Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

コンニャク物語

2006/02/22 11:58:01
最終更新
サイズ
10.33KB
ページ数
1
*パロディ注意、俺設定注意。




















ある日のマヨヒガ。

「あれ…これ、なんだろ」

部屋の掃除をしていた橙は、押入れの中にあるものを見つけた。
それは大きな本のようなものだった。ぶ厚い表紙に「思い出」と書かれている。

「あら、懐かしい。アルバムね」

その日は珍しく朝からおきていた紫が、橙の背後から声をかける。

「あるばむ?」
「撮った写真を綴っておく本よ」

ここ幻想郷にも写真機――カメラをはじめ、外の世界の道具が多数存在する。
特にこのマヨヒガは、紫が持ってきた品物で溢れている。

「へー…見てもいいですか?」
「ええ。一緒に見ましょ」

2人はアルバムのページを繰り始める。


###


まず最初に出てきたのは、やんちゃそうな少女の写真。
カメラに向かって、快活な笑顔を向けている。

「あれ?この子って…」
「そう、藍よ。この頃はいたずらっ子でね~」
「えーっ?藍さまが?」

橙は驚いた表情で、写真の中の少女を見つめた。
金色の髪と瞳、毛並み豊かな尻尾――確かに、それは彼女の主の面影を持っていた。
尻尾の数は3本だったが。

「ええ、そうよ。なんか変なモノに憧れててね」
「変なモノ?」

首をかしげる橙。
今は紫の言いつけで冥界に使いに出ている藍が、幼少の頃に憧れたものとは、一体何か?

「いたずらの大王だとかなんとか。狐の世界では有名な人(?)らしいわ」
「くすくす、藍さまもそんな時期があったんですねー」

紫は次のページにある写真を指差す。

「ほら、このマント広げてる写真とか」
「うわあ、可愛いー」

そこには黒いマントと仮面をつけ、何かポーズをつけようとして盛大にずっこける幼い藍がいた。


###


「あ、この猫、もしかして…」
「あなたね。まだ子猫で、妖力もないころの」

アルバムのページの中では、すこし年数が進んでいた。

「うーん、あんまり覚えてないかも…」
「そりゃそうよ。もう百年以上前の話だからね」

だからだろうか。今見ている写真は、白黒で、やけに目が粗く見えた。

「あ…藍さまの頭の上に乗ってる」
「うふふ、かわいいことしてたのね~」

ただの子猫だった橙を頭に乗せ、嬉しそうに笑う藍。
そのとろけそうな表情は、今の凛々しい八雲の式とはかなりかけ離れて見えた。

「この頃の藍さまは、まだいたずらっ子だったんですか?」
「一番ひどかった時期じゃないかしら」
「いったいどんないたずらを…うわ」

ページをめくって一番に目に飛び込んできた光景を見て、橙が目を丸くする。

「ああ、これね。この時ばかりはホントに呆れたわ」
「お風呂のお湯が味噌汁になってる…」
「捨てるのももったいないから、しばらくそこから掬って飲む日々よ」
「あ、あはは…」

そう、そこには湯船一杯の味噌汁が写っていた。
表面に浮いたワカメと油揚げが食欲を誘う。
いやいや。

「他にも夜中に人の顔にコンニャク落としてきたり、家の中で花火したり…」
「やんちゃだったんですねー」

藍さまが今ここにいたら、どんな顔するかな。
そんなことを考えると、橙の顔は自然とにやついてきた。


###


次に現れたのは、橙の知っている者ではなかった。
長身痩躯、端正な顔立ちの青年。

「あら、この人は」
「わ…かっこいい男の人」
「藍ったら、写真は全部焼いたって言ってたくせに…」

紫は、どうもこの男性に見覚えがあるようだった。

「誰なんですか?」
「藍の昔の男」
「えーっっ!?」

思わず声を上げる橙。

「あらあら失礼ね。あの子だって女の子ですもの、恋の一つもするわ」
「だ、だって藍さまが、こんな美男子と~」

橙は写真の青年をしげしげと見つめる。
う~ん、なんか、藍さまとの2ショットは思い浮かばないかな?

「まあ、今の藍からはちょっと想像しがたいタイプかしら?」
「この人とは…今は、その、どうなってるんですか?」
「別れちゃったわ。なんだか藍の方からふっちゃったみたい」
「そうなんだ…」

と言うことは、今はどこか遠くにいるのだろうか。
少なくとも幻想郷で、こんな美男子は見たことがない。

「なんかどっかの国の領主で、見ての通りのイケメンだったんだけど」
「じゃあ、なんでふっちゃったんですか?」
「んー…性格がちょっと病的に細かい人でね。やたら時間に厳しくて、集会に1秒でも遅れた
国民を死刑にしちゃうような王様だったのよ」
「え~!?」

紫もこの男性についてはあまり詳しく知らないようだったが、いい印象は持っていなかったのだろう。
確かに1秒遅刻しただけで死刑とは、恐怖政治もいいとこである。

「ひど~い!そんな人、藍さまが許すわけない!で、別れたんですか?」
「それが違うのよ。あの頃の藍は、さすがにもういたずらはしなかったんだけど、
ひねくれてたって言うか、やさぐれてたって言うか…とにかくそういうワルい男に
惹かれてたのよね」
「ええ~!?」

