Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

――歯が痛いぜ。

2010/03/12 18:58:29
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「歯が痛いぜ……」

 

 赤い夕日が照らし出す秋の幻想郷。

 幻想郷の外れ、紅葉に囲まれた神社で白と黒の魔法使いが呟いた。

 縁側に座る彼女の視線の先に居た赤と白の巫女は、落ち葉を掃く手を止めて振り返る。

 赤と白の巫女は呆れたように肩を落とし、

「何よ魔理沙ったら……虫歯なの? 甘いものは控えたほうがいいって何時も言ってるでしょ?」

 あのなぁ、と魔理沙と呼ばれた魔法使いはため息混じりに呟き、

「霊夢! おまえが、キキキキキ、キッ、キッスしようとする度に勢い余って歯と歯をぶつけてくるからだよ!」

 霊夢と呼ばれた巫女は、反撃を食らうことを考えていなかったのか、黙って前を向き直る。

「仕方ないじゃない……。恥ずかしくて勢いつけないとキスできないんだもの」

 掃き掃除を再開した彼女の耳は、林檎が熟していくかのように徐々に朱に染まる。

 そんな彼女の後姿を見据えつつ、魔理沙は膝を叩きながらまくし立てる。

「は、恥ずかしいんだったら、無理にキキキ、キッ、キッスしなくてもいいだろっ。たまに血の味が混ざるんだよ!」

「嫌よ。好きな人を間近で感じたいんだもん……。でもそんな大胆なこと、お酒飲むか勢いつけないとできないでしょ」

 手を忙しなく動かす霊夢の足元、ようやく集まっていた枯葉が箒によって撒き散らされていく。

「べ、別に間近に感じるだけだったら、キ……キッスじゃなくてもいいんじゃないか? ほ、ほら……手を繋ぐとかさ」

 そうだろ? と魔理沙が同意を求めるが、肩越しに振り返った霊夢の顔は不満そうな表情を浮かべていた。

 彼女は手にしていた箒をその場に放ると、頬を膨らませて、魔理沙に詰め寄る。

「あ、いや、手を繋ぐだけじゃ不満か? じゃあ……腕を組むとか――」

 木を打つ乾いた音が魔理沙の言葉を遮った。

 魔理沙の両脇、縁側に手を突き、彼女を覗き込むように対面する霊夢の顔は熟れた林檎の色をしていた。

「なによ……魔理沙らしくないわ。嫌なら嫌ってはっきり言ってよ。私とキスなんてしたくないって……」

 紅い林檎を雫が伝い、魔理沙のエプロンドレスに跡を残す。それは次第に数を増やして。

 茹蛸の様に紅潮していた魔理沙の顔が、伝う雫を見て切なそうに強張る。

 魔理沙は彼女の肩を掴んで顔を上げさせ、   

「だ、だれが嫌なもんか! お、おまえとキキキ、キキキッ、キッスするのが嫌なわけないだろっ」

「いや……じゃないなら、なんでいやがるのよ……」

「なんでって……。いや、嫌じゃないんだけど、そりゃ……」

「そりゃ……?」

 潤んだ瞳で子供のように問いかける霊夢に、魔理沙は息を呑み、

「お、おまえの顔がこんな近くにあるだけで、私の心臓はどきどきしちゃうんだ。唇と唇と触れ合う距離は嬉しいんだけど、そのままでいると意識がふっと飛んじゃいそうで……」

