Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

時代をかけてやってみりゅ

2006/02/19 04:47:23
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「妖夢、今日は時代をかけてみようと思うの」
「……はぁ?」
 朝一番の幽々子の言葉に、なにを戯言をと妖夢は思った。けど、なんだか惹かれるものがあったのでやってみた。

   ケース1

「すみませーん、お薬届けにきましたよっと」
 投げやりな調子で、永遠亭の兎である因幡てゐは言う。
 本来ここに配達するはずだった兎が急病で倒れ、急遽代役としててゐが立てられた。ちなみに、非常に不機嫌である。
 なにしろ健康のために体を動かしていたのだ。健康の邪魔をされるのは、てゐの一番嫌いとするところである。
 うどんげめ、今に見てろよ。たまたま自分を見つけた相手に悪態をつく。今日の夕飯あたりに、うどんげの食事に唐辛子を混ぜる事を決めながら、冥界を歩いた。
 いつもどのへんで受け渡しをしているのか分からないために、こうして歩き回っている。相手は西行寺幽々子なので、白玉楼まで行けば結局終わるのだが、面倒な事この上ない。
 再び声を出そうとして、それは空から降ってきた何者かに遮られた。
「曲者めぇー!」
「うわちょっと、何なのよ!」
 大声を上げながら降ってきたのは、魂魄妖夢だった。刀を扱うその少女は、抜き身の刀を気を使いもせずに持っている。というか、何故か首筋に当てられていた。
「おのれ、永遠亭の乱波者めが。神妙にせい!」
「いや、最初から抵抗もなにもしてないんだけど」
「神妙にせい!」
 ぎぢり、と刀が鳴り、少し刃を引かれる。首筋から少量血が流れた事に気付き、なにを言っても無駄だと悟った。両手を頭上に上げて、降参のポーズ。
「それで良いのだ」
 何か言う暇もなく、両手が縛られる。
 あんた本当にどうしたの。主に頭が。そういえればどんなに良かっただろうか。しかし、言えば首をさっくりやられかねない雰囲気だったので黙った。命には代えられない。
 手を拘束されたまま腰に縄を結ばれ、それを妖夢に持たれて引きずられるように歩くてゐ。何でもいいからさっさと帰りてぇ。切に願う。
 白玉楼正面の庭まで来ると、何故かゴザが敷いてありそれに座らされる。襖は全部取られ、広間がまる丸見えだ。
「御館様! 侵入者をひっとらえました!」
「良くやったわね、魂魄妖夢。褒めてつかわす」
「ははっ、有り難き幸せ!」
 広間の横から出てきたのは、西行寺幽々子。いつものような服ではなく紋付袴を着用している。こいつらなにがやりたいんだよ。
「これはこれは、永遠亭の兎よ。そちらも大きく出たものよのう」
「それはあんただよ」
 ぷすり、背中にさりげなく配置されてあった刀が刺さる。ぶわりと嫌な汗が出た。
「して、御館様。どうしてくれましょうか」
「打首獄門」
「御意」
「御意じゃねー!」
 振り上げられた長いほうの刀――銘は知らない――を止めるように、てゐが叫ぶ。
「薬ぃ! 頼まれた薬持ってきただけだから! 別に殺されるような事やってないから!」
 たまらず絶叫する。
「ほほぅ、この兎、随分な嘘をつく」
「嘘じゃないから! 嘘だと思うんならそこのつづらの中を見てよ! 頼まれたもん入ってるから!」
 てゐを捕まえた時に妖夢が持ってきたつづらを、幽々子が顎で指す。妖夢は従い、つづらを丁寧に幽々子の前まで持っていき、つづらを開けた。
 二人で中身を確認し、つづらを閉じて妖夢がそれをどこかに持っていく。さして時間もかけず帰ってきて、つづらの代わりに持っていた物をてゐの正面に投げた。
 正面に落ちてきたのは、檜作りの脇差だった。これで縄を切れと言う事だろうか。
