Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

耳掻き

2006/02/28 12:20:50
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注)霊レミですよ。



「わひー…っ」

そんな情けない声を出しながら、博麗霊夢は漸く辿り着いた博麗神社屋内に飛び込んだ。恨めしげに振り返り、情け容赦無く叩き付ける雨をじぃっと睨む。…勿論、そんな事をしても気が晴れるなんて事は無く、雨が止む訳でも無い。寧ろ止んだら止んだで、怒りが倍化するだけだ。

「まったくもー…、いきなり降り出さないでよね」

ぶつぶつと恨み言を一人呟きながら、買出しの品を玄関へ置き、霊夢は風呂場まで歩を進めた。廊下に滴る水滴を見遣り、後で拭かなければと憂鬱に思う。…また、念の為に言っておくが、博麗霊夢…魅惑の入浴シーンは割愛となっている。その為…、浴室で身体を拭く、この際だからと湯を沸かす、その間半裸で廊下を拭いて回る、やっとの思いで風呂場へ、冷えた身体を温める為にまず入浴、はふぅ…と溜息、はぁびばのんのん、髪を洗う、ふぁーさっぱり、身体を洗う、私の苦労よ泡となって流れろー、再度入浴、ここで玉露が在ればなぁ…、断腸の思いで風呂から上がる、身体を拭きつつ何故育たん我が身体っ、敗北感と共に服を着る、でものほほん気分で居間へ、…までのプロセスは省略されてしまった。真に遺憾である。
そんな霊夢を、レミリア・スカーレットと十六夜咲夜が、のほほんと出迎えた。





耳掻き ~でもそんな貴女が大好き~





「お帰りなさい霊夢」
「いきなりの雨で、大変だったでしょう?…はい、暖かい紅茶よ」
「何で居るのよっ!!」

暖かく出迎えられた霊夢が、高らかに吼えた。そんな彼女を見遣り、レミリアと咲夜の主従コンビは悲しげに目を伏せる。それを見て、霊夢は思わず叫んだ事を後悔した。
一気にクールダウンした頭が解を叩き出す。考えてみれば判り切った事だった。
雨が降っていると言う事は、レミリアは出歩けない。無理をすれば出来なくも無いだろうが、それを良しとする咲夜じゃない。…つまり、遊びに来てみれば霊夢は留守、しかも雨が降り出して帰れない、じゃあ霊夢には申し訳無いけど雨宿りさせて貰いましょう。…と、一連の流れは汲み取れた筈なのに。
それと同時で、帰宅から今までの間、全く彼女達に気付かなかった自分は、実はとても酷い奴なんじゃなかろうか、と霊夢はそんな事まで思った。
入浴でさっぱり水に流したと思っていた突然の雨に対する鬱憤は、未だ身体に残っていたらしい。
霊夢は申し訳無く思い、二人に謝罪しようと珍しく殊勝な事など考え、

「ねぇ、咲夜。…霊夢が、可哀想…っ」
「…仕方が無いんですお嬢様…、一人暮らしの彼女は出迎えてくれる人が無く、暖かな歓迎に慣れていない…」
「霊夢…、遠慮しないでね。うちには何時だって空けてある部屋が在るんだからっ」
「嗚呼……っ、なんてお優しいお嬢様…!!」

た事を深く後悔し、その原因をこの雨の中に放り出す決意をした。
霊夢がレミリアの襟っ首を掴み、そのまま宙吊りにする。ぶらーり…と、吸血鬼が四肢をぶら下げる格好になる。
一、二、三…。それだけの時間が無言で過ぎ、そしていきなり、レミリアがあわあわと取り乱し始めた。

「だっ、駄目よ霊夢っ、咲夜が居るわ!それにこう言う事はもっとお互いを理解し合ってからだと思うのっ!」

そのままスタスタと霊夢は居間を抜けた。視線は穏やか、心は荒波。向かう先は此処から最も近い縁側である。

「で、でもねっ、嫌と言う訳では無いのよ?ただちょっと、ムード…と言うのかしら…っ、そんな、ものが…っ、ね!今っ足りてなっ…!いえごめんなさいっ!!ちょっとした冗談っ!だから向かう先を変えて!そっちは駄目!色々と良くない方向だわ!いいえ寧ろ一方的に良くないのっ!」

