散歩

「咲夜、散歩をしましょう」

いきなりであった。






「お嬢様、今日は紅白巫女のところへは行かないのですか？」

「いいじゃないの、たまには。行きたくない？」

行きたくない訳がない。
だが、私の立場はメイド長。

「まことに申し訳ございませんが…」
言いかけたところで、
「館主命令よ。　これでどう？」
見事に遮ってきた。




「代わり映えのない日々はどう？咲夜」

「お嬢様がいる限り、私に代わり映えのない日々などはございませんわ。」

「雲の形をパチェにしてみた」

「流石です、お嬢様。」

当たり前のような会話。
お嬢様はとても楽しそう。

ふたりで歩いていく。

どんな場所でも。
どんな景色でも。





「パチェ、散歩をしましょう」
唐突な友人である。



「レミィ、わたしは今読書中なのだけれど？」

「そうね、散歩に行きましょう」

流石は百年来の親友。
顔色一つ変えないでサラリといいのける。
まぁ、こんなことは日常茶飯事なのだけれど。




「いつまでも変わらない外はどう？パチェ」

「そうね、太陽がさんさんと照っていて、私はあなたが本当に吸血鬼かどうか分らなくなってきたわ。」

「あらそう」
クツクツ笑う。

足跡は続いていく。
ゆっくり、のんびり、足取り軽く。

どこまででも。
どこまででも。





「フラン、散歩にいきましょう」
どうも、今日はグングニルが降る日らしい。



「お姉さま、今日はずいぶんと唐突だね。」

「そういう気分なんじゃないかしら」
クツクツ笑う。

吸血鬼二人でお外に散歩。
昼間なので、当然のことながら自殺行為だ。
そこらへん分ってるのかしら、この愚かな姉は。

「大体、地下にいろって言ってるのはお姉さまでしょ。」

「今日はそういう気分なのよ」
またクツクツ笑う。




「フラン。ひさびさの外はどう？」

「よく言うわ。自分で閉じ込めたくせに」

「そうね」
クツクツ笑う。

矢張り今日はグングニルが降る日だ。

二人は歩いていく。





いつ終わるかも分らない。
たどり着けるのかも分らない。
ただただ、歩いていく。

いつまで続くの？
歩いてゆけるの？
どこへ向かうの？

そんなことは解らない。
解らなくても今日は続いてゆく。

私は思う。
それでいいじゃないか。
解らなくともいいのだ。

愛する従者や信頼する友人。
目に入れても痛くないほど大事な妹。

彼女らといるだけで、私は、幸せなのだ。
それ以上も、それ以下も、私にはない。

処女作です。
お手柔らかに御願いします。