「武士であるならば自刃せよ。介錯は任されたし」
「しねーよバカ! 自殺しねーよ! あーっ、もぉ!」
 器用に縛られた手で縄を切り、脇差を地面に叩きつける。
 妖夢が刀を構え終わる前に、ダッシュ。妖夢は追いかけようとするが、その前に絶望的な距離が開く。健康に気を使った兎を舐めるな、足は健康の第一歩である。
「おのれ乱波め! 二度目があると思うなよ!」
「誰が二度とくるかボケぇ!」
 せめてもの抵抗と捨て台詞を残し、てゐは文字通り脱兎になった。
 余談ではあるが、料金を受け取ってこなかったてゐは永琳にしこたま怒られた。

   ケース2

「あー、話が見えないんだが、何で私は縛られてるんだ?」
「黙れ侵入者! これから御館様の裁きが下る」
「……まあいいけどな」
 魔理沙があきれながら言う。何がここまで妖夢を壊したかしらないが、しばらく付き合ってやることにする。
 思い当たる節は、あえて上げれば無い訳でもない。幽々子の従者はストレスが溜まりそうだ。勝手なことを思いながら、ゴザの上に転がる。というよりも、その体勢以外できないのだが。
 冥界に入っていきなり、魔理沙は張り倒された。そこから何かをする暇もなく縄で縛られる。ただ手足を拘束するだけではなく、さながら蓑虫のようにがんじがらめに。
 厳かに入ってきたのは、やはり幽々子だった。見慣れない服を着ているが、正直あまり似合わない。白すぎる彼女の肌には、普通の色使いの服でさえ毒々しく感じる。
「ほほぅ、侵入者とは霧雨の娘かえ」
「いや、なんの遊びだ、こりゃあ」
「口を慎むがよい。今すぐ首をはねられたくなければの」
 いつもからは考えられない機敏な動きで、袖に仕舞ってあった扇子を取り出す。ぱちんと軽い音を立てて、口元を隠しながら開いた。
 どうやらご乱心なのは妖夢だけではないようだ。疲れがどっと増す。
「あぁ、なんか疲れた。あんまり言いたくないけど、今日は博麗神社で宴会だぜ。できればお前たちは来るな」
「御館様に暴言とは、いい度胸だな。ご命を待たずとも、その首切ってくれる」
「ちなみに、私の腰にぶら下がってる袋は土産だぜ。中身は団子だ」
「わーい」
「幽々子様ぁ」
 急にいつもの幽々子に戻り、魔理沙の腰に飛びつく。笹で包まれた団子を取り出して、笑顔で頬張った。
「妖夢、なにやってるの? 早くお茶を持ってきて頂戴」
「はいはい、分かりましたよ。もう」
 しぶしぶとではあるが、機敏な動きを見せて台所に向かう。
「なあ、縄をほどいて欲しいんだが」
 無視。幽々子は団子を食べ続ける。
 妖夢が戻ってきて、二人でおやつを食べ始める。妖夢にも同じ事を言おうかと思ったが、やめた。どうせ無駄だろう。
 二人で団子を食べ終え、一服。幽々子は定位置に戻り妖夢は急須を片付けた後、きりりと顔を絞りこう言った。
「おのれ侵入者め!」
「そっから始めんのかよ」

   ラストケース

 全身から気だるさを発散し、霊夢は境内を見回した。周囲では既に宴会の準備が始まっており、料理も数品揃えられている。
 今日準備をしているのは、比較的珍しい永遠亭の兎たちだ。永琳と鈴仙が指揮をとり、紅魔館に並ぶ手際の良さで準備がされていく。ちなみに輝夜は縁側で霊夢のお茶を勝手に飲んでいた。
 霊夢は口を開いたが、何も言わずに口を閉じて肩を落とした。注意したところで直らないだろう。勝手な奴が多すぎる事に頭を抱える。自分を棚に上げる時点で勝手な奴の一員である事に、霊夢はまだ気付いていない。
「あ」
 輝夜がぽそりと言った。遠くの何かを見て、迷う。何を迷っているのかは霊夢には判断がつかなかった。
「なによ。何かあったの?」
「うん……えーと、あそこのあれ。たぶん魔理沙なんだろうけど、魔理沙かなぁって」
「はぁ? なにそれ」