暴れ出したレミリアの首筋を掴む彼女の腕に、より一層の力が込められた。…もう離さない、絶対に。そう言わんばかりである。
霊夢の空いた手が、確りと閉められていた雨戸の取っ手にかかり、勢い良く其れを開け放つ。未だ振り続ける雨が、風景を灰色に染めていた。ついでに、レミリアの未来も灰色に染めた。

「いやーっ!!止まって止めて思い止まって!!それは駄目!それは拙い!それはとても良くないの!!咲夜っ、たすけてさくやぁーっ!!」
「はいはいお嬢様。そんなに取り乱すから霊夢に笑われてますよ?」
「…え?」

親猫に首元を銜えられた子猫の体勢で、レミリアが如何にか上を見る。
其処には、にんまり、と言った感じで笑う博麗の巫女の顔が在った。…レミリアの顔が、火の点いたように赤く染まるのと、咲夜が主に気取られぬように笑むのは同時。

「勿論、冗談よ?」
「…ええ、…勿論、解ってたわよ…?」

必死に笑いを堪えようとし始めた咲夜の顔が、引き攣りだす。
思わず霊夢が噴出しそうになり、しかしレミリアが怪訝そうに顔を向けると普段通り。
瀟洒だなぁ…と、レミリアをぶら下げたままに霊夢は思った。…間違っている気がしないでもなかったが。

………。
……。
…。

「それで、普通に雨宿りしてたって事で良いのね?」
「ええ、済まないと思ったんだけど」
「普通以外の雨宿りってどんなかしら…」

迂闊な事を言ったレミリアが、再度首根っこを掴まれた。
慌てて両手を上げた吸血鬼に溜息を吐きながら、彼女を手離す。
きゃっ、と小さく悲鳴を上げるレミリアを放ったまま、霊夢は戸棚の引き出しから細い棒のような物を取り出した。

「全くもう…。折角お風呂でさっぱりしたって言うのに、なんでまた疲れなきゃなんないのよ」
「雨の日のお嬢様は攻撃的なのよ」
「あら…、フランよりはマシなつもりだけど?」

何故か再び、レミリアが首根っこを掴まれる。
霊夢は五十歩百歩だと内心で思いながら、やっぱり慌てて両手を上げる吸血鬼に溜息を重ねた。
そんな彼女に、レミリアが誤魔化すようにして言う。

「れっ、霊夢!それは何かしらっ?」
「これ?」

濃い肌色をした細長い棒。片方の先が軽く曲がっており、もう片方にはふわふわの綿。誰が何と言おうと、耳掻きだ。

「耳掻きに決まってるでしょ」

何を言っているんだと言う目で、霊夢はレミリアを見遣った。
…しかし、そんな目で見られたレミリアは、きょとんと不思議そうな顔で霊夢を見返すだけだ。その事で、逆に霊夢の方が怯んでしまう。

「もしかして、知らないの?」
「知らないから聞いてるんじゃない」

実にあっけらかんと、彼女は答えた。
本気かと、霊夢は咲夜の方を見る。…其処には、何故だか思い切り目を逸らし、他人の振りをしている紅魔館メイド長の姿が在った。霊夢は思わず手で顔を覆った。
三日、たった三日掃除しないだけでも、耳垢は僅かに溜まる。………もし、仮に…である、生まれてこの方、…人間では在り得ないが、五百年の歳月を一切の耳掃除無しで生活してきたとしよう。…いや、仮に、も何も在ったものじゃ無い。詰まって聞こえない。…筈だ。

「レミリア、耳掃除は勿論しているわよね?」
「聞こえが悪くなったら爪で掻くわよ」
「………」

清々しいまでの返答が、霊夢の心を貫く。…だが、その一撃は彼女の其れを砕きはしなかった。
綺麗に貫いたその一撃は、彼女の心を通り抜ける際に摩擦を起こし、そして其れは熱となり、一瞬後、火と成り、燃え盛る炎と成った。
簡潔に言えば、ハートに火が点いた。

