Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

疲れた貴方に一杯の狐うどんを

2010/11/19 01:29:22
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 少々疲れた目を軽く押さえて

 今日あった仕事を思い浮かべて二度目のため息をついた


「寝ぼけている紫様を起こす事から始まって」

 無論、寝ぼけて隙間に落とされそうになるが

 そこは何時もの事だから、無理やりにでも起こす

「掃除家事洗濯を片付けて」
 
 専業主婦と言う言葉があるが、あれは下手な仕事よりも大変だ

 知人に居るとしたら、たまには労わってあげてほしい

「そして、遊びに行った紫様の代わりに結界の修理だったな」

 一日中かかってやっと静かな時間が出来たかと思えば

 たまに行われる紫様のたくらみや緊急の結界修復等によって

 その静かな時間も無い日のほうが一年の中では多い時もある



「はあ」

 なんだかため息が出る

 否、最近はため息しかでない

「なんと言うか」

 私は少々ぼーっとしながら

 木枯らしが吹く寒い外を眺めていた

「疲れてるな」

 少し老けたのかもな、と自身に苦笑していた時だった



 
「藍様~」

「橙?」

「御久しぶりです!」

 自分の式が久しぶりにやってきた

 忘れている人も多いが、橙は私の式であるが

 修行の為、マヨヒガで一人で生活をさせている

 その為、私の時間がある時か橙の修行の時間の時以外は滅多に会えない

(随分寂しいが、まあこうして会うときはとても嬉しいのも事実)

