Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

少女鏡像

2009/08/09 22:28:57
最終更新
サイズ
6.31KB
ページ数
1

分類タグ

なあにそれ、と私は言った。



「何って…見てわかるだろ。一応女なんだから」



「あんたと違って私は何時だって淑女です。…じゃなくて、何だって紅なんてつけてるのよ。気味悪い」



「あら酷い。私は一分一秒一刹那逃さず乙女ですわ」



だから何なのよ、と私――または家主――アリスは言った。そのしかめた顔を知ってか知らずか、迷惑な客――魔理沙は丁寧にいれられた紅茶をずずっ、と啜る。



魔女のサバトなどではないが、その光景はアリス・マーガトロイド宅では珍しくない。元来私は人見知りの性があるのだが(まあ、その為に多少ひきこもりの傾向が見られるとか、今は関係のない事だ)、何時もの通り人形の調整をしていたあの日の私に目の前のこの白黒はバリアを打ち破り彗星のように近付いてきたのだ。例え話ではなく、なんと言うか物理的に。こう、ガシャーンと。主に窓ガラスとお気に入りのティーカップが。



「ブレイジングスター」



「うわぁっ」



「…の改良をしようと思うんだがアリスも協力して…って、どうした?」



「なな何でもないわ、紅茶おかわりいかが?」





紅茶のおかわりをやり、魔理沙はまたそれを旨そうに飲んでいる。何とか誤魔化せたか―あの日の彗星の光と衝撃を思い出し思わず声が出た。私とした事が。



「協力って何をするのよ?」



「勿論、実験台。或いは的」



「あまりに予想通りだけど、激しく遠慮しますわ」



「つまらないぜ」





そう言うと魔理沙はクッキーに手を伸ばした。ジャムをサンドしたスタンダードなものだ。



「…うん、美味い。野苺か?」



「バラよ。この味覚オンチ」



「一昨日奥の棚にあった野苺は何処にいったんだぜ?」



「あれはソースにして…って勝手に見るな!」





何だって幻想郷はこう面倒くさいやつばかりなのだろう。後日、霊夢に「あんたもよ」とばっさり切られることになるのだが。多めに作ったクッキーはさくさくと軽快な音を立て魔理沙に消化されていく。唇には欠片が散らばっていた。唇。あかい、唇。



「…ねぇ」



「んー?」



ごくり、と喉を過ぎる音。

白い首筋。細い指を絡ませカップを持ち上げる。やわらかい曲線。あかい紅茶が触れた、紅のついた唇。つややかな、艶やかな。



「それ、似合わないわよ。まだ魔理沙には早いわ」



「あー?何だいきなり。失礼だぜ、レディーに向かって」



「煩い、お子ちゃま。大人ぶっちゃって、ばっかみたい!」





紅茶がひっくり返った。ガシャーン、とカップが割れる。自信作のマカロンが床に散らばる。駆け足で玄関を飛び出し家から距離をとると、振り返った。星屑がストロボのように点滅し世界が止まる。



「アリス、お前らしくないぜ…てか、言葉を、選べええぇっ!!」



魔理沙は少しばかり涙目だった。彼女の乙女心は大変に傷つけられたらしい。





「おいで。上海、蓬莱」





魔理沙を取り囲むように人形がズラリと並ぶ。美しく配置されたヒトガタ。計算に狂いはない。決して彼女達からは、逃れられない。



魔理沙は唇を服で乱暴に拭い、箒に口づけ人形を優雅にかわすとスペルカードを一枚翳した。私のプランを全て飲み込む、光の暴力!



