Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

あの日の記憶

2010/10/30 02:06:01
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 ~注意書き~
・独自解釈及び設定が多少なりとも含まれております。

それでもいいぜという漢気溢れる方は25行ほど下にスクロールしてください。

























 何もかもぼやけた、虚ろな意識の中、自分は漂っている。
 ふわふわと浮いているような、滑っているような、落ちているような、昇っているような?浮いているのか、沈んでいるのかそれ以外なのか、それすらもわからない曖昧な、不思議な感覚。
 周りには何かがあるのがわかる。何かが見える。だけどそれは何なのかわからない。
 見える。そう、私は見ている。自然とそう理解した。
 私が見ているのは、世界の色。今の私が認識しているのは色だけ。
 今私の見る世界には境界が曖昧で、形が無いのだ。

 周りには誰かがいるのがわかる。見えなくても、それが誰だかわかった。それが大切な人であるとも。
 私が感じているのは、誰かの存在。今の私が認識しているのは色と誰かの存在。ただそれだけ。

 その誰かを知らないのに、知っている。覚えている?思い出している?何を?記憶?誰の?私の?何故?
 自分の記憶はここから始まったはずなのに、今ここに生まれた私達は、それ以外の記憶を知っている。わたしはなに?ここはどこ?

 突然意識が飛んだりする。意識が消えそうになるたびに、何故かそこにいる大切な人を抱きしめたくなる。
 心を込めて、愛を込めて。

 意識が戻ったらまたぼんやりと漂う。何をしていたんだっけ?何処にいるんだっけ?私はなんだっけ?
 そんなこともすぐに忘れてしまう。覚えては、消えて。見ては、消えて。思い出しては、消えて。知っては……消える。そんなことを延々繰り返す。

 再び戻った意識。
 ぼんやりと、私は現れる。
 見ることを思い出す。周りの存在を思い出す。大切な人が居ることを思い出す。色を思い出す。そして、記憶を、思い出す。
 ああ、そうだ思い出した。ぼやけて何も見えないけれど、私にはわかる。あそこに居るのは、周りにいるのは私の──

 傍に行こうとして、また意識が消えた。







 ぼやけた視界で、目の前にある形も何もわからない頭で、頭?頭って何?目…って何?形って…何?自分には何も無い。ただそこに在るだけ。私が知っているのは色だけ。見ることだけ。
 さっきから何か視界が小さく震えることがある、世界が振動する、なにかを感じる。
 あの子がなにかをしている。何かが伝わる。それに応じるように私もなにかをする。そうして何かを感じる。
 自分で何をしているのかさっぱりわからない。でも私はわからないことを勝手にする。やり方を知らないのに私の体は勝手に、あの子の何かに応じて。なんだろうこれ?この振動は何?
 不思議。周りにいる誰かもあの子が何かをすると一緒に、同じことをする。
 あの子の声に応じるように、世界が振動する。

 ……声。そう、今私達は声を出しているんだ。あの子が私たちに声を掛けて、私たちはあの子に声を返す。
 声を返すとなんだかどこかが、空に浮くようにふわっとした感覚がする。僅かに自分達が、意識が強くなる。嬉しい。これは嬉しいという感情なんだと、理解した。あの子が声を掛けてくれると嬉しい。私達が声を返すとあの子も嬉しいみたい。嬉しいを嬉しいで返す。幸せ。

 傍に行きたい。もっと近くで見たい。もっと嬉しいと感じたい。もっと声を聞きたい。もっと一緒に居たい。もっと嬉しさを感じたい。

 突然意識が少しずつ遠く、薄くなっていく。ぼやけた世界は音を失った。
 あれ?あの子の声が聞こえなくなった。私の声もわからなくなった。どうして?
 さらに意識は薄くなっていく。ぼやけた世界は色を失った。
 あれ?あの子が見えなくなった。どこにいったの?私はここに居るから、寂しくないよ。
 何もかも薄れていく。ぼやけた意識は記憶を失っていく。
 ここは、なに?わたしは、なに?わたしは……?

