Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

あたたかい、その場所

2010/10/30 21:29:43
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 紫が目を覚ますと、その時間はもう昼の3時を過ぎたあたりだった。
 屋敷に入ってくる光から受ける印象は特に無い。これが早朝や正午なら何かしら印象は受けたはずだが、すでに太陽の光はその力の最高潮を過ぎ、当たり障りなく辺りを照らしていた。
 紫はのそりと体を起こす。

「さて、朝ごはんの時間ね」

「いえ、おやつの時間ですよ、紫様」

 部屋の外からそういった声が聞こえたと思ったら、襖が開いた。いるのは八雲藍、紫の式神である。彼女は優しく微笑すると、「おはようございます」と付け足した。

「あら。おやつの時間ならおはようと言うべきではないわ、矛盾しているわよ、藍」

「いいえ、紫様にとっては朝だからこれでいいのです。紫様が世界の中心ですから」

「あなたにとっては、かしらね。じゃあ橙は世界のどこら辺にいるのかしら」

「橙も中心です」

「なら、貴方は?」

「私も中心です。私たちは家族ですから」

「狭苦しくって敵わないわね。悪くはないけど」

 その言葉で会話はいったん止まり、お互いにくすりと笑った。それから藍は「食事の用意をしてきます」と台所へと歩いて行った。紫は居間に移って食事を待つことにした。

 がらりと居間の襖を開けると、そこには既にこたつが出ている。ふと、こたつの上を見ると緑色の帽子があった。紫にとっては随分と見慣れた帽子に違いなく、そして今日の来客が誰であるか知るのに十分なものだった。

 紫はこたつ布団の端を指の先で摘んで、ひょいと持ち上げた。そこから体を折ってこたつの中を覗き込むと、案の定というか予想通りと言うか、見慣れた橙色の服と二つの尻尾が丸まっていた。

 紫はゆっくりと橙の頭に手を伸ばし、二三回ゆっくりと撫でた。どうやら完全に寝入っているようで、起きる気配が見えない。しばらくすると、寒いのか橙はぶるっと体を震わせた。それで紫は慌ててこたつ布団を下に落とした。

 気を取り直して、足をこたつの中に突っ込むと優しい温もりが紫の足を包んできた。思わず、温泉に入ったときのように大袈裟に唸ってしまう。いっそのこと、橙のようにこたつに潜り込んでこの温もりを満喫しようかと思ったが、さすがに自分がそれをするのは恥ずかしい気持がしてやめておいた。

 そんな風に冬のこたつを満喫していると、いよいよ藍が食事を持ってきた。藍は、それを紫の前に置くと、先程紫がしたようにこたつ布団の端を摘んで上げ、中の橙を見た。みるみるうちに藍の頬が緩まって、うへへと妙な笑い声が漏れた。

「変な笑い方は止めなさいな、藍」

「失礼しました。私の淑女力が昂り過ぎたようです」

「その淑女力が何なのかは聞かないでおくわ」

 食事の出来については申し分が無かった。相変わらずの完璧さに紫まで誇らしげになる。やがて食事が済んだ頃には、橙も既に起きていた。寝ぼけ眼で「おはようございます」と言う橙に、紫はくすりと笑って「おはよう」と返した。

 紫は思う。私たち家族は、きっといつまでも──

◇◇◇

 魔理沙が紫の邸に訪れたのは、昼過ぎのことだった。温かな日差しが降り注ぐ中、魔理沙は戸を開け、遠慮なく紫の家に踏み込んだ。家の中に入った魔理沙が、最初に目にしたのは紫ではない、萃香だ。彼女はまるで魔理沙が来るのを分かっていたように、玄関の前の壁にもたれかかっていた。その姿を見て、魔理沙は言葉を発する。

「──紫は?」

「相変わらずさ。眠り続けたまま、起きる気配も無い。酒でもぶっかけてやったら起きるかなあ」

「多分の夢のむこうで酒が降ってくるだけだと思うぜ」

 魔理沙はそう言って、苦く苦く笑った。おそらく、もう紫は二度と起きないに違いなかった。紫は、あの日から夢の世界へと引き篭もってしまった。幻想郷が崩壊し始めたあの日から──

「ここが崩壊したら、みんなどうするんだ。いっそ外の世界に宣戦布告でもするのか?」

「いっそのこと、それもありかねえ。どこまでやれるか分からないけど、最後の祭りにはおあつらえ向きかもしれない」

 萃香はそう言って寂しそうに微笑んだ。そして邸の奥を振り返った。きっとその先には紫が寝ている部屋があるに違いない。萃香は魔理沙に向き直ると、ぽつりと言った。

「家族を亡くし、友人を亡くし、自分が愛した世界の壊れゆく様を見せつけられる。全てを背負おうとした賢者は、その重さに耐えきれずに壊れちまった。……それをどうともできなかった私は、あいつの友人と言えるのかねえ」

「……さあな」

 魔理沙はそう答えた。そう答えることしかできなかった。
 ふと、魔理沙は思い出す。紫が起きなくなった時、萃香は永琳に原因の究明を頼んだ。彼女によると、紫はどうやら平和な幻想郷の夢を見ているらしい。紫が夢と現の境界をいじってそこに移り住んだとすれば、そこには新しい現実が生まれた事になる。この壊れかけの幻想郷に替わる、新たな幻想郷だ。

 魔理沙は思う。その幻想郷は、どんな道を歩むのだろうか。自分たちはどんな行動を選ぶのだろうか。その幻想郷は、こことは違った形になるのだろうか。

「そういえば」

 魔理沙の言葉に、萃香が「ん?」と顔を上げる。魔理沙は続ける。

「いや、夢中夢ってあるだろ? 夢の中で別の夢を見るってやつ。夢の中の夢で、更に別の夢を見るとしたら、その夢はどこまで続くんだろうな」

 その問いに対して、萃香は「さあね」と気のない返事を返した。魔理沙はその反応が不満だったらしく、唇を尖らせた。
 しかし萃香も、その問題を切り捨てた訳ではなく、咀嚼している最中だった。夢の中の夢は、どこまで続くのか。多分それは──

「……まあ、これも悪い夢の一つだと思えば、少しは気が楽になるかな」

 萃香はそう言って、魔理沙の横を通り過ぎた。どこに行くのか問われると、ねぐらに帰るのだと返した。

「なに、私も少し、夢を見ようと思ったのさ」

 萃香は空を見上げる。夢の中のあいつは、笑っているだろうか。
「寒いからこたつでほのぼのでも書くか」

「どうしてこうなった……」

最近寒いです、こたつが天国
たまにこういう悲劇系のものが書きたい見たいの持病がでます
でも完全な絶望は見てて辛いという罠。パンドラの箱と言うか、最後に希望があった方がいいと思います
天津水。
http://twitter.com/#!/Amatumizu
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
ほのぼのかと思ったらまさかの…
これはこれで良かったです。
2.名前が無い程度の能力削除
展開が寂しいです。
前半と後半がほとんど繋がっていないように思いました。
平和→シリアスの落差は良かったけれど、「どういう理由で、どういう展開になるんだ?」という期待には答えが貰えないまま。
これをプロローグとして物語が展開するのなら、また話は別ですが。
3.名前が無い程度の能力削除
面白くないし不快