Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

喜劇を望んだ魔女

2009/12/01 18:03:00
最終更新
サイズ
5.49KB
ページ数
1

分類タグ


注:咲夜さんとパチュリーが好きな方は、少しだけ心の準備をした方が良いです。





喜劇を望んだ魔女





咲夜が死んだら、レミィはどうなるのかしら?
静寂が支配するティータイム。
響くのは紅茶を淹れる音と、本のページを捲る音だけ。
その静かな空間は普段なら考えない事を考えさせるに十分だ。
改めて咲夜に紅茶を淹れさせているレミィの顔を見る。
そこに浮かんでいるのは信用。
レミィが他の存在に見せる最高の感情の一つ。
それと同列にあるのは信頼と愛情、そして友情も含まれると思う。
そして友情をこの世で唯一向けて貰えるのは私だけ。
少なくとも、レミィの中で私は5本の指に入れる存在だと思う。
その5本の指に入れる存在として、レミィの友人として、人生の大半を過ごしてきた私の目から見ても今のレミィは咲夜に頼りすぎている。
咲夜は人間だ。
紅魔館の一員であり、メイド長という重役をこなしているが人間なのだ。
薬でも飲まない限り、彼女は私たちより早く死んでしまう。
そんな存在に頼りすぎているのは危険だ。危険すぎる。
だから考えてしまうのだ。
『咲夜が死んだら、レミィはどうなるのかしら?』などと。
そして、私は魔女。
知識を求めずにはいられない存在。
賢者であり、愚者である存在。
知りたい事ができてしまった以上、それを求めてしまう。
たとえそれが私の全てを壊しても・・・


今日は咲夜が図書館を掃除しに来る日。
昨夜、時間を掛けて作った薬の準備は万全。
待っていた咲夜が来ると、手招きで呼ぶ。l
「咲夜、疲れてるでしょう?これを飲みなさい」
何食わぬ顔をして小瓶を咲夜に差し出す。
咲夜は警戒しているのか小瓶の蓋を開け、臭いを嗅ぐ。
多少なりとも悪い臭いがするが、それほど強くはない。
「これはなんですか?」
臭いに多少顔を顰め、私に尋ねる咲夜。
普段私が作っている薬よりも危険性は少ないと判断したらしい。
「精力増強剤よ。材料はマムシの肝やニンニクや「言わなくて結構です。」
咲夜は私の説明を遮り小瓶の中身を飲み干す。
「あ、なんだか体が楽になりました。パチュリー様、有難うございます」
「お礼は結構よ。いつもお世話になってるからね。これからも頑張って頂戴」
「はい!」
咲夜は威勢の良い返事と共に図書館の掃除を始める。
私が求める効果が出るのは8時間後。
さあ、喜劇の始まりまでゆっくり過ごしましょう?


小悪魔が淹れた紅茶を飲ながら、戯曲『ロメオとジュリエット』を読む。
あまりにも楽しい喜悲劇。
これから起きるのも、この世界に勝るとも劣らない喜悲劇。
今は亡きシェイクスピアならこの喜悲劇をなんと名付けたろうか?
お騒がせな魔女?
甦る召使?
紅魔館?
頭に浮かんでは消えていく言葉たち。
ああ、どれもシェイクスピアを表さないのは何故だろう?
不意に廊下が騒がしくなる。
妖精の甲高い声が私の耳を刺激する。
図書館の扉が開き、妖精が慌てた様子で入ってくる。
「パチュリー様、メイド長が!」
大声で「メイド長が!」を連呼する妖精。
ああ、それがこの喜悲劇に絶妙のスパイスとなる。
「今行くわ」
言って直ぐに扉の方へと向かう。
最後に浮かんだ劇名は
『喜劇を望んだ魔女』


