Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

幻想自衛隊~後篇1/2~

2010/11/28 22:30:02
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自警団の新式銃と映像の解析を頼まれたにとりは助手一名と研究所に籠もっていた

「…成る程、これは発射時に発生する火薬ガスをこの筒から導いて次弾装填に充てているという訳か」

「そうなりますね、我々の目指していた反動そのものを利用する装填法とは明らかに違います」

傍にいた河童は顔を輝かせ書類をのぞき込んだ

「ガス圧利用式、とでも名付けるかね」

「そのまんまですね、ははは」

にとりは命名した作動方式を助手と共に一頻り笑った後真面目な顔をして銃を持ち上げた

「…銃自体の重さはそこまでじゃない、これなら楽に撃てそうなもんだけど、映像じゃあぴょんぴょん跳ねてたよね、銃身」

「多分使用している弾薬じゃないですか?装薬量が私たちでも多すぎるぐらいですよ」

「そんなの使ってたの?」

「はい、これです」

「…弾頭直径は7.62mmで全長は51mm、それでこの薬莢には火薬がたっぷり入ってる、か」

にとりは渡された弾薬を掌で転がしながら呟き、銃の弾倉に装填した

「何してるんですか!にとりさん!」

「何って、試射だよ、試射」

そう言ってにとりは弾倉を小銃へ押し込むと窓を開け構えた

「待って下さい、研究所で発砲なんて上にしれたら大事ですよ」

「一発だけなら誤射かもしれない!」

そう言って助手の制止を振り切り引き金を引いた瞬間、轟音とともににとりは天を仰いだ

「…にとりさん、大丈夫ですか?」

にとりは銃を構えたままでひっくり返りながら目を白黒させていた

「うん、ダメ、助けて」

「言わんこっちゃない、ただでさえあなたは小柄なんです、その辺を考えて下さい」

「ごめんごめん、よっこらせっと」

にとりは助手の助けを借り立ち上がると小銃を睨め付けたもう一度分解をしはじめた



その頃、盛岡達が居座る湖畔では霧雨隊への尋問が行われていた

「…君達は里長の命令で攻撃を行ったんだね?」

「そうさ、何度言わせる気だ」

「いや、確認をしたかっただけなんだ」

盛岡は手書きの報告書と霧雨を交互に見やりながら言った

「しかし、あんた等が別の世界から来たってのは本当らしいな」

霧雨が天幕を見渡しながら言った

「霖之助の野郎に見せれば飛び上がって喜んだろうな」

「霖之助?誰だ」

「俺の弟子だ、魔法の森のすぐ近くで商売をしてる」

霧雨はそう言って盛岡の問いに答えキャンティーンカップに注がれた白湯を一口飲んだ

「…商人か、何を取り扱ってるんだ?」

「そこらの古道具さ、たまには本当に使えそうなのもあるそうだが、まぁ大体はがらくただな」

「残念ですね盛岡さん、弾薬でも取り扱ってれば」

脇で調書を取っていた谷岡が背もたれに体を預けしゃべり掛けた

「まぁ良い、さて霧雨さん、一つ聞くが里に帰りたいか?」

「帰りたいか帰りたくないかと聞かれれば帰りたくはないな、あんまし」

「…どういう事だ?」

霧雨の余りにも予想外と言える返答に盛岡の反応は少し遅れた

「そのままの意味さ、まともな戦果をあげられずのこのこと帰れば家族との再会より先に死刑台と最初で最後の対面さ」

そして霧雨はキャンティーンカップの中身を飲み干すと更に続けた

「第一里長は俺たちを生かして帰す気なんて毛頭無かったに違いない、妖怪より得体の知れない相手に刀と弓矢しか無い俺たちがあんた等に殺されるか…」

霧雨はそこで言葉を切り空になったキャンティーンカップを見つめながら続けた