 魔理沙は魔理沙だろうに。そう呆れながら思って、輝夜が指差す方向を追った。そこには、たしかに魔理沙がいる。
 魔理沙なのだが、なんとなく魔理沙と断言できる要素が欠けていた。何故だろう、と思う。帽子も服も、いつもどおりの黒装束だ。箒にもまたがっているしおかしな所は――まぁ、彼女はいつもおかしいと言ってしまえばそれまでだが――見当たらない。違和感だけは恐ろしく強いのに。
 霊夢は魔理沙の要素を頭の中で一つ一つ上げていった。大して数えないうちに、それは見つかる。
「魔理沙、遅くない?」
「あぁ、そうか。だから魔理沙っぽくなかったのね」
 輝夜が同意する。ひっかかっていた物が取れたらしく、先ほどより幾分表情は明けている。
 しかし、まあ、なんというか。霊夢はどう反応して言いのかわらからず、うめく。今の魔理沙は怪我をしているわけでも箒が不調なわけでもないだろう。ただやる気がなく、それ故に遅い。いや、疲れているのかもしれない。どちらにしろ、遠くから見た魔理沙の印象は霊夢さながらだ。
 長い時間をかけて、魔理沙が境内の隅に下りる。もう殆ど宴会の準備は済んでおり、そこくらいしか下りられる場所がなかったためだ。
 魔理沙はだるそうに箒を担ぐと、猫背になり重心の安定しない歩き方でこちらに寄ってくる。
「まるであんたみたいねぇ」
「うるさいわね。何百年も引きこもってたあんたに言われたくないわよ」
 輝夜の悪戯っぽい笑いを、憮然と返す。
「……おう、妖夢と幽々子を呼んできたぜ」
 のっそりと現れた魔理沙が、まるで幽鬼のように言う。
「魔理沙、なんかあったの?」
「あんたは元気がとりえなのに、それをなくしてどうするの? いっそのことあの人形遣いとでも融合するのかしら」
 輝夜がくすくすと笑う。いつもの魔理沙ならばそれで何かを言い返しそうなものだが、今日は沈黙している。いや、相手にもしていない。
 その態度が気に入らない輝夜は、眉をひそめる。
「何よ、嫌な態度ね。ちょっとは何か言いなさいよ」
「……疲れてるんだ」
「あんた、本当にどうかしたの? そういえばうちのイナバもなんかお使いに出てからおかしいけど」
「イナバ? どいつだよ」
「イナバはイナバ。どれだって同じでしょ。あのいつも小うるさい嘘ばかりつくイナバよ」
 霊夢と魔理沙、二人揃って輝夜が指す方向を見た。そこには、何故か酷く興奮している因幡てゐがいる。顔を紅潮させ、周囲を執拗に見回している。
 霊夢にはわけが分からなかった。しかし魔理沙は違うらしく、彼女を見るとしみじみと頷く。
「あぁ、奴も餌食になったのか」
「奴も? 餌食ってどういうことよ」
「気にするな。そして聞いてやるな。それこそが奴のためだ」
 魔理沙は自分が言い終わるのも待たずに、家の中に勝手に上がる。掠れた声で「宴会まで休ませてくれ」と言うと、畳の上に座布団を重ね、その上に転がった。普段なら怒るところだが、今日はどうも怒る気になれない。
「イナバー。とっととこっち来なさーい」
 突然出された声に、霊夢は振り返る。
 輝夜がものすごくいい笑顔で、手招きをしていた。完全に面白いものを見つけた目である。獲物は逃がさず旬は逃さない、それが輝夜流だ。
「あ、はいはーい。お姫さま、ちょっと待ってくださーい」
 言い、現れたのは因幡てゐではなかった。ブレザーとミニスカートのスタイルの上に、今日はエプロンを付けている。水仕事でもしていたのだろう、エプロンで手を拭きながら駆け寄ってくる。
 鈴仙・優曇華院・イナバは、姫の要望にこたえるべく、急いでやってきた。
「あんたじゃないいらない。とっとと戻れ」
 やってきたが、即座にあしらわれた。
「酷っ! 酷くないですかそれ!? お姫さまが呼んだじゃないですか」
「あんたじゃないイナバを呼んだのよ」
「区別する気があるんなら呼び分けくらいしてくださいよ……」
「あれあれ、あのはしっこくてちっさいイナバ。詐欺が趣味の」
