Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

~幻想少女物語~三度の飯より殺し合い

2010/10/26 20:00:36
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< ~幻想少女物語~三度の飯より殺し合い >

――呑み込みし

――月の影より朧夜の

――黒き髪に想い這せたし




「へたっぴ」

「なんだとぉ!」


冷たい輝夜の言葉に、妹紅は口を尖らせて怒った。

これでも必死に頭をひねらしたのだ。

何度も何度も月を見上げ、杯に写る月を見下げ、一刻ほど考えた末に作った歌。

それを僅か0.1秒で否定されれば、誰だって怒る。

そもそも歌の作り方など忘れたと言ったのに。

それなのに、暇だから歌えと言い出したのは輝夜ではないか。

これが怒らずにいられようか。


「まぁまぁ、そう怒りなさんな。ほれ杯が空ですぞよ? まずは一杯」

「おぉっと、これはかたじけない……ってそうじゃない!」

「おろ?」

「何が"おろ?"だ! なんだその話し方は。ふざけるのもいい加減にしろ!」

「某はもとからこのしゃべりかたでおじゃるよ、にんにん」

「かーぐーやーっ! もうキれたからね。今日こそ絶対に殺す!」

「ふふ、その言葉を……どれほど待ちわびたことか!」


永遠亭の縁側を飛び出し、空高く舞う。

月をめがけてまっすぐに。

満月が見えるまで天高く。

雲海を眼下に敷き詰めて。

さぁ舞台は整った。

ゆっくりと殺し合い(踊り)ましょう。

二人の夜は永遠に続くのだから。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



二人が殺し合う日の朝。

妹紅は永遠亭で目を覚ました。

昨日もそうだし、一昨日の目覚めも永遠亭だった。

そう、彼女はここに住んでいるのである。

宿敵である輝夜の住まう、この家に。


「暑い……」


妹紅が布団を退かすため腕を伸ばそうとすると、ずしりとした重みが右腕を襲った。

重さにして約50kg。

ソレは妹紅の右腕にがっしりとしがみ付いていた。

またか、と溜息混じりに頭を抱える。

妹紅の憂鬱もどこ吹く風なソレは、幸せそうな顔を浮かべ小さく呟いた。


「ん……暖かい」


この瞬間が一番イラつく、と妹紅は思う。

毎日毎日、勝手に布団に潜り込んでは人を枕にする。

さらにいくら剥がそうとしても、がっしりと掴んで離さない。

ましてや甘えた声で、万力の如くしがみついてくるのだ。


「輝夜放せ」

「やだ。寒いもん」

「なにが"寒いもん"だ。気色悪い」

「暖かい~♪」

「私は暑い」


こんな押し問答を、永琳が起こしに来るまで続けなければならない。

元来早起きである妹紅にとって、それは地獄のような苦しみだろう。

なにせ、永琳が起こしにくるのは午前8時。

あと3時間もあるのだから。


自分の腕を斬り落そうか。

血で汚れた布団は、自分で洗わなければならないから却下。

布団に沁みこんだ血が落ちない事は、二日目で学んだ。


輝夜を殺してでも引きはがそうか。

殺し合いは、周りの家具類も吹き飛ばしてしまうから却下。

家を壊したら、ここに住む日数が長くなってしまう事は一日目で学んだ。


結局、輝夜にされるがまま諦めてしまうのが、一番平和で自分の為でもある。

そう気づいたのは三日目である今日なのだから、笑ってしまう。

本当に……


「すーすー」

「輝夜おきろー」


本当にこいつは……


「むに……もこぅ……」

「気安く呼ぶな、ばかぐや」


笑うしかないじゃないか。



3時間後、仲好く眠る二人を永琳が叩き起こしたのは言うまでもない。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



