Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

Merci, ma mere.

2010/07/12 17:00:06
最終更新
サイズ
4.17KB
ページ数
1

分類タグ


「ねぇアリスちゃん~、お人形さんの作り方教えて?」

「いいわよ」


ある日の昼下がり。

魔法の森の中にあるアリス邸で、魔界の親子が今日も仲良くしていた。

仲良くといっても一緒にご飯食べたり、一緒にお風呂入ったり、一緒のベッドで寝てたり……

ちょっとばかり仲が良すぎるのは、アリスの母親、神綺があんまり"こちら"に来れないせいだろう。

神綺曰く、「アリスちゃん分を補給しないと干からびちゃう!」だそうだ。

尤も、アリスも満更ではなさそうだけど。

だから神綺のお願いを、ついつい叶えてしまうのだ。

晩御飯をハンバーグにしたり、背中だけでなく全身を洗いあったり、神綺に抱かれながら眠ったり……

そして、今は人形の作り方を教えている。

でもどうも上手くいって無いようだ。





「魔力回路の組み方は、頭だけでも幾千通りの方法があってね、髪の毛が勝手に伸びるようにするには……さらにシナプスを……」

「ア、アリスちゃん。魔力回路はまた今度でいいかな?」

「回路の無い人形はただの人形さ(キリッ」

「紅い豚さんみたいに言われても困るよ!?」





「ぬいぐるみ風にするなら、頭の部分の綿はもっときつめに入れて。そうしないと形が安定しないから」

「きつく、ぎゅっぎゅっと……きゃあ弾けた!? 詰め込みすぎたのかな?」

「綿に混ぜた私の髪の毛に、綿と一緒に圧縮されたお母さんの魔力が反応したのかも」

「なんで髪の毛混ぜてるの!?」

「え?」

「そこで不思議そうな顔されても……」





「服の作り方は……」

「あ、それなら得意! だっていつもアリスちゃん達の服を繕ってるしね」

「……お願いだから猫のアップリケを付けるのはやめてね?」

「え!?」

「そこで不思議そうな顔されても……」





で、紆余曲折あってついに。


「できたー! アリスちゃんほらほら!」

「おつかれさま、お母さん」


神綺の喜ぶ姿に、アリスも穏やかな笑顔で返した。

跳ねまわる神綺の手の中に、金髪の少女であろう人形があった。

高さ45cmほどのデフォルメ人形。

全体的に少し歪んでいて、髪の毛も整っていない。

服は解れているところがあるし、目も左右対称になっていない。

アリスの人形に比べたら失敗作であろう。

それはお店に並んでいても、最後まで売れ残るほどに。

でも神綺にとって、それは最高の出来栄えだった。

その人形はまるで光り輝く幻想のように、神綺には思えた。


「アリスちゃん、このお人形さん何点くらいかな?」

「その子に点数なんて点けられないわ」

「がーん……」


アリスの冷たい言葉に、両手を地面について落ち込む。

喜び勇んでいた分、反動がおおきい。

いくら神綺の目には輝いてみえても、やっぱり出来栄えはガタガタ。

とても人に見せることができるものではなかった。


「そうよね。そうだよね……綿、はみ出してるもんね……」


神綺の作った人形が地面へと転がる。

その衝撃だけで首が取れそうな人形。

それでも顔はにっこりと楽しそうに笑っている。


「お母さん……私ね、お母さんに創ってもらって幸せなの」


アリスが人形を拾いあげながら言った。

弱った子犬を抱えるように優しく、そっと胸に抱く。

そして、言葉を続ける。


「それこそ、点数なんて付けられないくらいに」

「アリスちゃん……」


アリスの言葉に、神綺は顔をあげた。

優しい言葉に涙が出そうになる。

同時に勝手に勘違いした自分が恥ずかしくなる。

心なしか、アリスも顔を桃色に染めていた。


「この子も、同じだと思うの。むしろ点数なんて付けられたら泣いてしまうわ」

「ごめんアリスちゃん。ごめんね、お人形さん……」


謝ってから、そうかと、神綺は気がついた。

どうして自分がアリスの家へ頻繁に訪れていたのか。

どうして、人形を作りたいと言い出したのか。