 また意識が消えていく。
 知ったことも忘れていく。
 思い出したことを忘れて消える。
 見えないはずなのに、あの子がこっちに手を伸ばしていた。それがわかった。
 聞こえないはずなのに、「待って」だとか「いかないで」だとか、意識に突き刺さるような、そんな声を出して。
 そんな声を出さないで。大丈夫だから。
 
 全てを失った世界の中、あの子の声とあの子の姿だけが最後まで残っていた。ぼやけた意識はとうとう存在を失った。








 いつからか漂いだした。また、意識が戻る。

 消えて、戻ってくるたびに何かを思い出す。
 少しずつ、世界が姿を現していく。
 まず世界は色を取り戻した。いつものようにぼやけた、色しかわからない世界が見える。
 次に世界は音を取り戻した。あの子の声が聞こえる。私達は嬉しくなる。

 そう、声を聞くと嬉しい。私は今までのことを思い出した。
 消えてしまう前のことを。あの子の傍に行きたい。あの子を幸せにしてやりたい。
 世界を振動させるこれは、音。
 少しずつ思い出してきた。思い出す度、あの子への想いが、強くなる。私達の意思は、強くなる。

 そうして、気が付いたら世界は形を取り戻していた。

 ぼやけていた世界が、わかる。はっきりと。色の境界が。私の形が。あの子の形が。みんなの形が。以前のような曖昧な世界はもう無い。
 あの子は笑っていた。嬉しそう、幸せそうな顔で。
 私達はこれを見たかったんだ。これを見て嬉しいと思ったんだ。

 大切な、妹達の笑顔を。

 もう絶対に消えたりはしない。この子を置いて居なくなったりはしない。あんな声を二度と聞きたくは無い。この子は私達が守る。それが姉として私達が、孤独だった妹にしてやれる恩返し。
 私達は全て覚えた、全て思い出した。そしてあの子を抱きしめられる、体を手に入れた。

 可愛い妹を、まだ半透明で、ぼやけているこの身で抱きしめた。ずっとしたくてもできなかったことを、今やっとしてやれた。

 妹の目から涙が零れていた。私達も涙を流した。







 それからの私達は妹と共に時を過ごした。
 もう彼女が寂しくなることは無い。私達が消えることは無い。
 以前のような曖昧な、幻影ではなく、私達の意思は、身体はここに在る。妹に触れることができる、抱きしめてあげられる。
 幸せだ。
 涙が零れてしまうほど幸せ。

 妹が泣くのならば、抱きしめてあげる。妹が呼ぶならばそこに駆けつける。妹が歌うなら私達は曲を奏でる。妹のため、私達は居る。笑顔のため、私達は居る。


 彼女は私達の本当の妹ではない。どちらかといえば、私達を作り出してくれた、母のような存在だ。
 しかし彼女は私達を姉と呼び、そして私達も彼女を妹として接した。それが私達も、あの子も望んでいた形だったから。
 妹が幸せならば、私達も幸せ。笑顔を見られるのなら、それでいい。

 妹は、居なくなってしまった家族を取り戻した。
 私達は、家族を手に入れた。

 ずっと一緒だよ。家族で、姉妹でそう誓った。




 時が経つと、妹の姿は変わっていく。徐々に弱っていくのがわかる。
 私達の姿は変わらない。妹だけが変わり、日に日に力を失っていく。
 そんな妹を見ている私達はつらかった。でも、妹の笑顔は変わらなかった。体は弱っても、笑顔だけは優しく、強かった。だからその笑顔を守ろうと、私達も精一杯、彼女と過ごした。

 彼女の体は私達の体とは違う。
 これから妹がどうなってしまうのか、わからなかったけれど、不安で仕方なかった。
 なんで私達は変わらないのに、妹だけ変わってしまうのか。弱ってしまうのか、力を失っていってしまうのか。
 綺麗な歌声は力を失った。それでも私達が曲を奏でると、彼女は擦れた声で、弱った体で、それでも力強く歌った。