「…敵前逃亡に戦意喪失、抗命罪諸々の理由をでっち上げて俺たちを消すつもりだったんだろう」

「…有り得て良いのか、そんなことが」

「日常茶飯事だよ、ここではね」

霧雨はまるで他人事のような顔でそう言い切った



「…と言うことは、盛岡さんは霧雨さんを尋問している、と言うことですね?」

「そうだよ、文屋さん、急な用事なら呼んでこようか?」

村井はブラックホークのキャビンに座りこみ盛岡と谷岡に渡す88式鉄帽を指先で廻しながら文に答えた

「じゃあお願いして良いですか?」

「あいよ、ちょっと待ってな」

村井はブラックホークのキャビンに鉄帽を置くと立ち上がり盛岡達の天幕へ歩いていった

「…にしても見たこと無い機械ばかりですね、文さん」

椛は周りを見渡し嘆息と共にその言葉を吐き出した

「そうですね、にとりさんを連れてこなくて良かった、あの方が見たら興奮して気絶するでしょう、しかし…」

文はそこで言葉を切り周りを見渡した後、声を低くして言った

「…落とし穴に鳴子、それから個人用の散兵壕、一ヶ月も経たない内に仰々しくなりましたね、椛」

「地の利があったとしても里の自警団がこの網の目を抜けるのは至難の業でしょう」

「私たちで見るのがやっとくらいに偽装されてます、そうそう簡単には越えられませんよ」

「飛んできて正解でした、歩いてきたら私は何回引っかかった事やら…」

「…椛、今の発言はちょっと考え物ですよ?」

二人の会話がちょうど終わった時、盛岡が村井に連れられ現れた

「…あ、盛岡さん、お忙しいところ申し訳ありません」

「こちらこそすまないね、文屋さん、それでそちらの方は?」

「初めまして、白狼天狗警備隊所属の犬走椛と申します」

「よろしく、陸上自衛隊の盛岡だ」

「さて盛岡さん、今日ここに来たのはある物を見て貰いたかったからです」

「ある物?」

そう言って文は椛に目配せをして丁寧に包まれた棒状の物体を取り出させた

「里の自警団の使用している小銃です」

「M14じゃないか、こんな物何処で…」

文が布から取り出した物を見て盛岡は目を見張った

「スプリングフィールド国営造兵廠で製造された自動小銃、元の世界ではまだ現役だぞ、狙撃銃としてな」

「米軍が第二次大戦に採用したM1と同様のフルサイズ弾をフルオートで撃てるようにしたもんだから抑えきれない程の反動と腐りやすい木製ストックで散々な目にあった銃だ、だが良好な直進性とストッピングパワー、同時期に採用されたM16の不具合などで結構使われた銃だ」

村井は盛岡の肩越しから銃を見やって言った

「…出所は解りませんが鍵を握っているのはこの男性のようです」

文が指し示した写真には眼鏡を掛けた男性が写り込んでいた

「雑な写真だ、誰が撮ったんだ」

村井が写真を手に取り写真の評価を述べた時、椛は文の後ろで赤くなっていた

「…それを言われると少し辛いですね、あはは」

「まぁ良い、この男は里の人間なんだな?」

盛岡は写真を示しながら文に問うた

「恐らく、今現在山で写真の解析が進められてるので分かり次第お伝えしましょう」

「そうか、恩に着る」

「それから…」

文は一旦そこで言葉を切り茶封筒を鞄から取り出し言葉を繋げた

「…上白沢慧音先生はご存じですね?」

「ん?あぁ知ってるよ、彼女には世話になった」

「では、慧音先生が自警団によって拘束されている、と言うことはご存じですか?」

「どういう事だ?」

茶封筒から取り出した写真には二階建ての公民館のような建造物と武装した兵士が写っていた

「自警団の施設です、ここは建造されてから使用の痕跡が無かったはずですが上白沢女史が失踪した時期と物資の流入が重なったためここに拘禁されていると思われます」
そして文は更に河を遡る船の写真を取り出し言葉を繋げた

