Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

うしろゆびさされ組!!

2010/10/24 06:05:36
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随分と過ごしやすくなったものだと里の往来を歩きながら咲夜は思う。
先の紅霧異変によって紅魔館の存在が幻想郷に広く知られた直後というもの、
買出し等で里に訪れる度に人々から畏怖の目で見られることは珍しくはなかった。
今更不快に感じることではないけどね、とその頃の咲夜は特に気に留めはしなかったが、
その様な場で必要以上に神経を研ぎ澄ましてしまうのは昔からの癖であり多少気疲れはしてしまうものであった。

しかし、その紅霧異変もあの巫女によって解決され、その後も多くの妖怪達が異変を起こし続けたことが
人々が向ける紅魔館への意識を様々な方へと分散する結果となった。
「あの暢気な門番のお蔭でもあるのかもね、多少」と、快活な豆腐屋の主人を遠めに見ながらひとりごちた。



あらかたの買い物を済ませた咲夜は、最後に小悪魔から頼まれたコーヒー豆を買いにお茶屋へと向かった。
そして目的の建物が出来る所まで来たとき、咲夜は珍しい物を見つけた。

「あれは…、まぁもしかしなくてもアイツよね」

巫女装束とは名ばかりの紅色が大部分を占めた、異変が起きれば即成敗で有名な幻想郷の守護者、
博麗霊夢はその大きなリボンをゆらゆらと揺らせながら、店先でうんうんと唸っていた。
神社に行けば必ずと言っていいほど会うことの出来る彼女を人里で見かけることは
今まで無かった咲夜だったので、ちょっと新鮮な気分を感じてしまった。

「御機嫌よう、神の狗」
「あらこんにちわ、悪魔の犬」

随分な挨拶に随分な返事をした霊夢は、咲夜に向けた顔をさっきまで見つめ続けていた物へと再び戻した。
普段から脳が天気のような顔をした巫女が、いつになく真剣な表情していることを不思議と感じた咲夜は
今も唸りを上げている霊夢の隣で同じように身を屈め、何を見つめているのかを確かめてみた。


『 特売品 』


店先に置かれた棚に付いた張り紙に大きく赤い字で描かれた三文字、そして並べられている色とりどりの茶葉缶。
なるほど、この巫女らしい悩みの種である。

「気持ちは分からないでもないけど、ちょっと大げさに考えすぎじゃないかしら?」
「…今日のおやつはお煎餅なのよ」
「へぇ、…それで?」
「この中でどいつがお煎餅と相性がいいのか、考え出したら止まらなくなったのよ」
「はぁ、そんなの貴女お得意の勘でパパッと決めてしまえばいいじゃない」
「駄目よそんなの!これはそんな簡単に決めてしまっていい問題じゃないわ!」

普段の異変解決はもっぱら勘で動いているくせに、どうでもいい所でこれである。

「あっそう…、まぁ気の済むまで悩んでいなさいな」
そう言って咲夜は眉間に皺を寄せた彼女を尻目に店の中へと入っていった。



小悪魔から特に細かい要望を出されなかった咲夜は、店内に陳列されているコーヒー豆を前に
先ほどの巫女同様にむむむと唸っていた。

(こっちも意外と種類が豊富なのね…)

目の前に並べられているコーヒー豆のラベルを見比べていた咲夜は
ふと思い出したように店の入り口の方へと目を向けた。
店の中から見える位置で、霊夢が未だ同じ場所、同じ体勢で茶葉缶達とにらめっこを続けていた。
そんな霊夢を見て咲夜は、また紅霧異変のことを思い返した。



「さぁ、会わせてくれるかしら」

自分の力には絶対の自信を持っていた、誰にも止められることの出来ないモノを支配出来るこの力を。
しかし、生まれて今まで自分を止められる人間に出会ったことの無い咲夜は、
目の前で、傷一つ負うことなく余裕の表情で立っている彼女を見た時、ある感情に包まれていた。

(恐怖?まぁ少しぐらいは感じてたかも。尊敬?んな訳無いじゃない。そう、あれは…)

安堵。咲夜は自分を打ち負かした霊夢に対して安心感を感じていたのだ。
妖怪が跋扈するこの幻想郷で、強大な力を持ちながらも尚人間として在り続けている彼女の存在により
自分自身もまた一人の人間なのだということを、咲夜は改めて思い知らされたのであった。

