Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

少女、博麗霊夢

2010/06/15 17:15:26
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この前人里に買出しに行き、ついでにと霧雨家にお邪魔し親父さんと巫女や魔理沙の事で少し話をしていたときの事だ。
店に来た二人の客が世間話をしていた。
それだけなら気にも留めなかっただろう。問題はその内容にあった。

――博麗の巫女さんは貧乏らしい――

この言葉を聞いたとき、僕は彼らの言ってる事が理解出来なかった。
確かに博麗神社の賽銭箱の中身は無に等しい。しかし無収入ではなく、参拝客が少ないというだけなのだ。
そもそも、博麗大結界を管理する巫女が死んでしまうと、結界自体がとても不安定な物になる。そのまま結界を放置すれば結界そのものの力が弱まり、やがて幻想郷が崩壊する。それに異変が起きた時、妖怪退治の専門家である博麗の巫女が、異変が起きた時に腹が減って動けませんじゃ話にならない。
故に幻想郷を管理する者として、異変を解決する者として、必要最低限の暮らしが出来るようにと紫から毎月そこそこの仕送りがされている。
もっと言うならば、仕送り以外の収入が賽銭だけではない。依頼で神事を行ったり、妖怪退治をした後にはきっちりと報酬を受け取っている。

だから、博麗の巫女、霊夢は貧乏ではないのだ。

「だというのに何故……」

何故、この紅白はここ香霖堂では買い物をツケで済ませるのだろうか。

「ん、霖之助さん何か言った?」

目の前の紅白こと霊夢は、そんな僕の気持ちに気付くはずもなくお茶を啜っている。あれはこの前里で買い足した物のはずなんだが……。

「霊夢、少しでもツケを払う気はあるのかい?」

「当たり前じゃない。今はお金が無いのよ。」

「この前仕事の方の妖怪退治をしていたじゃないか。それの報酬はどうしたんだい?」

「宴会の出費で飛んでったわよ、そんなの。ていうか仕事の方って何よ?まるで私が見境なく妖怪を攻撃してるみたいじゃない。」

「事実じゃないか。これが証拠だ。」

そう言って今読んでいた本を見せてやる。
『非ノイマン型計算機の未来・13巻』
以前霊夢がとある妖怪を強襲し、その妖怪から強奪した物だ。

「あぁ、アレは良いのよ、アレは。」

「……何が良くて何が悪いのかの境界は、見極めたほうがいいと思うんだが?」

「見極めてるわよ、早苗じゃあるまいし。」

そう言うと霊夢はお茶請けの煎餅を一口齧った。あれもこの前里で買った物のはずだ。

「やれやれ……。」

そこで会話は途切れた。店内には僕が本のページを捲る音と、霊夢がお茶を啜り、煎餅を齧る音が静かに響いていた。



***



どれくらいそうしていただろうか。
十数分、或いは一時間近くか。不意に霊夢が口を開いた。

「ねぇ霖之助さん。」

「ん?」

「何でウチの神社は参拝客が少ないのかしら。」

「……交通の便が悪いからじゃないのかい?」

「交通の便?」

「あぁ。」

人里から博麗神社に行こうとすると、先ずこの香霖堂の後ろにある魔法の森を越えなくてはならない。
森の中には化け物茸の胞子が舞っており、里の人間は長時間はその瘴気に耐えられない。さらに森の中には、数は少ないが人食い妖怪も存在する。空を飛べるなら胞子や瘴気の影響を受けず、妖怪に襲われる確立も少なくてすむが、霊夢の様な能力を持っていない限り、ただの人間が何の訓練も無しに空を飛ぶ事は出来ない。
そういった理由から、博麗神社には参拝客が少ないのだろう。
そう説明すると、霊夢は「あぁ~」と納得した様に大きくニ、三度頷いた後、

「それは無いわね。」

と、どこか諦めた様な口調でそう言った。

「ほう、それはどうしてだい?」

「確かにそれもあるでしょうけど、それだけの理由ならここにお客さんがいないのはおかしいいでしょ?」

「フム……。」

成程、霊夢の言う事も一理ある。
此処香霖堂は人里から見て魔法の森の手前に位置する。博麗神社と人里を直線で結ぶと、大体中央辺りだろうか。
里からの距離もそう遠くなく、またこの辺りはまだ胞子や瘴気の影響も少ないし人里寄りな場所の為妖怪に襲われる事も比較的少ない。
更に香霖堂は古道具だけじゃなく、外の世界の道具や冥界の道具、そして魔道具の製作も請け負っている。
道程を危険といえば危険だが、気にする程の危険度ではない。
にも拘らず、此処香霖堂には客が全くと言って良いほど来ない。霊夢の考えも尤もだ。

