「はいどうぞ、お母さん」
その台詞は完璧な発音でもって淀みなく発せられた。
「…………」
「………?」
「…………」
「…………」
時が止まった。4秒くらい。念のため言っておくけれど私は何もしていない。いやした。私が言った。十六夜咲夜が言ったのだ。
完全で瀟洒な午後のティータイム。
紅魔館の主だった住人が一同に会する憩いのひととき。
そこに降って沸いたアクシデント。
『咲夜、おかわり』と――カラのティーカップを差し出し、そう言ったお嬢様にいつも通りに紅茶を注ぎ、渡すと同時に口から飛び出た言葉だった。
あら不思議、目の前が全世界ナイトメア。
皆、何が起こったか判らないといった顔でこちらを見ているわ。
まぁ――この空気を一言で表すならアレです。寺子屋の子供がよくやるアレ。
『けーね先生さようなら』のところを『お母さんさようなら』と言ってしまうあの怪奇現象。
その理不尽極まりない災厄に見舞われたが最期、当事者は二年三年と……場合によっては十年、二十年の永きに渡って笑い話のネタにされ、その度に赤っ恥をかく運命を背負うことになる。一体全体どんなスカーレットデスティニーですか……
もっとも、それもここ、紅魔館の住人には馴染みの無い光景だけど……それにしても……
チラリと――言われた本人の方を向けば――
「…………♪」
澄ました、何食わぬ顔で紅茶を啜っていらっしゃる。
この反応を吉と見るか、凶と見るか……はともかくとして……いくらなんでもこの見た目は幼女、頭脳も幼女な500才児に対して『お母さん』はないだろう、『お母さん』は……うん、ない。常識的に考えて、ない。
出来る事なら今すぐ時間を止めてこの場から逃げ出したい。ああ何だ、出来るじゃない?
私がメイド長としての業務やらなんやらを放り出し、いざ素晴らしき逃避行へと洒落こもうとしたその時だった――
「『お母さん』……そう、そうね。悪くない響きだと思わないかしら?」
ビシリと――体中の筋肉が硬直した気がした。
そう言ったのは『お母さん』と呼ばれた本人――紅い悪魔が静かに笑って言った。
「あの……お嬢様?」
お願いですから黙っていて下さいませんでしょうか? などとは言えない。さぁどうしましょ?
「ねぇ美鈴? どうかしらね?」
「ま、まぁ確かにお嬢様は咲夜さんの名付け親ですし……」
極めて無難な美鈴のフォローすら今は心に痛い。
多分、美鈴はお嬢様が私の失言に対し、ご立腹だと考えている。
私が見る限り、お嬢様は愉しんでいる。これ以上ないくらいに。
ひとつ事実を知らないだけでここまで認識に差が出るものかしらね……
「フランはどう思う?」
「ねーさくやー、お父さんはー?」
「レミィ、私に一言も言わないなんて水臭いじゃない? 盛大な式を挙げて祝福したわよ?」
「そうですそうです♪ 悪魔なんですから……契りを結ぶ前には式が必要ですよー♪」
嗚呼、フランお嬢様。あなたの頭はいつだって私の想像の若干斜め上を行かれる……
そんでそこの紫もやしと小悪魔は便乗して悪ノリしないで頂きたい。
お嬢様の微笑みが一層深くなったので、私の不安も一層深刻なものになった。拙い。絶対まずい。
「ねぇ、咲夜?」
呼ばれた私は心拍数が跳ね上がり、背中に嫌な汗が噴き出すのを感じた。
カラカラの喉から何とか出した返事は酷くかすれて響いた。
「……何でしょう?」
「咲夜、私はね――」
嗚呼、嗚呼、お嬢様。お願いですから何も言わないで下さい。
たとえ、その口から放たれる言葉が曲げようの無い事実であったとしても……私は耐えられないでしょう。
そんな私のささやかな願いはしかし、お嬢様の言葉によって正面から切って捨てられた。
「別に皆の前でも『お母さん』で構わないわよ?」
再び時が停止した。8秒くらい。
「……アハハハ」
「………♪」
「うん……まぁ……いいんじゃない?」
「ですねー♪」
「っっっっだああぁあァァあぁあああぁぁぁアアあああああぁぁぁ!!」
私は全てを捨てて逃げ出した。
<時間よ止まれ>
その台詞は完璧な発音でもって淀みなく発せられた。
「…………」
「………?」
「…………」
「…………」
