Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

マッド・レシピ・ユユコ I

2006/02/25 00:01:07
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・ミッションレコード

 いつものように白玉楼でオヤツを楽しんでいた幽々子。そこへ紫が突然現れ、幽々子に紅魔館潜入ミッションを要請する。目的は秘密裏に開発された新型レシピ帳の奪取だった。
 白玉楼の台所をスキマに叩き込むと脅され、幽々子は仕方なく協力することに。
 スキマ通信による無線サポートを務める三人の無線連絡員、大佐(紫)、ナオミ(藍)、チェン(橙)が万全のバックアップ体制を整え、単独潜入するユユコ=スネークを後方から支援する。
 そして紅魔館へと向かうユネーク。料理の命運をかけた単独潜入任務が今静かに開始される……。

   ■ ● ■

 ピリリリ……ピリリリ……
 プシュン。
「こちらユネーク。大佐、聞こえるかしら」
『良好よユネーク……ずいぶん時間がかかったわね、やはりブランクがあると辛いのかしら』
「心配ないわ、すでに勘は掴んだ。今玄関の前に到着したところよ」
 ユネークは紅魔館前庭の茂みに潜み、息を殺して周辺の様子を窺っていた。いや、幽霊に息もないが。
 現場は張り詰めた緊張感に包まれている。すでに見回りのメイド兵が数名、庭の警備に目を光らせていた。自機狙い奇数弾や高速ランダム弾を備えた歴戦の古強者ばかりだ。
『状況はどう?』
「やはり厳重ね。巡回のメイド兵が三名、装備は5.56ミリのトランペットに、かわいいパイナップル……」
『門番は?』
「あっはは、中国なんてコッペパンで釣れば軽くあしらえるのよ」
『買収か。らしくなってきたわね、ユネーク……』
「いいえ。注意をそらしたところで背後から攻撃して、ぐるぐる巻きに拘束したあと、その辺のダンボール箱に突っ込んでおいたわ」
『さすがだわ。ところで侵入経路はどう?』
 ユネークは再度見張りの動きを確認してから、紅魔館の端から端までを観察する。
 まず考えられるのは中央の玄関。しかしノックしても簡単に開けてくれるとは思えない。屋上には暖炉の排気口があるはずだが、ここからでは確認できない……
 注意深く辺りを見回していると、不意にスキマ通信の向こうで騒ぎが聞こえてきた。
『……幽々子様ぁー! ――あ、何をしてるんですか紫様!』
『あら、妖夢。こんなところで会うなんて必然ね?』
『幽々子様はどこです!』
『ユネークなら、今ちょっと出かけてるわ。まぁ、このスキマ通信で会話は出来るけれど――』
『……幽々子様っ!』
「妖夢……」
 声が通じていることが分かったのだろう。妖夢がしゃべるとき、幽々子が相手の時と他の人妖のときとでは声色が若干違うのですぐ分かる。
『ひどいじゃないですか、この人でなし! あれほどオヤツを食べるときは自重しろって釘を刺したのにこっそりと散々食べ散らかして! しかも私が大事に取っておいた赤福とか紅葉饅頭とか萩の月とか! 幽々子様にはいつも厳選した京菓子をご用意しているのにどーしてそう容赦なく根こそぎ食べようとするんですかっ!』
「妖夢、私はただ食べるもの全てに食欲をもてあましているだけよ。第一、偏食はよくないわ」
『言い訳は聞きたくありません! 今すぐ帰ってきてください!』
「そうはいうけどね、妖夢。もう後戻りは出来ないのよ」
『何でですかっ!』
『まぁー、状況を聞いてからでも遅くは――グァッ! な、何をするの』
『紫様は黙ってお茶でも飲んでてください!』
 ……一向に埒が明かない。
