Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

1時間7分33秒

2006/02/11 01:36:57
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久方ぶりの時雨が降る。今日は早く店を閉めた。
誰もいない部屋に暗幕を下ろす。
あの二人がいなくなってからこの店はがらんとしてしまった。
いや、多分僕の心もだろう。心に隙間が出来てしまった。
思えば、あの二人と出会ったのはいつだったろう。
片方は…、思うまでもないな。いつのまにかいた、という感じだ。

「あら、こんな所に店があったのね。贔屓にさせてもらおうかしら」

そんな声が再生された。本当に自然体で困る。結局ツケは支払われなかったな…。
彼女ほど空気という言葉が似合う人もいないだろう。
常に自然体、これ異常ないというほど。悲しくなるほど。
いつだって気が付けばあの子はここにいた気がする。
出涸らしのお茶を、壊れかけの急須で入れながら。
たまに走ってくると思えば、やれここだけ雨が降っているだの、どうでもいい理由だった。
ここに来て自分がする話題といえばたいがい自分の武勇伝だった。
やれ赤い霧を晴らしただの、春を取り戻しただの、満月を戻しただの。
どれもこれも信ずるには怪しい武勇伝だったが、話している時には我が物顔だった。
だが、僕から言わしてもらえば彼女の真の姿はそこにあった。
お茶をすすり、どうでもいい話題で話をしているときの彼女こそ本当の姿だった。
僕はそう思う。実際、戦っている時の彼女を見たこともあるが、どうもしっくりこなかった。
当たり前が、彼女にはふさわしかったのだろう。
終わりの際にも、彼女は悲しみなど残さなかった。

「ああ、墓にはお茶とお茶菓子おねがいね。終った後に一服できないって地獄じゃない?」

ただ、寂しさだけが残った。当たり前がそうでなくなるというのは一番不自然だ。
今度、墓に玉露と豆大福を持って行こう。少し文句を言わせて貰おうじゃないか。

もう一方…。あの子は、いつも僕の心に裸足で上がりこんでくる。
ずかずかと、我が物顔で。ふふ、あの顔が造作もなく思い浮かぶ。
あれほど人に愛された子もいないのではないのだろうか。そう思う。
あの子が空気ならば、この子は太陽だ。
雨などという名字を貰っているのにもかかわらず。
まだこの子の実家で修行させてもらっていた時に、彼女は生まれた。
自分は出産の際には同席してはいないが、ずいぶんと難産だったらしい。
で、成長したらあれだ。あれには少しばかり彼女の両親に同情した。
仕方なく独立していた僕の所に預けられることになったが、はじめは苦労した。
どうにも、元気すぎる。店で走り回る、物を壊す、言うことは聞かない。
世間一般でいうところのワルガキというやつか。とにかく困っていた。
だが、ある日突然、彼女は臆面もなく言った。

「あ、私とある悪霊に弟子入りしたから」

頭が痛くなった。僕は師匠になんと言えばいいんだ。
「あなたの娘は悪霊に弟子入りした」なんて無表情でいえれば僕は苦労していない。
幸い、その悪霊が割といい人だったので難は逃れた。
というか悪霊にいい人とは表現が合っているのか今更ながら疑問に思った。
まぁでも、そうとしか言いようがない人ではあった。そんな人に師事してもらえて、感謝した。
その後その人はあらかたあの子に教えてくれた後、いずこかに消えた。
その先の行方は知らないが、どこかで幸せにしてくれているといい。
あの子はその後1人立ちするといった。餞別にとあるものを渡し、僕はようやくの平穏を得た。

それからも彼女は来たし、いろいろと事柄はあったが、一番嬉しかったのはただ一つ。
あの日は忘れられない、いきなり入ってくるやいなや

「重大事件だぜ。何だと思う?」

ノーヒントで問題を出すな。だが僕には分かっていたのだけど。

「おおかた、友達でも出来たんだろう?それはよかった」

彼女に友達が出来たこと。もちろん、それがあの子である。
あの子のことは当然知っていた。ちょくちょく来ていたからね。
本当に嬉しかった。あんまり嬉しかったもんだから彼女の実家に手紙まで送ってしまった。
速達で。ああ、親バカここに極まれり、というところだろうか。

だが大変だったのはこれからであった。二人がどうにもやかましい。
騒音を騒音でかき回すといった感じで、どうにもおさえられない。
楽しいのは分かっていたんだけどね、僕をネタに漫才とかやられるとさすがに怒りたくなった。


そうしてけたたましい日々は駆けて行った。
店には人も増えていった。赤い館のメイド、その主、半霊、スキマ、ブン屋などなど。
いつからだったか、そんな毎日が楽しくなったのは。
いつからだったか、そんな毎日を普通と思ったのは。
いつからだったか、そんな毎日を失いたくないと思ったのは。
あの二人が紡ぐ物語、その傍観者として僕はあった。
その物語を見るのが、妙に楽しかったのを憶えている。
ああ、さっきどうでもいい話なんていってたね、すまない、訂正させてくれ。
どうでもよくできる、どうでもよくない話、とね。



しかし物語には終わりがあった。
終わりを告げた物語を待つのは忘却のみである。
現に、今あの二人を覚えている人がいくらいるだろうか。
いくらもいないだろう。それが悲しい。寂しい。
だから僕は、物語の続きを、知りたい。
それがいつになるかは分からない。来ないかもしれない。
でも。それでも。僕は信じてみたい。
そのために、僕はあの二人のことを紡ぎたいと思う。
あの二人、あの人々、そしてあの素晴らしき物語を。
この身はいつか消え失せる運命なれど、いつまでも続けよう。






巫女と魔女の物語を。



全ての終わりに彼は何を思うのか…。
そんなことを思いつつ。
2:23am
コメント



1.ぐい井戸・御簾田削除
最近アホな文章ばかり書いていたせいかいいコメントが浮かばねえ…
とにかくいいもん読ませてもらいました。ありがとさんです。
2.MIM.E削除
いつかきっと、と私事を胸に秘めつ。
こんなにも活き活きとした二人の物語、続けてください、いつまでも。