Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

貸本始めました

2010/04/19 22:32:53
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悪魔の館紅魔館。その一室でメイド長十六夜咲夜は仕事をしていた。
しかし、直に溜息をつくと、頭を抱えてしまった。
理由は、紅魔館の財政事情にあった。
紅魔館は、多くの妖怪、妖精メイドの一部がその広い敷地の一部を利用し、菜園、茶畑等による栽培と周辺での狩猟、採取を行なっている為に必要な食材は、人の血液以外はほぼ賄う事ができた。
また、一部の妖精メイドの中には、木材加工を得意とする者もいた為、家具等を作らせたりもしていた。
妹様が時々暴れて壊した物の修理費用くらいならば、十分に貯蓄で穴埋めをしてこれた。
しかし、お嬢様が紅霧で幻想郷を包んで以来、紅魔館の財政は一変してしまった。
確かにあの異変によって、紅魔館には良い影響があった。お嬢様の我侭も以前ほどではなくなり、妹様が暴れる回数も格段に減った。
私も冗談を言い合うことができる気が置けない大切な友人ができたが、それはひとまずおいておこう。
しかし、それらを帳消しにしても、余るぐらいに財政には悪い影響も出ていた。
原因は魔理沙である。いや、正確には魔理沙の本の借り方にある。弾幕に物を言わせ、紅魔館の各所を破壊し、図書館に強行侵入、『借りてくぜ!』の一言で本を強奪していく。殆ど強盗である。
だいたい物理防御特化の近接格闘タイプの美鈴が高速移動と遠距離高出力射撃タイプの魔理沙と弾幕ごっこで戦うこと自体がおかしいのである。
相性が悪過ぎる。それも紅魔館の敷地内で戦えば、門、塀、庭園が流れ弾で破損されてしまうこと。(美鈴は負傷しても直に回復する為被害からは除外。)
紅魔館内に侵入し、私がなんとか撃退しても、周囲はかなりの被害がでる。私が敗れ、図書館に侵入されれば、パチュリー様が高出力スペルを使用する為に被害は広がる一方であった。
これに妹様が起きている時ならば、妹様が魔理沙にじゃれ付き、更に被害が甚大にとなってしまう。
その修理、片付けで忙しくなり自由な時間が持てなくなってしまっている。
私が神社に行けない間に、外から来た神社の巫女が霊夢に言い寄っているようだが、早めに釘を刺しておかないととんでもないことになってしまう。いや、だから私のことはひとまずおこう。
パチュリー様もパチュリー様だ。口では魔理沙が来る事を嫌がっているが、本心では魔理沙が来る事を楽しみにしている。
そのくせ魔理沙を通せば、ザル門番、駄メイド、猫度が足りないと嫌味を言ってくるのだから。
今では蓄えた貯蓄もかなり減ってしまった。こんな事を続けていては、やがて紅魔館は破産してしまう。
お嬢様は、あまり気にしていないようだが、やはりここは一度、現状をはっきり報告して対策を立てた方が良いだろう。
そう思い、お嬢様の部屋に向かった。

「お嬢様、咲夜です。今、時間がありますでしょうか?」
「入ってきなさい。」
部屋に入るとお嬢様はパチュリー様とチェスをしている。
戦況はお嬢様が劣勢に立たされている。と、言うよりも、これは既に詰んでいるのではないか?
「ねぇ、パチェ。やっぱりこのナイト待ってくれない?」
「駄目よ。」
「いいじゃない。」
「諦めなさい。もうどうにもならないわ。」
「わかったわよ。じゃぁ、一度やりましょ!」
「もう嫌よ。今日だけで3回やってるじゃない。それも全部レミィの負け。」
「今日はちょっと調子が悪いだけよ。」
「昨日は2回、一昨日は4回やって、全てレミィの負け。そして言い訳もまったく同じ。昔のレミィはもっと強かったのに、いつの間にこんない弱くなったのかしら。もっと勉強しないとスカーレット家の名に傷がつくわよ。」
「五月蝿いわね。わかったわよ。やらないなら、図書館に帰りなさいよ。」
「そうさせてもらうわ。今度やる時にはせめて昔くらいの強さに戻ってから呼んでね。」
そう言うとパチュリー様は部屋から出て行った。
「さくや~!」
その途端、お嬢様は泣きながら私に抱きついてきた。
「悔しい~!何とかパチェをギャフンと言わせられない?」
ギャフンってどこの言葉だろう。外の世界で使われなくなった言葉が幻想郷に流れてきたのだろうか?と関係ないことが頭に浮かんだ。いやいや、それどころではないのだ。
「お嬢様、そんなことよりもっと大事なお話があります。」
「そんなことじゃないわよ。これはスカーレット家の誇りに関わる問題なのよ。その為にはパチェを……」
パチュリー様も大人気ない。お嬢様が連敗しているなら、たまには負けて下されば良いものを。
これでは、本当に魔理沙対策だけでなく、パチュリー様への対応も考えなくてはいけないではないか。そんな事を思ったと同時にひとつのアイデアが浮かんだ。
これは上手くすれば、紅魔館の財政難もお嬢様の要望も解決でき、ついでに私も霊夢に会いに行く口実が出来るのではないか?