「自分よりも幼い子に安心感を覚えさせられるってのも、変な話だけどね」

苦笑しつつもそんな事を愚痴りながら、咲夜はまたコーヒー選びを再開しようとしたその時だった。


「……ほら、見てよ。あそこに居る娘ってもしかして…」
「……え?…あ、あれのことね?私久しぶりに見たわ…」


咲夜が店内に入るよりも先に居た客であろう二人の女性が、何らやコソコソとしながら話をしていた。
何故だか少し気になり、二人が向けている視線の先を辿ってみると、
そこには自分が先ほどまで見つめていた、あの霊夢しか居なかった。

「噂じゃあそこの神社はとっくに妖怪達に乗っ取られてるって聞いたけど…」

 ああ、そういえば博麗神社に対する人里の評判はあまり良いものではないと聞いたことがあったけど
 どうやら本当だったみたいね。

「うん、現にあの神社で沢山の妖怪が酒盛りしてるのを見たことがあるって人が居たみたいよ」

 壁に耳有り、障子に目有りってことかしら。普段から仕事を怠ってるから言われちゃうのよ、全く。

「しかもさ、あの巫女もその化け物達に混ざって宴会を楽しんでるっていうじゃない。
 博麗の巫女は妖怪退治が仕事じゃなかったのかしら」
「ほんと変な話よねぇ。…あ、分かった!多分だけど…」

 でもまあアイツの事だもの、そんじょそこらの噂話を気にするような玉じゃ





「もしかしたら、あの巫女も化け物なんじゃないかしら?」






咲夜の動きが止まる。その目は既に自分の前に並べられている商品に焦点を合わせてはいない。
頭の中で今聞こえてきた言葉を確かめる。「今 あいつは 何て言ったのか」と。

「やっぱり!?いやぁ、私も実はそうなんじゃないかなって思ってたのよ」
「でしょ?それにさ、あんな小さい子が化け物相手に普通に戦ってるっていうじゃない」


 何故、人間は自分達と違う者のことを、そんなにまで否定したがるの?


「確かに。普通に考えてみたら凄い怖いことよね、それって」


 違う。自ら望んで力を持って生まれてきたわけではないのに


「最近じゃ里の中でも普通に妖怪が出歩いてるわよね。
 もしかしたら、その内ここもたくさんの妖怪に乗っ取られたりなんかして…」
「やだ~、ちょっと変なこと言わないでよ!」


 なんで誰も理解してくれないの?受け入れてくれないの?
 そんな酷い人たちなんていっそのこと―――


意識をあの二人に集中させる。この距離なら確実に捉えられる。ナイフを隠していた場所を確認する。
大丈夫、普段から手入れしてるのだから、ヒト二人ぐらい切り刻むごとぐらい訳もない。
静かに、自然に、ナイフへと手を伸ばす。





   「 ねえ、 咲夜 」




名前を呼ばれた咲夜はハッと我に返った。振り返るとすぐ隣で、霊夢が咲夜の顔を不思議そうに見上げていた。

「なにをぼ~っと突っ立ってんのよ?」
「え、あ、いや…。ちょっと…考え事を…」

突然隣に現われたものだから焦った咲夜はしどろもどろになりながらも冷静さを取り戻そうと必死になった。

「とっ、ところで霊夢。お茶選びの方はもう済んだのかしら?」
「うん?あぁ、アレね。まぁ色々と考えたてみたんだけど
 途中で面倒臭くなったから買うの止めちゃった」
「はぁ?何よそれ…」
「まぁいいじゃない、適当で。
 それでね、咲夜が居るのを思い出して閃いたのよ」
「閃いたって、何を?」
「たまには紅茶を淹れるのも良いんじゃないかな、ってね」




=====================================



昼下がりの縁側で霊夢は紅茶を啜りながら顔を綻ばせていた。

「はぁ、やっぱりアンタの淹れた紅茶は妙に美味しくて良いわ」
「『妙に』は余計だと思うんだけど」

そんな霊夢の隣で咲夜は自分で淹れた紅茶の入ったカップを持ちながら苦笑していた。
結局あの後、霊夢に「アンタなら紅茶のことは詳しいんだから、良い奴選んでよ」と頼まれ
ついでに紅茶の淹れ方も知りたいからウチに来てくれと強制的に神社に来るハメになってしまった。
紅茶を選んでいる途中に気付いたのだが、何時の間にかあの二人の女性は店から出て行ったようだ。

