Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

誰もが一度は通る道と、その例外

2009/10/03 20:32:56
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 ある日の博麗神社。
「そんなことあるわけないでしょ」
 霊夢のひと言が、遊びに来ていた魔理沙、早苗の両名を愕然とさせた。
 怒っている様子ではない。
 ただ、素直に『あり得ない』と断じる口調。
 それが二人の驚きと恐怖を増幅させていた。魔理沙が躊躇いがちに口を開く。
「……冗談だよな……経験ないなんて、私たちをからかってるんだよな?」
「そうですよ。この歳になって未経験なんていくらなんでも……」
 少し顔を青ざめさせながら早苗も声を出す。

「なによ、私がおかしいって言うの?」
 霊夢の言葉に二人はうんうんと頷きながら。
「おかしいぜ」
「おかしいですよ」

「「いままで一度も足の小指をぶつけたことが無いなんて!!」」  
 キワドイ会話だと思っていた人、残念。

     ※
          ※
 ここであとがきに移ってしまってもいいのだが、何事もディスカッションと原因究明は必要である。
 先ほどの会話を気にするそぶりもなく。
「食材買い出しに行ってくるわ。どうせ泊まっていくんでしょ」
 と、言い残してふわふわと飛び去ってしまった霊夢を尻目に、残ったふたりは驚き醒めやらぬ様子で額を突き合わせる。 
「さて、あの霊夢を見るに」
「嘘をついているようには見えませんでしたね」
 ふたりの見解は一致した。もとより嘘をつくような話題ではなかったし、ついたところで意味がない。
 博麗の巫女に、実は足の小指に痛打を受ける事を至上の羞恥と捉える癖でもない限りは。

「じゃあさ、早苗。お前さんは今までに何回くらいやったことある?」
「そうですね……正確な回数は分かりませんけど、三十回はくだらないかと」
「そうか、私よりは大分少ないな。私は五十以上やってると思う」
 なんせ、ウチには集めてきたアイテムがごろごろしてるからなぁ、と苦笑いの魔理沙。
 片付けましょうよ、とため息混じりに早苗が返す。
 そのうちにな、と言いながら腕を組み表情を厳しくして考え込む。
「ここにいるふたりだけで百に届こうかというくらい経験してるんだ。霊夢だけ未経験というのも、おかしな話だよな」
「間違いなく異変のレベルですね」
「…………そうかな?」
「なによりズルイですよ。あのなんとも形容しがたい痛みと絶望を味わったことが無いなんて!」
「そっちが本音か」
 黒い笑みを浮かべる早苗を見て、今のこいつなら霊夢の足を掴んで柱にぶつけるくらいやりかねん、と考えたとか考えなかったとか。
 霊夢逃げて!


「あれじゃないですかね、霊夢さんの勘。その勘で、ちょっとした未来予知っぽい動きが可能に!」 
「確かに、弾幕ごっこのときのあいつはニュータ○プじみてるとは思うけどな」
 早苗が自分の思いつきにセルフ興奮している。正直少し鬱陶しい。
「ただ、普段のあいつは異変の時ほど勘が働くってわけでもないんだ。どうも、勘が良いのは集中している時限定らしくてな」
「そうなんですか?」
「ああ、お前だってここに遊びに来るたび見てるだろ、ぐうたらしてるあいつを」
 早苗は思い浮かべる。
 縁側で寝そべり、腹を黒猫に占拠されている霊夢。
 この世に辛い事なんて何もありません、みたいな顔をしてお茶を啜る霊夢。
 あくびをしながらだらだらと庭掃除をしている霊夢。
 着替え途中に『間違えて』部屋に入ってしまい、私を怒るべきか恥ずかしがるべきか悩んでいる霊夢。
『寒かったので』霊夢の布団に潜り込み、間近で見た寝顔と良い香り。
 
「最高です!!」
「??」
 最後の方のは違う気もするが、早苗のテンションは鰻登りだ。魔理沙は、若干の困惑を浮かべつつも話を続ける。
「まぁ、そんなわけで勘だけじゃ回避できないと思うぜ。だいたい、その理屈で言ったらお前だって自前の奇跡でなんとか出来るだろ?」
「そこまで規模の小さいことに、わざわざ奇跡を使いたくないですね」
「規模が小さいのに、形容しがたい痛みと絶望を味わうんなら使う価値はあると思うけどな」
「……ふむ、検討に値しますね」
「ねーよ」
 ふたりが話の寄り道に気づいたのは、しばらく経ってからだった。気がつけば、迷子。