『妹紅。貴女を永遠亭で働かせる事に決定したわ』


そう妹紅が告げられたのは今から三日前。

輝夜との戦いで永遠亭が半壊した日だった。

簡単に言ったら、壊した家の修理をしろ、との事らしい。

もちろん妹紅が素直に受け入れるはずもなく。

ことの提案者、永琳にすぐに食いついた。


「はぁ? 何言ってんのおまえ」

「貴女が壊した家の修理費、しめて(ピーーー)文になるけど、払えるの?」

「そんなに払えるわけないだろう!」

「でも責任はとってもらわないとねぇ」

「んなこと知るか。責任なら輝夜に取らせればいいだろう?」

「姫様なら、ほらそこ」


妹紅が首を向けた先には、キラキラと汗を輝かせながら木を鉋掛けしている輝夜の姿があった。

妹紅の視線に気がついたのか、笑いながら大きくこちらに手を振っている。

ギギギと首を軋ませながら、永琳を再び視野に捉えると、口元だけ笑っている悪魔がそこに居た。


「妹紅、貴方も日曜大工を趣味にしてみる?」

「私は元より大工が趣味ですサー!」

「よろしい。では住み込みでお願いするわ」

「え?」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



トントントン……

リズムよく釘を打ち込む音が、竹林に響く。

ねじり鉢巻き一つ、妹紅はちゃんと働いていた。

その横で輝夜も木を削っている。

ちらりと妹紅が確認すると、どうやら一生懸命やっているようだ。

邪魔をしたら怒るだろうか。

ふと悪戯心が、妹紅をくすぶる。

目隠しをしたらどうなる?

削っている木を燃やしたらどうなる?

この釘を輝夜に打ち込んだらドウナル?

そっと釘を掴み、親指を人差し指で挟む。

このまま弾き飛ばせば、狙い通り輝夜に飛んでいくだろう。

目から入った釘は脳を貫き、輝夜を一瞬のうちに殺すはず。

悲鳴を上げる暇もなく、ビクビクと痙攣し、やがて動かなくなるだろう。

やるか?