「でもやっぱり煎餅に紅茶は合わないわ…」
「そんな当たり前のことで落ち込んでどうするのよ。今度はクッキーの作り方でも教えようかしら?」
「面倒だからパス。それだったらアンタが作って持ってきてよ。
 前に紅魔館で食べたクッキー、凄い美味しかったもの」
「全く、ほんと調子の良い巫女ですわね」

ヤレヤレと肩をすくめる咲夜を見て、霊夢はけたけたと笑っていた。
そんな霊夢を横目に見ながら、咲夜は里での事を思い返していた。

何故、取り返しのつかないような事をしようと考えてしまったのか
何故、今になってあの頃の感情に心を埋め尽くされてしまったのか
あの冷たい視線は自分に向けられたのではなく、霊夢に向けられたものであったのに


いまひとつ自分が納得の出来る答えを出せない事に、咲夜は歯痒い思いをしていた。

「ねえ、咲夜」

不意に、あの時と同じように霊夢が声を掛けて来た。
咲夜は「何よ?」と少し不機嫌そうに声のする方へと顔を向けた。
そこには、何時に無く真剣そうな表情をした霊夢が居た。


「なんで、怒っていたの?」


咲夜は驚いた。決して表情には出さず、誰にも気付かれることのないように自分の中の黒い感情を
あの二人に向けていた筈であった。それは昔、自分が生きてきた世界で日常的に、ごく当たり前のように
繰り返してきたことだったからだ。

「…何でそう思ったのかしら?」
「アンタに声を掛ける時に思ったのよ。なんだか今まで見たこと無い表情してるな~って。
 それでまぁ、なんとなくだけど怒ってる様な感じに見えたから」

本当に良い勘をしている。咲夜はそう思いながらも少し困っていた。
恐らく適当に誤魔化そうとしても、今の霊夢はすぐにでもそれを嘘と見抜いてしまいそうであったからだ。
咲夜は少し考えてから、今も自分を見据え続けている霊夢に話をし始めた。

「昔のことを、思い出していたのよ」
「昔?それってアンタが子供の頃のこと?」
「ええ、そうね。まだ私が貴女位の歳だった頃よ」
「ふーん…って、アンタ今地味に私のこと子供扱いしたでしょ!?」

幻想郷に来て以来、咲夜は自分の過去に関しては一切誰にも喋る事は無かった。
それは決して自慢できるような事でもなく、同情して欲しいことでもない。
そして自分の記憶から消してしまいたいと願い続けてきたものだったからだ。

「初めて自分の力に気が付いた時は、これは神様がくれた特別なもので
 人の役に立つために使うものだと思ったのよ。そうすれば、皆が私を褒めてくれると思ってたから」

自分の心の奥底に閉じ込めていた記憶が、自然と言葉として紡がれていく。
誰にも知られたくなかったことなに、目の前にいる少女にだけは知ってもらいたいと
何故だか強く願っている自分が居た。

「でも、そんな子供の純粋な願いを、その世界が許してくれることはなかったわ。
 人々の理解の範疇を超えた私の力は、すぐに忌むべきものへと変わっていった」

霊夢は相づちを打つようなこともせず、ただ咲夜の顔を見つめながら
目の前の相手が発する言葉をしっかりと受け止めていた。

「私の力のことが人から人へと伝わるごとに、色々な噂も出始めるようになった。
 『あの子は呪われている』『あの力は人を陥れる為に使われるに違いない』
 『 あいつはバケモノだ 』。こんな具合にね」

手に持っていたカップに入った紅茶を啜る。少しだけ温くなっていた。
そして一息ついた咲夜は「久々に思い出しちゃったのよ」と付け加えておいた。
話が終わったと思った霊夢は視線を空へと向け、少しの間だけ考えごとをする仕草してから
咲夜の方に向き直った。

「私は便利で良いと思うけどね、咲夜の力って」
「…………へ?」

つい素っ頓狂な声を出してしまった。だが、面を食らったのも無理はない。

「ねぇ貴女、私の話をちゃんと聴いてくれてなかったの?」
「だってそうじゃない。どんなに神社の掃除が大変でも時間さえ止めちゃえば一瞬で終わらせて
 余った時間でのんびりとお茶が飲めるわ。あ、あと突然に雨が降ってきても外で干してる洗濯物を
 殆ど濡らさないですぐに取り込めたり出来るじゃない。うん、そう考えたらかなり羨ましくなってきたわ」