「確かにそうかもしれないな……。」

「霖之助さんの所といいウチの神社といい、何でなのかしらね……。」

霊夢が心底分からないという様な声でそう呟いた。
だが何故かその言葉に何か引っかかるものを感じた。

「(神社……、香霖堂……。)」

そうして考察をしていくと、ある一つの仮説が出来上がった。

香霖堂の『香』は『神』を表し、『神』は『博麗神社』を表す。
つまり、『香霖堂=博麗神社』という事になる。そしてこれを元に考えると、この二つには共通する部分が多い。
先ずは先程霊夢に語ったように、客足の少なさが挙げられる。この場合、商品を購入する客と参拝客という決定的な違いはあるが、どちらも客であることには変わりない。問題はその客足の少なさなのだ。
何故立地条件が違うのに共に客が全く来ないのか。それは次に起因する。

『客』ではない『常連』が多い。

これには恐らく霊夢の性格が関係している。
博麗の巫女である霊夢はその力の所為か、或いは元々の性格からか他人にあまり他人に興味を示さない。博麗の巫女として中立を保っているのもあるのだろう。故に相手が人であれ妖怪であれ神であれ、霊夢は分け隔てなく接する。
その性格ゆえか、霊夢は強い力を持つ妖怪や名の知れた大妖怪に好かれ易い。
その為、博麗神社は連日のように妖怪が出入りしている。里の人間が来ないのはその妖怪達を恐れての事だろう。
そして霊夢は仕事で神社にいないときは、大体此処香霖堂にやって来ては魔理沙と勝手にくつろいでいる。霊夢を探して多くの妖怪がやって来るのも自然な流れだ。
更にこの店には、使用法は分からないが好奇心をそそられる外の世界の道具が数多く存在する。寿命が長く退屈が天敵のような妖怪にとって、暇潰しには最適だろう。
……一人例外もいるが、彼女が何故此処にやって来るのかは未だに分からない。ストーブの燃焼なら冬の間だけで十分だというのにだ。
……そういえば、他の少女達も道具ではなく僕を見ていた様な……?
……考察する所がずれてしまったな。
とにかく、ここまで幾つか共通点を挙げたが、ここで一つ疑問が生まれる。
それは、『何故、中立である博霊の巫女が香霖堂に通っているのか。』
全てに対し無関心に近い霊夢が、何故僕の所に通うのか。これにも当然理由がある。

ここで五行思想について少し考えてみよう。
五行思想とは、万物は火・水・木・土・金の五つから成ると考える思想の事で、当然の事ながらそれは人にも言えることである。
僕、森近霖之助は名前からもわかる通り『霖』、即ち水である。そして霊夢は春を表す木気の持ち主であり、水の属性を持つ僕や此処香霖堂、そして僕と同じく水の属性を持つ魔理沙と相性が良い。
そしてこれは他の常連にも言えることである。例えば紅魔館の完全で瀟洒なメイド長十六夜咲夜は金気の持ち主であり、四季のフラワーマスター風見幽香は霊夢と同じ木気の持ち主である。
彼女らも霊夢と同じで此処が安らげる場所だと無意識に感じているのだろう。
これらの事柄から、霊夢と僕には共通する部分が多く、更に五行で相性がいい事も立証済みである。更に……

「……ん!霖之助さん!」

「ん?あぁ……」

大声で僕の名前を呼ぶ声に意識を思考の海から引き上げられ、見ると霊夢の顔が目の前にあった。間の距離は二寸ぐらいだろうか。

「どうしたのよいきなり難しい顔して黙り込んで。何か考え事?」

「あぁ、まぁね。」

「ふーん、まぁいいわ。何考えてたの?」

そう言って霊夢は僕の前にお茶を置いた。湯気が立っているのを見ると、新しく淹れたらしい。

さて、今考えた考察をそのまま話すのも悪くは無いが、僕が彼女達に自らの考察を語り聞かせるとき、大概の場合彼女達は真面目に話を聞かない。自分から聞いてきたくせに、数十秒後にはその興味も消え失せているのだ。秋の空と乙女の心というが、先が読めないにも程がある。
なら興味を持たせるにはどうすればいいか。先に結論だけを話してやればいい。そうすれば、興味があるならどういう考察でその結論に至ったのか気になるはずだ。
そう思い、僕は先程の考察で出た結論のみを霊夢に教えた。


「あぁ。僕と霊夢は相性が良いと思ってね。」


僕がそう言うと、霊夢は「んなっ……」と言って顔を真っ赤にしてしまった。

「……霊夢?」

「ふえぇっ!?ななな何?」

「……取り敢えず、少し落ち着くといい。」

そう言ってお茶を差し出してやる。僕に淹れてくれた物だがまぁ良いだろう。
霊夢は僕が差し出したお茶を引っ手繰るように奪い取り、一気に呷った。淹れたてだったと思うんだが、熱くないのだろうか?