「いや、詐欺が趣味かどうかは知りませんけど……。あれはてゐですよ」
「そう、てゐね。てゐー! そんな仕事いいからとっととこっちいらっしゃい!」
 その台詞に、てゐのみならず皆が手を止めた。てゐと永琳は呆然と、その他の兎は愕然と。
 なにしろ、何十年何百年と一緒にいる兎の誰一人として名前を覚えなかったのが蓬莱山輝夜である。基本的にやる気の薄い彼女は、どのイナバがどんな特徴を持っていようと自分の言うとおりに動けば問題はないと思っている。
 周囲の兎が一気にざわめく。やれ一気に幹部になりあがった、やれこれからは永琳とてゐの両腕だ。そもそも幹部などいないのに、勝手に盛り上がっていた。ちなみに鈴仙はいまだ状況が良く分からず、首をかしげる。霊夢は心底どうでもよかった。
 兎たちが鈴仙の周囲に集まり、彼女をはやし立てる。
「鈴仙さま、やばいですよ! 輝夜さまが取られちゃいますよ!」
「アピール、ここでアピールしないと!」
「鈴仙さまには主張が足りません! もっとこう、えぐりこむように! 抉り込む様に!」
「いや、何をえぐりこむのか分からないけど。私は師匠の弟子だから」
「欲がねぇー!」
 兎たちが一斉に叫ぶ。鈴仙はそのテンションに気圧され戸惑った。
 霊夢が急に、ぎらりと目を輝かせた。その果てしない威圧感に、兎は一斉に黙る。霊夢が鈴仙に進むのを見て、兎が道を開けた。
 少々怯える鈴仙を正面に、霊夢は悠然と構え指を一本立てた。
「あんたには愛が足りないわ」
 一秒、二秒と、沈黙。やがて十秒時が経とうかと言う所で、霊夢は指を下げた。鈴仙はしばらく思考と視線を巡回させ、やがて覚悟を決める。
「えーと……、で?」
「いや、霖之助さんが格好よく言ってたから真似てみたくなっただけ」
「あ、そぅ」
 鈴仙は確実に疲労したのを自覚して、霊夢がふらふらと輝夜の隣に座るのを見送る。霊夢と輝夜はてゐを正面に、お茶とせんべいを巡る小競り合いを始めていた。
 のらりくらりとした小競り合いは、霊夢がせんべい、輝夜がお茶で決着がついた。ちなみに何故両方取らないかというと、湯飲みが一つしかないだけである。輝夜の湯飲みは霊夢が先ほどまで使っていたものを奪ったものだ。
「まぁなんか、色々余興はあったみたいだけど。それでてゐ、あんた今日冥界に行ったわね」
 今までも落ち着いていたとはいいがたい風体だったてゐの体が、輝夜の言葉で明らかに大きく動揺する。
 その同様に輝夜は満足し、続ける。口元はいやらしく笑っていた。
「もっと言えば、白玉楼まで行って、妖夢と幽々子に会ったわね。あんた、そこで……」
「ばかー! あほー! 二度と来るかボケェ! ちぃくしょーぉぉぉ!!」
 てゐの理性が勢いよく乱れた。輝夜は怒る間を逸し、ただ呆然とするばかり。てゐはご乱心のまま、あたりに弾幕をばら撒いた。
 まさに阿鼻叫喚の地獄絵図である。一番近くにいた霊夢と輝夜は顔面に弾幕がヒットし一番初めにリタイア。仲良く大の字に倒れこむ。他の兎も、てゐの弾幕には手も足も出ない。いくら理性が飛んだとはいえ、永遠亭のナンバー4は伊達ではない。鈴仙はてゐより実力は上ではあるが、他の兎を守りながらでは実力を発揮できるはずもなく。
 そんな混乱を収めたのは、永琳だった。彼女は輝夜の言葉の時点でてゐに向かって駆け出しており、首筋の裏に弓を落とした。体術と体力には自信のない永琳であったが、それを道具で補い見事にてゐの意識を刈り取る。
 てゐの体が地に落ちる前に、鈴仙が慌てててゐを抱きとめる。永琳以外は何が起きたのか良く分からないまま、混乱はひとまず収まった。

「まったく、なんなのよ一体」
 霊夢と輝夜が同じ仕草で顔をさすりながら、異口同音に言った。
「えぇ、それが……」
 永琳はいいにくそうに、慎重に言葉を選んだ。