     ※
          ※
「ただいまー」
 出かけていった時よりは随分と速度を落とし、両手に川魚と山菜、油壺まで持った霊夢が帰ってきた。 
「お帰りなさい、ってどうしたんですかこんなに。多めに買い込むなら、言ってくれれば荷物持ちくらいしましたよ?」
 心配げな早苗の言葉を切り捨てるように、どさりと霊夢が荷を降ろす。
「必要ないわよ、大した量じゃないし」
 と、素っ気ない返事。早苗しょんぼり。
 その様子を黙ってみていた魔理沙が、わざとらしく声を張る。
「時に霊夢」
「なによ」
「人里のあたりで最近雨でも降ったのか? 足下が泥だらけだぜ」
「………………そうね、きっと通り雨でもあったんでしょ。温泉で洗ってくるわ」
 ばつが悪そうに、霊夢は離れの温泉へ飛んでいった。
 そんなやりとりを、早苗は不思議そうな顔で聞いている。
「まったく、素直じゃないな」
 やれやれと、魔理沙が肩をすくめた。
「あれ? ここ数日、人里で雨は降らなかったと思うんですけど」
「そりゃそうだろ」
 早苗の疑問に、さも当然だと言わんばかりに胸を張る魔理沙。
 なんでこの人は、いつもこんなに自信たっぷりなんだろう。という早苗の思いは、魔理沙の種明かしによってかき消される。
「おおかた、行きか帰りに山へ入ったんだろうよ。山菜を採りに」
「え?」
「あいつは、手助けが欲しけりゃ遠慮はしないしな。客がいるのに余計な寄り道したりする奴でもないから、帰ってきた時間から逆算すれば、こういう推測は容易に立つ」
 取れたてを食べさせたかったのか、金を節約したかったのかは分からないけどな。と、笑いながら言う。
「かないませんね……」
 その笑顔を見ながら、早苗が嘆息する。
「霊夢との付き合いは、お前より長いからな。あいつの行動は、いちいちわかりにくいんだよ」
 言って、また笑う。人の内側に入り込む強引さ、加えてその観察眼に早苗は感心しきりだ。
 彼女のこういった部分が、たくさんの人妖を惹きつける一因なのだろう。
「魔理沙さん」
「なんだ?」

「参りました。正妻の座はお譲りします、その代わり私は二号さんでお願いします」
「おいまて、何の話だ」
 そんな話です。

     ※
          ※
 もう流石にあとがきへ移ってもいいんじゃなかろうか、と誰かが囁くのだが残念ながら原因究明という問題が残っていた。
「はーい、出来た分から持って行っちゃってくださいねー」
 台所から、早苗が大声で呼びかける。
 今日の夕食は川魚と山菜の天ぷら。霊夢さんは買い出しで疲れているでしょうから、と強引に押しのけて台所を占拠。
 魔理沙の協力もあって、次々と食卓へ料理が運ばれていく。
 山菜は、まるで取れたてのような良い香りを放っていた。
「なんだっていうのよ、もう」
 一方の霊夢は不満顔。
 折角手料理でもてなそうと考えていたのに、調理場は早苗に押さえられ、魔理沙は魔理沙で普段からは考えられない機敏さで早苗を手伝っている。
 こうなると、特にやることもなく出来上がりを待つ他ない。
 いつもの宴会ならいざ知らず、普段の食卓で何もせずに食べるだけという経験が少ない霊夢は、大いに戸惑っていた。
 なんだかくすぐったくて、でも悪くない。
 そう感じる自分が少しばかり恥ずかしくて、暖かい。
 そんな、微妙に揺れ動く感情をどうにか保ちながら、食卓に漂う香りに心を躍らせていた。

「では、いただきます」
「「いただきます」」
 調理者である早苗の音頭で、夕飯が開始される。
 先にこれから起こる出来事が、他意のない偶発的なものであったことを宣言しておこう。
「うん? 早苗、お前さっき天つゆ作ってなかったか?」
 魔理沙が、食卓にやってきていない名脇役の名を告げる。塩や醤油で食べるのもいいが、折角作った天つゆの役割を無碍に奪うのも忍びない。
「ああ、そういえば。持ってくるの忘れちゃいました」
「私が取ってくるわ」
 ここまで、半ば強引に仕事を奪われていた霊夢にとって、このやりとりは渡りに舟であった。
 少し慌てた様子で霊夢が席を立ち、台所へ走っていく。
 その時、残ったふたりは見てしまった。


 にゅいん

 
 小指を柱に当てそうな霊夢の足下に、小さな『スキマ』が開いたのを。 
「…………」
「…………」
 言葉もなく、魔理沙と早苗は視線を絡ませる。
「おまたせ。って、どうしたのよ?」
 天つゆの鍋片手に戻ってきた霊夢が雰囲気を察して尋ねる。
 魔理沙は柱を凝視したまま。
 早苗がなんとか精神の回復に成功して、応える。

「え、ええと。霊夢さんはいろんな方に愛されてるなぁって話です」
 はい、そんな話です。 
ゆかりん過保護すぎ。
しかし、あの痛みとやるせなさを考えると仕方のないことなのか……?
めたる
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
紫もあの痛みを知っているからこその行動なんでしょうね。
2.名前が無い程度の能力削除
いやいやゆかりん、それはいくらなんでもやりすぎでは…
っていうか、常に見守ってるって事なのか?

