Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

紅色の夕食と夕食以外のもの。

2006/04/13 12:11:05
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 妹紅が台所に立っている。
 その珍しい光景を、慧音はぼんやりと見つめている。リズミカルな包丁の音を聞きながら、てきぱきと動く後姿を、何をすることもなく見ている。普段のYシャツともんぺの上に割烹着を着た姿は、中々に似合っていた。仕草がやけに落ち着いているせいで、新妻というよりは家政婦さんにしか見えない。
 それでも、自分のために甲斐甲斐しく料理を作ってくれている――その事実が慧音の心を躍らせた。
 本当に新妻ならいいのに。
 左右に動く尻を、もとい後姿を見ながら慧音はそう思う。いや、別に新妻に限ったことではない。姉でも妹でも母でも娘でも何でもないいのだ。
 家族という絆が築ければ。
 家族という枠組みにはめれれば。
 妹紅は自由だ。生と死すら彼女を縛りつけることはできない。燃え上がる炎がどこまでも広がっていくように、彼女は遠くへいつでも行ける。幻想郷にとどまっているのは、蓬莱山 輝夜がいるからに過ぎない。
 もし、輝夜がどこかへ行ってしまえば。
 それに妹紅はついていってしまうのだろう――慧音は、ひそかにそう不安に思っていたのだ。
 そうすれば、自分は置いていかれてしまう。妹紅はきっと振り返りもしないだろう。彼女にとっての目標は、目的は、蓬莱山 輝夜への復讐なのだから。たとえ、怨む気持ちが一片も残っていなかったとしても。
 だから、家族になりたいのだ。
 ずっと一緒にいられるように。
 勝手にどこかへ行ってしまわないように――家族という単位で、家族という絆で、妹紅をくくりつけてしまいたいのだ。
 それが浅ましい考えだとは解っていたが、それでもその思考を否定することはできなかった。
 何よりも深いところで、妹紅がいなくなれば寂しくなると、慧音は自覚していたから。

「――つッ」

 どこまでも深く沈んでいきそうな思考は、妹紅の声に遮られた。
 小さく押し殺した、痛みに耐える声が聞こえたのだ。

「妹紅……? どうしたんだ」

 かける声は、かすかに震えていた。さっきまで、変なことを考えていたからだ。下手すれば漏れ出してしまいそうな『不安』の感情を、慧音は限りなく限界まで押し殺した。
 そんな感情を知ってか知らずか、妹紅は明るい声で答えた。

「いや、指を斬っただけさ」

 ほら、と言って妹紅が振り返り、右手を広げて突き出した。
 妹紅の白い人差し指。その指が、今は紅色に染まり始めていた。
 指さきが、ぱっくりと裂けていたのだ。調理中に包丁で切ってしまったに違いない。傷は深くはなさそうだったが、とろとろと血が溢れ出ていた。
 ――奇麗な血の色だ。
 まるで、妹紅の放つ火のように明るい血だ。そんな、場違いなことを慧音はふと思ってしまった。そんなことを考えていたのはわずかな間だった。すぐに思考は現実へと引き戻される。

「だ、大丈夫なのか!? すぐに治療を、」

 慌てて立ち上がりかける慧音。
 その慧音の動きを、妹紅は「いやいや慧音」と言って留める。

「こんな傷、舐めてりゃ治るって」

 言って、妹紅は指をくわえる。血のついた、傷のついた指を。
 その仕草を慧音は不安そうに見つめる。大丈夫だろうか、今のうちに包帯でも持ってきた方がいいだろうか。そんなことを考えながら。
 二秒が過ぎ、三秒を越え、四秒を迎えたあたりで、慧音は口から指を離した。
 その指に、もう血はついていない。かすかな唾液がついてるだけだ。
 そして、傷もまた、残ってはいなかった。
 ようやく慧音は思い出す。妹紅にとっては、傷など意味をなさないものだと。
 不死者である妹紅。老いることも死ぬこともない程度の能力。あんな小さな傷など、あっという間に治ってしまうのだ。
 妹紅が怪我をした。その衝撃が強すぎて、そんな当たり前な、単純なことが、慧音の頭からすっぽりと抜け落ちていた。

