Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

「くるマイマイ」

2010/04/27 07:24:23
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雨が降っている。いつも薄暗い森の中をさらに暗く塗りつぶす雨は3日前から降り続いたままだ。

そんな気の病むような雨も家の中までは浸入することが出来ず、私は温かい部屋で紅茶を飲みながら

降り続く雨の音を聴いていた。


 ざぁざぁ  ざぁざぁ



  スルリ

と、何かが動く気配に気がつき目を開けると、いつのまにか妖怪の八雲紫が向かいの椅子に腰掛けている。



紫「ここは、静かね。」

アリス「・・・そうかしら。」

紫「まるで世界が眠っているかのようだわ。」

アリス「・・・そうかもしれないわね。」


紫「・・・・・・」


アリス「・・・・・・」



暇つぶしにきたのだろうか。特に用があって私の家に来たとも思えないが、しばらくここに留まるみたいだ。

何もせずにほおっておくのも心地が悪いし、紅茶でもいれてあげよう。

椅子から立ち上がり、食器棚からティーカップを取り出す。

キィ  

カチャ  カチャ   コト


テーブルに置いてあるポッドにはまだ紅茶が残っているので、ポッドを手に取りカップに紅茶を注ぐ。

紫「優しいのね、ありがとう。」

アリス「・・・」

紫「どうかしたの?」

アリス「ずいぶんと素直だなぁと思って。」

紫「・・・そうかしら。」

アリス「別人のようよ。」

紫「・・・そうかもしれないわね。」

アリス「・・・・・・」

紫「・・・・・・」







紫は窓の外を眺めている。なにも見てはいないのだろうけれど・・・。










アリス「ねぇ。」

紫「ん?」

アリス「世界を乗せて歩くカタツムリの話を知ってる?」

紫「知らないわ。」

アリス「この世界は実はカタツムリの殻で出来ていて、それを背負った一匹のカタツムリは旅をしているの。

カタツムリが見た風景や抱いた感情を養分にして殻は大きくなっていって、殻の中にある世界にそれらの風景や感情が

反映されていくというお話なんだけど。」

興味を持ったのか、紫は窓から目を離し私のほうへ顔を向けてきた。

紫「中々おもしろそうじゃない。そのカタツムリはどんな旅をしたのかしら。」

アリス「そうね、賑やかなパレードを見に行ったり、橋を渡ったり、戦争をしている地域を通り抜けたりもしたわ。

それにつれて世界の中も平和だったり、日照りが続いたり、誰も彼もがお互いを傷つけ合うようになったりね。

けれども、それらの出来事は忘れ去られるのではなくて、殻の中に蓄積されていくの。そうして旅を続けて、

殻はどんどん大きくなっていく。今では殻が大きくなりすぎて、ゆっくりとしか移動できなくなってしまったけど、

それでもカタツムリは旅を続けているらしいわ。」


紫「そのカタツムリは、どこに行きたかったのかしらね。」

アリス「知らないわ。目的地があったのかもしれないし、ここではない何処かへ行きたかったのかもしれないし。」



紫「・・・いいお話ね。・・・ねぇ、この世界がカタツムリの殻の世界なのだとしたら、今そのカタツムリはどこにいると思う?」



アリス「ふむ、・・・紫陽花の、葉の上、かしらね。」

紫「風情があるわ。」

アリス「あるいは」

紫「あるいは?」

アリス「カタツムリは食べられてしまったか。重くなりすぎた殻を捨ててしまい、殻だけが残されているの

かもしれないわよ。」

紫「むむむ、そうしたら、捨てられた殻の中の世界はどうなってしまうのかしら?」

アリス「夢を見るのよ。」


アリス「閉じてしまった世界の中で殻の模様に沿いながら、くるくると螺旋を描いて夢を見続けるの。」






紫「それは・・・素敵ね。」








アリス「ねぇ」

紫「なぁに?」

アリス「紫は、何か変わった話を知らないかしら。」

紫「そうねぇ・・・杯を掲げたネコの話は知っているかしら?」

アリス「知らないわ。」












雨はまだ降り続いている。
紫陽花、最近見てないです。
ひきにく
コメント



1.mthy削除
いい雰囲気ですね…。
とてもよかったです。
ただ、セリフの前の名前は別になくてもよかったかな、と思います。
2.無休削除
この雰囲気は好きだな~雨音とゆっくり流れる時間と会話…
アリスと紫なのがまた良い感じ
3.名前が無い程度の能力削除
詩人なアリスに乾杯。
4.名前が無い程度の能力削除
よい雰囲気!!
続きを読みたいです。
5.奇声を発する程度の能力削除
この雰囲気が凄く好きです!!!
6.名前が無い程度の能力削除
いい雰囲気が出ていると思います。

ひとつ気になる点を挙げるなら台詞の前に名前があるところですね。
この場合は俗に「台本形式」と言われます。
台本形式だというだけで読むのを拒否する人もいるので
たくさんの人に読んでもらいたいと思うのであれば
台詞の前に名前を付けるのはオススメしません。
7.名前が無い程度の能力削除
雰囲気がとても好みでした。
アリスと紫っていうのが良いですね。
8.名前が無い程度の能力削除
カタツムリは紫でありアリスでもあるのかな、と思いました。
9.ひきにく削除
おおぅ、雰囲気が好きと言ってくださる方がこんなにもいてくださるとは。ありがとうございます。
名前を付けないと誰が話してるのか分かりにくいかと思ったんですよねぇ。こういう時は紫が話しかけるイメージがあったので、それはそれでおもしろそうですが。アドバイスありがとうございます。参考にさせていただきます。
10.名前が無い程度の能力削除
雨の日の静かな会話、いいですねえ。