「熱ッ!?」

やはり熱かったのか。まぁ少しは落ち着いたらしい。
……顔は赤いままだが。

「り、霖之助さん……」

「なんだい?」

「相性が良いって……どういう意味?」

「どういうって……そのままだが?」

僕がそう言うと、霊夢は

「――――――――――――――――――――――!!?」

と声にならない悲鳴を上げ、顔を紅魔館のように真っ赤にして倒れてしまった。

「れ、霊夢!?」



***



「……ん……うぅん……」

「あぁ、霊夢。気がついたか。」

あの後倒れた霊夢を布団まで運び、顔は赤いままだったので氷を用意したり目が覚めた時のために一人分多い夕食を用意したりしていたら、いつのまにか外はすっかり暗くなっていた。

「しかし驚いたよ。いきなり真っ赤になって倒れるなんて。何かあったのかい?」

「な、何かって……元はといえば……霖之助さんが……ゴニョゴニョ」

「???」

最後のほうは良く聞き取れなかったが、どうやら僕のせいらしいな。

「ふむ、どうやら僕は君にとって何か不快な思いをする事をしてしまったようだね。それは謝ろう。」

「や……そんな別に……不快だなんて……」

そう言いながら霊夢は起き上がろうとする。どうして倒れたかはわからないが、取り敢えずはまだ寝ておくべきだろう。
そう思い、霊夢の肩を押さえて無理矢理寝かせる。

「り、霖之助さん!!?」

「ん、なんだい霊夢?」

「わ、私まだ心の準備が……」

「……準備?一体今から寝るというのに何の準備が必要なんだ?」

「え……だ、だから寝るって……い、今からその……そうゆうことでしょ?」

「……すまない。君が何を言っているのか本気で分からないんだが?」

「………………ゑ?」

「……自分でも何を言ってるか分かっていないみたいだね。落ち着くまで横になっているといい。何か軽く食べられるものでも持ってこよう。食欲はあるかい?」

僕がそう言うと、霊夢は布団を頭まで被った後、「少しだけなら。」と言って動かなくなってしまった。

「分かった、なら御粥でも作ってくるよ。大人しく待っててくれ。」

「……うん。」

丸まった布団の中からくぐもった声で小さく返事が聞こえたのを確認し、僕は勝手場に向かった。




***




十数分後、完成した粥を持って再び霊夢の所へ戻ると、そこには布団から顔を出し寝息を立てる霊夢がいた。

「すぅ…………、すぅ…………」

「やれやれ、眠ってしまったか。」

仕方が無い、この粥は自分で処理するか。
そう思い、霊夢の横に座り粥を置いた。

「霖之助……さん……」

「ん?」

名を呼ばれ何事かと見れば、霊夢は眠ったままだ。寝言か……

「全く……」

幸せそうな顔をして眠っている霊夢を見ていると、この子がある意味で幻想郷の運命を握っている博麗の巫女とはとても思えない。
異変が起きても自分から動こうとせず、思いつきで神事を行い、妖怪とも交友を持つ……、巫女として積極的に働いていた先代とは大違いだ。
だが似ている部分も少なくはない。それは仕事をしているときの霊夢を見ればわかる。
一度だけ、霊夢の『異変解決』ではなく『妖怪退治』を見たことがある。
あの時の霊夢の強さは普段の彼女しか知らない僕にとって想像もできない姿だった。それぐらいここにいる時の霊夢と仕事中の霊夢は違いが激しいのだ。

「博麗の巫女、か。」

ふと、そんな言葉が出た。
よく考えてみれば、人里の噂にしても、親父さんと話していた事にしても、
誰も『霊夢』と言わず、『博麗の巫女』と言っていた。
先代は個人と言うよりは巫女としての印象の方が強かった。だから名前も忘れてしまった。だが霊夢はその真逆で、巫女よりも個人としての印象の方が強い。それは周りから『博麗の巫女 博麗霊夢』として振舞わなければいけないのに対し、此処香霖堂では『一人の少女 博麗霊夢』としていられるからではないだろうか。
霊夢は僕が妖怪退治の報酬の事を言った時、霊夢は『宴会で飛んでいった』と言っていた。
しかしここ数日宴会が行われていないのは魔理沙を通して知っている。
だとすれば金銭的に余裕なのに買い物をツケで済ませるのは、ある種の甘えなのではないだろうか。