 そんな橙が、私の元にやってきて

「今御時間良いですか?」

 私に用事があると言ってくれたのだ

「ああ、丁度紫様も御眠りになられたしな」

 多少疲れは残っているが

 なに、昨晩の紫様が行った悪戯の後始末に比べれば

 可愛い式のお誘いで時間が潰れる方が幸せに決まっている

「ああ、よかった」

「はっはっは、それで?一体なんのようかな」
 
 私がそう言って、橙に話を促すと

「こっちです、ついてきてください」

「ん?こんな夜更けに何処に行くというのだ?」

「ごめんなさい、訳は後で言いますから今はついてきてください」

 申し訳なさそうにしながらも、橙は私の手を掴んで

 何処かへと移動をし始めた








 そして、少々肌寒いと感じる夜道を少しだけ進むと

「じゃん!藍様着きましたよ!」

「これは……」


 そこは、橙が住んでいるはずのマヨヒガの前であった

 だが、橙が向かおうとしているのは其処ではなく

「屋台か?」

「さあさあ、藍様一名ご案内ね♪」

 看板に『雷牙』と書かれた移動式の屋台であった









「おじさん!摘める物適当にお願いね?」

「お、おいおい橙?ちょっと待っててくれ、今財布を持って来るから」

「大丈夫ですよ藍様」

 お店に入るなり、いきなり注文をする橙に私が少し慌てると

 橙が此方を向いて胸をはる

「や、何が大丈夫なんだ?」

「支払いは私に任せてください!」

「ストップ!」

 そう言って、懐からマジックテープ式の財布を取り出そうとしたので

 思わず止めに入ってしまったが

「冗談ですよ」

「いや、冗談も何も……」

 急いで財布を持ってこようとした時だった

「…………(ぽんぽん)」

「あ、いや……すまないな店主、今すぐにお金を……ん?」

 覆面をしていた御店の店主が無言で私になにかの紙を渡してくれた

 いきなり紙を渡されて慌てたが、その紙に書いてあった文字を冷静に見て

「これは……」

「ね?」

「……(どん)」

 私がその場で驚くのと、橙が声をかける事

 そして店主が御摘みと甘酒を置くのがほぼ同時だった

『御代は橙さんより、既に頂いております』





     ・・・





「なるほど、つまり此処の御店のメニューを作る際に手助けをしたと言う訳か」

「……(こくこく)」

「えへへ、偶然なんですけどね」

 それから数十分後、私は御摘みと少しの甘酒で体を温めながら

 橙がこの御店が出来る為に大切な役目を果たして

 その恩義を店主が今でも返してくれていると言う話を聞いて頷いていた

「立派な子になって、私は嬉しいぞ橙」

「うわっぷ?ら、藍様!人前ですって」

 自分の式の成長に思わず抱きしめて頬擦りしてしまったが

 なに、目の前の店長も親指を突き出してくれているから大丈夫だ

「す、ストップです!」

「……む、仕方がないな」

 まあ、確かに今は外だしな、今はこの位にしておこうか

 私がそう思って橙を離すと同時に

「はぁ……はぁ……あっ、店長さん、そろそろあれお願いね」

「……(親指を突き出す)」

 橙が店長に対して何か合図を送ると
 
 店長が何かを作り始めた


「……藍様」

「ん?」

 その様子を、見ていた私に橙が真面目な声で話しかけてきた

「最近疲れているんですよね?」

「……」

 何時もなら、色々と煙に撒くことも出来るのだが

 今日の橙の雰囲気に私は思わず黙ってしまった

「……まだ八雲の名も頂けませんけど、それぐらい解ります」

「……」
 
「だって長い間藍様を見てきてるんですから」

「……橙」

 私が心配そうに自分の式の名前を呟いた時だった

 御店の店主が私と橙の前に狐うどんを置いたのと

「……藍様、これ食べてください」

「えっ?あ、ああ……そうだな」

 橙がにっこりと笑って、うどんを食べるようにと促したのは

 その言葉に、私が少し戸惑いながら

 その狐うどんに乗っている揚げを箸で摘んだ時に気がついて

「て、店主、この油揚げ……これはまさか?」

 思わず自慢の尻尾が膨らませながら静かに問いただす

「ま、まさか……伝説の油揚げ!?」

 店主が『ああ、その通りだ』と言わんばかりに頷く

「そ、その年に作られる油揚げの中でも最上クラスの『銀狐』その中から更に吟味を重ねる数枚……その名も」

「『金色狐』ですよ藍様」

 橙が嬉しそうに私に声をかけてくれた

「そ、それを丸ごとき、狐うどんの揚げに使うだと!」

 こんな贅沢!見たことも聞いたことも無いぞ!?

「こ、こんな贅沢な……お、御店……やっていける訳が……」

 わなわなと震えながら、店主の首根っこを捕まえようとした時

 店主が無言で再び紙を渡してくれた

『食材は全て、橙殿が持ってきてくれました』

 その紙を見て、思わず自分の式を見ると

 恥ずかしそうにはにかんでいた

「えへへ、実は大手の豆腐屋さんにちょっと」

 八雲家でも中々手に入れる事が出来ない貴重な代物を……

 一枚丸々……わ、私の為に……

「ちぇ、ちぇぇぇぇぇん!」

「うわわっ!?ら、藍様!抱きつくのは良いですけどその前にうどん食べてください」
 橙の言葉を無視して抱きつこうとしたが

「せ、せっかくの金色狐がふやけたら台無しですよ!」

「う、うううっ」
 
 そ、そうだった……橙が頑張って手に入れて来てくれた物を

 台無しにする訳には行かない

 抱きついて頬擦りしたいのは山々だが、橙の気持ちをまずは汲んで

「……頂きます」

「はい、頂きます♪」

 黄金の狐うどんをタップリと堪能しようとうどんに箸をつけた


(まずは言わずとも)

 伝説と呼ばれる油揚げにぱくつく

 口の中に広がるえもいわれぬ甘露に思わず意識を止めそうになる

(……いかんいかん!次はうどん)

 あのままだとやばそうだったので、うどんをすする

 きっちりとした麺の腰が、この最強の油揚げに引けを取らない事に驚く

(くっ?な、ならば汁だ!)
 
 理性が残っているうちにうどんの出汁を啜る

(こ、この味は!)

 いかにも『うどん』と言われるに足りうる強度のさっぱりとした出汁
 
 だが、驚くべき事にその出汁は幻想郷で出回る筈がない

(か、鰹節だと!?)

 そう、海産物である鰹節で出されている事に驚き

(こ、金色狐に、強靭な麺!そ、そしてそれらを吸って最強になった鰹の出汁)

 私は思わず無言のまま

「…………(ドン!)」
 
 その最強の一杯を平らげてしまった



 その姿を見た橙と店主がにやりと笑っていた事に気がつくと

 少し恥ずかしくなったが、美味しかった事には間違いはなかったので

「ご馳走様、今までで一番美味しい狐うどんだった」

 心の中そのまま、二人に頭を下げる

 すると、店主が橙に向かって頷いて合図を出した

 それに対して、橙も頷き返すと、はっきりとした口調で答えた

「藍様、実はお願いがあります」

 真剣な顔での表情で橙が私を見つめてくる

 その眼差しをまっすぐに受け止めると

「なんだい?」

 どんなお願い事かを聞き入れる為に此方も真剣な眼差しで構える

(これだけの物をご馳走してもらったん、ある程度の無茶も聞かないとな)