聞けば聞くほど、驚きが連続する藍の過去だった。

「でもある日、国の人たちの反乱にあってね。その上、たまたま国を訪れてた泥棒に
コテンパンにされちゃって。詳しいことはわかんないけど、それで幻滅して別れちゃった
とかなんとか」
「えっ…」

自分でひどい奴と言っておきながら、そんな話を聞くとなんだかその王様が少し哀れに思えてくる。
まあ、それでも藍に釣り合うような男だとは微塵も思わなかったが。

「う~ん、何にしても、その頃の藍さまって…不良?」
「大変だったのよ~。言うこと聞かないし、意地っ張りの癖に泣き虫で」
「ホントに今の藍さまからは想像もつきません…」
「うふふ、でもね」

あまりにも意外な主の過去に困惑気味の橙を見て、紫は穏やかな笑みを浮かべた。

「?」
「あなたの世話だけは毎日きちんとしてたのよ。もう子猫じゃないのに、まだ
こうやって頭に乗っけて」

紫が指差した写真。
そこにはすこし、いやかなり大きくなった黒猫を、がんばって頭に乗せる少女。

「えへへ…」

そんな微笑ましい光景と、紫が告げた事実に、大きな喜びと、少しの照れがこみ上げてくる。

「まあ、これを機にちょっとずつ真面目になって行ったのよ、あの子は」

やれやれ、と息をつきながら、紫が次のページをめくる。
さて、お次の思い出は…


###


「あ、これ覚えてますよ!藍さまの初仕事の時の」
「そうね、このときはもう橙も妖怪になってたかしら?ああ、まだ人の形ではないのね」

画面の隅に座る、尾が二股にわかれた黒猫。
既に猫又と化した橙である。

「朝にすごい張り切って出て行った記憶が…」
「そうね。初めてわたしと一緒に、博麗大結界の点検に行ったときかしら」

これまでより幾分か成長した少女。
いたずらっぽさがなりを潜め、すこしだけ、落ち着いた感じに微笑んでいた。

「それで、帰ってくるときには?」
「なんか…ずっと泣いてましたよね、藍さま。あの時、やっぱり…失敗したんですか?」

この頃になると、橙もうろ覚えだが記憶に残る光景がちらほら見られる。
あの日の藍は、どんな顔をしていたか。

「う~ん、仕事自体は失敗ではなかったんだけど…結界の修復の時に、ちょっと
近くの人間の家が壊れちゃって。怪我人はなかったんだけど…ちょうど作業を藍に
任せてみた辺りで起こった事故だから、責任感じちゃったのね」
「あ…この写真ですね。瞼が腫れてます…」

そう、そこには目を泣き腫らし、唇を噛む少女の姿。
傍らには、心配そうに見上げる猫又。

「わたしも一緒に謝って、とりあえず境界を弄って家は直ったんだけどね。自分の
やった粗相に対して、わたしが頭下げてるのがまた悔しかったらしくて、家に着くまで
ずっと泣いてたの」
「……」

橙は、自分がはじめて藍の式として仕事をした日のことを思い出す。
あの時は、偶然か必然か、とにかく藍に「やってみなさい」と言われたことがうまくできた。
藍に褒められ、その日1日中笑っていたことを覚えている。
もしも。
もしもあの時、自分の失敗で周囲の妖怪や人間に迷惑をかけていたら、自分はどうしただろうか?

「だけどね、橙」
「はい」

紫の声。それは優しく、柔らかく響いた。

「わたしは嬉しかったの。あの子が…自分の失敗に涙してくれたことが」
「どうして…ですか?」
「自分の失敗が、誰かに迷惑をかけること。その失敗を、別の誰かにフォローしてもらう
こと。あの子は、それが悔しくて泣いたの。それこそ、生まれてはじめて」
「……」

ぽつぽつと話す紫の視線は、現在と過去の境界を越えて、あの日の藍を見つめているのだろうか。

「周りに迷惑をかけて、何の罪悪感も感じなかった藍に…わたしが何を言っても、
絶対に自分の意見を変えないで、好き放題してた藍に、初めて確かな『責任』
っていう概念が生まれたの。わたしは、そんなあの子の…成長が嬉しかった。」
「成長…」
「もうこの頃は不良っぽさが抜けてたけど、本当に『大人』への一歩を踏み出したのは、
これがきっかけじゃないかしら。もちろん、その日の夜は思いっきり叱ってあげたけど」

嬉しかったのはもちろん内緒でね、と言って笑う。
自然と、橙も笑顔になる。

「くす…でも、たしかにこの後の写真の藍さまは、なんだか…違って見えます」
「いまのあの子に近い表情をしてるでしょ?橙を本格的に自分の式にしようと思ったのも
この頃からね」

思い出のページは繰られていく。
1歩1歩、それが今につながることを確かめるように。

「えと、それは、つまり…」
「まあ、あの子なりの決意表明みたいなものだったのかしら。あなたを立派な式に
育てることが、藍のわたしに対する『恩返し』だったのかも…なんて、自分で言ってて
恥ずかしいわね」