「今日、白玉楼に薬を届ける筈だった因幡が急病で倒れまして、それで代役としててゐを立てたんですけど、どうも帰ってきてからこの調子で」
「鎮静剤でも打っときなさいよ、そんなもん」
「何故か効かなかったんです。私もこんな事は初めてで」
「何それ」
 輝夜が険しい顔をする。
「魔理沙も似たようなもんだったわね。あの死人どもがウチにケンカを売ったって事? 場合によっちゃ八つ裂きよ、あいつら」
 言いながら、牙を剥く。手前勝手な言い草ではあるが、彼女の心情も尤もだろう。
「魔理沙の話が本当なら、今日の宴会に白玉楼は来るわ。その時にでも問い詰めて、黒だったら……」
 輝夜はその先を続けない。だが、言わんとしている事が伝わらない人物はこの中にはいない。
 霊夢は一人、神社の外でやってくれと思っていた。輝夜の飲みかけの茶に、口をつける。
「あぁ! なんで私のお茶を飲むのよぉ。あんたはせんべいだって話がついたでしょ」
「じゃあ食べなさいよ。ほら」
 霊夢は自分の食べかけのせんべいを輝夜の口の中に詰め込む。お茶だけでなくお茶請けも欲しかったのだろうか、輝夜はさしたる不満もたらさずに、せんべいを噛み砕いた。
 ひとまずはそれで解散したが、空気が張っているのは言うまでもない。尤も、宴会が始まってからはそれを回りに気取られない程度の分別はつけていた。
 宴もそろそろ盛り上がり、今はミスティアが歌を歌っている。まだ白玉楼の二人は来ていない。永遠亭の面々は知らないが、霊夢は今日は来ないのではないだろうかと考えている。永遠亭は何か企んでいると考えているかもしれないが。プリズムリバー3姉妹が来ていないのも、永遠亭に何か企んでいると考えさせる一因かもしれない。
 輝夜は比較的霊夢と同じ考え方なのか、今は妹紅とケンカをしていた。と言っても、言い争いだけだが。こんなところで弾幕を張ろうものならば、不夜城レッドに夢想封印、ミッシングブルーパワーなどのスペルカードフルコースを喰らう事になる。
 宴会が完全に盛り上がりきる前に、魔理沙を呼ぼう。元気がなかった友人に少しばかりの気を使う。霊夢は襖を開け、魔理沙の背中を踏んずけた。ぐりぐりと踵を回す。
「……おおぉ、気持ちいいぜ」
「ほら、起きなさい。宴もたけなわよ」
「そりゃいいな。酒でも飲んで盛り上がるか」
 よっ、小さな掛け声を上げて、魔理沙が起きる。寝た時に落ちた帽子を被り、腰に手を当てた。背筋の伸びている、いつもの魔理沙だ。
 霊夢が先に部屋を出て、続いて魔理沙が部屋を出る。いや、出ようとした。彼女の足は、足一つ分出ただけで止まっている。
 何故か、尺八が鳴っている。その他琴やら和太鼓やらが、静かだが明々とした音を上げている。
 誰もが黙って、音の鳴る方を見た。音は段々と近づいてきて、何故か――本当に何故か、大八車を引いた妖夢が現れた。
「お休み霊夢」
 霊夢に振り向く暇も与えず、魔理沙が襖を閉じた。一瞬魔理沙を再び起こそうかと霊夢は考えたが、やめておいた。わざわざ掘り返す事もあるまい。
 霊夢は、突如現れた馬鹿どもを見る。妖夢、改造大八車、プリズムリバー3姉妹の順番に並び、ゆっくりと行進してきている。大八車は屋根もつけられ各所が豪華に改造されているが、所詮は大八車である。痛々しい事この上ない。本物の大八車か、それとも霊の大八車か判断はつかないが、浮かせる程度の事はできるのだろう。妖夢は苦もなく引いている。
 どうでもいいが、何故か輝夜と永琳はそれを見て嫌そうな顔をしていた。過去に何かあったのかもしれない。
「御館様の御成りである! 者ども、頭が高い!」
 妖夢が叫んだ。良く分からない内容を、良く分からない口調で。何故魔理沙とてゐがああなったのか、霊夢は少し分かった気がした。限りなく他人に近い位置にいる自分が、既に頭が痛くなっている。