「ここから北方三キロの地点にある河川桟橋から毎夕六時に物資の定期便が出ています、そして今日は私が取材という名目でこの舟艇に乗り込むので行動も楽ですよ」

「…至れり尽くせりだな」

盛岡は文が差し出した写真を眺めながらそう呟いた



鈴仙が失踪して八時間、てゐと永琳は竹林を出来る限りの早さで走っていた

「…鈴仙、どこ行ったんだろう」

「部屋から自衛隊の写真が一枚消えていた、目的は嫌でも解るわ」

「うわぁっ!?」

その瞬間だった、てゐが叫び声を上げ宙に浮いたのは

「てゐ!大丈夫?」

「無理、師匠降ろして」

てゐは足を天に上げる様な状態で竹に吊り上げられていた

「…自分でも引っかかる罠なんて仕掛けるものじゃないわよ、てゐ」

小刀でてゐの足に結びつけられた縄を切りつつ永琳は言った、しかし地上へ降ろされたてゐの口からは想像も出来ない一言が帰ってきた

「違うよ、これは私が仕掛けた奴じゃない、きっと鈴仙だ」

「どういう事?」

「感圧式、鈴仙が一番得意だった罠だ」

そしててゐは切られた縄を見た後これから進む予定だった身を見やりつつ言葉を繋げた

「鈴仙は軍人だったんだよね」

「え、えぇそうよ」

「じゃあここから先は進まない方が良い、師匠、取り敢えず姿勢は低く」

そう言っててゐは懐からニンジンを取り出し、投げつけた

「もし私が鈴仙と同じ立場だったら、こうするね」

てゐの投げつけたニンジンは地面に触れた瞬間、爆発により消し飛んだ

「…どういう事?」

永琳は爆発によって作り上げられた穴を呆然と見つめながら言った

「即製爆薬を使ったブービートラップだよ、これも鈴仙の十八番なんだ」

永琳の二度目の質問にてゐは答えながら続けた

「鉄片が少なくて良かった、…きっと鈴仙はこの竹林の中にいる、間違いない」

永琳は無言で頷くと地面から腰を上げた



紅魔館の主、レミリアスカーレットは盛岡達が駐屯する湖を眺めながら紅茶を楽しんでいた

「ちょっと間違えば大事件、って言うのに呑気なものね、私」

「…お嬢様、お話しがあります」

「何か用かしら?咲夜」

掛けられた声に振り向くとそこには銀髪の少女がいた

「湖に駐留している者達についてお話しがあります」

「湖…あぁ自衛隊ね、どうしたの?」

「先程門番隊の一部から彼らの行動が活発になっているとの報告が上がっています、恐らく自警団に拘束された上白沢女史の救出に出るかと…」

咲夜はカップを黙って見つめるレミリアに更に言葉を投げかけた

「いかが為さいますか?」

「何もしないで良いわ、どっちみち私たちが動いたところで状況がどう転ぶか分かったものじゃないもの」

「かしこまりました」

咲夜がその場から姿を消したのを確認するとレミリアはカップに残った紅茶を一息に飲み干し呟いた

「…やっと動くのね」

秋の日は既に傾き始めていた



盛岡達の仮の住まい、霧の湖の畔、コウキの側面に貼り付けられた地図を隊員達が凝視していた

「…俺たちがまず向かう場所は北方にある河川桟橋、便宜上チェックポイントアルファと呼ぶ、ここに来る自警団の定期便に乗り込み河を上がる」

そう言って盛岡は地図に示された×印を指した

「そしてこの自警団施設、チェックポイントブラボーだ、ここに潜入し対象の上白沢慧音女史を救出、施設を制圧した後にヘリを呼び寄せそれに乗り込み…」

更に盛岡は地図に示した指を一気に南へと移し×印をつけた

「…チェックポイントチャーリー、永遠亭と呼ばれる医療施設へ搬入後この畔へ帰還する、作戦所要時間は大凡四時間を予定する、そしてチェックポイントブラボーには武装した敵兵が多く居る、殺せとまでは言わないが黙らせる方法を各自で考えろ」

盛岡は人名が書かれた紙を地図に貼り付け更に続けた

「救出要員は俺と西村と仲尾と兜坂、ピックアップのヘリに乗り込むのは義田と青樹だ」

そして盛岡は後ろに控えている男女を指し示し言葉を付け加えた

「それからオブザーバーとして二名の民間人が同行する、文々。新聞記者の射命丸文さんと元自警団対外戦闘実行部隊第七班の霧雨さんだ、敵と間違えるな、民間人の格好をするため武装はピストルかナイフだ、現地で装備を調達し再武装、作戦発動は四十分後だ解散」

