその椅子をカラカラと押し、ひらひらと蝶々の舞う花畑の周りを散歩していた。

スースーと小さな息をする幽香の音を聞きながら、
今日は幾らか安定した呼吸の音だと、ほっと胸をなで下ろした。

彼女は、確実に弱っていた。




時々、どうしようも無く辛くなる事がある。

目が見えなくなった日を境に徐々に弱っていく彼女の姿を見ていると、
この先の事を考えてしまい、泣きたくなる事が数え切れない程出てきて、
夜、幽香が寝静まったのを見計らって、自分のベッドにうずくまり
枕に向かってひっそりと泣く。
それが日課になりつつあった。

でも、泣いている事を悟られたくは無い。
幽香はもちろんの事、見舞いに訪ねてくる他の誰にも気づかれないように
私は笑顔を作り、振舞った。



体が弱り、歩く事もままならなくなってきた、四季のフラワーマスター。
あんなに強かった力も、今は見る影も無い。

少しカサついた彼女の手を握ると、僅かながらに握り返してくる程度の力。
その力が堪らなく愛おしく、思わず私は抱きしめる。


幽香は、己の寿命と必死に戦っていた。


「…、アリス…」
「何かしら?」

私は手押し椅子が動かないよう車輪にロックを掛け、幽香の正面に回る。
(また少し、痩せたかな・・・)
いけない。
私は余計な考え事を振り払う為、ブンブンと頭を左右に振って。
もごもごと、か細い声を出す幽香の口元に急いで私は耳を近づけた。

ちゅっ
頬に、温かいものが触れた。

「…ごめんなさい…」
「どうしたの、幽香」
「…貴女には…苦労を…かけて」
「何言ってるの、気にしないで」
「…」
「幽香、大丈夫よ」

私はお返しのキスをすると、幽香の頬を両手で包み込み、さすった。
くすぐったそうにする幽香は、頑なだった口元を少し緩めて。
私の耳元で、呟く。

「…ねえ…」
「何?」
「私たちが・・・初めて会った日の事…覚えてる…?」
「ええ、覚えてるわ」
「…私が…貴女の住む森に行って…」
「雨の日だったわね」
「…そうね」

「貴女は傘も指さずに、大好きな花を探しに魔法の森へ来た。
貴女はあの時、初対面の私を蔦でぐるぐる巻きにしたのよね」
「…ふふ」

「本当に、びっくりしたんだから。」
「…あの頃の私も、…若かったのよ…」

心なしか、空を仰ぐ。
あの日から、随分と月日が経った。
思い起こすと、それはつい最近の出来事のようにも思うし、
もう手の届く事のない、ひどく懐かしい出来事のようにも思う。

「それで、あの森の花は見つかった?」
「…ええ、見つかったわ…」
「どんな花なの?」


私はとうとう、あの魔法の森の花を見ていない。
幽香が見つけた花とは一体、どんな花だろう。
私は彼女が口を開くのを待った。


「それは…可愛いくて…綺麗で、」
「うん」
「…普段は…冷たく見えて、…本当は温かくて」
「…うん」
「…私の側にいて、いつも支えてくれる、…掛け替えの無い…花…」

見えない両目を開け、こちらを見る幽香。

「…あの…森の花は、アリス・マーガトロイド。…貴女よ」
「えっ…?」

私が、森の花?

その言葉の意味を量りかねる私を他所に、
幽香は私を見た。
まるで私が見えているかのように、じっと。

一生懸命なその瞳を、私は見る。
濁った赤褐色のままの、瞳の色。
・・・輝きが戻る事は、本当に無いのだろうか。

視界が、少し霞む。
私は慌てて零れそうな涙を拭った。

「・・・私が、魔法の森の花なの?」
「…そうよ。・・・今になって、それが、分かったわ」
幽香は、嬉しそうに笑う。

「私が本当に、幽香の探していた花なの?」
「・・・ええ」

「本当に?」
「…本当よ」

幽香は喋り疲れたのか、少しだけ大きく息を吸い、ゆっくり吐いた。
見ると、額に汗が滲んでいる。
私はスカートのポケットからハンカチを取り出し、そっと拭った。

「幽香」
「…?」

「私は、貴女にとっての・・・その大好きな花に成れてる?」
「…成れてるも何も、アリスは私にとって、・・・花そのものなの」
「…」
「…アリス」
「…」
「…大好き…」
「…幽香…」