「…レミリア」

霊夢が正座に座り直し、ぽんと太腿の上を軽く叩く。
怪訝な表情でその仕草を見るレミリア。
意図が全く通じていない事を悟ると、霊夢が苛立たしげに、

「ほら、ここっ」

…と、再度、太腿を打つ。
そこで漸く、レミリアが得心したように手を打ち、

「ああ、成る程。………って、ええぇ…っ!!」

酷く驚いて見せた。…が、
その様は、霊夢が半ば予想していた通りであった。
耳掃除に縁の無かった者が、いきなり耳の中を引っ掻き回される事を想像すれば、それは素っ頓狂な声も上がろう。不安がるのも当然の出来事である。
だが、一度気にしてしまえば、それは我慢のならない事であった。
元々の質が良かったのか、はたまた吸血鬼の持つ魔性であろうか…。目の前の少女は硝子細工のように繊細で美しい外見を持っている。実年齢の事はこの際雨に流す事として…、そんな彼女が不浄を持っているのが、何となく赦せなくなったのだ。言うなれば、少女特有の潔癖さである。

「ほらっ」
「い、…良いのっ?」

良いから、と気持ち強引に霊夢がレミリアを呼ぶ。…その甲斐在ってか、数度目の応酬で、おずおずとレミリアが近付いて来た。
霊夢の前に立つレミリアが、真っ赤な顔をして上擦った声と共にそう問い掛けた。霊夢は満足げに頷いたが、…ふと、その事に思い当たる。
まあ、確かに…、言われてみれば気心知れた相手だろうと、この行為は中々に気恥ずかしい事のような気もする。
如何しようか……と、霊夢の内心を気取ったらしく、レミリアが慌てて距離を詰めて来た。
まあ良いや、レミリアだし…。霊夢がそのような事をぼんやり考えていると、

「お…、お願いします…」

何故だか、新婚初夜でも迎えた初心女のような態度で、レミリアが霊夢の膝の上に………跨った。

「………はい?」

目の前に在る幼い顔に、思考が停止する。
真っ赤な瞳。宝石と称しても過言では無い其れは、僅かに潤み、室内の灯火をゆったりと反射している。
薄っすらと染まった頬。触れれば涼しげな音を立てて指の滑りそうな其れは、その逢瀬を待ち侘びている様にも見えた。
以外や以外、桜色に染まったその顔を見て、ああー成る程、そっちの意味で取られてたのかーあっはっは、と頭の片隅に在る何時も冷静な博麗霊夢が解答を示す。
……全然全く欠片も違う。
んく…、と小さく鳴った少女の喉に警鐘。片手で締め上げられそうなほど華奢な其れは、庇護欲を、…そして、嗜虐心を、大いに擽る。それら一つ一つ、全てが蠱惑的な毒であった。
徐々に距離を詰めて来る可憐な唇を、綺麗だなぁ…とぼんやり眺めつつ、霊夢が唇を開いた。

「レミリア」
「なっ、なにっ!?」

急に呼ばれた彼女が、慌てて距離を取る。揺れた髪から零れるのは、甘く甘く、淡く静かな彼女の香り。
それを良かったのだか残念だったのだか、判別しかねる複雑な感情を覚えつつも、霊夢はやれやれと首を振った。

「耳掻き」

まず、自分の耳を指差してみせる。

「膝枕」

そして、もう一度自分の太腿を叩いた。

「………」
「解った?」
「…ええ、…勿論、解ってたわよ…?」

同じく、良かったのだか残念だったのだか、判別しかねる複雑な感情を覚えつつも、レミリアは仰々しく頷く。雨の日のお嬢様は色々と愉快だなぁ…と、霊夢は頭の辞書に加筆した。
ともあれ、ギクシャクとしつつも、レミリアが霊夢の太腿に頭を預ける。
風呂上がりの所為か僅かに高い体温と、服越しでも柔らかな感触に、これはこれで良いかも…と、レミリアは不埒な事を思うのだった。
……ちなみに、咲夜は口と腹を押さえ、卓袱台に突っ伏したまま必死に笑いを噛み殺していた。

「それじゃー、レミリアお嬢様未開の地を開拓しますかー」
「……、言い方が卑猥だわ」
「はいはい。良いから横向きになれ」

ごろりと身体を転がして、レミリアが横這いになる。柔らかな銀糸を霊夢は指でそっと分け、彼女の小さな耳を露わにした。
レミリアの首筋に、小さく鳥肌が立つ。
むずがる子供のような仕草が、とても微笑ましい。
…が、