それは思い込みだったのかもしれない。
式の自分が式を持つ、それは主に対する反抗、ととれなくもない。
それでも紫は、それを許した。
その判断が正しかったのか、どうか。
結果は、自分の横でアルバムを見つめる、小さな――

「うーん…」
「橙?」
「紫さま、わたし、がんばって藍さまの立派な式になる!」

食い入るように写真を見ていた橙が、突然紫の方を向いた。
最初、何を言われたのかわからなかった紫は、一瞬だけ呆然とした後、
すぐに笑顔になり――

己の式の、成長の「証」に
遠い昔の、自分の「判断」の結果に

――そっと手を差し伸べ、その髪を、優しくなでた。

「あらあら…」
「んむ…」

紫の指が耳に当たり、くすぐったそうにする橙。

「藍は幸せ者ね。いい式を持ったもんだわ」
「あの、えーと、でも、それは…」
「なあに?」

何か言いたそうにするが、言葉が見つからないのだろうか。
紫は焦らせないよう注意しながら、尋ねた。

「うまく言えないけど…わたしが、その、こういう風に…褒めて、もらえるのは、
やっぱり藍さまがちゃんと育ててくれたからで…でも、それは紫さまが、
ちっちゃいころからずっと、藍さまを大事にしてきたからだと思うから…」

途切れ途切れの言葉で、思いを伝える。

「そう…」
「だから…えと、紫さま」
「はい?」

橙はかしこまった表情で、一度息を吸い込む。
そして、すこし頬を赤くしながら、若干頼りなげな、しかしはっきりとした声で――

「あ、ありがとう…ございます」
「……」

紫は、またも最初何を言われたのかわからず、今度はかなりの間呆然としてしまった。
そして。

「あらあら…」
「わぷっ!?ちょ、紫さま…」
「幸せ者ね…ほんとに」

あの子も…そして、わたしも。
じたばたする橙を抱きしめながら、紫はそんなことを思うのだった。


###


その後も2人は、アルバムをめくりながら思い出話に花を咲かせた。
写真にはやがて色がつくようになり、画面の中の人型も、1人増えた。
「これ、栗拾いに言った時の写真ですね」
「橙のお尻に毬栗が刺さって大騒ぎになったわねー」
「もう。あれは忘れてくださいよう」
楽しかったことも、辛かったことも、すべてが真実としてそこにあった。

「あう、これは…」
すすけた服装で、いまにも「しゅ~ん」とでも言いそうな3人が写っている。
比較的最近の写真。
「ふふふ、三人そろってボロボロね」
「ちゃっかり巫女も写ってるし!」
アルバムが閉じられる頃、辺りは既に夕焼けに包まれていた。


###


玄関の辺りから物音がした。
あれは、戸が開く音。
2人には、その音の正体が、すぐにわかった。
理由なんてない。
毎日聞いている音。
2人だけが、いつでも、どこでも、それとわかる音。
だって、それは――

「藍さま、おかえり!」

――家族が、我が家に帰ってくる音だから。


ぐあ。
やっちった。
何この完璧オレ設定。
何この微妙にわかる人しかわからないネタの選定。
何この本文との関係が薄いタイトル。

ほんと「こんなの藍さまじゃねえ!」とお思いの方、すんません。
や、半分はギャグみたいなものですが。
まあ、彼女が九尾なのは最初からじゃなく、元々はわりとフツーな化け狐少女だった
…てなイメージで読んでいただけるといいかと。
ゆかりんは、恐い妖怪だけど、悪いヤツではないと思うのです。
幻想郷を、博麗大結界を守る上で、人間にも妖怪にも公平に気を配ってそうなイメージがあります。
生前のゆゆ様とつながりがあったのも、その辺に大元の理由があるのかな、なんて思ってみたり。

何にしても、楽しんでいただけたら幸いです。
さて!停滞してる長編の続きを書くかぁ!
ぐい井戸・御簾田
コメント



1.名無し妖怪削除
そうか、ものみの丘の沢渡真琴(仮)は有名人だったのか・・・

というか藍様、時の都アドニスで暮らしてたことがあるんですか
弾撃ったり心音サーチ能力持ってたりヴァン・ムスーと一緒に大暴れでしたね
まぁ、あやうく王ドロボウに毛皮売られちゃうトコでしたから領主を見限った気持ちはわからなくもないですよ
でもなんでシェリーなんて偽名使ってたんですか?
2.名無し妖怪削除
ゾ○リか? ゾ○リなのか!?
3.名乗る名前は奪われた。削除
ああそうか、偶然立ち寄った少年と鳥に毛皮にされかけたんですね・・・。
4.とらねこ削除
元ネタは知りませんが、暖かさを感じるお話でした。
5.油揚げ削除
あたたかいなぁ……
成長を見守る親のこころですね。

6.卯月由羽削除
ゾロ○ぐらいしかネタは分からなかったけど
すごい暖かい気持ちにさせてもらいました。
7.ガナー削除
元ネタがわからない。
けどそんなの関係無くなるくらい、いい話