 さらに時が経つと妹は立てなくなった。声も出せないくらい弱っていた。それでも姉である私達はどうすることもできなかった。それでも笑っていた。とびきりの笑顔で。
 笑顔を見ても嬉しい思わなかった。今までそんなことは無かったのに。どうして?笑顔を見ると胸が痛くなる。嬉しくない、なんで?妹が笑っていてくれれば私達は幸せだったはずなのに。その笑顔が痛い。なぜ、貴女は歌えなくなってしまったの?なぜ、貴女は弱ってしまったの?なぜ、貴女は変わっていくの?なぜ、貴女は……それでも私達に笑ってくれるの?
 今思えば、妹がどうなるのか、わかっていたのだろう。でも、わかりたくなかったんだ。いつか、近いうちに妹が居なくなってしまうということを。
 妹は姉と別れて一人になった。そして私達が代わりに生まれた。今度は妹と姉が別れを告げる。妹には生きていて欲しい、私達と一緒に居て欲しい。ずっと一緒だよって誓ったはずなのに、それは叶わない願いだと知った。




 ある日、もう動くことも、まともに息することさえもできなくなった妹が、私達に今までの中で最高の笑顔でこう言った。

「姉さん。ありがとう。」

 それは弱々しい、擦れた声ではなく、一緒に歌ったときのような、綺麗な声だった。
 そういって、二度と動くことはなかった。
 糸が切れた人形のように、彼女は力を失った。安らかな、笑顔だった。

 もう、二度と彼女の笑顔は見られない。一緒に歌えない。
 心に、頭に全身に穴が開いたような不気味な感覚。
 ぼんやりとした意識しかなかったあの頃に戻ってしまったかのようにすら思えた。
 
 妹の死を見て、私達はつらいのだと、悲しんでいるのだと、悲しみの感情を知った。

 涙が出た。悲しくても涙は出るのだと、初めて知った。


 もう力は全て失ったのに。動くことは無いのに。妹の笑顔は力を失うことは無かった。

 私達は妹の亡骸を抱き、声を上げて泣いた。

 それでも妹は、私達に笑ってくれていた。












 一見廃墟のようにも見える大きな屋敷。プリズムリバー楽団は普段ここに住んでいる。
 廃墟のように見えるが、音楽好きな幽霊が集まったり、ここに住む姉妹が楽器の練習をしたり、意外と賑やかである。

「メルランー、リリカー。もう少ししたら行くわよ。今日は冥界で宴会あって、演奏の予定も入っているんだからね。早めに行って、準備しないと。」
「はいはーい。わかってるわよルナ姉。」
「『はい』は1回でよろしい。ところでメルランは?」

 上の階を指すリリカ。上の階には自分達の部屋があるが、今は物音一つしない。
 まさかと思い、階段を駆け上がる。そしてメルランの部屋を勢い良く開ける。

「メルラン?いるの?」
「む~……あと5年だけ~……」

 簀巻きのような、布団の塊が返事をした。

「寝てるんじゃなーーーーい!!起きろーーー!!」
「朝から気圧が高いわねルナ姉。メル姉は気圧が低いみたいだけど。」

 騒霊のその名に違わず、朝から騒がしいこの屋敷。

 珍しくテンションが低いメルランと、それを起こすために布団を剥がそうとするルナサ。だが簀巻きのように包まっている布団はそう簡単に取れない。下手をすれば破れてしまうだろう。

「ぐ……くぬぬ……っ!!」
「zzz……」
「おーーーきーーーろーーー!!」

 全力を込めて敷き布団を引くと、簀巻きは高速で回転しつつドアを破る。そこで壁に衝突し、丁度たまたま運悪く偶然にもベストタイミングで歩いてきたリリカが蹴りを入れて方向転換。簀巻きから「ぐ」とも「む」とも聞こえるくぐもった叫びが発せられる。そして階段を駆け下り、声にならない叫びが。段差で跳ね、壁に激突する。衝撃で屋敷全体が揺れた。
 妖怪・簀巻き布団は沈黙し、ピクリとも動かない。


 数分後、なかなか起きないので簀巻きを解くと、中からメルランが生まれた。

「いたた……もう。ルナ姉ったらもうちょっとやさしく起こしてくれてもいいのに。」
「お前が起きないからだ。それも大事な日に。」
「今日って……何かあったかしらねぇ~。ん~。」