「そうか……そうだったな」
「だろう? さ、飯にしよう」

 妹紅は唾がついた指をエプロンでぬぐい、出来上がった料理――今日は鍋だった。妹紅がイノシシを刈ってきたのだ――を、慧音の前の机にまで運んできた。
 とん、と優しく机に鍋を置き、妹紅はエプロンを外して、慧音の正面に座った。注ぎ皿と箸はすでに机の上に備えてある。
 妹紅が先に手を合わせる。
 それに次いで、慧音も同じように手を合わせた。

『いただきます』

 二人の少女の声が輪唱し、同時に鍋へと箸を伸ばした。本当は箸で直接取るのは行儀が悪いのだが、今は二人しかいないので気にしてはいない。野菜が中心なので、箸のほうがすくいやすいのだ。時折、汁をそそぐときにだけお玉を使う。
 美味かった。
 妹紅がとってきたイノシシで妹紅が作った鍋を妹紅と食べるのは、他のどんな料理、どんな食事よりも美味しいと、慧音は思うのだ。
 それは勿論直接の味の問題ではない(もっとも、妹紅が作る料理は、慧音でなくとも美味しいと褒め称えただろうが)。
 食材ではなく、料理であり。
 栄養摂取ではなく、食事ならば。
 感情が味に多く影響を与えるのは、間違いのないことだった。
 好きな人と、好ましく思う相手と一緒に食べるご飯以上に美味しいご飯が、どこにあろうか?
 つまりは、そういうことだった。
 


        ■ ■ ■


「――痛ぃ」


 食事が中ほどまで進んだとき。
 今度苦痛の声を漏らしたのも、また妹紅だった。
 鍋に目を落としていた慧音が顔をあげると、妹紅が食器を机に置き、口を半開きにしていた

 半開きになった口の向こうに、紅色のものが覗いている。
 唇と、舌と、それ以外の理由で紅色に染まったものが。

「しひゃはんだ」

 口を開いたまま妹紅がそう言う。
 その口の中からは、血が滴り出ていた。
 今日は疲れてるんだ、そうその顔が言っていた。慧音に心配をかけさせまいという笑み。
 しかし、慧音はそんなものを見てはいなかった。
 慧音はただただ、何かに魅入られたかのように、一心に妹紅の舌を見ていた。
 血が滴り落ちる、妹紅の舌を、見つめていた。
 傷ついた舌を、じっと見ていた。

「――れば」

 慧音の口から漏れた声は、意識したものではなかった。
 意識の管轄から離れた感情が、勝手に声を出したのだ。

「な、なんひゃ?」

 そのおかしな様子に気づいたのか、妹紅の声はすこしどもっていた。
 が、やはり慧音はそんなことを気にしない。
 慧音の目は、舌にだけ、血にだけ、紅色のソレにだけそそがれている。
 視線をそらさずに、慧音は動く。
 じりじりと、立たないままに、妹紅の眼前へと迫る。
 ――妹紅にとっては、傷など意味をなさないものだ。
 そう解っていた。
 解っていても、意味などなかった。
 目の前に傷ついた舌がある。血が出た舌がある。
 紅色の唇の向こうに、紅色の舌が覗いている。
 奇麗な――紅の色。
 その紅に、慧音は、ふらふらと引き寄せられた。
 止められなかった。
 止める気など、少しもありはしなかった。


「――舐めれば、治るんだろう?」


 今度は、意識して言った。
 そして――妹紅が何を言い返すよりも、何をするよりも早く、慧音は動いた。
 加減することなく、目の前の妹紅の唇に、自らの唇を重ねたのだ。
 キス、などという、生易しいものではなかった。
 荒々しく、口から血と、生気をすうのを目的とした吸血鬼のような、勢いと情欲に満ちたものだった。