各隊員が散った後、盛岡は霧雨に話しかけた

「…同行してくれてありがとう、現地を知るものが居てくれて心強いよ」

「そりゃどうも」

「だがあんたの顔は知られて居るんじゃないか?」

「大丈夫だ、愚連隊は余り顔を晒さないからバレては居ないと思う」

「…そうか」

盛岡は霧雨の言葉に頷くとその場を去った



なんの収穫もなく永遠亭に帰り着いた永琳とてゐを一匹の白狼天狗が出迎えた

「…八意永琳先生ですね」

「そうだけど、あなたは?」

「白狼天狗警備隊所属の犬走椛と申します、射命丸文がこれを渡せと」

そう言って椛が懐から取り出した紙を永琳は受け取り中身を見た

「…解ったわ準備をしておきます、それより」

「はい?」

「ここに来るまでおかしな事は無かったかしら?」

「いや、特にありませんでしたよ」

椛の返答を聞いて永琳は元来た道を振り返った

「…そう、それなら良いわ、ありがとう」

「では私はこれで」

永琳は空へと消えていった椛を見送るとてゐに妹紅の家に行くよう伝えた



人里より北方三キロ地点に存在する河川桟橋で盛岡達は里人の服装をしていた

「…現在時刻0530時、あと三十分か」

「秋は日が暮れるのが早いですね、盛岡さん」

「呑気だな、兜坂」

兜坂は少し微笑みながら話を続けた

「…七年前中近東の某国に派遣された時を思い出します」

「そうか、お前はPKO要員だったのか」

「はい、砂と埃しかない僻地で毎日銃を握りしめ何時爆弾を抱えた民兵が来るかも解らない状況でした」

そう言った瞬間、河川桟橋に船がつく音がして盛岡と兜坂は立ち上がった

「…作戦開始だ、行くぞ」

盛岡達は荷物と共に定期便に乗り込んだ



定期便に乗り込み暫くすると船長が客室に訪れ文に話しかけた

「…天狗様、今日は取材ですかな?」

「はい、先日出来たばかりの自警団施設を撮影するためにです、文々。新聞の『建物探訪』と言う企画です」

文の言葉を聞くと船長はにっこりと笑い続けた

「そりゃあ嬉しいあの建物の設計をしたのは俺っちの弟ですからね」

「そうなんですか」

「はい、そうだ!施設まではまだ時間があります、お茶でも持ってこさせましょう」

船長は笑顔でそう言って客室を後にした

「…『文々。新聞の『建物探訪』と言う企画です』か、お口が上手ですな、文屋さん」

「まぁ取材なんかやってると嫌でもこうなりますよ、盛岡さん」

文はそう言って窓から川面を眺めた

「…どう思います?盛岡さん」

「…静かだな、それも嫌な静かさだよ、西村」

その時だった、客室の扉が勢いよく開いたのは

「…天狗様!とっておきのお饅頭がありました、どうぞお食べ下さい」

「あ、これはすいません」

そう言って文は船長から饅頭を受け取りかぶりついた

「そうだ、船長」

「へぇ、なんでございましょう」

船長は相変わらずの笑顔で盛岡の問いかけに応じた

「この船はどうやって動かしているんだ?」

「それはですね、河童から貰った発動機とやらで動かしているそうですが学のねぇあっしにゃあどうにも解らんことばっかでございます」

「動かしている人は少ないのか?」

「えぇ船長であるあっしと副船長、それから発動機を弄るのが一人だけです、でも何でこんな事を?」

「いや、さっきから働いている船員を余り見なかったからな、山ではまだまだ手漕ぎが主流だから」

そう言うと船長は盛岡に輝く笑顔を見せた

「そりゃあそうでしょう!これは河童から試験的に貰い受けた装甲艇とか言う船で鉄砲やらなんやらを積んでいますだ、木っ端妖怪に襲われてもダイジョブでさぁ」

「そうか、安心した、ありがとう」

「そう言えばあなた方は何処から来たんです?妖怪には見えませんが」

「ん?俺たちは人間だよ、でも山の河童の研究所で働いている、研究品の試験運用係だ」

盛岡の返答を受けた船長は膝を打って笑った

「なぁるほど、だから船のことをお聞きになすったんですね」

「まぁそんな所だ」

船長が上機嫌で客室を後にしたのを確認すると今度は文が盛岡に皮肉を垂れた

「お口が上手って、私に言えませんよね」

「うん、まぁね」

盛岡は少し微笑むと真剣な表情をして話し始めた

「さぁ、この船は三人しかいない、それでも装甲艇と言っていたから武装は積んでいるはずだ、どうする?」

盛岡の問いに最初に答えたのは仲尾だった

「船の三人を締め上げて俺たちが頂く、ってのはどうです?そうすればヘリを呼ぶこともなく対象を速やかに目標へ移動させることが出来ます」

「それは良いかもな、霧雨はどう思う」

「俺は反対だ、派手に動けば先生に危害が加わる、それを考えてくれ」

至極まともな意見を述べた霧雨は真剣な表情で続けた

「慧音先生からは里の住人全員でも返しきれないような恩を受けている、なるべく静かに運んでやりたい」

「解った、オブザーバーの意見を採用する」

そうこうしている内に船は目的地へ到着したことを知らせた



所変わって竹林、藤原妹紅の自宅に永琳からの言伝を受けたてゐが訪れた

「…わかったよ、あと四時間だな?」

「そう、宜しくお願いするよ」

「あいよ、引き受けた」

妹紅は湯呑み一気に傾け準備を始めた

「しかしてゐ、鈴仙はまだ見つかってないのか?」

「うん、永遠亭から出て行った鈴仙の顔は昔の顔だった、早く連れ戻さないと」

「昔の顔?」

「…幻想郷に来てからの鈴仙は兎に角酷かったんだ、その時と同じ顔だよ」

そう言っててゐは鈴仙と出会った頃を語り出した



もう何年になるかな、あの時私は鈴仙のお目付を命じられていたんだ

『…あの、てゐさん』

『なんだい?鈴仙ちゃん、さんは付けなくて良いって言ったのに』

今でこそ馴れ馴れしく呼ばれてるけど最初の頃は何をやるにも師匠は元より私の指示まで仰いだんだ

『そう言えば鈴仙、月ではどんな生活をしていたんだ?』

『え?あの、その…』

『どうしたの?』

『軍籍の頃は、あまり思い出したくなくて…』

あの子はね、人一倍臆病だった、自分の部屋ですら入室するときは音を立てずにとか布団は敷くけどその中に入らないで襖で体育座りをして寝てたりね
一番驚いたのは朝起こそうとして鈴仙の部屋に入ったときだった

