Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

長雨の降る夕に

2006/04/20 08:34:34
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*当作品は『長雨の降る日に』の続編ですが、読まなくても楽しめます。多分。




 長雨は、降り止む気配を見せなかった。
 代わりに強くなる気配もない。しとしとと、静かに降り続いている。周りの音を吸い込んで、村の音を吸い込んで、雨は降り続ける。
 聞こえる音は、互いの音だけだ。
 慧音は妹紅のたてる音を。
 妹紅は慧音のたてる音を。
 互いの音しか聞こえず、視界にはお互いしかいない。
 まるで――雨によって、外の世界と境界を区切られたようだと慧音は思う。
 長雨の幻想郷。隔離された二人だけの世界。
 それも悪くはない、と思うのだ。

「はい、拭き終わったぞ」

 妹紅の髪をつかみ、白い首筋を拭き終えてから、慧音は言った。つかんだ手を放すと、妹紅の綺麗な裸身を隠すように、銀色の髪がばらりと舞った。
 今、妹紅は限りなく裸に近かった。身に纏っている布は、下腹部を隠す下着しかない。いつもの服は、慧音によって剥ぎ取られていた。
 といっても、別に無理矢理にではない。水を嫌って風呂に入ろうとしない妹紅に業を煮やし、慧音が濡れタオルで身体を拭いてあげたのだ。
 まるで猫みたいだ、と慧音は微笑ましく思う。水を嫌ってお風呂に入ろうとしないのも、媚びることをしないくせに人に擦り寄ってくるところもだ。
 それを心地良いと、心の底から思う。

「ありがと、慧音」
「こんな事でよかったらいつでもするさ」

 使い終わったタオルを、慧音は桶につける。その仕草を見ながら、妹紅は足をぶらぶらと揺らす。いつものもんぺをはいていないので、無駄な肉のない脚線美がよく見えた。
 少しだけ羨ましい、と慧音は思う。自分に較べて、妹紅の身体は引き締まっている。妹紅はそれを“慧音の方が女っぽいよ”と言うが、自分からしてみれば、慧音のソレこそが女性のようだと思う。
 “女”と“少女”の体つきの差に、慧音は気づかない。自分のことだから仕方がないと言えば仕方がないのだが。
 ようするに、胸や尻や腰のふくよかさか、無駄な脂肪肉――胸や尻も含めてだ――が存在しないかの違いだ。どちらが良い、とはひと言に言えない。
 慧音は妹紅を羨ましく思うし、妹紅は慧音を羨ましく思う。
 とくに――

 ――妹紅は、それ以上、育つことがないから。

 そのことが二人とも分かっているから、深く口に出して言うことはなかった。
 素直に綺麗だね、と言うくらいだ。

「これで終わり?」
「ん」
「……服は?」

 妹紅の小さな問いに、慧音は無言で指を差す。
 湯と差し指が指し示す先。そこに妹紅の服はあった。
 ただし、でっかい桶に詰まった水に沈められている。
 とてもじゃないが、着れるような状態にはなかった。

「あ――っ!」

 目を丸くして声をあげる妹紅。
 その妹紅を見て、慧音はやれやれと肩を落とす。

「まさか着ようと思ってたんじゃないだろうな」

 慧音の問いに、妹紅は無言で肯定を返す。

「ダメだぞ、ちゃんとあらわないと。服にだって汗や汚れがつくんだから」

 新陳代謝があるかないかに関わらず、ずっと着ていれば空気中の埃で服は汚れる。風呂に入っていないということは、服もあまり代えていないということだ。毎日代えろとは言わないが、最低三日に一度は変えてほしいと慧音は思う。