妹紅の力で釘が熱せられ、赤く発光し始める。

そして釘を乗せた人差し指がわずかに震え、親指をぐっと……

……ばかばかしい。

そんな事をしても、私の仕事量が増えるだけだ。

第一、その程度で死ねるならとっくの昔に殺っている。


「? 何よ妹紅」


殺気を感じたのか、輝夜は鉋の手を止め妹紅をにらんだ。

あぁ、やっぱりその奇麗な瞳を打ち抜いてやればよかったと思う。

でも妹紅は頬をふくらませ、そっけない言葉で返すだけだった。


「なんでもない」

「ふ~ん。変なの」


輝夜の言葉通り、変かもしれない。

今日何回目かの溜息をつき、妹紅は仕事を再開する。

先ほどよりも心なしか、強く釘を打つ音が大きい気がした。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 




その日の晩は満月だった。

しかし月をはっきりを仰ぎ見ることは叶わないようだ。

空は生憎の曇り空。

といっても雨が降るわけではなく、薄く朧のような膜に覆われているだけだった。

暗い夜のなか、輝夜と妹紅は永遠亭の縁側でお酒を飲んでいる。

切り出した竹に波々と入っていた日本酒が半分になるくらいには、長い時間を過ごしているようだ。

だが会話が盛り上がっている様子ではない。

むしろコオロギやスズムシの鳴き声のほうが煩いくらいだった。

かといって、話をしていないわけではない。

今も杯を傾け、ぽそりと妹紅が呟いた。


「すっかり秋だな」


妹紅が言うと、輝夜が返す。


「お腹すいたわ」


杯をに写る雲を食べるかのように、お酒を飲み干しながら。


「さっき食べたばかりだろう」


言葉を投げ返すまでたっぷり一分。

ゆっくり流れる時の中、二人だけで語りあう。


「にょろーん」

「なんだそれ」

「なんだろう。言ってみたくなったのよ」

「そんな頭で大丈夫か?」

「一番いい脳を頼むわ」

「永琳にでも頼んで、お淑やかな人間の脳と入れ替えてもらえ」

「そんな事言ったら本当にするからやめて」


ふと脳裏に、ドリルと円盤カッターを構えたマッドサイエンティストが浮かび、二人して小さく笑った。

そのとき永琳がくしゃみをしたかどうかは定かではない。

笑い声が止み、お互いの杯にお酒をつぐ。

波打つ空をじっと見下げながら輝夜から話しかけた。


「もうすぐ、修理終わるわね」

「がんばったからな」


自慢げに言う妹紅を、横眼で見る。

明日もがんばるぞー、と元気な妹紅に対し、輝夜の目はどことなく憂いを帯びていた。


「がんばらなくてもよかったのに」

「うん? よく聞き取れなかった。なんだって?」

「妹紅がいないほうが早く終わったって言ったのよ」

「なんだとーっ!」


小さく口に出てしまった言葉に、輝夜は慌てて補正する。

また出てしまわないように、お酒で言葉を流しこみ、封印する。

それからは暫くの間、静寂が続いた。

まだ月が顔を出す様子はない。

聞こえてくるのは虫の歌と、イナバ達の騒ぐ声だけ。

妹紅はただ足をぷらぷらさせ、つま先を見ている。

話出しそうな雰囲気は無い。

だから、という訳ではないが、なんとなく。

そう、ただなんとなく、輝夜が呟いた。


「暇ね」


その言葉は独り言だったのかもしれない。

でも妹紅の耳に入ってしまった。

足を止め、妹紅はその言葉を拾い言葉を返す。


「なら寝るか?」


独り言は会話となった。


「大胆ね。でもそういう気分じゃないわ」

「なっ! わ、私だってそういう気分じゃない!」

「ふぅん。じゃぁそういう気分になったら、私と寝たいのね?」

「馬鹿も休み休み言え。誰が輝夜なんかと」

「残念。私は構わないのに」

「な、ななななな」


妹紅の顔が真っ赤なのはお酒のせいではないだろう。

人間の何倍も生きているくせに、妹紅は純粋で可愛い。

輝夜は時々こうやって遊び、そして殺し合ってきた。

だから今回もきっと暇つぶしができるはずだ。

そうなるはずだった。


「暇なら輝夜、お前が何かしたらいいじゃないか」

「え?」

「……なんだよ」

「ううん。なんでもない」


いつもと違う返答に戸惑う。

なんだか、雰囲気が違う。

いつもならもう殺し合っている。

何せ妹紅曰く


「輝夜が三度の飯を食べている間に、私は輝夜を3回殺す」


と言われたことがあるくらいなのだから。

まぁ大人しいならそれでもいい。

きっと"そういう気分"じゃないのだろう。

そう完結すると、輝夜は暇をつぶす方法を考えることにした。


「何か。何かねぇ……」

「お前、一人の時は何してるんだよ」

「私? そうね……イナバの服を修繕したり、歌を詠んだりかしら」

「ふぅん。意外だな」

「悪かったわね」

「いいんじゃないか? 輝夜の意外な一面が見れてちょっと楽しいし」

「っ!」


今度は輝夜が赤くなる番だった。

人間の何倍も生きているくせに、輝夜も純粋で可愛い。

妹紅は時々こうやって仕返し、そして殺し合ってきた。

でも今回はそうはならないだろう。

なぜだか、そんな気がした。

そしてその読みは当たっていた。

輝夜は弾幕ではなく、妹紅に向けて言霊を放ったのだから。


「そうよ。妹紅も歌を詠みなさい」

「はい?」

「いいじゃない。少しくらいは心得あるんでしょう?」

「そんなの遥か昔の話だ。もう忘れたよ」


もう記憶の彼方に忘れ去られた事。

それはまだ父親が居た頃の話だ。

基本の型すら、忘れてしまっている。


「笑わないからさ。いいじゃない?」