 まだ寝ぼけている様子のメルラン。あれだけやって起きないのもなかなかの強者だ。

「メル姉ったら忘れちゃったわけじゃないでしょうね?レイラの命日よ。」
「ああ、そうだったわね~。お線香がないから蚊取り線香でいいかしら~?」
「いいわけあるかっ。いい加減目を覚ませ。」
「とりあえず先に顔洗って、朝ごはん食べなよ。」
「は~い。今日はリリカちゃんが作ったのかしら~?朝ご飯のメニュー何?」
「何かの魚っぽいものの丸焼きと、何か植物っぽいもののお浸しと、パンっぽいキノコよ。」
「……ゲテモノ?」
「嘘だけどね。」

 そうして彼女の前に運ばれてくる料理。
 魚っぽいものの丸焼き、植物っぽいもののお浸し、パンっぽいキノコ、沼っぽい汁物。
 妹の前に並べられた料理に驚愕するルナサ、だが半分寝ているメルランは気付いていない。自分の身に迫る危機に。
 そしていただきます、の声と共に箸が伸びる。そしてそのまま口の中に……


 直後、メルランの口から断末魔のような、壮絶な叫び声が発せられた。
 その叫びは空気を振動させ、壁を振動させ、館を振動させ、近くを飛んでいた春告精が墜落した。

 毎日こんな感じで騒がしい霊たちの騒がしい一日は始まる。
 近所に家が無いのが救いである。





 レイラが息を引き取った後、遺体は三人で手厚く屋敷の裏に、最も景色の良い場所に葬った。
 毎日欠かさず墓の手入れをし、命日には歌を贈るようにしている。

 冥界での宴会の度に、レイラの霊がいないか探してはいるが、未だ見つかっていない。未練を残さず成仏したのだろうか?それとも別の場所にいるのだろうか。
 でも、何処に居ようと、ここで音を奏でればきっと伝わると私達は思っている。なにせ彼女の身体はこの下にあるのだ。この音は、想いはきっと届くだろう。


「ふう。さて、そろそろ出かけるぞ。打ち合わせとかもあるし、昼過ぎあたりには白玉楼に居たい。」
「お昼はー?」
「さっき食べたばかりの奴が何を言うか。向こうについてからにしろ。」

 
 レイラは姉の幻を生み出しただけだった。私達は彼女の姉の姿をしているだろうが、元はただの幻、別の存在だ。しかしその幻である私達は、確かな形と意思を持って存在している。レイラの姉を想う気持ちがそうさせたのか、私達の妹を想う強い意思がそうさせたのか、その両方か。
 彼女の死後も私達は消えず、騒霊として存在している。
 もしも、私達がレイラのように強く想えば、レイラも騒霊として現れるのだろうか。
 また、一緒に居られるのだろうか。

 風が吹いて草花が踊る。墓の周囲に植えた花が、まるでこちらに向かって手を振り、見送っているかのように見えた。



「「「じゃあ、行ってきます。」」」





 ──いつかまた会えるのかな。私達の大切な、最愛の妹。






「「「レイラお母さん。」」」
累計6回目まして生芋こんにゃくです。

あとがきという名の言い訳でございます。
最後の二行を書きたかったんです。
幻想郷のプリズムリバー三姉妹はレイラが生み出した姉の幻影ですから、レイラは彼女達の母親とも考えれるんじゃねとか思って書きました。
なにやらこういう感じの文は、なかなか文章力というか、表現力が必要ですね。終盤はいつものテンションなのでサクっと書けたんですが……。

ご意見・感想・指摘・指導等ありましたら、コメント頂けると嬉しく思います。
この作品をお読みいただき、ありがとうございました。
生芋こんにゃく
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
とっても素敵なお話でした。
2.拡散ポンプ削除
悲しげな雰囲気と楽しげな雰囲気と、メリハリがついていて良かったです。
割と楽観的な、でも妹(母親?)への想いは忘れていない、そんな三姉妹。
考えてみると、確かに不思議な感じですね。生み出した本人が居なくなっても、彼女たちは存在している。
うーん。どーゆーことだろーか。