もしあのときあぁしていれば、今の自分は違っていたかもしれない。
運命は、複数の選択肢によって変えられる。
そしてそこから経験を積み、自己が形成されるのだ。
つまり、選択肢によっては違う運命を辿っていた可能性が高い。
しかし、誰もそれを知ることは出来ない。
ただ一人、レミリア・スカーレットを除いて。
レミリアは己の能力で運命を操ることが出来る。操ることが出来るということは、あらかじめ近い運命程度なら少しだけ視えていないといけない。
選択肢結果:ヘタレミリア
「ちょっと、お姉様!」
「ひゃあ!? ふ、フラン?」
私は背後からの声にビクッと体を震わせる。
恐る恐る振り返ると、予想通り、そこにはフランがいた。
「あ、あは。フラン今日は良い天気ね」
「良い天気だろうと外出られないから関係無いしー」
「うっ……」
うわぁ、地雷踏んだ。
思いっきり踏んだ。
スキップしながら地雷地帯に入るくらい、馬鹿みたいに踏んだ。
フランの目付きが怖い。
「お姉様、今日弾幕してくれるって言ったじゃない!」
「あ、あはは……」
冗談じゃない。
フランの今の発言が怖いのは『弾幕ごっこ』では無く『弾幕』という点だ。つまり死ぬかもしれない。
再生は出来るけど、痛いのは嫌。痛いのを喜んで引き受けるやつがいたら、それはドM(ここではミラクルでは無く、マゾヒストを示す)としか言えない。
あいにく私はドMじゃあないのだ。
「フラン、私は貴女を傷付けたく無いの」
「自分がやられるの怖いだけじゃないの?」
図星。わーお、鋭い子に育っちゃて……お姉ちゃん複雑よ。
さて、どうやって逃げようか。
1.素晴らしいアイディアで華麗に切り抜ける。
2.説得をする。
3.ルーラ。
う~ん、ここは2で。
「姉妹で争うなんて駄目よ! 争いは負しか生まない! 争いは愚かな者がする行為だって風見幽香とかいう妖怪が言ってたわ! というわけで私はこれから寝るから。おやすみなさい、フラン」
「うん、永遠に」
「ひゃあ!?」
フランの拳が私の頬を掠めた。危ないって、いや本当に。見た目幼女だけど力はそんなに可愛いものじゃない。
「危ないでしょ!」
「あはは」
「あははじゃない!」
「ぐふふ」
「ぐふふでもない!」
「うみゃぅ」
「可愛い!」
戦闘力さえ無ければ、ただの可愛い女の子なのに。
さて、どうしようか。
説得は通用しないし、多分さらに説得を試みても苛々させそう。
ならば――
「逃げるが勝ち!」
「残念負けだよ」
逃げようとしたら、いつの間にか後ろにフラン、前にもフラン、右にもフラン、左にもフラン。
何このフラン祭り。いや、フラン天国かしら。そういえば、何か昔そんな歌があった気がする。何かお魚食べたら頭良くなるよ、みたいな歌だったような。この場合、フランを食べるべきなのかしら。
いやいや、とりあえず今はこの状況をどうにかしないといけない。
「フォーオブアカインドだよ」
あぁ、フォーオブアカインドか。なるへそね。
さて、逃げ道は無くなった。上空が空いてはいるけれど、多分集中狙いされて終わるだろう。
フランの目をちらりと見る。可愛らしい笑顔を返された。あぁ、可愛いなぁ。
「お姉様、最後に言い残すことは?」
可愛いけど悪魔だった。鬼だった。
最後に言い残すことか。この状況で命乞いなんてするのも意味無いでしょうし、なによりそこまでしたら惨めだわ。
なら、派手に散りましょう。怖いけどね。
私の言い残す一言は、これで十分だわ。
「オウ、モーレツ」
「散れ」
あ、フランが今日一番の怖い顔になった。
迫り来る弾幕。
覚悟を決める私。
足が震える。
しかし、その瞬間――別に何も起こらなかった。普通に被弾した。
「痛い痛い痛い!」
あれ、おかしいな。こういう展開の流れなら、攻撃が当たる瞬間に誰かが助けに入るパターンの筈だと思ったのに。
あー、体に弾幕が当たってる当たってる。痛い痛い。あ、脛はかなり痛い。腕が曲がっちゃいけない方向に曲がっちゃいそう。
あれ、私結構冷静だなぁ。
「フラン、痛い」
「冷静だね」
「大分慣れたわ」
「抵抗しないの?」
「えぇ」
抵抗して、変にフランを傷付けたくも無いしね。まぁ、面倒だけど再生は出来るのだから、ここは大人しく受け入れよう。
「……やめた」
「へ?」
急に攻撃が止んだ。
「えと、フラン?」