時が止まった。4秒くらい。念のため言っておくけれど私は何もしていない。いやした。私が言った。十六夜咲夜が言ったのだ。
完全で瀟洒な午後のティータイム。
紅魔館の主だった住人が一同に会する憩いのひととき。
そこに降って沸いたアクシデント。
『咲夜、おかわり』と――カラのティーカップを差し出し、そう言ったお嬢様にいつも通りに紅茶を注ぎ、渡すと同時に口から飛び出た言葉だった。
あら不思議、目の前が全世界ナイトメア。
皆、何が起こったか判らないといった顔でこちらを見ているわ。
まぁ――この空気を一言で表すならアレです。寺子屋の子供がよくやるアレ。
『けーね先生さようなら』のところを『お母さんさようなら』と言ってしまうあの怪奇現象。
その理不尽極まりない災厄に見舞われたが最期、当事者は二年三年と……場合によっては十年、二十年の永きに渡って笑い話のネタにされ、その度に赤っ恥をかく運命を背負うことになる。一体全体どんなスカーレットデスティニーですか……
もっとも、それもここ、紅魔館の住人には馴染みの無い光景だけど……それにしても……
チラリと――言われた本人の方を向けば――
「…………♪」
澄ました、何食わぬ顔で紅茶を啜っていらっしゃる。
この反応を吉と見るか、凶と見るか……はともかくとして……いくらなんでもこの見た目は幼女、頭脳も幼女な500才児に対して『お母さん』はないだろう、『お母さん』は……うん、ない。常識的に考えて、ない。
出来る事なら今すぐ時間を止めてこの場から逃げ出したい。ああ何だ、出来るじゃない?
私がメイド長としての業務やらなんやらを放り出し、いざ素晴らしき逃避行へと洒落こもうとしたその時だった――
「『お母さん』……そう、そうね。悪くない響きだと思わないかしら?」
ビシリと――体中の筋肉が硬直した気がした。
そう言ったのは『お母さん』と呼ばれた本人――紅い悪魔が静かに笑って言った。
「あの……お嬢様?」
お願いですから黙っていて下さいませんでしょうか? などとは言えない。さぁどうしましょ?
「ねぇ美鈴? どうかしらね?」
「ま、まぁ確かにお嬢様は咲夜さんの名付け親ですし……」
極めて無難な美鈴のフォローすら今は心に痛い。
多分、美鈴はお嬢様が私の失言に対し、ご立腹だと考えている。
私が見る限り、お嬢様は愉しんでいる。これ以上ないくらいに。
ひとつ事実を知らないだけでここまで認識に差が出るものかしらね……
「フランはどう思う?」
「ねーさくやー、お父さんはー?」
「レミィ、私に一言も言わないなんて水臭いじゃない? 盛大な式を挙げて祝福したわよ?」
「そうですそうです♪ 悪魔なんですから……契りを結ぶ前には式が必要ですよー♪」
嗚呼、フランお嬢様。あなたの頭はいつだって私の想像の若干斜め上を行かれる……
そんでそこの紫もやしと小悪魔は便乗して悪ノリしないで頂きたい。
お嬢様の微笑みが一層深くなったので、私の不安も一層深刻なものになった。拙い。絶対まずい。
「ねぇ、咲夜?」
呼ばれた私は心拍数が跳ね上がり、背中に嫌な汗が噴き出すのを感じた。
カラカラの喉から何とか出した返事は酷くかすれて響いた。
「……何でしょう?」
「咲夜、私はね――」
嗚呼、嗚呼、お嬢様。お願いですから何も言わないで下さい。
たとえ、その口から放たれる言葉が曲げようの無い事実であったとしても……私は耐えられないでしょう。
そんな私のささやかな願いはしかし、お嬢様の言葉によって正面から切って捨てられた。
「別に皆の前でも『お母さん』で構わないわよ?」
再び時が停止した。8秒くらい。
「……アハハハ」
「………♪」
「うん……まぁ……いいんじゃない?」
「ですねー♪」
「っっっっだああぁあァァあぁあああぁぁぁアアあああああぁぁぁ!!」
私は全てを捨てて逃げ出した。
<時間よ止まれ>
まるで二人きりの時はいつもそう呼んでるみたいじゃないかw
これはひどいw
やっぱり良いですね、こういうのw
ついでに咲夜さんの昔の苗字は神山ということにしたい
じゃあ私は、咲夜さんの従弟で
もう、レミリアは咲夜のお母さんでいいと思うんだ。
じゃあ、お嬢様は俺の姑で