「絶対に嫌。そんなの永琳にやらせろよ」

「あー……永琳はねぇ。うん、だめよ」

「どうして?」

「はぁ……じゃぁ教えてあげる。最近の永琳が歌った内容はね」


――右心房

――動いているから 生きている

――左心房とは どう違うかな



「……ごめん」

「妹紅は悪くないわ。ただちょっと好奇心が過ぎただけよ」

「うん。私、作るよ。せめてものお詫びに」

「期待しているわ」


それからはブツブツ呟く妹紅の姿を見て、輝夜は大いに楽しんだ。

眉間に皺をよせ、空を見たりお酒を見たり。

課と思えば虫の音色に耳を傾けたり。

ころころと変わる妹紅の表情を見るなんて始めてかもしれない。

輝夜はじっと、妹紅の顔を見続けた。


「できた!」


一段と輝く瞳はまるで、見た目そのままの童子のように生き生きとしていた。

その瞳につられ、輝夜も楽しいと心から思う。

それがちょっと不満だった。

ちがう。不満じゃなくて、悔しかった。

妹紅に揺さぶられる、自分の心が。

だからこれはちょっとした仕返し。

てゐみたいにうまくはない、童子の悪戯。


「そう。では御読みなさい」

「笑うなよ?」

「さあ? 生きているから辛いんだ、なんて言い出さなければ大丈夫よ」

「……もう一度考え直す」

「えぇええ!?」

「冗談だ。そこまで私は永琳レベルじゃない」

「そ、そう……なんだか不安になってきたわ」

「ふん。聞いて驚くなよ私の実力に」

「はいはい。分かったから早く御読みなさい」


悪戯できないじゃない。と危く言いかけた言葉を飲み込む。

そんな輝夜のもくろみなんて知らない妹紅は、

ふふん、と鼻を鳴らし優しく歌を詠んだ。



――呑み込みし

――月の影より朧夜の

――黒き髪に想い這せたし




「へたっぴ」

「なんだとぉ!」


最初からこう言おうと思っていた。

だからこの悪戯は成功。

でも……輝夜は言ってから気がついた。

歌の内容に。

悪戯なんてしなければよかった。

素直になれたらどんなに素敵だっただろう。

でも無理だ。

素直になんてなれない。

だって今この瞬間、ごまかそうと必死なのだから。


「まぁまぁ、そう怒りなさんな。ほれ杯が空ですぞよ? まずは一杯」

「おぉっと、これはかたじけない……ってそうじゃない!」

「おろ?」

「何が"おろ?"だ! なんだその話し方は。ふざけるのもいい加減にしろ!」


へたくそなごまかし方だ。

耳が熱い。顔が熱い。ちょっとお酒を飲みすぎたようだ。

でも、あぁ……求めてしまっている。この空気を。

ずっと味わっていなかった、この雰囲気を。

体は求めてしまってるのだ。

だから輝夜は最後まで、ごまかし通す。


「某はもとからこのしゃべりかたでおじゃるよ、にんにん」

「かーぐーやーっ! もうキれたからね。今日こそ絶対に殺す!」


ゾクッ……

背骨が凍りつくこの瞬間を、輝夜は待っていた。

"そういう気分"になってしまったら、止まらない。


「ふふ、その言葉を……どれほど待ちわびたことか!」


永遠亭の縁側を飛び出し、空高く舞う。

月をめがけてまっすぐに。

満月が見えるまで天高く。

雲海を眼下に敷き詰めて。

さぁ舞台は整った。

ゆっくりと殺し合い(踊り)ましょう!

私の歌に乗せて。


――昂然の

――雲の如く 白髪の

――たなびく姿に 想ひ積りし 





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 





月が満ちる夜、輝夜と妹紅はいつも殺し合っていた。

殺し合いの時間だけが、生きていると実感できるから。

だから今日も殺し合う。

命を燃やしつくす、熱い心を胸に秘めて。

さて、今日はどう殺してやろうか。

永遠亭の風呂場に激突させる?

それとも輝夜の部屋がいいか。

なんにしても、永琳の部屋と"私の部屋"だけは外さないとなっ!


「いくぞ輝夜。インペリシャブルシューティング!」
「いとをかし」

三作目でそろそろ気が付いてきた人がいると思うこじろーです。
もうすぐ100作かーそーなのかー

2010/10/26 23:07 誤字修正。情報感謝!
こじろー
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
>そう妹紅に告げられたのは

永琳?
2.奇声を発する程度の能力削除
こういう関係が一番良いなぁ
3.名前が無い程度の能力削除
てるもこいいよてるもこ!

仕事中にニヤニヤでした。

誤字>>今度は輝夜が赤くなる版だった。

修正>>今度は輝夜が赤くなる番だった。
4.名も無き脇役削除
よきてるもこ有り難う

>>もうすぐ100作かーそーなのかー
凄い速さですなwその内投稿数追い抜かれるかもw
5.名前が無い程度の能力削除
読みながら俳句考えてた
6.こじろー削除
>1しゃま
をはがに~を間違えて使ってしまったようです。
すいません。

>奇声しゃま
永「仲良きこと その姿みて 脈を打つ 妬ましくない 妬ましくないもん(字余り)」
て「字余りというレベルじゃない! でも、あの二人の関係は憧れるよね」

>3しゃま
誤字情報感謝です!
し ご と しなさいww

>脇役しゃま
追い抜ける気がしませんよ!?
むしろ数よりも脇役さんみたいに良いSSを提供できるようになりたいんですけおーけおー!

>5しゃま
俳句考える時間って、素敵だと思うんだ。
心が落ち着くというか、考えているうちにねむkzzz