Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

威厳、それ即ち

2010/07/31 14:36:55
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「最近、星には威厳が足りないと思う」
「んまっ!」





鬱陶しい梅雨もあけ、からりとした暑さが夕刻まで続く今日この頃。
いつものように各々日課をこなした後
夕食後のけだるい時間に、のそっと船長が呟いた。

「船長、それはどういった意味かな?」
「いや、別にたいした意味はないんだけど」

改めて聞き返されるとは思ってなかったのか、すまなそうに頬をかくと

「なんというか、聖が帰ってきてから覇気がなくなったというか」
「むぅ…」

眉をひそめてうなるご主人様に、そっとため息をつく私。

船長の言うこともわからないではない。
聖の復活した今の時代、妖怪と人間の関係は驚くほどに変わっていた。
妖怪が人を襲い、人が妖怪を恐れるという図式自体は変わっていないが
これは幻想郷を維持するという目的が主であり、実際には形だけ行われている部分も多くなった。
中には妖怪が人間相手に商売をし、人間が妖怪相手に主従関係を結ぶという者さえ現れた。
要するに、妖怪である事を隠し続けるといった必要性が薄れ、緊迫感が弱まったのだ。
それが普段の姿勢にも表れているということなのだろう。

「やはり…問題なのでしょうか」
「どうだろうねぇ。仮にも毘沙門天の遣いであるわけだし、もう少しきりっとしてないと」
「きりっ!」
「変わってないし」
「あうぅ…」

即座に一蹴されて凹むご主人様。

「ナズーリン…あなたもそう思いますか?」
「んん?」

話を振られた私は、少し明後日の方向を見ながら

「まぁ…いいんじゃないかな。ご主人様らしくて」
「ほんとですか!」
「いや、それ認めてないでしょ」
「ううう…やはりもっと気を引き締めなければならないのでしょうか」

ますます凹むご主人様に苦笑する船長と私。
まぁ、今の状態は決して恥ずべきようなものではないと思う。
世相が変わり、人と妖怪の関係も変わった。
気を張り続けなければならなくなった時代は終わったのだ。
今までのご主人様の働きぶりを見れば、今の様子で十分だと思うのだが。

「じゃ、私は失礼するよ。気に障ってたらごめんね」
「おやすみなさい…」

手をひらひらと振って部屋を出る船長に、消え入りそうな声で返事をするご主人様。
やはり、妖怪の中でも慕われていたという自負があるからか
改めて今の状態を指摘されたことが、それなりにショックだったのだろう。

「ほら、私たちも部屋に戻るよ」
「はい…」

未だ落ち込んでいるご主人様をなんとか立たせ、部屋まで送ってから自分も部屋に戻る。
最後まで立ち直れない様子であったご主人様だったが
とりあえず去り際に耳をはむはむしておいたら、真っ赤になって身悶えていたのでよしとしよう。










命蓮寺の朝は早い。
日が顔を出す直前、欠伸をかみ殺しながら、とぽとぽと廊下を歩く私。
廊下の冷たさを足裏に感じながら、眠い眼をこすりつつご主人様の部屋を目指す。

「ふああぁ…」

かみ殺していたつもりがつい出てしまった。
頬を軽くたたいて眼を覚まし、襖に手をかけたところでふと手を止める。

「うん?」

いつもは私が呼びに行くまで静かな寝息をたてているのに、今日は隙間から明かりが漏れている。
はて、今日は早起きする用事でもあっただろうか?
少し気になって隙間から覗いてみると、すっかり着替えたご主人様が姿見の前に立っていた。

「んむむむ…」

またも眉間にしわを寄せて、なにやら唸りながら百面相をしている。

「…で、あるからして、これからは妖怪を頑なに拒むのを止め、一つの社会として…」

ふむ、説法の内容を練っていたのか。
しかし、毘沙門天の遣いがそんな内容を話してもよいのだろうか。
少し意見しようと手を伸ばし、襖を開けようとしたところ、

「い、以上で本日は終わりとします」

教えを書いた教本を傍に置き、咳払いをして、やおら手をあげ











「が、がおー」

ぶしゅううっ!!






「……すまない、スプートニク」
「なに、これくらい朝飯前でさぁ」

私が噴出した鼻血を一身に受けたかわいい子鼠は
無駄にニヒルな笑みを残し去っていった。

あぶないあぶない、もう少しで襖の富士が赤富士になってしまうところだった。
しかし、なんだ今のポーズは。
まさか、威厳が足りないといわれたことを気にしてやっているのだろうか。
あれでは信仰は加速的に集まっても、威厳は加速的に減っていくだろうに。
あんなものを人前でやられた日には・・・なにそれかわいい。

いやいや、あんな姿を人前に出すわけにはいかない。
恥ずかしさとかの以前に、私の独占欲的な意味で。

「失礼します」
「ひゃぁぃ!?」

びくぅっと身体を震わせて振り向くご主人様に、また鼻の血管が切れそうになるのを必死にこらえ

「ご主人様、そろそろ朝餉の時間だが」
「あ、ああ、はい。すみません。そろそろ行きます」

息を荒げながら、いそいそと教本をしまうご主人様。
その後、ちらちらと意味ありげにこちらをみつつ

「あの…ナズーリン?」
「なにか?」
「その…み、みましたか?」
「なにをだい?」
「あ、いや、見ていないならいいんです。そうですとも」

ほっと肩の力を抜いてにこにこする様子に、吹き出しそうになるのをなんとか我慢する。

「さ、それでははやく行きましょうか」
「そうだね」

軽い足取りで部屋を出ようとするご主人様に、私はぽつりと呟いた。

「早く行かないと冷めてしまうがお」
「そうそう冷めて…………?」

その瞬間、ぴたっと足を止めると、不思議そうな顔をこちらに向け、その後すぐに頬を真っ赤に染めた。

「え、あの……ナズーリン?」
「なんだろうか?」
「えっと…あ、の……」
「さて、早くいくがお。またぬえに掠め取られるがお」
「あっ、あっ、あっ、の、な、ずーりん?!」
「なんだがお」
「うっ、ううううぅぅぅ!!」

真っ赤になってじたじたするご主人様ににやにやしつつ

「そういう練習は、夜中こっそりやるものがお」
「んっ、ぅっ、うーっ、な、なずぅぅ!!!」

あまりに恥ずかしかったのか、そのまま首根っこを捕まえられて畳に押し倒される私。







まぁ、たまにはこういう流れも悪くない。
コメント



1.ぺ・四潤削除
「きりっ!」何この星ちゃん可愛い。
畳に押し倒してその後どうなった。威厳というものをたっぷりとナズーリンの身に教え込んだのか。
でもそういうことも夜中こっそりやるものがお。
2.奇声を発する程度の能力削除
子鼠かっけえwwww

がおー…萌えた
3.名前が無い程度の能力削除
しぬ かわいすぎて しぬ
4.名前が無い程度の能力削除
かわいすぎて死んでしまうがおー…
5.名前が無い程度の能力削除
がおーがおーがおー
なにこれ可愛い
6.名前が無い程度の能力削除
萌え死ぬということを今日初めて知った
7.名前が無い程度の能力削除
がお