 音が漏れることはないと聞かされたが、不安でメイド兵を警戒してしまう。ぎゃーぎゃーとわめくスキマの向こう側で、やがて見ているのに飽きたのか黒猫の声が聞こえた。
『よーむー。落ち着いて話だけでも聞こうよ。進まないよ』
『……く、橙に諭される日が来るとは……いいでしょう、幽々子様。お聞きします』
 落ち着いたらしい司令室(要するに白玉楼の一室であるが)の様子を窺い、一つ咳を払ってから重々しくユネークは告げた。
「妖夢、大変なことが起きているの、一大事なのよ。私の力が必要とされている」
『…………』
「詳細は紫に聞いてくれれば分かるけど、私は紅魔館に潜入して、吸血鬼秘蔵のレシピ帳を奪取しなければいけない状況にある。……我が家の食卓の存亡がかかっているのよ」
『……聞けば聞くほど頭が痛くなってきます……』
 妖夢は実際に頭を抱えているようだった。スキマ通信にそういう機能でもついているのか、今妖夢がどんな顔をしているのか、見ているようにイメージできる。
 消沈する妖夢の後を継ぐように、大佐が勝手に話を進める。
『そういうことよ、妖夢。せっかくだからあなたにも協力してもらうわ……。その目つき、あなたが戦闘のスペシャリスト。潜入任務では可能な限り交戦は避けるべきだけど、状況が許さない場合も考えられる。以降は無線で戦闘事項に関するアドバイスを担当してちょうだい。コードネームは、マスター・ヨーム。作戦中幽々子のことはユネークと呼ぶように』
 ひょっとすると始めから妖夢を抱き込むつもりだったのかもしれない。口調からそんなように察せられた。
 そんなわけでマスター(妖夢)も作戦に付き合うことになった。
『……分かりました。ユネーク様のご活躍を後陣より見守りいたします。先に言っておきますが帰ってこられたときには容赦なくオヤツ抜きです。ご武運を』
「…………」
 聞かなかったことにして壁を見上げる。
 紅魔館には窓は少ない。が、運良く遠くない位置に開きっぱなしの窓が見えた。
 隙を突けば見つからずに侵入できるだろう。
「大佐、一階の窓が開いているわ。そこから潜入する」
『順当ね。先のことは追って指示する』
 プシュン。
 通信の終わりと同時に周囲を確認する。メイド兵は――ちょうど死角を移動していた。踏み込むなら今しかない。
 ユネークは茂みを低い体勢のまま滑るように移動すると、ふわりと踏み切って開いた窓から内部に踊りこんだ。
 はぜるような風音を耳に巻きつつ、ユネークは素早く一回転すると片ひざで状況を確認した。一見して物置と知れる雑多な部屋だが、広さだけはある。内部は整頓されているようだった。規律がしっかりしているのだろう、こんな部屋でも埃は立たない。
 つい最近掃除したようだ。掃除をしたなら当然窓を開けただろう。メイドはいないが水の入ったバケツが放置されていた。雑巾と洗剤も転がっている。掃除、つい最近――
「っていうか今!?」
「だ、誰?」
 声と共に棚の影からメイド兵が姿を現した。物陰で掃除に集中していたようだ。
 出現と同時ににユネークが何者か理解したのだろう、手にしたハタキを投げ捨て、よく訓練された動きで自機狙い2Way弾を間断なくばら撒いてくる。
 逃げようとした出足を挫かれ、ユネークが悔恨のうめきと共にメイド兵に向き直った。
「動かないで!」
「くっ」
 このままでは応援を呼ばれてしまう。敵は多数、こちらは一人。見つかればあっという間に捕まるだろう。
 かくなるうえは、とるべき手段は一つしかない。
「……メイド兵の連中もみんな食欲をもてあます!」
「え、なに? ……あ、こら、動くな! 動かな――」


 ……ヒィユウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥイィッ!