「……う、うわ…っ」
「…?どうしたの、霊夢」

そんな微笑ましい印象は、その穴を覗くまでの事であった。
人外魔境。…その一言に尽きた。
唯でさえ人外魔境を地で行っていると言うのに、それだけでは足りないのか…と、閉口したくなった。何故これで音が聞こえるのだろうか…と、人里の方の知識人に問い詰めたくなった。寧ろ掃除したら聞こえ過ぎで耳を悪くするんじゃないだろうか…と、半ば本気で心配になった。
だが、何故かとてもやり甲斐があるな…と、燃えてくるのを感じた。……普段は掃除などいい加減にやるくせに。
しかし、其れは其れ、此れは此れ。である。

「レミリア」
「……なに?」

小さな、それでいて熱の篭った声に、レミリアが怪訝な顔をする。
霊夢は力強く頷くと、自分の太腿で大人しくしている吸血鬼に向けて微笑んだ。

「貴女は私が綺麗にしてあげる」
「…その言い様だと、私が汚れてるみたいね」
「………」
「………」

悲しい事に、誰もフォローを入れてくれなかった。

「んっ…ふ!」

誤魔化す意味合いも兼ね、霊夢はレミリアの耳に耳掻きを侵入させる。…無論、敏感な部位だけに、丁寧に優しく。

「…うぁ…、く、くすぐった…っ…、やん…!」

まるで自分が、男性にでもなったかのような錯覚。
少女の奏でる艶声に、訳も解らず背筋が震えた。身を捩る際の、頭の重みが心地良い。…ぞくぞくと、堪らない恍惚が首を擡げてくる。
黙れこんちくしょう。霊夢は無心に、それだけ思う。だが、人間を家畜にしていらっしゃる吸血鬼に向かって、畜生も何も無いなぁ…と半ば現実逃避気味にそんな事も思った。
………幸運な事に、終着はすぐに訪れたのだが。
僅かに進ませただけで行き当たりそうになり、彼女は痛みを与えぬよう、ゆっくりと其れを掬い上げた…。

「………うわ」
「………うぁ」
「あ、…あれ?…もう終わり?」

其れをサルベージした霊夢が驚愕に慄いた。
興味深く観察していた咲夜が驚愕に慄いた。
耳の中を探る感触の消えたレミリアが不思議そうに声を上げた。
霊夢がサルベージに成功した物体を、用意していた和紙の上に乗せる。…誇らしげに一息吐くと、レミリアの視線の先へ、それを置いた。

「凄いのが取れた」
「………、うわぁぁぁぁっ!?」

仰天したレミリアが急に身を起こす。飛び跳ねるようにして、一瞬で咲夜の背後に隠れた。
普段あれほど親しげにしていたレミリアが、怯えを含んだ瞳で霊夢を凝視している。それに何事かと首を傾げ、霊夢はレミリアに視線を向けた。
そんな彼女にガタガタと震えながら、レミリアが定まらない指先で霊夢を指差す。

「れ、れれ霊夢がっ!」

…呂律が回っていない。
まるで吸血鬼にでも襲われた娘子のようである。……いやいや、吸血鬼はお前だ。

「わた、私のっ耳の中を優しく抉り取ったぁっ!!」
「はぁ!?」
「ぶふっ!」

咲夜が口にしていた紅茶が見事な放物線を描き、…一瞬で消えた。
本人曰く抉られた耳を片手で押さえ、レミリアがいやいやと首を振る。
霊夢が何か言おうと身を乗り出すと、恐怖に引き攣った顔をして一歩下がる。どうも、霊夢の一挙一動に注視しているようだ。…ともあれ、凄まじい形容である。
兎に角、これ以上レミリアの態度が硬化する前に、咲夜がやんわりと言った。