あと、早苗さん最高ww
3.名前が無い程度の能力削除
紫……どんだけ霊夢好きなんですかww

さなぴょんの壊れ具合が絶妙で好きw
4.名前が無い程度の能力削除
ゆかりんwどんだけwこんな切れ味の良くてほのぼのしている話大好物です。
今後ともよろしく。
5.名前が無い程度の能力削除
予想はしていたが、しかし…
会話のテンポいいですね。楽しいです。
6.名前が無い程度の能力削除
この紅白は魔性の巫女だ
2号さんの立場さえ得られるか難しいぞ、早苗さん!
7.名前が無い程度の能力削除
俺は小指より薬指の方をぶつけますww
8.名前が無い程度の能力削除
なんという過保護…
早苗さんこのままだと3号にw
9.名前が無い程度の能力削除
早苗さんの話かと思ったらゆかれいむかよw
ゆかりん過保護すぎwwwww
10.名前が無い程度の能力削除
骨にひびまでいれた私が通りますよ~

ゆかりんの過保護はストーカーも真っ青だね
11.名前が無い程度の能力削除
俺の早苗さんはもう手遅れなんだろうなぁ…
12.謳魚削除
小指より親指をぶつけますね…………。

霊夢さんは愛されガール。
幻想的な意味で。
13.名前が無い程度の能力削除
小指の爪を何度剥ぎ変えたことか…
14.名前が無い程度の能力削除
親指しかぶつけてない俺に隙はなかった
15.名前が無い程度の能力削除
ゆかりん過保護すぐるwww
小指をぶつける痛みは語るまでも無いでしょう……
16.名前が無い程度の能力削除
ゆかりんずっとこんな事してたのかwww
幻想郷は今日も平和ですね
17.名前が無い程度の能力削除
なんと、あの痛みを味わった事が無いと申すか
巫女ぱねぇと思ってたら紫もぱねかった
18.名前が無い程度の能力削除
投げられた時に親指の爪を何度も根本から折っている俺にとって小指の痛みなどどうということはない!

嘘です、やっぱり小指も痛いです……
19.名前が無い程度の能力削除
ぶつけるまいと思っているのにぶつけてしまう、それがタンスの角クオリティ(謎)
おかげで俺の左足の小指は爪が思い切り割れて折れました。
20.名前が無い程度の能力削除
さ、三号ですか・・・?
NO!NO!NO!
じゃあ、よ、4号・・・とか?
NO!NO!NO!
まさか五号!? イスラームでもカバーできないじゃないですか!
YESYESオーマイゴッ(by萃香and文)
21.名前が無い程度の能力削除
そもそもタンスが自室にない俺に隙はなかった。
しかしベッドの足にしょっちゅうぶつける俺は隙だらけだった。

あれは痛いつうか何なんだあの絶望感はうぎぎ
22.名前が無い程度の能力削除
小指をぶつけると、己と箪笥と世界の全てが憎くなる
憤怒
23.名前が無い程度の能力削除
早苗さんは、ほんと、駄目だな
24.名前が無い程度の能力削除
この霊夢はすごく良い子だ。

>キワドイ会話だと思っていた人、残念
被弾の話かと思っていた。

>腹を黒猫に占拠されている霊夢
ペットの燐が実は正妻以上に美味しいんじゃ…
25.時空や空間を翔る程度の能力削除
流石は私の嫁紫さんだ。
26.名前が無い程度の能力削除
足の小指は「人体の急所」に加えるべき
27.名前が無い程度の能力削除
うおおおいw 過保護すぎるだろゆかりんw
28.奇声を発する程度の能力削除
早苗さんがいい具合に暴走してて吹いたwwwwww
29.名前が無い程度の能力削除
何故だか霊夢が可愛くて仕方がない!
30.時空や空間を翔る程度の能力削除
紫さんの愛に私が泣いた、
31.名前が無い程度の能力削除
ここの霊夢さんはぼーっとして柱にぶつかりそうな時も
スキマににゅいんと守られてそう