Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

罰 ~偽月之償~

2009/07/28 22:42:32
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*注意書き*

本作は微妙に永夜抄結界組のクリア後、みたいな感じになっていますがたぶん関係ありません。
輝夜は空気です。
ある意味鬼畜(笑)です。

*注意書き終*
















眼が、覚める。障子越しに朝日が差し込んでくる。
「ん……」
かすかに身じろぎして、起き上がろうと布団を掴んだ手がふと、その動きを止めた。
「……今日、か」
寝覚めはいい方だと思っている。
それでも今日は、今日という日だけは。
「……起きなきゃ、ね」
永琳は殊更ゆっくりと布団から身体を起こした。



「師匠、おはようございます」
「えぇ、おはよう」
普段通りにこなす。
覚られてはならない。絶対に感づかれぬよう。いつもと同じなのだと。
「どうしたんですか?顔色が悪いみたいですけど…」
いきなりか。流石に数百年顔を突き合わせてきただけの事はある。
「何でもないわ…それより、今日は一日、調合室には入らないで頂戴」
「え、…あぁ。わかりました。他の子たちにも言っておきますね」
「お願い」
そういうと永琳はふらりと調合室へ向かって行った。

「……」
鈴仙は心配そうな顔で背中を見つめているが、永琳に気付ける余裕は、無い。



足取りは、重い。

今にして思う。何故、あんなことをしてしまったのか。
(もう、百年以上も前の事なのね…)
永夜異変。今はもう、覚えている者はそういないだろう。
何故。いいや、あれは輝夜の為だった。
だからと言って輝夜を怨もうなどとは思わない。
しくじったのは、私。
そもそもが杞憂だった。なんという、茶番劇。

辿りついた調合室の襖に手をかけた。

そして私は、甘んじて受け入れた、受け入れてしまった。
あの呪いを。霊夢の、呪いを。

深く息を吐き、永琳は調合室に身をすべりこませた。





   *    *    *





「さてと…何か、言っておくことはある?」
「……」
「くっ、姫様を離しなさい!!」
くいと横たわる輝夜の顎を持ち上げる霊夢。

輝夜と永琳は霊夢に札で動きを封じられていた。
輝夜は最早動くことは叶わない。つまりそれは永琳も動くことが出来ない、という事に他ならない。
「って言われてもねぇ」
「離せと言っているのよ!!」
「うるさいわねぇ」
うっとおしそうに目を細めると、霊夢はその矛先を永琳へと移す。
支えを失った輝夜は強かに顎を畳に打ちつけた。
「く…」
「輝夜!」
駆け寄りたくても身動きが取れない。奥歯がぎしりと不穏な音を立てた。
そうしていると、霊夢は何時の間にか永琳の横に立って、気味の悪い笑顔を浮かべていた。
「大事な大事なお姫様が無碍に扱われるのはどんな気分かしら?」
「……最低ね、貴女」
「あら、私なんかまだまだ。紫の足元にも及ばない」
「失礼ねー」
ぎょっとした。
ぬっと目の前に薄ら寒い笑みが現れた。
催眠術だとか超スピードだとかなんてチャチなものではない、もっと恐ろしいものの片鱗を永琳は味わった。
何の前触れもなく、『現れた』のだ。
「こんばんわ、八意永琳。もうおはようの方がいいのかしらね?」
ニタリと笑う。見ようによっては生首のようにも見えて、それが余計に気味悪かった。
何も言わずに視線を逸らすと、紫は首を引っ込めて次の瞬間には霊夢の隣に移動していた。
「早かったわね。用意はできたの?」
「当然ですわ」
何食わぬやり取りだが、言葉の端々に感じ取れる酷く愉しそうな響き。
それがあまりにも恐ろしい。
「…何を、するつもり」
「ん?ナ・イ・ショ・ですわ♪」
事情を知らぬ者たちならば、この笑顔に何を思うのだろう。
永琳にとってそれは死神の嘲笑にも等しいのだが。

「じゃ、焦らすのもあれだし。とっととやっちゃいましょうか」
「あら霊夢。もう少し遊んでからでもいいじゃないの」
「嫌よ。帰って寝たいんだから」
「つれないのねぇ」
扇子で口元を隠しくつくつと嗤う紫。その声は鼓膜にこびりつく様で苛立ちを誘う。
「…姫様に手を出したら、承知しないわよ……」
恐怖に染まる心中を覚られまいと、ぎろりと目の前の二人を睨みつけた。
しかし、帰ってきた答えはあまりにも予想外なものだった。
「初めからそのつもりだけど?」

そのつもり?
『その』?

