Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

時と運命の相互関係

2010/05/30 13:27:48
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『×××××!』

それは違う。『私』じゃない。

『…や!十六夜咲夜!!』

そう、それが『私』。

カチッカチッカチッ…

純白のエプロンのポケットの奥、与えられた運命を刻む懐中時計の針が鳴った。


「咲夜、お茶の準備をして頂戴。」
「コーヒーと紅茶、どちらにしますか?」
いつもの命令、いつもの対応。
「んー、美味しい方。」
そして、いつも何かしらで私を困らせる。
今日はこれですか…。
「決めるのはお嬢様じゃないですか。」
「じゃ、両方。」
”勿体ない”と思いつつ、二つのポット、二つのティーカップを丸テーブルの上に並べる。
「…、あれ、そういえば」
「フランなら弾幕ごっこだとかで、私の代わりにあの仕事をしない巫女と胡散臭い魔女のいる神社に行ったわ。」
…昼間なのによく行くものです…。
疲れて帰ってきては、また、あれをしろこれをしろ、と仕事を増やしてくれるのでしょう。
沸騰を始める100℃手前の92℃のお湯を、紅茶の茶葉の入ったポットへそっと注いでいく。注いだ残りのお湯は再度加熱して、紅茶を蒸らす間に香り高いエスプレッソを淹れる。

キィン

時を止める。もちろん、対象を指定して。
指定するは、淹れたての紅茶とコーヒー。その間にさっさとクッキーやスコーンといったお茶菓子を皿に可愛らしく盛り付けた。
…、優雅なお茶会の始まりです。
小さく呟いて、白のレースのテーブルクロスの掛けられたカフェテーブルへ給仕した。


”×××××”は吸血鬼を狩る者だった。
今はもう存在しない。
”十六夜咲夜”が現れた時に、消失した。

”二体”の吸血鬼をかりに出た時、”×××××”は驕っていた。
見た瞬間、その見た目に油断して、判断を誤った。
死の淵にまで追い詰められて、そんなことになってもまだ己を信じていた。否、驕っていた。

「貴女、名前は?」
「…×××××……。」
幼い少女の姿した吸血鬼の一人は、名を聞くと惜しそうに言った。
「あら、じゃあもうすぐ死ぬのね。」
「!!」
息が詰まった。銀のナイフでその薄い胸を一突きにしてやりたい気に駆られるも、ナイフ握るその手は既にそれをするだけの力を残していなかった。
”×××××”は無意識のうちに悔しげに唇を噛み、少女の姿した”モノ”を睨みつけていた。
すると、薄く形のよい唇が歪められながらに、理解と想像の範疇を超えた一言を紡いだ。
「ねぇ、貴女、生きたい?」
「…は?」
「生きたいの?ねぇ?それとも…、




死にたい?」

背筋がゾクリと粟立ち、睨みつけていた瞳は大きく見開かれた。
その様子を見ると、いかにも愉しげに笑った。
「ふふっ、あはははっ!生きたいわよねぇ、貴女!!」
「っ!こ、の…」
「私は貴女を生かしてみたいわ。」
「は……?」
「でも今のままじゃ”死ぬ”。そういう運命だから。」
目の前の者は、一体どういう思考を巡らせているのか×××××にはわからなかった。きっと、誰であろうと理解に苦しむのだろう。
この発言も先と変わらない。
「”貴女”、”×××××”の存在を消すわ。」
静かに続ける。
この時、彼女には唇を動かすだけの余力すらなかった。
「そして、違う”貴女”の存在を作る。」
そう言うと、『素敵じゃない?』と無邪気に笑いかけてくる。
その笑顔は、外見の年相応のものであった。恐怖を覚え続けていたことになんら変わりはなかったが。


「”咲夜”。」
「…?」
「貴女は今から”×××××”じゃなくて”十六夜咲夜”。」
気力のない瞳でぼんやりと見上げたら、
「なぁに?存在を消すって、方法は一つじゃないのよ?これで”×××××”という貴女は消えて”十六夜咲夜”の貴女が”生まれた”の。」
「……!!」
重い鈍器で頭を殴られたようだった。そして実際に頭はひどく痛んだ。何故なら、次の言葉があまりに突飛なものであったからだった。
「そして、私の館のメイドをするのよ!」
だって、時を自在にできるなら仕事も沢山こなせるでしょう?
そう付け加えて、不敵に幼い少女の姿した吸血鬼に『負けた。』と心底感じた。
力でも負けたし、全ての事柄への考え方、理念においても、完敗した。

ぐるぐると考えを巡らせていたら、限界が来たのだろう。ふらりとよろけて、固い地面に身を落とす。
ベタなことに、気が付く頃にはあの紅い霧に包まれた館の寝室の一つのベッドの上に横たえられていた。

くー、くー、ふぅ…

ふと横に目をやると、腕を組んで座ったまま寝息を立てている、これから”お嬢様”と呼んでいくであろう少女がいた。

目が覚めて、それからは忙しく目まぐるしかった。
そんな中で貰った一つの古めかしい懐中時計。

「この時計の針だけはきっと、咲夜、貴女でも止められないわ。」

その言葉通りに、この時計だけが止まることを知らぬかのように時を刻んでいる。……私と共に。

ただの憶測でしかないけれど、この時計はあの時変えた運命を示し、刻む唯一なのだと思う。

「咲夜ー!さーくーやーーー!!」

”私”を呼ぶ声の方へと足を向ける。踏み慣れた廊下を靴の踵で踏み鳴らす。

カチッカチッカチッ…



変えられた運命はどこかで進み、与えられた運命だけが時を刻む。
きっとそれは、永久に近しい間…。
東方、百合っぽいものの初書きでした。
拙い小説とも呼べるのかもわからないような代物を読んでくださり、ありがとうございました。
普段は別ジャンル、ベクトルのものを書いています。
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
面白かったです。