『おーい、朝だぞー、起き…』

まぁ私が不用心だったんだけどね、気付いたら私は組み伏せられ首にナイフを突きつけられていたよ

『…誰だ』

情け容赦のない突き放すようなその声と冷たくて機械的な目に私はビビっていた

『ぅぐ、ごめんよ鈴仙、私だよ、てゐだよ、離して』

『あ、すいませんてゐさん!』

『…吃驚した、強いんだね、あんた』

『それより怪我とかはありませんか?』

首筋に突き立てられた時の目を私は忘れないよ、本気で殺せる目をしていた、何処までも機械的な目だった
まるで単純作業をしているような冷たい目だよ



「…そんな事があったのか」

「なぁ妹紅、もし、もしだよ?鈴仙に会っても何も手を出さないでくれ、命が幾つあっても足りやしないよ」

「心配するな、私は死んでも死なない、だけどその忠告は聞くよ」

てゐの忠告を妹紅は笑いながら受け入れた



装甲艇から降り立ち文が団員に話を付けている間、西村は盛岡に語りかけた

「…そこまで大きくないですね」

「そうだな、目標を見つけるのは簡単だろう」

門前には小銃を持った団員が二人、そして二階のテラスに五人の武装した団員が見えた

「…あいつら、俺たちを見てる」

「あぁ変な気は起こすなよ」

盛岡がそう言った瞬間、文は団員を引き連れ戻ってきた

「…皆さん、お待たせ致しました」

文の言葉を聞き盛岡達は撮影機材を担ぎ屋内へ足を踏み入れた



盛岡達が出発した後の畔、村井は山の稜線にさしかかる夕日を眺めながら紅魔館から来た美鈴から館への招致の対応をしていた

「…何度も言うが俺たちはこの世界にいては不自然極まる集団なんだろ?そんなのを招き入れて何の利益があるんだ?」

「確かにあなた方はこの世界にいるべきではないと私も思います」

「だったら…」

村井の主張を掌で制して美鈴は続けた

「不自然すぎるからこそ危険なんです、現在霊夢さんが、つまりは博麗の巫女があなた方を戻す算段を付けるまで屋敷の内側に居てくれませんか?」

美鈴にそう迫られ村井は地面へ目を落とした



「…この建物は地上二階建て、地下にも貯蔵庫があり実質三階建てなんですね」

付き添いの団員の後ろを歩きながら文は手帳に書きながら尋ねた

「そうです、さぁご自由に撮影をどうぞ」

「ありがとうございます」

団員の許可を得ると盛岡達は機材を床に降ろし写真機を組み立て始めた

「…まだか?文屋さん」

「…もう少しです、もう少しガマンして下さい」

かなり抑えた声で尋ねた盛岡に文は答え制した

「…私がフラッシュを焚くまでです」

文の言葉を聞いた盛岡は満足したかのように機材設営のペースを上げた
設営を終え文はカメラを団員に向け笑顔で言った

「まずは団員さんのお写真を取りたいのですが、良いですか?」

「構いませんよ」

「はい、それでは笑って」

そう言ってレンズの前に出た団員に眩い光りが襲いかかった
河童の改造により引き上げられた照度は団員の網膜に白く濃い靄を作り上げた

「なっ、目が、目が見えな…」

自らの顔面を抑え蹌踉ける団員に盛岡が殴りかかり気絶させた

「…死にましたか?」

「いや気絶してるだけだ、これぐらいじゃ人は死なないだろ」

文の問いに盛岡は涼しい顔をして拳銃を剥ぎ取りながら言った

「南部を持ってる、こいつは使えるぞ、西村お前一丁持て」

「盛岡さん、目標は恐らく地下にいると思うんですが、どう思います?」