眉をしかめ胡乱な眼を向ける永琳に、冷たい笑みで霊夢が答えた。

「解らない?初めから、『貴女に手を出す』つもりだ、って言ったのよ」

ぞわり。
背筋が総毛立つ。
こんな時に回って欲しくもない頭が、有無を言わさず回転しだす。

(「早かったわね。用意はできたの?」)
(「当然ですわ」)

(「じゃ、焦らすのもあれだし。とっととやっちゃいましょうか」)
(「あら霊夢。もう少し遊んでからでもいいじゃないの」)

悟る。
こいつ等は、私をどうにかするのだ。その為の用意すらしている。
始めに輝夜を弄ったのは私に対するブラフだったのだ。
『目的は輝夜だと思わせる為の』。

決意する。
屈しては、ならぬ。

哂う。
「そう、良かったわ」

二人が目を剥いた。
「驚いた。精神力は並じゃないみたいね」
感嘆の声を漏らす霊夢に、しかし紫は笑みを絶やさなかった。
「これでこそ、遣り甲斐があるというものよ」
「生憎だけど、私に拷問やら毒物やらの類は効かないわよ」
少しでも優位に立ちたくて、吐き捨てるように言った。
だがそれすら受け流し紫は嗤う。
「あらそう」
まるでそんな事は初めから知っていたとでもいう様に。
「安心なさいな。私達はそこらの粗暴な輩とは違うもの。酷いことなんてしないわよ?」
どの口で…。

と、それまで御幣をくるくると弄っていた霊夢が唐突に声を上げた。
「私、眠いんだけど。いつもならこの時間はぐっすりなのよ?早寝遅起きがモットーだから」

「何の事?」

「だからぁ。この異変の所為で私、睡眠時間を削られちゃってるわけ。その責任ってことよ」

要領を得ない。
これから行われることに対する理由付けと言ったところか。知ったことではないが。
「それはそれは。ごめんなさいね」
にやりと哂って見せたのは精いっぱいの抵抗だった。

「拷問は効かない、毒も駄目。まぁそんな酷いこと最初からするつもりはないけどね。でもね?遣り様は幾らでも」
「……」
「いいのよ、怖がらなくて。するのは『貴女』なんだから」

いよいよ意味が分からなくなった。

霊夢は永琳を仰向けに転がすと、腹の上に馬乗りで乗り上がった。
「な、何を」
「ねぇ貴女。歳は幾つ?」
「……?」
「い・く・つ?」
「…十七」
「嘘ね。ま、言いたくなきゃいいけど。じゃあ誕生日は?」
「そんなの、知らないわ」
「知らない?ふーん、じゃあずっと今日でいっか」

そんな事を聞いてどうするというのか。
混乱する頭は、今度は何の答も出してはくれなかった。
「ちゃっちゃと済ませようかしら」
暢気にそういうと欠伸を一つ、その息のまま呪言の詠唱を始めた。

月の言葉の様で、しかし何を言っているのか全く分からない。そんな言葉が紡がれていく。
「………………、……………………っ。………、………………」
目を見開く。
「か、はっ」
何かが、永琳の中に沈み込んでいく。
詠唱が続く。
「……、…………。……………………、………」
「あ、ぁ」
止まらない。
「……………………、…………!!」
目の前で光がはじける。

薄れゆく意識の中で、永琳は霊夢の囁きを聞いていた。
そして最後に。

「未来永劫、終わりなき贖罪を」





   *    *    *





「……はぁ」
淀んだ空気を吐き出す。
代わりに肺を満たしたのは、甘ったるい香りだった。

記憶は記憶だ。あの後あいつ等がどんな顔で自分を見ていたのか、永琳には知る由もない。
そして今。
永琳の目の前には、異様に大きいホールケーキが一つ。
デコレーションは全くなく、表面はきっちりと生クリームで整えられている。
外見はまるで飾りっ気がないが、実は中は色とりどりのフルーツが綺麗に並べられている。
デコレーションがないのは、この後意味を為さなくなるからだ。

