Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

お勤めご苦労様

2006/07/12 05:21:07
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「「一日交代?」」

「そう、メイド長と門番隊隊長のね」

ある日私と美鈴の仕事が終わったのを見計らったかのようにパチュリー様から呼び出され、

突如『明日一日お互いの立場を変える』と言い出し・・・・・・。

「しかし・・・・・・お嬢様が何とおっしゃるか」

「それなら心配無用、だってレミィが言い出した事だから」

「はぁ・・・私は一向に構いません、というか拒否権は無いのでしょうし」

隣で諦め気味に言う美鈴と同じく、お嬢様の発言である以上仕方が無いのは目に見えているわけで。

「・・・わかりました」

私は深呼吸をして隣にいる美鈴の方を掴み、顔をじっと見つめる。

「あ・・・あの、咲夜・・・さん?」

「貴女がメイド長になる以上、お嬢様の事は『明日だけ』任せるからね。

もし、何かあった場合は・・・・・・・・・・・・わかってるわよね?」

「は・・・ははははい! もちろん・・・です!!」

緊張のあまりに涙目になっているのはスルーしておいて・・・



明日は大変そうだ、そう思い・・・一日が終わろうとしていた。



・・・・・・・・・・・・・・・



・・・翌日

-紅魔館門前-

「本日は一日門番隊隊長として十六夜 咲夜さんがお就きになられる!

皆の者、隊長はまだ不慣れな所があるかもしれない故、しっかりとサポートするように!!」

「「「「おぉー!!」」」」

私の隣で大声を上げ、渇を入れている副隊長(と思われる人物)の掛け声に負けず劣らずの掛け声が

紅魔館門前からまるで幻想郷に響き渡るかと思えるくらいに木霊する。

「・・・・・・というわけで本日はよろしくお願い致します」

「よろしく、と言いたいところですが質問いいでしょうか?」

「はい、何なりとお聞き下さいませ隊長」

「どうして私が美鈴と同じ服(チャイナ服)を着ているのかしら?」

「それは」

「それは?」







「貴女が紅魔館門番隊隊長だからです!!」

「・・・・・・わかりました」

これ以上の問答は無駄骨に終わりそうなのでやめておく事にした、というか疲れるから。



・・・・・・・・・・・・・・・



隊長としての義務、門前からその先まで配置に就いている番人達の状況確認と連絡事項の確認、

紅魔館周辺の見回り・・・花畑の管理は美鈴自身がどうしても行いたいという事なので

今回は免除となった・・・・・・が、

「・・・・・・あの娘、何もしていないように見えて色々気を使っているのね」

時刻は昼前となり、周辺の気温は上がってきている。

今まで紅魔館内部でずっと仕事をしていたせいか、外の陽射しは予想以上に堪えるものであった。

「ええ、隊長は・・・本日はメイド長でしたか、あの御方はもっと楽にできる筈なのに

敢えて苦労してでも一人の多くの者に声を掛けていくのです。

おかげで皆、この業務に不満を持つ者がいないのです・・・まぁ、私もその一人ですが」

美鈴が皆に好かれているとは聞いていたが、何となくその意味を理解し



少し羨ましくも思えた。





しばらくして、いつもの出来事が起こる。

「・・・隊長! 例の黒いのが湖上を飛行していると見張りから連絡が入っております!」

「黒いの・・・・・・魔理沙!?」

「・・・・・・いつも来るようになったあの魔法使いですね」

「まもなく第一部隊と交戦! 第二部隊も臨戦態勢に入ります!」

時計を見ると昼過ぎ、魔理沙が訪れる(襲撃する)のは大体この時間だと聞いていたが・・・

「さて・・・、隊長はここで黒いのが来るのをお待ち下さい。

おそらく我々だけでは止められないでしょうから」

「・・・・・・ならば、私が前に・・・」

「それだけはなりません! 貴女はここでお待ち下さい」

「いえ、私が前に出て魔理沙を先に抑えれば・・・!」



「・・・・・・万が一、貴女が前線に出て何かあった時、皆の士気が下がります!

それに取り返しのつかない事になってしまったら私たちは・・・・・・

『我々の』隊長に何とおっしゃればいいのか、わかっているのですか!」

「・・・・・・それって・・・美鈴の事?」

「はい、昨日の夜にあの方は私のところへ尋ねてきてこうおっしゃいました。

『万が一あの黒いのが来た時、絶対に咲夜さんを怪我させないように』と。

きっと貴女の事だから、被害が出る前に自らが出て抑えようとするから・・・とも言っておられましたよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