確かに霊夢らしい考えではあるとは思ったが、先ほどの話を聴いて何故そのような結論に至ったのか
咲夜にはイマイチ理解することが出来なかった。
言葉で説明しても一向に埒が明きそうにないと判断した咲夜は、もう少し単純な方法を取ることにした。

「まぁ確かに貴女の言う通り日常生活の中で役立てられることも結構あるわ。
 でもね、私のこの力はもっと実用的に使うものなのよ」
「実用的?」
「ええ、例えば」

次の瞬間、霊夢の目の前から咲夜の姿は消えうせてしまっていた。
その代わり、新たに感じる背後からの気配。

「こんな風にね…」

そして、細い首に添えられた一本のナイフ。
後ろから抱きしめた形で霊夢の自由を奪った咲夜は、出来る限り感情を殺し霊夢の耳元で囁いた。

「どお?自分が知らない間に命を握られてしまっている気分は。
 恐怖で声を上げる暇すらないでしょ?」

身動き一つせず、声も発しない霊夢をよそに咲夜は語り続ける。

「私の力の事を知った誰もが、同じような恐怖を抱いていたわ。
 そりゃそうよね。数えられないほどの罵声を浴びせた挙句、頑なに私の存在を否定し続けたんですもの。
 いつか復讐されるんじゃないかって気が気でいられなくなるのも無理は無いわよね」

元々忍ばせていた所にナイフをしまい、そう言って咲夜は自嘲気味に笑った。
何故今更になってこんな事を話しているのか。
必死に忘れようとして忌々しい記憶を、何故霊夢だけに打ち明けているのか。
自分でも分からないでいるからだった。

「…それでも」

不意に霊夢が口を開く。みじろぐこともせず、そして一切の淀みも無い口調で。


「咲夜がそんな風に力を使うようなことは、絶対にない。そうでしょ?」


嘘偽りを感じさせない霊夢の言葉が、咲夜の心の中に流れ込んでくる。
それと同時に、遠い過去に置いてきた筈の感情が徐々に湧き上がってくるのを感じずにはいられなかった。
もう少しで、あと一歩で、咲夜は自分が囚われている疑問の正体が攫めそうな気がした。

「どうして…」
「うん?」

 霊夢の気持ちを知りたい。霊夢の言葉がもっと欲しい。

「どうして、そう思うの?」
「どうしてって…そりゃあ、まぁ」

 何故こんなにも…

「アンタらしくないじゃない、そんな無粋な事するのってさ」

 気持ちが安らぐのだろう…

「それじゃあさ、霊夢が思うわたしらしさってどんな所か、教えてくれない?」
「咲夜らしさってこと?う~んとねぇ…
 まず第一に、料理が上手ってとこ」

 酷く単純で幼稚な言葉だけれど

「それと、妙に大人ぶってる」

 真っ直ぐと、私のことを見てくれている

「たまに本気なんだか冗談なんだか分かんない時もあるわね」

 不思議とそんな風に思わせてくれる


「あとは、意外に優しい…かな?」


咲夜はやっと気付くことが出来た。
今、自分の目の前に居る少女こそが、遠い昔、自分が求め続けていた世界そのものだという事を。
全てを受け入れてくれる、自分の在るがままを認めてくれる世界を昔の自分は欲していたのだ。
そして、その願いは今も心の奥底で決して消えることなく在り続けていた。

「ねえ、咲夜。いい加減離してくれない?流石に窮屈になってきたんだけど…」
「え?あ!?ご、ごめんなさい…」
「全くもう。でもまぁ、正直いきなり隣から消えて後ろに現われたのはビックリした…って
 ちょ、ちょっとアンタ!?」

咲夜の拘束から開放された霊夢は、後ろに居た彼女の顔を見るなり驚愕して言った。

「な、なんで泣いてるのよ…?」
「え…っ!?」

言われて咲夜は初めて気付いた。自分の頬に涙が伝っているのを。

「あっ、いや…これは、違…」

慌てて手の甲で涙を拭うが、思い通りに止まってくれない。
そんな慌てふためく咲夜を見て霊夢はクスッと笑い、「まったくもう…」と嘆きながら
そっと手を伸ばした。

「今の咲夜ってば、まるで子供みたいね」

迷子になって泣きじゃくる子供を宥めるかのように優しく咲夜を撫でる。
霊夢の手の温もりを感じると同時に、遠い昔に同じことを、何度も母にねだっては
今と同じように優しく頭を撫でてもらっていた事を思い出してしまった咲夜は
心の奥底から湧き上がってくる感情を抑えられずにいた。

とても寂しかった。すごく怖かった。
皆から認められたかった。皆から優しくしてもらいたかった。

今目の前にある世界は、そんな願いを全て受け入れてくれる。
そうすれば、幼かった頃の自分がやっと救われる。
咲夜はそう感じずにはいられなかった。
全てを曝け出したい。彼女の手を取り、共に歩んでいきたい。
同じ人として同じ時間を居られると思った。

俯いたままの咲夜が、ゆっくりと霊夢に手を伸ばす。そして




  ペチン!