 叱られる子供のように俯き、上目遣いで呟いた。

「だから別に嫌じゃないんだ……キ、キッスする度に呆けちゃう姿を見られるのが恥ずかしくて」

 魔理沙の弁明に、霊夢の涙は止まり、膨らんでいた頬は萎んでいく。しかし、不満そうな瞳はそのままに彼女は口を開き、

「別にいいじゃない……呆けた顔でも、情けない顔でも見せなさいよ! 私はあんたが好きなんだから、どんな顔でも好きなものは好きなのよ!」

「だ、だから悪かったって。……霊夢がここまで取り乱すとは思わなかったぜ」

「本当に悪かったって……思ってるの?」

 あ、あぁ、と気圧されたように答える魔理沙を一瞥してから、霊夢は魔理沙のほうを向くように縁側に斜めに腰掛けた。

 じゃあ、と前置きを一つ、

「……キス、して。魔理沙からしてもらったこと、ないもの」

 ん、と唇を突き出し、瞳を閉じた。

 彼女のその仕草に、魔理沙は何かに殴られたかのように頭を大きく仰け反らせ、風も無いのに木々が葉をざわつかせた。

 しかし魔理沙はすぐに戻ってくると、意を決したかのように霊夢に向き直り、彼女の手に自分の手を重ねる。

 尖らせて魔理沙へと向けられた霊夢の唇に、魔理沙は自分の唇を近づけていく。

 その速度は互いの距離に比例する。

 唇と唇の距離が一寸を切ると、魔理沙の顔は緊張に震えるばかりで距離が縮まる気配は皆無だった。





 ――そして時は流れる。





 境内にかかる木の影が少し伸びた頃。

「……ねぇ。まだ?」

 伏せていた瞼を半開きにした霊夢が呟き、震えていた魔理沙がばね仕掛けの玩具のように跳ね上がった。

「お、お、お、お、驚かすなよ! こちとら勇気振り絞って、キ、キッスしようとしてたんだぜ!?」

 魔理沙は乱れた呼吸を抑えられぬまま、目尻に涙を溜めつつ、縁側を叩く。

 霊夢は抗議の声を両耳を指で塞ぐことで回避してから、

「ごめん……何だか、夕日から朝日に変わっても続いてる気がしたものだから」

「そこまではいかないと思うぜ……せいぜい――」

 言葉を止めて上を見上げた魔理沙を追って、霊夢も顔を上げた。

 そこには一枚の符が舞っている。

 符はゆらりゆらりと二人の間に舞い降りた。

 霊夢が舞い降りてきた符をつまみ上げ、

「何か書いてあるわね。『曰く、人という字は二人の人が支えあっている様を表しているという。 by神』」

「……えらく茶目っ気のある神様だな、というかどこから降ってきたんだ?」

 不審そうに周囲を見渡す魔理沙に対し、霊夢はじっと符を見つめていたが、成る程ね、と納得したように符を脇に置き。

「いいじゃない、そんなこと。ここは幻想郷で、ここは博麗神社よ。神様がちょっかい出してきても不思議じゃないわ」

 そういうもんか? と納得が行っていない様子の魔理沙を余所に、霊夢はようやく笑みを浮かべながら彼女に擦り寄り。

「神様の言う通りよ。どっちかだけが勇気を出すんじゃ、うまくいきっこないわ」

 だから、と霊夢は魔理沙の肩に手を置き、

「私達はまだ初心者よ。一緒に勇気……出しましょ?」

 そう言って瞼を伏せる。

 対する魔理沙は息を呑み、霊夢がするように彼女の肩に手を置くと、自分も瞼を伏せた。






 夕日が照らす秋の幻想郷。





 紅葉に囲まれた博麗神社で。





 赤と白の巫女と白と黒の魔法使いは、互いに顔を寄せ合って。




 
 盛大に額と額を打ち鳴らして、悲鳴を響かせたのだった。















 ――時は少し遡る。

 博麗神社を取り囲むように木々がある。

 その一本一本に、紅葉した葉を隠れ蓑に潜む無数の鴉天狗が居た。

 彼・彼女等は揃って、落ち葉を利用して作った迷彩を施しており、一目見ただけでは看破する事は不可能であろう。

 鴉天狗たちが潜む木々の一つ、その枝葉が少し揺れていた。

 揺れる枝葉に立つのは鴉天狗の少女と、銀髪のメイドだ。

 彼女達は一仕事を終えた後のように額の汗を拭い、他の枝葉に立つ鴉天狗達が親指を立てた右手を彼女達に向けて突き出す。

「いやはや……今日は咲夜さんが居て助かりました。さすがに幻想郷最速の私でも、二人に気づかれずにあのカンペを置いてくるなんて出来ませんから」

「文さん達の取材がどんなものか見てみたくて来て、最初は呆れましたけど……あの二人見てたらじれったくて」

「まあまあ、これが上手くいけば二人の関係も……。む……。――総員、シャッターチャンス!」

 文と呼ばれた鴉天狗が号令と共に写真機を構えた刹那、微かな物音と共に鴉天狗達が写真機を構えていく。



 しん、と静まり返った博麗神社の中心で、悲鳴と共に額を押さえる二人の少女がおり――




 ――これはこれでとシャッターを切る鴉天狗達は幸せそうだった。 
はちよんと申します。

作家交流スレのお題「百合(もしかして:ダイナソー竜崎)」で百合に触れてみて、

ちょっと悩んだ末の結果として、前回はキャッキャウフフが足りなかった気がして投稿してみました。

過程をすっ飛ばして、結果だけですが、読んでいただきまして誠にありがとう御座います。
はちよん
コメント



1.ぺ・四潤削除
くっはぁあっ!! 甘ぇ! キスでなくてキッスって言ってるところがまた。魔理沙の中では文明開化みたいな未知の世界への好奇心みたいな気持ちなんだろうな。
歯をぶつけたりおデコぶつけたり初々しいな!! この様子だと今度は鼻を押さえて涙目になる二人がいるんだな!!
駄目だぞ!! どっちかはちゃんと少し首を傾げないとwww
by神って……静葉姉さんカリスマ高けェ!! って思ってたら……orz
2.奇声を発する程度の能力削除
鴉天狗達凄いなwwwwww
沢山居るんだから一人ぐらい写真を分けてください!

by神……素で神主だと思ったorz
3.名前が無い程度の能力削除
地の文、すごい淡々と書かれてるのに何故か甘い、不思議っ。

てかキス一つまともに出来ない話をなんで淡々と書くんですかwww