Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

ただしそれはカタルシスなどではなくて

2006/05/26 20:18:25
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くしゃり と なんとも小気味良い 

僅かに心に痕を引き、やがて砂となって消え往く感触をして
フランドールはモノを破壊する
暗い黒い地下室で 鉄の扉の内側で 闇でタール色にしか見えない土壁を背にして

手のひらを広げて その上に五センチほどの鉄の鍵をのせた
これをこれから くしゃりと壊す なんとも小気味良い音をさせる
弾ける感触が 飛び散る衝動を誘起する
程よい硬さに力を込める やがてある限界点を越えると それは突然くしゃりと歪む
ピンと弾けて サラサラと散る
それがなんとも小気味良い 楽しくて 弾ける瞬間の驚きは 来ると分かりきっていても
楽しさを色褪せない 新鮮な強烈さを持つ それは存在の破壊という
生物の持つ根源的な恐怖を自在に操る愉悦と 容易く扱えることが意味する更なる恐怖
二つは相反していて相容れる なんて刺激的で 甘美な 飽きる事の出来ぬ愉悦

あぁ これから フランドールは手のひらの上の鍵を くしゃりと壊す
それは 耐え難く楽しくて 笑いを抑えられないほどに精神が高揚する瞬間
事実、フランドールは「あああ」と強い声を漏らしながら その手を閉じた

くしゃり と なんとも小気味良い感触

けれど壊した後で フランドールは一度の例外もなく 泣き崩れる程の辛さを経験する
一瞬の快楽の後に訪れる 心が喰われる痛み 白くて緩いセメントが己の内側から溢れ精神を溺れさす
もがこうとしても 重くまとわりついた粘性が意識の動きを使い物にならなくする
じわじわと 拘束されて 抗えず ただただ息苦しくて やがて何かが死んで無くなるのだ
己が 思考が 存在が 心が 何か拠り所にしていたはずの 何か。 確かにそれはあったと思っていたのに。

空虚に気がつく 希薄ですらなく何も無い

その事実を拒絶し吐き気を催そうとするが 出るものはなく 
空っぽの存在に残された外側の容れ物を不快に触り続けるのみであった  

壊す前の自分が根拠なく存在を 信じて疑えなかったその自信が 意味の無いものになる
遣る瀬無く 辛い 悪寒の塊が全身をごそごそと遠慮なくのた打ち回り
抗う術の無い内なる変化に 涙の堰は切れ 流すことを厭えず ただ耐えも出来ず打ちのめされる


しばらく経って 擦り切れてぼぉっとした意識がやっと集まり うっすらと戻る自我でフランドールは考えた
ありとあらゆるものを破壊する それは対象の存在のみならず 対象が占める己の世界をも壊している?
果たして、壊したからなくなったのか
あるいは、初めから無かった事を気がつかされるのか

耐えがたき愉悦と喪失 その繰り返しは 昔から、初めて壊したその日からずっと続いてきた
飽きることなく慣れることないそれであったが それに対する恐怖は 躊躇う気持ちはとうに失せていた
己が精神が昂ぶり失墜する様を 少し浮いた自我が冷静に観察し 麻薬のように刺激に依存していった
今では 喪失の苦痛すら そこで流す涙すら 壊す楽しみの一つとなっていた



フランドールは未だ 人を破壊した事は無い
事故や何やで死に至らしめたことはあれど この能力で己と同等の生を破壊した事は無い
鍵ですらこれほど楽しくて辛く 涙が滲むのだ
例えばもし大好きな      どれほど弾けて そぎ落とされて 涙は流れるのだろうか


それは、怖い。 我に返って気がつく 本当に怖くてわなわなと震えた
鍵が壊れて開け放たれた扉 その先の外の世界を思って 考えてしまった自分がたまらなく怖い

フランドールは、自分が世界を愛する理由が、家族を大切に思い、友に憧れるこの心の変化が
すべて、この中毒を愉しむために用意されたのではないかと恐怖した

それは絶対に嫌だと思うのだけれど 強く、強く拒絶するほどに 悲劇性の甘美に酔う自分に気がつく

ただしそれは 悲劇などではなく 劇ではなく 虚構でなくて
事実、実際として くしゃり と なんとも小気味良いか
自身主体の事実と未来の喩えの話
らららくらら
コメント



1.森の仲間たち削除
やばい、やばいよこれ。

貴方の作品は、適当に書いているようで、その実、とても上手い。
2.名無し妖怪削除
どこか淫靡な雰囲気すら漂わせる 歪んだフラン様 万歳
3.らららくらら削除
感想ありがとう。
想いを心が裏切るのです。
この空気を感じていただけて幸せです。