「お嬢様、実はお話しておかなくてはいけないことがあるのです。」
「それより、パチェを……」
「聞いて下さい。お嬢様。現在、紅魔館の財政はかなり危険な状態に入ろうとしているのです。」
「どういうこと?」
「度重なる魔理沙の破壊行為による修理費で、蓄えが著しく減ってしまったのです。」
「それってまずいんじゃないの?」
「まだ、蓄えがありますが、このままでは近いうちに危険な状態になります。ですが、ひとつアイデアがあります。このアイデアが上手く行けば、財政難も解消できますし、パチュリー様をギャフンと言わせられるかもしれません。」
「ほんと?」
「はい。確実とは言えませんが、かなりの確率で何とかなると思います。」
「わかったわ。咲夜、思うとおりにやりなさい。」
「わかりました。」

早速、私は図書館に行くと、パチュリー様に現在の紅魔館の状況とその打開策を説明した。
その打開策とは、この図書館の本を貸本にするという物であった。
内容は以下の通り。
図書館内で全く許可できない本を除き、全ての本にランクをつける。
借りに来た者を会員登録し、貸し出しを許可されている本を一度に3冊まで借りる事ができる。(又貸しは禁止だが、最初から誰かの依頼で借りに来た場合は例外とします。)
料金は最初の1週間は無償。それを越えると本のランクと日数によって賃借料(ランクと実質借り出した日数より計算)を払わなくてはいけない。
期日を過ぎても本の返却をしない及び賃借料を支払わない場合は督促状を発行する。(場合によっては、その者の家に督促状を貼り付ける事もあります。)
督促状を無視して本の返却をしない者、賃借料に加え、延滞料を上乗せし支払いを要求する。支払わない者には、取立てを行なう。(取立て時に支払えない場合は物品の差押さえを行ないます。また、取立て時に抵抗して取立て者が借りた者の所有物が破損しても、紅魔館では一切責任を負いません。)
貸し出しが全く許可できない本を含む全ての本は、図書館内で閲覧、写本を無償で許可する。(紅茶のサービスがあります。)
本を返却できない状態にした者には弁償してもらう。
図書館に訪れる際には、破壊活動をしない。(破壊活動により修理費が発生した場合、弁償してもらいます。)

現在、この図書館に本を借りに来る者は、魔理沙、アリス、慧音(時々阿求にも頼まれる)、(主人の輝夜に頼まれて借りに来る)鈴仙のみである。
魔理沙を除けば、貸し出し禁止の本を持ち出さず、1週間以内に返却しない者はいないので、この規則を適用しても困る者は魔理沙を除いて居ない。

「これをやるの?」
一通り説明を終えパチュリー様を見るとそれ程、顔色を変えずにそう言った。
「はい。現状、実際に本の貸し出しを行なっておりますが、持っていかれては困る本を明確にし、貸し出しの際のトラブルを減らす為にも良いと思うのです。」
「上手く行くのかしら?大体誰が取立てなんてやるの?」
「それは紅魔館の以外の者に外注しようと思います。その方が、何かトラブルがあった際にも紅魔館では、知らなかったと言う事に出来ますので。」
「そう。」
パチュリー様が何か考えているようだ。ここはもう一押ししておこう。
「それでパチュリー様には申し訳ないのですが、本のランク付けをお願いします。それと図書館内での閲覧、写本を行なう者が居ると思いますので、その際には助言等ありましたらお願いします。」
これは暗に魔理沙が写本をする際にパチュリー様に手を貸して欲しいと言っているのだ。そして、他人に冷やかされても、この言葉を言い訳にすることができるはず。
「わかったわ。紅魔館も大変ですものね。」
「ありがとうございます。」
パチュリー様の了解に私は謝礼を返し、次の目的地博麗神社に急ぐ。

