Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

彼女だから選べたこと 上

2009/07/13 17:01:59
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彼女だから選べたこと





母の胎内から外界へと生み出されたとき、全ての理を得た。
全ての行く末を見れ、操れた。
私は生まれながらの支配者。
私の両足が大地を踏みしめたとき、至高の王として紅き満月と深き闇夜に祝福されていた。


紅き満月は雄々しく奮え、闇夜は全ての音を閉ざしていた。
全ては私が既知しているように動いていた。
己の足で地に立ち、動けるようになるまで3年
その後は、手慰みに拾った赤毛の乳児を育てる。
それくらいしか楽しみはなかった。
次に面白いことが起きるのは400年以上も後。
そう既知していたので乳児を甘やかし、教育し、一つの芸術品に仕立て上げるのに時を使おうと考えた。
まだまだ乳児ではあるが、すでに美しい顔立ちをしているため、その資格は十二分にある。
それに、そうできるという既知からの確信がある。
乳児が起きている間はメイドと共に世話を行い、寝ている間はトランプやチェスといったゲームに興じた。
特にトランプが気に入った。
王、王妃、騎士、従僕。
手札次第でメイドに負けてしまう。
運の要素があまりにも強いこのゲームがとても楽しい。


5年
生まれてから5年はそうやって過ごした。
私は絶対の支配者であり、自信が生まれていた。
ある、月が一際輝いていた日。
自室で、ようやく四つん這いで動けるようになった乳児を抱きながら名前を考えていた。
そこに私付きのメイドがノックもせずに駆け込んきた。
赤い髪の人間で、紅と名乗っていた。
四十を越えていたが使用人としての教養は豊かであり、気に入っていた。
「お嬢様、御姉妹がお生まれになりました!」
「なに?!」
主への非礼をどうやって咎めようか考えていたのに、一気に吹き飛んでしまった。
ヴァンパイアは長寿であり、そういう欲はほとんどない。
だから子というのは大概一人であり、家中での醜い権力抗争とは無縁である。
双子ならばある種の諦めもできようが、年の離れた妹など権力抗争の種を党首自らくれたことになる。
同属からも俗物と蔑まれ、いいことなど無いに等しい。
なにより、私はこのことを知れなかった。
築き上げた自信が、崩れていくのを感じた。
「行くぞ!」

乳母の声、微かな血の匂い。
急いで母の部屋に行くと、紅の言葉が真実だと思い知らされた。
心の苛立ちは止められず、乱暴にドアを開けた。
慌ただしく動いていた乳母達の動きが止まる。
母が身体を起こし、私を見る。
「体調はどうです、お母様?」
母は何も答えない。
私の顔をみるのを嫌がるように目を逸らした。
よくわかっているじゃないか。
自分の犯した行動を、今の私の感情を。
「それで、可愛い私の妹はどこに?」
わざと『可愛い』にアクセントをつける。
母が、ピクリと反応を示す。
どう捉えたのだろうか?
可愛がる―有り得ない
殺す―有り得る
幽閉する―有り得る
私はそのようなことはしないのに。
目だけを動かし、赤子を探す。
母の近くの乳母が、白いタオルで包んだ赤子を隠すように抱いていた。
乳母の中では最も若い
まだ、十代であっただろう。
私は紅を見た。
紅が渋る彼女から赤子を優しく奪い取り、私の元へと連れて来た。
ふふ、お母様、そんなに私を見つめないでよ。
嬉しくって思わず手を出してしまうかもしれないでしょう?
私が見やすいように、紅が腰を屈める。
少しだけ生えた髪の色は金。
肌の色は私のようにうっすらと青く見える白ではなく、ほの赤い白だ。
多くのものは冷たさより暖かさを好む。
きっと、私よりも美しく育つことだろう。
美人ということは、それだけで好まれる要素だ。
私とこの妹の仲が良かろうが、悪かろうが、将来、家督争いが起きることがほぼ確定した。
ああ、まったく忌々しい。
この子は私の敵となるのに、なぜ好いてしまうのだろう?
守りたくなってしまうのだろう?