「……ひょっとして、あれが乾くまで裸?」

 妹紅の不安をはらんだ声。
 その問いに、慧音は満面の笑みと共に答えた。

「――まさか」


     ◆  ◆  ◆


「どうするかと思ったけど……こういうことね」
「妹紅、着れるか? きつくないか?」
「んー。大丈夫、ちょっと大きいくらいかね」

 両手をぱたぱたと動かしながら、妹紅は答えた。
 さっきまでとは違い、今は服を着ている。
 いつもの服、ではない。
 慧音の服だ。
 いくつかある予備のうちの一つ。ブラウスとワンピーススカートという、妹紅のもんぺ姿とは対照的な服だ。
 少しだけ大きな、袖からかすかにでる手を振る妹紅の姿を見て、慧音は思う。
 よく似合っている、と。
 元がいいだけに、着飾れば凄いものがあった。蓬莱山 輝夜が着ているような和服もきっと似合うのだろう。今度かりてきてみようか――そんなことすら思う。

「あ――でも、」
「でも?」

 妹紅は、その指先で、スカートの裾をつまんで、

「下がすーすーする」
「……。まあ、それは仕方がない。よく似合ってるぞ」
「そう?」

 妹紅は摘んでいた指を放し、そのスカートが元の位置に戻るよりも早く、片足だけでくるりと回った。
 遠心力にしがたって、スカートの裾が、くるりと回る。
 綺麗な真円を描いて、妹紅のスカートが舞った。
 畳の上で器用な――と思いながらも、慧音は拍手を送った。
 妹紅は照れくさそうな顔をして、頭をぽりぽりと描いた。
 二人とも銀の綺麗な長髪なので、もしここに第三者がいたとすれば、二人を仲の良い姉妹か何かだと思うだろう。
 どちらが姉でどちらが妹かは、誰にも分からないだろうけれど。
 姉妹でも、友人でも、恋人でも、親子でも、家族でもない。
 心地の良い距離。
 晴れた朝に、猫と一緒に町を散歩するような――そんな、言いようのない関係。
 猫はふらっと何処かに行ってしまうかもしれない
 けれども、それと同じように、ふらっと返ってくるのだ。
 妹紅は猫のようだ、と慧音は思う。
 妹紅もいつか、ふらっと、どこか遠くへ行ってしまうのかもしれない。
 けれど。
 永遠の命がある妹紅が――いつか、ふらっと帰ってくるとき。
 ふらっと帰ってこられる場所が、自分のところになればいいと、慧音は思うのだ。

「こういうのもたまにはいいな」

 珍しいスカートが気に入ったのか、ぴょんと跳ねたり、回ったりを妹紅は繰り返す。
 楽しそうなその仕草を、慧音は微笑みながら見つめている。

「気に入ったのなら、それは妹紅にあげようか」
「いいの?」
「勿論。大切にしてくれるなら、その方が服にとっても嬉しいことだよ」
「……いいや」
「いいのか?」
「うん。着たくなったら、また慧音のところに来るよ」

 妹紅は少しだけ顔を赤くして、へへ、と笑う。
 つられて、慧音も、小さく笑い返す。
 二人で笑いあう。
 二人の他には誰もいない。
 誰の声も聞こえない。
 互いの存在にしか、頭にはない。
 雨だけが、優しく彼女たちを見守っている。


 外の雨は止む気配を見せない。
 長雨は、ほんの少しずつ、その勢いを増していった。




森近 霖之助 曰く
「慧音……妹紅……コレをアルファベットに直すと「KEINE MOKOU」になる。
 その言葉をアナグラムすると「OK ONE MIKE U」になる。
 このうち、優曇華のUを外すと「OK ONE MIKE」になる。
 MIKEは男性名……つまり少女には相応しくない名前だ。よって除外する。
 残った者は「OK ONE」。
 つまり、けねもことは唯一にして至高の存在、「たった一つのさえたやり方」を現していたんだよ!!!!!」


……残るは『長雨の降る夜に』。それでけねもこは終わり……のはず……多分。きっと。メイビー。
人比良
コメント



1.ryu削除
良い雰囲気ですね。
それはそれとして、「今、慧音は限りなく裸に近かった」の文中の慧音は妹紅では無いでしょうか?
2.人比良削除
>ryu 様
ハイ 誤字でした。申し訳ありません。
すぐに修正させて戴きました……ありがとうございます。
3.名無し妖怪削除
そのまま夜の延長戦に突入しそうだがなー