『こちら第一部隊、目標は我々の防衛を突破!』

『いけー! せめて1ボムでも削るんだ!!』

通信用の水晶玉(通信用)から聞える声々・・・・・・



・・・・・・そして



『・・・目標魔力増幅中! マスタースパークだ! マスタースパークを打つ気だ!!』

『総員退避! 退避!』

しばらくして広大な光の帯が紅魔館の真上を掠め、大空へと吸い込まれるように消えていく。

「・・・今日は1ボム消費させるまでに至りましたが・・・隊長、接客の方お頼み致します」

やってきた客・・・例の黒いのが真上には箒にまたがって「ふぅ」と一息ついてこちらを見ている。

「・・・・・・わかったわ、接客はね・・・」





「私の十八番よ!!」

一気に飛び上がり、黒いのと同じ高度まで辿り着き目の前の『目標』を睨みつける。

「うわっ! なんでお前がそんな格好しているんだよ!!」

「うふふふふ・・・お黙り。 今日はねぇ・・・」

「・・・・・・今日は?」



「こんなに機嫌も悪いから、本気で落とすわよ!」

「何気にセリフパクってないか?(^^;」



~少女弾幕中~



「・・・むきゅー」

「それじゃ、通らせてもらうぜ」

・・・・・・負けた、これじゃ美鈴と同じ・・・いや、

日頃から何も知らずに色々と言っていた私の方が・・・・・・。

「隊長・・・お怪我はありませんか?」

倒れている私に差し伸べられた手を掴み、身体を起こす。

「・・・・・・まぁ、怪我が無くて何よりです」

「・・・・・・・・・・・・・・・」



「・・・・・・今、貴女は『隊長として何も出来なかった』とでも思っているのでしょう」

「私は・・・止められなかった、貴方達の苦労に応えられなかった・・・」

今もなお尻餅をついたままの私は顔を上げる事ができずに、静かに呟くように言葉を放つ。

「・・・いえ、貴女は隊長としての義務を果たしてくれました、これを御覧ください」

目の前に差し出されるは一つの水晶玉、通信用に使っているパチュリー様特製の一品であり、

そこには・・・・・・



『隊長、あの黒いのに今日は1ボム使わせましたよ~』

『馬鹿! あなただけの功績じゃないでしょ!』

『第一部隊、第二部隊、共に死者無し。 負傷者極少数、皆軽傷で済んでます』

『隊長ご無事ですか!』

『隊長!』



「・・・それを証拠に皆、貴女の事をすでに隊長として認めているじゃありませんか」

「・・・・・・・・・・・・」



「隊長? まさか何処かお怪我でも!?」

「いえ・・・・・・ちょっと・・・」

私はゆっくりと立ち上がり、心配する相手に背中を向け・・・・・・

「ちょっと、目にゴミが入ったみたいだから・・・・・・大丈夫よ」

「・・・・・・そうですか」



騒動が終わり、魔理沙が「持ってくぜ」と言えば「持ってかないでー」と言うパチュリー様の声が

紅魔館に木霊したとかしなかったとか・・・そういう事もあっという間に過ぎ去り、





私の一日門番隊隊長としての時間が終わった。

最後にあの副隊長はこう言っていた、

『貴女も我々の隊長です、何かあればすぐに駆けつけます故、我々を御頼り下さい』・・・・・・・・・と。



・・・・・・・・・・・・・・・



「・・・ふぅ・・・・・・」

一日も終わり、私は紅魔館の大浴場へと身を委ねていた。

「美鈴もあんなに大変な仕事をしていたなんて・・・・・・」

自分は明日からメイド長に戻る、まぁ・・・美鈴にはもう少し優しく・・・・・・



ガラッ!!



「!」

突如現れた来訪者の姿を見て思わず言葉を失った、そこにいたのは・・・・・・自分の想像していた相手、

「さ・・・・・・咲夜さん・・・!」

「な・・・な、何かしら?」





「私が悪かったです! 内勤のメイド長があんなに苦労するものなんて思ってもいませんでした~!!」

号泣しながらいきなり抱きついてくる美鈴に私は押し倒されるように湯船に轟沈してしまった。

「・・・ぶはぁ! ちょ・・・ちょっと、落ち着いて話しなさい!!」

「はい・・・掃除とかパチュリー様の書庫の整理とかお嬢様のお茶会の相手とか(※)・・・・・・

本当に咲夜さんがあんなに苦労していたなんて、私は・・・私はあぁぁぁぁ!」



※後日咲夜は美鈴が掃除に失敗してツボを割ったり、ベッドメイクで力余ってシーツを破いたり、

 パチュリーの書庫の整理をミスったり本棚を倒したり、その挙句に紅茶の入れ方を失敗したりして

 レミリアの機嫌を損ねさせたり(本人は『たまには刺激的でいいんじゃない、うふふ』と言っていたらしいが)、

 とにかく失敗しまくりだったのを後日知る事となるが、それはまた別の話。



「とりあえず! 泣くか話すか抱きつくか、どれかにしなさい!!」

「それじゃ抱きつきま、むぎゅ!」

「・・・訂正、とりあえず落ち着いて風呂から上がる、いい?」

「・・・・・・・・・・・・はひ」





・・・・・・お互い風呂から上がり、私の部屋へ美鈴を招き2人分の紅茶を用意する。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

お互い言葉を切り出せず、部屋には紅茶をすする音と外の風の音だけが鳴っているだけであった。

「美鈴・・・・・・」

「はい」

「これがお嬢様に出す紅茶の最低基準、これを下回るようなら機嫌を損なわれても仕方無いわよ」

「・・・すいません」

「それから」

「・・・はい」





「今までお勤めご苦労様、おかげで貴女の苦労を知る事ができたわ」

「・・・・・・・・・えっ?」

「か、勘違いしないでよ! 別に黒いのを止められなかったから貴女の苦労を労っているとか

実はみんなに尊敬されているのが羨ましいとか・・・・・・と、とにかく! ・・・門番って結構苦労するのね」

「・・・・・・・・・咲夜さんこそ、あれだけ大変なメイド長を勤めているのですから・・・・・・お疲れ様です」



お互いに声にしてみれば何という事も無い、なんせ同じ事を考えていたのだから。

私は紅茶をお互いのカップに改めて入れなおし、手に持ちゆっくりと上げ・・・・・・



「それじゃ・・・縁の下の門番隊隊長に」

「私は・・・瀟洒な紅魔館メイド長に」





「「乾杯」」

                                                           END

副隊長さんが男前な感じですが、こういう気質な女性という事で…(謝)

仕事は皆苦労しています、というお話でした。
FENCER
[email protected]
http://www.geocities.jp/fencer_gekkou/fcd_toppage.htm
コメント



1.名無し妖怪削除
美鈴視点も読んでみたいなあ
2.思想の狼削除
皆自分達の知らないところで頑張っているんだなあ…と感じました。
何はともあれ…お疲れ様。