翌日から、全てが変化した。
母が私と会うことを拒むようになった。
家臣が私を避けるようになった。
メイドが紅を蔑むようになった。
どうやら望まれた存在は妹のようだ。
ならば、私は弑される前に逃げなくてはならない。
幸いなことに、私の能力は妹さえ関わらなければ、今まで通りに使えた。
夜は館を抜け出して新居のための土地か空城を探し、朝は読書、昼は睡眠に当てた。
館の者達に距離を置かれているおかげで、知られることなく自由に行動できた。
3ヶ月目の夜、ようやく私は新居たるに相応しい城を見つけた。
人里から離れた山中、外壁は緑に覆われていたが、十分に素晴らしい城だ。
スカーレットの居城より幾らか小さいが、住む人数も少ないのだから問題ない。
むしろ、全てから忘れられて暮らさなくてはならないのだから、小さく目立たないのは好都合だろう。
最上階の窓から入り、館内を散策すると、かの名高きブラドの刻印を見つけた。
ドラクルとドラキュラは戦に明け暮れていたのだし、一世が残したものとみていいだろう。
「ツェペシュ、か」
ツェペシ―串刺公
スカーレットに捨てられるのだから、名乗ってもいいだろうか?
レミリア・ツェペシュ。
ダメだ。語呂が悪い。
異名のようなものなのだから、ブラド三世に倣って“ツェペシュの末裔”にしよう。
見回ったところ、ホコリが酷いがそのまま使えそうだ。
人里へと出向き、眠っている農家の少女を2人攫ってくる。
玄関に2人を寝かせて、館から2人分の朝食と昼食を持ってくる。
少し明るくなってきたところで目を覚ましたので、食事を渡し、城内の掃除をするように言いつける。
もう少し詳しく説明してやりたかったが、朝食を運ぶメイドに怪しまれるわけにはいかないので館へと戻った。
その後、更に8人の少女を城に加え、紅にメイドとしての教育を行わせた。
1ヵ月後には私物と、五年分の食料の移動が完了した。
紅と新しいメイド達が共同して城内に作っている作物もある。
食糧問題とは、当分縁がないだろう。
私は自ら立てるようになった女児を連れて城へと移住した。
五年と半年。
たったそれだけしか過ごしていないのに、離れるのには寂しさを感じた。


城で生活を始めて1年。
メイド達は今の生活に満足しているようだ。
紅と共に紅美鈴と名付けた女児はおかしな速さで成長し、既に私の背を越えてしまった。
自分よりも大きなものにお母さんと呼ばれるのは、なんとなく微妙な気分なので、お嬢様と呼ぶように教育し、ついでにメイドの仕事を教わるように言いつけた。
60年もすれば、城に住むのは私と美鈴だけである。
そのとき、どちらも使用人の細やかな仕事を知らないのではどうしようもない。
この城と共に全てから忘れられ、ゆっくりと寿命が尽きるのを待つ。
それはどんなに素晴らしいことだろう?

満月の夜、食事のために館の近くの人里を訪れた。
民家を物色して回るが、少女や赤子が1人も居ない。
城の者には手を出したくないし、別の村を訪れるのも面倒だ。
仕方ないので館の者を襲うことにしよう。
母はなかなかの美食家で、メイドも粒ぞろいだ。
さっさと済ませれば見つかる心配もないだろう。
館に近付くにつれ、腐臭と、カラスや名も知れぬ蟲の姿が多くなっていく。
門の前には串刺しにされた少女が、メイドが、赤子が、家臣がいた。
カラスが肉を啄ばみ、蟲が肢体を覆う。
あの母にこのようなことができたのか!
少しだけ、母のことを見直した。
門から館内へと入り、母の寝室へと向かう。
久しぶりに母の顔を見てみよう。
弱気な町娘にしか見えなかった母の顔が今なら悪魔の顔として見れるはずだ。
そうなれば、私は母を、この血を誇ることが出来る。
ドアからそっと中を覗く。
失望と軽蔑を覚えた。
母は父を求めていただけだった。
ああ、やはり母はただ愚かなだけであった。
ヴァンパイアでありながら人を愛した。
愛した人が居なくなり、ただ暴れている。
なんと愚かなことか!
他種族を愛する。
それだけで後の不幸が決まってしまうのは目に見えているではないか!
愚かな母
人に近付きすぎた母
母がいくら騒いだところで誰も来ない。
館には、もう母と娘しか居ないのだろう。
館内を探し回り、妹を見つけた。
あまり元気がよさそうには見えない。
妹が寝かされているベッドごと持ち、館を出る。
食事は、明日別の村で行おう。
城へと急いで帰り、紅を居室へと呼んだ。
美鈴だけでは心許無いし、私は何も出来ない
紅が来ると、妹の世話を任せた。
紅は、すぐにお湯を沸かしに行き、美鈴は妹を抱いて紅についていった。
私は部屋に残り、妹のベッドを見ていた。
枠木に彫ってある名前はFlandle。
水に埋もれろということか?
私たちにはさぞや苦行な事だろう。
母も、なかなか良い趣味を持っていたようだ。
紅と美鈴、フランが部屋に戻ってきたところで、2人を休ませる。
ミルクも血液も用意していないため食事はない。
そのため、フランのために出来ることなどもうない。
私も、今日は早めに休みたい。
母のあのような姿を見たのだ。今日はもう何もする気が起きない。