「…お、お嬢様…。それは耳垢です」
「………」

…辛うじて、瀟洒の仮面を付けて。
霊夢も続けて言う。

「レミリア。それ、耳垢だから」
「………」

此方は笑みを隠そうともせず。
レミリアが、ふぅ…と小さく息を吐いてから、言った。

「…ええ、…勿論、解ってたわよ…?」
「はいはい。良いからさっさと来なさいよ」
「良い?霊夢が緊張しないよう、ちょっとしたジョークだったの」
「解ったから」
「そりゃあそうよね。ずっとしてなかったんだもの、たくさん取れて当たり前」
「さっさと来い」
「はい」

真っ赤な顔のまま、レミリアがすごすごと霊夢の元に戻って行く…。
髪を丁寧に直し、服の乱れを整え、彼女はコホンと咳払いし、

「それじゃ霊夢、お願いするわ」
「…それじゃも何も、最初からしてるでしょうが」

霊夢に頭を取っ掴まれて、無理矢理横にされた。ばふんと霊夢の太腿に押し付けられて、折角整えた髪もドレスも一瞬で乱れる。捲れ上がったスカートから覗いた白い足が、楽しげにパタパタとはしゃいだ。

「お願いっ、酷くしないでぇ…!」
「えぇい!変な風に言うな!」
「楽しそうで何よりですわ」

卓袱台に頬杖を付き愉しげに二人を見ている咲夜に、霊夢が笑顔で告げる。

「次はあんただからね」
「………」

瀟洒な笑顔が一瞬で凍り付いた。

………。
……。
…。

「……はふぅ…、良かった…」
「そこの吸血鬼、恍惚と頬に手を添えるな」

これでもかと言わんばかりに艶声を奏でた、レミリア・スカーレット…蠱惑の耳掻きシーンは割愛だ。真に遺憾である。

「まったくもう…、変な声ばっか出さないでよ」
「出ちゃうものは仕方が無いじゃない」

憮然と言い放つ霊夢に、しかしレミリアは、しれっと返す。
始めの内こそ身を硬くしていたものの、次第に弛緩していき、仕舞いにははしゃぎ出す始末。言うまでも無いが、今ではすっかりご満悦だ。
レミリアが満円の笑みを浮かべて、霊夢に言った。

「じゃあ今度は、私が霊夢に…」
「絶対にお断りするわ」
「………」

肩を落とすレミリアに、しかし霊夢は態度を変えない。
半ば確信に近い予想。吸血鬼の怪力で耳をシェイクされ血塗れに横たわる自分。レミリアは丁度良いからと、その血を啜り、挙句には霊夢を同族に迎え入れるのだ。………それこそ、一石三鳥などと言って。
さて…、と、霊夢はレミリアを放って咲夜を見た。
先程の硬直は何処へやら、彼女は何時も通りの笑顔で霊夢とレミリアを見守っている。

「それじゃ咲夜、次はあんたの番よ」
「………」
「……咲夜?」
「………」

変わらぬ笑顔で、十六夜咲夜は其処に居た。
その微笑は何処までもクールで、女性であれば誰しもがああ成りたいと願うだろう。しかも彼女が近しい者へ浮かべる笑みには、クールな癖に温かみが在り、冷たい美人だけでは無い魅力が溢れている。実に瀟洒だ。
……反応が無いので、霊夢は咲夜の隣に正座し直し、彼女の頭を鷲掴んで自らの太腿の上に叩き落した。

「いやぁぁぁぁっ!!!!」
「っ!?」
「さ、咲夜っ!?」

重みは一瞬で消えていた。
声の発生源に目を向ければ、完全で瀟洒な従者…十六夜咲夜が、小心で小娘な弱者…十六夜咲夜に変わり果て、襖にしがみ付いていた。彼女に犬の耳と尾が在るとすれば、耳はペタンと垂れ、尾は股の間に収まっている姿が幻視出来るだろう。
…詰まる所。
彼女は恐怖に怯えていた。…実に瀟洒じゃない。

「一体…、如何したって言うのよ?」

取り合えず、手に持っているだけで威嚇の役割を果たす耳掻きを卓袱台に置き、霊夢が窺うようにして問い掛ける。彼女の後ろでは、変貌を遂げた従者の主であるレミリアが、気持ち良かったんだけどなぁ……と小首を傾げていた。
ごくりと大きく喉を鳴らしてから、十六夜咲夜は言った。