「あ痛ッ!!~って、イキナリ何すんのよ!?」

額を手で押さえながら涙目の霊夢が吼える。
咲夜のデコピンが霊夢の正中線・印堂に綺麗にヒットした音であった。

「全く…、いつまで馴れ馴れしく人の頭を撫で回してくれてんのかしら?」

そこには、先ほどまでとは様子が打って変わった、いつも通りの瀟洒な出で立ちをした咲夜がいた。

「何よぅ!なんか急に泣き出してたから、しょうがなく慰めてやってたんじゃない!」
「泣いてたって…誰が?いつ?何処でよ?」
「アンタが!さっき!私の目の前でよ!」
「いいえ、アレは泣いてた訳じゃないわ。
 アレはあくびをした拍子に出た涙よ」
「アンタってあくびする度にあんな盛大に涙流してんの!?」

神社の縁側が途端に騒がしくなる。先ほどまでの穏やかな雰囲気とは懸け離れた空気の中で
霊夢と咲夜はお互いに睨みをきかして言い争う。

「どうせ時を止めてる間に一生懸命涙を拭いてたんでしょ!
 完全で瀟洒なメイドがしょうもない嘘吐いてんじゃないわよ!」
「あらあら証拠も無いのに嘘吐き呼ばわりは止めていただけません?」
「む~っ!アンタねぇ、いい加減にしないと…っ!?」

握りこぶしを掲げてにじり寄る霊夢の目前に咲夜が手を突き出して止める。

「そうね。いい加減にしてくれないと流石にこの私も」

そして、その手に携えていたのは、一枚のカード。

「貴女に大人の厳しさってのを、教えてあげなきゃならないわね」

手に持ったカードと不適に笑う咲夜の顔を交互に見つめた霊夢は
それがどんな意思を持ったものなのか直ぐに理解した。

「へぇ、アンタの方から吹っ掛けてくるなんて珍しいわね…。
 上等じゃない。その喧嘩、買ってあげるわ!」

そう言って霊夢は縁側に揃えて置いてあった靴をいそいそと履き
大地を蹴って空へと舞い上がった。

「後で吠え面かいたって知らないんだからね!」

咲夜の方に向き直り、空に浮きながら仁王立ちを決めた霊夢が挑発する。
そして咲夜もその跡を追うように、静かに地面を蹴って空を舞う。


そう、今はこれでいい。
彼女なら全てを受け入れてくれる。これは自分の中での揺ぎ無い真実であることは変わらない。
だが、彼女は博麗の巫女なのである。自由に空を舞い、その自由が何者にだって縛られる事は無い。
そんな存在に、自分という枷を縛り付けてしまうことは、自分自身でも絶対に許せることではないと思った。
だから、今はただ自分が求めていたものが此処にあったという事実を得られただけでも良しとしておこうと
咲夜は思い直したのであった。

「それに…」

自信に満ちた霊夢の顔を見上げながら、空を駆け上る咲夜は誰に聞こえることもないように嘆いた。

「年下に甘えちゃうなんて、凄い恥ずかしいじゃない」
こどもあいてにむきになってもいいじゃない
にんげんですもの

         さくや
motu
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
二人ともかわいかったですww
2.名前が無い程度の能力削除
やべぇめっちゃ嬉しい
ずーっと、二人のこういう話を読みたいと思ってたから
咲霊はほんといいものだ
3.伏狗削除
とても良い咲霊。
やはり咲夜さんを受け止めるでなく、受け入れて甘えさせてくれるのは霊夢さんしか居ないと再確認。
御馳走様でした。
4.奇声を発する程度の能力削除
何とも素晴らしい咲霊!!
5.名前が無い程度の能力削除
シチュは堪らないし心理的変化の描写もいい線いってたんだけど
視点がぶれていたのが残念……(´・ω・`)
人称の使い分けはしっかり。