……不安だったのだ。


ずっと母親らしいことなんてずっとしていなかった。

仕事に追われて、神であることをずっと意識して。

料理だって裁縫だって、ちょっとしかできない。

子供たちが何を考えているだなんて、ずっと分からなかった。

子供たちの好きなものも知らない。

不安、だった。

特にアリスは家を飛び出して、しばらく音信不通だったし、

魔界の子達も神綺の事を「お母さん」とは呼んでくれない。

呼んでくれるのはアリスだけ。

嬉しかった。

だから知りたいと思ったのだ。

娘の事を。

もっと、もっと……


無言で人形が差し出される。

その子を、神綺はそっと抱きしめて、つぶやいた。


「生まれてきてくれて、私と出会ってくれて、ありがとう」


それはアリスへの感謝か。

それは人形への涙か。

それは、娘たちへの想いか。








◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


アリスの部屋。

その窓辺に、人形が飾ってある。

木々からこぼれる太陽に照らされて。

金髪のぼろぼろの人形と、奇麗なサイドポニーテイルの人形が、仲良く笑っていた。
親子愛を書いてたら霖之助を入れる隙間がなかったこじろーです。
誤字情報感謝です!
以下チラシの裏。

仕事が大変な親って本当に、つらいと、思う。
子供が泣いていないか。子供がさびしがっていないか。
不安でいっぱい。でもどうしようもなくて……
そんながんばりやのお母さんのことを、アリスたちは大好きで。
でも神綺様はその幸せに気がつかなかった。
子供から愛されていたのに。でも不安というフィルタのせいで怖かった。
だから、何点かなんて聞いたのだろう。
自分の親としての点数が、気になって、愛されているか分からなくて。
でも直接は聞けなくて。知りたくて、知りたくて……

これはただ本人が気づいてなかっただけの話。
だからこそ、幸せな話。
こじろー
コメント



1.無休削除
なんて良い親子 いいものを読ませていただきました。
2.削除
神綺様可愛いよ神綺様
3.再開発削除
なんだか…あったかいなぁ…
心が。
4.名前が無い程度の能力削除
神綺様すごくくぁあいいです。
ほっこりしました。
5.奇声を発する程度の能力削除
温かい、読み終わった後真っ先に出てきた感想です。
とても素晴らしかったです!!!
6.名前が無い程度の能力削除
心が暖まる
7.名前が無い程度の能力削除
×「それこそ、点数なんて作られないくらいに」
○「それこそ、点数なんて付けられないくらいに」

×誤ってから、そうかと、神綺は気がついた。

 どうして自分がアリスの家へ頻繁におとづれていたのか。

○謝ってから、そうかと、神綺は気がついた。

 どうして自分がアリスの家へ頻繁におとずれ(訪れ)ていたのか。

貴方にしては誤字が…。
お話自体はとてもよかったです!
ほんわかほこほこ。
8.名前が無い程度の能力削除
「紅い豚さん見たいに言われても困るよ!?」
「紅い豚さんみたいに言われても困るよ!?」

里帰りとかする気はないんですねアリスさん
9.こじろー削除
>無休様
自分に子供ができたら、これくらい仲のいい親子になりたいですね~

>唯様
神綺様をぎゅっと抱きしめ隊一名参上!!

>再開発様
ほわわんとしたあったかい雰囲気が、神綺様には似合ってますよね。

>4様
SHI☆N☆KI!
神綺様をぎゅっと抱きしめ(ry

>奇声様
これは……ほんわカオス作家を目指すチャンス!?
もしくはあまりない組み合わせでほんわかもいいかも。

>6様
暖かな気持ちになってもらえたならうれしいです♪

>7様
誤字情報感謝!!
あまりの多さにやっちゃった感……以後気をつけますね。
ほこほこと言えば焼き芋ですよね~……秋姉妹か!

>8様
ありすちゃんは紅の豚を見たかったのかな?
すいません誤字です本当に申し訳ない。
里帰りしたらきっとアリスちゃんが姉妹の愛で窒息死しちゃう!
10.名前が無い程度の能力削除
地味にアリスからヤンデレ臭が…
11.S.Kawamura削除
わかる。わかるなぁ…。本当に親には感謝しちゃうよ