「貴女達!自分の身体の中に異物を突き入れるなんて正気なの…っ!?」

信じられないものでも見るように、咲夜が霊夢とレミリアを見遣る。その様はまさに驚愕。へばり付いた襖を一生の伴侶と言わんばかりに抱き締めながら、咲夜がいやいやと首を振る。
うわぁ…と、信じられないものでも見るように、霊夢とレミリアが咲夜を見つめた。
霊夢は思う。こいつが全ての元凶だと…。この分では、紅魔館の連中のうち、耳掻きに縁の無い者も確実に居ると…。例えとして名を挙げるならば、フランドールなどが良い例では無いだろうか?
パチュリーが彼女に教えるか?教える訳が無い。身形を整えるのは従者の仕事だ。
ならば他の者?…否。下手に近付けば弾幕ごっこの餌食になると解って、誰が近付くものか。と言う以前に、パチュリーと同じく、咲夜辺りがやっていると考えるだろう。
だとしたら、この後レミリアに?
思い浮かんだその考えに、霊夢はゆっくりと首を振ってそれを却下した。

………幻想郷を火の海にする気か。

迸る絶叫。吹き上がる血飛沫。痙攣する躰。
姉妹の絆はズタズタに裂かれ、其処に残るは憎しみのみ。全てが紅に染まる、スカーレット戦争勃発である。
それは民家に火と灯油をぶち撒けるようなものだ。時間帯が夜であったら、その被害はどんどん拡大し、やがてその集落に終焉が訪れるであろう。
…それならば、と、霊夢は思った。
それならば、この私が耳掻きの素晴らしさを徹底して叩き込んでやろうではないか!
異変の時でも、ここまで使命感に燃える事は無かったと言うのに…、一体何が、彼女に火を点けたのか。
…だがそれが良い。霊夢はその高揚感に、ぶるりと身震いをした。

「レミリア」

未だ襖に張り付いたままの咲夜を愉しげな視線で舐め、霊夢が熱の篭った声でレミリアを呼ぶ。
首を傾げるレミリアに向かって、霊夢が珍しく高圧的に言った。

「取り押さえろ」

返答は無い。ただ次の瞬間、如何在っても逃げられないような体勢で、レミリアに固められている咲夜の姿だけが、其処に在った。懲りず襖を掴んでいる片手が、妙に哀愁を誘う。
構わず、レミリアが従者を引き摺り、霊夢の元へ持って来る。咲夜のその顔は、死刑台に向かう囚人の其れだ。必死になっていやいやを繰り返す彼女に、霊夢は慈悲深い笑みを湛えて耳掻きを掴んだ。

「ここが貴女の眠る場所よ…」

ぽん、と…。
霊夢が己の太腿を叩いた。

………。
……。
…。

残念な事に、十六夜咲夜…妖艶な耳掻きシーンは割愛である。真に遺憾だ。
そんな彼女…十六夜咲夜は、

「すぅ……」

本当に眠った。
まるで赤子のように無垢な顔で眠る咲夜。大人びた彼女からは想像も出来ない程あどけなく、見ている此方の顔まで緩んでしまいそうだ。
霊夢が膝枕をしたまま、苦笑いでお茶を口にした。
咲夜が其処で眠ってしまった為、そのお茶はレミリアに淹れさせたのだが…、渋過ぎるその味も、苦笑に一役買っている。

「レミリア、ちゃんと休ませてるの?」

自分の淹れた紅茶に顔を顰めている彼女に、霊夢が静かな声で問い掛けた。
それに苦笑を返す彼女の様が、何よりもそれを語る。

「…そんな事言ってもね。咲夜、休まないんだもの」
「やれやれ…」

霊夢がお茶を置いて、咲夜の髪を撫でた。やや癖の在る髪が指の隙間を擽り、流れて行く。
手入れの行き届いた髪が、冷んやりとした感触と僅かな温かみを孕み、とても尊いものに思える瞬間。
きついスケジュールの中、これだけ確りと手入れをしているのは、とても凄い事なのだろう。…のんびりと暮らしている霊夢はそういった事にあまり関心が無かったが、女である以上、その大変さは想像が付く。
寝不足やストレスはそのまま美容に来る。それでも咲夜は、其れが欠けていない。