「ん――ッ!」

 重なった口の向こう。妹紅の舌と喉が動いたのを、慧音は直接肌で感じた。
 もっと感じたいと、思ってしまった。
 舌を伸ばす。妹紅の口の中へと。口と舌と血を、慧音は自らのしたで蹂躙していく。
 それは蹂躙だった。
 貪欲に愛情を求めるかのような、舌を使っての強姦だった。
 舌といわず口といわず、妹紅の中全てを、慧音は舌で嘗め回していく。口の中にある血を一片も残さないように。
 気づけば、慧音は、妹紅を押し倒していた。
 畳と慧音に挟まれた妹紅の身体が、時折感極まったようにびくんびくんと震えた。それでも慧音は止まらず、よりいっそう強く舌を動かす。
 口からこぼれ出たよだれが、畳に後をつけた。
 何分たったか、慧音にも、妹紅にも解らなかった。
 ようやく慧音が正気に戻ったのは、唾液がでなくなり、喉が渇くような――それほどまでに
キスをしたあとだった。

「あ――」

 正気に戻りかけた慧音が、ゆっくりと顔を離す。
 少しだけ離れて、倒れたままの妹紅の顔を見る。
 妹紅の瞳が、かすかに潤んでいた。その紅く上気した表情を見て、慧音はもう一度口付けしたくなるのを必死にこらえた。

「とりあえず落ち着け慧音」

 ばっ、と。
 今度は身体を起こして、慧音は少し距離をとった。
 なんてことをしてしまったんだ――そう後悔すらできない。あまりにもキスの感触が生々しく残っていて、後悔しようとする気にはなれなかった。
 ただ、とんでもないことをしてしまったという、漠然とした感情だけがそこにあった。
 何を言えばいいのかもわからない。
 ただただ、妹紅の反応を、しかられるのを待つ子供のように慧音は待つ。
 妹紅は、ゆっくりと上体を起こして、慧音を見て、口を開きかける。
 が、何かを言われるのが怖くて、慧音はその言葉を遮って言った。

「あ、その、すまない……」

 謝る慧音。
 その慧音を見て、妹紅は、やれやれ、とでも言いたげに、小さくため息をついた。
 あきれられたのだろうか。嫌われたのだろうか。
 慧音の心配を吹き消すかのように、妹紅は小さく笑った。

「気にするな、よくあるさ……多分」

 そう言って、妹紅は慧音と視線を合わせる。
 その瞳は、真っ向から、慧音を見つめていた。
 慧音もまた、視線を外さずに、妹紅を見た。
 絡み合った視線の中、妹紅が言う。

「慧音も切ったな。血ぃ出てるぞ」
「え?」

 反射的に慧音は問い返す。
 が、内心では、その意味に気づいていた。
 慧音の唇の紅色。
 それが、本当に怪我だったのか、妹紅にも慧音にもわからない。
 妹紅の血が付いただけなのかもしれない。本当に怪我をしたのかもしれない。そもそも血などついていなかったのかもしれない。ただの唇の紅色というだけかもしれない。
 けれど、そんなことは、二人の少女にとっては、意味のないことだった。
 もはやそれは口実でしか過ぎなかった。理由でしかないと解っていた。本当のことなど、もはやどうでもよかったのだ。
 今度は――妹紅から動いた。
 ほんの少し離れた慧音の頬に手をそえ、その頭を優しく引き寄せて、

「ん――」

 怪我をしないよう、優しく唇をつけた。


 今度のキスは、甘く――長く続いた。








鉄分とヘモグロビンとその他でしかない血が美しいのは、そこに命が詰まっているからです。
嗚呼、紅き物は美しく。炎の如き血の色かな。
というわけでけねもこ。そろそろてるもこ。じょじょに傾きます。
人比良
コメント



1.no削除
てるもこを楽しみにしつつもてあましておきます。
2.名無し妖怪削除
浮気はいけませんぜ?もこたん。