Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

半人半霊なら仕方無い

2011/03/03 22:39:06
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「おや、誰かと思いきや妖夢じゃないか」
「あ、魔理沙だ。こんにちは。」

どんよりとした、今にも雨が降りそうな昼下がり。泣き出しそうな空にびくびくしながらも、食糧その他を切らしたままだったので、渋々と人里に買い出しに来てみたら、ひょんなところで半人前と遭遇した。

「こんな天気の悪い日に出歩くなんて、関心しないぜ」
「む……そういう貴女だって同じじゃない。それに、私は一応ちゃんと傘だって持ってきてるし」

そう言いながら、ずずいっと右手に持った朱色の傘を見せつけてくる妖夢にぐうの音も出ない。傍から見ても、私が馬鹿みたいじゃないか。

「ま、まあ私は大体必要な物買って、あと油を買うだけだから大丈夫だろう。必要じゃない物はすっぱりと切り捨てる主義なんだ。私は」
「まずはあんたの家の中を掃除してからそういうのは言いなさいよ……」
「いいか、あれは全部貴重な蒐集品なんだ。いずれ使い道がありそうな、宝石の原石なんだぜ?」
「はいはい。磨かなければ使えないけどね。じゃあ私、用事があるからこれで……あ」

ぽつり ぽつり。 と雨が降り始める。何が必要じゃない、だ。

「降ってきたわね……ちゃんと持ってくればよかったのに、傘」

しかし、そういいながら傘を開こうとした妖夢の目が点になった。傘の骨が折れており、到底使い物にならなかったのだ。
「あ、そういえば直すの忘れてたんだっけ……」

妖夢はしょんぼりしている様だが、雨足は徐々に強まってくる。私は咄嗟に妖夢の手を引いて近くの団子屋に駆け込む。買った物が濡れてしまう!

「わ、わ、転ぶ転ぶって!」
「四の五の言わずに走る!」



何とか被害を最小限に留めながら軒下に滑り込む。ちゃっかり待ち構えていた女中が注文を取りに来るも、タダで雨宿りさせて貰うのも何だか気が引けるので、団子と茶を二人前注文してから、木製の椅子に腰を下ろす。

「違う傘持ってくればよかった。うう……」
「お前さんの事だから、その傘が壊れているのに気付いたら、多分持ってきていないと思うぜ」
「人を何だと思ってるのよ!」

阿呆だ、と言い捨てて、女中が届けてくれた温かい湯呑みを受け取り、礼を言ってから口を付ける。温かい液体が心と体を満たし、幸福感に包まれる。隣の妖夢も、不貞腐れながらも茶を飲んで、ほっと一息ついている。

それから暫く、二人して他愛も無い雑談を繰り広げながらまったりと過ごした。空は雲が掛かっているものの、明るいので恐らくこの雨もじきに止むであろう。

「あーあ、髪の毛濡れちゃったから直さないと」

若干雨に濡れている髪の毛を弄る彼女に、色気を感じおもわず目を奪われる。

「そういえばお前、髪型変えたんだな」
「うん、まあ……ね」

以前のおかっぱ頭ではなく、快活な彼女のイメージがより強く印象付けられるようなショートカットになっている。更に良く良く見てみると、仄かに化粧をしており、女性らしさが感じられるようになっている。まるで、人に見られる事を意識しているような―

「ははぁ……されは妖夢、お前、恋してるなぁ?」
「!?ごほっごほっ……な、な、何を言っているの!」

気道にお茶を流し込んでむせている、恐らく図星を突かれて顔を赤く染めながら涙目になっている妖夢の表情に若干どきりとさせられてしまった。なんかこう、私の中のいじめっ子の部分が非常にそそられる。

「お前って本当、分かりやすいな……」
「まあ、否定はしないわ。というか出来ない」
「まあそれは置いといて。で、相手は誰なんだ?恋の魔法使いこと、魔理沙さんがお悩み相談してやってもいいんだぜ?」
「そんな胡散臭いのは御免よ」

あからさまに嫌な顔をされると、寛大な事で知られている(霧雨魔法店調べ)私も若干傷付く。

「まあまあそう言わずにおねーさんに相談してみなって」
「誰がお姉さんよ!外見も実年齢も私より下な癖に!」
「よーし、じゃあ試してみようじゃないか。おーい女中さん!私とこいつ、どっちが年上に見えますかね?」

そんなこんなでぎゃーぎゃーとすったもんだしている間に、雨はすっかり止んだようで雲は流れ、空は青色が大半を占めるようになった。ふと、思い出したように妖夢は懐中時計を取り出し、あっと短く驚嘆してから腰を上げる。

「ごめん、雨も上がったみたいだし、私そろそろ行かなきゃ」
「おう。私もそろそろ行こうかと思った頃だし、ちょうどいいんじゃないか」

それじゃ、またね。と言って、小銭を幾らか置いて妖夢は駆け足で店を出て行った。



「うーむ……それにしても、気になるなぁ」

黒くて悪い、悪戯っ子の笑みをしているのが自分でも良く分かった。「ご馳走様」と散々騒いで居座った迷惑料として、少し多めの小銭を渡してから召喚魔法で愛用の箒を呼び出し跨る。里の上空へと飛び立つと、離れの方向に駆ける妖夢の姿を捉えることが出来た。