「女としては、見習わなくっちゃねぇ…」
「大変ね。人間は」

他人事に、レミリアがくすくすと笑う。
咲夜の髪を撫でながら、霊夢が小さく溜息を吐いた。

「ん…」

むずがるように咲夜が身を捩った。霊夢が気遣うようにしてその手を引き、

「おかぁ…さん」

小さな笑みを浮かべて、一人の少女が…それだけ呟いた。

「うぐ…」
「…っ?」

すぅ…、と、静かな吐息を零し、彼女が再び寝顔へ戻る。

「…ふふ、お母さん、…ねぇ?」
「まったく、…もう」

微笑と苦笑。
含むような笑みのレミリア。
霊夢は、仕方が無いなぁ……、そんな顔をして。
…ともあれ。
雨戸越し、未だ降り続ける雨の音も、中々如何して…捨てたものじゃあ無い。
顔を見合わせた霊夢とレミリアが、そうやって小さく微笑んだ。
…と見せ掛けて霊咲も在るよ!こんばんわ絵描人です。

この三人が大好きだぁぁぁぁっ!!
お風呂上りの耳掻きに勝る至福は、中々に在るものじゃあ無いと思います。
皆さんも時にはまったりと過ごしてみては如何でしょうか?

それでは!
絵描人
http://www.yoroduya.org/
コメント



1.SETH削除
得点があったら2億点いれてた 最高
2.名前が以下略削除
いやー三人ともかわいすぎて先生感動した。
3.ぐい井戸・御簾田削除
耳掻きってこんなにエロかったのか…
4.月影蓮哉削除
得点いれてぇぇっ!!! この霊夢さんはスバラスィ。
5.煌庫削除
ああもうエロいなぁ。耳かきなのに。
6.銀の夢削除
ちょっとなんで咲夜さんの耳掃除シーン割愛してますか? 今すぐ加筆してくださいよ氏。

しかしもうかわいいなぁもうっ! 氏のこの三人への愛が伝わってきますよええ……
7.月影 夜葬削除
グゥゥレイト!!
耳掻きという行為でここまでいいお話をかけるとは……
私も望みます!
咲夜さんの耳掃除シーンを!!
8.絵描人削除
レス有難う御座います!
そしてそれにレスります!


SETH様>ゲージが吹っ飛んじゃいますね。手加減してやって下さい!もっと可愛く書ける様、頑張りますよ~。(笑

名前が以下略様>某漫画は言いました。可愛いは正義!…と。そしてエロスもちょっぴり必要だと思うのです……ふふり。(ナニ

ぐい井戸・御簾田様>想像してみて下さい…。自分で何気無くやる場合は気にしないものですが、人にやられる場合、自分の中を相手に曝すのですよ!?そして探られるのです!だから耳掻きはエロ(曲解

月影蓮哉様>さくっと読めて、のほほん出来るのがプチだと思います!あと霊夢さんが、「仕方無いなぁ…」とか言いながら優しく微笑んでくれればそれで(ry

煌庫様>だから耳掻きはエロいと上記で説明したように想像して下さい!自分で(中略)、そして綺麗にされると言う嬉し恥ずかしなイベントなのです。つい、うとうとと眠ってしまうランダムイベントも(ムソーフイーン

銀の夢様>直接書かれるよりも想像した方が楽しいかな…?と思ったのですが…、それならばっ!手の空き次第に加筆をして、HPに更新したいと思います。どうか気長に!あとSSの原動力はラブですよ!

月影 夜葬様>霊夢さんの耳掻きは、それはもうグゥゥレイト!!…なのですよ!ただ、お嬢様の耳掻きは、おいおい…マジかよ…!…なのですよ!
気長に待っていて下さい~。


以上、絵描人のお送りする必殺レス返しでした。…何が必殺なのかは、未だ不明です。
それでは!
9.CODEX削除
耳かきに勝る悦楽無し!
その収穫に、勝る至福無し!!
ビバ!耳掃除!!
讃えよ!!!膝枕ぁっつ!!!!
10.CODEX削除
つか、このボリュームならミニでなくても逝けますぜ。
11.名無し妖怪削除
いやあ、名作だ!文句なしですわ。