 ……もしゃもしゃもぐもぐ。
 ごっくん。


「ふぅ、おいしかったぁ」
 ピリリ……ピリリ……
 プシュン。
『ユネーク、何をしてるの!』
「あぁ、大佐。メイド兵はかなりおいしかったわよ」
『食べたの!?』
「当たり前でしょう。必要なのは、食べ物に対する、愛情……粗略な扱いは許されないのよ!」
『ユネーク様、言ってる意味が分かりません……』
『ユネーク。キャプチャーした食料はスキマバックパックに保存することで持ち運びが可能です。放っておけば腐ってしまう恐れもありますが』
『何気に突っ込まないのね、ナオミ……それよりユネーク、今分かったことがあるわ。どうやら館内に入ったおかげで、スキマレーダーがうまく作動するようになったみたい』
「スキマレーダー……いつの間にそんなものを」
 聞いても無駄なのは分かっていたが、一応突っ込んでおいた。
 そして案の定、大佐は無視した。
『レーダーによると、その近くに夜雀が監禁されている可能性が高いわ』
「夜雀? なぜそんなものが紅魔館に」
『どうやら彼女が代々受け継いできた秘伝の焼き八目鰻に関する製法を我が物にするため、紅魔館が無理やり監禁してしまったようね』
「焼き八目鰻か……悪くないわ」
『似たような理由で、彼女以外にも監禁されている人たちは複数いるみたい。ユネーク、彼女達を解放してあげて』
「そしてその恩を種に焼き八目鰻の製法を教えてもらおうって考えね、大佐……うーん、それで、夜雀はどこに?」
『その部屋から西に向かったところに、独房があるわ。そこに向かってちょうだい』
「分かった」
 プシュン。
 ユネークは通信を終えると、見張りのメイド兵たちの警戒をかいくぐりながら西へと移動していった。

   ■ ● ■

 ピリリリ……ピリリリ……
 プシュン。
「こちらユネーク。独房に到着した……大佐、扉は厳重にロックされている」
『そうでしょうね。ユネーク、とりあえず看守を探してはどう? おそらくはジョニー小悪魔あたりが鍵を管理していると思うわ。もしくは別の侵入ルートを調べるのも、いいかもしれない』
「そうね……」
 独房の周囲には人気はなかった。囚人に脱走される隙を作らないためだろうが、ユネークにはそのほうが好都合だ。
 鍵はシンプルで、鉄のかんぬきを頑丈な錠前で固定してあるだけだった。独房を閉ざしているのは鉄格子ではなく、覗き窓を取り付けたがっしりした鉄扉だ。
 ユネークはそろりと覗き窓の向こうを窺う。中に囚われているのは夜雀、ミスティア・ローレライで間違いない。
 しばし黙考の末、ユネークは扉をノックしてミスティアに自らの存在をアピールした。ミスティアはすぐにビクッとして扉に視線を向ける。
「だ……誰!?」
「私はスキマ商事のエージェントよ。あなたを助けに来た」
 向こうからは目だけしか見えていないので、すぐに誰かは分からないだろう。
「真夜中のコーラスマスター、ミスティア・ローレライね」
「そうだけど……あなたは一体?」
「そんなことはどうでもいいわ。それよりも、あなたはどうしてここに捕まっているの?」
「わ、私は……ナイフの怖いメイドに焼き八目鰻の秘伝を教えろって脅されて――」
 ユネークは目をすがめる。
「……ということは、大佐はあてずっぽうってわけじゃなかったのね……事前情報も無しに理由まで一発で見抜いたってことは、ひょっとして何か隠してる、のかしら……」
 ユネークは低くそんなことをつぶやいた。顔を上げると、部分的に聞こえたらしいミスティアが怪訝な表情をしていたが、気にせず続ける。
「秘伝は言っちゃったの?」
「すいません、つい……」
「レシピ帳のありかは分かる?」
「それはさっぱり……多分あのナイフのメイドが知っていると思うけれど」
「そう……さて、おおむね用事は済んだところで――」
『……待って、ユネーク。――っまさか!』
「食欲をもてあます」
「えっ?」
『ユネークッ!』
「やかましい」
 プシュン。
「もう一度言うわ。食欲をもてあます」
「ほ、本当? ならば、食器を早く出してく――」


 ドカッ! バキバキバキ!

 ……ヒィユウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥイィッ!