朝、忌々しいまでの日光が私を起こした。
いつもなら木々が光を遮るというのにどうしたことか?
美鈴に聞いてみると、木々がなくなり、湖が周りを囲んでいるらしい。
俄かには信じられないが、今の状況が真実であることを伝えている。
夜から早朝にかけての数時間の内に、城は移動したのだろう。
目下の問題は、敵がどれだけいるかである。
戦えるものは私一人。
美鈴には戦や格闘の書物を読ませているし、訓練もやらせているが、実践でどの程度行えるかわからない。
紅やメイドたちは城で準備くらいなら行えるが、戦力としては計算できない。
人間であれば不覚などとろうはずもないが、それ以外の存在であればどうなるかわからない。
ワーウルフや半魚人程度ならどうとでもできるが、モロイイやストリゴイカクラスが徒党を組んで襲ってくれば手を焼くことになるだろう。
赤髪には注意しないといけない。
1日目は妖精がやってきただけだった。
妖精は別に好戦的な性格でもないし、殺せない。
適度にあしらう為に、城の外でお茶会を開いた。
妖精たちのリーダー格、チルノと大妖精は満足して帰っていった。
食料の消費が少し増えるだろうが、妖精を敵に回すよりは格段にましだ。
夜、食事を捕らえに城を出た。
妖精から流れる話を聞いて、今夜は攻撃を控えるだろう。
食事を捕らえるなら、今がチャンスなのだ。
森の上を飛んでいると、若い婦女が3人森の中を歩いているのが見えた。
母と娘なのだろう。
身を寄せ合って帰路を急いでいる。
私は3人を襲った。
娘2人を両手に持ち、この母をどうするか考える。
持てないし、食事としてもいらないのだ。
しかし、そのまま置き去りにするのもどうか?
「あなたは食べても良い人類?」
後ろから声を掛けられ、振り向いた。
金色の髪、黒いワンピースの少女である。
それなりに力を持っているようだ。
「私は人類じゃないわ」
「うそ。助けてるじゃない」
少女が私を指差す。
どうも敬うことを知らないようだ。
「家でじっくり食べようと思ってね。なんなら、これをあげましょうか?」
「え?」
少女の顔が明るくなる。
この婦人一人で機嫌がとれるなら安いものだ。
婦人を少女のほうへと蹴りやる。
「ありがとう!えっと・・・」
婦人を拾い上げてから、少女がどもる。
そういえば、お互いに名前を名乗っていなかった。
「レミリア。私の名前はレミリアよ。あなたは?」
「私はルーミア。ありがとね、レミリア」
言い終わると同時にルーミアの体から闇が噴き出し、あっという間にその身体を包み込んでしまった。
急いで城へ戻ると、いくつか見慣れぬ死体が転がっていた。
聞くと、出かけている間に起きた襲撃を美鈴が退けたらしい。
ワーウルフ程度なら任せられそうだ。
1人をフラン用に与え、1人を自らの食事にする。
襲撃があったということは、明日からもどうなるかわからない。
2人は食事兼メイドとしておくのがいいだろう。
メイドたちには休みを与えたが、私と美鈴は警戒のために庭でお茶をする。
せめて、あと1人戦えるのがいれば交代で休めるのだけれど・・・
夜明けまで何度か襲撃があったが、全て退けた。
2日目、妖精たちとルーミアが城へと遊びにやってきた。
ルーミアがメイドを襲うのをとめるのに苦労したが、なんとか宥めた。
お茶をしている間、情報収集に努め、妖精たちとルーミアが帰ると全員に把握した状況を伝えた。
能力が使いづらい今はこうするしかない。
あの子達の話からすると、ここは幻想郷。