「か、勘違いしないでよね! お姉様を傷付けたく無いんじゃなくて、お姉様のヘタレっぷりに呆れただけなんだから!」
よく分からないことを言って、フランが目の前から物凄い速さで飛んでいった。あ、ドロワーズ見えた。ピンクかぁ。ビバ、幼女って感じね。
さて、命拾いしたわけだが、どうしようか。
「……寝よ」
うん、寝よう。
選択肢結果:お茶目だったりドジだったりする咲夜
「お嬢様、起きて下さい。もうお昼ですよ」
「うぅ……ん」
「もう、起きないならこちらにも手があります」
そう言って咲夜が取り出したのは、フライパンとおたま。
これでレミリアを起こすつもりだろう。
「少し古典的だけど、ね」
フライパンとおたま、確かに古典的だ。
フライパンとおたまを構える。
そして――
「せいっ! せせいっ! ふぉっ!」
レミリアの耳元で素振りを始めた。
全然古典的では無かった。むしろ、新しすぎた。
ひゅんっ、という風切り音が絶え間なく続く。ある意味新しい起こし方である。
はぁっ、と荒い息になってもなお、愛する主のために振り続ける。
「はぁはぁ……せせい! 起きてっ、下さい!」
「んぅ、何この音?」
目を擦りながら、レミリアが起きる。
だが、ここで注意すべき点がある。それは、咲夜がレミリアの耳元で振っていたという点だ。つまり、レミリアが目を覚まして少しでも頭を動かした場合、フライパンとおたまが――
「へぶっ!?」
「お、お嬢様!?」
見事に頭部に直撃する。
漫画のシーンみたいに、綺麗な放物線を描いて吹っ飛んだ。
咲夜は慌ててフライパンとおたまを投げ捨て、駆け寄る。
「お嬢様! すみません、お嬢様!」
「ふ……ふふ、お茶目さんね咲夜ったら」
倒れたまま、笑顔でそう言うレミリア。
従者の失敗をお茶目と言って許す。その心の広さがあるからこそ、偉大なる吸血鬼かつ紅魔館の主だ。
「咲夜、もう良いから……紅茶を用意して」
「は、はい! 既に出来てます!」
「流石は私の咲夜ね」
咲夜が時を止めて紅茶を持って来た。
レミリアはふらふらになりながらも、起き上がり、それを受け取る。
「ってこれ五目ちらしじゃない!」
「あぁ!? すみません、間違えました!」
「ふ、ふふ……ドジなんだから」
ありえない間違いさえも、笑って許す。それが紅魔館の主のカリスマ。
咲夜は涙目でぺこぺこと謝る。
「良いのよ、咲夜。あなたは悪くない」
「お、お嬢様……」
「さぁ、仕事してきなさい」
「は、はいっ!」
涙を拭きながら咲夜はレミリアに大きく頭を下げた。
その勢いで、背中に仕込んでいた銀のナイフが発射された。
物凄い速さで、レミリアの額に、さくっと。
「あ」
「お、お嬢様ー!?」
「ふ、ふふ……」
こんなことも、日常茶飯です。
◇◇◇
「お嬢様、何をしてらっしゃるのですか?」
「あぁ、咲夜か。いや、ちょっと他の運命を覗いてた」
「は?」
「案外面白いんだよ。実際になったら困るけどね」
「あの、一体何のお話ですか?」
「気にしないで良い。私の暇潰しだ」
「はぁ……そうですか」
咲夜は首を傾げながらも、それ以上は言わなかった。
レミリアの暇潰しは、まだまだ続く。
「あ、こんな運命は嫌だなぁ……常に全員が穿いて無い運命って……」
吹いたwww
この戦闘力の差ならニフラムが効きそうだ…お嬢様に
それはそうと最後の運命は選択されるべき。ドロワは被るもの。
あぁでも穿かないと被る価値が……あぁ喉飴神様。私はどうすればいいのでしょうか……
さぁ、はやく!
こんな紅魔館もアリですよね!
・・・え、無い?
続きを激しくお願いします!!!
でもへたレミリアお嬢様は続きが気になっちゃいますねー。
紅魔館の住人分のフラグを立てておきながら一つ一つ確実にブレイクしていきそうで。
なぜ喉飴様は気がつかれないのだ!
というわけで是非とも続きお願いしますwww
落ち着きました。
咲夜さんのは吸血鬼の目覚めなんですねわかります。
すっかり死者の目覚め的な古典的カンコンカンという近所の湖に迷惑な打撃音が響き渡ると思ったら。
酢飯の上にタマゴを笑顔で乗せている咲夜さんを想像して感動した。
全く、五目ちらしを作るなんて、不思議なメイドだ!(もぐもぐ
フランの「散れ」が怖かった…w
レミリアはそんなに変わってない気がする不思議。