博麗神社では、霊夢がのんびりと境内を掃除していた。久しぶりに会うので思わず顔がにやけそうなのをぐっと我慢し、霊夢に話しかける。
「ごきげんよう、霊夢」
「咲夜じゃない。久しぶりね。」
「色々あって大変だったのよ。」
「そう?立ち話もなんだから、上がりなさいよ。お茶くらい入れるから。」
「ありがとう。そうさせて貰うわ。」
霊夢が私に背中を見せた瞬間に時間を止める。
あまり霊力を消費した時間操作では直に霊夢にばれてしまうので、止めていられる時間は極僅か。
その僅かな時間に霊夢を後ろから抱きしめ、黒髪に顔をうずめる。霊夢の優しい暖かさと甘い香りを堪能する。しばらく来れなかったのだからこのくらいしても良いだろう。
そして、再び時間が流れ出す前に、霊夢から身体を離す。
「?咲夜、今、時間を……」
「どうかしたの?」
さすが勘の良い霊夢だが、私は霊夢の言葉をさえぎる様に聞き返し、誤魔化す。
「……なんでもないわ。」
そう言うと霊夢は居間に上がり、そのままお茶の準備をする。私もお邪魔させて貰い、卓袱台の前に座る。
「で、どうしたの?」
私にお茶を出しながら、霊夢が来訪の理由を尋ねてきた。
「今日はお願いがあってきたのよ。」
(貴方に会いに来たのよ。)とは流石に言えないので、本題を話し始める。
「お願い?めんどくさい事なら聞かないわよ。」
「霊夢にもメリットがある話よ。」
「…・・・いちおう聞くけど、何?」
「実は魔理沙が図書館の本を持って行く時の周辺への被害が酷いのよ。今迄は蓄えで何とかしていたのだけど、その蓄えもかなり減ってしまって……」
「お金ならないわよ!」
「お金のことなら始めからここには来ないわよ。」
「……じゃぁ、何?」
「勝手に持って行かれない様に規則を作って会員制の貸本業をしようと思うの。」
「ふ~ん。それは良いけど、魔理沙がその規則を守るとでも思っているの?」
「まさか。魔理沙が守るはずがないわ。だから、霊夢には魔理沙が勝手に本を持ち出したり、返却しない場合の本の回収と料金の徴収をして貰いたいのよ。」
「商売の手伝いなんてする気はないわよ。それも徴収担当なんて。」
「勿論、お礼はするわよ。成功報酬になるけど、料金の半分を博麗神社に寄進するわ。」
「お金の問題じゃないの。」
「あくまでも建前で良いのよ。霊夢が回収を担当するって事で契約したことにしてくれれば。契約したことにしてくれれば、お金は払えないけど、私が毎日のおゆはんをここに作りに来るけど、どうかしら?」
「おゆはん、毎日作ってくれるの?」
「えぇ、勿論、材料も込みで。」
「わかったわ。でも、本当に回収が必要になるよなことにならないようにしてね。」
「えぇ。大丈夫のはずよ。」
(やっぱり霊夢は優しいわ。本当なら、ここは、『えぇ~おゆはんだけでなく、三食作りなさいよ~!』、『ついでに洗濯と掃除もしていきなさいよ~!』、『めんどくさいから咲夜がここに住込みなさいよ~!』くらいごねてくれると嬉しいのだけど、霊夢って本当に欲がないんだから。でも、これで毎日霊夢に会う口実ができたのだから、良しとしましょう。)
本当なら、このまま霊夢と雑談でも始めたいのだが、私にはまだやらなくてはいけない事がある。
断腸の思いで、霊夢に別れを告げ、今度は今迄本を借りに来ていた者達にこの話をしに行く。