彷徨う手を、捕まえる。
捕まえた両手は更に伸びてきて、私の背中を擦る。
花の匂いに包まれながら、その体温を感じながら、
私は久方振りに、幽香の前でくしゃくしゃに泣いた。





-----------------------------------------------------------

霊夢は、複雑な顔をしながらも努めて平静を装った。

「…アリス、お邪魔するわよ」
「霊夢…」

どちらからともなく、静かに頷く。
語らずとも、それだけでお互いに分かりあえたような気がした。
霊夢は深い深呼吸を一つすると、アリスに笑顔を向けるのだった。

らしくない。
アリスは、霊夢の心情を汲み取って、思わず背中を擦った。

な、何よ。
・・・別に。


「入って」

重い奥の扉が開かれる。
そこには、黒白の帽子をかぶった魔理沙と
ベッドに横たわる幽香がいた。

「来たか。遅いぞ」
「…ちょっとね」

力なく返事をすると、霊夢は幽香に優しく声を掛けた。
「・・・幽香。私よ、分かる?」
「・・・・・・」

返事は無いが、変わりにニコリと笑顔が返ってきた。
以前に見た時より、随分と痩せている。

いよいよベッドから起きる事のできなくなった幽香を、
馴染みのある3人で囲いながら、話をする。

テーブルには温かいお茶と、良いバターの匂いのする出来立てのクッキー。
いそいそと手を伸ばし、久し振りなアリスの手作りにパクつく霊夢。
うん、相変わらずおいしい。

「でさ、幽香。さっきの話の続きだけどな・・・」
「何、さっきの話って?」
「私の大活躍する話だぜ!」

紅魔館へのいつもの突撃門番突破の話。
色んな物を”借りていく”話。
色んな妖怪やら人間やらとの弾幕勝負の話。
今自分が行っている研究の成果が順調に進んでいる話。

魔理沙は、自分の普段の生活の話を
普段と変わらず、楽しそうに話した。

それを、幽香は笑顔で静かに聞いている。

いつもと変わらず。
それが、魔理沙の良い所でもあり、
気遣いだと思った。
(私がしょげていては、いけないわ)

開き直った霊夢も加わり、時にはギャーギャーと喚き、言い合いをする。

傍で見ていたアリスは少しハラハラしながらも、
心の奥に仕える痛みが少し和らぐのを感じ、
良い友達を持ったと感謝した。

幽香の顔が、穏やかだったから。

「・・・あり・・・がとう。・・・魔理沙、・・・霊夢・・・」
ポソポソと嬉しそうに言葉を紡いだ幽香に耳を傾け、
二人は嬉しそうに笑った。
アリスも、笑顔だった。

「それじゃ、また来るぜ」
「クッキーおいしかったわ。また食べに行くから」

手を大きく振る二人。

「有難う!またいつでも来て」
遠くなる二人の姿をが見えなくなるまで、アリスは手を振った。

-------------------------------------------------------------------

その日の夜。
「幽香、楽しかったわね」
蒸したタオルでその顔を拭きながら、私は幽香を見た。
本当に、幽香の顔は穏やかな顔をしていた。

何だろう、
何故そんな満ち足りた顔をするの?