 ……もしゃもしゃもぐもぐ。
 ごっくん。


「ふぅーぃ」
 もはや用を成さなくなって鉄塊に腰掛け、ユネークは水筒(持参してきた)から注いだお茶の一服を楽しんでいた。
 ピリリ……ピリリ……
 プシュン。
『ユネーク! あなたの任務は潜入よ、つまみ食いじゃない!』
『ユネークがこんな常識のない亡霊だったとは……』
『ユネーク様、なぜ! なぜ食欲にこだわるんですか!』
『ミスちーが……ミスちーが……あぁぁぁぁぁぁぁ……』
 大佐、ナオミ、マスター、チェンがそれぞれ非難の叫びを上げる。最後のはかなりやばそうな気配が混じっているような気もしたが。
 すぐにナオミがフォローに回ったらしく、司令室でのせわしいやり取りが雑音となって通信に流れていた。そんなノイズを破って、大佐の声が飛んでくる。
『くっ……もうすんでしまったことは仕方ないわ。しかし無用な民間人まで巻き込むのはくれぐれも厳禁よ』
「大佐、あいにく私は本能に従っているだけよ」
『……ユネーク、あなただけが頼りなのよ。今はレシピ帳を奪取することだけに集中してちょうだい』
「…………。ふぅ、分かった」
『ユネーク。今あなたがいるところから北に向かい、さらに地下に降りた場所にもう一人民間人が捕まっているわ。それを今度こそ救出してほしい』
「誰?」
『湖上の氷精、チルノ』
「⑨が? 一体どうして」
『カエル料理に関して抜きん出た技術を継承しているらしいという情報があるわ。その先の事情は夜雀と同じよ。詳しい場所は無線で指示する』
「……了解したわ」
 ユネークはぶち抜いた扉から腰を上げ、メイド兵がやってくる前に素早くその場を離れた。
 まだまだ謎に包まれたレシピ帳。その秘密のベールが解き放たれるまで、多くの困難が待ち受けているだろう。そして紅魔館が誇る精鋭の戦闘技能者達……彼女らとの戦いも、避けられまい。
 決意を秘め、ユネークは影を走る。
 永遠に紅い幼き月の統べる難攻不落の城館を相手に、ユユコ=スネークの戦いはまだまだ始まったばかりである。



 続く。
 続くかどうかも怪しいシリーズ、第二段でした。
 前回のブリーフィングから、設定を若干変更しています。そちらのほうをお読みになられた方には「おや?」となるシーンがあるかもしれませんが、目をつむっていただければ幸いです。
 この作品はダンボール箱で有名な某スパイゲームのパクリ全開で構成されています。元のゲームはとてもすばらしい作品なので、未プレイの方はこの機会に是非。
 厳密には、パクリのパクリ、という位置づけのほうが正しいのですが……

 話は変わりますが、空の軌跡発売まであと2週間。今から尽きぬ期待で心躍ります。

 感想、文句、お待ちしております。
 それではまた次回お会いしましょう。
腐りジャム
コメント



1.名無し妖怪削除
みすちがぁぁぁぁ(T□T)
2.名無し妖怪削除
GAMEOVERのAAを貼り付けていいですか?
(・∀・)ニヤニヤ
3.煌庫削除
名も無きメイドとみすちーに合掌・・・・食欲を持て余しすぎだ、ユネーク
4.削除
致命的ミスが。

なんで焼き八目鰻じゃなくて焼き鳥なんだッ! クソックソッ!
みすちーが焼き鳥作ったら同族殺しじゃねえかッ!!
5.腐りジャム削除
>なんで焼き八目鰻じゃなくて焼き鳥なんだッ! クソックソッ!
うわぁぁ! やってしまった!
す、すみません訂正訂正……
書籍の資料はもってなくて、設定とか適当に書いてたりしてまして……なにとぞお許しを。
6.絵描人削除
やっぱり食べられるのか!
食欲を持て余す。
7.空欄削除
にしても龍(美鈴)には食欲を持て余さなかったのか?