人里に行き、慧音と阿求に説明をする。二人とも直に了承してくれた。
次いで永遠亭に行き、鈴仙、永琳、輝夜に説明をする。こちらも特に問題もなく了承してくれた。
永琳に関しては、いっそのこと図書館内の閲覧のみにしてくれれば、姫様も外に出てくれるのにと零したが、聞こえないふりをした。
次いで、魔法の森に行き、アリスに説明をする。これもあっさりと了承してくれた。
最後に、魔理沙の家を訪れた。出かけている確率が一番高い為最後にしたのだが、本日は在宅であった。
早速、説明をすると『おまえらの方が長く生きるんだから良いじゃないか』、『友達から金を取るのか?』、『そんな規則勝手に作るな』、等苦情を言ってきた。
全て予期してきた言葉なので、『貴方直に死ぬ気はないのでしょ?」、『貴方は友達の家を壊して平気なの?』、『貸している側にこんな規則を作らせるのは誰かしら?』と答えてあげた。
それでも、『私は今迄通りにやらせてもらうぜ!』と言ってきたので、『仕方ないわね。貴方が規則を守らないなら、私達も弾幕ごっこの規則を使わず、貴方を賊として対応するわ。言っておくけど、美鈴は弾幕ごっこでは弱いけど、純粋に格闘戦なら、私なんかより遥かに強いわよ。それと貴方御自慢のミニ八卦炉が戦っている最中にどこかに消えてしまうかもしれないから気をつけた方が良いわね。』と、にこやかに答えてあげた。
弾幕ごっこは妖怪が異変を起こし易くする為、そして人間がそれを解決し易くする為に、ゲーム感覚で決闘を行なえるようにしただけで、別に問題解決の為の手段となったわけではない。当然ながら人間同士なら弾幕ごっこで問題の解決することはない。逆に弱小妖怪や妖精等の間では未だ純粋に力だけの戦闘になる事が多い。盗みを行なう者への対応として弾幕ごっこで対応しなくてはいけない等という規則はない。
魔理沙は顔色を変えた。まさか私がここまで言ってくるとは思わなかったのだろう。付け入るなら今しかない。
「それと、この規則を適用してしまうと、貴方が今借りている本全てに今日から料金が発生してしまうのよ。貴方の為にも是非一旦返却する事をお勧めするわ。勿論、料金を払って頂けるなら構わないわよ。そうそう、言い忘れたけど本の返却及び料金の取立ては霊夢に頼んだわ。ここで、霊夢と全力で弾幕ごっこをしたいなら構わないわ。弾幕ごっこが終わって貴方の家はどうなっているかは、わからないけど。」
今の私の言葉で魔理沙は完全に蒼白になってしまった。
魔理沙が今迄強奪してきた本は既に百冊にも届く。それも希少な魔導書が多い為、料金が発生すればとんでもない額になる事を魔理沙は理解したのだろう。
加えて、魔理沙にとっては、霊夢と全力の弾幕ごっこを出来るのは願ってもないことなのだろうが、ここでやれば魔理沙の家は当然ただでは済まないことも理解したようだ。
今迄紅魔館に好き勝ってやって来たツケなのだからしかたないと思って貰うしかない。
「……仕方ないな。今から本準備するから、持って行ってくれ。」
どうやら私の忠告(脅迫ではない)を聞き入れてくれたようで、魔理沙は家に入ると強奪していた本を纏め始めた。
「友達のよしみで手伝ってあげるわよ。」
私も魔理沙の家に入ると乱雑に詰まれた本や道具を片付けを手伝い、強奪された本を全て回収し、紅魔館に戻った。
小悪魔とパチュリー様に『どうやって本を返してもらったのか?』と問われたので、『規則をよく理解してもらっただけです。』と答えておいた。

翌日、早速、魔理沙が本を借りに来た。規則も記憶に新しいのか、門の外まで箒に乗って来て美鈴に挨拶をし、紅魔館の敷地内を徒歩で図書館まで来た
そして予想通り、貸し出し禁止の本を選ぶと、貸して欲しいと言い始めた。当然の如く、パチュリー様は貸し出し禁止を言い渡し、写本をするように薦める。
魔理沙は最初こそごねたが、最後にはしぶしぶそれを了承し、写本を始めた。
書き写す事も勉強になる為か、魔理沙は度々わからない箇所をパチュリー様に尋ね、パチュリー様もそれに丁寧に答えていた。
私は一通り成り行きを見ていたが特に問題もないので、紅茶と御茶菓子を小悪魔に渡して、本来の職務に戻った。
流石に厚い魔導書を一日で写本する事はできない為、魔理沙は1週間、図書館に通う事になった。
その間、慧音や鈴仙が本を借りに来て、問題なく貸し出しを許可された。
「咲夜、本当にパチェをギャフンて言わせられるの?」
毎日、魔理沙が来る事を楽しみにして浮かれているパチュリー様を見てお嬢様がそんな事を尋ねてきた。
「今のところは予定通りです。あと、数日だと思います。」