 大八車を地に付けると、妖夢は膝を付きながら垂れ幕を開いた。地面にはあらかじめ白い布が敷いてある。出てきたのは、流れから考えて当然ではあるが幽々子である。馬鹿長い袴を履いている。
 袴の両端を持って、幽々子は大八車から降りた。持たなきゃ動けないようなもの着なければいいのに。
 いつもの呆けた表情で、幽々子は辺りを見回す。何かを探しているようだ。周囲を二週三週眺め、数個に当たりをつけている。そして、言い争う体勢のまま顔だけを向けている輝夜と妹紅に決め、咳払いを一つ。今度は彼女に似合わないきりりとした顔を見せて、高らかに言った。
「よくぞ臆せず出向いてまいりましたね、蓬莱山輝夜、そして藤原妹紅。その数々の極悪非道の行い、この西行寺幽々子が捌いてくれる」
「出てまいったって……どれにしようか考えてたじゃない」
 それは誰の囁きか……、鈴仙か永琳か、はたまた他の誰かかもしれない。誰だったとしても無視されていたので、どうでもいいことではある。
 皆が呆れ返る中、輝夜と妹紅はおろおろしていた。いきなり舞台に上がらされた彼女たちは、いい晒し者だ。羞恥を通り越して月まで激突しそうである。妹紅は少し焦げていた。
「抵抗せぬならばそれで善し。抵抗するならば……」
 妖夢が鯉口を切る。左足を引き右足を出す居合いの体勢を取り格好をつけているが、なにしろ前置きが頭が悪いので馬鹿っぽく見える。
 幽々子の言葉を引き継ぐ形で、妖夢は宣言した。
「この魂魄妖夢が切り捨ててくれる!」
「あい待たれよ!」
「何奴!? であえであえー!」
 妖夢が叫ぶが、誰もであうわけがない。プリズムリバー3姉妹も、魔理沙やてゐに似たような調子でいる。
 何奴、と妖夢は言ったが、他の者はほぼ全員が誰だか分かっている。こんなに特徴的なハスキーボイスを出すのはどこぞの狐一匹のみだと彼女も分かっているはずであるが、なぜに聞きなおす。
 月明かりの向こう側から現れたのは、いわずもがな八雲紫率いる八雲家の面々だ。紫も藍も目を爛々と輝かせている。橙は、よくわからないが楽しそうならなんでもいいのだろう。
 藍は人の気も知らず、なおも続ける。
「ついに本性を現しよったな西行寺! そなたたちの不埒三昧、今日こそ捌いてくれる!」
「ほう、隠居するだけがとりえの錆びた刀が良く吼える。私の刀は研ぎ澄まされているわ」
「そう思うのならば思っていればよいわ。幸いそこは特等席、お主の刀が錆びた刀に折られる所が良く見えるというものよ」
 一通り言い終え――たのだろうか。なにしろ西行寺とマヨヒガ以外には判断が付かない。
 前座は終えたとばかりに、幽々子と紫は己の扇子を弾いて広げる。これからが本番かよ、と誰もが思ったが、巻き込まれるのは嫌なので誰も何も言わなかった。
 紫と幽々子が同時に叫ぶ。
「藍、橙! やっておしまいなさい!」
「妖夢! えーとその、頑張れ!」
「もうちょっとまともな激励を下さいよ!」
 同時に、三名が駆け出した。と言っても実際戦っているのは妖夢と藍だけであり、橙は駆け出すなり食事をしにいった。リスのようにもりもり食べる有様は、この場にいる誰もの心を癒した。
 妖夢と藍は弾幕は使わず、剣と剣で戦っている。両者非常にわざとらしく、真面目にやっているのが滑稽でならない。
 他の勝負ならばいざ知らず、剣術ならば妖夢が一歩も二歩も勝る。だが、藍は追い詰められたところで起死回生の一撃を、妖夢に放った。妖夢は派手に血を流してその場に伏せる。鈴仙が悲鳴を漏らした。
「安心せい、峰打ちだ」
 ごぶり。妖夢は白目を剥きながら血を吐く。
「いや、痙攣してるんだけど。吐血してるんだけど」
 居たたまれなくなり、思わず言う鈴仙。当然、西行寺もマヨヒガも無視。
「だず、だずげ……」
「なんか呻いてるんですけどぉ!」
 鈴仙が涙ながら絶叫した。永琳はてきぱきと妖夢に薬を塗っている。