 そんな気持ちで私が紫様への相談事や、財布の中身を考えようとした時だった

「私にも藍様の仕事の御手伝いをさせてください」

 橙が私に対して頭を下げてそう伝えてきたのは

「うどんは里の小麦屋さんで良いのを手に入れました」

(金色狐に負けない剛麺になる為の小麦を手に入れるのは大変だったろう)

「金色狐は豆腐屋さんの所で手に入れるのに数年かかりました」

(伝説の食材が手に入るのは決して、楽な数年ではなかったはず)

「出汁に使ったのは鰹節に似ているキノコを探し出しました」

(幻想郷で手に入らないはずの物に近づける努力をして)

「私だって、なにか藍様の御役に立てるはずです!」


 驚く私に対して、橙が真剣に伝えてくる

「結界の修理の仕事はまだできませんけど……
 それでも!疲れている藍様の御役に立ちたいん……むぐっ?」

 その言葉はそこで止められる事になった

 無論それを止めたのは私だ……

 橙を危険な目に合わせたくないと言う気持ちもあった

「……藍様」

「…………」


 だが、今はそれよりも


「泣いて……いるんですか?」

「…………」


 自分の式が自分の思っている以上に大人になっていた事に


「藍様、泣きやんでくだ…」

「明日から……」

「はい?」

「明日から、私の仕事の一部を任せる」

「!?」

「……頼めるな?」

「は、はい!」



 思わず抱きしめてしまっていたからだ


















 それからもう少したつ頃には

 きっと、私の式も『八雲』の名前をもらえるに違いないと思いつつ

「店長!まだストックあるよね?」

「…………(任せろと言うアピール)」

「ひゃっほ~!」

 私は贅沢な一杯を追加で注文する事を決めた
紫「藍!今日も私の代わりに結界の修復作業とあれとこれと……」

橙「待った!」

藍「橙!?」

紫「あらら?どうしたの橙」

橙「紫様!藍様に御休みあげてください!」

藍「ちぇ、橙……」

紫「却下、藍、仕事行ってらっしゃい」

橙「紫様にはわからないんですか!?藍様が疲れている事に」

紫「うっ、で、でも、藍の仕事は幻想郷の維持の為に」

橙「これを見てください!(写真)」

紫「ん?なにかしら……!?こ、これは!」

橙「これを見てもまだ働けっていえるんですか!」

藍「……一体なんの……」

橙「藍さまの尻尾に出来ていた十円ハゲです!」

藍「!?あ、あああっ!?」

橙「それに見てください、このグラフ毛並みがドンドン衰えて行ってるんですよ!?」

紫「ど、どどどどどうしよう!?」

橙「ですから、藍様に休暇を」

紫「藍!急いで休暇をしなさい!」



藍「と言う訳で、一週間程暇になってしまったわけだが」
橙「えへへ、藍様~(ゴロゴロ)」
紫「藍、御飯できたわよ」
藍「……(まあ、結局は何時もの通りといったところかな?)」





 どうも、名も無き脇役です……

 今回はラーメンじゃなくってうどん屋さんの『雷牙』
 店主は覆面で、麺をこねる時は浴びせ蹴りか掌底
 気合が入っている場面では持ち上げて店長の必殺
『雷牙菩夢』を決めてくれます

 いや、妖々夢で橙が出てから少し時間が経ちましたし
 そろそろ、里の方でも色々出来る子になってるんじゃないか?って思って
 まあ、うどん啜りながら橙良い子だよって思ってくれたら御の字かな?

 また不定期に屋台話するかも知れませんが、それまでまたノシ

 
名も無き脇役
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
藍様のストレスの量になけた(´;ω;`)
2.こじろー削除
雷牙キタコレ
ちぇん良い子レベルが高くて鼻血でたんですけおー
ところで藍しゃまのもふもふグラフを図ってるときの様子を詳しくデスネ
3.名前が無い程度の能力削除
伝説の油揚げ……いくらお狐様とはいえ好物が油揚げってよく考えたら凄いよね
4.削除
藍しゃま、貴女疲れてたのよ
5.奇声を発する程度の能力削除
藍様…苦労人やな…
6.トウリスガーリー削除
怒りの獣神を脳内再生余裕でした

店主は怒ったら方言丸出しになるんですかね…


橙…立派になって…(涙
7.名前が無い程度の能力削除
ぐすっ、こんなに立派に・・・