そして、運命の日はその2日後にやって来た。
アリスが図書館にやって来たのだ。
これによって計画は最終段階に突入した。
アリスはどうやら魔理沙が図書館に通い詰めになっていること(正確にはパチュリー様と会っている事)が気に入らないようだが、それを口に出す事はせずに、魔理沙同様、図書館で写本を始めた。
只、アリスの写本の方法は魔理沙と異なっていた。アリスは人形を操作し、写本をさせることができるのである。
当然、魔理沙はそれを見るとアリスを羨ましがり始めた。アリスは魔理沙に話しかけられて嬉しいのか、嬉々として話をし続ける。
そのうちに、魔理沙の分の写本もアリスが人形を使い、行なう事になった。
アリスにとっては、同じ本を何冊もそれも複数の本を一挙に写本する事が出来るのである。魔理沙の分が増えることなどたいした問題ではない。
こうなってしまえば、魔理沙の中では、パチュリー様は魔理沙に本を貸してくれない意地悪な存在で、アリスはその魔理沙を救う存在となった。
今迄が魔理沙と一緒で浮かれていたパチュリー様にとっては、この落差はかなり大きい。
遂に魔理沙とアリスが図書館内で仲良くしているのに耐えかねたのか、パチュリー様は私とお嬢様にこの貸本の規則を廃止するように求めてきた。
お嬢様は『なぜ止める必要があるの?パチェも本を持っていかれなくなって良かったじゃない。』、『紅魔館も壊されなくなって助かっているのよ。』と詰め寄ったが、結局パチュリー様は何も言い返すことが出来ずに悔しそうに、俯くしかなかった。
結局、パチュリー様の悔しがる顔を見れたことでお嬢様の気が晴れたのか、その日の内にこの貸本制度は廃止となった。

この制度が廃止にしてから一月になったが、規則を作った効果は残り、魔理沙は期限こそ定めないが、本を借りても使用し終えた後には返却するようになった。(どうしても欲しい本は相変わらず、アリスに写本させているらしい。)
紅魔館の破壊も以前ほどではなくなった。
しかし、紅魔館が以前ほど破壊されなくなった一番の理由は、魔理沙が最近出来たお寺の魔法使いの下で修行(本人は遊びに行っているだけと言っている)を始めた為、図書館に来る回数が格段に減ったからである。
現在、パチュリー様がアリスとにとりを呼び寄せ、魔理沙が寺にばかり行かないようにする方法を検討しているようだ。
博識の魔女と技巧派の魔女。そして技術屋の河童、人付き合いの苦手なこの三人がいかなる作戦を立てるのか気になるところではある。

私はと言うと、未だに霊夢におゆはんを作っている。
「咲夜、卓袱台の上片付けたわよ。」
「私の方も完成よ。今日は野菜と若鶏を香草で蒸し焼きにしたわ。」
「う~ん、良い香り。それにしても、そうしているとまるで若奥さんみたいね。」
「もう、霊夢、からかわないでよ。」
「咲夜!危ないから!包丁振り回さないで!」
「あっ、ごめんなさい。それじゃぁ運びましょ。」
「うん。」
霊夢が近付いた瞬間に時間を止めずに霊夢を抱きしめる。
「ちょっと、咲夜!また?」
「うん。霊夢分の補給よ。」
「もう、前から聞こうと思ってたけどその霊夢分って何よ。」
「霊夢分は霊夢分よ。因みに霊夢分が不足すると集中力低下、倦怠感、眩暈、貧血、最悪死んでしまうのよ。」
「・・・・・・死んじゃうなら仕方がないわね。」
「そう。仕方がないのよ。」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……ねぇ、まだ?」
「……もう、ちょっと」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……ねぇ?」
「……もう、ちょっと」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……ねぇ!」
「今日はこのくらいでいいわ。早く運びましょ。」
顔を赤らめる霊夢を残し、私は急ぎご飯と蒸し焼きを運ぶ。
「もう、勝手なんだから~」
後ろから少し怒った霊夢の声が聞こえてくる。そんな甘い生活をしている筈なのに……
「おっそいぞ~」
「まったく、夕食を作るのにどれだけ時間がかかるのかしら。」
居間に来た私と霊夢を向かえる伊吹萃香と八雲紫。
「あんたらいつの間に来たのよ。」
「「今」」
「それで、何で今日も貴方達は来ているのかしら?」
私は怒気を極力押さえ、無理に笑顔を作りながら問いかける。
「何度も言ってるのにもう忘れたの?頭が悪いのかしら?毒見よ。悪魔の狗が霊夢に変なもの食べさせないように。」
紫が失礼な事を言ってくる。
「そんなことしないわ。って何度も答えているのだけど、それを忘れてしまっているのかしら、このスキマは。」
「もう一月もこんななんだから諦めなよ~。」
紫と視線をぶつけ合う私に今度は萃香がそう言いながら、折角作った蒸し焼きを取るとそれをツマミにお酒を飲み続ける。
「あれ~これ味がないよ~」
「あら、ほんと。味覚がおかしいのじゃないかしら。」
紫は横から蒸し焼きを摘み食いして好き勝手な感想を言う。
「蒸し焼きにしたから旨みは鳥から十分に出ているわ。だから、健康の為にも塩分を控えめにしたのよ。」
「単に塩をケチったんじゃないの?」
「そうだね~。酒のツマミとしては、もの足りない味だね~。」
「ちょっと、私の夕飯なんだからこれ以上食べないでよ!」
文句言いながらもどんどん食べる二大妖怪を相手にいつもの暢気さを全く感じさせない早さで御飯と蒸し焼きを口に押し込んでいく霊夢。
そんな三人を見て、私は今日も肩を落して溜息を付くしかなかった。
結局、この日の夕食も慌しく終わった。