妖怪と人間が共存する地。
私たちが住んでいた世界から隔離された世界。
向こうとここは結界で隔たれ、行き来するのは難しい。
そして、幻想郷の賢者、八雲紫。
いづれはここにやってくるだろうが、調べておかなくてはならない存在だ。
深夜、昨日と同じように庭でお茶をしていると、八雲紫が現れた。
何もないところから突如として現れるとは、とんでもない能力の持ち主なのだろう。
流石は賢者と呼ばれる妖怪だ。
「お茶会の招待状なんて出していないはずだけれど?」
動揺を悟られぬよう、注意する。
美鈴が面白いように慌てているぶん、より冷静に見えるだろう。
「私もあなたをここに招待したつもりはないわよ」
促してもいないのに、賢者は美鈴用のイスに座り、紅茶を要求した。
まったく、ここはマナーを知らないものばかりなのだろうか?
「でしょうね」
美鈴にカモミールティーを注がせる。
あまり剣呑な空気は作りたくない。
「で、用件はなにかしら?」
カモミールティーを飲んだのを確認してから、やんわりと尋ねる。
正直、こいつはあまり好きになれない。
「簡単よ。あまり動かないで欲しいの」
ゆったりとした笑顔で私を見る。
ほら、なにその余裕そうな顔は?
私なんかどうにでもできると?
自信をもつのはいいことでしょうけど、そういう態度は嫌われるぞ。
「別に私から動く気なんてないわ。守るため、生きるためにしか動かない」
「ここはもう襲わせないわ。だから、これ以上殺さないでくれる?」
「今まで好きにさせていたのに?」
「外来種は怖いのよ。生態系を壊しちゃう」
肩を竦めて、笑顔を絶やさずにこいつは言う。
あらあら、私なんか要らないと?
数年で2つの世界から切り捨てられるなんて思わなかったわ。
「何を勝手な―」
ああ美鈴、そんなに怒ってはいけないわ。
「やめなさい、美鈴」
「ですが・・・」
「私は気にしないわ」
「・・・はい」
クスクスとこいつの口から苦笑が聞こえる。
ああ、本当に嫌な笑い方。
なんて腹が立つんだろう。
「襲わないなら、殺さないわ。でも、食事は必要よ」
「私が一定量を供給してあげる。それでは駄目かしら?」
「乙女しか要らないわ」
「ええ、わかったわ。」
どこかからペンと紙を取り出し、今までの事項を書いていく。
契約書か。サインが必要だろう。
美鈴にペンと印を持ってこさせる。
「このペンで書けばいいのに」
くるくるとペンを回す。
ああ、本当にいらいらする女!
「嫌」
走って取ってきた美鈴を労う。
八雲紫のサインの横にRemilia Scarletと記し、ブラドとスカーレットを混ぜた印をその上に押す。
「ブラドの末裔?」
流石にこの印には驚いたようだ。
少しだけ、愉快な気持ちになる。
「いいえ、ツェペシュの末裔よ」
「そう」
どこかへと繋がる空間を開く。
もう帰るのだろう。せいせいする。
「さようなら、スキマ妖怪」
「さようなら、可愛い吸血鬼」
姿が消え、スキマが消えた。
作品集36の『彼女が知れること』、『彼女が聞けること』、作品集38の『彼女が感じること』、作品集41の『彼女が選べること』、作品集43の『彼女だから知れたこと』、作品集43の『彼女だから聞けたこと』、作品集44の『彼女だから感じたこと』のレミリア・スカーレットのお話です。
長くなってしまいましたので、2つに分けて投稿させて頂きます。
S
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