西村は渡された南部拳銃の遊底を引きながら盛岡に問いかけた

「そうだな、文屋さんはどう思う?」

西村からの問いをそのまま文に流して盛岡は弾倉を確認し扉を開けた

「さぁ虱潰しのように探すんだ、一つ一つの部屋を確認しろ、行くぞ」

文の答えを待たずして盛岡は再出発した



迷いの竹林、藤原妹紅はてゐからの伝言を受け合流地点へ歩いていた
最初てゐの言葉を聞いたとき里へ飛んで往き里長を真っ黒焦げにしてやろうという野蛮な衝動に駆られもしたがそれは何時でも出来ると自分に言い聞かせたがいてもたってもいられなくなり、約束の三時間前に出発してしまったのであった

「…慧音、無事かな」

その瞬間、足元の地面が大きく抉れ土が弾け飛んだ

「なっ?」

続けて隣にあった竹が音を立て砕けた

「クッソ!一体なんだ?」

太い竹の後ろに隠れながら辺りを見回した、そして三回目の風を切る音が聞こえ妹紅の左爪先を吹き飛ばした

「痛っ!」

崩れかけた体を立て直そうとして掌を地面に這わせた瞬間、今度は左腕が吹き飛ばされ妹紅は顔から地面に激突した

「ハァ…ハァ…クソ!クソ!」

悪態をつきながら自分の左腕を見ると真っ赤な血が白いシャツを染め上げていた

「ハァ…フゥ…フゥ…フゥ…」

息を荒げ髪を纏めていたリボンを解き失った左腕に傷口の少し上に何とか巻き付け止血を計り先程いた太い竹の後ろまで這っていこうとしたとき、何者かが近づく気配がし、大声を出した助けを求めた

「…誰だ?誰でも良い、助けてくれ!撃たれたんだ、近くに永遠亭って言う病院がある、そこまで肩を貸してくれないか?」

しかし返ってきた答えは気遣いの声ではなく銃弾だった
何者かから放たれた銃弾は妹紅の右肩を撃ち抜いた

「てめぇ、何するんだ!」

片膝を付き何とか体を起こして歩いてくる何者かを見た瞬間、妹紅は凍り付いた

「鈴…仙…?」

背中に鉄の棒を担ぎ手には小さな鉄の塊を此方に向けていたのは永遠亭の兎、鈴仙だった

「冗談じゃ済まされないぞ、自分が何をしてるのか分かってるのか!?」

妹紅の激昂に鈴仙は涼しい顔で腰のベルトからジャガイモ潰しのような物体を引き抜いた

「…おい、何か答えろよ」

しかし鈴仙は答えずそれに付いていた紐を引っ張ると妹紅へと投げ付けその場から走り去った

「おい!待て!このクソ野…」

妹紅が鈴仙への悪態を吐き切る前に投げ付けられたそれは轟音と共に辺りの竹と妹紅を吹き飛ばした
私は傷だらけの妹紅のベッドの横でカルテに目を通しながら傍らにいた兎に話しかけた
「…貴方を尾行に付けておいて良かったわ、てゐ」
「いや、自分でも遅かったと思ってるよ、師匠」
沈んだ顔で自分を責めるてゐは更に続けた
「妹紅の腕は大丈夫なのかい?」
「貴方が吹き飛んだ腕も一緒に持ってきてくれたから繋げはしたわ、繋げはね」
そして更に表情を曇らせてゐは言った
「鈴仙のやつ、何でこんな事を…」
目に涙を浮かべながらそんな事を呟き続けるてゐを下がらせ私も妹紅の病室を後にした


どうも、1/2でやらかした気分満載です
何というか自警団と里長空気でしたね
でも次は活躍しますよ、多分
それでは後篇2/2でまた
抹茶ジオ
コメント



1.削除
この自然に物語に引き込まれて行く感じが好きです。
次も頑張って下さい。
2.名前が無い程度の能力削除
どうなるんだ!
続き期待です