「かかってきなさい、魔理沙あ!」



そう、これだ。くだらない理由で弾幕ごっこ、子供な魔理沙の減らず口、仕方ない風体で付き合う私に、終わった後のティータイム。

これでいい。私たちは、これでいいのだ。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





私は鏡台の一番上の引き出しから小さな丸い金属を取り出した。光に当てると青や緑に光る不思議な色で、美しい細工が施されている。少し力を込めると、かち、と軽い音がして蓋が開いた。中には真っ赤な紅が包まれている。水に溶き唇にのせれば、あまり主張し過ぎない綺麗な赤だ。



「あかい、唇」



唇が色づいただけなのに。鏡の中の私はまるで別人のようだった。もう成長しない体が、ぐんと大人になった気がして、少し怖くなる。



紅は、魔理沙がくれたものだ。ベッドに寝たきりになろうが、やっぱり魔理沙は魔理沙だった。からかいもしたし、罠にかけられもした。弾幕ごっこはちょっと無理だったけど。あの時から大事に仕舞っていた紅は埃も被らず綺麗だった。お前にやる、と言ったきり理由を聞いても答えてくれなかった。それから何日かして、魔理沙は動かなくなった。私は人形遣いだから。魔理沙は、動かなくなったのだ。



「いいえ。魔理沙は、死んだのよ」



鏡の中のあかい唇がこぼした。あの日の魔理沙と同じ、あかい、唇。解りきったはずの事実が真新しい空気を纏って反響する。私が、大人になる彼女に、抱いたのは嫉妬だったのか?



――ああ、そうか…



紅は魔理沙に本当によく似合っていた。私は気に入らなかった。あかい唇のせいで、白い肌が一層白く見える。なんて頼りない細い腕。か弱い、いつか死ぬ、人間なのだと再認識させられたのだ。私の知らぬ間に、魔理沙は紅の似合う女になってしまった。今は拙い塗り方もいずれ上手になるだろう。努力家な彼女の事、家でこっそりと練習でもするのかもしれない。紅をつけて私の前に現れたのも、練習の成果を確かめるためかも。魔理沙は成長して、綺麗になって、誰かと恋をするだろうか。その紅を誰かに移すのだろうか。遠くへ行ってしまうだろうか。



……何も変わらない私を、置いて?



「魔理沙が、怖かった。変わっていく魔理沙が。いつか死ぬ、魔理沙が!」



ぼろぼろ、と泣いていた。涙腺が壊れたみたいに。魔理沙が――死んでから、もう30年は経ったろうか。人間なら大変な時間を過ごしてしまった、だが生憎と私は魔法使いだ。砂時計のように、ゆっくりと気が付くのも―遅くはないだろう。



私は何時だって叫んでいた。放った弾幕。注いだ紅茶。温かいお菓子。素直じゃない言葉。袖をひき、私を置いていくな。お願い。死なないで。と、格好悪くすがっていた。全力で、叫んでいたのだ。



「…私ったら、魔理沙のこと随分好きだったんだわ」



とても唐突で、酷く納得のいく理解だった。鏡の前で私はふにゃりと笑った。はみ出した紅を拭い綺麗に塗り直す。髪をといて鏡に布を被せ、出かける準備をする。外に出るのは久しぶりな気がした。



「上海、行くわよ。ちょっと里のほうまで、墓参りに」



小さな籠に野苺のジャムのクッキーを放り込む。二つ入れて、一つはあの馬鹿用。もう一つは帰りに神社でも寄るつもりだ。今の巫女は見たことはないが、割といい子だと聞く。うん、そうしよう。





扉を開け放ち外へと踏み出す。気づかなかった。もう、春だったのか。――移り変わっていく。散る桜に焦燥を覚え、惜しむように何度だって花を讃える。変わるもの、変わらないもの。魔理沙は何時までも人間で、私は何時までも魔法使い。

私たちは、これでいい――



「…あぁ、本当に彗星みたいなやつだった。目がチカチカして仕方ないわ。転生でもしてきたら文句言ってやろうかしら…その位が丁度いいでしょう、ねぇ、魔理沙?」
コトリです。



百合ましくない、仲睦まじい魔法使い二人が書きたかった。後悔は少ししている。

私的に魔理沙とアリスはこんな関係が理想です。





PCが使えず携帯からとなっております。読みにくくてすいません。
コトリ
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
話は良いと思うんだけど、飛び飛びな印象。
次回作も期待してます