そんな疑問がふと脳裏をよぎったけれど、
私の口からは聞けるはずがない。


「・・・アリ・・・ス」
「・・・何かしら?」

嫌な予感がする。

消え入りそうな、幽香の声を逃さないように、
口元に耳を近づける。

「・・・あり・・・がとう」
「・・・」

「・・・あなたに・・・あえて・・・」
「・・・」

「・・・ほんとうに・・・」

「・・・よかっ・・・た」



ドクン

心臓が高鳴る。
痛くて、痛くて。
潰されそうだ。

「幽香・・・?」
「・・・」



「ねえ、幽香?」


ねえ、やめてよ。
返事をして。
お願い。
幽香。



幽香の体は、砂のようにさらさらと解けていき、
私の目の前から消えて無くなった。




---------------------------------------------------------------------

「冷えるわね・・・」


冬の凍てつく寒さは、
まだ、滞る事を知らなかった。

雪の積もる冷たい花畑の前で、
私は目を瞑り、祈りを捧げる。

幽香が自然に帰ってから、随分と月日が経った。
私は、幽香の残した花畑を守りながら、何とか、生きている。


未だに、信じられない。
幽香の事だから、
もしかしたら、どこかに潜んでいて、
またひょっこり顔を出すのではないかと、
心のどこかで信じてやまない。

傷の癒えない日々を、
枯れる事のない太陽の花に支えて貰いながら、
私は、祈った。



















「アリス」










花の香りの中。
願って止まなかった、声。


振り向くと、そこにはあの人が居た。



「・・・幽香!!」


光の戻った、深紅色の瞳。
お気に入りの、日傘。

若草色のふわりとした、髪。
真っ赤なチェックのベストと、
真っ白なシャツ。
黄色のスカーフ。


私は、よろけながら、扱けそうになりながら、
必死に走る。
遠い。
走る。
手を伸ばす。

どこにも行かないように、その華奢な身体をぎゅっと掴む。
ぐしゃぐしゃになった私の顔に両手を伸ばして、
貴女は涙を舐める。
くすぐったい。
・・・あったかい。

おでこをぴったりとくっつけて、満面の笑みで。
私たちは、抱き合った。

「ただいま」
「おかえり」
完結です。最後は、自然に逆らったハッピーエンドで。アリスを一人にさせません。
全話通して、話の繋がりや言葉の表現や、その他足りない部分が多々あってすいません。
読んで頂いた方、コメントくださった方、本当にどうも有難うございました!
KTKT。
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
アリスが幸せなら仕方がない
2.名前が無い程度の能力削除
まぁ、幸せだったら仕方がない
3.名前が無い程度の能力削除
ん? 幽香が生まれ変わって再生したって事かな?
となると、この幽香はメディスンより幼い年下属性を手に入れた事に……。

アリスは存分に幽香をもふると良いと思います。
4.名前が無い程度の能力削除
ハッピーエンドにしてくれてありがとう!
5.名前が無い程度の能力削除
三点リーダ多くね?
6.いっちょうめ削除
ハッピーエンドでよかった…。
素晴らしい幽アリでした。
7.名前が無い程度の能力削除
題材が題材なだけにもそっとじっくり読みたかったかも、ボリュームがちょっと足りない感じ
しかし幽アリが幸せならばそれも善し、次の作品も期待させて頂きます
8.KTKT。削除
読んで頂き、どうも有難うございます。

>>1さん
どうも有難うございます。アリスの幸せの為なら自然に逆らうのも仕方ないです。
でもタグ詐欺になりますかね、これは;

>>2さん
どうも有難うございます!幸せの為にむしゃくしゃして・・・仕方がなかったんです。
勘弁してください!

>>3さん
どうも有難うございます。後の幽香の姿は、ご想像にお任せします。
なので、幼香でも幽香でも自由自在です!
アリスには、幽香に尽くしてくれた分きゃっきゃもふもふしてほしいですね。

>>4さん
こちらこそ、読んで頂いてどうも有難うございます!
この御時勢、どうしても悲しいままでは終わりたくなかったのでこの形になりました。

>>5さん
どうも有難うございます。しんどさを出すのにわざとやりましたが、確かに、多いですね。
多ければいいってものでもないですね。>三点リーダ

>>いっちょうめさん
どうも有難うございます!最後どうしようか悩みました。
4さんへの返信内容に加えて、書いているうちに段々アリスが可哀想に思えてきて、
やっぱり二人揃ったほうがいいなと思いました。
いつもコメントどうも有難うございます!

>>7さん
どうも有難うございます。ボリュームという点で、今の自分ではこれが限界でした。
一番最初の投稿(闇の中の光の花。)で、考えてたものが出てしまった感があったので
続きものはこれでよかったのかどうか。
7さんの2行目に何やら救われました、どうも有難うございます。
また何か出来たら、投稿させていただきます。


その際にはまた色々と皆さんのご意見いただけたら幸いです。
重ねがさねになりますが、どうも有難うございました!