「ごめんね、咲夜。折角作ってくれたのに。」
片付けを終え、帰る私を玄関まで見送りに来てくれた霊夢が謝ってきた。
「霊夢は悪くないのだから気にしないで。」
「毎日こんなで、もう作りに来るのが嫌でしょ。もともと契約だってふりだったんだから。それに、本の回収だってしていないし、今までご飯作ってくれた分くらいは仕事引き受けるわよ。」
「私は契約をしているつもりよ。そして契約の維持は必要な事と判断しているの。だから契約が維持されている限りは作りに来るわよ。」
「ありがとう、咲夜。えっと、こんなんじゃ霊夢分とかの補給になるかわからないけど……」
霊夢はそう言うと、私の唇に軽く口付けをしてくれた。
「……今の私にはこのくらいしか出来ないから……」
「十分補給できたわ。ありがとう、霊夢。明日も来るわ。」
真っ赤な顔をして俯く霊夢を抱きしめ、私はそう霊夢答えた。
(いつかあのスキマと酔っ払いを追い出して、霊夢が誰のものか判らせてやる!)
そう心に誓い、私は帰路についた。

'10/04/20 誤字修正
まだまだ稚拙ですが、最後まで御付合い頂きありがとうございます。
オチは読めていましたよね。(笑)

最初は、以前のSSの後書きに書いた転生ネタを再構築して、書いていたのですが、全体の約半分を書いた時点で矛盾が発覚してしまい、どうせオリ設定満載なんだから、適当に直したんですが、全然楽しくなくなってしまいました。(やっぱり自分の妄想に嘘をついて、適当に直してはいけないことがよく判りました。)
その為、更に再構築し直しているうちに、煮詰まってしまい、更に転生ネタは殆ど甘味がないので、そのストレスで咲霊の駄々甘な話を書きたくなってしまいました。
丁度、転生ネタを思い出している最中に、以前妄想しまくったのに、書いていなかったネタがあったのを思い出したのでこれを書きました。

さて、自分に対しての御褒美もしたし、頑張って転生ネタを妄想して書き上げよう。

誰か、私を甘味過多で苦しむくらいの駄々甘な咲霊SSを恵んでくれると嬉しいのですが…

最後にネタが被っていたらごめんなさい
伏狗
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
スラスラと読めました。
何だか以前より文章力が上達しているような気がします。
2.名前が無い程度の能力削除
後半の甘さがパネェっす!
さくれいむはもっと増えるべき
3.奇声を発する程度の能力削除
甘い…甘すぎます!!
だが、それが良い!
4.名前が無い程度の能力削除
咲夜さんが霊夢を抱きしめて匂いを嗅ぐ様を想像するだけでご飯三杯はイケるね!
5.名前が無い程度の能力削除
咲霊いいよね、もっと書いてくれ

誤字?報告
「ちょっと、私の夕飯なんだからこれ以上食べないでよ!]
最後の鍵括弧
6.伏狗削除
1.様
ありがとうございます。上達できるか判りませんが精進します。

2.様
私ももっと咲霊増えて欲しいのです。レミ咲迄とは言いませんが、せめて美咲位には増えて欲しい…>それでも結構の量ですね

3.様
この二人が互いに頼り合う関係になったら、このくらいの甘さになって欲しいって私の願望なんですが…甘過ぎますか?

4.様
私も試しました。この甘さだとご飯2杯が限界でした。

5.様
誤字報告ありがとうございました。
小ネタ(この2人にこう言う場面をやらせたい)はあるのですが、そこそこストーリーっぽくするのに難儀してます。