「こんな寸劇見せられたら、トラウマにもなるわよねぇ」
 永琳の囁きは、鈴仙の嗚咽に消えた。どうせ誰も聞いていないのだから、嗚咽に消えるくらいが綺麗でいいだろう。
 妖夢を叩き切った藍はすぐに紫の傍に控え、反転。食事をしている橙のところまで行く。
「ほら、行くぞ橙」
「えー、まだ食べたいよ藍さまー」
「我が侭言うな。あとで食べさせてやるから、な?」
「……うん」
 本人らは密談しているつもりなのだろう、小さい声で言っているが、何しろここは今静寂。境内の端まで筒抜けである。
「控えおろう、控えおろう!」
「誰も向かってないわよ」
「このお方をどなたと心得る!」
「馬鹿の親玉でしょ」
「ちょっと霊夢、五月蝿いぞ! いまいいところなんだ!」
「……なんで私が怒られるのよ」
「下手に抵抗しないで、やりたいだけやらせてさっさと終わらせましょうよ」
 いい加減我慢の限界な霊夢を、永琳が嗜める。激しく同意ではあるが、口は滑ってしまうものだ。黙るべきときに黙れる人間と黙れない人間、これこそが大人と子供の大きな違いである。霊夢は永琳に大人を感じ、初めて早く大人になりたいと思った。
「このお方は一代目八雲当主、八雲紫様なるぞ!」
 なんだか小難しいことを言っているが、つまるところ『こいつはスキマ妖怪のゆかりんですよ』と言っているだけだ。幽々子ただ一人を除いて、誰も驚いたりはしない。
「この後光が目に入らぬか!」
 あったら幻想郷はもっとまともな世界のはずである。
「へへぇ~!」
 何に戦いているのかは知らないが、幽々子は恐れ戦いた。土下座をしようとして、このまますると土がつきそうだったので少し後退し土下座する。
「これにて、一件落着!」
 紫が宣言した。同時に、やっと終わったかとその場にいた無関係な全員が腰を砕いた。
 うなだれる幽々子を前に、八雲一家は高笑いを続ける。そんな馬鹿どもを力なく睨み、霊夢は告げた。
「どうでもいいからさっさと帰れ」
 その後、しばらく幻想郷から宴会が無くなったのは、まあ当然の流れと言っても差し支えないだろう。

 余談だが、その後しばらくは輝夜と妹紅の小競り合いは収まったと言う。永遠亭と白玉楼との関係も断ち切られ、妖夢は二つの切り傷にしばらく悩まされた。
 霊夢と魔理沙が森近霖之助の家に出向き、今回の件に関係ないとは言わせない外の世界の再生機と記憶装置を数多くマヨヒガに売っていた事が発覚した。霖之助は不条理な怒りを買い、お払い棒と箒でひたすら殴られた。その後、一匹の兎がドロップキックを決めていったとしても、一体誰が責められよう。
 この日より、幻想郷の主だった実力者たちの弱点に外の世界の再生機と記憶装置、そして寸劇が加わったのは言うまでもない。

どうも、西方より色々こめて、略して西色です。今回は西方より時代劇を送ってみました。
今度は5kbにまとめようとして、いつの間にか4倍。ほんと地獄だぜ。俺の頭が。
ぶっちゃけ落ちなし意味なしヤマなしの三拍子です。あなたは読み終わった頃に苦笑をするでしょう。ぶっちゃけ俺の頭含む色々狂ってるんで。流石だぜ、俺。
やってみりゅシリーズで書いていこうと思ったけど、そもそもこれ自体が突発ネタだから断念。誰かやってみりゅ?
西色
コメント



1.ムク削除
突発ネタでこのクオリティ・・・、スゲエ。
2.絵描人削除
時代劇は好きなので、なんだかとても満腹でした。
霊夢と輝夜が良いなぁ…w
あと橙が(ry
3.名無し妖怪削除
やめてくれぇ~腹が痛いぃぃ!w
4.no削除
ネタよりも霊夢と輝夜のかけあいや鈴仙とウサギたちの漫才が面白い。
こういう地の文や日常をかけることが凄いと思うのです。はい。
5.名無し妖怪削除
ノリがいいなぁw 一番悲惨なのはやっぱり妖夢か。
6.CACAO100%削除
水戸黄門ですかw随分逝きの良いネタですねw