「霖之助さぁん………………」

霊夢がまた寝言で僕の名前を呼んだ。それだけならそこまで気にしなかったが、霊夢は僕の袖を引っ張ってきた。

「こら、袖が伸びるだろう。放しなさい。」

「ん~……」

「全く……」

振り解こうとするが、下手に動かせば目を覚ますかもしれない。まぁいいか……。
そう思った時だった。

「ん……」

「うわっ……!」

霊夢が無意識に袖ごと腕を引き寄せ、さらに腕に抱きついてきた。そのいきなりの行動に対応できず、必然的に一緒に倒れこむ。
無邪気な寝顔がすぐ近くに迫る。

「やれやれ……困った妹分だな……」

妹分、そう妹分なのだ。
逆説的に言えば、霊夢や魔理沙にとって僕は兄の様な存在となる。
霊夢は物心つく前から博麗の巫女として育てられてきた。ならば普通の少女の時、香霖堂にいる時ぐらいは甘えさせてやるのが兄というものではないだろうか。
ならば今、僕に出来る事といえば……

「……添い寝か。」

右腕を抱き枕の様にしてがっちりと抱きつく霊夢を見て、これは脱出不可能だと判断し、僕は睡魔に身を委ねた。
次の日―――

「ん……くぁ……」

「おはよう、霊夢。」

「……ん~?」

「起きたのなら早く放してくれないか。流石に少し辛いんでね。」

「――――――――――――――――――!!!???」

「お、おい霊夢!?」

朝、霊夢が目を覚ましたと思ったら、僕の顔を見るなり顔を朱鷺の様に真っ赤にして気絶した。何があったのかは分からないがその日僕は強制的に約半日添い寝をさせられた。



初めまして、唯(ゆい)という者です。
SSは初製作初投稿なので、少々おかしい所があるかもしれません。
誤字や脱字、『ここはこうした方が良いんじゃないか。』等の意見がありましたらご報告下さい。
最後に、ここまで読んで下さり有難う御座いました。
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
この朴念仁が!!

いやでもだからこその霖之助か…
きっとこの先も兄ポジから変わらないんだろうなぁ…霊夢とは逆に。
変わるとしたら霊夢から行動を起こしたとき、か。
2.名前が無い程度の能力削除
ん~・・・原作読んで欲しいな。設定載ってるのに

神主から毎月お金を貰って、里で普通に買い物してる。
里の者からは巫女として認められないから名前で呼ばれる、巫女の仕事をしてないのが原因
本人も努力は報われないと考えてるから、巫女としての修行に否定的
参拝が来ないそもそもの理由も、神社の御利益に幻想郷の信仰事情か載ってます。
3.奇声を発する程度の能力削除
>大声僕の名前を呼ぶ声に
大声で?

この朴念仁!!!!霊霖もっと広がらないかなぁ…
4.削除
おぉ、早速コメントが!
読み返したら誤字見つけたんで修正ついでにコメ返しを。

>>1 様
他の少女達が行動を起こした時もですかねw

>>2 様
原作読みたいんですけどねぇ・・・何時になったら2008年の春は来るんでしょうかね。

>>奇声を発する程度の能力 様
誤字修正しました。有難う御座います。

読んでくれた全ての方に感謝!
5.名前が無い程度の能力削除
あれ、砂糖が 口か ら溢   れ 
6.高純 透削除
おお、我がジャスティスじゃないか。
もっと霊霖書いてくれる作家さんが増えるとうれしいんですけどね……魔理霖に比べるとマイナーだしなぁ。
7.華彩神護削除
おい霖之助、も っ と や れ
霊夢をジワリジワリと落としちゃえ。
霖之助はハイスペック。
8.名前が無い程度の能力削除
原作読めとか無理じゃね
春になるのを待つしかないだろ
9.名前が無い程度の能力削除
うわあい甘いよ甘いよ!砂糖が口から出てきてもうたよ!
なんとなく今度発売の香霖堂の表紙の、何故か涙目の霊夢を
そのまんま想像する様なお話でした。
10.削除
おぉ、さらにコメントが!
こうやって評価貰うと何か照れますね。
ではコメ返しを。

>>5 様
私 も砂 糖が溢 れ て

>>高純 透 様
ジャスティスでしたかw
霊霖良いですよね。あのほのぼのした感じが私は好きです。

>>華彩神護 様
もっとですかw
ジワリジワリと……難しいですねw。

>>8 様
何時になったらリリーは活動するんでしょうね、ホントに。

>>9 様
そんなに甘かったですかw

読んでくれた全ての方に感謝!