向かった先には紅魔館に住む全員がいた。
中央には咲夜が眠り、微動だにしていない。
「脈はありません」
美鈴がレミィの顔を見て言う。
私のところから見えるレミィは後姿で、顔は見えない。
「そう。パチェ、脈がない人間の蘇生は可能?」
レミィはこちらを見ることなく告げる。
「できないわ。月の薬師でも無理でしょうね」
「そう、わかったわ」
レミィは短くそういっただけで黙る。
他に、誰も声を出すものはいない。
これだけの人数が集まっていながら誰も声を出すものはいない。
最高権力者が黙っているのだから、不思議でもなんでもないのだが、なんだか可笑しくて笑い出しそうになる。
「咲夜が人間である以上、こうなる事は必然だった。後程、新しく指示しな直すから全員部屋に戻りなさい。」
レミィが大仰な身振りで指示する。
その様は出会った頃のレミィを見ているようで、少しだけ嬉しくなった。
なんだ、大丈夫じゃないか。
咲夜がいなくなっても、レミィは大丈夫。
こんなことなら実験しなくても良かったかもしれない。
薬が効いている咲夜をみる。
安らかな寝顔に思わず胸が締め付けられそうになる。
使ったのはジュリエットのように仮死させる薬。
効果は一日。
そう、たった一日だ。
なのに、この先咲夜の笑顔が、仏頂面が見れないような気がしてくる。


咲夜が目覚めない。
一日が過ぎたというのに目覚めない。
それでも紅魔館は機能する。
量が間違っていたかもしれないと自分に言い訳して明日に望みを繋ぐ。
二日過ぎても目覚めない。
咲夜に別れを伝えにたくさんの人がやってきた。
それでも紅魔館は機能する。
先日までは咲夜がいなくては機能しなかったろうに。
三日過ぎても目覚めない。
咲夜は紅魔館の敷地内に埋められる事になった。
みんなで咲夜を棺に容れ、土葬する。
レミィは黙ってその様子を眺め、フランドールは泣きながらレミィに縋りつく。
美鈴は神妙な顔で棺に泥を被せ、妖精たちは泣きながらそれを手伝う。
私はレミィの横でそれを眺める。
美鈴によって墓石が立てられたことで、ようやく私の中で決心がついた。
もう咲夜はいない。
私の薬で、咲夜は死んだのだ。
「レミィ、咲夜は私が「咲夜は寿命で死んだのよ」
私の告白を遮る声に驚いてレミィを見る。
レミィはいつもと変わらぬ微笑を浮かべて墓石を見ている。
「運命を操る私が言うのだから、そうなのよ。それが真実」
私は何も言うことができない。
レミィは咲夜がなぜ死んだのか解っていたのだ。
それでもレミィは私を責めない。
「レミィ、なんでそう言い切れるの?」
あなたの大事な咲夜は私が殺したのよ?
どうしてそんな風に言い切る事ができるの?
どうして私を憎しみのままに罵らないの?
「親友だからよ」
ようやくレミィが私をみて答える。
だけど、その答えは私が理解できるものではない。
「・・・それだけで?」
親友。
たったその二文字の存在だというだけであなたは許せるの?
私にはその気持ちがわからない。
「ええ。パチェ、あなたは親友なのよ?あなたがやった事は、私がやった事でもある。あなたが自分の為にやった事は、即ち私の為でもある。パチェ、あなたは自分を憎しみたいの?罵りたいの?傷つけたいの?」
親友。
そのたった二文字の契約。
その二文字が、あまりにも大きく、重い。


悲喜劇『喜劇を望んだ魔女』
その主役は、
紅魔館の主たる悪魔ではなく
薬の餌食となった召使ではなく
従順な召使たちでもない
傍観者を気取り、知識を望んだ愚かな魔女だった
前作に対して御感想有難う御座いました。
今回は咲夜さんが不幸な目に会ってしまいまして申し訳ありません。

どうもレミリアの子供さが強調されてきている気がするので、頼りにしている咲夜さんがいなくなるとどうなるのか不思議でしたので書いてみました。
短期間で投稿するのは久しぶりなので、誤字・脱字など目に付くかもしれません。
御感想・批評があれば是非お願い致します。
S
http://syusetusroom.hp.infoseek.co.jp/index.html
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
面白かったのですが、作者様の書きたいことが「咲夜が死んだとき、レミリアはどういう反応を見せるか」なら、何もパチュリーを悪役にしなくてもいいのでは、と。
咲夜さん人間ですから、風邪引いても最悪死んじゃうわけですし。個人的には、咲夜よりもパチュリーの方がいたたまれませんでした。

勿論作者様の狙いが「誰もが不幸になる話」というのであるなら、この話はきちんと成りたっていると思うのですが。あとがき見る限り、どうもそうではないっぽいので・・・。
2.名前が無い程度の能力削除
数日後、そこには冥界でお茶会を開いているお嬢様とメイド長の姿が!
3.名前が無い程度の能力削除
なにこれ、ゾクゾクしました。
こういう穏やかにダークな話は、苦手だけど好きなんですよ。