「あんな方向に行って……マジで男なのかな」

普段と比べてみょんに色っぽい、あいつの顔を思い出すとちょっとだけ、ちょっとだけ羨ましい気持ちが胸の奥底から湧き出てくる。
あいつ、女の子だったんだなぁ。今更ながら実感してしまった私は、この敗北感にも似たむず痒い感情をどうにかする為に、気配をさとられない程度に距離を取って上空から追いかける事にした。

確かに妖夢は剣の腕は一流かもしれないが、所詮は半人前だ。造作も無く後を付ける事が出来た。人里の外れの方にある廃屋の近くで立ち止まると、周辺をきょろきょろと見渡して、くせっ毛やらブラウスの襟やらを気にしだした。やっぱり、私の予想は的中したのだろうか。少々遠いが、枯れ木の影に身を潜めて動向を見守ろう。この距離だと声は聞こえないが、会話が始まったら聴力強化の魔術を行使すれば問題ないだろう。
 暫し時間が流れて、妖夢も私もそれぞれ思惑は異なるだろうが、そわそわとし始めた。退屈を紛らわせる為に、手荷物の中に入れていた魔道書のページをはらりとめくってみる。ふむ、そういえばまだ読みかけなんだっけな。妖夢は何やら、通りすがりの人魂を相手に何やらしているらしいし、動きが見えるまで暫し読書でもしようか。手提げ袋を木の根の上に置き、幹に体を預け本の世界に私は入る―



 気が付くと、日がもう沈みかけているような時間になっていた。ページを閉じて妖夢の方に目を向けてみると、先程のかどうかは分からないが、ふよふよと里の方向から遠ざかって行く人魂に向かって陽気に手を振っていた。道案内かどうかは知らないが、結構な事だ。しかしながら、妖夢の男(仮)はまだ現れないのだろうか。いい加減、私も退屈になってきた。
そろそろ諦めて、帰るか。とその前に凝り固まったからだをほぐそうと伸びをしてみる。ぺきぺき、と普段から凝り固まっているであろう私の背骨が、悲鳴にも似た音を出す。痛い。と、向こうにいる妖夢と思わず目が合ってしまった。これは不味い。咄嗟に逃げだそうとしたが、良く良く考えて見ると妖夢に待ちぼうけをしている理由を問いただす絶好のチャンスなのではないか。ここは気持ちを入れ替え、こちらに駆け寄ってくる妖夢に対して満面の笑みを浮かべながら頭を回転させる。

「よう、また会ったな」
「ちょっと、何でこんなところに居るのよ!」

血相を変えてこちらに詰め寄ってくる妖夢の速さを見ると、どの道私が箒を取り出して飛び立つまでの猶予は無かったような気がする。逃げなくて正解だったか。

「いやあ、偶然だろ偶然」
「あんたに限ってそれは信じられない!」
「まあ、なんだ。すまん。それはさておいて」
「もしかして……最初から見てた?」
「お前さんは一体誰を待ってい……って、え?」

なんだなんだ。私が読書に夢中になっていた間に誰か来ていたとでもいうのか!?

「正直、本読んで誰かくるまで時間潰していたから分からん。人魂相手に何か話しかけていたのは確認ししたんだが」
「やっぱり!見られてた……うう、恥ずかしい」
「あー……訳が分からん」

それじゃあ、お疲れ様でしたーと言い残して、背を向けて立ち去ろうとした私の肩は妖夢にがっしりと掴まれてしまった。回り込まれてしまった、逃げられない!

「だーかーらー……あの人と会ってる現場を貴女に見られたって事よ!うう、ゆゆ様にも内緒だったのに、よりにもよって一番口が軽そうな知り合いに見つかるだなんて……」
「口軽女は余計だ。ちょっと待った、私はお前さんの半霊をもっと陰気にしたような、人魂くらいしかお前以外には見てないんだが……」
「えっ、それしか見えてなかったの」
「うっせ。でもその通りさ」

鳩が豆鉄砲食らったような顔しやがったから、何だか良く分かっていないもやもや感も合わさって、悔しくってつい目の前にちょうどいいおでこがあったからデコピンしてみた。

「痛っ!ああ、そっか。貴女はまだ一応普通の人間なんだっけ」
「おいおい、どういう事だ」

お願いだから、人差し指を間接と逆の方向に曲げながらあっけらかんとした表情でいるのは止めてください、マジで。痛い。

「だからその……言わせないでよ恥ずかしい!」
「勝手に盛り上がっているところ悪いが、私にはまださっぱり分からん!」
「私の種族、分かる?」
「半人半霊だろ?」
「じゃあ、分かるわね。紫様の言葉を借りれば、幻想郷は全てを受け入れるの」
「えっ」



「彼は霊魂なの。半人半霊なんだから、人と恋愛しようが霊と恋愛しようが構わないでしょ?」
魔理沙「なにそれこわい」


読んで下さって、ありがとうございました。

>奇声を発する程度の能力 様
誤字ですね……修正しました。指摘ありがとうございます。
フェンリル
http://www.pixiv.net/member.php?id=623116
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
>人魂しかお前意外に見てないんだが…
お前以外?
半人半霊は妖夢の他にも居そうですね
2.名前が無い程度の能力削除
良かったと思います。新作の妖夢可愛いですよね。
妖夢にはいったい相手がどんな風に見えていたのでしょうか。