無言で手元を見る。
用意した分はきっかりだ。数えるのも厭だったが、吐き気を抑えながら数を揃えた。
「また一本、か」
自嘲気味に漏れた言葉は、すぐに宙に溶け込んで消えてしまった。





   *    *    *





目覚めた永琳は、いつの間にか自室で寝かされていた。
慌てて身体を起こし辺りを見回すが、何の気配も感じなかった。
一息ついてふと、机の上のあるものが目に入る。

「……ケーキ?」

それを『ケーキ』と呼ぶのには、一瞬の抵抗があった。何故なら。
「…なによ、これ」
まるでハリネズミのように、それには無数の蝋燭が突き立ててあった。
赤、青、緑、ピンク、黄。無作為に、無造作に。
ちりと思考にノイズが走る。
……数える?
半ば無意識に永琳はその無数の蝋燭を数えていく。

「私の…」
数え終わったとき、永琳は愕然とした。
蝋燭は永琳の歳と同じだけ突き立てられていた。
…どういう意味だ?
吐き気を抑えながら目を閉じた。思考を巡らせる為だ。
だがその瞬間、ぼっと一斉に蝋燭に火がともった。
唐突に生じた熱と音に驚き、永琳は目を見開く。またも思考にノイズ。
……火を、消す?

火を消すと言えば水だろうと思ったが、生憎と永琳の部屋に水道は無い。
仕方なく永琳はその蝋燭の火を吹き消していった。
たかが蝋燭と言っても、何本も何本も並んでいればそうそう消すことは叶わない。
全て消し終える頃には、永琳は額にびっしりと汗を浮かべていた。
そして、またしても。

永琳は自分の口が勝手に旋律を紡ぎだしていることに気が付いた。



「はっぴばーすでー、とぅーみー♪はっぴばーすでー、とぅーみー♪
はっぴばーすでー、でぃあえーりーん♪はっぴばーすでーとぅーみー♪」








































   *    *    *


「貴女には、死ぬまで続く地獄の責め苦を味あわせてあげるわ。

聞いたところによると、不老不死らしいじゃない。ふふ、本当は何歳なの?
ま、それは貴女が解っていればいい事だから。別にいくつでもかまやしないんだけど。
それでね。ま、紫から聞いたんだけど。外の世界には誕生日ケーキってのがあるんだって。どんなだと思う?
生まれた日にね、自分の歳の数だけ蝋燭を立てて、それを吹き消してから皆で歌ってお祝いするらしいの。
そこで私は考えました…。
年々天井知らずに増えていく蝋燭、吹き消すけれどそこにいるのは自分一人。
ふふっ、一人で歌うのよ。『はっぴばーすでー、とぅーみー♪』ってね。
貴女だって女だもんね?嫌よね、自分のお祝い自分でやるなんて。自分の年齢自覚しなきゃいけないなんて。一人で馬鹿みたいなカロリー摂取しなきゃなんて!
ふふっ、くくくくっ…

あは、あははははははは、あっははははははははははははははははははは!!!」
実はこのケーキ、永琳の手作りなんですよ。
よかったら一口どうですか?
YAMADA
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
永琳の手作り・・・・・・だと?
甘い物、特に生クリームは大嫌いだが、全部頂きたいです。蝋燭まで。
2.名前が無い程度の能力削除
人か魔か博麗霊夢、獣か それ以下か
鬼か それ以上か

あ、一口頂きます……ぐふっ
3.名前が無い程度の能力削除
うわ~霊夢と紫マジ鬼畜だな…
4.名前が無い程度の能力削除
つまり紫は妖々夢のときに同じことを霊夢に強要されたんですね分かりm(スキマ
5.謳魚削除
そしてこの後は本編で描かれなかった姫さまの姫さまによる永琳先生の為の超慰めちゅっちゅタイムですね分かります。
6.名前が無い程度の能力削除
やっぱり巫女さんは外道(笑)に限るなw